機能性ナノファイバー電極材の創製とエネルギー変換素子・センサーへの

機能性ナノファイバー電極材の創製とエネルギー変換素子・センサーへの応用
研究概要
耐薬品性、耐熱性、強靱性、耐放射線性などのハイ
パフォーマンス性を有する高性能なナノファイバーマット、さらに、
そのハイパフォーマンス性を有し、電子伝導層が導入され
た導電性ナノファイバーマットの創製とその一連の創製
手法を確立する。ナノファイバーの特徴である、超比表
面積効果、超分子配列効果から高性能なアクチュエー
タ、太陽電池、センサーなどへの応用性につなげる。
従来に無い、革新的で高性能な機能性ナノファイバーマットの創製とその応用をめざす。
研究成果
●高性能(ハイパフォーマンス)なナノファイバーマットを創製
(1) 耐薬品性、耐熱性、強靱性、耐放射線性などのハイパーフォマンス性が期待できる共重
合体を得るために、置換基の構造を変化させた各種の芳香族ポリイミドスルホン酸共
重合体を合成し、それらの溶媒溶解性を整理した。
(2) エレクトロスピニングの紡糸溶液として利用できる有機溶媒に可溶な芳香族ポリイミドスルホ
ン酸共重合体の構造を見出した。エレクトロスピニングの紡糸条件によりビーズの発生が
極めて少ないナノファイバーが生成することを明らかにした。
●ハイパフォーマンスな導電性ナノファイバーマットを創製
(3) 導電性高分子の特徴を活かした導電性ナノファイバーマットを得る方法の確立のために、
導電性高分子のモノマーをナノファイバーに一旦吸着させて、酸化重合させる手法を確立
した。フレキシブルで強靱性に優れる導電性ナノファイバーマットが得られた。
(4) 金属種の特徴を活かした電子伝導層を導入する方法を確立するために、無電解
めっきによる金属層による導電性ナノファイバーマットの創製を行い、この方法の特徴と
課題を整理した。
●ナノファイバーマットの製造や遊離のための器具やジグを開発
(5) 少ない原料でも確実にエレクトロスピニングできるアタッチメントを開発した。また、生成したナノ
ファイバーマットを巻き取り器からよりダメージを与えずに、より簡単に脱離できる方法を
工夫し治具を製作した。
(6) 製造したナノファイバーマットをサポーターからスムーズに遊離させる方法、及び、機能化への後
続化学反応でマットを傷つけずに処理できる方法を見出した。
まとめ
●本研究の要となる、ナノファイバーマットの創製戦略として、成果として一連の創製手法の流れを確立した。今後、
原料の共重合構造を変化させた、より高性能な構造をめざすナノファイバーマットの創製、導電性高分子のモノマー構
造を変えた導電性高分子との複合化による多様な導電性ナノファイバーマット複合体の創製、さらに、無電解めっ
きによる金属種の特徴を活かした導電性ナノファイバーマットの創製について実際的に創製できる状況になった。
研究名 「機能性ナノファイバー電極材の創製とエネ
ルギー変換素子・センサーへの応用」
庄司 英一(福井大学)
畑下 昌範(若狭湾エネルギー研究センター)
高木 進 (セーレン株式会社)
平成26年度公募型共同研究
機能性ナノファイバー電極材の創製とエネルギー
変換素子・センサーへの応用
報
告
書
研究責任者:庄司英一(福井大学大学院工学研究科)
共同研究者:畑下昌範(若狭湾エネルギー研究センター)
共同研究者:高木
進(セーレン株式会社)
目
1.緒 言
次
----------------------------------------------------------------
1
1-1. 研究概要 -------------------------------------------------------
1
1-1-1. ナノファイバーとは -----------------------------------------------
1
1-1-2. ナノファイバーの効果 ---------------------------------------------
2
1-1-3. 超比表面積効果 ---------------------------------------------
2
1-1-4. ナノサイズ効果 -------------------------------------------------
4
1-1-5. 超分子配列効 -----------------------------------------------
4
1-2. これまで得られた成果 -------------------------------------------
5
1-3. 本研究の内容 ---------------------------------------------------
5
1-4. 本研究の必要性や新規性について ---------------------------------
6
1-5. 構想に対する見解 -----------------------------------------------
7
1-6. 具体的な研究方法 -----------------------------------------------
7
1-7. 本研究で創製する機能性ナノファイバーの特徴 ---------------------------
8
1-8. 高分子電解質の静電反応場を利用する無電解めっき -----------------
9
2.実験方法 -------------------------------------------------------------- 10
2-1. ポリイミドスルホン酸の合成--------------------------------------------- 10
2-2. ナノファイバーの製造方法 --------------------------------------------- 11
3.実験結果 -------------------------------------------------------------- 12
3-1. ポリイミドスルホン酸の構造と溶媒溶解性 -------------------------------- 12
3-2. ナノファイバーマットの創製
--------------------------------------------- 13
3-3. 導電性高分子を電子伝導層とする導電性ナノファイバーの創製-------------- 14
3-4. 無電解めっきによる金属層による導電性ナノファイバーマットの創製
------- 15
4.本研究のまとめ -------------------------------------------------------- 16
5.将来展望 -------------------------------------------------------------- 16
1. 緒 言
1-1. 研究概要
直径が 1∼数百 nm で長さ
が直径の 100 倍以上ある繊
維をナノファイバーと呼ぶが、こ
のサイズは可視光波長より短
い、バクテリアより小さい、ウイルス
と同程度の大きさであり
(図 1)、このサイズから興味あ
る特徴として、①超比表面
積効果、②ナノサイズ効果、③超
図 1 物質の大きさの比較
分子配列効果が発現する。
即ち、①超比表面積効果では、比表面積が大きいため吸着性、接着性、分子認識性の向上が期待で
きること、②ナノサイズ効果では、可視光波長の関係から透明性が高くなること、③超分子配列効果で
は、分子のファイバー方向の配向から高強度、高電気伝導性、高熱伝導性などの機能が発現し、マイクロファイ
バーには見られない多くの特徴が期待できることがナノファイバーの特徴である。 ナノファイバーを用いた素
材の市場は第三ミレニアムの画期的な材料といわれ、今後 10 年間で最も急成長を遂げると言われる。
本研究ではナノファイバーの高性能化および機能化を図る創製面での工夫から、機能性、導電性を有
するナノファイバーの創製とその応用をめざす。具体的には、上述の超比表面積効果、ナノサイズ効果、超分
子配列効果をねらって、電子伝導性や分子認識性を附与させた機能性ナノファイバー電極材を創製する。
創製により得られたナノファイバーは、新しい電極材として、高分子アクチュエータの湾曲性能向上、色素増感
型太陽電池の高効率化、さらに、分子認識センシングエレメントとしての応用につながる(図 2)。
エネルギー・通信
工業・環境
医療
太陽電池
燃料電池
有機 EL 素子
電子ペーパー
高強度ワイヤー
軽量衣料
ナノフィルター
DDS
人工血管
繊維芽細胞
分子認識センサー
図 2 ナノファイバーの応用性
1
ナノテクノロジーの世界市場は世界市場規模 300 兆円、国内市場は 26 兆円とも言われている。エネルギー
面では太陽電池の世界市場は 3.6 兆円、メカトロニクス部品の市場規模は 1.7 兆円、センサーデバイス市場は
4.5 兆円ともいわれており、本研究で検討する高分子アクチュエータ、太陽電池、センサー、導電性材料の高性
能化はこれらの市場に大きく関わるものである。
1-1-1. ナノファイバーとは
ナノメートルは 10 億分の 1
メートルという超微小なスケー
ルである。ナノサイズという
目には見えない世界で、
原子や分子が特別な振
る舞いをすることが知
られている。 直径がナノ
メートルサイズに制御されたナ
ノファイバーは、ナノサイズ故の
表 1 ナノファイバーの効果と用途
効果
表面積
表面積が非常に大きく、吸着性能が高い
スリップ
分子流がナノファイバー付近でスリップし、圧力損失が小さく
なる
空孔
小さな空孔が分子の振るいわけをする
光
直径が光の波長より小さく透明性が高い
表面張力
表面張力が小さく、撥水性が生じる
滑り
材料間の滑りが増大する
サブミクロン捕集
サブミクロンサイズの粒子が捕獲できる
超分子配列
分子の規則的な配列が起きる
用途
吸着剤、イオン交換体、
ゲル材、電極、スーパーキャパシタ、
DDS
エアフィルター、分離材料
センサー、DDS
有 機 EL 、 セ ン サ ー 、 電 子 ヘ ゚ ー
パー、偏光板
コーティング材、塗料
複合材料、航空機
エンジンフィルター、エアコン、空気清
浄機
高強度材料、建築資材、自
動車、ディスプレイ
効果と、高分子の特徴を
うまく活用することで、産業の高度化を目指せる最先端材料として期待されている(表 1)。 医療、
情報、建設、省エネなどの様々な分野で実用化するためには機能的で高性能なナノファイバーを創製する
ことは重要である。
ナノファイバーは一般的には直径が 1∼数百 nm
で長さが直径の 100 倍以上の繊維物質と言わ
れる。正確には、直径がナノサイズのファイバーと中身
の構造がナノサイズであることに分類される。インフ
ルエンザウイルスの大きさが約 100nm、大気汚染の話
題で登場する pm2.5 は粒子系が 2.5μm なの
でナノファイバーが如何に小さな繊維であるか実感
図 3 ナノファイバー市場の動向
できる(図 1)。 日本の繊維市場におけるナノファ
2
イバー関連事業の割合も徐々に増加し、今後は非常に大きな割合を占めると予測されている(図 3)。
ナノファイバーはポリマーの種類や特徴に応じて多様に作成できる。独自の機能性を持たせたものや、日本
の高度な産業との協業によりナノファイバーの活躍が期待できる(表 1)。 ナノファイバー市場は 2015 年度を
期に本格的に立ち上がると考えられている。米国では世界に先駆けて研究が進んでおり、論文数
や特許が急激に増えている。高性能繊維、ナノファイバー共に市場は拡大し、数年以内にナノファイバーの時代
が到来すると考えられている。
1-1-2. ナノファイバーの効果
ナノファイバーはナノサイズならではのいくつかの効果を有し、この効果を活かした様々な用途が考えら
れている(表 1)。その中でも特に 3 つの固有の効果とされているのが超比表面積効果、ナノサイズ効
果、超分子配列効果である。
1-1-3. 超比表面積効果
比表面積とは単位重量あたり
の面積であり、前表面積を重量で
割った値である。同じ重量の場合、
繊維直径が 50nm の繊維 100 万本
が 50μm の繊維と同等の太さで
あり、その表面積は 1000 倍であ
る(図 4)。多くの高分子は水酸基
やアミノ基といった官能基を持ち、
分子や細胞と反応する。ナノファイバー
図 4 超比表面積効果
は表面積の大きさ故に非常に多
くの官能基を担持させることができ、分子認識性や吸着性を高めることができる。この効果から
分子認識センサーやフィルターの感度や効率の向上を目指すことができる。 超比表面積効果から生じる特
性として、分子認識性と吸着特性がある。分子認識性とは、ナノファイバーの表面で外部にある特定の分
子、微粒子、細胞などで選択的に識別することを指す。 比表面積が 1000 倍であること、つまり、マイ
クロファイバーの表面に 1000 箇所の官能基があるとすると、ナノファイバーの表面には 100 万箇所の官能基
3
を持つことになるため、ナノファイバーは非常に多くの物質と反応できる。 吸着特性とは、表面積が増
大することで多くの物質を吸着できることである。 例えばナノファイバーをフィルターとして利用した際、マ
イクロファイバーのフィルターに比べて 1000 倍の能力を有することになる。
1-1-4. ナノサイズ効果
可視光線の波長は約 400nm∼800nm であり、ナノファイバーの直径が可視光の波長に相当する直径を
有していることになる。 直径がナノサイズであるがゆえに、流体力学特性と光学特性に特徴が見られ
る。 例えば、気体等の流体がナノファイバーに接して流れるとき、接点の流速がゼロにはならずスリップフロー
という効果を起こすことが知られる。 これは空気が滑りやすくなる現象で、ナノファイバーがフィルターと
して利用された場合には圧力損失が低減される。さらに気体だけでなく液晶等がナノファイバーに接し
ているときもミクロファイバーと比べ摩擦抵抗が小さい。これは電子ペーパーにおいて液晶の駆動を滑ら
かにすることができる。また、ナノファイバーの直径は光の波長より小さく、ナノファイバーを通る光の乱反射
が低減され電子ペーパーの透明性を高める。
1-1-5. 超分子配列効果
ナノファイバーは多くの高分子鎖が集合し分子間力が働くため、ナノファイバー内部の高分子がまっすぐ並
び、電気的特性、力学的特性、熱的特性などに特徴が発現する。 例えば、導電性の原子や分子を規
則正しく並べ電気輸送量を高めたり、配向度や結晶化度の高まりにより、引張強度を向上するこ
とが可能となる(図 5)。電気的特性の例として、カーボンナノファイバーやカーボンナノチューブ、導電性ナノファイバー
があげられる。ナノファイバーでは、導電性の原子や分子を規則正しくまっすぐに並べられることから、
図 5 超分子配列効果
4
電流輸送量を銅線の 1000 倍程度にすることが可能であり、非常に導電性に優れたナノファイバーを作
ることができる。力学的特性、熱的特性はナノファイバー内で高分子がまっすぐに並んでいることから、
引張り強度が非常に高くなり、耐熱性も向上することが期待され、高性能ファイバーを作ることがで
きる。 この高性能ファイバーは、将来宇宙エレベータを製造する際、ロープの素材として期待されている。
1-2. これまで得られた成果
平成 20-22 年度において「高分子・化学系アクチュエータの複合電極材創製と作動特性に関するイオンビー
ム照射効果」、平成 23-25 年度は「イオンビームによる高分子・化学系アクチュエータのパターン化複合電極材の創
製と応用」というテーマで若狭湾エネ研公募型共同研究を実施した。アクチュエータの性能向上や機能化に有
効なことを示し 3 年間で 2 件の特許申請を行った。イオンビームにより表面を改質し、その後無電解
めっきを施すという発想から、汎用の無電解めっき技術による新しいパターン化方法を見出し特許
を登録できた。①イオンビームにより膜表面のフッ素原子やスルホン酸が脱離することを見出した、②撥水性
が高まり、その表面改質部分に撥水性バリアが生じて無電解メッキを制御できることを見出した、③
ビームの照射時間と効果を見極めた、④高分子アクチュエータ電極のパターン化の知見を得た、⑤多チャンネル化アク
チュエータ用のプログラマブルバイポーラ電源装置を開発した、⑥白金の無電解めっき性に関する知見を整理
した、⑦低コストとなる高分子アクチュエータの創製を検討した、⑧高分子アクチュエータの応用としてマイクロポンプ
を試作し、毎分 100μL 以下の流量を実現した(特許出願済)。本研究は、新規電極材開発となる
『機能性ナノファイバー電極材』の創製からエネルギーとセンサー分野への応用をめざす内容であり、従来の高
分子アクチュエータをより低電位作動させる高感度化の工夫、色素増感型太陽電池の高効率化、さらに高
感度なセンサーを実現する目的でナノファイバーによる電極材を検討する。従来のナノファイバーの弱点を克服す
る高性能化として耐熱性、耐薬品性、耐放射線性、強靱性を向上させたナノファイバーの創製目標が背景
にあり、これを踏まえた機能性ナノファイバーの開発と応用をめざす内容を研究するに至った。
1-3. 本研究の内容
機能性ナノファイバーを不織布として作製する方法を検討し、将来的に、前述のナノサイズ効果からエネル
ギー変換デバイスとして高分子アクチュエータや太陽電池電極の性能向上を検討できることを目標とする。
またセンサーとして特に分子認識性のセンシング能を有するナノファイバー電極の可能性についても検討する。
5
①耐熱性・耐薬品性・強靱性を向上させた高性能ナノファイバーの創製
耐熱性・耐薬品性・強靱性に優れる高分子構造として、一連の芳香族系ポリイミド構造を合成する。
申請者の有する合成知見を活かし、特に溶媒溶解性に優れる極性基を有する構造について検討す
る。ナノファイバーはエレクトロスピニング装置を用いて静電紡糸して不織布として製造する。合成したポリイミド
構造が静電紡糸に利用できる溶媒に可溶性となる構造を見極める。また、今後、生成したナノファイバー
を機能化していく上で、うまく取り扱えるように、ファイバーマットとして単離できる方法を検討する。
②高性能ナノファイバーの特徴を活かした導電性ナノファイバーの創製
①で得られた構造のナノファイバーの表面に無電解めっきを施して導電化させて、耐熱性・耐薬品性・
強靱性に優れる、導電性ナノファイバーの創製を検討する。この創製の戦略において、高分子構造にアニオン
性の置換基としてスルホン酸を導入させたポリイミド構造とすることで、申請者が知見を有する静電反
応場を利用した無電解めっき技術などから多角的に検討を進める。
③導電性高分子の特徴を活かした機能性・導電性・分子認識性ナノファイバーの創製
導電性高分子を電子伝導層としてナノファイバーに導入することができれば、導電性高分子の機能上
の特徴がナノファイバーに附与出来るが、静電紡糸法では導電性のものを紡糸することは困難なので紡
糸の戦略に工夫が必要である。そこで、導電性高分子の不導体構造を静電紡糸して紡糸後に導電
性を発現する方法、導電性高分子の各種モノマーを補助ナノファイバーに分散させるように紡糸して、酸化
処理により導電性を附与させる方法などを検討する。この方法が見極められれば、例えば、糖類を
認識できるポリアニリンボロン酸を電子伝導層として、非酵素系のグルコース認識ナノファイバー電極の創製の可
能性につながる。
1-4. 本研究の必要性や新規性について
今日、エレクトロスピニング法によるナノファイバーナ不織布の作製に関する文献は増加の一途であるが、多く
の場合、ナノファイバー自体の耐熱性や耐薬品性、さらに強靱性を附与させた切り口での議論が少ない
状況にある。また、ナノファイバーに電子伝導性を附与させる場合、コアとなるナノファイバーに強度がないと、
金属層などでめっきした場合は、ファイバー全体が脆くなってしまう。こうした点をよく踏まえ、本研
究での必要性と新規性は以下の通りとした。
6
①簡便な静電紡糸法により耐熱性・耐薬品性・強靱性に優れる高性能なナノファイバーを得る。
②高性能化したナノファイバーにさらに電子伝導層を附与させて機能化をはかる上で、コアとなるナノファイ
バーの化学構造上の特徴を活かした電子伝導層の導入を検討する。
②の検討は、将来的に導電性高分子によるアクティブセンシングエレメントとしての特徴を活かして分子認識セ
ンシング・ナノファイバーを創製することにつながる。
1-5. 構想に対する見解
本研究は、ナノサイズのファイバーが発現する特徴を活かした機能性ナノファイバー電極材の創製と応用をめ
ざすもので、エネルギー変換とセンサー分野への応用のニーズに応える内容である。エネルギー変換では力学エネル
ギーへの変換としてより低電位で作動する高分子アクチュエータ、および、色素増感型太陽電池について
変換効率や作動安定性の向上、さらに、高感度センサーとして分子認識性を有するナノファイバー電極材な
どを検討しており、新しい要素技術の創出となる。研究責任者らはこれまでに高分子アクチュエータや電
気化学センサーに関する特許取得および研究成果を得ており、また、電極構造に関する学術的な成果
も有しており、今回、この技術的基盤をベースとして、パートナー企業との連携により世界トップレベルの技
術ノウハウを活用して開発することとしている。一方、ビジネス展開については、試作品での商用サービス
で市場性を見極め次第、従来品との差別化の方法を見極める必要がある。このため、福井大学の地
元での北陸テクノフェアなどで展示および試し売りを行い、反響を分析したい。次いで、企業ニーズや新規
ニッチ市場をねらって特に東京での、例えば東京ビッグサイトや幕張メッセ会場での大型見本市への参加も
検討するとしており、実用化展開の可能性は高いと期待される。
1-6. 具体的な研究方法
本研究は、研究責任者のナノファイバー技術、ポリイミド高分子の合成技術、導電性高分子の合成技術、無
電解めっき技術、共同研究者の無電解めっき技術、共同研究者の計測解析評価技術を駆使して本
研究を進め、今後多方面での応用が注目されている特徴的な機能性ナノファイバー電極材の創製をめざ
すものである。
7
①耐熱性・耐薬品性・強靱性を向上させた高性能ナノファイバーの創製
耐熱性・耐薬品性・強靱性に優れる高分子構造の骨格として、芳香族系ポリイミド構造を系統的に
合成する。特に溶媒溶解性に優れるポリイミド構造とするため、極性基を有する構造を検討する。得
られた高分子の構造を解析し、ナノファイバーはエレクトロスピニング装置を用いて静電紡糸により不織布とし
て製造する。合成したポリイミド構造が静電紡糸に適用できる溶媒に可溶性となる構造を見極める
必要がある。
②高性能ナノファイバーの特徴を活かした導電性ナノファイバーの創製
①で得られた高性能ナノファイバーの表面に無電解めっきを施し導電化させて、耐熱性・耐薬品性・強
靱性のある導電性ナノファイバーの創製を検討する。この創製の戦略において、高分子構造にアニオン性の
置換基としてスルホン酸を導入させたポリイミド構造とすることで、静電反応場を利用した無電解めっ
き技術から導電化を検討する。
③導電性高分子の特徴を活かした機能性・導電性・分子認識性ナノファイバーの創製
電子伝導層を導電性高分子によりナノファイバーに導入することを検討する。導電性高分子は金属
めっきにはないフレキシビリティーがあるので、ナノファイバーのような極細構造の上に金属をめっきする場合
には導電化後のファイバー全体のフレキシビリティーを損なわない可能性がある。導電性高分子を単純に直接
静電紡糸することは電気的な短絡の問題で紡糸が困難なので工夫が必要である。例えば、導電性
高分子の各種の機能性モノマーをナノファイバーに分散させる。その後、酸化処理により導電性を発現させ
る方法などを検討する。
①∼③のナノファイバーにおいては、本研究の実際的な創製戦略として、本年度では、機能性ナノファイバーマッ
トの製造方法の検討として進める。これは将来的なエネルギー変換素子(高分子アクチュエータ、太陽電池)やセ
ンサーへの応用につなげられるナノファイバーマットの創製として検討を進める。
1-7. 本研究で創製する機能性ナノファイバーの特徴
本研究で創製をめざすナノファイバーは、耐薬品性、耐熱性、強靱性を有する、いわゆるハイパフォーマンスな
性能を有するものである。この創製においては、エレクトロスピニング法によりナノファイバーを製造すること
8
から、原料となる高分子構造は紡糸溶媒に溶解する必要がある。そこで、まずハイパフォーマンスな性能を
引き出すための基本構造にはエンジニアリングプラスチック系の芳香族構造が重要であり、中でも、合成の実
績があることを考えた場合、本研究では芳香族ポリイミド系構造が好適である。しかし、ポリイミド構造
は共重合構造によっては有機溶媒に難溶性になるものが多い。そこで、溶媒溶解性の向上のため
に、電解質構造としてポリイミドスルホン酸基の導入について検討する。電解質構造にスルホン酸を選定する
ことは合成の容易さ、および、機能性を附与する点から好適である。すなわち、この芳香族ポリイミド
スルホン酸の構造を原料とすることは後続の機能化として電子伝導層の導入を検討する上で少なく
とも 2 つの利点がある。 一つは、金属イオンとの静電的相互作用の点である。即ち、金属層により導
電化を図る一般的な方法に無電解めっきがあるが、これは触媒となる金属錯体、あるいはめっき
金属のその金属錯体イオンが陽イオンであることから、被メッキ側の構造が負電荷を持つポリイミドスルホン酸の
構造であることは、そのドメインに静電的な吸着が容易となる。これはめっきが促進される効果が期
待できる。二つめの利点として、電子伝導層として導電性高分子を導入する際に、特に p 型ドーピン
グにより導電性が発現する導電性高分子の場合にはその導電性の安定化に寄与できる。すなわち、
ポリイミドスルホン酸のスルホン酸基が、導電性高分子が導電性を発現する際の主鎖上の正電荷を補償する
ドメインとなるために、そのドメイン中では導電性高分子のその導電性が安定化させる効果が期待でき
る。 導電性高分子はその導電性のために直接的なナノファイバー化をエレクトロスピニング法により行うこと
は電気的な短絡の問題がある。この問題は、ポリイミドスルホン酸を先にナノファイバー化させ、その後、そのナノ
ファイバーを導電性高分子により修飾することで電子伝導層を導入する。
1-8. 高分子電解質の静電反応場を利用す
る無電解めっき
高分子電解質は高分子鎖上に多くの解
離基をもつイオン性高分子である。今回使用
したポリイミドスルホン酸はポリアニオンであり、対イオ
ンとしてカチオンが存在する。この静電作用をイ
オン性物質の相互作用に着目すると、静電的
反応場としての応用が考えられる(図 6)。
図 6 静電反応場による無電解めっき
9
例えば、正電荷を有する金属錯体の場合、高分子電解質であるポリイミドスルホン酸の静電的相互作用に
よって金属錯体が内部に吸着される。還元剤の選択により、ポリイミドスルホン酸との相互作用から、図
6 のようにファイバーの表面で還元反応が起こるようにすれば、還元剤がファイバーの内部に入り込まず、
表面で金属錯体が還元され、表面層にのみ金属電極を生成することができる。また、プライマーとして
パラジウムなどの金属錯体の触媒を坦持させる場合も、錯体が正電荷を有する場合も効果的な吸着
が期待できる。この反応機構を高分子電解質の静電反応場を利用する方法として位置づけ、金属
層のめっき方法として利用する。
2.実験方法
2-1.ポリイミドスルホン酸の合成
エンジニアリングプラスチック(略称エンプラ)は、耐熱性と強度に優れたプラスチックをいう。強度にも種類があり、
エンプラは引張強さ、(曲げ強さ)、衝撃強さ、硬度、弾性率で高い値を示す。エンプラは大別すると、需要
の大きい汎用エンプラ、耐熱性や強度に優れているが需要の少ない特殊エンプラ(スーパーエンプラ)に分けら
れる。また、熱硬化性プラスチックにエンプラに相当する性質を持つものがあるが、熱硬化性プラスチックは充
填材により強度が大きく変化するので注意が必要となる。本研究で用いたポリイミド(PI)はこの熱
硬化性プラスチックに分類され、分子中にイミド基を有する高分子である。分子中に各種の基を導入する
ことによって、熱可塑性の性質を持つもの、熱硬化性の性質を持つものなど、様々なポリイミドが開
発されている。芳香族系ポリイミドは一般に、非常に高い耐熱性を示し、耐薬品性、寸法安定性、機械
的強度、耐放射線性に優れるエンジニアリングプラスチックとして産業分野に幅広く用いられている。ガラス転
移温度の高さに起因する高い熱安定性は、広い温度範囲での機械的安定性および寸法安定性につ
ながる。芳香族系ポリイミドの一群は高耐熱性プラスチックとして広く産業界で用いられているが、その
多くは不溶融、溶媒不溶性である。
本研究ではポリイミド構造の優れた性質に加え、電解質構造を導入して①溶解性の向上、②静電反
応場の附与を図る。電解質構造としては、解離度の高いスルホン酸構造とする。また、溶媒溶解性を向
上させるだけではなく、加水分解を受けにくい共重合構造の検討も必要である。そこで本研究で
は、共重合構造および組成比が構造新規となる、溶媒溶解性と水和状態での化学的安定性に優れ
た各種ポリイミドスルホン酸構造の設計を行った。溶媒溶解性を向上させる手法には、基本的に共重合構
10
造に自由回転の容易な折れ曲がり
骨格を取り入れること、スルホン酸基
の含有量を調整することなどが挙
図 7 芳香族ポリイミドスルホン酸類
げられる。従来研究から、ポリイミド
主鎖構造へのスルホン酸基の導入によって、非プロトン性極性溶媒、m-クレゾール等の合成溶媒へ溶解するこ
とが知られている。ポリマーの溶媒溶解性はその後の加工性に大きな影響を与えるため、優れた耐薬
品性を有するポリイミド骨格においても、重合や成膜に使用する溶媒に対してはより溶解性の高い
化学構造が望ましい。また、水和状態での化学的安定性を高めるために加水安定性が高いとされ
る六員環酸無水物を用いた。さらに、スルホン化度はポリイミド膜の膨潤性、機械的強度に多大な影響を
与えることが知られており、親水基であるスルホン酸基の導入は、溶媒溶解度と膜の膨潤度を向上さ
せるが、膨潤に起因する機械的強度の低下を誘引してしまう。そのため、共重合構造において、疎
水性の共重合構造と親水性の共重合構造の比を調整することで、適度な膨潤性と溶解性をもつポ
リイミドスルホン酸構造について検討を行った。図 7 に示すように、芳香族系モノマー(X)、二官能性モノマー(S)、
(R)を用いた共重合反応から種々のポリマーを得た。ここで、すべてのモノマーは昇華精製及び、再結晶に
より純度を高めた。得られたポリマーは再沈およびソックスレー洗浄処理後、非プロトン性極性溶媒および mクレゾールに対する溶媒溶解性を調べた。
2-2.ナノファイバーの製造方法
本研究ではエレクトロスピニング法によりナ
ノファイバーの創製を検討する。エレクトロスピニ
ング法は溶液紡糸であり、図 8 に示す
ようにシリンジに充填した高分子溶液に
プラスの高電圧を印加し、溶液がアースやマ
イナスに帯電したコレクターに射出される過
図 8 エレクトロスピニング装置の模式図
程で繊維化が引き起こされる。高電圧
下でノズルから溶液を噴射すると、その帯電液滴が溶媒を蒸発させ液滴の電荷密度を増加させて電
荷の反発により液滴の分裂が起こり噴射される。 噴射された溶液はさらに反発が大きくなり溶
液が引き伸ばされる。溶液の表面積が大きくなり溶媒が揮発するのでナノファイバーが形成される。 エレ
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クトロスピニング法では高分子溶液に高電圧を印加しなければならないため、高電圧発生器が必要とな
る。電圧が 30kv で電流量が 1mA 以下のもので十分であるが、電圧は可変できるものが必要である。
高分子溶液は 5kv を超える電圧で紡糸可能となる。電流量に関しては、通常 30μA∼1mA の電流量
があれば良いとされている。また、電圧の安定性はファイバーの作成にはほとんど影響しない。高分子
溶液を充填するシリンジは、ナノファイバーの観察が目的であれば 1mℓ の物で良い。本研究では少量のシリン
ジでも紡糸できるように独自のアダプターを作製した。シリンジ先端の注射針はノズルの役割を果たし、
プラス電極をクリップ等でつなぐので通常の注射針でよく、針の太さは 18G∼20G 程度が使いやすい。
針が細すぎるとエレクトロスピニングできない場合や得られるナノファイバーが少なくなることがある。コレクター
は噴射された高分子を受け止める役割を果たす。銅板にアルミホイルを貼り付けたものが一般的であっ
たが、ドラム型のコレクターを回転させて巻き取るものが多い。本研究では、できるだけ均一なナノファイバー
マットを創製したいので、ドラム型のコレクターとし、回転速度の調整、マットを簡便に脱離できるような治具
を作製したり、処理の方法を工夫した。ポリマー分子は溶液中である程度絡み合う必要があるためポ
リマーの分子量が低いとナノファイバー化は難しい。ポリマー溶液の濃度は低すぎると霧状にスプレーされ粒子
となり高すぎるとノズルから噴射できない。一般的には 5∼10wt%が試みられている。また、ポリマー溶
液はポリマーが溶媒に完全に溶解されていなければならない。ポリマーはノズルから噴射されコレクターに到
達するまでにナノファイバー化し、表面積が増大するため蒸気圧の低い溶媒でもある程度の蒸発は可能
である。
3. 実験結果
3-1. ポリイミドスルホン酸の構造と溶媒溶解性
本研究では共重合構造と溶解性の知見を得るために、種々のモノマーを用いて図 7 に示すような共
重合ポリマーを合成した。 共重合構造 R において、芳香族エーテル結合は構造の柔軟性や溶媒溶解性を
向上させる知見があるのでその構造を含むモノマーを検討した。 また、芳香族にメタ位の折れ曲がり構
造により芳香環の対称性を崩すことで溶媒溶解性の向上が期待できるので、その構造を含むモノマー
も含めた構造も検討した。 電子吸引性の高いスルホニル基を持たせることで、極性が上昇し溶媒溶解
性の向上を期待した構造も検討した。 高い疎水性を示す芳香環を含有し、その溶媒溶解性に与え
る効果を期待する構造についても検討した。 分極性や疎水性の高い含フッ素原子の構造、アルキル基を
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持たせることで溶解性の向上を期待した
構造も検討に加えた。 用いたモノマーは、昇華
精製や再結晶法により純度を上げた。共重
合反応において、疎水性側の共重合構造 R
と、親水性極性構造側の共重合構造 S の比
については、膨潤性や溶媒溶解性に関する
知見を踏まえて合成した。 合成したポリマー
は全て、ソックスレー抽出器を利用した独自の方
図 9 創製した高性能ナノファイバーの SEM 画像
法より精製した。
3-2. ナノファイバーマットの創製
エレクトロスピニングの紡糸溶媒に溶解するポリ
イミドスルホン酸共重合体を溶媒に溶解させ、エレ
クトロスピニング条件にて紡糸を試みた。加速電
圧、ターゲットへの距離、溶液濃度などを変化
させて、ポリイミドスルホン酸よりナノファイバーが生
図 10 遊離したナノファイバーマットの外観
成することを確認した(図 9)。ビーズの発
図 11 ポリイミドスルホン酸共重合体によるナノファイバーマットの FTIR スペクトル
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生が極めて少なく、良好にナノファイバー化された。また、高分子電解質のエレクトロスピニングにおいては、溶
液粘度と解離基の濃度が非常に重要である。 例えばパーフルオロカーボンスルホン酸(ナフィオン)の場合、単独で
はナノファイバー化が困難で、ナノスプレーになることが知られている。この場合、PEO などの紡糸されやす
いポリマーを補助ポリマーとして添加することで、ファイバー化を実現することが一般に行われるが、本研
究でのポリイミドスルホン酸では、イオン構造の濃度と共重合粘度により、紡糸条件により、補助剤なしでナノ
ファイバー化できることを明らかにした。 図 9 に平均直径が約 300nm として得られたナノファイバーの
SEM 写真を示す。 このナノファイバーはマット状で得られた。このマットを基材から脱離させる方法を考案し、
結果、水面に展開した状況を図 10 に示す。 このマットを構成するポリイミドスルホン酸の ATR 法による
FTIR スペクトルを図 11 に示す。 スペクトルからポリイミド構造、スルホン酸基の存在が示される。
エレクトロスピニングにより得られたこのナノファイバーマットは汎用有機溶媒の多くには溶解せず、また、マット
を基材から遊離させる際のハンドリングにおいて、破れにくいことを確認した。 これは後続の化学処
理のハンドリングにおいて極めて重要でなる。 XPS スペクトル測定からナノファイバーを構成する共重合構造
の C,N,O,S 原子の確認を行っている。
3-3. 導電性高分子を電子伝導層とする導電
性ナノファイバーの創製
得られたナノファイバーマットはその化学構造から
耐薬品性、強靱性、耐熱性を有するものであ
る。 このナノファイバーマットの機能化の一つとして、
電子伝導性の附与について検討を行った。
図 12 導電性ナノファイバーマットの SEM 画像
ナノファイバーに金属層を無電解めっきで、導電性
ナノファイバー化する方法は文献などでも報告さ
れている。この金属層による導電化の問題は、
金属層の硬さ、金属層の腐食、金属層のイオン化
による溶出などの電気化学的な問題がある。
この金属層に替わる方法として、本研究では、
導電性高分子による電子伝導層の附与を検
図 13 導電性ナノファイバーマットの外観
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討した。 導電性高分子のもつ大きな特徴の一つにフレキシビリティーがある。 ナノファイバーのように極細の
構造体のもつフレキシビリティーを損なわずに、全体として、フレキシブルな導電性ナノファイバーは魅力多い。 ポリイ
ミドスルホン酸というポリアニオン構造によりナノファイバーが形成されているので、特に p 型ドーピングで活性と
なる導電性高分子との複合化においては、導電性高分子が安定化される効果が期待できる。 導電
性高分子は電子伝導性のため、エレクトロスピニング法により直接的にナノファイバー化させようとすると電気
的な短絡の問題があり厄介である。 そこで、本研究での方法として、先に得られたポリイミドスルホン酸
共重合体によるナノファイバーマットを、導電性高分子のモノマーの酸性溶液に浸漬し、ナノファイバーマットに静電的
な吸着効果をねらって吸着させ、その後、酸化重合させることで導電性高分子を生成させ、結果、
ポリイミドスルホン酸ナノファイバーと導電性高分子との複合化を検討した。 アニリンをモノマーとして、酸性水溶液
中に溶解させ、先に得たナノファイバーマットを浸漬した。 その後、酸化剤を用いて、酸化重合を行い、後処
理反応の工夫から、ポリアニリンを導電性高分子とした導電性ナノファイバーマットを得た(図 12)。 反応処理
中のハンドリングにおいて、図 13 に示すこの導電性ナノファイバーマットは破れにくいことを確認した。 乾燥
後も、とてもフレキシブルであって多くの汎用有機溶媒に耐薬品性があることも確認した。
3-4. 無電解めっきによる金属層による導電性ナノファイバーマットの創製
金属層の無電解めっきによって導電化を図る場合、白金、ニッケル、銀、銅などによる無電解めっき
が可能であり、金属種の選定は重要である。 例えば、銀は金属の中でも柔らかく、めっき性も良い。
先のポリイミドスルホン酸のナノファイバーマットに、無電解めっき条件により、例えば、銀を使用することは抗菌
作用などの点でも特徴がある。 この無電解めっきでは、まずプライマーとして触媒層となる金属錯体
を吸着させた後、銀錯体の吸着、還元処理を行う。 高分子電解質ではない高分子ファイバーに比べて、
先のポリイミドスルホン酸ナノファイバーへのめっき速度におおきな差が起こることを確認した。得られた銀
による導電性ナノファイバーマットは表面の凹凸が目立つものとなった。 フィルム状の基材には均一に無電解
めっきを施せても、極めて表面積が大きく、極めて軽量でソフトなナノファイバーマットに無電解めっきによ
り金属層を導電化することは幾つかの課題を確認する結果となった。 表面の凹凸については、還
元処理において気体が発生することが要因である。 ナノファイバーマット自体の表面積が極めて大きいの
で、表面の気体発生が顕著となり、また、還元溶液のアルカリ性により膨潤が生じたために、表面の凹
凸が現れた結果となったと考えられる。無電解めっきの条件を色々変えて今回行った結果によれ
ば、この凹凸の生成は、還元溶液の pH を下げたり、濃度を下げる工夫、導入する金属錯体の浸漬濃
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度を下げる工夫などの反応条件の改良から、改善できると考察した。極めて表面積の大きな基材
であるナノファイバーマットにいかに均一に無電解めっきで所望の金属層が導入できるかは、検討の価値
が十分にあり、今後その詳細を見極めて行く予定である。
4. 本研究のまとめ
創製において、本研究では当初の計画通り、耐薬品性、強靱性、耐熱性をかねそなえたハイパフォーマン
ス性を有するナノファイバーマットの一連の創製手法を確立できたと言える。また、そのハイパフォーマンス性を有
するナノファイバーマットの機能化として、特に、電子伝導性を附与した導電性ナノファイバーマットを創製する一
連の創製手法も改良の余地はあるが確立できた。中でも、導電性高分子の特徴を活かした導電性ナ
ノファイバーマットを得る手法は今後、センサーデバイスなどを具体的に試作する上で大きな意味を持つ。以下、
本研究で得た成果をまとめる。
(1) 耐薬品性、耐熱性、強靱性、耐放射線性などのハイパフォーマンス性が期待できる共重合体を得るため
に、置換基の構造を変化させた各種の芳香族ポリイミドスルホン酸共重合体を合成し、それらの溶
媒溶解性を整理した。
(2) エレクトロスピニングの紡糸溶液として利用できる有機溶媒に可溶な芳香族ポリイミドスルホン酸共重合体
の構造を見出した。 エレクトロスピニングの紡糸条件によりビーズの発生が極めて少ないナノファイバー
が生成することを明らかにした。
(3) 導電性高分子の特徴を活かした導電性ナノファイバーマットを得る方法の確立のために、導電性高分
子のモノマーをナノファイバーに一旦吸着させて、酸化重合させる手法を確立した。 フレキシブルで強靱性
に優れる導電性ナノファイバーマットが得られた。
(4) 金属種の特徴を活かした電子伝導層を導入する方法を確立するために、無電解めっきによる
金属層による導電性ナノファイバーマットの創製を行い、この方法の特徴と課題を整理した。
(5) 少ない原料でも確実にエレクトロスピニングできるアタッチメントを開発した。また、生成したナノファイバーマット
を巻き取り器からよりダメージを与えずに、より簡単に脱離できる方法を工夫し治具を製作
した。
(5) 製造したナノファイバーマットをサポーターからスムーズに遊離させる方法、及び、機能化への後続化学反応
でマットを傷つけずに処理できる方法を見出した。
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5. 将来展望
本研究の要となる、ナノファイバーマットの創製戦略として、成果として一連の創製手法の流れを確立し
たことになる。 これは今後、共重合構造のバリエーションを変えて、より高性能な構造を有するナノファイ
バーマットの創製、導電性高分子のモノマー構造を拡張した他の導電性高分子との複合化による多様な導
電性ナノファイバーマット複合体の創製、無電解めっきによる金属種の特徴を活かした導電性ナノファイバーマット
の創製について創製できることになり、今後、創製は継続していく。 機能性ナノファイバーマットを実際に
利用して、分子認識できるセンサーデバイスを試作していく。 マットのハイパフォーマンス性を活かして、エネルギー関
連の用途にも活用し、デモンストレーションとなる試作品の開発に取り組む予定である。
ナノファイバーを用いた素材の市場は第三ミレニアムの画期的な材料といわれ、今後 10 年間で最も急成長
を遂げると言われる。 本研究ではナノファイバーの高性能化および機能化を図る創製面での工夫から、
機能性、導電性を有する『使える』ナノファイバーマットの創製とその応用をめざしている。ナノ構造が持つ、
超比表面積効果、ナノサイズ効果、超分子配列効果を引き出すために、電子伝導性や分子認識性を附与
させた機能性ナノファイバー電極材を創製し活用することは目標である。次のステージとして、創製により
得られたナノファイバーマットを新しい電極材とする着想から、湾曲性能向上をねらった高分子アクチュエータの
電極部分への応用、発電効率の高効率化をねらった色素増感型太陽電池の検討、さらに、センシングエレ
メントに分子認識性を持たせた高感度な分子認識センサー、ニオイセンサー、味覚センサーとしての応用について検
討していきたい。ナノテクノロジーの世界市場は世界市場規模 300 兆円、国内市場は 26 兆円とも言われ
ている。エネルギー面では太陽電池の世界市場は 3.6 兆円、メカトロニクス部品の市場規模は 1.7 兆円、センサー
デバイス市場は 4.5 兆円ともいわれており、本研究で検討する高分子アクチュエータ、太陽電池、分子認識セ
ンサーにつながる導電性材料のナノテクによる高性能化はこれらの市場に大きく関わるものである。
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