「 労働安全衛生研究 」, Vol.8, No.1, pp.49-53, (2015) 調査報告 振動型静電界センサ内の送風の電界強度計測への影響 † 野 蝼 直 人 *1 鈴 木 輝 夫 *1 崔 光 石 *2 山 隈 瑞 樹 *2 産業現場において,振動型静電界センサは粉体の静電気安全管理の器具として活用されている.本研究では, 粉体の浸入の防止策である送風が静電界センサの計測値に及ぼす影響を調べた.帯電物体を模擬した帯電板を用 意し,静電界センサ内を送風しながら,送風圧力,平行平板電極間の電界強度(計算値) ,静電界表示器の計測 値の 3 つのパラメータを用いて調べた.実験結果から,送風圧力の影響により,静電界表示器の計測値は,平行 平板電極間の電界強度(計算値)と同値とはならなかった.また,送風圧力の影響により,零点がずれると共に, 電界強度の検出が低下した.これらの主な原因は,チョッパの振幅が送風圧力の影響を受けていることであった. キーワード :静電界センサ,静電気,粉体,電界強度,送風 1 序論 表示回路によって,電界強度 E [V/m] を計測する. 粉体プロセスでは,粉体が容器・配管などの壁との摩 実験装置の概要を図 2 に示す.本実験装置は,主に, 擦が繰り返されて,強く帯電する場合がある.それに起 静電界センサ(春日電機(株) ,KSF-0201(図 3) ) ,静 因した着火・爆発事故が発生する危険性がある. そのため, 1 電界表示器(春日電機(株) , , 平行平板電極, KSV-800AP) 静電気の安全管理が不可欠である.粉体の静電気を安全 直流高電圧電源(春日電機(株) ,AKTP-25 ,エア 1PN) E 1 に管理する上で重要となる物理量は電荷量と電界強度で ある.粉体の電荷量を計測する方法として,ファラデー コンプレッサ( (株)日立製作所,7.50P-7V) ,エアドラ E イヤ(CKD(株) , RD2008-AC100V)で構成されている. ケージ法が挙げられる.しかし,粉体のサンプリングが ᖏ㟁≀య 必要なことや,現場においてリアルタイムで長期連続計 測を実施することは容易ではない.一方,帯電粉体が形 成する電界強度を計測する方法として,静電界センサ 1) による計測が挙げられる.静電界センサで一般に使用さ 䝏䝵䝑䝟 れているものが振動型静電界センサ 2) である.しかし, 振動型静電界センサで帯電した粉塵雲を計測する場合, 界センサ内を送風することで静電界センサ内への粉体の 㟁⏺ᙉᗘ 㻱㻜㻌㼇㼂㻛㼙㼉 䝏䝵䝑䝟 ㄏᑟ㟁Ⲵ ᳨ฟ㟁ᴟ 㼝㻌㼇㻯㼉 粉体が静電界センサ内に紛れ込んでしまい,計測不能状 態に陥ってしまうことがある.その打開策として,静電 㻱㻜 㻌 ⾲㠃㟁 䃥㻜㻌㼇㼂㼉 㻰㻚㻯㻚 㻴㻚㼂㻚 㻰㻚㻯㻚 㻴㻚㼂㻚 ኚ㟁ᅽ 㼂㼟㻌㼇㼂㼉 浸入を防ぐことにした.しかし,送風によって,静電界 ᢠ 㻵㼟㻌 㻾㼟㻌㼇䃈㼉 ኚ㟁ὶ 㻵㼟㻌㼇㻭㼉 センサの計測値が乱れてしまうことが懸念された.ここ では,その送風による電界強度の計測値への影響を定量 的に調べたので,その結果について報告する. 図 1 振動型静電界センサの構造図 2 実験装置および方法 本実験に使用した振動型静電界センサの構造を図 1 に 䐣 P [MPa] 示す.静電界センサが測定する電界は,帯電物体と静電 界センサの検出電極の間に,かつ,検出電極の表面に対 2 して主に垂直方向に形成したものである. 䐡 電界検出の原理は,チョッパが振動することによって, 0.0kV/cm 検出電極に入る電界が変化し,検出電極に誘導される電 2 Et [kV/cm] 荷 q [C] が生じるものである.従って,dq / dt =I s となる ので,変位電流 I s [A] が検出電極と接地間に流れること になる.I s を抵抗 R s [Ω] によって,変位電圧 V s [V] に変 換する.V s の増幅回路, 符号判断回路, 平滑回路を経た後, I 䐟 䐢 䐤 Em [kV/cm] I † 原稿受付 2014年10月30日 I † 原稿受理 2014年12月11日 J-STAGE Advance published date: January 16, 2015 *1 春日電機株式会社 I *2 (独)労働安全衛生総合研究所 電気安全研究グループ 連絡先:〒204-0024 東京都清瀬市梅園1丁目4番6号 I (独)労働安全衛生総合研究所 電気安全研究グループ 崔 光石 IE-mail: [email protected] 䐠 図 2 実験装置の概要図 ( ①帯電板,②直流高電圧電源,③静 電界センサ,④接地板,⑤圧力計,⑥静電界表示器 ) Et E Em P E P P P 50 E E 15 Et P Em [kV/cm] 10 P Et Em Em 5 P Em Et 0 -5 0 10 mm 0.05 0.1 0.15 0.2 P [MPa] Et =ࠉ 0.0kV/cm Et =㸩 2.0kV/cm Et =㸩 4.0kV/cm Et =㸩 6.0kV/cm Et =㸩 8.0kV/cm Et =㸩10.0kV/cm 図 3 振動型静電界センサ EE Et m m の変化(E t; +の領域) 図P 4 P に対する P Em Et 静電界センサを平行平板電極の接地板の中央に設置した. 3 静電界センサから出力した信号を静電界表示器で, Et P EmE と 5 して計測した.平行平板電極は帯電板と接地板からなる. Et Em 帯電板は,帯電物体を模擬し,直流高電圧電源により, Em Em [kV/cm] 平行平板電極間に高電圧を印加し,電極間電圧 V =- Et 10.0 ~+ 10.0 kV の範囲で 2.0 kV ずつ変化させた.実験 は,静電界センサ内の送風圧力 P [MPa],平行平板電極 Et Em 間の電界強度(計算値)E t [kV/cm],静電界表示器の計測 Et P Em 3 3 実験結果および考察 P Et Em E P PEを変化させた時の E t E t をパラメータとして, E Et m t Et Emm の変 Et E tEと 化について測定した.実験の目的は,本来, m EmE m が E 同値になるはずであるが,送風することによって, Em を E E P m m t Et Et E t と比較すると異なる値となる可能性があるので,その E ことを詳細に調べることである. P Et Em Et , E t Eと 本実験では,始めに,送風なしの状態で E m Em に 関して,零点調整 Et±0.0 kV/cm を行い,その後,増幅具合 Em Et の調整+ 5.0 kV/cm,- を行った.較正後, 5.0 kV/cm P P Et P E P を変化させ 実験条件で指定した E P t に固定し,連続で E t Em ながら, E EEt mE m を測定した.それらの実験結果をまとめ,図 Et Ett; +の領域),図 5(EEtt; -の領域)に示す. 4(E これらのことから,以下の Em E3t つのことが分かった.① P Em E mEと P EP が 送風を行うことにより, t E t にずれが発生し, E Et = 強くなるほど,その影響が大きくなった.例えば, P P P =0.00,0.10,0.20 MPa と変化さ - 10.0 kV/cm では, E E Em = - せると, Et 10.2,- 6.3,- 3.8kV/cm Emまでずれた. Et -5 P Em Et -10 値 E m [kV/cm] の 3 つのパラメータについて行った. 3 0 -15 0 P 0.05 0.1 0.15 0.2 P [MPa] Et =ࠉ 0.0kV/cm Et =㸫 2.0kV/cm Et =㸫 4.0kV/cm Et =㸫 6.0kV/cm EE Em t Et =㸫10.0kV/cm t =㸫 8.0kV/cm Et P Et EE mm 図P の変化(EEt;t −の領域) 5 P に対する P Em Et Em Et れは上記の実験と同様である.但し,追加手順として, P を変化させると零点がずれてしまうので,設定した P Et Em Et で再度零点調整 ±0.0 kV/cm を行った後,実験条件で指定 P EP P P した E t を変化させて,E m を測定した.それらの実験結 P ,図 7(E t ; -の領域) 果をまとめ,図 6(E t ; +の領域) Et Em に示す. Et Et Em Et これらのことから,以下の 3 つのことが分かった.① Et Et 送風状態で零点調整を行っても,E m と E t にずれが発生 した.つまり,送風状態で増幅具合の調整もしなければ Em Et Et E t が正から負に行くほど, EmE m とEE ②本実験では, t t との P P ならない.② E t を大きくするほど, Em EEmt と E t とのずれが 10.0 kV/cm MPa に変化する時,E t =E+ 10.0,±0.0,- E ,+ 6.0,+E10.0 kV/cm と変化させると, Em EEt m のずれは, t + 6.4 kV/cm と変化した.③零点も送風の影響を受けた. (16 %)kV/cm と変化し,検出低下率は E t に依存しなく, ずれが大きくなった.例えば, E PP=0.00 MPa から P =P0.20 E の順に条件を変更すると,E m のずれは,+ 2.0,+ 4.3, 具体的に P =0.00 MPa から P =0.20 MPa に変化する時, E m は,+ 4.3 kV/cm のずれが発生した. 大きくなった.例えば, P =0.20 MPa の条件で, E t = + 2.0 Et Em Et P E ,- 1.1(18 %) , - 0.3(検出低下率 E m / EPt;15 %) E- 1.6 2 割前後であった.③ P が強くなるほど,その変化の度 合いが大きくなった.例えば,E t = + 10.0 kV/cm の時, 次に,上記の実験結果より,詳細に零点調整の影響を P =0.00,0.10,0.20 MPa の順に条件を変更すると,E m 調べるために追加実験を行った.実験手順の大まかな流 = + 10.1,+ 9.2,+ 8.4 kV/cm と変化した. 「労働安全衛生研究」 P P E 51 60 10 40 8 Vs [mV] Em [kV/cm] 12 6 4 -40 0 Et 0 -20 2 -2 0 20 2 4 6 8 Et [kV/cm] P =0.00MPa P =0.05MPa P =0.10MPa P =0.15MPa Em Et P =0.20MPa -60 0 10 P 1 2 3 t [ms] P =0.00 MPa㸦㏦㢼࡞ࡋ㸧 Et P =0.20 MPa㸦㏦㢼࠶ࡾ㸧 4 図 8 P の強さに対する V s の波形の変化(E t = - 10.0 kV/cm) P 図 6 E t に対する E m の変化(E t; +の領域)(指定する P の強 Et E Et さ毎で再度零点調整 )m P Et P である.図 9 に示すように,チョッパの振動と送風の向 Em [kV/cm] P 2 きは垂直な関係にある.チョッパ部分を拡大して,高速 P 0 度カメラで撮影した動画の静止画を図 10 に示す.左右の 縦型長方形がチョッパである.チョッパの角の上端の 2 -2 点(追跡点 a,追跡点 b)の振幅状況について,動画解析 -4 ソフトウェア(PFA, (株)フォトロン)を用いて同デー -6 タを 3 回解析して平均値を調べた.実験結果を図 11 に示 -8 す.チョッパは矢印方向 1,2 の動きを交互に繰り返して 振動する.実際の静電界センサでは,チョッパ部分が金 -10 -12 -10 属円筒で覆われて撮影出来ないため,可視化可能なアク -8 -6 -4 -2 Et [kV/cm] P =0.00MPa P =0.05MPa P =0.10MPa P =0.15MPa P =0.20MPa リル製の円筒を被せて模擬実験を行った.実験結果より, 0 チョッパの振幅 A [mm] は 10 - 1 mm オーダーであった. また,P が強くなるほど,A は小さくなった.具体的に, 追跡点 a の場合,P =0.00,0.01,0.02,0.03 MPa と変 化 さ せ る と,A =0.551,0.469,0.441,0.397 mm と 変 図 7 E t に対する E m の変化(E t; −の領域)(指定する P の強 E Et Et さ毎で再度零点調整 )m P 化した.P =0.03 MPa の A を A P =0.00 MPa の A と比較 P A すると,27.9 % 小さくなった.追跡点 b も追跡点 a と同 A P A 以上の実験結果から, E t とず P E m が P の影響によって A P A P れてしまった理由について述べる. P P による E m のずれ A の現象は以下の 2 つが考えられる. A 様な傾向が得られた. 始めの実験と追加実験を行ったことにより, Em が P E E E Et Em Et の影響を受けることが明らかとなったため,静電界セン Em P P P サからの出力信号 V s [mV] に関する P の影響について検 証実験を行った.V s は静電界センサの検出電極の信号を P E P Em P オペアンプ IC で用いた増幅回路よる信号である.V s を オシロスコープ(RECROY(株)製,454)でサンプリ P P ① E m の検出の低下 P A P E P E A が小さくなり, E m の絶対値が小さ P が強くなると, A P E くなる. ング周波数 200 kS/s にして波形を観測した.実験結果を ②零点の移動 図 8 に示す.実験結果から,V s は,P の有無に関らず共 E t = ± 0.0 kV/cm でも,チョッパを振動させる回路の P E 影響を受けて V s に正弦波が流れる.P の影響を受けて A に周波数が 1 kHz であったことから,周波数には P の影 響がないことが分かる.このことから,オペアンプ IC の E P E が小さくなるため,元の零点の位置からずれてしまい, 周波数特性よる増幅回路の増幅度の違いはないと判断出 零点の移動が生じる. 来る.しかし,V s の振幅は P の影響を受けて小さくなっ これらの現象から図 4,図 5 の E t に関しての P に対す た. る E m の変化の影響の受け方が異なっていた理由は,以 さらに,V s が P の影響を受けることが明らかとなった 下のように説明が出来る. ため,チョッパの動きを高速度カメラ(FASTCAM Mini 1)E t = - 10.0kV/cm は E m の検出の低下による+移動と, (株)フォトロン)で撮影し,その振動状態に UX100, 零点による+移動によって,E m が大きく数値変化する. ついて調べる検証実験を行った.チョッパは図 1 に示し 2)E t = + 10.0kV/cm は E m の検出の低下による-移動と, た通り,検出電極の誘導電荷に影響を与える重要な部品 零点による+移動によって,E m が小さく数値変化する. Vol. 8, No.1, pp.49-53, (2015) P E E E E E E E P P E E 52 ࢳࣙࢵࣃࡢືࡁ ࢳࣙࢵࣃࡢືࡁ A A 4 4 4 結論 振動型静電界センサ内の送風の電界強度計測への影響 P について調べた.その結果,以下のことが分かった. P ㏦㢼ࡢྥࡁ Et Em ᅗ 10 ࡛ᣑ 1) 送風圧力 Et E m Em P の影響により,静電界表示器の計測値 ㏦㢼ࡢྥࡁ は,平行平板電極間の電界強度(計算値)E t と同値 P Em 2) 送風圧力 P の影響により,零点がずれると共に,静 Em Em 電界表示器の計測値 E m の検出が低下する. Em P A 3) 静電界表示器の計測値 E m が乱れる主な原因は,送風 P A 圧力 P の影響を受けて,チョッパの振幅 A が小さく とはならない. P 10 mm なり,その結果,誘導電荷が小さくなることである. 4) 本実験で使用した静電界センサは,実際の現場で扱 P 図 9 チョッパの動きと送風の向きの関係 う一定の送風圧力 P で較正することが望ましい. P 今後の課題として,静電界センサのチョッパに送風が 当たらない構造にする.または,送風の影響を受けづら ㏣㊧Ⅼ b ㏣㊧Ⅼ a い構造にする.その他に,静電界センサを実際の現場で 静電気安全管理として適用出来るように防爆化を施すこ とが挙げられる. 1 1 ࢳࣙࢵࣃ 謝 辞 ࢳࣙࢵࣃ 2 本研究を実施するにあたり,茨城大学名誉教授の竹内 2 学先生にご助言を頂いたこと,誠に感謝しております. また, 高速度カメラでチョッパの振動撮影に携わった(株) 1 mm 図 10 チョッパの振幅を調べるための 2 点 (追跡点 a, 追跡点 b) の位置 フォトロンの内野真喜様,田中崇司様,並びに太陽計測 (株)の速水英治様に大変感謝致します. 文 献 1) 田畠泰幸,児玉勉:流動粒子によって形成される帯電雲の静 電界検出.産業安全研究所研究報告,RHS-PR-93(1994). 0.6 2) 山田博章,小林徹也:振動型表面電位センサ.静電気学会誌 0.5 A [mm] A E 第 10 巻第 4 号 (1986). 0.4 0.3 0.2 0.1 0 0 0.01 0.02 P [MPa] 0.03 図 11 追跡点 a におけるPP に対する AA の変化 4 P Em Et P Em Em P A 「労働安全衛生研究」 53 Experimental study of influence on electrostatic field measurement from air applied to electrostatic field sensor by *1 *1 Naoto NOGERA , Teruo SUZUKI , Kwangseok CHOI *2, and Mizuki YAMAGUMA *2 Electrostatic charges and/or discharges on powders bring about ignition and explosion of powders. Electrostatic problems that occur on powders must be taken care of in the industry. We have developed an electrostatic field sensor which measures electrostatic hazards. This sensor was supplied with compressed air, in order to protect powder particles from getting into it. This paper is related to how the compressed air affects the performance of the electrostatic field sensor. As a result, the performance of the electrostatic field sensor was affected by the compressed air. Namely, the experimental and theoretical values were not the same. This is because movement of the choppers inside the electrostatic field sensor was disturbed by the compressed air. Key Words : electrostatic field sensor, electrostatic charges, powders, compressed air. *1 Kasuga Denki Inc. *2 Electrical Safety Research Group, National Institute of Occupational Safety and Health, Japan Vol. 8, No.1, pp.49-53, (2015)
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