泥炭火災用消火剤の土壌に対する浸透性 Permeability for the soil of

泥炭火災用消火剤の土壌に対する浸透性
Permeability for the soil of Soap-Based Foam for Indonesian Peat Fire
完山陽秀 1・坂下瑞葉 1・福田尚美 2・上江洲一也 3・川原貴佳 1
1 シャボン玉石けん株式会社・北九大院
国際環境・3 北九大 国際環境
要旨(Abstract);インドネシアにおいて地中で燃焼する泥炭火災は水による消火が困難であるため、
水の浸透性を高める消火剤を用いることが有効であると考えられる。界面活性剤に石けん(脂肪
酸カリウム)を用いた石けん系消火剤は、水の表面張力の低下によって効率的に土壌に対して浸
透することが期待される。さらに、石けん成分は高生分解性・低毒性の特徴を持つ。そこで、石
けん系消火剤の有効性を評価するため、土壌に対する様々な浸透性の評価を行った。
キーワード:石けん、脂肪酸塩、浸透性、消火剤、泥炭火災
Key words: Soap, Fatty acid salt, Permeability, Foam, Peat Fire
1.諸言
インドネシアでは泥炭火災によって年間約
14 億 t もの二酸化炭素を放出しており、大きな
釈したものを使用。
2-2.透水試験方法による浸透性評価
問題となっている。また、近隣諸国に対するヘ
変水位透水性測定器(大起理化工業株式会
イズ(煙害)も問題視されており、国際的にも
社)を用いた評価を行った (JIS A 1218 に準拠)。
泥炭火災の抑制は重要と考えられる。泥炭火災
以下に条件を記す。
は、地中における燃焼のため水のみによる直接
1) 泥炭土壌をステンレス容器(100 ml)に採
消火が困難である。そのため効率的に水を地中
取(図 1)
に浸透させて冷却できる消火剤の使用が有効
2) 水に 24 時間浸漬させて飽和状態とする
と考えられる。当社では界面活性剤に石けんを
3) 各装置を装着した後(図 2)、試料を投入
用いた、一般建物火災や林野火災用の低環境負
荷型の石けん系消火剤の開発を行ってきた。石
し、水位の移動時間を記録
4) 得られた値を計算式(1)に代入し、飽和透
けんを主成分とする消火剤は、生態毒性が低く、
水係数を算出
生物分解性が高いことが明らかとなっている
1)2)
。泥炭火災の消火には土壌に対して水を浸
透させることが重要となることから、本研究で
は種々の方法を用いて石けん系消火剤の土壌
に対する浸透性の評価を行い、その有効性の調
査を行った。
図1
ステンレス容器
図2
変水位透水性測定器
2.実験方法
2-1.サンプル調製
石けん成分として複合脂肪酸カリウム、キレ
ート剤、希釈剤を混合し石けん系消火剤の調製
を行った。評価には石けん系消火剤を 1%に希
A = 試料の断面積(cm2)
L = 試料の厚さ(cm)
a1 = 変水位目盛管の断面積(cm2)
t = 時間(sec)
h1 = 変水位目盛管の上部線から水皿水面までの高さ(cm)
h2 = 変水位目盛管の下部線から水皿水面までの高さ(cm)
120
120
シャーレに採取した土壌上に試料を滴下し、
その浸透に要した時間により評価を行った
3)
。
条件を下記に記す。
浸透時間 (秒)
2-3.水滴浸透法による浸透性評価
80
80
40
40
1) シャーレに泥炭土壌を採取
2) 土壌上に試料を 200 μL 滴下
00
3) 試料が浸透した時間を計測
水
1%消火剤
水
1%消火剤
図4.水滴浸透法による浸透時間
2-4.パーミアテスト-W による浸透性評価
3-3.パーミアテスト-W による浸透性結果
飽和水分状態の土壌に対してステンレス円
消火剤は 42 mm/h 浸透するのに対し、水は 28
水した水深(mm)によって評価を行った。以下
に条件を記す。
1) 円筒を地面に打ち込み満水にする
2) 試料を 10 分間、浸透させる
3) 再度満水にして、測定開始
4) 10 分後の円筒内の減水した水深を測定
mm/h 浸透することが明らかとなった(図 5)。
45
45
現場土壌透水性 (mm/h)
筒を打ち込み、円筒内を満水にし一定時間に減
30
30
15
15
0
水
消火剤
水
1%消火剤
図5.パーミアテストによる浸透時間
3.結果および考察
3-1.透水試験方法による浸透性結果
飽和透水係数 (cm/sec.)
-2
0.03
3.0×10
4.まとめ
以上の結果より、いずれの浸透性の試験にお
いても消火剤は水よりも高い浸透性を示した。
これは界面活性剤による水の表面張力低下に
-2
0.02
2.0×10
より、土壌に対して浸透性が高まったと考えら
れる。今回の結果より、泥炭火災に対して石け
-2
0.01
1.0×10
ん消火剤が有効であることが示唆された。今後
も石けん系消火剤が泥炭火災に対して有効な
00
水
水
1%消火剤
1%消火剤
図3.水と石けん系消火剤の飽和透水係数
石けん系消火剤は水よりも約 1.4 倍高い飽和
さらなる評価検討を行う。
5.参考文献
透水係数の値が得られた(図 3)。すなわち、消
1) H. Mizuki, K. Uezu, T. Kawano, et al.,
火剤は水よりも浸透性が高く泥炭土壌に対し
J. Environ. Eng. Manage. 17(6), 403-408 (2007)
て浸透性が高いことが分かった。
2)石﨑幸, 上江洲一也
3-2.水滴浸透法による浸透性結果
火災誌 315 号, 61(6), 17-22 (2011)
泥炭土壌に対して消火剤は約 10 秒で浸透す
るのに対し、水は約 102 秒の時間を要し、石け
3)Luis Moreno, et al., Fire Technology, 47,
ん系消火剤の高い浸透性が確認された(図 4)。
519-538 (2011)