ダウンロード - 一般社団法人 日本木質バイオマスエネルギー協会

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総説
固定価格買取制度のもと木質原料の確保を巡って深刻化し
たエネルギー部門と紙パルプ産業の競争関係
Intensified Competition between Energy Sector and Pulp Industry
in Securing Wood Materials under the Feed-in-Tariff Scheme
Minoru KUMAZAKI*
*Japan Woody Bioenergy Association
4-30-4, Shinbashi, Minato-ku, Tokyo, 105-0004 JAPAN
熊崎 実 * 1.歴史的に形成された木材の利用秩序
利用は競争関係ではなく補完関係にあり,マテリアル利用
森林からの木材の伐り出しと,木材の使い方は,時代と
アル利用の中でも優先されたのは,製材・合板などの構造
ともに大きく変わってきた.北米でもブラジルのアマゾン
材の製造で,それに使えない木質原料が紙パルプ・繊維版
でも,鬱蒼とした原生林が近くにあるうちは,商品価値の
の製造に向けられてきた.つまり木材の使い方に関して一
高い一部の木だけが実に乱暴なやり方で伐り出されてい
定の序列が形成されていたのである.
に向かない低質の木屑類が燃料になっていた.またマテリ
た.そうした丸太は製材加工されて板や梁・桁になるのだ
が,製品として市場に出てくる量は丸太材積の 3 割か 4 割
で,工場で発生する大量の木屑がその近辺で昼夜分かたず
2.カスケード利用の原則
周知のように,ひと口に木材と言っても樹種や部位,形
紙パルプの製造にしても,初期のころは針葉樹の太い丸
状によってその特性はすこぶる多様であり,取引価格にお
太が惜しげもなくつぶされていたものである.しかも木材
いてもピンからキリまである.そのうえ木材の用途はとて
の三大成分のうちパルプになるのはセルロースだけで,ヘ
つもなく多様だ.市場での競争を通して木材利用の序列が
ミセルロースとリグニンは廃液として垂れ流しにされるこ
出来上がっていくわけだが,その根底にあるのは,良いも
ともあった.しかしヘミセルロースの半分が繊維に残るク
のから順々に取っていって,すべてを使い尽くす「カスケー
ラフト法のパルプ化の普及が工程のクローズド化を可能に
ド利用」の原則である.
した.1953 年にクラフト法が日本に導入されてからはク
図 1 は,一本の成熟した樹木が伐採されて,幹の太い
ラフトパルプ排液である黒液は回収され燃焼させてエネル
ギーとして利用できるようになった.
1980 年代になると木屑類のエネルギー利用がはじまり,
さらに進展して 2000 年頃に状況は一変する.製材の残廃
材は製紙工場に設置されたバイオマスボイラで燃やされて
熱や電気に変換されるようになった.丸太を加工する林産
業の範囲だけで言えば,入荷した丸太のすべてが余すとこ
ろなく使い切られて,廃棄物ゼロの状況が実現したのであ
る.
このようなわけで,木材のマテリアル利用とエネルギー
*(一社)日本木質バイオマスエネルギー協会
(〒 105-0004 東京都港区新橋 4-30-4 藤代ビル 5F)
[18]
1935 年岐阜県生まれ.農林省林業試験場(現・
森林総合研究所)林業経営部長,筑波大学農
林学系教授,岐阜県立森林文化アカデミー学
長を歴任.現在は,筑波大学名誉教授,日本
木質ペレット協会会長,日本木質バイオマス
エネルギー協会会長.専門は国際森林資源論,
農学博士.
著書に『林業経営読本』
(日本林業調査会)
『木
,
質バイオマス発電への期待』
(全国林業改良普
及協会)
『木質エネルギービジネスの展望』
(同
左)
,
『木質資源とことん活用読本』
(編著,農
文協)ほか.訳書に『日本人はどのように森
をつくってきたのか』
(C. タットマン,築地書
館)
,
『樹木学』
(P. トーマス,築地書館)ほか
多数.
熊崎 実
燃やされるのが常であった.
Profile
日本印刷学会誌
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固定価格買取制度のもと木質原料の確保を巡って深刻化したエネルギー部門と紙パルプ産業の競争関係 部分が大型の製材工場に入っていくケースである.丸太が
工場に入ると,バーカーで樹皮がはぎとられる.欧州の大
型工場ではこのバークが木屑ボイラで燃やされて相当量の
3. 製紙原料の領域を蚕食し始めた木
質燃料
電気と熱が生産されている.一方で剥皮された丸太は製材
次に国内の製紙工場でどのようなパルプ材が使われてい
加工されて,板や角の製品になるわけだが,その製品の多
るかを見ておこう.日本製紙連合会の資料によれば,2014
くは人工的に乾燥しないと出荷できない.また製材時に大
年におけるパルプ材の国内消費量は絶乾重量で 1, 632 万ト
量に出てくるおが屑は木質ペレットやブリケットの原料と
ン,このうちの 491 万トン(30 %)は国産材だが,後者
なるが,そのためには原料の水分を 10 %程度まで落とす
の内訳は,表 1 に示されるように,針葉樹人工林の製材残
必要がある.先のバーク発電の排熱が製材製品の乾燥とペ
材(43 %)と低質材(22 %)が大きな割合を占めている.
レット原料の乾燥に使われることは言うまでもない.
図 1 に即して言うと,
前者は製材工場から出る背板であり,
後者は林地残材のうちの小径丸太である.ただしこの両者
からつくられるチップは,近年ではパルプ製造のみならず,
ボイラ燃料としても広く使われるようになっている.
さらにパルプ材の 3 割近くは天然生の広葉樹由来であ
る.かつての薪炭林の利用だが,最近薪の需要が増えてい
るため,これまたパルプ材と競合する可能性も出ている.
このように木質バイオマスのエネルギー利用がパルプ材の
領域を蚕食し始めているのは,燃料用木材の価格が年々上
昇しているからである.
林業の盛んなオーストリアには,成熟した樹木の使われ
方を木材価格に関連付けた面白い統計がある.図 2 がそれ
だ.樹齢 80 年生くらいのトウヒの丸太は,木材 1 m3 当た
図 1 森林から伐り出される樹木のカスケード利用
りの単価に応じて,製材(日本でいう A 材),合板(同 B 材)
,
パルプ(同 C 材),エネルギー(同 D 材)の四つ用途に切
り分けられている.一昔前までは,C 材と D 材の価格差
製材の副産物には,樹皮,おが屑と並んで背板と端材が
が大きく,低質材の取得を巡ってパルプ部門と燃料部門が
ある.この両者はパルプ製造用のチップに加工されて出荷
競合するような事態はあまり見られなかった.それが近年
されるケースが多い.いずれにせよ,製材工場に入荷した
では,パルプ用 37 ユーロとエネルギー用 30 ユーロで,価
丸太は,余すところなく段階的に使い尽くされ,廃棄物は
格差が大分縮まっている.
一つも出ていないのである.
1 m3 の木材が内包するエネルギー量は 1 バーレルの原
図 1 の右側にあるのは,製材用丸太の採れなかった樹木
油とほぼ同等の 6 ~ 8 ギガジュールである.原油がバーレ
の先端部で,一昔前は山に捨てられたままで,
「林地残材」
ル 100 ドルの時代になれば,木材のエネルギー価値も 100
と呼ばれていた.それが近年では一部の枝葉を残して(地
ドルになり,B 材はもとより A 材の価格を凌駕すること
力維持のため)
,山から下されているが,これには雑多な
ものが含まれている.
「分別」して利用するしかない.小
径丸太は最も価値が高く,パルプ原木として使えるし,薪
やペレットの製造,さらには小型ボイラ用の良質チップに
もなる.他方,枝条や樹皮などが多くなると大型ボイラの
表 1 パルプ材の出所別構成比(2014 年)
パルプ材の出所
針葉樹
燃料にしかならない.発電プラントには大型のボイラが
入っていて,しっかりした除塵装置が付いているから,極
めて質の低いバイオマスでも燃やすことができる.
つまり木材利用の序列からいうと,発電用の燃料はどん
なものでも受け入れられるという意味で,ボトムラインに
ある.
第 52 巻第 5 号(2015)
広葉樹
構成比 %
製材残材
42.9
人工林低質材
21.9
天然林低質材
2.1
古材
6.4
製材残材
0.5
天然林低質材
合 計
27.1
100.0
出所)日本製紙連合会『製紙産業の現状』2014 年
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総 説 もあり得るだろう.木材のエネルギー価値のさらなる上昇
第二次大戦後,木材の自給を目指してスギやヒノキ,カ
は,既存の木材利用の秩序を根底から揺るがす可能性を秘
ラマツなどの造林が大々的に行われ,全森林面積の 40 %
めている.
が人工林で占められることになった.しかし 1970 年代あ
たりから安価な輸入材が市場に溢れるようになり,国内の
林業は競争力を失ってしまう.せっかく造成した人工林に
も除間伐の手が入らないまま放置され,林木の収穫期が近
づいているというのに林道網の整備も十分になされなかっ
た.
表 2 木質バイオマス発電の買取価格
日本の FIT(2015 年)
燃料の種類
図 2 針葉樹幹材の部位別材積比率と単価
オーストリア,トウヒ(MD2a+ を採材)
4. 2012 年に始まった FIT 制度への
懸念
このような状況の中で,わが国においても固定価格買取
制度(FIT)がスタートしたわけだが,これがパルプ材の
円 /kWh
未利用木材 2MW 未満
40
2MW 以上
32
一般木材
24
リサイクル材
13
ドイツの FIT(2014 年)
電気出力
ユーロセント
/kWh
円換算
1 €= 140 円
0.15MW 以下
13.66
19.1
0.15 ~ 0.5MW
11.78
16.5
0.5 ~ 5MW
10.55
14.8
5 ~ 20MW
5.85
8.2
需給に深刻な影響を与えるのではないかと懸念されてい
る.というのも,第一に木質バイオマス発電の買取価格が
その結果,人工林の過密化が年々ひどくなっていく.そ
国際的に見てかなり高いからであり,第二に制度の発足に
のうえ京都議定書の CO2 削減で森林の吸収分も加算され
あたって「既存利用に影響を与えない」という条件が付け
ることになったが,間伐の履行が条件となった.その後国
られたにもかかわらず,それを担保する強い措置が取られ
の補助金を得て計画的な間伐が進展する.しかし 30 年生
ていないからである.
40 年生の人工林で間伐が行われても肝心の木材が出てこ
わが国の FIT は,2000 年に始まったドイツの FIT をお
ない.と言うのも,低質材の販路がなかったり,路網がな
手本にしたものだが,バイオマス発電の買取価格を現時点
くて搬出できないといった事情があるからである.
で比較すると,その差は際立っている( 表 2)
.まずドイ
このようにして伐り捨てられる間伐材は年に 2, 000 万
ツの場合は,買取価格が出力規模のよって差別化され,小
m3 にもなると言われてきたものだ.これは市場に出くる
規模優遇のスタンスが鮮明である.5 MW 以上の買取価格
木材量に匹敵するか,それを上回る量であり,異様な事態
はごく低いレベルに抑えられ,20 MW 以上は対象外だ.
と言うしかない.表 2 で「未利用木材」とされるのは,伐
また総合効率が 60 %以上のプラントの電気でないと買取
採されたまま山に放置された木材のことで,C 材や D 材
の対象にならない.発電だけの効率はせいぜい 25 ~ 30 %
のみならず,A 材,B 材も含まれる可能性もあるのだが,
程度のものだから,この条件をクリアするには発電排熱を
これを発電用の燃料として出してくるには,かなり高い値
うまく利用した熱電併給(コージェネレーション,CHP)
段で電気が売れなければならないという判断があったので
が不可欠である.
あろう.kWh 当たり 32 円(小規模なら 40 円)の買取価
日本は出力規模に制限はなく青天井で,熱電併給の義務
格はこうして決まった.なお「一般木材」の主体は製材工
付けもない.その代り燃料の種類によって買取価格にかな
場の残廃材であり,リサイクル材の典型は建築廃材である.
りきつい落差がつけられた.なぜそうなったか簡単に説明
しておこう.
[20]
日本印刷学会誌
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固定価格買取制度のもと木質原料の確保を巡って深刻化したエネルギー部門と紙パルプ産業の競争関係 5.迫られる未利用木材の再定義
3
ない.
日本で間伐材などの丸太か発電用の燃料としてどんどん
実のところ,日本の山に 2, 000 万 m もの材が伐り捨て
使われているのは,未利用木材を優遇する FIT 制度があ
られているというのは,何年か前の話である.今では低質
るからである.ドイツの場合は,小径丸太からつくられる
材の需要が増えたために,伐り捨て間伐はあまり見られな
良質チップは熱供給(ないしは CHP)用の小型ボイラに
くなった.
一部の地域では低質材の奪い合いが生じている.
向けられている.
つまり山に放置された材という意味での「未利用木材」は
減少する一方だ.さらに今後,伐倒した木を枝葉のついた
まま林道端まで引きずり出し,集中的に造材する「全木集
材」が普及すれば,ゼロになるだろう.最近ではそうした
実態を反映して山から下りてくる材はすべて未利用木材と
みなす風潮さえ出てきた.
FIT 制度の発足にあたって,バイオマス発電について
は「既存の利用に影響を与えない」との条件が付されてい
た.今にして思えば,これは詭弁である.高い買取価格を
設定すれば,既存利用への波及は避けようがない.しかも
「未利用木材」の定義が実質的な意味を失い,C 材のみな
らず,A 材や B 材の領域にもエネルギー利用が喰い込め
るようになった.現在のところ,製材・合板用材とエネル
ギー材との価格差が大きいために,両者のあいだでそれな
りの「棲み分け」ができているが,このまま放置するわけ
にはいかないだろう.すでに一部で合板用材との競合が見
図 3 ドイツにおける木質バイオマス発電の燃料構成
電気出力 1MW 以上のプラント,2011 年 単位:%
られ始めている.
未利用木材の「再定義」が求められているように思う.
ドイツの FIT ではマテリアル利用と競合しない伐採残滓
6.カスケード利用の高度化を目指して
や樹皮,修景残材などを使えば,買取価格の基本レートに
先のカスケード利用に定義では「良いものから順々に
「原料ボーナス」
を加算していた.
日本でもこの線に沿って,
取っていって,すべてを使い尽くすこと」だとした.この
未利用木材を再定義することはできるであろう.ただ製材
場合に優先順位を決める目安は常識的には市場価格であろ
工場から出る背板や森林伐採に伴う小径丸太などは,木質
う.しかし一部には「ちゃんとした木材を燃やすのはけし
燃料に向けられるケースが多くなり,木質バイオマスの形
からん,マテリアル利用を無条件で優先すべし」という論
状や物理的特性でマテリアル利用とエネルギー利用を区分
議がある.とくに伝統的な林学・林産学ではそのように考
することが難しくなっている.このような状況の下ではバ
える傾向が強かったように思う.これにはそれなりの理由
イオマス発電の買取価格を安易に引き上げるわけにはいか
があった.
ない.
木材というのは,太陽光と二酸化炭素と水(それに多少
ドイツの場合は,木質原料の需給のひっ迫を受けて,
のミネラル)でつくられた自然の産物である.人間のつく
2012 年以降,バイオマス発電の抑制に動いてきた.熱電
る原材料やエネルギーの投入はゼロであり,この合成には
併給のプラントで発電した電気でないと FIT の対象にな
人手も一切かかっていない.にもかかわらず自然の産物の
らなくなった.また 5 MW 以上発電した場合の買取価格
木材は,堅牢な構造材料となり,あるいは良質の繊維原料
は kWh 当たり 6 ユーロセント(約 8 円)に引下げられて
となる.まず構造材料,繊維原料として利用し,これらが
いる.電気がこんな価格でしか売れないとなると,高価な
廃棄される段階でエネルギーとしての利用を考えればよい
木質燃料は使えない.1MW 以上の木質バイオマス発電に
のではないか.
どのような燃料が使われているかを見ると(図 3),大部
カスケード利用の神髄は,燃やす前にどれほど徹底的に
分は建築廃材,黒液,森林残材,修景残材,樹皮のような
使い尽くすかである.木造建築物の解体で出てくる古材
比較的質の低いバイオマスばかりで,丸太は 3 %ほどしか
も,そのまま燃料にするのではなく,パーティクルボード
第 52 巻第 5 号(2015)
[21]
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総 説 や紙パルプの製造に向けることができるだろう.さらにこ
けて買い叩いていると見えるのである.とくに近年では,
のパルプ製造においてもカスケードの階梯を増やす余地が
国産の針葉樹チップの価格が北米産のそれに比べてかなり
ある.
低いという不満が噴出していた.FIT のお蔭で製紙用チッ
パルプ工業は昔から紙をつくるための前工程として木材
プの価格が引き上げられ,「正常化した」と歓迎する向き
に含まれるリグニンを取り除いているが,ここで同時に抽
もある.
出されてしまう一部のヘミセルロースを加水分解で糖類に
それはともかく,化石燃料価格の上昇で,木材のエネル
変換し,発酵させればエタノールに変えられるだろう.こ
ギー価値は確実に引き上げられている.原料の獲得競争で
のプロセスの特徴は,これまで単純に燃やされていたヘミ
紙パルプ産業が劣勢に立たされることが多くなった.これ
セルロースと酢酸を有用な副産物に変え,しかもセルロー
は世界的な趨勢と見てよいであろう.国内の紙パルプ産業
スパルプの収量をさほど落とさないことだ.経済的にも実
も今後カスケード利用のさらなる高度化などを通して,一
行可能な段階に来ているという.
層の競争力の強化が求められると思う.
もう一つの高度利用は黒液のガス化である.黒液はこれ
世界の市場がそのように動いているなら,それに従うし
までトムリンソンの回収ボイラで直接燃やされていたが,
かない.しかし FIT の制度は市場機構へのあからさまな
これをガス化すると水素と一酸化炭素からなる合成ガスが
政府の介入である.木質バイオマスの発電利用を政策的に
生産され,さらに触媒で改質すれば多様な化学製品や輸
支援するのは,温暖化防止や脱化石燃料・脱原子力の視点
送燃料(エタノール,メタノール,ディメチルエーテル,
から望ましいことには違いないが,結局のところ木を燃や
FT ディーゼル)になるだろう.
すことであり,木材のカスケード利用の短絡化に繋がりや
すい.
7.結びにかえて
木材は人類が最後まで頼れる再生可能な資源である.鉱
わが国での木材パルプの製造は 1890 年に始まった.天
えられながら文明を維持することになるであろう.木材が
竜川水系の森林からモミやツガを伐り出して亜硫酸パルプ
限りある生物資源である以上,カスケード利用は絶対の条
がつくられたという.しかし製紙工場は大量の木材を消費
件だ.
物資源が枯渇した後も,木材がもたらす多面的な便益に支
するため,国内の資源だけではとても賄いきれない.第二
次大戦前では北海道・樺太に原料を求め,戦後は 60 年代
の前半から北米などから大量の木材チップを輸入するよう
付記
になった.この 20 年来,パルプ材の輸入比率は 70 %前後
木質バイオマスのエネルギー利用に関するより一般的な
で推移している.
論議については下記の拙稿を参照されたい.「中山間地に
北米や北欧の製紙会社はおおむね自国の森林資源をベー
おける木質エネルギービジネスの展望」『山林』(大日本
スにして事業を展開してきた.しかるに,わが国の場合は
山林会)2015 年 9 月号,「FIT 制度の下での木質バイオマ
海外資源への依存度が非常に高い.国内の林業関係者から
ス発電:ドイツと日本の比較」『日本エネルギー学会誌』
すれば,日本の製紙会社は国内の森林・林業を育てるとい
2015 年 11 月号(掲載予定)
う視点を欠いたまま,輸入チップと国産チップを天稟にか
[22]
日本印刷学会誌