場所・用途に応じて組み立てる仮設建築物の提案 ―演劇劇場の提案例― Temporary Structure Responding to Location and Function: The Example of the Theater 上川慎也*1,永野康行*2 Shinya Uekawa*1,Yasuyuki Nagano*2 Most of the structures we are using nowadays cannot be changed once they have built. Often, however, we suppose the structures could be changed to meet different or new demands with time changes. The modern Japanese dwellings, for instance, are reformed with the method called 'scrap and build', in about every 30 years. It is believed that this is due to a lack of response to the change of the human life. In this paper, we showed an example of a method, using 6 kinds of members, which cut by the 3D laser cutter. By using this method, we can build the temporary structure responding to the all locations and to meet all needs. We discussed a temporary structure, which can be built responding to the location and the function, in this paper, aiming to propose the structure can be adapted to the change of the times. Key Words: Digital Fabrication, Variability, Temporary Structure, Self Build 演劇が,一回性として生起するその多様な関係 や,生身の肉体がもっている可変的な発見を楽し むものであるならば,劇場も一回の舞台ごとに, 場所や演劇に合わせて生まれ変わるものではない だろうか。それを実現するために,場所・演劇に 応じて可変する演劇空間を構成するためのシステ ムを提案する。公演が終わると,劇場は解体され て新たな場所に向かう。劇場が生まれて,演劇を 行い,劇場が畳まれるという流れは「建築する」 という行為を表現している演劇行為の一つである。 1. 序論 ほとんどの建築物は,一度建てられてしまうと 姿を変えることなく利用される。しかし,時が移 り変わると建築物に求められる価値は変化する。 例えば,現代日本の住宅は 30 年ほどの周期でスク ラップアンドビルドを繰り返している。それは, 人々の暮らしの変化に,建築物が対応できていな いのではないかと考えられる。本論文の目的は, 時の移り変わりに対応可能な建築物を目指して, 場所・用途に応じて組み立てる仮設建築物を提案 することである。 3. デジタルファブリケーションを用いた合板の 組み合わせによる設計手法 2. 演劇との関連性と設計趣旨 計画のダイアグラムを図1に示す。本計画では, 3Dレーザーカッターを用いたデジタルファブリ ケーション技術での計画を提案している。デジタ ルファブリケーションとは,レーザーカッターや 3Dプリンターを用いて,デジタルデータから紙 や木材といった素材を加工する技術の総称である。 今,日本で演劇が行われている劇場のほとんど は多目的ホールとして使用されている。演劇とは, 同じ舞台・演出であったとしても演じられる場所 によって,俳優の演技も観客が受ける印象も大き く変わる。私は,演劇は人間の全身を用いた芸術 であり,人々の心を癒したり,励ましたり,時に は辛辣なメッセージを伝えるには最も表現力のあ るアートだと思う。そのような演劇を表現するた めの手助けを,仮設建築により実現する一例を提 案する。 Design シンポジウム 2014(2014 年 11 月 11~13 日) *1 兵庫県立大学大学院シミュレーション学研究科博士 前期課程大学院生(〒650-0047 兵庫県神戸市中央区 港島南町 7 丁 1 目番 28) Graduate Student, Graduate School of Simulation Studies, University of Hyogo *2 兵庫県立大学大学院シミュレーション学研究科・教 授(〒650-0047 兵庫県神戸市中央区港島南町 7 丁 1 目番 28) Prof. ,Graduate School of Simulation Studies, University of Hyogo 図1.計画のダイアグラム 403 劇団員らが自らの手で作り続けていけるように, 人間の身体の大きさに近い規格であり入手しやす い 910mm×1,820mm の合板を用いる。まず,規格 内の寸法に収まるように部材の型を設計する。設 計した部材型に合わせて,3Dレーザーカッター により切り出し,作りたい造形となるように,劇 団員が部材を組み立てることを想定している。 c ② 4. 形態の造形に関するしくみ 造形のダイアグラムを図2に示す。どのような 造形も点・線・面・立体に分離して考えることが 可能である。点がいくつも合わさることで線が生 まれ,線が結びつくことで面が現れる。そして, 面が何重にも重なり合って見えてくるものが立体 であると考えた。本計画では,点となる部材を計 画することで,立体である建築物を組み立てる。 ③ 図4.部材の組み立てアクソメ図(部材 a,b,c) d 点 線 面 c ① d ① 立体 図2.造形のダイアグラム 5. 各部材の寸法と役割 ② 切り出された部材の寸法を図3に示す。部材は 建築物の外形を構成する「フレーム部材」とそれ らを繋ぐ「繋ぎ材」のに分類できる。また,フレ ーム部材は角となる部材(a)と辺となる部材(b)の 2 種類があり,繋ぎ部材にはそれぞれ太さと長さが 異なる太長(c),細長(d),太短(e),細短(f)の 4 種類がある。フレーム部材と繋ぎ部材を合わせた 合計 6 種類の部材を用いて組み立てることで,仮 設建築物を構成する。 ③ 図5.部材の組み立てアクソメ図(部材 a,b,d) e e ① ② 図3.各部材の寸法 6. 部材の組み立て ③ 6 種類の部材の組み立て方法をアクソノメトリ ック図で表現し,まとめたものを図4~7に示す。 図中の①は,最も一般的な組み方であるフレーム Aを組み立てる様子である。フレームAはフレー ム材(角)を 4 つ,フレーム材(辺)を 4 つ組み合わ 図6.部材の組み立てアクソメ図(部材 a,b,e) 404 f f ① ② ③ 図8.フレーム部材が組み立てずに回転する様子 図7.部材の組み立てアクソメ図(部材 a,b,f) せたものである。図中の②は,フレームA´組み 立てる様子である。フレームA´は,フレームA を反転させたものである。図中の③はフレームA とフレームA´の両方を同時に組み立てる様子で ある。フレームAとフレームA´の接合の際に, c.繋ぎ材(太長)と d.繋ぎ材(細長)が用いられてい る。図4~7では,XZ平面に各フレームを配置 し,XY平面に各種類の繋ぎ部材を配置すること で,繋ぎ部材のそれぞれの組み立てる様子を示し ている。 図9.構造システム1 7. 構造システム 一般的に,合板は力を受ける方向次第で耐久力 が異なる。部材を組み合わせる際に,それぞれの 部材が弱点となる方向を補い合うように組み合わ せていく。部材を組み合わせて枠組み(フレーム) を作っていく。フレームの部材は単体で組み合わ せると,重力で崩れ落ちてしまう(図8)。 本計画では 2 種類の構造システムによって外部 からの応力に耐え得るように計画する。図9およ び図10は,それぞれの構造システムを示したも のである。 一つ目に,フレームが連続して並ぶ際 4 つ並ぶ 毎に反転させることで各部材が重力による回転モ ーメント力をお互いに打ち消し合う。部材の種類 を少なくするために,4 つ毎で設計しているが,部 材の種類を増やすことで 1 つ毎に組み合わせるこ とも可能であり,耐久力をさらに上げて計画する ことも可能である。二つ目にフレームが縦に並ぶ 形で組み合わせていく。一つ目と同様に各部材が お互いの回転モーメントを打ち消し合う。柱や梁 として部材を使用する際に,断面積が大きくなる ので,耐久力がより上がるよう計画している。 図10.構造システム2 8. 劇場の組み立て例 本設計手法を用いた設計例として,演劇劇場の 平面図と断面図を図11に示す。この劇場は演劇 として使用される舞台開口として標準にほぼ近い, 7,200mm(幅W)×10,400mm(高さH)の舞台開口の 寸法幅で設計している。この劇場は舞台後壁がオ ープンになっており,舞台後方の景色を借景に演 劇を行ったり,野外講演をおこなったりすること ができる。これは演劇本来の姿である場所や季節 など,一回性の演劇を行うことを可能にしている。 また,場所・演劇に応じて空間が可変する様子 をパース(模型写真に追記追記)として図12に示 す。 405 9. 結論 本論文では,3Dレーザーカッターによって切 り出すことを想定した 6 種類の部材を組み合わせ ることで,あらゆる場所や用途に合わせて仮設建 築物を組み立てる提案例を示した。時の移り変わ りに対応可能な建築物を目指して,場所・用途に 応じて組み立てる仮設建築物を提案した。 10. 今後の課題 本提案は,計画の方法と部材の設計,構造シス テムを提案した上で 1/20 スケールの模型を制作し て検討したものである。 今後の課題として,3Dレーザーカッターに出 力可能なデジタルデータを作製し,実際に3Dレ ーザーカッターで切り出された 1/1 スケールの部 材を用いてモックアップを作ることで施工面での 検討を行い,実用化を目指していきたい。 図11.演劇劇場の設計例 図12.場所・演劇に応じて空間が可変する様子 406
© Copyright 2024 ExpyDoc