組織文化と企業風土から考える

Vol.82
HR
e
for th 2 1 st C
e
特 集
組織文化と企業風土から考える、
組織と個人の新しい関係
●特集1:対談/組織と個人の関係性を考える
∼経営や組織文化の視点から働く環境を俯瞰する∼
一橋大学大学院 商学研究科 准教授 佐々木 将人 氏
東京大学大学院 人文社会系研究科 正木 郁太郎 氏
●特集2:寄稿/組織文化研究の概観と近年の動向
首都大学東京大学院社会科学研究科経営学専攻 教授 高尾 義明 氏
────────────────────────────────────
◆2014年度コンファレンス/報告
「多様化する『働き易さ』と『働き甲斐』∼日本の人事の再生∼」
◆連載:世界の社窓から
「第15回人材マネジメント世界大会報告」
日本人材マネジメント協会
Japan Society for Human Resource Management
nt
ur
w
y
2015.1
Ne
J S HR M
I ns i ght s
J S HR M I ns i ght s
Vol.82 2015.1
CONTENTS
編集部会から 『響』
p1
特 集:組織文化と企業風土から考える、組織と個人の新しい関係
●特集1:対談/組織と個人の関係性を考える
~経営や組織文化の視点から働く環境を俯瞰する~
一橋大学大学院 商学研究科 准教授 佐々木将人 氏
東京大学大学院 人文社会系研究科 正木郁太郎 氏
●特集2:寄稿/組織文化研究の概観と近年の動向
首都大学東京大学院社会科学研究科経営学専攻 教授 高尾 義明 氏
連 載:世界の社窓から = No.8=
第15回人材マネジメント世界大会報告
2014年度コンファレンス/報告
多様化する『働き易さ』と『働き甲斐』 ~日本の人事の再生~
p2
p8
p14
p20
HR Café 聴講者の声&企業見学レポート
<9月 4日
(水)開催> 「激動する雇用社会~人事のあり方を考えよう~」
p30
「社員の可能性を最大限に活かす仕組みとは」
<9月18日
(木)開催> 「先手を打った企業だけが生き残る!社員の幸せを考え抜いた企業文化
<11月7日
(金)開催> の醸成とは」
<10月17日
(金)開催>「
“観察力”を鍛えるとは? ビジネス・日常生活での『空気を読む』 p31
を科学します」
<10月21日
(火)開催>「マイクロソフトが目指すダイバーシティのアイコンカンパニーとは」 p32
企業見学・体験ツアー <2014年11月6日(木)開催>レポート
日本マイクロソフト社が実現した「多様な働き方」を支援する職場環境
自主研だより
NEWS LETTER
・日経 HC(ヒューマンキャピタル)2014大阪大会から
・これからのイベント案内
・2015年度「人材マネジメント講座『基礎講座』」日程のご案内
[表紙カラーのコメント]
2015年明けましておめでとうございます。
21世紀15年目の年として今世紀を振り返り、今後を創生したいものです。
さて、今号の表紙は「赤」に。正月の縁起カラーは赤や緑が多く、飾り物に添えられます。
この時期冬景色のなか、植物では南天や万両の赤い実が生活の中でも象徴的な色彩となります。
元気をもらう赤(レッドカラー)から、今年も出発・稼動しましょう・・・。
p34
p36
編集部会から
冬号の JSHRM インサイトは、『組織文化と企業風土から考える、組
織と個人の新しい関係』という特集を組ませて頂きました。
経営学(組織行動論)において、心理的契約という概念があります。
心理的契約とは、個人と組織との関係において、雇用契約書などのよう
に明文化された内容以外に相互に期待し合う暗黙の了解事項のことを指
します。米国のデニス・ルソー教授らが署名な研究者です。
これまでの日本企業は、終身雇用に象徴されるように大きな外部環境
の変化に見舞われない限り、従業員を解雇せず、従業員も定年年齢までの雇用保障を前提として期待するか
らこそ、長期的に所属組織にコミットし、転勤、配置転換、出向といった企業の人事施策を甘受してきまし
た。しかしながら、90年代以降グローバル化の進展と伴に企業の競争環境が大きく変化し、組織と個人との
関係にもこれまでとは異なる考え方が求められるようになりました。具体的には、リストラや成果主義の導
入といった雇用制度の変更が、従業員にとっての心理的契約不履行を意味するような事例が増加していま
す。背景には組織文化や企業風土といった組織メンバーに共有されている行動様式、価値観や信念といった
ものが存在します。
今回のインサイトでは、特集1において、対談「組織と個人の関係性を考える」と題し、経営組織論や社
会心理学の視点からこれからの個人と組織との関係、そこにおける人事の役割などについて意見交換しまし
た。登壇者は、一橋大学大学院商学研究科准教授の佐々木先生、東京大学大学院人文社会系研究科の正木さ
んです。特集2では、首都大学東京大学院社会科学研究科教授の高尾先生に組織文化や風土が組織・人事マ
ネジメントに与える影響について論文を寄稿して頂きました。
また、2014年度カンファレンスは、「多様化する『働き易さ』と『働き甲斐』」というテーマにて好評のう
ちに閉幕しました。女性の雇用、働き甲斐、キャリアとは? 大企業・中小企業・外資系で多様な働き方に
対する考え方は異なるのか? この20年間で若者・女性・高齢者の働き甲斐や働き易さはどのように変化し
てきたのか? また現在そのようなテーマで議論されているのか?など、トークセッションやワークショッ
プなど当日の模様をご報告いたします。
さらに、連載企画であります「世界の社窓から」は、WFPMA(世界連盟)世界大会がチリにて開催され、
世界各国の戦略的人事担当者による活発な議論を展開した大会の骨子をレポートします。
「HR カフェレポー
ト」
、
「自主研究会だより」と、今号も盛りだくさんの誌面構成となっております。
読者のみなさまにおかれましても今号テーマを通じ、これまでの職業人生における組織との関わりについ
て振り返ると同時に、職業人として個の自立を担保しながら多様に変化(変遷)していく組織といかに向き
合っていくのかについてあらためて考える良い機会となれば幸甚です。
〈今号担当〉
編集部会メンバー
岡田英之 四方康之 土橋隼人 鎌田 学 中田尚子 黒田洋子
吉田貴行 荒川勝彦 山﨑京子
連絡先:日本人材マネジメント協会事務局
〒150-8307 東京都渋谷区渋谷3−1−1
公益財団法人 日本生産性本部内
TEL:03(3409)1162 FAX:03(3409)1007
URL:www.jshrm.org E-mail:[email protected]
編集部会長
岡田 英之
(JSHRM 執行役員
インサイト編集部会担当)
<会員誌インサイト編集にご関心ある方の参加(編集部会メンバー)をお待ちいたします>
1)編集企画・掲載立案に関心ある方
2)取材(候補者)調整、原稿・記事作成、写真撮影にご協力いただける方
3)誌面構成、レイアウト/ページデザインに関心ある方
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
1
≪特集1≫組織と個人の関係性を考える~経営や組織文化の視点から働く環境を俯瞰する~
特 集 1:対 談
「組織と個人の関係性を考える
~経営や組織文化の視点から
働く環境を俯瞰する~」
<ゲスト>
特集1では、企業文化をテーマに取り
上げました。
企業文化とは、私たちが組織と関わっ
ている中で、様々な場面で感じる慣習や
考え方のようなものです。
では、企業文化が企業経営や働く環境
にどのように影響しているのでしょう
か。今回の座談会では、組織論の視点か
ら一橋大学の佐々木先生、社会心理学の
視点から東京大学の正木さんにご登壇頂
き意見交換を致しました。
<聞き手:編集部会 岡田 英之>
一橋大学大学院 商学研究科 准教授
佐々木 将人 氏
(ささき まさと)専門は経営戦略論、経営組織論。
2008年、一橋大学大学院商学研究科博士後期課程単位
取得退学。博士(商学)。武蔵野大学政治経済学部専任
講師、一橋大学大学院商学研究科講師を経て2012年よ
り現職。組織内の分化と統合を研究テーマとして、事
業部や新製品開発組織内の職能間の連携を中心に研究
を行ってきた。主要な著作は、『日本企業のマーケティ
ング力(一橋大学日本企業研究センター研究叢書)』、
2012年、有斐閣。(共著)
東京大学大学院 人文社会系研究科
正木 郁太郎 氏
(まさき いくたろう)博士後期課程(社会心理学)
。
組織を対象とした社会心理学が専門で、複数の企業と
連携して調査研究に取り組んでいる。主として、組織
文化(集団規範)の生成や心理的影響、職場のダイバー
シティに関する研究に従事。
岡田英之(編集部会) 今日は組織文化と企業風土
どういうふうに認識し、作り上げているか、人にど
がテーマということで、専門家のお二人にお越しい
ういう影響があるかということを研究しています。
ただきました。まずは自己紹介をお願いいたします。
例えば組織文化がメンタルヘルスや行動などに与え
佐々木将人氏(一橋大学大学院商学研究科准教授)
る影響、その文化がどのように世代を超えて継承さ
私の専門は経営組織論と経営戦略論の中間領域の
れていって、再生産されるのかというようなことで
ようなところで、大学院時代から組織の分化と統合
す。最近では企業組織の中で調査票調査をするほ
をテーマに、職能間の分化の問題とそれをいかに統
か、企業組織のミニチュアの形として、学生が作っ
合・連携するかについて研究しています。一橋大学
ているサークルや学生寮の調査などもしています。
に就職してからは、ほかの先生と一緒に組織を対象
にした質問票調査を行っていて、企業の市場志向
◆組織の中で複雑化し続ける役割
性、つまり企業がいかに顧客や競合他社に目を向け
岡田 最近、企業で働いている人が組織の中で非常
ているかという意識の強さや戦略についての志向性
に元気がないと感じています。上司と円滑なコミュ
が企業成果にどう結びついているかを分析し、研究
ニケーションが取れず、組織の中で役割、行動が明
しています。
確化されていないことで自分のキャリアが描けず
正木郁太郎氏(東京大学大学院人文社会系研究科)
に、最悪の場合は組織の中で個人が迷走し、心を病
私の専門は組織文化です。社会心理学の用語で言
むという状況に至ってしまいます。
うと、集団規範ということになります。それを人が
そこで組織と個人の望ましい関係を考えてみたい
2
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
≪特集1≫組織と個人の関係性を考える~経営や組織文化の視点から働く環境を俯瞰する~
のですが、まず組織行動論では企業組織と個人の関
係をどのように捉えているのでしょうか。
佐々木 マクロの組織論の観点から考えると、組織
の中の働いている個人はある種、歯車的な要素が非
常に強いと思います。
しかし組織行動論のほうはなるべく個人にフォー
カスしようという視点ですので、モチベーションや
リーダーシップなど個人の行動に注目しています。
本来は、組織行動論が注目を浴びて人材マネジメン
トに注意すればするほど、その種の個人の悩みは解
消するはずです。ところが、問題が取り沙汰される
ほど個人として悩みが深くなる側面があるように思
学術畑からの若きゲストを迎え、対談はスタート
います。
岡田 タスクフォースとか、クロスファンクション
岡田 組織の中で個人がどう行動すべきなのかとい
と呼ばれる形態ですね。
うようなことはずっと研究されてきていて、本来は
佐々木 はい。そういう状況になると、個人に対し
これまでの研究蓄積の中で得た知見で解決できるは
ていろいろなところからの指示命令が来ますし、個
ずですよね。それがなぜ解決できていないのでしょ
人がやるべき職務も重複していきます。ですから、
うか。
何を求められてどこに優先順位を置けばいいのか
正木 社会心理学の観点から言いますと、人間には
を、個人が判断しなければいけないような状況に置
個人としてのパーソナルな自分認識と、グループや
かれているのだと思います。そういった役割の複雑
社会の中での一員としてのソーシャル・アイデン
化という部分が大きいのではないでしょうか。
ティティーと呼ばれる認識があります。この2つは
正 木 そ う で す ね。 ソ ー シ ャ ル・ ア イ デ ン テ ィ
相互に作用していますが、後者のほうが人と企業の
ティーはもともと複数あるものですが、あるときは
関係に強く作用するものです。
ある部署の人、あるときは違う肩書きの人と、役割
社会や組織のメンバーとしてどういう役割を期待
が頻繁に変わるとなると、アイデンティティー・ク
されているか、その役割を果たせているかという、
ライシスに近い状況になります。
メンバーシップに対する意識のようなものですが、
帰国子女の方が「自分がアメリカ人なのか日本人
このソーシャル・アイデンティティー、個人が企業
なのか分からない」といった状態になることがあり
側から何を求められているかというのが分かりにく
ますが、それと同じように複数の役割を持つことが
くなってきているからではないかと考えています。
自分の安定感、自尊心に多大な影響を与え、自我が
揺らぐということはあると思います。
◆ソーシャル・アイデンティティーの危機
求められる役割が変わるのであれば、それに合わ
岡田 組織のメンバーとして自分が考えている役割
せて制度を変えていかなければミドルマネジメント
と、組織、企業が求めている役割にギャップが生じ
以下の現場の人たちの悩みは深くなります。人事が
ることがあるということですね。
どういうふうに制度設計するかで、末端の人々も含
佐々木 ええ。それから、求められる役割自体が多
めて働き方がずいぶん変わってくるのではないで
様化している部分もあると思います。昔の職能制組
しょうか。
織では比較的、縦のシンプルな指揮命令系統でした
が、近年ではいろいろな製品に関わったり、部門横
◆環境に応じて組織を変える
断的な組織に属したりすることが増えています。
岡田 そういった多様化ゆえの揺らぎが生じてしま
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
3
≪特集1≫組織と個人の関係性を考える~経営や組織文化の視点から働く環境を俯瞰する~
うということは、集団規範というものが存在した方
織成果は高まるという議論に向かっているのです。
が良いということでしょうか。
つまり、組織設計に関しては、もともと多様性を
正木 集団規範がある状態というのは、企業の中で
許容するような想定であったものが、近年ではむし
言うと、職場でどういう行動、価値観を求められる
ろ凝集性というか意見の一致を求めるものに変わっ
か、ある種の期待感に関する認識がグループ単位で
てきているというところです。
共有されている状態ということです。
また、それまでの議論では「何か絶対的な望まし
そういったある程度のまとまりがあるというの
い姿があるはずだ」ということから、「環境の変化
は、いわゆる強い組織文化というようなものと同じ
に適応して組織を変えろ」という話になってきまし
ような意味合いで、優れていると言われることもあ
た。
ります。一方で、そこに適合できない人は、はじか
れていってしまいます。
◆事業部組織は現代的か
社会心理学の古典的な理論では、心理的な結びつ
岡田 今の時代は一つのビジネスモデルが陳腐化す
き、コミュニケーション頻度の高さでまとまりがよ
るのが早いですし、組織を固定的に考えるのではな
くなるので、グループは凝集的であったほうがいい
く、外部環境の変化をできるだけ早く捉えて、ある
と言われていました。
種、機動的にフォーメーションを変えていくほうが
一方、昨今のダイバーシティに関する研究におい
望ましいという考えですね。
ては、むしろ多様な人たちが集まったほうがアイデ
昔、デュポン社が初めて事業部制組織を導入し
アやイノベーションが生まれ、またグループとして
て、製品やビジネスユニットごとに組織を作り、統
極端な意思決定はしづらくなるので、環境に適応す
廃合なども行いやすいように機能的にしたという話
るためにはそのほうがいいという説もあります。ど
があったと思いますが、現代にも事業部組織という
ちらがいいかは決着が着いていないところです。
のは適合するのでしょうか。
佐々木 1960年代に、有効な組織体制がどう決まる
佐々木 結果としてうまくいっていないところは多
かというコンティンジェンシー理論というものが出
数ありますので、事業部制を取れば有効だという話
てきました。この研究では、組織の中の人々がそれ
ではないと思います。
ぞれに専門性、違った視野を持っていても、うまく
私たちはいろいろな事業部、正確にはビジネスユ
統合すれば成果が高まるはずだと指摘されています。
ニットという単位を対象に質問票調査で調査してい
しかし、そのあとの議論の推移を見ていくと、メ
ますが、巨大な事業部ででは、従業員が5000人を超
ンバーの中でコンセンサスを持っているほうが、組
えるところがあります。その5000人を1人のビジネ
スユニット長で見ることはできませんし、その人た
ちが凝集性を持って動くことができる規模ではあり
ません。
事業部というコンセプトの問題というより、中身
を動かす部分で問題を抱えているということだと思
います。
岡田 事業部や組織の単位が大きくなってくると、
その中でマネジメントをする人がどういう動き方を
するかが大きな影響を与えてきますね。そういった
マネジメントクラスの人は、今、どんなことを悩ん
でいるのでしょうか。
組織論、多々あるが、変化に対応しての組織へ…
4
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
≪特集1≫組織と個人の関係性を考える~経営や組織文化の視点から働く環境を俯瞰する~
◆組織を軽くするにはタスク指向のリーダーを
佐々木 私たちは「組織の重さ」というコンセプト
で調査をしているのですが、ミドルマネジメント以
下の人が創発的な戦略を生み出すのに苦労している
ということが話題になります。
原因の一つとして、みんなが過剰に和を求めすぎ
るのではないかということを考えています。組織と
してとても内向きでまとまっているように見えても、
実際には利害関係できゅうきゅうとしていたり、
トップも含めて経営リテラシーが不足していたりす
るのではないでしょうか。そういった状態、動きが
鈍い、重いという意味での「組織の重さ」というこ
とで、事業部長をはじめ、部長や課長、係長、主任
組織運営にもその状況に対応する
リーダーシップが問われる…
級といった多様な階層の方に調査しているのです。
に働くと思います。
重い組織は業績もとても悪いのです。例えばある
ただ、そういう人は過剰に和を求める傾向などを
製品をつくったり、事業から撤退したりするのに組
解消するために、個々人の意思決定に委ねる自由裁
織内でさまざまな調整をしますが、その調整にもの
量を増やして、過剰に和を破壊してしまう可能性も
すごい時間がかかっているという傾向が見られてい
あります。するとソーシャル・アイデンティティー、
て、それが近年の日本企業の創発戦略みたいなもの
メンバー意識のようなものがゼロになってしまい、
を阻害しているのです。
問題です。どちらに転ぶか分からないのでうまくマ
岡田 では、今重くなってしまっている組織を軽く
ネジメントするのが難しいところでもあります。
するにはどうしたらいいのでしょうか。
佐々木 一つ、重要なのはリーダーシップです。
◆業績連動報酬でリーダーシップを引き出す
リーダーの人間関係の志向性とタスク志向性が組織
岡田 重い組織を軽くするキーパーソンであるリー
を軽くするという方向に強く作用しています。特に
ダーに求められるものは研究結果から導き出されて
タスク志向性が非常に強く作用していて、リーダー
いるわけですが、それを持ったリーダーは存在する
がどういうメッセージを発するかというのが大きな
のでしょうか。いない場合は、どのように育てたら
ポイントになっているようです。
良いのでしょうか。
また、リーダーが計画やロードマップをどの程度
佐々木 優れたリーダーはいますが、かなり分散し
参照しながら事業を進めているかということも重要
ていますね。リーダーがリーダーシップを発揮でき
です。ビジネスユニットや全社の戦略計画を参照し
るかどうかということについては、本社の側の人事
ていればしているほど、組織は軽くなっていきます。
施策が関係しています。これまで見た結果ですと、
岡田 そういうリーダーがこれから増えてくれば、
本社がビジネスユニット長の報酬を業績連動で決め
ソーシャル・アイデンティティー・クライシスな状
るという施策がタスク志向性の高まりにプラスに働
況が解消されると考えて良いでしょうか。
いていました。
正木 うまく職場の人間関係をマネジメントして、
興味深いのは、こうした施策が、人間関係志向に
「職場全体でこういうものに向かっていくのだ」と
はほとんど無関係だということです。実際、能力の
いう状況にうまくまとめられるタイプのリーダーが
あるビジネスユニット長を見ていても、タスク志向
いれば、その職場に一体感が生まれ、自分がどんな
性が非常に強いが、人間関係志向がものすごく低い
役割を求められているかが見えるので、ポジティブ
というリーダーは結構います。
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
5
≪特集1≫組織と個人の関係性を考える~経営や組織文化の視点から働く環境を俯瞰する~
こうした組織でもそれほど事業の成果は悪くな
佐々木 そういう人がいるとコミュニケーションが
かったり、組織も重くなかったりするので、常にど
増えて適応の度合いが高まるというのは、そのとお
ちらの志向性も高くなければいけないというわけで
りだと思います。オーガニゼーショナル・シチズン
はないようです。
シップ・ビヘイビアーという研究があって、そう
岡田 優れたリーダーはタスク管理をビジネスとし
いった役割外の行動が組織を支えているという意見
てコントロールできる能力を持っている人で、それ
もあります。
に対して本社の人事制度で適正に評価し、適切な報
ただ、それが常に必ずしもプラスに働くとは限り
酬を与えることができれば重い組織は軽くなってく
ません。それをやることでほかの人の仕事を代替し
るということですね。
てしまって、その人たちの成長を阻害するという側
タスク志向の方が先に立っていないと過剰な和と
面もありますので、注意が必要だと思います。
いうような話になってしまって、ビジネスとしての
成功、成長は望めないのですね。
◆重い組織で生き生きと働けるか
岡田 では、メンバーレベルでは重い組織、ギスギ
◆職場の人間関係に効く「暇なおじさん」
スした職場でどうしたら生き生き働けるのでしょう
正木 私も佐々木先生がおっしゃったことと同意見
か。
です。
正木 マネジメント側の人からは怒られるかもしれ
一つ、興味深い事例がありました。私があるプロ
ませんが、あえて組織から距離を置くというのも一
ジェクトに関わらせていただいたときに聞いたので
つの方法です。人間の自己がパーソナルとソーシャ
すが、昔、ある程度会社に余裕があったときには、
ル、2つのアイデンティティーで成り立っていると
絶対に職場に1人、暇なおじさんがいたというので
すると、パーソナルのほうを強めるということです。
す。その人は周りの人の世話を焼くのが好きで、人
会社の中ではとりあえず言われたことだけをやっ
間関係面のケアをしていました。
て、「怒られたとしても趣味で発散すればいいや」
職場に新しく配属されてきた人が、仮に仕事上の
という形で、会社に自分の生きがいみたいなものを
問題や悩みを抱えていたとしても、それをフォロー
求めない。過剰なコミットメントの状態から距離を
する「暇なおじさん」がいたために、そのときの上
置いてしまうという、自分を守るための手段です
司がタスク志向で人間関係に目を向けなかったとし
ね。メンバー1人の幸福だけを考えてみるとそうい
ても、問題が起きなかったのではないでしょうか。
うことだと思います。
例えば新しく職場に来た人は、その場で誰がどうい
岡田 日本の職場の多くでそのような働き方が蔓延
う情報を持っているかが分からず、聞くことができ
したらどうなるのでしょうか。
ないので悩みます。そういうときに暇なおじさんが
佐々木 アメリカですと、人を替えても機能するよ
「何を悩んでいるんだ」と声をかけてくれるだけで、
うな組織になっていることが多いのでそれほど問題
一気に適応の度合いが高まります。ある意味、リー
にならないかもしれません。この人に何をやっても
ダーが2人いた状況になっていたと考えているので
らいたいというのが明確なので、仕事さえしてもら
す。
えば組織としてうまく回る可能性は、日本企業に比
今は企業に余裕がなく、そういうことに手が回る
べて高いと思います。
人がいないので、リーダーが2人という分業体制が
岡田 ジョブをベースに組織が構成されていて、そ
回らなくなってきたのではないかと思っています。
のジョブに人をアサインするという発想ですね。
岡田 戦略的にそういった「暇なおじさん」的なも
佐々木 そうであれば、アサインされた人もここま
のを人的資源戦略に組み込むことはできないでしょ
では自分がやり、ここからは自分の自由な時間にす
うか。
るという設計がしやすくなります。同じことを日本
6
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
≪特集1≫組織と個人の関係性を考える~経営や組織文化の視点から働く環境を俯瞰する~
企業がしたら、ジョブをベースに組織が設計されて
立場にありますし、ほかの会社組織についても勉強
いないので大変だと思います。
されていると思います。
岡田 会社としては業績を伸ばしたい。そのために
人事が外部から新しいものをうまく取り込むため
は多少ストレッチしなければいけないから、高い目
の接点になれたら素晴らしいのではないかと思います。
標を設定して頑張らなければいけないという組織の
フェーズである。でもみんなが「私は絶対5時に帰
◆文化の定着はコミュニケーションありき
ります」ということになると、成長しないというこ
正木 職場や組織単位で考えていると混乱してしま
とですか。
いますので、管理職の人が先入観を持たずに一人ひ
佐々木 そもそも、そういう組織は成長していない
とりの部下や社員と向き合って、冷静に、論理的に
組織ですよね。成長している事業に身を投じている
問題を解きほぐしていくということが必要だと思い
と、多くの場合はモチベーションが上がりやすいと
ます。
思います。個人のモチベーションが全然上がらず、
そして「人事考課に利用しよう」というような意
距離を置きたいぐらい嫌な職場は、単純に人間関係
図ではないということをメッセージとして発信する
上の問題だけではなくて事業自体がうまくいってい
ことも必要です。人間はどうしても深読みしてしま
ないことが多々あります。
う生き物ですから、そういった壁を排除した上でコ
その種の組織でみんなが距離を置いたら、そこか
ミュニケーションを取ることが必要だと思います。
らうまく改善して成長するというのは現実的ではな
今年5月ごろに出たダイバーシティ関係の調査を
いですよね。もし従業員のそうした働き方を前提に
見ると、「私たちの会社はこんな文化だ」という認
考えるのであれば、事業としては拡大志向ではな
識に影響を与えていたのは、制度ではなく「上司が
く、まずは現状の維持を目標におくことが必要なの
どういうタイプの人か」というような主観的な認識
ではないでしょうか。
でした。
コミュニケーションに由来する部分が文化を規定
◆人事の客観的な視点で組織を変える
するのに強い影響を与えているのです。
岡田 では、最後に「活気がない我が社の職場を何
ですから、制度をつくるだけではなく、それをコ
とかしたい」と考えている人事担当の方に、一言い
ミュニケーションの中でいかに徹底させていくかと
ただけますか。
いうことだと思います。そこまで踏みこまなけれ
佐々木 組織で上の話がどれだけ下に伝わっている
ば、いい制度を作っても文化とマッチしなかったと
かというのを一度しっかり確認したほうがいいと思
いうことになります。制度だけで満足しないように
います。
していただければ、社会はもう少し良くなると思っ
実際に調査に行っていると、ビジネスユニット長
ています。
の「自分は今これに向かってやっている」という意
思が、下には全然伝わっていないということがあり
ます。リーダーシップを発揮していると思っていて
も、階層が下がるにつれて伝わらなくなっているの
です。そのギャップをきちんとコミュニケーション
取って埋めてもらうということが、人事が一番にで
きることだと思います。
また、働いている人々が、自分たちが埋め込まれ
ている組織の文化を自覚するのは難しいものです。
人事担当者はある程度企業の中を客観的に見られる
対談を終えて、お互いの意見交流の場になりました
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
7
≪特集2≫組織文化研究の概観と近年の動向
特 集 2:寄 稿
「組織文化研究の概観と近年の動向」
組織と何らかの形で関わる私たちにとって、自らが所属する組織における可視化、明文化できない暗黙のルー
ルというものは必ず存在します。そのことが組織内における私たちの日常行動を既定する場面に多く遭遇すると
思います。経営学ではこうした現象を組織文化のフレームで捉え、その実態を解明していきます。
組織文化は、企業組織で働く人たち、と
首都大学東京 大学院社会科学研究科経営学専攻
教授
高尾 義明 氏
りわけ組織や人事に関係する業務にかか
わる人たちにとって馴染みがある言葉で
(たかお よしあき) 1991年京都
大 学 教 育 学 部 教 育 社 会 学 科 卒 業。
(株)神戸製鋼所勤務を経て、京都大
学大学院経済学研究科博士後期課程
修了。博士(経済学)。九州国際大学
専任講師、流通科学大学助教授等を
経て、2009年より現職。専門は経
営組織論・組織行動論。主著は、「経
営理念の浸透」(王英燕との共著、有
斐閣、2012年)、
「組織と自発性」(白
桃書房、2005年)。
ある。たとえば、トヨタやリクルートの強
さの源泉の一つとして、それらの会社に独
特の文化が挙げられることは少なくない。
逆に、M&Aが想定したようにうまくいか
なかった原因として、組織文化の違いが取
りざたされることもある。以上の例からも
わかるように、組織文化はさまざまな組織
現象と関連づけられる、ややとらえどころ
組織文化が注目されたきっかけ、定義や機
がない概念でもある。
能を確認するところから始める。その上
しかし、組織文化は組織・人事マネジメ
で、組織文化を把握する手がかりとして組
ントにおいて避けて通れないものである。
織文化の類型研究を紹介する。さらに、組
組織文化の直観的な理解だけにとどまら
織文化をめぐる近年の研究の動向として、
ず、学術的な組織文化研究によってもたら
組織文化と学習の関係、さらにアイデン
された知見も参照することで、組織文化へ
ティティと組織文化の関係を取り上げる。
のより効果的なアプローチが可能になる
最後に、組織・人事マネジメントの重要な
と考えられる。
課題である、組織文化の変革について検討
そこで、本論は組織文化論をひもとき、
する。
1.組織文化への注目のはじまり
クセレント・カンパニー』の大ヒットであった。
経営学には100年以上の歴史があるが、組織文化
彼らは、米国の超優良企業の特徴を図表1のよう
が本格的に注目されるようになったのはさほど古く
に整理した。これらの特徴のなかに組織構造や経営
ない。組織文化が注目され、盛んに研究の対象とさ
戦略に関するものも含まれているが、それらの核と
れるようになったのは、1980年代初頭である。具体
位置づけられていたのが価値観に基づく実践であっ
的なきっかけの一つは、当時マッキンゼーのコンサ
た。すなわち、エクセレント・カンパニーでは、基
ルタントだったピーターズ&ウォーターマンの『エ
本的な価値観が組織の末端まで共有され、それが
8
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
≪特集2≫組織文化研究の概観と近年の動向
図表1 エクセレント・カンパニーにみられる
8つの特徴
図表1 エクセレント・カンパニーにみられる8つの特徴
ような行動様式や、標榜されている価値
(1)行動の重視
(2)顧客に密着する
(3)自主性と企業家精神
(4)ひとを通じての生産性向上
(5)価値観に基づく実践
(6)基軸から離れない
(7)単純な組織・小さな本社
(8)厳しさと緩やかさの両面を同時に持つ
観・哲学のみならず、組織メンバーが当然
出所:ピーターズ&ウォーターマン(2003)をもと
に筆者作成
整理されるようになった。ミッション、戦
視して、意識下に潜んでいる信念や認識と
いった基本的仮定が含まれている。このよ
うに目に見えない部分が大きいことから、
組織文化は氷山に喩えられることもある。
一方、組織文化が果たしている機能は、
組織の外的適応と内的統合という観点から
略や目標を共有することは、変化する外部
人々の行動や意思決定の基準となっていることが高
環境に対する組織側の姿勢を明確化することにつな
い業績のカギであると主張されていた。
がる。さらに、目標達成のための方法や取り組み姿
『エクセレント・カンパニー』や、同じ頃に出版
勢の測定・評価、うまくいかない場合の修正メカニ
されたディール&ケネディの『コーポレート・カル
ズムなどについてのコンセンサスが高まることは、
チャー』
(邦題:『シンボリック・マネジャー』)が
迅速な環境適応に向けた判断や行動につながる。
ヒットし、組織文化が注目を浴びるようになった背
同時に、組織文化によって共通言語を確立される
景の一つとして、1970-80年代の米国企業の業績低
ことで組織メンバー間のコミュニケーションが容易
下と、日本企業の躍進が挙げられている。日本企業
になる。また、組織メンバーの関係性や範囲などに
と米国企業の業績の違いを組織構造、管理システム
ついてのコンセンサスが高まり、組織メンバー間の
や戦略といったハードな側面から十分に説明できな
結束力が高まる。
かったことが、文化というソフトな側面への注目の
組織文化は、組織が外部への適応や内部の統合に
きっかけになった。
ついてのさまざまな問題を対処するなかで学習され
た結果として構築される。したがって、組織が直面
2.組織文化の定義と機能
する問題がこれまで経験したものと大きく異ならな
『エクセレント・カンパニー』や『コーポレート・
ければ、組織文化が業績に望ましい影響を与えると
カルチャー』は、組織文化ブームを引き起こしたが、
考えられる。そうした条件が崩れ、非連続的な変化
それらでは組織文化の定義が曖昧であったり、共有
への対処が迫られている場合には、組織文化がむし
された価値観によって高い業績がもたらされる理論
ろ適応や統合の足かせとなってしまうことも生じる
的根拠が必ずしも明確に説明されていなかったりし
だろう。
た。
その後、組織文化研究が進展するにつれて、組織
3.組織文化の類型
文化の定義が試みられるとともに、組織文化が果た
組織文化は目にみえるものではないことから、そ
している機能の整理もなされてきた。
れをどのように把握するのかという問題が検討され
組織文化についての統一的な定義は存在しないも
てきた。そうした研究のなかでも、組織文化の類型
のの、ある程度コンセンサスが得られている内容を
に関する研究は、実務的なニーズとも適合しやすい
筆者なりにまとめると次のようなものになる。すな
ものである。ここでは最も有名で、学術的な基礎づ
わち、組織文化とは、組織メンバーに共有されてい
けもなされているキャメロン&クインの競合価値フ
るとみなされる行動様式、価値観や信念、基本的仮
レームワークを紹介する。
定の複合体である。
彼らが示したのは、図表2のような分類である。
そこには、目に見えたり、聞き取ることができる
組織文化を類型化する第1の次元として、組織内部
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
9
≪特集2≫組織文化研究の概観と近年の動向
への注目-組織外部への注目を挙げている。左側の
れる。
「組織内部への注目」は、組織内部での円滑な活動
組織内部に注目するもう一つの類型である「ハイ
や統合を重視するのに対して、右側の「組織外部へ
アラーキー」文化は、安定性や予測可能性が重要視
の注目」では組織外部に焦点が当てられ、競争や環
され、規則や手続き、効率性が組織を動かす中心原
境に適合するための分化が強調される。第2の次元
理とされる。そこでのリーダーは調整機能を果た
では、柔軟性/裁量と安定性/コントロールが対置
す、いわゆる管理者であり、信頼性の高い製品や
され、それら二つの次元を組み合わせた4つの類型
サービスの提供、円滑な調整、低コストの生産が組
が示されている。
織の成功とみなされる。
左上に位置する「クラン」文化では、企業は大き
安定性やコントロールを重視しつつ外部に注目す
な家族のようなものとみなされ、従業員は家族の一
る「マーケット」文化では、競争のための目標達成
員とみなされる。そこでは、従業員の参加やチーム
が重要視され、規則ではなく取引を通じて秩序が形
ワーク、コミットメント、価値観の共有が重視され
成されると考える。そこでは、過程ではなく結果が
る。従業員への人材開発、パートナーとしての顧客
重視され、競争優位性をもつ製品・価格の提供、高
への敏感な反応が組織の成功とみなされ、リーダー
い市場シェアの確保が成功と定義される。リーダー
にはファシリテーターやメンター的な役割が期待さ
は現実主義的で達成志向が強く、競争を好む。
図表2
競合価値フレームワークに
図表2
競合価値フレームワークによる組織文化の類型
よる組織文化の類型
組織内部
への注目/
統合
に応じて柔軟に変更される。そこではイノ
ベーション、創造性や成長が重視され、ユ
アドホクラシー
組織外部
への注目/
分化
ハイアラーキー
マーケット
ニークかつ新しい商品やサービスを生み出
すことが成功を意味する。そのため、革新
的で、リスクを進んでとる企業家的リー
ダーシップが期待される。
以上の4つは理念型(モデル)であって、
安定性/コントロール
出所:キャメロン&クイン(2009)などを参考に筆者作成
出所:キャメロン&クイン (2009) などを参考に筆者作成
図表3図表3 組織文化診断図
組織文化診断図
実際に存在する組織の文化を見れば、そこ
に一つの次元のものしか含まれていないと
いうわけではない。クイン&キャメロン
も、上記の4つの類型を用いた組織文化の
診断を提唱している。
柔軟性/裁量
「クラン」文化
は、直面する課題に応じて役割や規則が、
アドホック(ad hoc)に、すなわちその場
柔軟性/裁量
クラン
最後の類型である「アドホクラシー」で
図表3は、1000社以上の企業の診断結果
「アドホクラシー」
文化
の平均を示している。一般的に、組織のラ
イフサイクルが長くなるにつれ、下部にあ
組織内部への
注目/統合
組織外部への
注目/分化
る「ハイアラーキー」文化と「マーケット」
文化の傾向が強くなりがちであり、上部の
「クラン」文化、「アドホクラシー」文化を
重視することが難しくなる。また、
「アド
「ハイアラー
キー」文化
「マーケット」
文化
安定性/コントロール
出所:キャメロン&クイン (2009) p.96 を改訂
出所:キャメロン&クイン(2009) p.96を改訂
10
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
ホクラシー」文化のスコアが最も低いこと
が一般的である。
組織文化を診断する方法はさまざまなも
≪特集2≫組織文化研究の概観と近年の動向
のがあるが、ここで紹介したような類型を用いるこ
とは、現状の組織文化の把握とともに、それを踏ま
えて望ましい組織文化像を明確化する有効な方法の
学習がなされたといえる。
図表4 個人学習と組織学習の関係
図表4 個人学習と組織学習の関係
一つといえるだろう。
4.学習する組織文化
競合価値フレームワークで示された4つの類型
は、そのいずれが最も優れているとは単純にいえな
いものだが、近年の組織文化と業績をめぐる研究で
は、
「アドホクラシー」文化と成果との正の関係が
しばしば見いだされている(詳しくは北居(2014)
第4章を参照)
。そうした関係が見いだされるのは、
近年の経営環境が以前よりも流動性を増しており、
出所:安藤 (2004) p.201
出所:安藤(2004) p.201
組織外部への柔軟な適応が組織の存続・成長にとっ
学習する組織文化は、こうした組織学習を促進す
てより重要になっているためであろう。
る文化である。シャインは、学習する組織文化の追
そうした傾向もあり、組織文化論において近年注
求に求められる前提やコミットメントを多く列挙し
目を集めているのは、学習する組織文化である。た
ている。たとえば、学習する文化は、その DNA に
とえば、組織文化の大家であるシャインは主著『組
「学習する遺伝子」を備えなければならないとして、
織文化とリーダーシップ』の改訂を続けるなかで、
学習が投資対象としてすぐれたものであり、「学習
「学習する文化と学習するリーダー」という章を新
することを学ぶこと」、それ自体が修得すべきスキ
たに加えている。また、日本における組織文化研究
ルであることが、組織メンバーの共有された前提に
の第一人者の一人である北居明による『学習を促す
なっている必要があると主張している。同時に、職
組織文化』も2014年に出版されている。
務についてのオープンなコミュニケーション、ダイ
このように注目度が高まっている学習する組織文
バーシティ、システム思考などへのコミットメント
化を詳しく取り上げる前に、組織における学習につ
も、学習するリーダーに求めている。
いて少し補足しておいた方がよいだろう。
一方、北居はある自動車ディーラーを対象に、マ
組織学習が脚光を浴びるようになったのは90年前
ルチレベル分析によって店舗ごとの文化の違いを踏
後からである。経営環境の流動化とともに知識経済
まえながら、学習を促す組織文化がもたらす影響に
化の進行によって、組織が知識やスキルを獲得し、
ついて分析している。その結果、学習を促す文化が
その行動を絶えず変革していく重要性が高まったた
組織メンバーの組織への愛着心(情緒的コミットメ
めである。
ント)を高め、それを媒介して情報収集行動などを
学習という言葉は、一般的には個人に対して用い
引き起こすという興味深い関係を示している。
られ、個人が何らかの経験を通じて行動能力を変化
このように、日本の組織において、学習する組織
させることを指す。それを組織に適用したのが組織
文化が知識の探索といった行動を促進するだけでは
学習であり、組織体としての行動能力の変化を意味
なく、組織メンバーの組織に対する情緒的な側面に
する。
も影響を及ぼすとすれば、学習する組織文化はより
組織学習の進展には、組織メンバー個々人の学習
大きなインパクトをもちうるだろう。
が不可欠である。しかし、図表4のように組織メン
バーが獲得した知識やスキルが組織内で伝達、解釈
5.組織文化と組織アイデンティティ、経営理念
され、組織内で記憶されてはじめて組織体としての
昨今の流動的な経営環境下では、変化に適応する
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
11
≪特集2≫組織文化研究の概観と近年の動向
だけではなく、変化を自ら生み出すことのできる組
「我々がどのような存在であるのか」、「我々はどの
織のほうが、成長や存続の可能性が高くなる。した
ようなビジネスを行っているのか」、「我々が何にな
がって、学習する組織文化の定着がきわめて重要な
りたいのか」という問いに対して、その答え方を変
経営課題となるが、組織が急速に変化し続けること
化させることもできる。一方、組織文化は自然発生
によって、会社や組織としてのアイデンティティが
的であるがゆえに、操作することが困難である。
ぼやけてしまい、その結果として組織の求心力の維
両者の関係は、図表5のように相互影響的であ
持が難しくなることもある。
る。組織アイデンティティは、組織文化についての
近年、組織アイデンティティをめぐる研究が盛ん
理解を表出したものといえる。逆に、表出されたア
になされるようになっているのは、これまで以上に
イデンティティは、組織メンバーの内省を通じて組
大きな変化が組織に求められるようになったことが
織文化に埋め込まれていく。
関係している。ここでいう組織アイデンティティと
先に言及したように組織アイデンティティの一つ
は、
「我々はどのような存在であるか?」という問
として経営理念を取り上げることから、図表5の関
いに対する自己認識である。たとえば、後ほど言及
係性を経営理念の浸透に適用することもできる。
する経営理念は、そうした組織アイデンティティの
経営理念が組織で浸透するには、経営理念自体が
一つといえる(詳しくは、高尾・王(2012)を参照)。
組織文化の理解を表現したものでなければならな
組織アイデンティティと組織文化は密接に関連し
い。いいかえれば、組織文化に含まれる価値観や信
ており、区別しがたいようにも思われるが、両者の
念を反映したものでなければ、経営理念は単なるお
違いやそれらの関係についてすでに検討がされてい
題目と化してしまい、組織メンバーに浸透しないだ
る。組織文化は暗黙的な部分が多くを占めるが、
ろう。一方、経営理念の浸透活動を通じて組織メン
「我々はどのような存在であるか?」という問いか
バーが自らの組織やその事業の意義について内省し
けに対して、たとえば「我々はイノベーターである」
ていくことを通じて、組織文化として根付いていく
と答えることができるように、組織アイデンティ
ことが期待できる。
ティは明示的に表出されるものである。
グローバル化の進展、多様性の進展とともに、経
もちろん個々の組織は複雑かつ多元的であり、一
営理念が改めて注目されるとともに、経営理念の浸
つの表現でもってそのアイデンティティをすべて言
透やその文言の変更がなされているが、その際には
い表すことができない。だからこそ、状況に応じて
組織文化との整合性を十分に踏まえることが求めら
図表5 組織アイデンティティと組織文化
れるだろう。
図表5 組織アイデンティティと組織文化の関係
の関係
アイデンティティは
文化の理解を表現する
6.組織文化の変革と人事マネジメント
最後に、組織文化の変革について、特に人事部門
が果たすべき役割に注目しながら取り上げていくこ
とにする。
組織文化
組織アイデン
ティティ
多くの組織では、学習する文化の定着や「アドホ
クラシー」文化への変革が重要な課題となってお
り、そうした変革を促進するチェンジ・エージェン
トとしての役割が人事部門に求められる。いうまで
「私たちが何者か」と内省する
ことでアイデンティティが文化に
埋め込まれる
出所:佐藤(2013) p.10をもとに筆者作成
12
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
もなく、組織文化の変革はきわめて難しい課題であ
るが、だからこそ変革プロセスに関する知見を参照
することで、変革の促進に効果的な施策を検討でき
るようになると思われる。
≪特集2≫組織文化研究の概観と近年の動向
組織文化変革のプロセスモデルも、多くの組織変
求められる。そうした活動を統括し、一筋縄ではい
革のモデルに見られる、解凍-移行-再凍結という
かない組織文化の変革を推進するには、人事部門の
3段階モデルを踏襲している。すなわち、正当化さ
リーダーの組織文化についての深い理解が重要なカ
れている現状の信念や行動パターンを否認し、生き
ギになるだろう。
残りの不安を醸成するところから始まる(解凍)。
次に、ロールモデルの模倣や試行錯誤による学習を
通じて新たな信念や価値観を学習し(移行)、自己
引用文献
のアイデンティティへの統合などによって新しい考
え方や基準の内面化を図り、学習したものの定着を
図る(再凍結)
。
組織文化の変革においてとりわけ重要なのが、新
・トム・ピーターズ/
ロバート・ウォーターマン
『エクセレント・カンパニー』英治
出版、2003年。
たに学習することの不安感への対処である。なぜな
・テレンス・ディール/
らば、それを放置することが変革への抵抗を招いて
アラン・ケネディー
しまうためである。
学習することへの不安への対処のために、心理的
『シンボリック・マネジャー』新潮
社、1983年。
安心感を醸成することが不可欠であるが、シャイン
・キム・S. キャメロン/
は心理的安心感を生み出すために同時並行的に進め
ロバート・E. クイン
ることが求められる8つの活動(図表6)を挙げて
いる。
『組織文化を変える―「競合価値観
フレームワーク」技法』ファースト
図表6:心理的安心感を生み出すための活動
図表6 心理的安心感を生み出すための活動
(1)説得力のあるポジティブなビジョン
(2)公式的トレーニング
(3)学習者の参加
(4)関連するグループやチームでの非公式的トレーニング
(5)実践の場、コーチング、フィードバック
(6)ポジティブなロールモデル
(7)学習に伴う問題をガス抜きし、議論できる支援グループ
(8)新しい思考や仕事の進め方と一貫した賞罰システムと
組織構造
プレス、2009年。
・エドガー・H. シャイン
『組織文化とリーダーシップ』白桃
書房、2012年。
・北居明
『学習を促す組織文化―マルチレベ
ル・アプローチによる実証分析』有
斐閣、2014年。
・安藤史江
「組織とラーニング」(二村敏子編
『現代ミクロ組織論』有斐閣、2004
年に所収)。
出所:シャイン(2012)第17章をもとに筆者作成
・高尾義明・王英燕
『経営理念の浸透―アイデンティ
以上のような活動を同時的に展開していくために
ティ・プロセスからの実証分析』有
は経営者の強いコミットメントが不可欠であるが、
斐閣、2012年。
経営者のもとで具体的な施策を立案・実行するの
は、チェンジ・エージェントたる人事部門である。
・佐藤秀典
「組織アイデンティティ」(組織学会
トレーニングのみならず、評価システムや人材配置
編『組織論レビューⅡ』白桃書房、
の変更等を通じて、組織文化の変革に求められる心
2013年に所収)。
理的安心の醸成に向けた活動を主導していくことが
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
13
≪連載≫世界の社窓から= No.8=
連 載:世界の社窓から =No.8=
第15回人材マネジメント世界大会報告
これまで、
「世界の社窓から」No.5、No.6、No.7
した気分になれます。(ただし、スペイン語でのプ
の各回で我々日本人材マネジメント協会(JSHRM)
レゼンテーションや、ビデオ再生に問題が発生する
が所属するグローバル組織について紹介をしてきま
ケースもあるので予めご了承下さい)
した。再掲となりますが、JSHRM はアジアパシ
世界の社窓 No.8では、これら豊富な情報のごく
フィック人材マネジメント連盟(APFHRM:15カ
一部を紹介しながら、皆様を世界大会にガイドして
国のメンバー)の一員であり、この APFHRM は世
参ります。
界5地域から構成される人事マネジメント世界連盟
http://www.lapersona.cl/ingles/index.html
(WFPMA:90カ国、60万人のメンバー)の一員で
す。インサイト前号で特集した米国最大の人事プロ
フェッショナル団体として有名な SHRM は、北ア
<世界大会のビジョン>
メリカ地域のメンバーになります。このように、
2014年は「人への原点回帰」がテーマです。これ
WFPMA の傘下には世界中の人事団体が所属して
までの経済発展の中心には本来は人がいたはずなの
いることになります。その WFPMA が2年ごとに
に、経済や管理の指標が進むにつれ、人間らしさ、
開催する世界大会は、グローバル規模での HR プロ
人のぬくもりが薄れてしまいました。そこで、世界
フェッショナリティの開発とネットワークの構築を
中の HR プロフェッショナルが集うこの会議では人
目的に、1986年からこれまでに12カ国で行われてき
間回帰について、16人以上の講師による講演、11の
ました。そして今年は、10月15日から3日間に渡り
ワークショップを通して議論を深め再考します。
チリのサンティアゴで第15回世界大会が実施されま
した。
<講師、講演内容>
この世界大会の模様は、右上記ホームページから
●Building Identity
詳細情報の入手や当日の講演ビデオも再生できます
Lucio Margulis 体験学習研究者、
ので是非一度訪問して下さい。オープニングやディ
Robert Rasmussen LEGO 社創始者
ナーショーの様子もご覧頂くことができ、地球の裏
LEGO ブロックを用いたプログラムによる体験
側で行われているチリ世界大会にバーチャルで参加
学習を実践します。(ビデオ2時間42分間)
14
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
第15回人材マネジメント世界大会報告
Building Identity
会場の様子:休憩時間の通路は混雑に
●The world in which we live and what comes
next
Andrés Oppenheimer ジャーナリスト、CNN
政治解説委員
グローバル社会行動のマクロ分析。領土の政治的
紛争が及ぼす国内外の経済へ影響や経済危機、情報
社会のパワーと情報漏洩問題など、今日の世界各地
域の状況を把握します。
●Plenary Conference Presentation Global Report
2014 WFPMA/BCG
Mr. Jean Michel Cayé
Jean Michel Cayé ボストンコンサルティング
グループ シニアパートナー
WFPMA とボストンコンサルティンググループ
の協働による世界93カ国、5000人の経営陣とのイン
タビューによる2014年 HR 年次報告書の結果発表。
HR における緊急課題は、タレント不足のみならず、
リーダーシップ開発や個性と個人生活のバランスで
あることを共有します。(ビデオ1時間)
●PUTTING PEOPLE FIRST: Workplaces, Human
Health, and Social Sustainability
Jeffrey Pfeffer スタンフォード大学 組織行
動学教授
(註釈:日本語訳「隠れた人材価値:好業績を
Mr. Jeffrey Pfeffer
続ける組織の秘密」の著者としても著名)
いてより良い組織マネジメントを推進し、戦略的ポ
HR は組織の「魂」を預かる部門です。ポジティ
ジションに付くためのプレゼンテーションです。
ブな「パワー」を再定義し、HR がそのパワーを用
(ビデオ1時間)
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
15
≪連載≫世界の社窓から= No.8=
●Work without borders
人や組織は単体で存在するのではなく、密接に関
Antonio Prado CEPAL 副事務局長
連し合っています。言語力は、企業家精神、創造力
Patrick de Maeseneire ADECCO 社 CEO
と組織的リーダーシップの鍵となる重要な要素であ
Lucas Van Wees エアフランスーKLM 人事
ることを学びます。(ビデオ1時間43分)
Roberto Jana オラクル社 人事役員
Libardo Buitrago(Moderator) 国際アナリス
ト、ジャーナリスト、外交官
労働環境は確実に変化しており、現在の業務は、
15年前には存在しておらず、同様に5年後には消え
ているかもしれません。インクルージョン、マルチ
文化主義、マルチ世代、不平等、プライバシー、デ
ジタル化、企業倫理、社会と労働組織の新しいあり
方、社会福祉など話題から、これからのグローバル
社会におけるエンプロイヤビリティ(雇用される能
力)や労働市場についてパネルディスカッションを
します。
(ビデオ1時間21分間)
Mr. Rafael Echeverría
●The only competitive advantage: The Person
Rita Günther MacGrath コロンビアビジネス
スクール 戦略担当教授
使い古された用語である「競争優位性」は、会社
から生まれるものではなく、人が作り出しているの
だ、ということを我々は既に知っています。経営の
これまでの視点を切り替えて、変化に対する柔軟性
を持たねばなりません。(ビデオ1時間16分)
Work without borders
●Sustainability: from the origin
Alessandro Carlucci NATURA CEO
Luiz Carlos Cabrera AMROP 顧問
ビジネスの継続性の焦点として、経済的収益と企
業の社会的貢献や環境尊重との均衡が今後益々求め
られるようになります。事例を用いて今日のトレン
ドについて説明します。(ビデオ42分間)
●Roots sense: We are what we are
Rafael Echeverría ニューフィールドコンサ
ルチング CEO
16
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
Ms. Rita Günther MacGrath
第15回人材マネジメント世界大会報告
●Develop your own leaders: How to identify,
develop and retain Leadership from Talent
(ビデオ46分間)
7.A New Developing Paradigm based on
W illiam C. Byham DDI(Development
Dimensions International)社 CEO
Happiness and Well-being(ビデオ52分間)
8.Building Companies With Sense
「タレント競争」という言葉が知られるようにな
りましたが、実際に労働市場での要求は加速してい
(ビデオ44分間)
9.Alcohol & Drugs. Its approach for a successful
ます。さらに、経営陣の40%が在職18ヵ月前に経営
people management.
に失敗して会社を去っているというデータもありま
10.Technology for Action(ビデオ46分間)
す。タレントを開発するための方法論を解説しま
11.Productivity and Quality of Life
す。
(ビデオ50分間)
●From the depths of the earth. Extreme human
experience
(ビデオ46分間)
如何でしょうか? ぜひ世界中の HR プロフェッ
ショナルが一同に会するこの世界大会で議論されて
Mario Sepúlveda チリ鉱山落盤事故33人の生
存者の一人
いるトピックスから、グローバル HR のトレンドを
感じて頂きたいと思います。
サンホセ鉱山での悲劇の生存者が語る「奇跡」の
日本人材マネジメント協会からは、海外担当執行
真実の物語です。人間の感情、エネルギー、ポジ
役員の三城雄児氏が今年3月のニュージーランドと
ティブであること。これらの奇跡が「人への原点回
10月 の チ リ で の APFHRM 定 例 会 議 参 加 に 続 き、
帰」の重要性を再認識させてくれます。
2014年度世界大会に参加をされましたので、感想を
寄稿して頂きました。
(Insights 編集部員:山﨑京子)
「WFPMA(世界人材マネジメント連盟)
『世界大会:チリ開催』参加レポート」
報告:三城 雄児(みしろ ゆうじ)
JIN-G 代 表 取 締 役。JSHRM 執 行 役 員。APFHRM East
Asia Vice President。BBT 大学准教授、早稲田大学招聘
研究員、上智大学講師。組織人事戦略コンサルタント。
この度、私は JSHRM 執行役員として、APFHRM
Mr. Mario Sepúlveda
(アジアパシフィック人材マネジメント協会)の
Board Meetng(役員会)に出席するために、チリ
<ワークショップ一覧>
の サ ン テ ィ ア ゴ に 訪 問 し て き ま し た。 通 常、
1.“Happiness at work”(ビデオ1時間)
APFHRM の Board Meeting は、アジアパシフィッ
2.Leadership and Emotion(ビデオ1時間)
ク地域で行なわれるのですが、今回は WFPMA(世
3.Working in Community
界人材マネジメント連盟)の15th World Congress
4.“Prepare your RH department for the new
of Human Resource Management(第15回世界人
Social era”.(ビデオ43分間)
材マネジメント会議)が同国で開催されるため、
5.“Generation Y”(ビデオ47分間)
Board Meeting もチリで開催された次第です。
6.“People, the Center of Business”
そこで、本寄稿では、WFPMA の World Congress
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
17
≪連載≫世界の社窓から= No.8=
でどのような講演があり、どのような主張がなされ
世 界 中 の 人 材 マ ネ ジ メ ン ト の 最 新 動 向 を さぐる
ていたのか、世界各国の人事プロフェッショナルは
Global Report の結果が発表されました。この調査
何を考えていて、主要なディスカッションテーマは
は、2年に1度実施されるもので、参加国は100カ
何なのかを報告したいと思っています。
国以上、回答者数は3500人を超える大規模な調査で
今回の World Congress は10月15日から10月17日
す。調査結果の概要は誌面の都合上、一部しか記述
までの3日間の日程で開催されました。参加国は、
できませんが、JSHRM としてセミナーその他の機
チリ、ブラジル、アルゼンチンなどの南米の国々の
会をみつけて皆さまにもご報告して参りたいと考え
方々がやはり多く参加していましたが、カナダ、パ
ております。特に、注目されたのは世界の人事課題
ナマ、モロッコ、南アフリカ、ドイツ、イギリス、
のランキングです。各国の調査結果として、世界の
フランス、トルコなどからも参加者がいました。そ
人事課題の上位にくるものは、1位がリーダーシッ
して、アジアパシフィック地域からは、フィリピン、
プ、2位がタレントマネジメント、3位が行動と文
バングラデシュ、インド、ベトナム、フィジー、オー
化という結果でした。特に3位の行動と文化という
ストラリア、ニュージーランド、台湾、香港、日本
のは、今回はじめてランキングに登場した項目であ
が参加しており、全部で27カ国の参加があったと聞
り、Google などの先進的な企業が会社の組織文化
いています。
を独自につくりあげていることなどの影響を各国人
第1日目は、参加者すべてが参画した LEGO の
事が受けているものと解説されていました。また、
ワークショップを実施しました。LEGO SERIOUS
この行動と文化という項目に関しては、人事の関心
PLAY と呼ばれるチームビルディングの研修を開
は高いものの、投資としてはまだ時間をさけていな
発した ROBERT RASMUSSEN 氏によるファシリ
いというデータも発表されました。本調査結果を踏
テートのもとで、1000人規模の参加者がチームに分
まえたディスカッションで、私がもっとも印象的だっ
かれて LEGO を用いた研修を約3時間受講しまし
たのは、人事の KPI(Key Performance Indicator:
た。その後、現地の民族舞踊を披露しながらの盛大
重要指標)をしっかりと定めて、そこに集中投資し
な オ ー プ ニ ン グ セ レ モ ニ ー が 開 催 さ れ World
ていく人事がある会社は業績などの面で高い成果を
Congress は盛り上がりをみせました。
だしているという点でした。これらのデータが世界
第2日目は、Boston Consulting に委託調査した
の経営者に伝わることで、人事が KPI をしっかり
定めて、戦略的に時間と資源を投資していくという
ことが求められるようになるだろうと感じてきまし
た。
次 に、 上 記 レ ポ ー ト の 発 表 後 は、WFPMA の
Award の発表がありました。今回の AWARD 受賞
者として、Lynda Gratton 氏のインタビュービデオ
が公開されました。Lynda Gratton さんは『ワーク
シフト』の著者であり、レジリエンスの概念を提唱
するなど、人材マネジメントの世界に影響力をあた
えた1人として Award を受け取っていました。
今回の World Congress で基調講演的な立場で登
壇したのが、スタンフォードビジネススクールの
Jeffrey Pfeffer 教 授 で し た。 同 士 は「Putting
People First」というタイトルで講演し、世の中の
世界大会の入口で記念撮影
18
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
経営者は、もっと「人」に注目して、「心身の健康
第15回人材マネジメント世界大会報告
と幸福」といった恩恵を従業員に提供すべきであ
を語りましたが、会場ははじめてのスタンディング
り、従業員にとって良い職場であるか否かが、企業
オベーションとなるぐらい盛り上がりました。2人
や社会のさるサステイナビリティに最も影響すると
目は、ウィルスミスが主演した『幸せのちから』と
いう主張をされていました。今回の各国参加者と話
いう映画の主人公のモデルとなった Chris Gardner
をしていても、本講演が最も面白かったという声が
氏が登壇。ホームレスから億万長者になった同氏の
多く聞かれましたが、人事の世界に健康経営が大事
半生を描いた映画のシーンをみせながら、人生にお
だという考えを広めていく、大きなきっかけになっ
いて、希望を見失わないこと、懸命に努力すること、
たと思われます。
意欲を持つことなどが語られました。
その他、数多くの学者や実務家の講演が第3日目
全3日間の日程で講演中心のイベントでしたが、
まで続きましたが、全体を通して、
「人」への回帰
私にとって何よりの収穫は、世界中の人事のプロ
というのがメインテーマとして、本カンファレンス
フェッショナルとの親交をふかめられたことです。
には脈々とながれており、人事はもっと「人」に注
ヨーロッパ人材マネジメント協会の代表や、南アフ
目することをしなければならない、それが本来の仕
リカ人材マネジメント協会の代表など、世界中で人
事だったはずなのに、最近の合理化やその他の取り
事に関心を持って活動している方々との交流は、日
組みの中で「人」をないがしろにしていないかとい
本の人事を見直す上でも、大変な意義のあることで
うのが、主催者の主張としてあったように思います。
す。 本 Congress は、 2 年 後 に ト ル コ の イ ス タ ン
最終日の午後の講演は、人事の専門家ではなく、
ブールで開催予定です。今回の日本人参加者は私と
変わり種の講演者が続きました。一人目は、チリの
私のアシスタント2名の合計3名だけでしたが、次
落盤事故からの生還者である Mario Sepulveda 氏
回のトルコには、JSHRM 会員の皆さまを沢山引き
が、炭坑労働者の出で立ちで講演しました。Mario
連れて、訪問したいと願っています。読者のみなさ
氏は自身の人生の話をして、事故後に教育や講演の
ん、どうぞ、そのときは一緒にトルコにいきましょ
活動に意義を見いだしているという人生ストーリー
う。(終)
<告知:2015年4月 東京で APFHRM ボードメンバーに会いましょう!>
次回の APFHRM 役員会は、JSHRM 史上初の日本開催となりました。アジア各国の HRM 代表者が東京に集結する機
会を活かし、役員会終了後はリサーチプロジェクトのアジアンシンポジウムを開催します。このシンポジウムは、3月
に実施する国内シンポジウム「人事のあり方に関する調査報告:HRM の In-Di モデル~イノベーションとダイバーシ
ティからの提言」のアジア版です。国内調査結果に対するアジア各国からの感想やアジア HRM との比較を行います。
シンポジウムご参加者との交流会も予定していますので、ぜひ下記スケジュールをお忘れなくご予定ください。
2015年4月18日(土)13:30より学習院大学にて
JSHRM 発信、アジアと日本の HRM 交流を深める企画進行中ですので、どうぞお楽しみに。
<広告掲載>
・インサイト(4月、7月、10月、1月)
発行時の広告掲載を募集いたします。
詳細は事務局までお申し出下さい。
21, 600円(税込)
43, 200円(税込)
54,
75,
108,
129,
000円(税込)
600円(税込)
000円(税込)
600円(税込)
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
19
2014年度コンファレンス/報告 多様化する「働き易さ」と「働き甲斐」~日本の人事の再生~
2014年度コンファレンス/報告
「多様化する『働き易さ』と『働き甲斐』
~日本の人事の再生~」
2014年度 年次大会は昨年度同様の規模で土曜日に開催しました。
2012年度以降は人事の原点回帰を基盤に雇用にかかわるテーマを展開。今年度は対象層別にゲストと
参加者での意見交換となりました。あらためて当日内容を報告します。
<プログラム>
日時:2014年9月6日(土)10:00~17:30(終了後、懇親会~19:00)
会場:㈱内田洋行 新川本社(東京ユビキタス協創広場 CANVAS)
<総合司会> JSHRM 会員 松尾 寛子
●開会挨拶
●トークセッション
JSHRM 会長(株式会社東芝 顧問)
谷川 和生
株式会社内田洋行 管理本部 人事部長
金子 栄司氏
「日本の人事の『働き易さ』『働き甲斐』を再検討
する ≪パートⅡ≫~当事者の実態から~」
◆若者にとって:株式会社 TBS テレビ 編成局コ
ンテンツ戦略部 柳内 啓司氏
◆女 性にとって:一般社団法人日本ワーキングマ
●基調講演
マ協会 代表理事 大洲 早生李氏
「日本の人事の『働き易さ』
『働き甲斐』を再検討
◆中高年社員にとって:保険会社社員 楠木 新氏
する ≪パートⅠ≫」
<トークセッション進行>
独立行政法人労働政策研究・研修機構
主席統括研究員 濱口 桂一郎氏
JSHRM 会員 松井 義治
●ワークショップ
◆対象層別に意見交換
●懇親会
働調査室次席調査員、東京大学客員教授、政策研究大学
<●基調講演>
日本の人事の『働き易さ』『働き甲斐』を再
検討する ≪パート I ≫
院大学教授を経て、現職。主著に『新しい労働社会』『日
独立行政法人労働政策研究・研修機構
現在の日本の労働市場で、若者、女性、中高年が
主席統括研究員 濱口 桂一郎氏(はまぐち けい
それぞれに抱えている問題と、それに対する処方箋
いちろう)氏
について、お話をしていきたいと思います。その中
1958年大阪府生まれ。東京大学法学部卒業。労働省、欧
で「働き易さ」と「働き甲斐」について、何かイメー
州連合日本政府代表部一等書記官、衆議院調査局厚生労
ジを持っていただければと考えています。
20
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
本の雇用と労働法』『若者と労働』『日本の雇用と中高年』
など多数。
2014年度コンファレンス/報告 多様化する「働き易さ」と「働き甲斐」~日本の人事の再生~
の若者雇用対策は始まりました。
そこで日本版デュアルシステム、ジョブカード、
日本版 NVQ(キャリア段位)等のいろいろな若者
雇用対策が講じられました。日本にはそれまで若者
の雇用問題が存在しなかったため、問題のないとこ
濱口氏
ろに対策はなく、これらは全て欧米直輸入でした。
◆若者の雇用問題が存在しなかった日本
しかし思ったような効果は上がらず、社会から批判
90年代半ばぐらいまでの日本社会では、若者の雇
され、前政権では仕分けの対象にもなりました。
用状況というのは、大変素晴らしいものでした。新
それはそもそも社会の仕組みが違うからです。
卒採用において、「今すぐは何もできないけれども、
ジョブ型の欧米の対策をメンバーシップ型の日本に
やがていろいろなことができるようになるはずだ」
持ってきても、効果が上がらないのは当然のことで
という見込みの上で、若者は採用されていました。
す。ただ効果が上がらないからという理由だけで、
まさしく会社に入る、入社するということです。新
なぜ雇用対策が必要になったのかという問題の原因
卒採用から定年までの雇用を保障するという日本型
を考えずにバサバサと仕分けをするのは、非常に考
雇用システムが機能していました。私はそれを「メ
えの足りないことだという感じがします。
ンバーシップ型」と表現しています。
◆もう一つの正社員、OL 型女性労働モデル
それに対して欧米では、雇用問題の中心は常に若
日本の労働市場における女性正社員の位置付け
者でした。それは雇用の在り方が、日本と欧米では全
は、無限定正社員とは違う、別のカテゴリーでした。
く違うからです。そのジョブに対して、
「私はこれがで
入り方は新卒採用と同じでも、結婚退職するという
きます」と応募して入っていく、まさに職に就くとい
のが前提にあり、従って短期的なメンバーシップで
う「ジョブ型」が、欧米の雇用ということになります。
した。30年、40年同じところで働いていくことを前
そうなると今までいろいろな経験を積んできた中高年
提とした人事管理ではありませんでした。
の人のほうが、採用では圧倒的に有利であり、結果的
そういう女性正社員に求められた役割は、無限定
に職に就けない若者が多く出るという事態になります。
正社員である男性の補助的業務を担当すること、す
◆効果が出ない、若者雇用対策
なわち会社における女房役です。それからもう一つ
しかし日本では90年代のバブル崩壊後に、それま
は、若い男性正社員の本当の奥さんになること、つ
で若い労働力をどんどん採用していた企業の入り口
まりお嫁さん候補という面がありました。
が、ぎゅっと閉まってしまいました。今までは何の
結婚退職を前提とすると2年間の年齢差は大き
苦労もせずに就職できていた若者たちが、正社員と
く、学歴は短大卒が好まれ、四大卒は忌避されてい
して就職できない、非正規として労働市場に叩き出
ました。社内結婚という恋愛結婚をして、会社の女
されるということが起こりました。ただ世間から
房役から、家庭の女房役に移行するという仕組み
は、自分の意志でフリーターをしているというふう
で、それが非常にうまく回っていました。
に見られていました。そのため90年代には、若者の
◆辞めなくなった女性たち
問題はそれほど大きく議論されませんでした。
世界的な男女平等の流れの中で、日本においても
これが社会問題、労働問題として大きく議論され
「男女雇用機会均等法」ができ、雇用モデルがコー
るようになったのは、2000年代に入ってからです。
ス別雇用管理というものに変わっていきました。そ
それは正社員のルートに乗れず、ずっと非正規のま
れまでの男性正社員型のモデルを総合職という言葉で
までいるために、正規と非正規の間の格差が顕在化
表し、女性正社員型のモデルを一般職という言葉にし
してきたからです。そろそろ「とうの立ってきた若
ました。男性無限定正社員と同様に長時間労働ができ
者」
、若い中高年をどうするかということで、日本
て、どこにでも転勤できるのが総合職、それができな
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
21
2014年度コンファレンス/報告 多様化する「働き易さ」と「働き甲斐」~日本の人事の再生~
いのが一般職という形でとりあえずやってきました。
40代、50代になっても、潜在能力が定期昇給に見合
しかし90年代半ば以降、一般職と呼び換えた女性
うぐらい毎年高まるということには、疑問が生じます。
正社員たちが、以前は当然の前提であった結婚退職
建前上は潜在能力が上がっているはずだから、こ
をしなくなり、ずっと働き続けるようになってきまし
れだけ高い給料を支払っているんだということに
た。このような状況に対して企業側が取った対応は、
なっています。平時であれば、「みんながそういう
これまで一般職として採用していた人たちを、主に
ことになっているんだよね」と言い合っていればい
派遣という、非正規で代替するということでした。
いかもしれません。しかし景気が悪化した時期に
そして最近になって突如として、
「女性活躍」と
は、どこかでその矛盾を解消しなければいけない。
いうことが盛んにいわれるようになりました。私は
その矛盾を解消するのに一番いいのは、中高年に出
女性活躍というときに、どういう活躍をイメージす
て行っていただくことだ、ということになります。
るかということについて、危惧を持っています。
結局この10年間ぐらい、若者問題が大きな問題だ
かつての無限定正社員モデルと同じである総合職
といいながら、実は底流には常に中高年の問題があ
の働き方に、女性をそのまま当てはめて、女性活躍
りました。日本の雇用問題の最重要の問題点であ
ということにしていく。これでは普通の女性は、働
り、かつ現実にも、対策の上でも、一番重要であっ
きにくくなるだけではないかというふうに感じてい
たことは間違いないだろうと思います。
ます。エリートモデルの女性活躍論からの脱却が、
◆ホワイトカラーエグゼンプションの本音
求められていると思います。
日本の企業、職場は、中高年という形である種の
矛盾を保持してきました。90年代以降は成果主義が
打ち出されたりしましたが、今またホワイトカラー
エグゼンプションということが検討されています。
その大きな矛盾に真正面から向き合う代わりに、い
ろいろな仕組みをちょこちょこと変えることで、な
んとかうまい具合に対応しようとしているという姿
なのではないかと感じています。
◆企業人事最大の課題、中高年対策
◆若者、女性、中高年、それぞれが抱える矛盾
中高年の雇用問題は、この40年ほどの間、繰り返
今から20年ぐらい前までは、日本の雇用の仕組み
されてきました。70年代石油危機の後、あるいは80
は全体としてうまく回っていただろうと思います。
年代の円高不況、90年代にバブルが崩壊したときも、
若者はその潜在能力を見込んで採用してあげようと
中高年をどうするかということが、常に問題の焦点
いう形で、どんどん入社できました。こんなに若者
にありました。とにかく人が余ってどうしようもな
に素晴らしい社会はなかったと思います。
いというときに目を付けるのは、年功制で給料が高
ところが最近はブラック企業の話のように、白紙
い中高年ということになります。
の状態の若者に即戦力を要求し、即戦力がないから
中高年の問題を考える上で一番大事なことは、そ
お前は駄目だといじめつけるような、そんな企業が
の人のこのジョブについて、これだけのスキルがあ
出てきています。これが今、若者が抱える矛盾です。
るからという形で賃金を決定するという仕組みに
あるいは、かつて女性は結婚退職するまでは会社
なっていないということです。日本の職能給というの
の女房役、その後は家庭の女房役ということで、そ
は、潜在能力が高まってきているから、その潜在能力
れなりに回っている仕組みだったものが、そうでは
に応じた給料を支払うという理屈になっています。こ
なくなりました。女性にも活躍してもらうんだとい
れは20代から30代のある時期ぐらいまでは、現実に
うのは、大変いいことです。
非常に対応した賃金制度であると思います。しかし
しかし女性に活躍してもらう、その活躍のモデル
22
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
2014年度コンファレンス/報告 多様化する「働き易さ」と「働き甲斐」~日本の人事の再生~
が、基本的に以前からの男性の正社員モデルを前提
そして一番重要なことはこれが、会社側が追い出
として、同じように活躍しろという話では、ワー
し部屋に入れたくなるような人たちを、そこに入れ
ク・ライフ・バランスとの矛盾が生じてきます。こ
ることなく、60歳や65歳までも一気通貫で働いてい
れが女性に起こっている矛盾です。
ただけるような仕組みであるということです。そこ
そして中高年には能力と賃金の間に、もともと矛
に限定正社員、ジョブ型正社員の意味があるのでは
盾があって、定期的にその矛盾が露呈していまし
ないかなと思っています。
た。同じ矛盾がまた同じような形で、繰り返してい
◆一生懸命ではない働き方
るといえるかもしれません。
「働き易さ」や「働き甲斐」を、今までとは少し違う角
昨年、追い出し部屋というやり方が結構話題にな
度から考えてみると、
「一生懸命働く社会ではない社
りました。なぜ追い出し部屋が可能になるのかと考
会」というところにも、処方箋があるように思います。
えると、そもそも仕事で人が採用されていないから
エリートはずっと一生懸命働くかもしれません
です。仕事が限定されていないがゆえに、そういう
が、そうでない人たちは一生懸命働かない。一生懸
追い出し方が可能になってしまうのです。
命は働かないけれども、それは全然働かないという
◆一つの処方箋―ジョブ型正社員
こととイコールではありません。
私がここ数年来考えているのは、
「男女共通の
今までの無限定正社員のような働き方ではないけれ
ジョブ型正社員」あるいは「限定正社員」という雇
ども、しかし「それなりにきちんと働く」ということで
用モデルが、
「働き易さ」や「働き甲斐」に対する一
す。そういう社会の在り方が、これからの多様化する働
つの処方箋になるのではないかなということです。
き易さと働き甲斐に対応するのではないかと考えます。
メインストリーム(主流派)としては、今までの
管理職や企業の経営陣になれないからといって、落
日本的な仕組みをある程度維持して、学校から社会
ちこぼれて、やる気をなくして、嫌々ながら働く、特に
に、仕事の世界に入るということです。今までの日
は追い出し部屋に送られるというような形ではありませ
本のような、特定のジョブのスキルがなくても、会
ん。長い人生を、ずっとその仕事に打ち込んで、きちん
社に入れるという若者にとってのメリットを、そう
と責任を持って働き続けることができるようなモデルを
簡単には捨てられない。そんなものは欧米と違うの
作っていく必要があるのではないかなと感じています。
だから捨てるべきだという人もいますが、それを捨
ててしまうと、むしろ不満を持った若者が日本中に
溢れて、大変なことになってしまいます。
しかし日本の仕組みがだんだん収縮している中
で、そこからこぼれ落ちる人が、どんどん出てきて
<●トークセッション>
「日本の人事の『働き易さ』
『働き甲斐』を再
検討する ≪パートⅡ≫~当事者の実態から~」
いる現実があります。そういう人たちのために、
「ジョブ型正社員」、
「限定正社員」という枠を作る
【ゲスト】
ことが必要になります。女性でも、男性でも、そし
柳内 啓司(やなぎうち けいじ)氏
てワーク・ライフ・バランスを大事に思う人たちに
株式会社 TBS テレビ 編成局コンテンツ戦略部
とっても、無限定ではない働き方をずっと続けるた
1980年生まれ。東京大学大学院卒。大学院在学中に、サイ
めのモデルとして、ジョブ型正社員、限定正社員と
バーエージェントにて、ネットビジネスのクリエイティブ部
いうものを位置付けていくということです。
門でサイト制作・バナー制作を担当。卒業後、株式会社
非正規からそこに入っていくと共に、今まで不本意
TBS テレビに入社。番組制作部門、情報システム部門を経
ながらかつての男性型正社員モデルを余儀なくされて
て、現在はネット動画ビジネス開発、スマート TV 標準化、
いた人たちに、こちらに移ったらどうですかと提案で
デジタル技術を活用した番組企画など、TV 局における新興
きるような仕組みを作っていく必要があると思います。
デジタル技術の活用戦略全般を担当。会社員の傍ら、20~
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
23
2014年度コンファレンス/報告 多様化する「働き易さ」と「働き甲斐」~日本の人事の再生~
30代の生き方・働き方に関する執筆活動・講演活動にも従
◆成長する場を自ら切り開く若者もいる
事。著書に『人生が変わる2枚目の名刺』
(クロスメディア・
柳内啓司(TBS テレビ勤務)
テレビの編成局で働
パブリッシング)
『ご指名社員の仕事術』
(小学館)がある。
いている柳内です。2005年に TBS へ新卒で入社。
大洲 早生李(おおす さおり)氏
3年間ドラマ制作にかかわり、その後テレビのイン
一般社団法人日本ワーキングママ協会 代表理事
ターネット領域での仕事を3~4年やっています。
慶應義塾大学卒業後、日立製作所に入社。営業、宣伝、広
現在34歳の若者世代です。
報を経験。4年半の単身赴任生活を送った後、2008年に双
僕らの世代は低成長時代の中で育ちました。希望
子を妊娠。両立不可能となり退職。その経験から、震災直
が見えにくい中でどうやって働きがいを見つけていく
前に働くママ支援プロジェクト『キラきゃりママ』
(代表)を
か、みんな一生懸命模索しています。そんな中で、
「仕
立ち上げる。直後に第三子を出産。株式会社グローバルス
事はボチボチでいい。働きがいより生きがいを求めて
テージ(代表取締役)を設立。世界中の親子が夢・希望・
いこう」という人が増えているように感じております。
余裕を感じられる社会をつくることをミッションにマーケ
一方で、会社も自分も成長させていきたいという
ティング/PR 業を展開。2013年秋に子連れで参加できるビ
人も少数ながらいます。私も「自分が寄与したもの
ジネススクール『東京ワーキングママ大学』を設立。
『ワー
で世の中を良くしたい」という気持ちがあるので、
キングママ・フォーラム』をはじめ、ママ向け講座を開催。
そちらのほうで頑張ろうと思っております。
母たちが戦略的にキャリアを築き、能力を自由に発揮でき
例えば東洋経済オンラインの編集長だった佐々木
る社会の実現を目指す。5歳双子、3歳男児の母。
紀彦さんのように、新しいビジネスモデルをつくり
楠木 新(くすのき あらた)氏
出す「サラリーマンイノベーター」も現れてきまし
保険会社社員
た。このように、新しく成長する場所を見つけて、
1979年、京都大学法学部卒業後、生命保険会社に入社。
そこを自分で切り開いていくような人も増えていく
勤務のかたわら、「働く意味」をテーマに執筆、講演など
のかなと思っています。
に取り組む。朝日新聞 be(土曜版)に、会社から独立し
大洲早生李(㈱グローバルステージ代表・一般社団
た中高年の生きざまを紹介した「こころの定年」を1年
法人日本ワーキングママ協会代表理事)
私は二つの
余り連載。著書に、
『人事部は見ている。
』
『サラリーマン
肩書を持ち、プライベートでは5歳の双子と3歳の3
は二度会社を辞める。』(日経プレミアシリーズ)、『働か
人の子どもの母でもあります。私が代表を務める東京
ないオジサンの給与はなぜ高いのか』
(新潮社)
、
『働かな
ワーキングママ大学は、働くママのための学びとつな
いオジサンになる人、ならない人』
(東洋経済新報社)など
がりの場を提供しており、参加者の8割が正社員です。
がある。2011年まで関西大学商学部非常勤講師(「会社学」)
まず、なぜ子育て女性は働きにくいのでしょう
を務める。http://blog.livedoor.jp/kusunoki224/
か。やはり時間的な制約と職場環境の問題は非常に
大きく、ほとんどこれに終始しているのではないか
【進行】JSHRM 会員 松井 義治
トークセッションの目的は大きく2つあり、
(1)
若者・女性・中高年の観点から、職場の働きが
いや働き易さの現状を知ること、そして(2)
各々の観点から、これから働きがいと働き易さ
を向上するために会社・人事としてすべきこと
や改善アイデアを把握する、ということでした。
と思います。もう一つあるのが家庭環境です。働く
女性は子どもだけでなく両親なども抱えているの
で、家族に何か起こる確率は高くなります。働き易
さとは単に職場だけを見るのではなく、その周辺環
境まで目配りする必要があると痛感しています。
働きがいという観点では、仕事の意欲をなくす理
由として「評価されない」ことがあります。子ども
── 実際の現場での働きがいや働き易さは、若
のために時短勤務になると評価が下がる、あるいは
者・女性・中高年でどうなっているか。それぞれの
評価自体されないため、その中でモチベーションを
立場で現状を語っていただきたいと思います。
維持するのは難しいという声をよく聞きます。
24
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
2014年度コンファレンス/報告 多様化する「働き易さ」と「働き甲斐」~日本の人事の再生~
それはキャリアビジョンが描けないこととリンク
── 働きがい・働き易さのためには、これからど
してきます。キャリアの先が見えないと暗中模索に
うしていけばいいのでしょうか。
なり、次第に意欲をなくし、
「転職しようかな」と
楠木 中高年で長く会社にいる人たちにどう働いて
いう気持ちになってくると言います。
もらうか。今までは「どういうものを与えたら、モチ
職場環境と家庭環境両方で、いかに復帰してその
ベーションが上がるか」という議論だったと思いま
後活躍していくか。人によって持っている要素が違
す。でも、中高年になると個人のばらつきが大きく、
う中で、どう評価、サポートしていくのかという観
一律に考える発想では無理があります。むしろ「その
点を持っていただきたいと思っております。
個人はどういう場面や状況で自分の能力を最大限発
揮できるのか」という問いに変える必要があります。
でも、もちろんすぐに転換できるわけではありま
せん。どこで働くか・どういう仕事をするかなどの
個人の選択行為と、それに応じて、管理者や人事部
が、社員と個別交渉していくことが必要です。多く
の伝統的な会社では、個人のスキルや能力をそんな
トークセッション:右から柳内氏、大洲氏、楠木氏、松井氏
に見ていません。同時に一律的な運用が中心です。
これからは、社員の個性を見ながら仕事とのマッチ
◆今の若者も将来は「働かないオジサン」
ングをどう図るかが重要です。
楠木新(大手企業勤務・人事コンサルタント) 私
そこで私は、少し緩やかな職種別の採用をとって
は伝統的な会社で35年勤めまして、来年卒業予定で
もいいのかなと思っています。新卒一括採用で、役
す。会社勤めの傍らフリーランスで『人事部は見て
職中心に働くと、50代になるともうやることがなく
いる。
』という本を出しています。中高年の代表と
なります。でも、職種別採用の会社で働く中高年社
して話したいと思います。
員は比較的安定しています。
以前、私が若い社員向けの本を書こうとインタ
毎年の採用のところから運用を変えていけば、10
ビューしていたら、おじさんに対する批判が結構多
年たつと組織は相当変わります。長くかかるように
かったのです。メールを開かないおじさん、批評や
見えても、むしろそれが一番早く、かつ有効な解決
評論ばかりで手足は動かさないおじさん等々。それ
ポイントではないかというのが私の実感です。
で「働かないオジサン」という概念を作りました。
今、中高年の8割以上は「働かないオジサン」だ
と思います。では、働かないオジサンはどうやって
生まれるのでしょうか。新卒一括採用で会社がピラ
ミッド型構造だと、多くの人は年とともにポストを
失います。やはりポストなしに生き生き働くのは難
しい。この構造が働かないオジサンを生んでいる一
ゲスト三者のコメントは続く…
因ではないかと思っています。
◆女性それぞれに応じた対応を
若い人たちは、
「働かないオジサンはおかしい
大洲 妊娠して仕事を辞める人の割合はずっと6割
じゃないか」と言います。でも、そう言っている人
で変わっていません。育休を取る人は増えて、復帰
の自分の未来像が「働かないオジサン」だというの
し易い環境はできつつありますが、その後のキャリ
も、話を聞いて感じるところです。人事の運用も個
アアップについてはまだまだです。企業の中でそう
人のライフサイクルという観点を入れながらやって
いったアプローチを考えてほしいと思います。
いく必要があると実感しています。
妊娠・出産の年齢はばらばらです。それなのに一
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
25
2014年度コンファレンス/報告 多様化する「働き易さ」と「働き甲斐」~日本の人事の再生~
律のことをやってもうまくいくはずがありません。
はないかと思います。
20代は長期展望ができるように、30代は時短でも
リーダーを目指せるようなケアが必要です。この時
トークセッション 司会より:
「進行を終えて」
短リーダーがいることで、次世代に働き易い環境が
3人のパネリストは各々の実際の経験から「働
できるのではないでしょうか。
きがいと働き易さ」の現状と改善点をお話しされ
こういう現場の声を踏まえて、子育てしながらも
ていらっしゃったのが印象的でした。一般論では
リーダーを目指す人たち向けの施策・研修の実施も
なく、若者・女性・中高年という3つの切りから具
必要です。女性向けの研修をした層はモチベーショ
体的な課題を話されたのが、参加者の方々の課題
ンが高いという結果も出ています。会社が見てくれ
に刺さり、おかげで会場からは、思った以上に積
ているというのが大きなファクターだと思います。
極的に質問があり、嬉しく思いました。今後の大
一方で、全員がリーダーになりたいわけではあり
会においても、できるだけ具体的な議論を行うこと
ません。
「働き続けたいけれどリーダーになりたく
が必要であると感じています。
ない」人は結構多いのです。そこでマミートラック
といったキャリアの準備も必要かと思います。
◆若者にはチャンスと副業禁止の緩和
<●ワークショップ>参加者は各語りき
柳内 若手の働き易さ・働きがいのためには「若手
を打席に立たせる制度」が必要ではないでしょう
若者グループ:「白熱したディスカッションに」
か。ある IT ベンチャーで新卒1年目の人を子会社
若者グループのワークショップは、トークセッ
の社長にした例があります。ばくちでしたが、それ
ションの柳内啓司さんも参加していただいて、総勢
によって周りのモチベーションが上がり、組織の活
15名以上で白熱したディスカッションを致しました。
性化につながりました。
ディスカッションの中での視点としては、「若者
今の若手は昇給に興味がなく、スキルや仕事のや
はどう育成していくのか」といった「育成」の視点、
りがいにモチベーションを感じています。ですか
「今と昔とでは若者はどう違うのか」といった「や
ら、スキルを身に付けるチャンスを与えることが、
りがい・モチベーション」の視点、三年以内の離職
若手によく効く処方せんではないかと思います。
やなぜ辞めるのかといった「キャリア」の視点で、
もう一つ、副業禁止を緩めてもいいのではないか
視点ごとにグループが分かれました。
と感じています。私の周りで成果を出している人は
その中で、
社外のリソースを調達してくる人間が多く、勉強会
・最近の若者は本音を言わなくなってきた。
や本の執筆などがやりづらい環境で悩んでいる人が
・社内での評価を求めなくなってきている。
結構います。副業を禁止しないことでいろいろ面白
・一括採用は景気に左右されやすい。
い人材が集まってくる効果もあると思います。
・
「24時間戦えますか?」のコピーが若者にしっくりき
私の友人で、Facebook のつながりで人を紹介し
た時代があったが、今は「2、3時間戦えます」と
ていく「新しいコネ入社」の形を探っている人たち
いうコピーが若者にしっくりくるようになっている。
がいます。これは結構満足度が高いようです。コネ
・昔は裁量があり働けばたくさん稼げる時代であっ
入社は「あいつの面目はつぶせない」ということで
たが、現在では成果は上司、責任は部下ってなっ
頑張る人たちが多いそうですので、そういう雇用体
ている組織もあるのではないか。
系も増えてくるのではないかと思っています。
・上司もマネジメントトレーニングを受けていない。
若手が楽しく働いて、結果それが会社の利益にな
・昔は時代背景として終身雇用に代表される安定し
ると考えると、打席に立たせる制度と、副業規定を
た働き方を若者も求めていたが、最近は組織に縛
緩めていくというのは現実的な路線としてあるので
られない働き方を若者が求める傾向にある。
26
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
2014年度コンファレンス/報告 多様化する「働き易さ」と「働き甲斐」~日本の人事の再生~
・最近の若者は、周りを巻き込む力が昔の若者より
も弱くなっている。
も共通認識であったので、先に進んでいる外資系企
業の女性活用の実態の情報交換も行いました。
等の意見がでましたが、
「新卒一括採用は景気に左右さ
男性中心マネジメントを変えたくない人達を変え
れやすい」
「転職の時出身企業を見られる」
「ネットでの
る苦労をするよりも、サイバーエージェントのよう
就職情報」といった時代背景も若者の考え方に影響し
な女性も活躍できる土壌をそろえた会社や切り離し
ているのではないかという意見も出て、白熱したディス
た事業部をつくり、そこで成功するのが早道ではな
カッションになった若者グループのワークショップでした。
いかという提案(相手変えることより、自分達に合
う形で変えていく方が早い)もありました。
(JSHRM 執行役員 四方康之)
一方で再就職に困る女性の事前準備についても議
論がありました。
ライフイベントで退職しても再就職しやすくする
にはどんな知識やスキル、キャリアを考え、準備し
ておけばいいかという事前準備なしに、子育てしな
ワークショップ若者:視点ごとにワークへ
がら「困った」となることが多いとのことでした。
女性グループ:
「女性の雇用・働き甲斐・キャリア」
これはご本人の問題だけではなく、
トークセッションのパネラーを担当していただい
・社外でも通じるポータブルスキルは何か(外資系
企業は身に着けさせる)
た、一般社団法人日本ワーキングママ協会 代表理
事 大洲 早生李様もご参加いただき、外資系・日
・自分の資質・動機にあわせ、どんな道を選べばいいか
系企業の大企業から中小企業までの人事ご担当の方
(海外・外資系では女性の人事マネジャーが多い等)
25名の方々にご参加いただきました。
について、まとまった情報を具体化していない、伝
キャリアや働き方のパターン(マネジメントを目
えていない影響が大きいと共感。
指す、目指さない等)
、外資系/日系、ライフイベ
今後、人事に関わる一員として研究し、具体化し、
ント等の切り口で意見交換を進めていくと、中小企
広めていこうという方向で議論はまとまりました。
業は人員に余裕がないので、結婚や妊娠をすると退
(JSHRM 執行役員 松本利明)
職しなくてはいけないと周りから有言・無言のプ
レッシャーが現実として強い。自身のキャリアを考
えるよりも、申し訳なく思う気持ちが先走り、辞め
てしまうケースがまだまだ多いとのことでした。
大企業は中小企業よりは人員を抱える余裕が多少
はあるという見方もありましたが、日系大企業は女
性の働き甲斐・キャリア面での課題は多く、その根
ワークショップ女性:全体で意見交換へ
本課題は「長時間労働」をはじめ、今まで通りの仕
中高年グループ:「流動性と専門性」
事の仕方を本音では「是」とし認識してマネジメン
中高年グループでは、まず「中高年」は何歳からな
トをしていることに集中しました。
のかの認識合わせを行いました。その結果、ひとまず
ゆえに、今までの仕事のやり方やマネジメントの
ここでは45歳から、となりました。その上で、ご参加
仕方を変えてまで、女性活用/活躍を本気で考えて
の皆様からトークセッションで印象に残った点やこの
いないので、いくら女性活用の人事制度を導入して
場で議論したいことを自由にご発言いただきました。
も結局変わらないという諦めの声が上がりました。
内容を整理していくと、皆様の関心が中高年の中
一方でこの課題は女性活用だけではなく人事生産性
でも定年までの “ 現役 ” と定年後の “ 雇用延長・再
を上げないと、グローバルの競争では勝てないこと
雇用 ” に分かれることが明らかになりました。そこ
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
27
2014年度コンファレンス/報告 多様化する「働き易さ」と「働き甲斐」~日本の人事の再生~
で2つのグループに分けて討議を行いました。以
2つに分かれて討議をしましたが、ジョブ型の
下、当日の討議内容の一部を簡単に。
キャリア開発や、メタスキルの重要性など、共通す
【現役グループ】
るところも実は大きかったという気づきもありまし
中高年でモチベーションがないと感じられる人が
た。ここに掲載できないのが残念ですが、個別企業
多いのは、日本企業のキャリアディベロップメント
の詳しい事例のご紹介もあり、大変学びの多いワー
の方策にも一因がある。
クショップとなりました。
日本企業では、新卒一括採用で入社し、
「ジョブロー
(JSHRM 執行役員 長谷川宏二)
テーション」を重ねながらポジションを上へ上へと上
がっていくことがキャリアだとされる。しかし、ポジ
ションは上に行くほど限られており、ごく僅かな例外
を除いて、中高年のこの時期には組織における自分の
立ち位置が決まってしまう。上を目指すことが叶わな
くなり、キャリアのシフトチェンジを余儀なくされる。
ワークショップ中高年:グループに別れて
しかし従業員は、上に上がっていくことが “ 偉さの基
準 ” であり、“ 幸せの基準 ” であると学習してしまって
いるから、学習棄却をしないことにはキャリアシフト
をすることができない。ここに中高年の難しさがある。
今後のカギは「流動性」にある。組織においては
ジョブを明確にし、個人においては自身が持ってい
る(メタ)スキル・ナレッジ・コンピテンシーを見
ワークショップ全体:各 Gr 経緯報告に
える化し、社内外に移動(異動)することで組織と
人のマッチングを高めていく。これは従来の日本企
大会企画準備部会メンバーの声
業の形からははるかに流動的なあり方だが、中高年
の働き甲斐を高める一つの道だろう。
●2014年度のコンファレンスを振り返って
そこで人事に何が求められるだろうか?恐らく
JSHRM 執行役員:大会企画準備部会長
“ 制度屋 ” ではない。一人一人に寄り添いキャリア
(NEC マネジメントパートナー㈱)野村 和宏
シフトを果たすための支援をするなど「脱制度の人
景気回復による人手不足とそれ
事」
、強い共感性や交渉力といったヒューマンスキ
に伴う非正規社員の正社員化、政
ルが非常に求められるような形になってくるだろう。
府閣僚も含めた女性の活躍機会の
【雇用延長・再雇用グループ】
拡大、そしてグローバリゼーショ
定年延長・再雇用の問題は、実は「定年前の人間
ンの一層の加速。企業における働
関係や専門性の構築」こそ重要である。人間関係や
き手、働き方は多様化する一方で
専門性が築けている人は定年後も “ 声が掛かる ”。そ
す。しかしこれに対する企業の人事の仕組みはまだま
の点で、もちろん本人の自己啓発が欠かせないが、特
だ旧来の姿が残っており、男性社員を想定した終身
に事務系においては現役中からの専門性開発に会社
雇用・年功賃金の構造は大きくは変わっていません。
として取り組む必要があり、そこに人事の役割がある。
若手、女性、中高年社員それぞれにとって、働き
多くの場合、雇用延長・再雇用は義務的対応に終
易さと働き甲斐をもたらす人事の仕組みはどうあるべ
始しているが、今後全従業員に占める割合が大きく
きか、多様化にどう応じるのか、というのが今回のコ
なってくる中では、「60歳以降のキャリア開発」と
ンファレンスのベースにあるテーマでした。基調講演
いう視点も必要なのではないかと思う。
では、濱口さんに歴史的な流れなど概括的な情報提
28
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
2014年度コンファレンス/報告 多様化する「働き易さ」と「働き甲斐」~日本の人事の再生~
供をいただき、これを受けたトークセッションではこ
JSHRM は、企業経営には欠くことのできない
の三者に関わる最近の状況を3名のスピーカーの方々
人・組織についての “ 今 ” を取り上げ、その質を上
に存分に語っていただきました。こうした啓発をベー
げるための活動を続けています。「自主性が最大限
スに、ワークショップでは例年以上に時間をたっぷり
に活かされる」という点で、HR に携わる方々の、
取って、参加者全員にそれぞれの意見や自社の事例
趣味と実益を絶妙に満たす存在だと思います。今回
などを自由に語り、相互啓発を図っていただきました。
の議論が継続されることを願いつつ、これからも関
熱い議論はその後の懇親会にまで引き継がれました。
わっていきたいと思います。
この極めて複雑なテーマに対し、コンファレンス
の短い時間の中で回答が得られることは期待できま
●大会企画の運営を担当して
せん。逆に大きく発散する議論の中で、参加の皆様
大会企画準備部会/トークセッション進行担当
には今後の検討に向けた多様な視座やヒントを得て
(HPC クリエーション㈱)松井 義治
い た だ い た の で は と 思 い ま す。 皆 様 に は 是 非
たまには JSHRM に寄与しよう
JSHRM に加入いただき、今後も継続的に議論の場
と、約10年ぶりに JSHRM の大会
に参加いただければと祈念します。
の支援をしました。JSHRM 執行
役員の野村さん、そして事務局
● JSHRM の存在意義を思う
大会企画準備部会/総合司会担当
(㈱セルム)松尾 寛子
(星さん、佐藤さん)のご尽力で、
思っていたよりも円滑に企画が出
来上がったと思います。
JSHRM との付き合いは、設立
プロジェクトが発足し、企画担当メンバーの確定
準備室時代よりもう15年になろ
後、キックオフミーティングが開かれましたが、メ
うとしています。設立後の事務
ンバーの自己紹介、これまでの JSHRM 大会のテー
局従事としての5年、一会員と
マと他の団体のトレンドの紹介、そして野村さんか
しての10年を経て、JSHRM への
ら今年の大会に期待するテーマが紹介され、それに
愛情(?)は人一倍強いと自負し
対して、企画担当者、一人ひとりが本企画で取り上
てはおりますが、縁あって企画準備検討会に呼んで
げるべきテーマを語り、各々の思いを積み上げなが
いただき、事務局サイドの思い切った権限委譲によ
ら今年のテーマの原型「人事が支援する社員の働き
り、司会という大役を務めさせていただきました。
甲斐と働き易さ」を作り上げるという、生産性の高
参加いただいた皆様には拙い司会でご迷惑をおか
い初回ミーティングだったと記憶しています。社員
けしたこと、この場を借りて深くお詫び申し上げます。
の働き甲斐と働き易さというテーマを「若者」
「女性」
今年のコンファレンスで掲げた、“多様化する「働
「熟年」の3つの層から議論し、あるべき人事の支援
き易さ」と「働き甲斐」
” は、グローバル化、IT 化の
方法を模索するということも大枠このミーティング
進展に伴い、数々の矛盾を抱えざるを得なくなってい
で決まったので、あとの仕事はかなり効率的に進め
る日本企業が、まさに考え続けるべきテーマだと思い
られたと思います。もちろんスピーカーの選択と確
ます。その意味で濱口氏、および3人のゲスト・ス
定には、松尾さんたち企画メンバーの多大な努力が
ピーカーの方々からのさまざまな角度での問題提起は
あり実現できたもので、結構、ぎりぎりでフルキャ
とても有益でしたし、それを受けてのワークショップ
ストの決定となりました。本企画が成果を出すこと
では活発な議論が行われていたように思います。
ができたのは、担当執行役員の尽力と共に、企画・
ただ、たった1日の場で議論は尽くされたわけで
運営メンバーの総意の賜物だと思います。
はありません。むしろ、もっと話したかった方、議
(終了後、関係者でのプライベート懇親会では
論したかった方ばかりではないかと思います。
酔っていました…。)
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
29
HR Café 聴講者の声
HR Café 聴講者の声 ⊘9月〜11月開催より
<9月4日(水)開催>
安西法律事務所 弁護士 倉重 公太朗 氏
「激動する雇用社会~人事のあり方を考えよう~」
長時間労働、メンタルヘルス、過労死・過労自殺など、
自分の子供が社会人になる20年後、日本の労働市場は
魅力的といえるでしょうか。
国際競争を勝ち抜くための雇用流動化社会には、入
口論(ジョブカード、トライアル雇用、個人企業の促進、
採用・賃上げ・インセンティブ税制、ハローワークの
権限強化)と出口論(解雇の金銭解決)が必要である
とし、そのためはひとり一人の努力と政策の後押しだ
と結論づけられました。参加者から質問が多数あり白
熱した HR Café となりました。
(HR Café 担当:武田 行子)
<9月18日(木)開催>
現実の社会から、熱く語る倉重氏
株式会社クレディセゾン 取締役 戦略人事部・CS 推進室 武田 雅子 氏
「社員の可能性を最大限に活かす仕組みとは」
HR Café のテーマは「社員のポテンシャルを引き出
す仕組み」について武田さんから講演をいただいた。
武田さんから採用、人事評価、風土形成など様々な具
体的な取り組みを共有いただいたが、何よりも感じた
のは武田さんが真剣に「社員を愛し、社員個々を引き
出す」ことに情熱を持っていることだ。そこが情熱の源
にあるからこそ、誰よりも外を見て人事施策を研究さ
れ、そして社員と会話し、人事部メンバーと議論を重
ねているのだと感じた。
施策や取り組みがクローズアップされる中、人事と
して大事にするべきことやスタンスは何かを感じさせ
る会だった。次回もこんな視点で HR Café に参加して
みるとより深い学びがあるのではと思う。武田さん、
<11月7日(金)開催>
本音トークありがとうございました!
(HR Café 担当:宮武 宣之)
コミュニケーション重視の武田氏
Dyna-Search, Inc. 代表 石塚 しのぶ 氏
「先手を打った企業だけが生き残る!
社員の幸せを考え抜いた企業文化の醸成とは」
市場の構造の変化により、お客様が多様になったた
め、リアルとネットという境目がなくなった現代では、
ネットのみでは限界となる。そのため、最終的には人
と人の対話が必要となり、競合していくには個しかな
い。企業文化を未来のものとしてコアバリューを浸透
させ、文化を大多数の人が共有し、お客様と接する時
に必要な「ものさし」とする価値観が必要である。そ
のために単なる標語にせず、社員の声が届く、参加す
る仕組みを作り、醸成することが必要だ。社員に愛さ
れる会社は顧客にも愛される会社であり、戦略的に企
業文化を作ることが、会社、社員、顧客の幸せとなる、
そう感じました。
(HR Café 担当:中島 愛)
30
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
ヒトを思う優しい気持ちが大切と説く石塚氏
HR Café 聴講者の声
<10月17日(金)開催>
株式会社空気を読むを科学する研究所 代表取締役 清水 建二 氏
法政大学大学院政策創造研究科 教授 石山 恒貴 氏
「“観察力”を鍛えるとは? ビジネス・日常生活で
の『空気を読む』を科学します」
職務遂行する能力は、総合的能力として、状況察知
能力が重要でその大きなポイントは相手の表情、微表
情を読み取ることが出発点としている。
HR カフェのスタートは石山教授のヒアリング結果か
ら始まり、次に清水代表が研究する「微表情」
、抑制さ
れた感情が無意識のうちにフラッシュのごとく現れて
消える微細な顔の一部の動きを紹介されました。
「微表
情」とは、「幸福、軽蔑、嫌悪、怒り、悲しみ、恐怖、
驚き」の7つの表情があり、5か国共通ということが
50年の研究結果から分かっているという。活用例は、
交渉や顧客満足度に利用、そして離婚や自殺のシグナ
ルも微表情から読み取れるという。微表情検知テスト・
グループセッション、質疑応答で理解を深めることが
できました。
(HR Café 担当:小暮 泉)
イントロを務める石山氏:キャリア概論の課題から
「場の空気が読める」
「“察する“のが得意」
「ウソを⾒抜くスキルが⾼い」
清水氏の体験をふまえた「表情」論に皆傾聴へ
当日配布資料から
◇
◇
◇
<会場風景>
興味関心の高い参加者から、現実に則した
参加者も HR カフェを盛り上げてくださいました!
多くの質問がありました(9月4日)
意見交換も絶えず…(10月17日)
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
31
HR Café 聴講者の声
<10月21日(火)開催>
日本マイクロソフト株式会社 執行役 人事本部長 佐藤 千佳 氏
「マイクロソフトが目指すダイバーシティのアイコンカンパニーとは」
今回は、佐藤千佳氏により、日本マイクロソフト社
の多様な働き方を支える制度や職場環境について語っ
て頂く【HR カフェ】と共に、同社が目指す「新しい働
き方」とはどのようなものなのかを実際に感じること
の出来る【企業見学・体験ツアー】のダブル企画が開
催されました。
【HR カフェ】では、
「ダイバーシティ&インクルージョ
ン(D&I)
」への取り組みや制度、そしてファシリティ
やインフラ等について語って頂きました。
D&Iを支える仕組みとして、平等性・秩序を保つ
為の「制度」を中心とし、
「価値観・企業文化」という
ソフトの側面と、
「ICT の活用」というハードの側面の
3つを組み合わせると述べておられました。
「制度」では、就業規則、モバイルワーク・在宅勤務
制度等により、従業員の新たな ” 働き方 ” を認め、従業
員の「ワーク」と「ライフ」の両輪を支援しています。
「価値観・企業文化」においては、出産・育児が必要
な女性だけを優遇するのではなく、全ての従業員の高
い生産性とワークライフバランスを実現する為の取り
組みとしてD&Iを位置づけています。社員の自主性
を尊重することで、多様な個性と視点から新たなアイ
ディアを創出し、社員同士がお互いを尊敬し合い働く環
境を提供することを目指しています。
「ICT の活用」においては、ファシリティやインフラ
ストラクチャーを含め、フレキシブルな働き方を支え
る様々な仕組みを設けています。
「PC 1台で全てのオ
フィス環境を持ち歩く」というコンセプトの基、従業
員にはどこにいてもオフィスでいるのと同じように生
産的な業務遂行が可能となる環境を提供すると共に、
一方では、社員同士の繋がりを支援する為の Face to
Face コミュニケーションが可能なカフェテリアエリア
や社内クラブ活動の場も提供しています。
マイクロソフトにとって、従業員一人ひとりの多様
性を認め、尊重し、全ての社員が持っている能力を最
大限に発揮できるような場所を提供する「ダイバーシ
ティ&インクルージョン(D&I)
」とは、同社のミッ
ションである「世界中のすべての人々とビジネスの持
つ可能性を、最大限に引き出すための支援をすること」
そのものであると、冒頭で説明がありました。そのこ
とからD&Iの成功自体が、同社のミッションの価値・
企業価値を高めると感じました。
また、日本のマイクロソフトが、日本の中で「ダイ
バーシティ」と言えば、
「マイクロソフト」を思い浮か
べてもらえるような企業になりたいという思いから、
「ダイバーシティのアイコンカンパニー」になることを
ゴールとして社内で共有しているとのことでした。そ
うすることで、従業員一人ひとりが、D&Iの推進役
となっているのだと感じました。
(HR Café 担当:黒田 洋子)
企業見学・体験ツアー <2014年11月6日(木)開催>レポート
日本マイクロソフト社が実現した「多様な働
き方」を支援する職場環境の見学・体験ツアー
日本マイクロソフト社は、経済産業省「ダイバー
日本マイクロソフト社は、「フレキシブルワーク
シティ経営企業100選(経済産業省)」、Great Place
スタイル」の柱として、「どこでも集う」と「必ず
to Work 1位、第24回日経ニューオフィス賞(経済
つながる」の2つを掲げています。「どこでも集う」
産業大臣・クリエイティブ・オフィス賞)等の数々
は、会議室が無くとも、会って話すことが必要だと
の賞を受賞してきました。
【HR カフェ】に引き続
思ったら「直ぐ会う」習慣付けを意味します。そし
き、更に同社のダイバーシティや革新的な職場環境
て「必ずつながる」は、統合認証等により安全に、
を深く理解して頂く為、今回は、佐藤千佳氏による、
誰もが出来る簡単な操作で、モバイルを活用した
【企業見学・体験ツアー】を開催して頂きました。
32
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
り、様々なサービスと連携したりすることで、いつ
企業見学・体験ツアー
でも何処でも誰とでも繋がることを意味します。
そのため、従業員が会議やイベントの目的に合わ
せていつでも集い・繋がることが出来る様々な空間
と ICT 機器が用意されています。
また、人と人との繋がりを喚起するプレイコー
ナーや社員の健康をサポートするカフェテリア、く
つろぎの場、マッサージルームも準備されています。
従業員の高い生産性は、このような「働きやすさ
と快適さ」を実現したワークプレイスから生まれた
ワークスタイルから生まれていると感じました。
(編集部会:黒田 洋子)
10月21日 HR カフェに引き続き、
11月6日のオフィス案内で説明いただく佐藤氏
(何かとお世話になりました…)
── 訪問スナップから ──
Skype 等で気軽に打ち
合わせへ、タブレット等
モバイル機器がずらりと
テレビ会議室です
世界各国のスタッフ
やマネージャーとコ
ミュニケーションへ
<コーヒーテーブル>
気軽に打合せができる場所です
<セミナースペース>
プレゼンテーション等
の会議利用となります
<ソファー・ラウンジ>
リラックスしてゆっくり
話ができる場に
モニターは画像やプレゼンテーション等
同時に放映が可能となっています
<カフェテリア・コーナー>
社員の健康を考えたメニューが充実
カフェテリアでの打合せも可能です
<ビリヤード>
<飲料冷蔵庫>
社員同士のリフレッシュと
会議や打合せに欠かせない
コミュニケーションサポートに
ドリンク類がいつでも
用意されている
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
33
自主研だより
「WWN 研究会」
ビー・ブラウンエースクラップ㈱ 人事部 古川 千秋 氏
前回までの研究会報告で、「WWN の特徴ならびに雰囲気」「これまでの開催テーマ」について、お伝
えしてきました(詳細は7月号と10月号をご参照ください)。今回はこれからの取り組みについて、私の考
えていることを少しお話ししたいと思います。WWN 研究会は今年2014年で、めでたく10周年を迎えま
した。一つの区切りの年となります。これまで多くの参加者の方に支えていただき、ここまで開催する
ことができましたこと、この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございます。WWN の参加メン
バーも、人事の置かれている環境も10年前とは大きく変わってまいりました(私も40代に突入しました)
。
そこで、WWN のこれからの取り組み、次のステージを考えてみました。WWN の頭文字(Will, Wants,
Needs)は、私が10年前に感じていた人事の仕事に対する姿勢でした。事業部門の要望やニーズに対応
するといった自己正当化の側面も含めた課題解決型人事が主流であったわけで、確かに職場も課題解決
を望んでいた時代でもありました。今後も人事の持つ想い(Will)は変わらず大切にするわけですが、
この10年、産業構造やビジネス環境が速く大きく変化を続ける中において、人事の在り方、更には人事
がビジネスパートナーとして何をデザインしていくのか、人事部門が社内・社外に届けることができる
付加価値としてのパフォーマンスとは何か。これが WWN の Wants, Needs に代わって着眼するところ
と感じています。WPP(爆笑)といったところでしょうか(Will, Partner, Performance)
。まぁ名称は
慣れ親しんだ WWN で行くとしても、来年からはテーマに対して、人事の持つ想いをビジネスパート
ナーとしてどのようにパフォーマンスとして届けるか。この視点を毎回入れて行きたいと思っています。
当然、決まりきった答えなんてありません。基本的な進め方はこれまで同様、刺激的に楽しく盛り上がっ
ていきますので、現在のメンバーも、まだ見ぬこれからのメンバーの方もお付き合いの程よろしくおね
がいします。ここまでお読みいただきありがとうございます。続きは WWN 研究会でお会いしましょう
♪あなたの想いもぜひ聞かせてください。
(次回は新生 WWN の初めての会合での内容について、少しお伝えできればと思います)
「労働法研究会」
㈱フレンテ 人事総務部 長谷川 宏二 氏
自主研だよりの第1回目は労働法研究会の概要を、次いで第2回目は研究会の様子を最近の開催事例
を基にお伝えしました(詳細は本誌7月号と10月号をご参照ください)。今回は「他研究会とのコラボレー
ション」についてお知らせしたいと思います。
JSHRM の自主研究会は、会員相互の自由で自主的な活動として異なるテーマでそれぞれに活動してい
る訳ですが、そもそもは貴重なプライベートの時間を費やして何かを得ようと熱心に活動する会員同士、
テーマが違ってもそういう人達が集まれば、異種格闘技よろしくきっと面白いことが起こるに違いな
い!という考えのもと、WWN 研究会代表の古川さんに「一度試しにコラボ企画をやってみませんか?」
とご相談をしてみました。そこから話が進んで、かくして10月、WWN 研究会と労働法研究会のコラボ
レーションが実現しました。テーマは “ 変革期における人事・労務の心構え ” です。
WWN 研究会は、人事の「想い」に関して、ゆるやかなテーマで参加者が自由な対話を通してそれぞ
れに刺激を得、会としては敢えて結論を出すことなく、各自がお持ち帰りをする場、一方、労働法研究
会は労働法に関する特定のテーマについて基調発表から議論を進め理解を深めていく場です。スタイル
も違う、むしろ対極に近い研究会同士とも言え、やってみたはいいが不発に終わったらどうしよう…と
不安を感じなくもなかったのですが、結果的にそれは杞憂でした。古川さんの卓越したファシリテーショ
ンがあればこそではありましたが、異なる研究会のメンバー同士が交わることで出て来た視点がいくつ
もありました。また、実務家同士とはいえ日頃なかなか交点のない人同士の良い出会いの機会ともなり、
参加していただいた方々にとって満足度の高いものとなりました。
コラボを通じて、JSHRM が人事という仕事を通じて社会をより良きものとしていきたいという共通の
熱い想いを持つ人の集まりで、その点において共通するものがあるのだ、ということを私自身も再確認
できました。まだ研究会に一度も参加されたことのない会員の皆様、是非どこかにご参加されてみては
いかがでしょうか?
34
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
WWN 研究会/労働法研究会/YSC 研究会/戦略的人材マネジメント研究会
「YSC 研究会」
池上通信機㈱ 人事勤労部 越田 健太郎 氏
自主研究会の中でもっとも若い YSC 研究会です。
11月のテーマは「学び」でした。
「人事が提供する学び」として、
・学びの必要性
・動機付け
・学びのツールの導入と効果測定
について議論しました。
特に「動機付け」は永遠の、奥深きテーマであり、これだけでも1回分の議題として充分ではないか、
というものでした。
例として出たのは、「闘志なき者は去れ」の精神による、学ばなくてはいけない環境づくり。会社の共
通言語、社内用語を難しくして焦りを生み出す、ローテーション(異動)の促進で業務経験、知識を増
やしていくなどの案が出ました。
動機付けはキャリア意識と結びつきやすいものですが、最近の若者はそもそもキャリア意識を持って
入社してくる方が多いものです。このような状況下での施策として研修における「役割の明確化」が挙
げられました。上司から、研修においてどのような役割を持って臨んでもらいたいかを伝えることによ
り、研修におけるモチベーションが強まるというものです。
一方で、フォローアップ研修などは、過度な効果を求めるのではなく、ガス抜きとして割り切っても
よいのでは、という意見も出ました。そして研修の打ち上げでビールを持ってまわりながら(さらっと)
日頃の悩みなどを聞けるような流れに持っていける人事がよいのではないか、と。この例に限らず、日
頃から普段の情報収集ができるような人事になることがポイントですね、というところで締めくくりま
した。
…さて、若手人事による研究会として発足した YSC 研究会も8回目となりました。
とりわけ同世代・同職種で定期的に集まり議論できる場というものは、なかなか作れないものです。
日頃の業務では得られないような発見を、一緒に創っていけるメンバーを、引き続き募集中です。合宿
(という名の旅行?)なども、将来構想として検討していますので読者のあなたも是非一員に!
自論の反応をみて、更にみがきをかける学びの場「戦略的人材
マネジメント研究会」
戦略的人材マネジメント研究会 代表世話人 石川 洋 氏
戦略的人材マネジメント研究会は、欧米企業の伝統的な人材マネジメントをそのまま導入することを
目指しているのではありません。
欧米企業での人材マネジメントの歴史は古く、色々な問題が発生すると、多くの改善がその都度なさ
れました。また、一つのモデルで、すべての企業や、すべてのケースに適用可能ではありません。その
中では、企業独特の背景が含まれ、一般に公表されるわけではありません。
当研究会は、多くの企業で共通課題となっている人材マネジメントのテーマを取り上げ、どうにかし
なくてはならないと考える熱心な有志が、自分の会社の内部事情にこだわることなく、広くグローバル
な視点で、本音トークをする場を提供します。
例えば、当研究会の2014年3月のテーマ、
「研修後の行動変容調査分析から何を学んだのか?」
、12月
のテーマ、「People Analytics, how it works in real workplace!」も、研究会の会員からの要
望で、テーマとして取り上げたものです。
厳しい市場環境に対処するには、「顧客の行動変容をどう捉えて、それにどう対応するのか」が企業の
生命線だとの認識が高まり、その実現には、まず社員の行動変容も把握すべきだと考える様になりまし
た。成長するオンライン ショッピングの中でも、アマゾン等が得意とするサイト上での顧客行動を取り
込みでは、ビックデータの活用が進んでいます。グーグルでは、ピープル アナリティクスを、社員の
生産性向上や働きやすい職場環境の整備にも役立てています。
特に、12月13日に発表頂く方は、自動車部品の日系企業の人事部長の米国人で、研究会の参加者の意
見をお聞きしながら、今後、社内で、どうピープル アナリティクスを活用すべきか、他の日本企業から
の反応も聞きたいと言っています(結果レポートは下記 URL)
。
特に、ピープル アナリティクスは、多くのグローバル企業が、取り組む重要なテーマですが、日本
企業の人事にとっては、とっつきにくいテーマでもあるからです。
まだ、「成功事例がないから、報告するには早い」ではなく、中間報告をもとに、どうしたら人材マネ
ジメントの成功に近づくのかを一緒に考える研究会でもあります。
何かをしなくてはならないが、導入のためのヒントを得たい方にも、本研究会は、役立っていると感
謝されています。 現在、研究会会員を募集中です。
メール:[email protected]、研究会ブログ:http://workshop.lpfrontline.com
また、過去の研究会発表資料の一部も、下記から、ダウンロードできます:
http://www.smartvision.co.jp/text.html
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
35
NEWS LETTER
●「 日経 HC(ヒューマンキャピタル)
2014大阪大会から」
参加しトレーナーの認定を受けました。シニア世代
11月28日、私たち日本人材マネジメント協会で開
己認識をして、異なった年代層と良い関係を構築し
発した「プラットフォーム能力:自己診断ツール・
ながら働くための行動のヒントに気づくことができ
セミナー」のパッケージが大阪でも大きな関心を集
ます。
めました。
今回の大阪でのセミナー参加者は65名。セミナー
日経ヒューマンキャピタル会場の大阪国際会議場
後にも開発した山﨑さんを囲んで6名の方が、現実
では、人材開発や人事システムの各社がいろいろな
の導入のための質問をしていました。「研修必要時
テーマで発表していましたが、その中でも、集客力、
間は?」「質問のリストは?」「本当に効果はあるの
参加者の熱意において大いに目立ちました。この
か?」等です。シニアの方にさらにイキイキと働い
パッケージを開発してきたチームの中心メンバーの
ていただくことは、企業の生産性の向上だけでな
一人である山﨑京子執行役員が、スライドでわかり
く、後輩、若手社員のロール・モデルとして意欲的
すく特色や効果を説明し、好評でした。
な職場形成に直結します。今回の、セミナーをきっ
社会の役にたつ実務的な人材開発のパッケージを
かけに関西でも「トレーナー」を誕生させ関西の企
送り出していくことは、当協会の存在価値を示すと
業の方にも役立てるように展開したいと思います。
いう点でも、また、協会の財務上の収入に加算され
(藤岡長道:常任役員代表、【プラットフォーム能
るという点でも有意義な成果です。
力認定トレーナー】)
が陥りがちな自信過剰や諦観を含めて、客観的に自
そもそもは、人事の観点から「本質的な経営課題」
を時代に先駆けて自主的に会員が研究しようという
●≪関連掲載≫他団体媒体への掲載紹介【JSHRM
会員寄稿】
のが、
「リサーチ・プロジェクト」の発足(2010年
度より)であり、ここが苗床となってこのパッケー
生産性新聞から:
「ポスト・シニア世代
ジが生まれました。ここで取り上げた2011年度報告
のキャリア開発」と題した内容について、
「シニアが活き、シニアを活かすための提言」から
HP の http://www.jshrm.org/event/
発展したのが、中央職業能力開発協会(JAVADA)
symposium_6101.html を参照ください。
と共同で開発した「プラットフォーム能力の診断セ
シニアへのプラットフォームに関して、
ミナー」です。詳細は、検索エンジンでパンフレッ
あらためて内容紹介と実際に導入した企
ト等をご参照ください。
業事例も一部紹介されています。
すでにこのパッケージを実施するための「トレー
ナー養成コース」も実施中です。私も受講生として
■これからのイベント案内
◆詳細内容は今後追って順次各媒体等にてご案内申し上げます。
期日決定しましたので告知いたします。
会員皆様、並びにご関心ある方々へ照会とあわせ、参加スケジュールの確保をお願いいたします。
1)3月7日(土)PM:【会場:学習院大学を予定】
~リサーチ・プロジェクト報告会~「HRM の In-Di モデル〜イノベーションとダイバーシティからの提言(仮称)」
◆この2年間の研究報告と事例紹介を予定いたします。
36
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
NEWS LETTER
2)4月18日(土)PM:【会場:学習院大学を予定】
~APFHRM(アジアパシフィック人材マネジメント地域連盟)の各国協会代表と共に~
「スペシャル・シンポジウム:今アジアパシフィックの人事潮流は・・・(仮称)」
◆現在詳細内容調整中です。定例会議の日本開催。この機会をとらえて人事現状の認識を知る交流の場と
して、相互理解へのシンポジウムを開催いたします。
3)5月26日(火)18:00~【会場:生産性ビル】
~2015年度協会総会&「特別講演」会実施~
●1~3月 HR カフェ
日程
タイトル
講師
1/14 「
『人と組織の成長を支援する』HR ビジネスパートナーの役 日本コカ・コーラ株式会社 人事本部 ストラテ
(水) 割とは」
ジックビジネスパートナー 大島 千春 氏
2/18 「私たちは相手の話をひらがなで聞いている 伝えたいこと
U. B. U. 株式会社 代表 西任 暁子 氏
(水) が届いていますか?(仮名称)」
3/19 「次世代を担うグローバルリーダーの人材採用の現状と提案
α ALPHA LEADERS 代表 入住 壽彦 氏
(木) (仮名称)」
●2015年度「人材マネジメント講座
『基礎講座』」日程のご案内
年2回開催、今年は下記期間実施となります。早
基礎講座修了者の方からも、参加へのご支援を頂
め参加調整とあわせ予算確保いただけると幸いで
けると幸いです。
す。最近は企業によって、複数参加ないし毎回参加
いただくこともでてきております。
入社初期配置の方とあわせ、入社キャリアある中
◇案内ならびに募集、開催2か月前より順次案内い
たします
での人事部門異動となられた方々の参加が徐々に増
◆第30期:2015年6月10日(水)~2015年9月9日
えております。他部門から人事部門異動で管理職役
◆第31期:2015年10月13日(火)~2016年1月11日
職になられた方にも参加いただいています。
● Insights 新メンバー紹介
荒川 勝彦
① 会員加入年月:2013年5月
② 所属先名:一般財団法人海外産業人材育成協会 総務企画部 人事グループ
人事履歴:労務、研修など。人事としてはまだ3年目です。最近、全管理職と目標設定や部下育成について個別面談しました。人事担当と
して、どのようにマネジャーを支援、あるいはリードしていくのかが課題のひとつです。
③ 会員活動:第26期人材マネジメント基礎講座受講。自主研修会「WWN 研究会」参加中。
④ 編集部会参加動機:一時仕事が落ち着いた(気がした)こともあり、勉強させていただいた JSHRM に、できるうちに恩返しをしておきた
いなと思いまして。もちろん、より一層の勉強が狙いという、自分のためでもあります。
⑤ これからの抱負:私自身、Insights のような読み物が好きなので、読者の方にも面白いと思ってもらえるような記事を送り出していきたい
です。そのために知恵を出して頑張ります!
渋谷三丁目1−1 ●今号特集は組織文化・風土。関係性づくりは大切です。日常社会にあって、地域・家族との関係性が希薄? に
なってきており、日本人の文化・風土を見直す時期(世代観)かもしれません。グローバルの時代、日本人文化(国民性)の良さを継承し
発揮することから、海外へ紹介と普及していくことも大事なことかもしれません。
さて、新年を迎え、今年の祈願もされた方は多いかと。「今年も他との関係において、大人のシップメントを実践しなければ…」と思う
参賀日でした。☆
●パソコンやメールがない時代に仕事をしてみたかったなと思うことがあります。いったいどんな感じかなと憧れます。2015年前半は、
イベントが目白押しです。シンポジウム、シンポジウム、総会。皆様、早めに日程調整下さいね。ご参加お待ちしております! tres
JSHRM Insights Vol.82 2015.1
37
JSHRM Insights
ジェイ・シャーム インサイト 第 82 号(非売品)
2015 年 1 月 10 日発行
編集・発行:日本人材マネジメント協会事務局
〒150-8307 東京都渋谷区渋谷 3−1−1
公益財団法人 日本生産性本部内
TEL:03(3409)1162 FAX:03
(3409)
1007
URL:www.jshrm.org E-mail:[email protected]
■表紙デザイン・レイアウト・印刷/ヨシダ印刷株式会社
※本誌記事・写真の無断転載を禁じます。