「学習内容」と「発問」を大切に

音楽鑑賞指導の研究と実践
「学習内容」と「発問」を大切に
校低学年の鑑賞教材として、組曲の中の
がたくさんほしい」などと話し合い、効
『たまごのからをつけたひよこのおどり』
果的に使える映像教材はどのようなもの
が、「ようすをおもいうかべてきく」こと
をねらいにとり上げられたりしている。
平成 15 年度音鑑「夏ゼミ」研究報告1《展覧会の絵》
小学校Aグループ(中学年)
生に特別講義をしていただいたあと、本
路線でまとまっていくのではないかと当
格的な授業の検討に入っていったのであ
初は想像していたのであるが、メンバー
る。
『プロムナード』の聴き比べ、
『リモージ
例年になく晴天の少なかった今年の夏
の「鑑賞指導のノウハウ」を身につけ、
2日目はかくして、まずショルティ先
そのこともあって、助言者としてはこの
の先生方の発想はそれほど単純ではなく、
練馬区立開進第三小学校教諭 徳田 崇(A グループ助言者)
かについても、あらためて実感した。
ュ』と『カタコンブ』の対比、『キエフ
「この活動は何を学習するの?」
=学習内容で組み立てる学習の流れ
の大門』を聴いて絵を描いてみる、等々、
学習の流れの検討にあたっては、豊富
話し合いは助言者の予想をはるかに越え
な視聴覚資料から数多く鑑賞して教材性
てさまざまな方向に広がっていった。
を探りつつ、組曲を構成している15 曲の
休み。そんな天気も気温も曜日さえ忘れ
音楽鑑賞教育をいっそう広く全国で展開
とにかくたくさんの演奏を聴いて、い
てしまうような例年通りの缶詰め状態
していただくことを目指している「夏ゼ
つのまにか夕食+懇親会の時間になって
さまざまな角度から話し合った。そこで
(言い換えれば恵まれた研究環境)で、
ミ」の大きな目的を考えるならば、それ
しまった、というのが1日目の内容であ
出てきた主な楽曲と学習のねらいは
平成 15 年度の音鑑「夏のセミナー」は、
なりに手応えのある教材を選ぶのも大切
った。
7月 27 日から3日間にわたって開催され
なことと考えるのである。
た。今年もこの充実した研修を通して、
参加した先生方一人ひとりが音楽鑑賞教
学担が半数の精鋭グループ
うちのどの曲を授業に使うかについて、
・プロムナード
ゲオルグ・ショルティ先生
・プロムナード∼テュイルリー
2日目の朝、指揮者ショルティ自身に
・リモージュとカタコンブ
Aグループはメンバー8名のうち4名
よる解説の入ったシカゴ交響楽団のLD
・キエフの大門
つかむことができたのではないだろうか。
が学級担任で、残りの専科のうち2名は
を視聴した。この曲の魅力について穏や
・殻をつけたひよこのバレエ
新学習指導要領が全面実施になって2
昨年度まで学級担任をなさっていたとい
かに、しかし情熱的に語るショルティの
・バーバヤーガ
年目に入り、各学校では様々な工夫をし
う方々。皆さんの音楽鑑賞教育に対する
言葉に、全員が目から鱗の落ちるような
ながら音楽の授業を実践しているが、言
積極的な姿勢や指導力の幅広さがうかが
思いだった。初めからこれを見ていたら
うまでもなく、鑑賞共通教材の指定がな
える。そこへ中学校の音楽科教諭の経験
よかった、という声もあったが、それで
くなってからの鑑賞の授業においては、
がおありの先生、授業研究の会で日ごろ
はこの解説にとらわれてしまって、それ
指導する教師に対して、楽曲のもつ教材
から研究を重ねておられる先生が加わり、
に沿った形で安易に授業を組み立てるこ
性を的確に把握する力が、以前にも増し
総勢8名、活発な意見が交わされた。
とになってしまったろう。それでは「夏
育の意義と重要性を、改めて実感として
て求められることになる。その力を受講
グループ内の役割分担をしたあと、1
ゼミの研究」にならないので、あえてこ
する先生方に少しでも身につけて帰って
日目は、全部で15 曲からなる組曲《展覧
れは2日目の朝に皆で見ることにしてお
いただきたい――と考えて、今回助言者
会の絵》の全体像を把握しようというと
いたのである。そして、その後に鑑賞し
はそれぞれ受け持ちのグループのために
ころから出発し、いろいろに異なる演奏
た、この映像の最後に収録されている
教材曲を選び、提案した。おそらく意外
形態のものを聴いたりしながら、この曲
『キエフの大門』の演奏に、全員が圧倒
の感をもたれた曲もあったかもしれない。
の教材性を探っていった。従来この曲は
される…。映像のもつ教材性がとてもよ
しかし、受講する先生方が地元へ帰って
ほとんど中学校の鑑賞教材としてとり上
い形で表われているこのLDを見ながら、
からその地域の実践で生かしていくため
げられていたが、現行の教科書では小学
53(16)――◆◆ 音楽鑑賞指導の研究と実践
「やっぱり映像はいいね」
「こういう映像
○ようすを思い浮かべて聴く
○楽曲の気分を感じ取って想像豊か
に聴く
○音色の対比の面白さを味わい、
音・奏法に関心をもつ
○テンポ感の違いに気づいて聴く
○曲想の変化を感じ取る
○オーケストラの響きを聴く
○曲の気分を味わって聴く
○楽器の響きの違いを味わって聴く
○情景を想像して
○ふしの反復に気づいて聴く
「
『学習内容』と『発問』を大切に」 ◆◆――
(17)52
午前 3 時
グループ研究 ようやく一段落
ごくろうさまでした
などである。そして、考えられる学習
が決まった。一般の研究授業であれば、
の流れを各自メモに書いて出し合ったり、
共同で学習指導案を作成する場合、「本
ディスクを聴き比べたり、さまざまに検
時の展開」までを検討して話し合いは終
空が明るくなるのも忘れて、最後の最
討した結果、最終的に『キエフの大門』
了し、あとは授業者にまかせてしまう場
後まで発問の言葉を検討して臨んだ模擬
に教材をしぼって「学習の流れ」を考え
合が多いのではないか。実際、夏の夜も
授業。これが夏ゼミなのだ。授業に行き
ていくこととなった。
更けてきていたし、この時点ではメンバ
着くまでの過程で何が大切なのか、どの
ーの先生方も「これで大体まとまった」
ようなことを心がけなければいけないか、
教材曲がしぼれると、学習活動のアイ
感動の『キエフの大門』
ディアが次々に出てきて話し合いは活気
「ようやくほとんどできあがった」などと
今までなかなか意識できなかったことが、
づく。だがしばらくすると、なぜか意見
思って、何となく安心していたかもしれ
少しずつ見えてくる。そして、一つの授
がかみ合わなかったり、対立したり、な
ない。しかし「夏ゼミ」の本番はここか
業をつくるとき、その裏にある、音源の
かなか前に進まなくなってしまった。
らなのだ。検討した学習の流れをもとに、
比較や学習内容の検討、発問の細かな吟
そこで助言者からひとこと言。
授業者がグループのメンバーを相手にシ
味などの準備と配慮がその授業の成否を
「この活動は何を学習するの?」
ミュレーション授業をするときに、その
決めるということが、2日間の研究を通
学習の流れは「学習内容」によって組
場で授業者の言葉使いや授業の進め方に
して、体験として理解できるようになる。
み立てていかなければ、どんなに活発に
ついてシビアな討議を重ね、鑑賞の学習
「夏ゼミ」を経験した先生方にとっては、
○ 題 材 名 の 「味 わ お う 」に つ い て は 、
意見やアイディアが出ても、議論は宙に
をよりよいものにするためにはどういう
それがいちばんの収穫なのではないだろ
「オーケストラの響き」という言葉に
浮き、学習は表面的なものになってしま
発問の内容や仕方が適切かを学ぶのであ
うか。
う。授業を構成するに当たっては、必ず
る。
講評の要旨
○1時間扱いのねらいに即した無駄のな
い発表だった。
して、4年でも5年でも6年でも扱え
夏ゼミは、ただ単に鑑賞授業のモデル
る題材としていくように考えればよい。
学習内容を明確にした活動で流れをつく
助言者から再び一言。
をいくつか見て、ネタを持って帰るとい
○ピアノとオーケストラの演奏を聴き比
っていかないと、教師が何を指導してい
「この発問で子どもはどう思う?」
うような研修ではない。指導計画作りの
べたりする、同曲異種の扱い方は、効
るのか、児童が何を学習しているのかが
子どもの反応や授業の流れを大きく左
段階から、模擬授業という形でのその具
果的だが注意が必要である。「ピアノ
わからない、あいまいな指導案ができ上
右することになる「発問」の細かな検討
体化までのプロセスを、短時間ではある
は貧弱でオーケストラは豊か」といっ
がってしまう。Aグループの話し合いの
があまり行なわれないまま、本番の研究
が集中して体験することを通して、そこ
たような認識に決して導かないように。
中で、ここは極めて重要なことを確認し
授業に臨むことが実際には非常に多い。
に必要なすべてのノウハウを学ぶのであ
○ねらいの焦点化はいつでも大切。ねら
た場面の一つであった。学習内容が明確
子どもたちの内面に深くかかわる内容を
る。だから地元に帰ったときには、また
いの絞り方によって展開は全然違って
になっていれば、仮に指導案通りに授業
含む音楽鑑賞の指導においては、実はこ
違った題材や教材で授業を組み立ててい
くる。その意味で、今日は『キエフの
が進まないようなことがあっても、学習
の「教師の発問」の中身が大きな問題な
くことができるようになる。音鑑が望む
大門』で響きを味わうとしたが、扱い
内容を外れないように修正をすることが
のだ。そしてこのことは、実際にシミュ
のは、受講者の先生方が各地の鑑賞指導
方によっては4年生でも可能。
できる。そうでない授業はいわゆる「ぶ
レーション授業を行ない、それを子ども
の中心となって、全国で子どもたちのた
○組曲を扱うときは、いくつかの曲を取
れる」状態を生むことになってしまうの
の立場に立って受けてみないと、なかな
めに音楽鑑賞教育をいっそう幅広く展開
り出すと、全曲通して聴いた時の印象
だ。しかしこれが、わかっているようで
か実感できないことでもある。
していってくださることであると、最初
とはかなり異なる場合が多いので、慎
いて、実は案外陥りやすい「落とし穴」
ではないだろうか。
「子どもはどう思う?」=発問によっ
て大きく異なる子どもの反応
学習内容を軸に「学習の流れ」の概要
51(18)――◆◆ 音楽鑑賞指導の研究と実践
このように教師の発問を細部にわたっ
重に扱う必要がある。
に述べたのはこのことである。
て慎重かつ真剣に検討して、子どもたち
8名の精鋭が力を合わせてつくり上げ
○よかったのは「どういう子どもに育っ
がより深く音楽を鑑賞できる授業を目指
た結果は、授業者である2人の先生方に
てほしいと願って授業をするか」とい
すのが、「音鑑夏ゼミ」の研修の重要な
よって、子どもたち――他グループの受
うところを大事にしていたこと。どの
ポイントの一つといってよい。
講者――の感動を呼ぶ素晴らしい授業と
学校で授業をしようとも、非常に重要
なったことはいうまでもない。
なポイントである。
「
『学習内容』と『発問』を大切に」 ◆◆――
(19)50
小学校Aグループ
澤田 玲子 京都市立樫原小学校
ブレンデルの演奏を用いる。この演奏は、オーケストラ版と同じ旋律であることがわか
設楽 聡子 山形県山形市立桜田小学校
風間 寛 大阪教育大学附属天王寺小学校
りやすく、原曲の魅力も感じ取ることができる。オーケストラの響きを味わう学習で用
瀬高 央子 埼玉県蓮田市立黒浜南小学校
平野 聖子 福岡県北九州市立折尾東小学校
いるショルティ指揮の演奏では、演奏の素晴らしさはもちろん、指揮者・各演奏者の力
助言者
大湊由紀子 東京都目黒区立砧小学校
保崎 万里 神奈川県川崎市立御幸小学校
橋本 研 東京都羽村市立羽村西小学校
日向 彰子 石川県野々市立御園小学校
徳田 崇 東京都練馬区立開進第三小学校
強さも目で見て感じ取ることができ、一体感をもって聴くのによい作品である。
演奏 アルフレッド・ブレンデル(ピアノ) PHCP-10530
シカゴ交響楽団 サー・ゲオルグ・ショルティ指揮 SRLM-953
小学校音楽科学習指導案(第4学年)
7 本時の展開(1時間扱い= 30 分)
¸ ねらい
オーケストラの豊かな響きを感じ取る。
◇教師のかかわり ☆評価
○学習内容 ・学習活動
1 題 材 オーケストラの響きを味わおう
2 題材について
低学年では、楽しく音楽を聴く活動を通して、自然に聞こえてくる楽器の音色に親し
んできた。中学年では、いろいろな種類の楽器の組み合わせによって生まれる響きの広
がりを感じ取れるようにしたい。
そこで、本題材では、オーケストラの壮大な響きをもつ楽曲を教材にして、異なる演
奏形態の楽曲と比較したり、映像を観たりすることを通して、オーケストラの豊かな響
きを味わうことができるようにしたいと考えた。
3 題材の目標
○オーケストラの演奏に関心をもつ。
○オーケストラの豊かな響きの特徴を感じ取る。
4 題材の評価規準
¸
音楽への関心・意欲・態度
・オーケストラの演奏に興味・関心をもって聴こうとしている。
¹
音楽的な感受や表現の工夫
・楽器の音色や音の組み合わせによって生まれる響きの特徴を感じ取っている。
º
鑑賞の能力
・いろいろな種類の楽器の組み合わせによって生まれる、響きの広がりを感じ取って
聴く。
5 教材と教材選択の観点
1874 年に、ピアノ独奏曲として完成された、組曲『展覧会の絵』(ムソルグスキー作
曲)は、たくさんの作曲家の手によって編曲がなされている。中でもラヴェルによるオ
ーケストラ版は、色彩感のある響きや力強さなど、オーケストラならではの持ち味を引
き出し、原曲をさらに魅力あるものにしている。
「キエフの大門」は、本題材のねらいで
あるオーケストラの豊かな響きを感じ取ることができ、組曲の終曲らしい満足感を味わ
うことのできる作品である。
導入時では、ピアノ版とオーケストラ版を比較聴取する。ピアノ版は、アルフレッド・
49(20)――◆◆ 音楽鑑賞指導の研究と実践
◇演奏形態の異なる演奏を聴くことにより、オ
○オーケストラの演奏に関心をもつ。
ーケストラの醸し出す色彩の豊かさに気づ
・『キエフの大門』の初めの部分をピアノと
くようにする。
オーケストラで聴きくらべる。
〈ピアノ:アルフレッド・ブレンデル〉
・聴いて感じたことを発表し合う。
〈オーケストラ:ショルティ指揮シカゴ響〉
☆ピアノ独奏やオーケストラの演奏に関心を
もって聴こうとしている。
◇オーケストラの演奏を期待をもって聴ける
ようにする。
◇今日のめあてを掲示し、確認する。
オーケストラの響きを味わおう
○オーケストラの響きの広がりを感じ取る。
・全曲を通して聴く。
・気づいたこと、感じたことを発表し合う。
予想される子どもたちの反応
初めと違って静かなところがあった。
同じふしが出てきた。
最後がすごく盛り上がった。
知っているふしが出てきた。
大きくなったり小さくなったりした。
鐘が鳴っていた。
シンバルがすごかった。
暗いところがあった。
◇指先を動かして聴いてもよいことを知らせる。
◇子どもたちの感じたことや気づいたことを
整理しながら板書する。
◇一人ひとりの気づきや感じ方を認めたり、
「なぜそのように感じたか」をみんなで考え
たりする。
◇友だちと同じような感想をもった人は頷い
たり手を挙げて意思表示をするように促す。
・友だちの気づいたこと、感じたことにも気 〈オーケストラ:ショルティ指揮シカゴ響〉
◇演奏を視聴しながら、指揮をしたり、楽器
をつけながら全曲を聴く。
・演奏を聴いて、気づいたことを発表し合う。 を演奏するまねをしたりして、感じ取った
ことを表現してもよいことを知らせる。
○オーケストラの響きを味わう。
・『キエフの大門』のオーケストラの LD を視 ☆いろいろな種類の楽器や、その組合せによ
って生まれる響きの広がりを感じ取って聴
聴する。
く。
・曲名を知る。
「
『学習内容』と『発問』を大切に」 ◆◆――
(21)48
音楽鑑賞指導の研究と実践
鑑賞活動として和太鼓に親しむための教材開発
平成 15 年度音鑑「夏ゼミ」研究報告2「和太鼓の魅力」
中学校Cグループ(下学年)
長い歴史の中で大変親しまれてきた楽器
いとする題材を設定することとした。本
であるにもかかわらず、教科書の中の
題材は「楽曲による題材構成」として鑑
「郷土の音楽」「生活の音楽」などという
賞の活動を中心とした授業展開が可能で
題材の中で触れられる程度でしかなく、
あり、さらに「主題による題材構成」に
じっくりと鑑賞する機会は決して多いと
より、表現活動との関連を図る授業とし
は言えない。鑑賞の活動として効果的な
て位置づけることも可能であると思われ
教材の開発はできないだろうか。
¹表現と鑑賞の関連を図る題材として
東京都東大和市立第五中学校教諭 宮下 秀邦
(Cグループ助言者)
¿
事前の準備
1.助言者打合せのこと
平成 15 年度音鑑「夏のセミナー」の準
備は、助言者7名による第1回の打合
せ、5月9日の小、中合同の委員会を皮
切りに始まった。
その後、例年通り校種別の打合せを重
ね、「鑑賞指導の基本的な考え方」の説
明内容の確認や、受講生に示す事例のシ
ミュレーションとその協議を数回、そし
て中学校2グループ(C班、D班)で扱
う「題材」の検討を繰り返した。打合せ
は原則として校種別の助言者全員の話し
合いで進めるのだが、必要に応じて担当
者同士のファクス交換や、自主的なミー
ティングも行なった。そして、最後に7
月 17 日の小、中合同の打合せをもってす
べての準備を整えた。
の「和太鼓」
学習指導要領「指導計画の作成と内容
の取り扱い」の2、「内容の指導につい
る。今回の夏ゼミで、受講者の先生方と
「和太鼓」の教材性を広く見出したいも
のだと考えた。
À 研究の流れ
1.和太鼓の魅力を探る
しないことである。また、できればどち
ての配慮事項」のひとつに「和楽器につ
らか一方の班が、我が国の音楽または世
いては、3学年を通じて1種類以上の楽
界の諸民族の音楽を取り上げるようにし
器を用いること」がある。これは器楽の
てきた。そして今回も受講生には、先入
表現活動についての配慮事項であり、実
観をもたず、どんな題材(教材)にも意
際に和楽器に触れることを示している。
欲的に取り組んでいただくということで、
これにより、現場では箏、三味線、篠
予定した題材(教材)についてはあらか
笛、和太鼓等々の和楽器を授業に取り入
対象学年は1年生。和太鼓を満喫さ
じめ知らせることはしなかった。
れる努力をしている。しかし、扱ってい
せたい。和太鼓は、おそらく町内のお
る学校のほとんどは、和楽器を用いた表
祭りで耳にしたり、お囃子のグループ
現活動といっても、楽器の数が十分でな
に入って実際に体験したりしている生
2.C班の題材は「和太鼓の魅力」に
〈第1日 7/ 27(日)〉
¸課題提示
まず助言者から、Cグループの課題に
ついて次のように提案した。
検討の結果、C班は第1学年を対象と
かったり、指導時数も年間指導計画上、
徒も多いことであろう。今回は教材を
し、我が国の音楽を取り上げる。そして
何時間もかけられないのが現状である。
吟味し、じっくりと鑑賞する授業を作
題材は担当の助言者2人(港区立赤坂中
そこで和楽器を用いた表現活動をより充
り上げることが課題である。
学校、大塚弥生教諭と、宮下秀邦)の以
実させるためには、鑑賞の活動で和楽器
考え方によっては、表現活動も含め
下のような考えから、「和太鼓の魅力」
の特徴やよさ、魅力をとらえたり、その
て和太鼓に親しませるという大きな題
と決定した。
楽器の演奏による音楽を味わうといった
材の中の1コマとして取り上げてもよ
鑑賞の能力を高めることも重要である。
い。
¸鑑賞教材としての「和太鼓」
かつて鑑賞の共通教材には、箏や尺
八、また長唄に使われている和楽器、雅
つまり、表現と鑑賞の活動を関連づける
工夫である。
さらに参考資料として、題材の指導計
画(5時間扱い)「第1学年『和太鼓の
例年、題材の設定に当たって特に配慮
楽の楽器等による我が国の音楽を扱う教
上の¸¹から、身近な音楽(伝統的な
していることは、2グループの対象学年
材があり、指導事例も多い。しかし、私
郷土の音楽など)や、現代の音楽の中に
が重ならぬよう、一方のグループを第1
たち日本人にとって「和太鼓」(長胴太
使われている日本の和太鼓(特に長胴太
そして今後の研究の進行上必要な役割
学年(下学年)、もう一方を第2学年お
鼓または鋲打ち太鼓、締太鼓、平太鼓、
鼓、大太鼓)に注目し、楽器の特徴や音
を分担し、和太鼓に関する各自の印象や
よび第3学年(上学年)とすること、題
等)は、日本の祭には欠かせない楽器の
色、リズムや表現の効果を感じ取りなが
経験等を述べ合うところから始めた。
材や教材(楽曲)の形態や時代等が重複
ひとつとして、そして大衆の楽器として、
ら和太鼓の魅力を味わわせることをねら
45(24)――◆◆ 音楽鑑賞指導の研究と実践
魅力』(表現と鑑賞を関連させた題材)
」
を示した。
以下、Cグループの研究を、流れにし
夏ゼミ・レポート
(2) ◆◆――
(25)44
グループ研究
たがってまとめることにする。
C班
大和美香子 北海道瀬棚町立瀬棚中学校(班長)
大島 幸男 東京都板橋区立高島第二中学校
塚田 洋子 鳥取県佐治村立佐治中学校
桝宗 知子 山口県岩国市立通津中学校
宮越 千枝 宮崎県山之口町立山之口中学校
桶田 加代 千葉大学教育学部附属小学校
助言者
大塚 弥生 東京都港区立赤坂中学校
宮下 秀邦 東京都東大和市立第五中学校
ある。しかし表現活動だけで、ただ
しまった。(O2)
º研究の共通理解を
「和太鼓の魅力」という題材に迫るた
めに、音鑑の資料室から借りる資料は、
映像のあるものに限った。音声だけでな
く、演奏の様子を視聴することによって、
楽器への興味・関心、意欲が一層高めら
以下は、班員の和太鼓についての印象
れるであろうし、さらに表現活動との関
や、経験。
連を考えた場合には模範演奏としての効
a前任校のとき太鼓を取り上げた。養護
果も大いに期待できると考えたからであ
学校で太鼓集団(響座など)に来て演
る。それでも DVD が6枚、LD が5枚、
奏していただいた。南鼓祭に行ったり
VHS ビデオテープが22 本にも及んだ。多
していた。(M)
くのものを聴取・視聴し、より効果的な
さと祭や運動会のアトラクションで演
奏している。地域にたくさん太鼓はあ
教材を探し出す作業ができるのも、音鑑
の夏ゼミならではのことである。
①「和太鼓を知ろう」
るが、授業にはなかなか取り入れられ
一口に和太鼓といってもいろいろな種
ないのが実状。生徒は地域々々で触れ
類の太鼓がある。そして、太鼓によって
ているのではないかと思う。
(T)
あるいは土地々々によって奏法も様々で
a地域に柱野太鼓というのがある。小学
ある。まずは「和太鼓を知ろう」という
生が受け継いでいる。研修レベルでは
ことで、楽器の紹介や説明・解説のビデ
触れことがある。太鼓は叩けば音が出
オを何本か視聴した。主なものを以下に
るので使いよい。迫力がある。
(M2)
示す。
a外山雄三の『管弦楽のためのラプソデ
ィ』を思い出す。和楽器は箏しか授業
で扱っていない。学校には吹奏楽用と
して太鼓がある。(O)
aお盆のお祭りに子どもたちが積極的に
楽)
「叩いて楽しい」だけの授業になって
¹和太鼓の印象や経験談
a巌流太鼓など地域の太鼓がある。ふる
②
「郷土の音楽」(身近な和太鼓の音
・『秩 父 祭 屋 台 囃 子 和 太 鼓 入 門 』(Far
East Island Record)
秩父屋台囃子の説明、太鼓の打ち
方、屋台の中の様子 等々
・
『日本の太鼓』(東京シネ・ビデオ)
身近な生活の中の太鼓ということで、
各地方の郷土の祭の音楽を視聴した。
ビデオ、LD、DVD のいずれも、演奏
と解説ナレーションが同時進行のものが
ほとんどであった。これだと、解説を聞
きながら祭の映像を見て終わってしまう
だけになったり、その解説で音が分断さ
れたり、映像主体の編集によって音声が
飛んでしまったり、音楽的に細切れにな
ったりして、じっくり聴くことができな
い。
③「じっくり聴くことのできる教材を」
郷土の音楽に限定せず、「じっくり聴
①伝統的なもの
a「秩父屋台囃子」(お囃子。子どもも参
加。大人数で迫力もある)
くことができ、さらに映像によって視聴
a「八丈太鼓」(1台の長胴太鼓使用。3
もできる教材を」をキーワードに、いよ
人が交互に2人ずつになって演奏。う
いよ具体的な教材研究の開始。
2.授業づくり
初日午後の研修は夕食で中断。参加者
それぞれの自己紹介で盛り上がる。しか
しグループ研究は、その夜も続けた。翌
ち1人は中学生)
a『貝殻節』(林英哲の唄と長胴太鼓独
奏)
②創作的なもの
a『飛天遊』(和太鼓奏者独奏とオーケス
トラの共演)
日の研修を進める上で、およその目安を
a『宴』(大長胴太鼓1台の独奏)
つけておきたかったからである。
a『六大響』(たくさんの和太鼓を独奏者
¸選曲の作業(教材研究)
「じっくりと聴かせることができ、和
太鼓の魅力に迫ることのできる教材」を
求めて
視聴したものを、大きく2つに分類し
が巧みに操る)
a『光を蒔く人』(途中で太鼓を手で打つ
場面がある)
a『七星』(13 人による長胴太鼓の合奏)
a『海の炎』(大太鼓独奏)∼『SHI ・
BU ・ KI』(大太鼓と津軽三味線の共
参加しており、授業にも取り入れたい
楽器の説明、太鼓の種類、口唱歌
と考えていた。そこで、選択授業で地
(くちしょうが)
、木やタイヤを太鼓代
である。前者は古くから各地方で演奏さ
元のみすぎ太鼓を取り入れた。素地が
わりに練習している様子、太鼓ができ
れているもの、祭の音楽や郷土の芸能と
あったので、とっつきはよかった。
(Y)
るまで、相撲太鼓、歌舞伎における太
いったものであり、後者は現代の演奏家、
独奏、複数の演奏、他の楽器との重奏、
a以前に選択授業で扱った。また、お囃
鼓の豊かな表現(水、風、波、雪、幽
作曲家の創作による作品である。
合奏など、様々ある。「和太鼓の魅力」
子に合わせて締太鼓を叩かせたことは
43(26)――◆◆ 音楽鑑賞指導の研究と実践
霊)、いろいろな地方の音楽、等々
た。「伝統的なもの」と「創作的なもの」
班員がこれはと感じたものを示す。
演)
さらに、これらを演奏形態から見ると、
に迫るためには、これらの中からどれを
夏ゼミ・レポート
(2) ◆◆――
(27)42
研究発表本番を終えて
①楽器そのものの特徴
藺「音色」や「響き」
②演奏の面白さや特徴
大人数がよいのか、独奏がよいのか。
藺ダイナミクス(音量の変化)
VHS《日本の太鼓/国立劇場開場 30
ョンをしてみて初めてわかる「不備」
。そ
藺掛け声
周年記念第 20 回公演記念」(キング)
れは発問の不明瞭さであったり、教師の
班員みなのアイディアを合わせ、授業
や曲想の変化を感じ取らせたり、曲その
の流れがほぼでき上がった。ここからは
ものを味わわせることで、子どもたちに
役割を分担し、翌日の発表に向けての準
当日の授業者に決まった桝宗知子教諭
は、どのような教材を使用するのが効果
は、板書担当の塚田洋子教諭と、発問や
的であるかも考えなくてはならない。
板書のまとめ方を打ち合わせながら授業
蘯指導の流れをつくる
指導の流れ(授業案)を作成していく
は、いわば音高をもたない太鼓の表現力
中で留意すること:我が国の音楽や、諸
が却ってとらえやすいのではないか。ま
民族の音楽を扱う時、「楽器の解説」や
た表現活動との関連を考えれば、中学生
「楽器の奏法」に終始する授業をよく目
が演奏している映像は太鼓の演奏が身近
にする。あくまでも主体は生徒であり、
に感じられて効果的ではないか。……
知識理解のみに偏向しないようにするこ
初日の研究ですでに数多くのディスク
と。そして、あまり表現活動との関連に
やビデオを聴取・視聴し、それに対する
とらわれすぎないようにし、鑑賞活動を
意見を出し合った。この時点ですでに日
メインに考えること。
付は変わっており、翌日はまる1日をか
このことを踏まえて、班員6名の一人
けて、授業案作り、研究のまとめを行な
ひとりが、まず何の教材を使って、どの
い、明後日は発表となる。
ような指導の流れをつくるかを考え、そ
れを発表し合ってその中からC班として
のよりよい授業案をまとめ上げることに
盪指導のねらいと教材選択
した。そこで2時間ほど「個人研究」の
題材名の「和太鼓の魅力」をどのよう
時間を設けた。
にとらえるか。それを指導する側が具体
主教材、副教材としての扱い方や、指
的な形で持っていなければ、指導とその
導する内容の順番などに多少の相違はあ
評価を行なうことはできない。そこで
ったが、班員全員が教材として以下の2
共通理解した。
41(28)――◆◆ 音楽鑑賞指導の研究と実践
備に入る。
できるのではないか。そしてそのために
方が効果的か。たとえば三味線との共演
「魅力」を楽器の特徴として次のように
盻授業の組み立てのむずかしさ
これらの働きに気づかせ、曲の雰囲気
太鼓のみの演奏か、他の楽器も加わった
〈第2日 7/ 28(月)〉
さて、順調に準備は進んでいるようで
あるが、実は毎年問題になるのはここか
き」(菊池隆、菊池修、菊池卓 演奏)
「和太鼓の魅力」を感じ取らせることが
らよいのだろうか?
2000 》(TDK コア)から
藺副教材 『八丈太鼓』から「しゃばた
ポイントで有効な発言をしてくれた。
藺リズムの面白さ
藺演奏の様子
選び、どのように授業へと持っていった
DVD : DV2-122《ヴァルトビューネ
曲を扱う指導の流れを考えた。
藺主教材 『宴』(林英哲 作曲、演奏)
の流れをつかもうとしている。できるだ
け早い時刻にシミュレーションに入ろう
と、一生懸命である。機器操作担当の宮
越千枝教諭は、教材として使用するDVD
や VHS のプレイヤーの扱い方やタイミン
グ、音量の調整にかなりの神経を使って
準備を進めている。また、グループ研究
が始まってから、すばらしい指使いと文
才を発揮してパソコンでずっと記録をし
続けてくれている桶田加代教諭は、助言
者の大塚教諭と一緒に発表当日の原稿
と、指導の流れ(指導案)の作成に取り
組んでいる。
班長の大和美香子教諭は、研究の経過
報告を担当することになっているので、
今までの資料をチェックしたり、授業者
たちへひと言アドバイスをしたり、でき
上がりつつある発表原稿を確認したりと
忙しい。大島幸男教諭は10 年研修でどう
しても最終日の発表に参加できないこと
を大変残念がっていたが、グループ研究
の間冷静に話し合いに耳を傾けて、ピン
らなのだ。つまり、授業のシミュレーシ
教え込みになっていたり、授業そのもの
がスムースに流れなかったりと、いろい
ろである。
夕食後に開始したシミュレーションで
は、やはり指導の流れのポイントの一つ
一つでおさえていかなくてはならないこ
とが曖昧であったり、発問が不明瞭であ
ったりして、その結果指導案を何回も書
き換えることになった。時間ばかりが経
過し、疲労感も高まっていくばかり。よ
うやく皆が納得し、OK を出したのが、
午前2時に近かった。
蠱
まとめ
1.研究発表から
〈第3日 7/ 29(火)〉
研究発表では、宮越教諭の機器操作
で、太鼓の音声がぴたっとハマり、授業
者の桝宗教諭の温かい口調と的確な発問
や指示でどんどん生徒(他のグループの
先生方)から意見が出され、それを塚田
教諭がすばやくわかりやすく板書する、
という具合に大変順調に進んだ。その点
では、前夜、遅くまでかけて作り上げた
授業案作りの苦労が報われた感がある。
研究協議では、映像が効果的に使用さ
れていたというおほめの言葉、逆に安易
に映像を使いすぎないで、もっと音その
もので子どもたちの心をゆさぶるように
というご指摘や、西洋の太鼓との比較は
夏ゼミ・レポート
(2) ◆◆――
(29)40
どうだろうかといったアドバイスなど、
た題材の一部として研究に入ったが、結
参考になるご意見をたくさんいただいた。
果的には鑑賞の活動とした。今まであま
また、研究主幹の吉田時雄先生からは、
り取り上げられることのなかった和太鼓
最近、和楽器を扱う演奏家が増え、表現
の鑑賞を授業化したという点に、多少自
の幅は広がっているが、和楽器本来のよ
負するところがある。
さから少し離れていってしまっているこ
今回の研修を通して、和太鼓には非常
とへの憂慮が述べられ、その点から、今
に多くの種類があること、演奏の形態、
回の教材選択は本題材によく合ってお
歴史的な扱い、他の楽器とのかかわり、
り、日本の音楽のよさの基盤をきちんと
表現活動との関連等、多様な教材性をも
おさえている、と評価していただいた。
った題材であることを再認識した。本時
さらに、和太鼓の魅力について教師が子
のねらいや展開例はほんの一例にすぎず、
どもたちにもっともっと働きかける工夫
今後、興味深い授業例が生まれてくる可
をするように、との助言もいただいた。
能性をがあると考える。
2.研究の成果と今後の課題
和楽器が注目されている現在、単に興
ア「音楽への関心・意欲・態度」
藺太鼓に興味をもって聴いている。
イ「音楽的な感受や表現の工夫」
藺音色やリズムなどによる雰囲気の変化を感じ取っている。
エ「鑑賞の能力」
藺楽器による音色の違い、強弱や速度の働きによる曲想の変化を感じ取って聴いて
いる。
5.教材と教材選択の観点
○教 材
藺主教材 『宴』 作曲、演奏:林 英哲
藺副教材 『八丈太鼓』より「しゃばたき」 演奏:菊池隆、菊池修、菊池卓
○教材選択の理由
主教材『宴』は、大きな太鼓を一人で演奏する。この太鼓は、楽器の中心を打った時
の音色と、枠の近くを打った時の音色が大きく異なるとともに、打つ強さによっても音
味本位とか奇をてらうのではなく、日本
色が変わる。また、弱く打つ「地」の部分に重ねて強く打つ部分があり、聴いていると、
和太鼓といっても、今回は特に長胴太
音楽の基盤をしっかりとおさえた上でそ
複数の奏者による演奏のように聞こえる。その意外性、さらにはダイナミクスの幅広さ、
鼓(大太鼓、鋲打太鼓)にスポットを当
のよさや美しさを子どもたちにどのよう
スピーカーを通しても伝わるであろう勇壮な響き等、表現力の大きさから、太鼓の魅力
て、授業時数1コマによる指導案を作成
に伝えていくかは、われわれの大きなつ
をとらえさせるのに有効であると考えた。
した。当初は、表現活動との関連を図っ
とめであろう。
副教材の『八丈太鼓』は、主教材と同様に、使用する太鼓は1台である。しかし、こ
ちらは同時に2人が演奏し、さらにそれを3人が交代で回し打ちを行なう。演奏の役割
中学校音楽科学習指導案(第1学年)
は、「表拍子(上拍子)
」(低い音が出る方の面を打ち、演奏者の技術を即興的に聴かせる
主役)、「裏拍子(下拍子)」(基本のリズム――いわゆる「地」のリズム――を打ち続け
る裏方)である。
『宴』の場合と比較して、楽器の大きさ、音色や響き、演奏の様子など
1.題 材 「和太鼓の魅力」
の相違がとらえやすく、比較聴取に適している。
2.題材について
6.指導計画(1時扱い= 50 分)
「和太鼓」(長胴太鼓または鋲打ち太鼓、締太鼓、平太鼓、等)は、日本の祭には欠か
せない楽器の一種として、また大衆の楽器として、長い歴史の中で大変親しまれてきた
7.本時の展開
盧ねらい 「和太鼓の魅力を感じ取らせる」
楽器である。
そこで、身近な音楽(伝統的な郷土の音楽など)や、現代の音楽の中に使われている
楽器としての和太鼓に注目し、楽器の特徴や音色、リズムや表現の効果を感じ取りなが
らその魅力を味わわせることをねらいとして、本題材を設定した。
なおこの題材は、今回は1時間扱いの鑑賞の授業として設定したが、鑑賞と表現の関
○学習内容 ・学習活動
①和太鼓への関心・興味
・『八丈太鼓』から「しゃばたき」の初
連を図った、主題による題材構成で授業を組み立てることも可能である。
めの部分を聴き、とらえた内容を話し
3.題材の目標
合う。
○和太鼓の魅力(音色やリズムの面白さ、音量、響き、掛け声を含む演奏の様子、等)
を感じ取らせる。
4.題材の評価規準
39(30)――◆◆ 音楽鑑賞指導の研究と実践
②和太鼓の特徴
・「しゃばたき」全曲を視聴し、気づい
たことや感じたことを発表し合う。
◇教師のかかわり ☆評価
◇自由な発想を大切にするが、太鼓の演
奏であることは確認する。
☆意欲的に学習活動に参加している。
(ア:観察)
◇発表の内容を、見てわかったことと聴
いてわかったこととに分けて板書する。
◇出た意見を簡単にまとめてから次のス
夏ゼミ・レポート
(2) ◆◆――
(31)38
テップに移る。
・まとめ方の例:楽器、音色、響き、
演奏の様子、リズム、等
③和太鼓の表現
・『宴』の前半部分を聴き(2分程度)
、
気づいたことや感じたことをワークシ
◇音に集中させるため、ワークシートへ
の記入は聴取後にさせる(音によって
生徒の心をゆさぶりたい)
。
ートに記入する。
・『宴』を全曲聴き、さらに感じたこと
や気づいたことをメモしていく。
◇細かい内容までとらえさせるため、メ
モしながらの聴取でもよしとする。
◇出た意見をまとめる。
・まとめ方の例:(「しゃばたき」との
比較でよい)
音色や響きの違い、リズムの特徴、
曲の感じ・雰囲気、等
☆音色やリズムなどの変化を感じ取って
いる。(イ:観察・ワークシート)
④和太鼓の魅力
・③の活動をもとに全曲を視聴し、感じ
たことを自由にワークシートに記入す
◇視聴に集中させるため、メモは視聴後
に取らせる。
◇演奏の様子から、打つ位置による音色
る。
の変化や強弱など、細かいところまで
引き出したい。
◇必要な場合は補足説明をする。
☆和太鼓の多様な表現を感じ取って聴い
ている。 (エ:観察・ワークシート)
8.本題材の指導に当たっての工夫
○和太鼓の魅力に迫れる教材の選択を行なった。
○主教材とともに副教材を選んで用いることで、
比較しながら鑑賞できるようにした。
小学校組のグループ研究
(先月号に登場した A 班です)
37(32)――◆◆ 音楽鑑賞指導の研究と実践
音楽鑑賞指導の研究と実践
心を色にあらわして……試みの成果は?
菅野 知子 北海道伊達市立長和小学校
いる」とのこと。出だしの主題旋律は、
長見みどり 東京都練馬区立豊玉小学校
音符の間に休符をはさんだ形で書かれて
作花 裕子 香川県国分寺町立国分寺南
いますが、聴いていると付点リズムのよ
部小学校
富本 啓子 徳島県鳴門教育大学 派遣
平成 15 年度音鑑「夏ゼミ」研究報告3『ユーモレスク』
小学校 B グループ(高学年)
学生
古賀 三枝 福岡県北九州市立日明小学
校
長友 祥子 宮崎県児湯郡川南町立多賀
小学校
神奈川県横浜市立瀬谷小学校教諭 峰 登美代
峰 登美代 神奈川県横浜市立瀬谷小学
校
初任3年目で、2人の教え子が「音楽
授業で、音楽を聴いた後の子どもの感想
大好き」の作文で努力賞を頂いた時代か
の言葉を「楽曲から感じ取った音楽的諸
ら、(財)音楽鑑賞教育振興会にお世話に
要素」に関するものと「楽曲から感じ取
なっています。ここ数年、横浜市音楽研
った気分や曲想」に関するものとに、内
究会の鑑賞部会に関わり、毎年夏休みに
容別に分け、その後でそれぞれを結びつ
音鑑資料室にお世話になり、1曲の教材
けて学習するという方法を教えていただ
に関してたくさんのCDを聴かせていた
きました。とてもよく理解でき、「目か
だいたり、映像を見せていただいたりし
らうろこが落ちる思い」で、ぜひ2学期
ています。夏のセミナーにも、かねがね
からの授業に活用させていただこうと考
参加させていただきたいとは思いつつ、
えました(いま、実際にさせていただい
勤務校のマーチングの特別練習と重なっ
ています)。
て伸び伸びとなっていました。
昨年やっと念願が叶って参加すること
チーフ助言者、橋本研先生の「音楽鑑
賞指導の基本的な考え方」のお話では、
ができました。多くの参加希望者がいら
鑑賞指導で教えることができるのは「さ
っしゃったとお聞きし、参加できたこと
まざまな音楽に親しむことを通して、聴
を感謝しつつ、パイオニア研修センター
くことへの興味・関心、および“鑑賞の
の門をくぐりました。お顔見知りの著名
能力を育てること”である」と教えてい
な講師の先生方や北海道から九州まで、
ただき、「鑑賞」と「鑑賞指導」の違い
遠路はるばる研修しようと意欲に燃えて
を明確にとらえることができました。
出かけていらした小・中学校の先生方に
お会いし、緊張した中で開講式に臨みま
ゆったりとした気持ちで…
第1日のグループ研究
した。
最初のプログラム、「研修の内容と進
め方」の説明では、助言者、徳田崇先生
(練馬区立開進第三小学校教諭)の模範
45(20)――◆◆ 音楽鑑賞指導の研究と実践
B班
小野 傑 千葉県八千代市立八千代台
西小学校
助言者
粟飯原喜男 埼玉県川越市立芳野小学校
私たちBグループの助言者は、粟飯原
喜男先生。横浜市音楽研究会の講師とし
てしばしばお教えいただいている先生で、
今回2泊3日(事前のうわさでは1泊と
も0泊とも?)の間じっくり教えていた
だけることを心から喜びました。
私たちにいただいた課題曲は、アント
ニーン・ドボルザーク作曲『ユーモレス
ク』です。グループ部員からは「懐かし
い曲ね」「あの曲? でも今さら…」の
声も。3日目の最後の最後に、粟飯原先
生からこの曲に傾ける情熱をお聞きし、
いま考えると、先生には大変失礼だった
と思っています。
まず、楽曲分析から始まりました。原
曲はピアノのための《8つのユーモレス
うに聞こえてきて、このリズムがこの曲
を 際 立 た せ て い ま す 。複 合 三 部 形 式
(A−B−A−C−A−B)で、この主
題が、間にやや滑らかに動くフレーズを
はさんで繰り返され、曲全体の中間部は
親しみのある旋律が郷愁を誘います。
ピアノ、バイオリン、フルート、胡弓、
ハーモニカ、そしてオカリナなどの独奏、
金管合奏、ハンドベル合奏、管楽器アン
サンブルなどの CD 24 種類を聴きまく
り、楽器やリズム、強弱や形式などの音
楽的諸要素について知り、その中で醸し
出されるスラブ民族系の哀愁を帯びた音
楽の雰囲気を感じ取りました。他の部屋
からの激しい曲想の楽曲を遠くに聞きな
がら、「噛めば噛むほどよい曲だ。」と、
ゆったりとした気持ちでその魅力を感じ
るようになりました。多くの種類の中か
ら、曲想の変化のわかりやすい情熱的な
弾き方をしているチェネック・セコブ・
ヴァルバのバイオリン独奏を教材として
使用することになりました。
さて、開講式での小原光一先生(夏ゼ
ミ実行委員長)のお話にあった「研修テ
ーマである『豊かな感性を育てる』には、
どのような方法がよいのか。それは何の
ためにするのか」ということを、この曲
で考えることになりました。
ク》の第7曲です。♭6つの変ト長調の
この曲は、子どもにとっても旋律の変
和音の響きがおしゃれです。バイオリン
化がとらえやすく、テンポの変化と“ゆ
その他の楽器で演奏されることも多く、
れ”を楽しむことができると思われる、
むしろその方が親しまれています。「民
よって音楽的諸要素だけでなく、曲全体
族音楽的なイディオムをロマン的な書法
が醸し出す雰囲気を味わわせたい。小曲
で処理し、そこに独特な甘さを表出して
なので1時間扱いで学習させたい。この
夏ゼミ・レポート(3) ◆◆――
(21)44
「こっちの色もいいし…」
2点に絞りました。そして、特に高学年
「色」を扱う意義については、次のよう
まず『ユーモレスク』の最初の 16 小節を
の「自分の思いを発表しない」「身体表
に考えました。
聴いていただきました。
現が弱い」といった興味・関心のない子
○子どもたちが言葉や身体表現では表わ
どもに対してその心を動かし、
「もっと
せないときや表わさないときに、色折
私の学校の子どもだったらどんな聴き方
聴きたい」という意欲をもたせることが
り紙を使用すると、一人ひとりが興味
をするのだろうかと考えていました。「指
できるように、この曲の魅力を子どもた
をもって、自分の意思で色を選ぶこと
揮をしながら」「ひざを使って指でリズ
ちに提示したい、ということになりまし
ができるので、思いを表現しやすい手
ムを取りながら」「楽器を弾く真似をし
た。
段となるであろう。
ながら」といった身体表現をするだろう
○表現活動を取り入れる。
○転調部分がはっきりしている演奏にし
よう。
○強弱を色で表わす子がいるかもしれな
い。
○聴覚だけでなく他の感覚も媒介にした
い。
○色についてのイメージから音楽的諸要
素に結びつけ、深めていきたい。
○色を選び、それに音楽的諸要素を組み
合わせることで、形式や構成がわかる
のではないか。
○色のイメージを言語で表わすことがで
きるか。
○哀愁を帯びたドボルザークの曲は、曲
想を言葉では表現しにくいと思われる
じっと聴いておられる姿を見ながら、
か、と。
先生方の思いが伝わってこないまま、
ので、色で選ぶ手段が合っているであ
授業者の長見教諭から「音楽を聴くとい
色紙を取っていくときには、同じ主旋律
ろう。
ろいろなことが浮かんでくると思います
のときには同じ色の紙を、似ている旋律
○どんな言葉を用いるかよりも、音から
が、その曲に合った色が浮かんでくるこ
のときには同系色の色紙を取っていて、
得た感じをどんな色で表わす(視覚化
ともあるかもしれませんね。この曲に色
形式や構成にも目を(耳を)向けている
する)かの方が、子どもには吟味しや
をつけるとしたらどの色が合うか、7色
ことがわかりました。
すいであろう。
の中から選んでください」との投げかけ
そして、仮説を立てました。
が入りました。生徒役の先生方からは、
どもたち数人にもその色を選んだ理由を
1枚だけでなく何枚か取ってもよいのか、
尋ねました。黄色系の色だったり青系の
との質問が出ました。――
色だったりと、それぞれ違っていました
楽曲を聴いて、感じたことをすぐに言
語化するよりも、色彩によってイメージ
化する方が、楽曲についてより深く感じ
取れる。
夏ゼミの先生方にお聞きしたように子
夏ゼミの後で実際に授業した私の学校
が、曲のイメージはほとんど同じようで
の5年生も、子どもたちは3枚とか5枚
した。しかし、ただ漠然と全曲通して聴
とか取っていました。また、夏ゼミの先
かせたのではなく、初めて全曲を通して
生方と同じように、自分が思った色がな
聴いた子どもたちの初発の言葉から一人
などなど、喧喧諤諤といろいろな意見
講師や助言者の先生方から、「色」を
の飛び交う中、夜の時間は刻々と過ぎて
使用することの難しさについて教えてい
いとつぶやいている子どももいました。
ひとりに目当てをもたせたので、形式や
いきます。
ただきましたが、「どんな折り紙の色を
2回目に聴くときに、数を増やして30 種
構成に目を(耳を)向けている子どもが
1日目の最後の言葉――「色」
選んだかで評価をするのではなく、選ん
類くらいの色紙を置いたときには、ほと
多かったのでした。
お休みなさい………………。
だ理由(音楽的諸要素にかかわる)を評
んどの先生方が色を替えていましたし、
価すること」を再度確認し合い、言語で
本校の子どもも同じように替えていまし
「哀愁を帯びたドボルザークの曲は、言
表現する前に色紙を使用するワンステッ
た。最初からたくさんの色紙を置いても
葉では曲想を表現しにくいので、色で選
プをおくこと、というふうにとらえまし
よいかと思いましたので、本校の他のク
ぶ手段が合っているであろう」は、たく
た。
ラスでは、1回目から40 種類くらいの色
さんの音楽を聴いた経験をもつ大人には
紙を置いてみたところ、最終的に決める
当てはまっても、特別に感性豊かな子ど
間に、「もう1回聴かせて」と何回もせ
もはともかく、一般の子どもにはまだ難
がまれました。子どもたちは、色紙を取
しいように思われました。実際に授業で
キーワードは「色」…
グループ研究 第2日
おはようございます。
2日目、新たな気持ちで目覚めまし
た。
まず、昨日の話し合いをもとに、「本
時の展開」を考えました。班員8名で 8
種類。結果として、やはり「色」を使用
しての展開を採ることになりました。
43(22)――◆◆ 音楽鑑賞指導の研究と実践
鑑賞の楽しさ…
第3日 研究発表
――自校での実践と重ね合わせて
結局、私たちグループが考えていた
る活動を通して、強弱や曲の気分などの
やってみることが大事だと感じます。た
色紙を置いたテーブルを囲む椅子に他
いろいろな音楽的諸要素を感じ取ってい
だ、普段行なっているような言葉のやり
のグループの先生方に座っていただき、
ることがわかりました。また、何枚かの
取りで授業をしたクラスの子どもの残し
夏ゼミ・レポート(3) ◆◆――
(23)42
た記録と、今回のような色紙を使ったク
る演奏の LD 映像は、
『ユーモレスク』の
ラスの子どもの記録とを比べると、視覚
本来の意味「ユーモアと気まぐれな性格
的に、はっきりとわかる点では子どもの
をもった音楽」にふさわしい、本当に演
イメージが明確に見て取れるように思い
奏そのものを楽しんでいる演奏家の姿を
ました。
見せてくれ、子どもたちにとっても、楽
もちろん色紙がひとつの手段にすぎな
器への興味が高まり、鑑賞の楽しさを教
いことはいうまでもありませんが、講師
えてくれる資料に違いないと思います。
や助言者の先生方がおっしゃったように、
色を使用する難しさを知りました。それ
でも新たな発想で果敢に挑戦したBグル
くださった助言者の粟飯原先生にも感謝
する熱い情熱と研究熱心さに接して、私
申し上げます。
自身が熱せられ、2学期からもがんばる
イオリン独奏、ヨーヨー・マのチェロ独
奏、小澤征爾指揮ボストン交響楽団によ
2 題材について
小学校音楽科の鑑賞指導では、一人ひとりが意欲的に音楽の流れの中に溶け込み、
音楽が醸し出す雰囲気や気分など、楽曲の曲想を全体的に味わって聴く態度や能力を
今回「夏ゼミ」に参加させていただき、
全国からいらした先生方の鑑賞指導に対
と視聴したイツァーク・パールマンのバ
1 題 材 「ユーモレスクの音楽を味わおう」
終わりに
ープに乾杯。そして、この方法を許して
模擬授業の最後におまけとして皆さん
小学校音楽科指導案(第5学年)
育てていきたいと考えている。
小学校のこの学年は、心で音楽を感じ取ろうする内面的な成長が見られるようにな
るため、ここでは、音楽を聴いて感じ取ったことを色で表わすという活動を取り入れ
て、児童一人ひとりの多様な感じ方を大切にし、積極的な鑑賞の活動を進めたいと考
え、この題材を設定した。
ぞ! と、新たな気持ちにさせていただ
3 題材の目標
きました。
今年の夏は涼しかったけれど、この3
(1)『ユーモレスク』の音楽に親しむ。
日間だけは暑い熱い夏でした。
(2)楽曲全体の曲想を感じ取ることができる。
4 評価規準
ア「音楽への関心・意欲・態度」
自らの感じ方や思いなどを生かしながら、楽曲をすすんで聴いている。
イ「音楽的な感受や表現の工夫」
独奏やその他の演奏形態による演奏を聴いて、曲想を感じ取っている。
ウ「鑑賞の能力」
楽曲全体の曲想を感じ取って聴く。
5 教材と教材選択の観点
「ユーモレスク」は、ユーモアのある、おどけたという意味で、19 世紀までの器楽
曲に付けられた名前。今回の教材は《8つのユーモレスク》作品 101 の第7番で、原曲
はピアノ曲だがバイオリン独奏用などに編曲された形でよく知られている。
ここでは、楽曲を聴いて、曲想全体をより深く味わうための手段として、イメージ
したことを自分なりの「色紙」を選んで表わすという活動を取り入れた。
教材の演奏 チェネック・セコブ・ヴァルバ(バイオリン独奏)
CD:《スロバニック・ファンタジー》から
B
班
の
皆
さ
ん
41(24)――◆◆ 音楽鑑賞指導の研究と実践
6 指導計画(1時間扱い)
[省略。7「本時の展開」を参照]
夏ゼミ・レポート(3) ◆◆――
(25)40
7 本時の展開 (1時間扱い)
(1)ねらい
楽曲全体の曲想を感じ取ることができる。
(2)展開
○学習内容 ・学習活動
◇教師のかかわり ☆評価
○本時の課題をつかむ。
・『ユーモレスク』の初めの部
分を聴く。
◇聴いた経験などを話し合う。
◇曲想に合う色を自分なりに選ぶようにする。
☆曲想をつかんでいる。
○楽曲全体の曲想を感じ取る。
・再度全曲を聴く。
・感じ取った曲想を発表する。
・もう一度全曲を聴く。
◇選んだ色が曲想と合っているか自分なりに確
かめる。
◇なぜその色を選んだのかを曲想と結びつけて
発表する。
◇さらに曲想を深く感じ取るために、色の種類
を増やし、自由に選ぶようにする。
・曲名を知る。
*ワークシートに記入させ、まとめをする。
○曲想を味わう。
・全曲を視聴する。
◇映像に集中して聴き、より深く曲想を感じ取
ることができるようにする。
☆楽曲全体の曲想を感じ取っている。
8 本題材の指導にあたっての工夫
この題材では、楽曲全体の曲想を色で表わすという活動を取り入れて、児童一人ひ
とりが言葉で表わしにくいところを補う工夫をしてみた。音楽と色彩の関係のむずか
しい理論などには入らず、児童の直観力を生かして、「もしこの曲にふさわしい色をつ
けるとしたらどんな色があるか」といった発問をもとに構成をした。
A・Y
39(26)――◆◆ 音楽鑑賞指導の研究と実践
音楽鑑賞指導の研究と実践
ストラヴィンスキーの『春の祭典』に挑戦
平成 15 年度音鑑「夏ゼミ」研究報告4『春の祭典』
中学校 D グループ(上学年)
東京都足立区立第十四中学校教諭 松田真紀子
まとめることを考えると、『ブルタバ』な
は普通の流れだが、何しろ今回の主教材
どの既習曲を利用するのがよいとなった。
は『春の祭典』である。
「『春の祭典』聴
もちろん比較教材を使うのは、グループ
いたことがありますよね、お好きです
研究のおりに受講者の先生方から希望が
か?」の問いかけから D グループの研究
あった場合にだけである。
が始まった。出だしの旋律など、聴き慣
教材曲の『春の祭典』は2部で14 の場
れた部分はあっても、全曲を通して聴く
面があるため、どの部分を取り上げるか
機会はあまりないということで、まずは
についても考えた。助言者のパートナー
スコアを見ながら視聴し、感想を述べて
長谷川要子教諭は「朝、顔を洗いながら
みることにした。
『春の祭典』、夕食の支度をしながら『春
の祭典』」というくらい聴き込んだとい
う。筆者は「今日の1回」と思いなが
D グループは『春の祭典』への挑戦で
した。導入に「春のきざし」を持ってき
たところで、驚きから興味を引き、
“生
徒”の気持ちをつかみました。もう少し
先まで聴かせてもよかったとは思います
が、ここで得た感じ取りが「いけにえの
踊り」で新鮮な気持ちに広がっていくよ
うでした。ただ、教師の投げかけが誘導
にならないように気をつけてほしいもの
です。また、映像を用いたタイミングが
よく、1曲目→2曲目→映像 の流れ
が効果的でした。
『春の祭典』という曲
名に生徒が興味をもって質問してきたと
きは、もっと説明してもよいでしょう。
本番を迎えるまでの準備
ら、気づくと2∼3回聴いていた夜、ヘ
第一に、教材を限定して提示してよい
ッドフォンを付けたまま眠ってしまった
ものだろうかという迷いである。セミナ
夜もあった。結局、予め教材曲を限定し
ーに参加される先生方にとっては、教材
てしまっているのだから、どの場面をと
選択の余地がないと研究に取りかかりに
るかということはグループの先生方にお
くいだろうと考え、同じ時代の曲を他に
任せしようという結論を出した。
響楽団演奏(1987 年版)
○不思議な感じ、神秘的、激しい、躍動
感、妖しげ、感覚的な生命感
○変拍子、リズムや音形のくり返し、響
きの変化と特徴的な和声、不協和音、
古典的な形式が重視されていない
○独特のオーケストレーションや打楽器
の使われ方
いくつか聴いたこともあった。久々に何
部活動を済ませた土曜日の午後、長谷
冊かの近代音楽史の書物を広げ、読みあ
川教諭の学校で何回か打ち合わせをもっ
さった。しかし、それぞれの曲がそれぞ
た。東京都でただ1本残っている路面電
れ特徴的な響きをもち、実際に選択する
車の音がよく聞こえる音楽室で、他の先
には意見がまとまりにくく、1日半の研
生が気づかずに施錠してしまい、警備会
究では間に合わないことが予測された。
社の人が来てしまったこともある。最後
また、主教材の特徴を明確にとらえる
の打ち合わせは、音鑑資料室で『春の祭
『春の祭典』の音楽を場面ごとに分け
ためには、比較できる教材が必要であろ
典』のいろいろな演奏を聴き比べて、使
たメモ用紙を片手に、多くの意見が飛び
うかとも考えた。その場合、具体的な楽
用ソフトを選ぶことだった。
交った。教材として使用できそうな場面
曲は何がふさわしいだろうか。
『春の祭
こうして迎えた夏ゼミではあったが、
D グループの発表について、音鑑常務
典』は曲の場面ごとに異なる音楽的特徴
終了するまで本当に気の休まることのな
理事、夏ゼミ実行委員長の小原光一先生
が聴き取れるため、選択する場面ごとに
い日々であった。
からこのような講評をいただき、2ヶ月
いくつかの曲を選んでおくとよいのだろ
半近くに及んだ夏ゼミとの関わりが一つ
うか(管弦楽が著しく発達したロマン派
の成果を生み出したように感じ、一種の
を中心に)。しかし、そうすると比較の
安堵感を覚えた。これまでの夏ゼミでは
ための楽曲は膨大な数になってしまう。
あまり扱われなかった分野の音楽である
やはり時間の関係で一つに絞っていこう。
ため、正直なところ本番までは試行錯誤
ただ、比較するための教材を授業の中で
の日々であった。
聴く時間や、それを聴いた生徒の感想を
45(24)――◆◆ 音楽鑑賞指導の研究と実践
※視聴ソフト デュトワ指揮 NHK 交
¿.研究経過
1.教材曲を理解しよう。
『春の祭典』はお好き?
自己紹介の後、助言者から題材や教材
曲についての提案を行なった。ここまで
○中学生に聴き取らせる意義は何だろ
う、どの部分を教材に使用するか、バ
レエの映像があると雰囲気が分かりや
すく、イメージが湧くのではないか
○古典バレエと比較する など。
が次のように挙げられた(各場面につい
ては別掲の学習指導案参照)
。
・第¿部第8場面(以後¿−8と表記)
「大地への踊り」
→ 打楽器の使われ方の点で
・À−1「序奏」
→ もしもシリーズ
不安にさせる不気味で同じような
形のモティーフ
夏ゼミ・レポート(4) ◆◆――
(25)44
・À−2「乙女たちの神秘的な集い」
→ 第1部との関連で
・À−6「いけにえの踊り」
→ ハラハラする映画のようで、怪
獣でも出てきそう→イメージがも
てる
バレエの映像は?
古典バレエとの比較は、この曲の特徴
をとらえる一つの方法だろう、という見
通しをもった。残念なことに『春の祭典』
のバレエの映像は、À−6「いけにえの
踊り」の場面しか手に入らない。
※視聴ソフトは、ベジャール振付によ
る20 世紀バレエ団。5分くらいの映
像であるが、中学生に見せるには適
切だとは感じられなかった。
なぜ『春の祭典』なの?
一般的に、春は明るい感じであるが、
この曲はロシアの寒い冬、凍てつく大地
候補に挙げられる部分は?
じ音源を使い、微妙な違いが出ないよう
特徴的である。ミュート付きのトラン
以上のような内容を踏まえて、教材部
にすることを確認し、使用するソフトを
ペットの演奏や5拍子の聴き取りがで
分を抽出する作業を開始した。N 響の演
きる。
奏ディスクで3度の視聴に入り(各場面
○À−1「序奏」はシンプルだが響きは
の冒頭のみ)、リズムと響きやイメージ
①小澤征爾指揮ボストン交響楽団
ズムが変わっていて、À−5「祖先の
に焦点を絞って各場面の特徴を再確認
②ハイティンク指揮ベルリン・フィル
儀式」の比較的分かりやすい部分と比
し、次の結果を得た。(毎回感じること
③トーマス指揮、サンフランシスコ交響
較できる。
だが、こんなに時間をかけて聴き込める
○生徒はこの曲から何か情景を想像する
リズム :¿−2、6、À−3、6
で聴き取るのがよい。さらに想像した
響き
根拠を考え、音楽的要素の面に繋げる
イメージ:¿−2、4、5、À−6
ことができる。
○近代の響きの特徴は何かをわれわれが
押さえておき、それにふさわしい部分
を選ぶ必要がある。など
曲にも少し慣れ、1回目よりも建設的
な意見がたくさん出た。先生方も覚悟を
決められたようだ。
メージして作られたという。ロシアの異
合いを、受講者の先生方にバトンタッチ。
教徒の儀式で、神のいけにえとして捧げ
研究を続行するにあたって役割分担を決
られる乙女たちが踊る、原始時代の物語
めた。
聴した。
※視聴ソフト ハイティンク指揮ベル
リン・フィル(1999 年版)
○リズムが予測できないおもしろさがあ
る。
指揮をするなどの身体表現やリズム表
現とも繋げられる。
○覚えやすい旋律がない。
○¿−4「春のロンド」を使い、古典的
な管弦楽の映像と比較する。
43
(26)――◆◆ 音楽鑑賞指導の研究と実践
のはこのゼミの醍醐味である)
だろう。その場合は、最初は音楽だけ
ここまで助言者の側で進めてきた話し
明があり、一同納得したところで再度視
※使用ソフト
○À−6「いけにえの踊り」は旋律やリ
の厚い氷がバリバリと割れていく春をイ
である、など、長谷川教諭から丁寧な説
選ぶ作業に入いった。
2.教材部分を選ぶ
前提を押さえましょう
〈学習目標〉
近代的な音の重なりと多様なリズムを
感受
→イメージにつなげる
〈評価規準〉
:¿−2、À−3、6
楽団
指揮の様子から拍子が分かりやすい①
に対して、③は CD だが奏法がはっきり
していて、各楽器の音色がクリアだった。
しかし、演奏法やオーケストレーション
生徒にどのような聴かせ方をする?
などを確認するには映像が必要になるた
○生徒が興味をもって聴く場面はどこだ
め、②を使うことにした。映像なしで聴
ろう。
○聴き取らせたい要素ごとに、異なった
場面を選ぶ。
いても②はなかなか聴き取りやすいよい
演奏である。
この話し合いの過程で、大変重要なこ
○全ての要素を含めて1∼2場面を取り
とに気づいた。「映像のない演奏を聴く
上げる(多くても2場面くらい)
。
と、音楽に集中できる」ということであ
○1場面でもくり返し聴かせる方法もあ
る。頭で分かっていることながら、自分
る。
○これまで聴いてきた音楽とは違うとい
う意味で、インパクトのある場面を使
う。
○リズムに焦点を絞ると、¿−2とÀ−
6。
自身で体験すると十二分に納得できる。
ちょっと休憩
音楽のイメージがどのように表現され
るかの例として、ディズニーの映画『フ
ァンタジア』を視聴した。原作とは異な
○リズムだけでなく、他の要素を聴き取
り地球の創世期の姿で描かれ、恐竜が登
る生徒もいるから、焦点を絞らない方
場する。音楽そのものはアレンジの手が
がよい。など
入っているが、絶妙なアニメである。
以上のような意見交換の結果、
◎いろいろな要素が聴き取れる場面を教
2日目の朝から音楽を聴きっぱなしで
疲れた頭が(耳が?)少し休まった気が
した。
ア:近代的な音楽に親しむ
材として選ぶ。→¿−2とÀ−6に決
イ:音の重なり、響き、リズムを感受す
定
生徒の立場で聴いてみよう
音源はどれがよい?
選んだ場面(¿−2とÀ−6)の何回
る
エ:イメージをふくらませる
聴取する場合と視聴する場合とでは同
目かの聴取に入り、生徒から出てきそう
夏ゼミ・レポート(4) ◆◆――
(27)42
な意見をまとめていった。これから受講
者の先生方が指導案を考えるにあたって、
À−6はリズムが取りづらく、予測で
それぞれの部分の音楽的特徴を共通理解
きない。スケールが大きく、生徒が曲に
することも含まれている。
なじんでから聴く方がよい。
〈¿−2〉
○怖い、迫ってくる
何かが起こる前兆のような躍動感があ
る ホラー系のゲームや映画の音楽の
ようだ
管弦楽の演奏である
途中から規則正しいリズム→時計のよ
うだ
○戦い(宇宙系の)
原住民が槍を持って迫ってくる
SL が煙を吐いて進み周囲の景色が変わ
る ジョーズが迫ってきて船に乗って
戦う
〈À−6〉
○拍子が不明、旋律より振動が伝わる
高い音が急に出て、急な空白がある
急に音が強くなる
最後にフルートでピタッと終わる
曲としてまとまっているのかが分から
ない
強烈なインパクトがある
小節番号 174 から音楽が変化していく
○ジェラシック・パークやスターウォー
ズのようだ
トロンボーンやピッコロの音が空を飛
ぶ恐竜を、ティンパニが嵐の中を表わ
す
出口を探していて、呼ばれるが分から
ないような困難な道
〈¿−2とÀ−6の違い〉
¿−2は規則正しく旋律的である。変
41(28)――◆◆ 音楽鑑賞指導の研究と実践
②古典派の音楽を聴く時間を取る
拍子とアクセントの特徴が聴き取れる。
②どちらの部分でもよいから全体を
じっくり聴く時間を取るが、初めは
少しずつ
→¿−2を部分的に使う
イ 第一印象を発問することで情景想像
3.学習指導案の作成
た内容は多かったが、7人の先生方の指
該部分のチャプターナンバーのないディ
気が混乱する
スクからタイム・サーチで出せるよう格
→リズム打ちはしない
闘していた。授業者は、全国大会を控え
することになった。
と離れる感じがする
オ ①については聴き取った後で結びつ
けるようにする
→授業のまとめにÀ−6を視聴する
②比較する音楽についても共通理解
が必要だし、時間の関係で比較は難
※各部全体か部分か
しい
イ、学習の第2ステップ:
①情景想像 →音楽の要素の聴き取り
具体的な学習の流れを考える
¸
取りかかりの部分は¿−2(以後 A
の部分とする)であるが、22 小節目ま
①近代音楽の特徴を確認
でを2回聴いて第一印象をとらえる。
②リズム打ちなどの体験
板書でまとめるときに、感じたことと
エ、第4ステップ:
本
番
で
の
授
業
者
、
佐
藤
正
友
教
諭
要素的な内容とを分類しながら整理す
①変拍子の確認でスコアを使用する
る。ただしこれだけから出てくる内容
②イメージを物語にする
では、近代音楽の特徴とするには浅い
③映画音楽と結びつける
を先に知らせる
機器操作担当の小林教諭は、もともと当
が模擬授業の時にもアシスタントで担当
①¿−2 ②À−6 ③両方
①目標「近代音楽の特徴を聴き取る」
何回も聴いたり視聴したりするたびに、
→第一印象を発問する
②と③についても同じ。今回の目標
ア、最初に扱う部分(第1ステップ):
オ、第5ステップ:
このような流れを作り上げる中で、映
像の扱い方や発問内容なども論議した。
た佐藤教諭に決定した。板書は奥山教諭
異なる内容をまとめる
ウ、第3ステップ:
曲についての感想をまとめる。
は、スコアは使わない方がよい
きるものだった。その検討に入ったのは
②第一印象 →音楽の要素の聴き取り
142 小節目から最後までを視聴し、
エ ①音楽から気づくようにするために
導案はそれぞれ異なった流れで、納得で
2日目の午後である。
る。
»
の意見も出てくる
ウ ①リズム打ちは難しく、授業の雰囲
究を十分に深めた後、先生方にそれぞれ
指導案を作っていただいた。共通理解し
共通点を見つけ、近代音楽の特徴に迫
強い。
が出てきた時どのように対応するか、こ
教材として抽出する部分についての研
でを音声のみで1∼2回聴き、A との
ア ①の方が分かりやすくインパクトが
持ちが悪い音楽」など、マイナスの意見
の授業展開で考えていくことを確認した。
A は前半2回聴取し、全体を1回聴
く。B は 142 小節目から 166 小節目ま
話し合いの結果が出た
「わからない」とか「うるさい」、「気
の2曲をどのように扱うかは、これから
º
だろう。
¹
À−6(以後 B の部分とする)の扱
い方を決めてから、A への時間配分を
考える。
夏ゼミ・レポート(4) ◆◆――
(29)40
4.シミュレーション開始
2日目の夕方5時をまわってしまった。
とりあえず夕食までに1回目を終わらせ
ることはできた。夕食を済ませてさっそ
今まで聴いた管弦楽とは違って、不思
議な感じがする。
〈全体を視聴して〉
①みんなが同じリズムを演奏している。
ムーズに展開できたように思う。
研究協議では、バレエの映像や「春」
できない。
・近代音楽の特徴をとらえるためにロマ
の題名からイメージをふくらませる方法
ン派の曲と比較する方法もある。また、
がよいという発言があった。同じ中学校
授業者の佐藤教諭が『春の祭典』を
の助言者の一人からは「この曲について
「近代音楽の一つです」と言われたの
く検討に入ったが、発問の仕方や近代音
②楽器が数多く使われ、いろいろな奏法
は、実際はもっと否定的な意見が多いと
はよかった[近代音楽にはいろいろな
楽の特徴のまとめの点で迷いがある。ま
が用いられている。弦楽器が激しい。
考えられるため、映像を早く用いて興味
スタイルがあり、たとえ有名な曲でも
を引いた方がよいのでは」という意見を
代表とはなり得ない]。さらに厳密に
指揮者はすごい。
た A の部分と B の部分を、もう少し同等
に扱った方がよいのではないかという意
夜が更け、日付が変わっていくが、な
いただいた。「最初の聴取をもっと長く
言えば、この曲はストラヴィンスキー
見も出た。近代音楽のとらえ方について
かなかうまく進まない。焦りと疲労が充
すれば生徒の肯定的な内容の発言が得ら
個人の、ある一時期の様式、を示すも
は、再度意見を出し合ってまとめた。
満する中、シミュレーションは3回目と
れるだろう。近代音楽については長く説
のである。
なった。
明しない方がよい」とは、チーフ助言者、
話し合いを踏まえて2回目のシミュレ
(完)
ーションを始めた。生徒の意見をどのよ
佐藤教諭は授業の台本を作り、吉原教
うにまとめていくかも授業展開のポイン
諭は研究経過の作成に向け奮闘してい
トになる。グループ全員で生徒になって
る。話し合いの内容をまとめていく宮森
・実際の授業では生徒から(この模擬授
一生懸命意見を出すが、もう出尽くして
教諭。奥山教諭は意見をまとめやすくす
業の時のように)多くの意見は出ない
佐藤 正友 北海道教育大学附属旭川中学校
しまった感じもする。ちょうどグループ
るように、板書を何回もやり直す。戸田
だろう。
戸田 葉子 東京都頌栄女子学院
を廻っている音鑑のスタッフの方にも参
教諭が板書を手伝うことになった。小林
・この曲には当時の振り付け師ディアギ
加していただいたりしたが、他のグルー
教諭がみなの希望に添って、タイムサー
レフの思惑があるので、「春」という
山崎 淳子 埼玉県川越市立霞ヶ関東中学校
プでも生徒役をつとめてきたとのこと。
チで曲の希望部分を出していく。さまざ
言葉と音楽とを直接関連づけることは
吉原奈穂子 鹿児島県笠利町立赤木名中学校
この苦悶の時間はどこもみな同じである。
まな角度から意見を出して話し合いを進
出てきた意見を①リズム ②音の扱い
める山崎教諭。毎回ながらの“修羅場”
③イメージ に分けてまとめてみた。
である。ようやく目処が立ち、宿泊室に
〈A の部分〉
には「教材曲が決まっていてよかった」
②高い音がいきなり出てくる。
と受講者の先生方に言っていただきホッ
③こわい、驚いた、戦車が迫ってくる。
としたが、この時点では恨まれていたか
①A と同じような一律なリズムで、打楽
器が目立った。
②ぶつかり合う音、突然大きな音がする、
〈吉田時雄先生の講評〉
もしれないと複雑な気分だった。ああ、
今年もきびしかったなぁ。……
À.発表と研究協議、そして講評
叫び声のようで、音がきたなく重なっ
2泊3日の日程になってグループ発表
ている。楽器が正しくない演奏法をし
の時間が短縮され、準備そのものも発表
ているようだ。
時間に含まれるため、流れに入るまでハ
D班
奥山ゆみ子 北海道旭川市立神楽中学校
小林 由夏 宮城県仙台市立松陵中学校
宮森ひろみ 東京都江戸川区立瑞江第三中学校
中学校音楽科学習指導案(第3学年)
帰ったのは朝の4時過ぎだった。1日目
①ザンザンザンと規則的。
〈B の部分〉
宮下秀邦教諭の感想であった。
1.題材 管弦楽の近代的な響き
2.題材について
20 世紀に近づくにしたがって、西洋音楽はそれまでの古典的な調性和声や拍節的なリ
ズムが崩れ、多様な変化を示すようになる。しかし学校音楽教育では扱う機会の少ない、
あまりなじみのない分野といえるだろう。近代・現代の音楽は、旋律や拍子のとらえに
くさ、調性感のあいまいさなど、それまでの音楽とは異なる性格をもっている。ここで
は、そのような特徴を聴き取った上でこうした音楽の魅力に迫るため、本題材を設定し
た。また、このような学習活動を通して、生徒の音楽観の拡大を目指したい。
③A と同じ曲のようだ。スターウォーズ
ラハラしてしまう。佐藤教諭の模擬授業
3.題材の目標
のようでもあり、包丁を研いでいるよ
は緊張しているにもかかわらず、シミュ
・近代の音楽に関心をもち、多様な音楽表現を味わわせる。
うでもある。
レーションの時以上にまとめがよく、ス
・近代の音楽の響きやリズムの特徴を感じ取らせる。
39(30)――◆◆ 音楽鑑賞指導の研究と実践
夏ゼミ・レポート(4) ◆◆――
(31)38
4.題材の評価規準
Dグループの皆さん ごくろうさまでした
ア「音楽への関心・意欲・態度」
・近代の音楽に関心をもち、意欲的に聴こうとしている。
イ「音楽的な感受や表現の工夫」
・近代の音楽の特徴を感じ取っている。
エ「鑑賞の能力」
・管弦楽の近代的な響きや音楽の特徴を感じ取りながら、曲全体を想像豊かに聴く。
6.指導計画(1時間= 50 分扱い)
5.教材と、教材選択の理由
[省略。「7」を参照]
¸教材について
7.本時の展開(第1次、50 分)
1
序奏
2’56”
2
春のきざしと乙女たちの踊り
3’03”
3
誘拐の遊戯(誘惑の遊戯)
1’17”
4
春のロンド
3’05”
5
競い合う部族の遊戯
1’59”
6
賢者の行進
0’42”
7
大地への讃歌
0’24”
8
大地への踊り
1’15”
¸ねらい
・近代の音楽に関心をもち、多様な
音楽表現を味わわせる。
・近代の音楽の響きやリズムの特徴
を感じ取らせる。
¹展開
○学習内容・学習活動
◇教師のかかわり ☆評価
○ A の部分の第1印象をとらえる。
・A の冒頭部分を2回聴き、感じたことを ◇リズム、音、イメージ、その他に分けて。
1
序奏
3’41”
2
乙女たちの神秘的な集い
2’51”
3
選ばれた乙女への讃美
1’35”
4
祖先の霊への呼びかけ
0’43”
5
祖先の儀式
3’19”
6
いけにえの踊り(選ばれた乙女)
4’36”
ワークシートに記入し、発表する。
○ B の部分の第1印象をとらえる。
・B の冒頭部分を2回聴き、感じたことを ◇同じく、要素ごとに分け、板書する。
ワークシートに記入し、発表する。
(ワークシート)
A・Y
○近代の音楽の特徴を知る。
「春のきざしと乙女たちの踊り」
「いけにえの踊り」
・近代音楽のいろいろな特徴があり、中学生にも聴き取りやすい。
・教科書にも採り上げられている。
・録音が多くディスク等を入手しやすい。
今回用いるディスク ハイティンク指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
◇それぞれの冒頭部分について出された意
見をもとに音楽的特徴をまとめ、近代音
楽の特徴につなげる。(説明はなるべく
¹ストラヴィンスキー:バレー音楽『春の祭典』から
37(32)――◆◆ 音楽鑑賞指導の研究と実践
(観察)
☆音楽的な特徴を聴き取っている。
・教師の説明を聞く。
(DVD : PIBC ‐ 1008)
☆意欲的に聴こうとしている。
簡単に済ませる)
○まとめをする。
◇生徒の意見を板書し、まとめる。
・A、B の部分全体を DVD で視聴し、さら ☆近代音楽の響きや、音楽の特徴を感じ取
に、気づいたことをワークシートに記入
り、楽曲全体を聴いている。
する。
・まとめた内容を発表する。
夏ゼミ・レポート(4) ◆◆――
(33)36