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認 定 企 業 訪 問 記
M i y a g i S u g u re M o n o
発信事業実行委員会
みやぎ優れMONO
検索
製品開発の背景に
“安心・安全”の現場ニーズあり。
カタチにする設計力・技術力が鍵。
コスモシステム株式会社 秋田谷 米男・櫻井 直樹・相澤 智也
第7回みやぎ優れMONO認定製品(認定日2015年1月21日)
FRP製検査路
(2015 年 3 月 インタビュー)
実は『みやぎ優れ MONO』への認定は二度目となるコスモシステム㈱。「FRP 製基礎『BASE
CUBE(ベースキューブ)』(第3回『みやぎ優れ MONO』認定製品)は、おかげさまでた
いへん好評をいただいております」と破顔一笑の秋田谷社長。第7回の認定製品となった
「FRP 製検査路」も、ベースキューブと同様の開発背景によって誕生しました。社長が続け
ます、「どちらも現場(お客様)からのニーズを、独自の技術開発力によってカタチにし、
自社製品に結実させたという共通項があります。いわゆるボトムアップ型の製品提案ですね。
当社の事業の柱となっているのが、移動体通信基地局の建設工事、雷被害対策、太陽光発電
の設備資材ですが、それらを手掛けるなかで、お客様からの要望をもれなく捕捉し、社内の
開発グループへフィードバックする仕組みができています」。
高耐久・軽量・高施工性「検査路」で、維持管理の重要性に応える。
「検査路」は、橋梁の上部構造や下部構造、付属設備の点検や保守を行うために設置される
通路です。これまでは鋼製(亜鉛系めっき鋼材)が主流でしたが、沿岸部や融雪剤を散布す
る地域においては、塩分による腐食(錆)が発生しやすく、深刻な問題となっていました。
折しも様々な重大事故を受けて、公共施設の維持管理の確実性が強く求められるようになっ
ており、安全・安心のためにも検査路の重要性が増していたのです。「耐食性を高めるため、
素材として FRP(繊維強化プラスチック)を採用しました。FRP はベースキューブにも展
開していましたから、知識とノウハウがあります」と開発グループリーダーの櫻井さん。紫
外線劣化を防ぐフッ素樹脂塗装を施し、結合部には高耐食メッキ処理ボルトを採用。また、
独自のブラケット構造により、躯体側の条件(不陸など)に左右されずに位置調整ができる
ような工夫がなされています。単一ユニットを 20㎏以内にし、人力での運搬・施工も可能
にした点、さらには柱材と手摺材を一体化することにより、現場工期の短縮につなげた点は、
まさに現場発想といえるものでしょう。「初期費用は鋼製と比較して割高になりますが、な
んといってもメンテナンスフリーですからライフサイクルコストは大幅に低減できます」。
“変わらない決意、変わり続ける勇気”と共に新価値創造へ。
そもそも橋梁用と位置づけていた「FRP 製検査路」ですが、お客様からその信頼性を高く
評価され、大型プラントの点検通路として引き合いも来ています。その商品力によって、製
品自らがセールスパーソンとなり販路を広げていった好例です。
「新製品のプロジェクトは
常に複数走っています」と秋田谷社長。新しい価値創造への気運に満ちる自由闊達な社風は、
ウッドデッキのルーフバルコニーや図書室、モーツァルトが流れる社内など、自社ビルの設
計・運営思想にも現れています。「企業の持続可能性を支えるのは、本業を大切にしながら
も、常に新機軸を模索する、つまり “ 変わらないために、変わり続ける ” ことだと思ってい
ます」。『みやぎ優れ MONO』の 3 回目の認定も視野に入れるコスモシステム、新製品の登
場に期待しましょう。
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FRP 製検査路
発想の根底には消費者目線。
“純宮城県産”広告掲示 LED 照明、
社会と地域の活性化を照準に。
ヤマセ電気株式会社 早坂 一則・佐々木 伸也
第7回みやぎ優れMONO認定製品(認定日2015年1月21日)
広告掲載機能付きLED照明『アドライト®』
(2015 年 3 月 インタビュー)
持続可能な社会の構築に向けた課題の一つにエネルギー問題があります。「例えば、オフィ
スビルにおけるエネルギー消費量の約 2 割は、照明が占めるといわれます(データ:省エ
ネルギーセンター)。日本では東日本大震災を機に、省エネへの意識と気運が高まっています。
照明を見直すことは、地球温暖化対策にもつながっていくのだと多くの人が気付き始めてい
るのではないでしょうか」と話すのは早坂部長。震災直後、ヤマセ電気では次世代型省エネ
光源として期待される LED 照明の自社製品開発に着手しました。「当時も LED 照明は市場
に出回っていましたが、主流は発光部だけを交換する直管型のタイプでした。私たちが掲げ
たのは、軽量・コンパクト・一体型という明快なコンセプト。特に、震災時には非構造部材(天
井材や照明器具、空調設備など)の落下が問題になったため、軽量化にはこだわりました」。
妥協の許されない品質が要求される受託生産で培った技術力・製造能力には自負のあったヤ
マセ電気ですが、一体型 LED 照明の開発は、非常にチャレンジングな取り組みとなりました。
トライアル&エラー。再三の試作を支えた自社の製造部門。
営業技術部の佐々木係長代理が述懐します。「LED への知識はありましたが、照明器具とし
て機能させるには、電源部の設計など思わぬハードルがありました。思うに任せないことの
連続でしたが、幸いだったのは試作の段階で幾度となく変更をしても、柔軟に対応してくれ
る製造部門が社内にあったことです」。フットワークの軽さは、大手メーカーにはない大き
な強みです。トライアル & エラー、昼夜を分かたず耐熱性評価を繰り返し、一体型 LED 照
明としては先駆的製品となる『スーパーエコライト』を完成させました。そしてスーパーエ
コライトの納入実績を徐々に増やしていく中、“ この製品の良さをもっと知っていただくに
はどうしたらよいか ” と自問を重ねていた早坂部長。「ドラッグストアで天井から広告 POP
が吊り下げられているのをみた時に、照明器具そのものに掲示機能を持たせてはどうかと思
い至りました」。『アドライト』の発想の源には、消費者目線があります。
アドライトⓇ
“優れMONO”への認定を、認知度UP、
営業拡販の追い風に。
「初めに検討したのが、広告や POP を保持する位置です。中央に、というのは当初の試案
になかったのですが、当社の LED 照明は 140 度の配光角があり、真ん中から下げても床面
照明に影響がないことがわかりました。広告 POP を保持するハンガー部には、信頼性のあ
る市販品のペーパーホルダーを使用しました」と早坂部長。完成させた『アドライト』をお
客様にみていただいたところ評判は上々。しかし早坂部長は思案します。「胸を張ってお勧
めできる製品ですが、まだまだ認知度が低い上に、当社の営業力が十分ではなく、販売チャ
ネルも確保されていません。そこで「みやぎ優れ MONO」に認定していただき、追い風を
受けることができればと考えました」。ヤマセ電気グループ全社の総力を結集して製造され
る『アドライト』は純宮城県産。社会と地域を明るく照らす大きな可能性に注目していきま
しょう。
みやぎ優れ MONO 認定企業訪問記
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消耗品という常識を、
発想と技術力で覆す。
安全を照らす路肩灯に、
省エネ・耐久の輝きを。
株式会社ヴィ・クルー 佐藤 全
第7回みやぎ優れMONO認定製品(認定日2015年1月21日)
車両側部照明装置『シャインマーカー T-SM24D』
(2015 年 3 月 インタビュー)
新製品の開発に紆余曲折は付き物。とはいえ一度は市場から撤退しようかというシリアスな
状況に陥ったと語る佐藤社長。『シャインマーカー』が安定的トップシェアを占めるまでに
は、険しい山道を乗り越えなくてはならなかったようです。「ヴィークル(vehicle =乗り物)
に由来する社名を掲げる当社(vi-crew)は、バスの車体・内装デザインから製作、メンテ
ナンスまでを一貫して担う会社です。企業活動の中で、『こうしたらお客様に喜んでもらえ
るのでは』という課題や改善点を見出すことが多く、そのひとつに “ 路肩灯 ” がありました」。
バスの左右後輪の前部、地上高 500㎜に設置される路肩灯は、後輪の位置や後方間隔を把
握し、巻き込み事故を防止する保安部品。「従来品は、スチール製で、発光部には電球が使
われており、腐食や球切れによって頻繁な交換を余儀なくされていました。路肩灯は消耗品
という常識を変えたかったんです」
。アイデアはすでに頭の中。それを具現化するために宮
城県産業技術総合センターの門を叩きました。
防水設計思想が裏目に。シャインマーカー事業存続の危機。
同センターの設計・技術支援の下、2006 年、LED を採用した樹脂製の路肩灯『シャインマー
カー』が誕生しました。LED を使ったのは、日本初の試み。「省電力・長寿命、さらに照射
範囲を広げるためのカット面も設けました(特許取得済み)。濃霧時にも視認性を確保する
ための工夫もあります」。これまでになかった特徴を有する路肩灯は、着々と販売実績を重
ねていきました。しかし他方で、クレーム・返品という事態が頻発します。「LED を使用す
るにあたり、水の飛沫による影響を防ぐため、密閉する機構にしたんですね。しかし、劣悪
な環境下にありますから、どうしても水が入ってしまう、排水されずに溜まる、故障につな
がる、と防水のための設計思想が裏目に出ました」。返品の山を前に、路肩灯の事業を継続
するか否か、苦慮する中、のちに佐藤社長が「捨てる神あれば、拾う神あり」と振り返る出
来事が起こります。
次世代型パーソナルモビリティの開発を産学官のオールみやぎで。
「『シャインマーカー』が “ 地方からの新価値創造 ” として NHK の情報番組で取り上げられ
ました。それをたまたま観ていた大手自動車部品メーカーの方から、ぜひパートナーシッ
プを組みたいという申し出がありました。メーカー側の協力によって技術的課題を解決
し、全面改良した製品を、全国の販路に乗せることができたのです」。そして「みやぎ優れ
MONO」へのエントリーは「製品力を総括するため」と語る佐藤社長。「認定に向けては、
セルフ・アセスメントという手法によって、自社製品や経営品質を自ら厳しく評価していか
なければなりません。そうすることで課題やウィークポイントが浮かび上がってくるので
す」。地元企業との連携が今後の課題とされた同社では、すでに新しいプロジェクトが進行
中です。「地元の中小企業と団結して、産学官の “ オールみやぎ ” で次世代型パーソナルモ
ビリティの開発に着手しています」。未来を乗せて走るヴィークル、2020 年までの市場投
入を目指しています。
3
シャインマーカー T-SM24D
国際的な環境保全への視座と共に。
脱水助剤の開発を通じて、
水循環の健全性を力強く支える。
株式会社リセルバー 三浦 征八朗
第7回みやぎ優れMONO認定製品(認定日2015年1月21日)
脱水助剤『リセルバーMTシリーズ』
(2015 年 3 月 インタビュー)
我が国においては、過去における深刻な水質汚染を教訓に、産業活動に伴って発生する排水
を厳しく規制して、公共用水域・地下水の水質汚濁を防止しています。工場・事業場などの
特定施設は、各種法令に基づく基準を遵守しなければなりませんが、排水処理の困難さは、
時に生産活動の大きな負担になるほどでした。
「当社の『リセルバー』を導入された養豚事
業者さんが、3 倍の増産を実現されたそうです。うれしかったですね」と顔をほころばせる
のは三浦会長。植物性繊維(セルロース)を主成分とした脱水助剤『リセルバー』の登場に
よって、汚泥・汚水処理の現況は大きく様変わりしたようです。「従来は、高分子凝集剤に
よる凝集/架橋作用によって固液分離し、脱水機にかけていましたが、残った固形の物質(脱
水ケーキ)の含水率は 80%前後で、この値はなかなか下がらなかったんですね」。汚泥・汚
水処理のポイントの一つは、この脱水ケーキの含水率。低ければ低いほど、焼却処分する際
に使用する補助燃料を低減でき、堆肥化するにあたっても、好気性雰囲気となるため悪臭の
発生を抑制することができます。
脱水ケーキの含水率を大幅低減、水処理性能をアップ。
「排水処理は大規模なプラントとなりますから、大手メーカーの寡占状態でした。中小企業
として活路を見出さなくては、と考えたのが、環境負荷低減にもつながる脱水ケーキの低含
水率化でした。この部分に関しては、どのメーカーも新機軸を打ち出せずにいたのです」と
語る三浦社長。脱水助剤としてのセルロースの可能性を実証するため、宮城県畜産試験場で
の実験・評価を繰り返した結果、想定した以上の良好なデータが得られました。「高分子凝
集剤との併用により、サラサラの脱水ケーキを得ることができました。また、汚泥・汚水中
の BOD(生物化学的酸素要求量)、SS(浮遊物質)、油分、窒素、リンの吸着除去率も目を
見張るものがあり、水処理システムとしても優れた特徴を持つこともわかりました。さらに
は強力な脱臭作用ですね。畜産業における臭気対策は、地域コミュニティとの兼ね合いで、
とても重要になってきます」。
リセルバー MT シリーズ
地球環境保全に向けた排水処理の国際的スタンダードに。
『リセルバー』の種類は、現在 50 超。「お客さまから汚泥・汚水サンプルを送っていただき、
実験・設計し、最適な凝集剤との組み合わせを提案しています。四季によって成分も変動し
ますから、それらも考慮します」
。だから失敗がないのです、と自信をのぞかせます。元々、
化学分野の研究者・専門家の知己が多く、闊達なブレーンストーミングを繰り広げてきたと
いう三浦会長。「彼らとの意見・情報交換が発想の源となりました。資源循環型社会を支援
するシステムとして、『リセルバー』を排水処理の国際的スタンダードに…という期待も大
きいのです」。それに向けて、国内のみならず、米国、欧州、韓国、中国の国際特許も取得
済みです。
「とりわけ中国では水質汚染が深刻で、水環境保全が最重要施策に位置づけられ
ていますから、技術と知見で貢献できることがあるのではないかと思っています」
。持続可
能な社会に向けて必須な水循環の健全性。
『リセルバー』が果たす役割は、ますます大きくなっ
ていくことでしょう。
みやぎ優れ MONO 認定企業訪問記
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LED 照明を
未来の光とするために。
培った独自技術を、
課題解決に向けた新製品に結実。
株式会社日本セラテック 井口 真仁・傳井美史
第6回みやぎ優れMONO認定製品(認定日2014年1月28日)
蛍光体プレート「フォスセラ®」
(2015 年 3 月 インタビュー)
ここ数年、家電量販店や電器店の照明コーナーは、品揃えが大きく様変わりした印象があり
ます。温暖化対策の一環として、盛んにその導入が推奨されているのが、省エネ・長寿命・
高効率の LED 照明。「あかりの転換期」の主役というわけです。政府は 2020 年までにす
べての照明を LED 製に移行することを目指すとしており、「脱蛍光灯」はますます加速する
といわれます。しかし “ 新しい時代を照らす照明 ” と華々しいスポットが当たる一方で、製
品性能に関しては向上・改善を要する点が多々あるのも事実。そのひとつが投光器や作業灯、
サイン照明、天井照明などの高輝度・大光量の LED 照明における熱劣化、耐久性能です。
過酷環境に耐える高輝度・大光量LED照明の鍵“蛍光体”。
現在、白色 LED 照明の多くは、青色 LED の光を(補色である)黄色系の蛍光体に通して
発光させています。少し詳述すれば、蛍光体に練り込まれた蛍光体粒子が、励起光源となる
LED 素子の波長変換の役割を担っているというわけです。井口開発部部長が指摘します。
「蛍
光体粒子は、白色 LED の演色性を高める(自然光に近い照明を実現する)ために欠かせな
い材料ですが、従来は有機系の樹脂で固められたものが主流でした。樹脂は熱による影響
を受けやすく、耐熱性への懸念が、ハイパワー照明の輝度・光量の制約となっていたのです」。
過酷な作動環境に耐え得る蛍光体の開発を―それは 30 年の長きにわたり、ファインセラ
ミックス材料/部品を提供してきた日本セラテックの技術・開発力が発揮されるにふさわ
しいステージでした。ファインセラミックスとは、高純度に精製・制御された無機の固体
粉末などを使い、精密成形や切削加工を施し、温度制御された焼成炉によって高温で焼成
フォスセラⓇ
されたもので、優れた機械的特性、化学組成、微細組織を有する機能材料です。最先端テ
クノロジーにはなくてはならないマテリアルであり、私たちが暮らしの中で使用している
セラミックス製品とは様相を異にします。
LEDの次なる照明へ。半導体レーザーへの展開を射程に置く。
「『蛍光体プレート フォスセラ』の製造プロセスをごく簡単に説明すれば、蛍光体粒子と
特殊なセラミックスを混練させたインクを作り、それを蛍光体プレートの基材にスクリー
ン印刷によって塗布し、乾燥・熱処理するというものです。また塗布層はミクロン単位の
超微細設計が可能であり、これは私たちが蓄積してきた独自技術のハイライトといえます」
と傳井開発部リーダー。材質に樹脂を含まないために 500℃以上という耐熱性を有し、光
劣化もなく、蛍光体粒子の混合比率の制御も自由に可能という『フォスセラ』は演色性と
信頼性を同時に向上させるキーパーツとして市場に展開され始めています。そして、そう
遠くない未来に向けて、同社が射程に置くのは・・・・・・。「ドイツ車のヘッドライトなど、一部では社会実装されていますが、次
世代照明として注目される半導体レーザー用の蛍光体です。蛍光体にとって半導体レーザー照明は現在のハイパワー LED と比較して
も更に過酷な熱に曝される環境ため、フォスセラが持つポテンシャルを最大限に発揮できる最高のステージと言えます」。“ 信頼・進取 ”
を社是に掲げる同社。次代を見据えた進取の気勢と、信頼性の高い技術力の融合に注目していきましょう。
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切る――
そのシンプルにして奥深い先端技術。
従来、困難とされた“利便性と精度”
の両立に挑む。
東洋刃物株式会社 髙橋 允・久保 雅義・志村 英幸・佐藤 浩司
第6回みやぎ優れMONO認定製品(認定日2014年1月28日)
高精度移動式ホルダー
(2015 年 3 月 インタビュー)
石器時代、青銅器時代、鉄器時代という歴史区分が示す通り、人類は様々な材料の発見・発
展と共に進化してきました。有益な材料を “ 使える ” ものとするには、切る作業が不可欠で
あり、長い歴史の中で、最適な切れ味と切り口を得るための創意工夫が積み重ねられてきま
かなめ
した。大正年間に創設された東洋刃物は、工業・産業分野の基盤技術にして要であるせん断・
切断を担い、時代とともに高度・多様化するニーズに応えてきました。「私たちのお取引先
がターゲットとしているのは、鋼材、木材、段ボール、繊維、食品からファインセラミックス、
高性能フィルム、電極材といった機能性材料まで多種多様です。当然求められる品質・仕上
がりは千差万別ですし、中にはミクロン、サブミクロンオーダーの精度を求められるものも
あります。“ 切る ” というのは単純にみえて、実は奥が深い先端技術なのです」と話すのは
技術課の志村課長。せん断・切断プロセスの設計、刃物提案や切口品質の評価を繰り返す中、
さらなる特性向上への課題として抽出されたのが「ナイフホルダー」です。
高精度移動式ホルダー
属人的スキルに依存しない製品を。現場の課題「技術継承」をも視野に。
ある程度の幅をもつ原反を一定の幅で切断するスリット加工という工程において、加工機に
ナイフを取り付ける保持部品がナイフホルダー。ホルダーには切断幅が一定(変えられな
い)固定式と幅を自在に変えられる移動式があるそうですが……技術課の佐藤主任が続けま
す。「移動式は使い勝手や機能性に優れる一方、シャフト(回転軸)に固定する際にズレが
生じて、精度低下をもたらしたり、またスラスト(回転体の軸方向に働く力)振れが発生し
たりすることで、ナイフの寿命に影響を及ぼすといった難点がありました」。移動式ホルダー
の “ 利便性 ” と “ 切口品質 ” は両立しえないという常識に挑んだ同社。
「開発のコンセプトは、
作業者の能力・スキルに関わらず、素早く取り付けられ、固定式同等の高い品質が担保され
るナイフホルダー。締結のネジ回しは人力に依りますから、経験知豊かな熟練者でも駆け出
しのオペレーターでも同じようにできることが重要なんですね。これは今まさに製造現場で
大きな課題となっている技術継承をも支援するものです」と志村課長。
90年の伝統を礎に。新価値を創造し続ける企業でありたい。
開発した『高精度移動式ホルダー』は、独自の摺り割り部デザインによりスラスト振れを大
幅に低減し、皿バネを採用することで安定した接圧を確保できる仕様になっています。固
定式に並ぶクオリティは、他社の追随を許しません。「本格的なセールスを開始したのは
2012 年ですが、2013 年 1 月の「みやぎ優れ MONO」認定を機に、販売数を大幅に伸ば
しました。やはりお墨付きを頂戴したことが奏功したのではないかと思います」と久保部長。
高橋社長が締めくくります。「新しい価値創造が急務といわれます。決して簡単なことでは
ありませんが、ゆるぎない現場への視座と先見性、独創的な発想、具現化を支える技術力、
それらが統合されたところに成るのではないでしょうか。伝統ある企業だからこそできるこ
とに果敢に挑んでまいります」。
みやぎ優れ MONO 認定企業訪問記
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光る独創性。伝統の技×デザインで、
1300 年の畳文化に
スタイリッシュな新しい風。
株式会社草新舎 髙橋 寿
第6回みやぎ優れMONO認定製品(認定日2014年1月28日)
新製法開発によって可能とした
自然素材デザイン畳「草新シリーズ」
(2015 年 3 月 インタビュー)
「近年、世代間のさまざまな格差・相違が指摘されていますが、畳の上で育ってきた中高年
世代と、まったく親しみのない若者世代、その隔絶も大きなものがあると実感しています」
たたみおもて
イ グサ
と高橋社長。畳表に使われるイ草の香りを “ 嗅いだことのない、変な匂い ” 表現した高校生
に少なからぬ衝撃を受けたのだといいます。「“ 本物の ” 畳文化の継承か途絶か…今、その分
水嶺を迎えているのではないかと思っています」。“ 本物の ” と強調するのは、昨今の畳を取
り巻く状況を憂いてのこと。「本来、畳というのは、乾燥させた稲わらを圧縮させて板状に
たたみどこ
しちとう い
した畳床に、イ草または七島イの茎を乾燥させて織ったござ畳表を縫い合わせた厚みのある
敷物で、国産の 100%天然素材を使用します。しかし昨今、安価な輸入品を原材料とする
ばかりではなく、木材のチップを使用した畳床や合成繊維を織った畳表がいつのまにか主流
になっています。これでは畳本来の優れた特徴である、さらりとした手触り、弾力性や遮音性、
断熱性、調湿作用、難燃性などが発揮されません。ということは、“ 良さ ” をまったく体感
いただけないことになります」。畳は世界に類がない日本固有の文化。1300 年かけて育まれ、
受け継がれてきた知恵の結晶を消滅させてはならないと高橋社長は立ち上がりました。
多様かつ高い品質要求によって磨き鍛えられた技術。
創業以来、文化財を含む神社仏閣や高級旅館など、建築資産としても価値ある案件を多数手
掛けてきた草新舎。柱回りや基準寸法(モジュール)外スペースへの対応など、多様かつ高
い品質要求に柔軟に応えるため、技術を鍛錬してきたという経緯があります。「一方で、建
築トレンドに目を転じてみれば、スタイリッシュな意匠へのニーズがある。そこで我々の強
みである伝統技術を、高付加価値なデザインと融合させてみてはと考えました」。高橋社長
自らが表計算ソフトエクセルを使ってデザインした『草新シリーズ』は、鋭角を持つ五角形
や台形、平行四辺形とこれまでの畳の概念を覆す斬新さ(新技法は特許取得済み)。光の入
射角度によってかわる様々な表情と趣に、畳の新しい可能性を見る思いです。「共に暮らす
中で、徐々に良い味わいが醸されていきます。経年変化も魅力ですよ」と高橋社長は胸を張
ります。
技術の継承を。伝統的な畳産業を俯瞰する視座とともに。
『草新シリーズ』には、宮城県産のワラ、大分県国東産の琉球表が使われています。「いくら
本物の畳文化の素晴らしさを広めようと願っても、原材料の生産者や職人などの担い手がい
なくなっては成り立ちません。ですから産地の保護・振興や技術者の育成も含めた取り組み
が、私の使命であると考えています」。「みやぎ優れ MONO」認定後は、各メディアに取り
上げられることも多くなったと語る高橋社長。
「様々なご縁の入口になっています。今も東
京の建築設計スタジオとのコラボレーションが進行中です。気温や湿度の急変への対応など
輸送上のハードルはありますが、海外マーケットも視野に入ってきました。決してお手頃な
価格帯ではありませんが、潜在市場の掘り起こしは十分可能であると踏んでいます」。宮城
発のクールジャパン、その活躍が楽しみです。
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草新シリーズ
地道な実験と当社の技術が
省エネルギー化を
実現させました。
株式会社亀山鉄工所 桜井 邦昭・玉手 淳
第5回みやぎ優れMONO認定製品(認定日2013年1月17日)
温度成層式蓄熱システム「亀山貯蔵(かめやまためぞう)」
(2013 年 12 月 インタビュー)
追従性と安定性に優れ、省エネルギー化と省スペース化を実現させた「亀山貯蔵」は、温度
成層式を採用した新しい蓄熱・貯湯システム。独自構造のタンクユニットと独自アルゴリズ
ムによるコントロールユニットを組み合わせることで可能になりました。開発の経緯をこう
語ります。
「大量にお湯を必要とする工場や宿泊施設などの大規模施設では、大容量の熱源機で大量に
お湯を作り、貯湯タンクに貯めながら給湯使用箇所に供給します。熱源機と貯湯タンクを組
み合わせて、熱源機のサイズを最適化することで、イニシャルとランニングのコストを抑え
るだけでなく、使いやすくバランスの良い給湯システムが構築できます。ところが、日進月
歩の熱源機に対して、まったく進歩のない貯湯タンクにふと疑問を抱きました。そこで、単
なるお湯を貯める機能としての従来の貯湯タンクの枠にとらわれない全く新しい発想の製品
開発を目指すことにしたのです。」
撹拌の防止と制御が開発のカギに。
通常、貯湯タンクは 60℃以上のお湯で 100%満たされています。給湯使用時はタンク内か
らお湯が供給されるのと同時に、供給されたお湯と同量の冷たい水が補給されます。この際、
お湯と水が混ざってしまうので、従来型の貯湯タンクは、お湯を使えば使うほど貯湯タンク
内のお湯の温度が低下してしまうという問題がありました。
そこで、高温水と低温水の比重の違いを利用して、タンク内に高温水部分と低温水部分の2
層の温度成層を形成させることで、せっかく作ったお湯と水が混ざらないように分けてしま
うことを考えました。タンク内で温度成層を形成するだけなら、撹拌しないようにしながら、
タンク内に供給する温度を一定に保てばよいのですから、さほど難しいことではありません。
ところが、お湯の生産・消費・貯湯・補給を同時に行いながら、タンク内に温度成層を形成
させることは容易なことではありません。
これらの課題に、撹拌を抑制する独自構造のタンクに、お湯や水の流れをコントロールする
機能を加えることで解決し、熱源機を定格稼働化させることによる省エネルギー化、高効率
の蓄熱による省スペース化も可能になりました。
亀山貯蔵
「みやぎ優れMONO」認定をバネに次の展開へ。
今回「みやぎ優れ MONO」に認定されたことで、「県にお墨付きをいただいたことは、PR
するうえで大きい」と二人。
「カタログの制作や展示会でもバックアップや補助金をいただき、産業技術総合研究所の「被
災地企業の技術シーズ評価プログラム」の採択を受けることもできました。この評価プログ
ラムで省エネに関する詳細な定量評価を行い、さらに PR していきたいと思っています。ま
た、今後は太陽熱やバイオマスなどの再生可能エネルギーと組み合わせたいと考えています」
「亀山貯蔵の開発、みやぎ優れ MONO の認定で、被災地の中小企業から元気が発信できた
らうれしいです」
みやぎ優れ MONO 認定企業訪問記
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資源の有効活用に一役買う
技術開発に工場上げて注力。
自社測定機で品質も保証付き。
アスカカンパニー株式会社 東北工場 安彦 浩輝・野村 大基
第5回みやぎ優れMONO認定製品(認定日2013年1月17日)
射出成形における超薄肉成形技術
(2013 年 12 月 インタビュー)
現在、射出成形による薄肉製品といえば 0.4 ~ 0.5mm が主流。0.4mm 以下の壁は厚く、多くの企業が超薄肉に挑戦しては実現でき
ずにいました。今回その技術を構築したのが『アスカカンパニー』。開発部門を持たない東
北工場が、現場の経験を生かし 0.3mm という数字を可能にしたのです。マネージャーの安
彦さんと製造課マネージャー兼工場長代行の野村さんは、開発の背景をこう話します。
「弊社ではプラスチックの薄肉容器やフタなどを主に製造しています。開発はトイレタリー
用品の要請がきっかけでしたが、限りある資源を有効に使い地球に優しいものづくりを目指
すことは当社の理念でもあります」(安彦さん)。
「工場ですから、24 時間体制で既存の受注生産をしながらの開発でした。自分たちででき
ることは何でもやる、ということも会社の方針。社員の協力体制もあり、無事に完成させる
ことができました」(野村さん)。
射出成形における超薄肉成形技術
素材・機械メーカーとともに試行錯誤。
0.3mm 以下の製品を生産するのに一般的なシート成形の場合は、厚さを均一にすることが難
しく目指す寸法精度に至らないことがあります。また、精度の高い密閉型を使う方法では、薄
くなればなるほど細部に樹脂が流れず未充填になってしまいます。射出成形で樹脂を均一に
流し安定した速度で生産するため、金型・成形機・原材料の各メーカーの協力は不可欠でした。
「金型は圧力により目に見えない歪みや曲がりが生じ、取り出す際に動かすことで摩耗します。
しかし、樹脂を全体にまんべんなく流すには金型の歪みや摩耗は許されません。そこで金型
メーカーとは、耐久性のある金型の製造と動かさず離型させる方法を互いに提案しました。成
形メーカーには金型が閉まったときの歪みを矯正する構造をつくってもらい、原材料メーカー
とは新しいグレードの試作を重ねました」
(安彦さん)
。
今回の開発は成形技術だけではありません。生産品をすべて検査する測定機も同時に製作。
未充填の箇所や穴の有無などをチェックし、品質保証をつけることで本当の意味で射出成型
による 0.3mm の超薄肉成形品が完成したのです。
「全数検査の機械を開発しない限り品質保証はできませんから、検査機ができたときは、これ
で自信を持って世の中に出せる、と思いました」
(野村さん)
。
現場の力を生かして技術の進化に挑む。
「いい機械があっても使いこなせなければ意味がない。開発だけでなくものづくりのレベルを上げ、現場の経験を次に生かすことが大
切なのです」と安彦さん。『アスカカンパニー』では、今回の技術をさまざまな製品へ展開させ、これまで以上に環境に優しいものづ
くりに力を入れる予定です。
「自社開発の測定器も販売していきたいですし、この技術で得たものを外に発信しようと考えています。産学連携や地域貢献も積極的
に行いたいですね」(野村さん)。
また、技術の発信と開発には「みやぎ優れ MONO」認定による特典も一役買っています。
「宮城県産業技術総合センターにある高価な測定機器を、無料または優遇して活用させていただきました。展示会の出展費用を助成い
ただき、それにより多くの出会いに恵まれたこともうれしく思っています」(野村さん)。
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現場の悩み解消に導いた
革新的な開発品で
2 年連続の認定を獲得。
株式会社プラモール精工 脇山 高志
第5回みやぎ優れMONO認定製品(認定日2013年1月17日)
エア抜き装置「エアトース」
(2013 年 12 月 インタビュー)
射出成形品の製造に付き物だった悩みを解消すべく自社製品を開発し、2012 年に「ガストー
ス」、2013 年に「エアトース」で 2 年連続の「みやぎ優れ MONO」認定を受けた『プラモー
ル精工』。この画期的な製品は社長の脇山さんが手がけました。
樹脂を熱した際に発生するガスの排出を目的に、金型にはベント(通気口)を設けますが、
生産を続けるとそこにヤニが付着し空気が抜けず未充填になります。また、圧力を上げると
隙間に樹脂が入ってバリ(過充填)が生まれ、無理に入れるとガス焼けを起こします。そこ
で力を発揮するのが「ガストース」。樹脂の流動性をよくするガス抜きピンです。
「成形機が長時間にわたり一定の圧力で良品を生産するにはどうしたらいいか、空気抵抗の
ない状態を保ち続ける方法はないかと考え、金型に入る前のスプルーランナー(樹脂の通り
道)でガスを抜くことを思いつきました。ガストースを使うと空気が抜け樹脂が抵抗なく入
第 4 回認定製品「ガストース」
り、ベントにガスがたまることもほとんどなく、長時間の無人運転も可能になります」。
商品化以降も実験を重ね、ピンの溝に角度をつけ改良したことで、現在は空気の抜けがさらによくなったそうです。
探求心と社長の熱意から生まれた新しい装置。
「ガストース」と併せて使うことでより高効率の生産を可能にしたのが「エアトース」。商品
に「夢のエア抜き装置」と謳っていることからも、製造現場にとって待望の製品であること
がわかります。樹脂から発生するガスを除く「ガストース」に対し、金型に閉じ込められた
空気を製品部から排出するのが「エアトース」です。
「金型から空気を抜くエアベントの場合、金型に直接溝をつくるため調整に時間と労力を要
しました。また、彫りすぎると不良品になってしまうリスクも伴います。エアトースはベン
トの隙間を自由に調整できる装置。溝が深くなっても戻せるので失敗がないのがメリットで
す。これで樹脂が充填しやすくなり、ガス焼けも起こらなくなります」。
ベントの深さは 0 ~ 150 ミクロンまで調整可能で、目盛は 5 ミクロン刻み。この装置の開
第 5 回認定製品「エアトース」
発を可能にしたのは、溝の深さを調整する特殊なネジです。
「ネジをつくってもらうため、さまざまな工場と交渉しました。多くの工場に断られましたが、
開発というのは今までどこにもない新しいものを作るわけですから、“ できない ” で終わっ
てしまえば今以上の進歩は望めません。諦めない、一途な思いで実現させました」。
尽きない開発への意欲。特典も積極的に利用。
2 年連続で「みやぎ優れ MONO」に認定されたことで、製品を PR するスピードが加速し、
信用度もアップしたという脇山さん。
「公のところから評価されたことはイメージアップにつながります。どんなに優れた製品で
も、知名度の低い企業の場合は試してもらうまでに時間がかかりますから、公の機関でお墨
付きをもらうことは非常に重要なんですよ。展示会に関する費用や宮城県産業技術総合セン
ターの使用料など、特典は広報や今後の研究に利用させていただています」。
「ガストース」をきっかけにさまざまな製品を開発し、高い評価を受ける『プラモール精工』。
今後は「海外に目を向けながら開発を続けていきたい」と力強く話してくれました。
みやぎ優れ MONO 認定企業訪問記
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ものづくりの可能性に満ちる地・宮城から、
新しい時代に向けた〔新 / 真〕価値創造を。
~『みやぎ優れ MONO』~
全国から優秀な人材と多彩な個性が集う“学都”仙台を擁し、
東北経済の中心地にして交通(高速道路、港湾、空港)の要
衝である宮城は、産学官協働による「ものづくり」の可能性
に満ちる地です。
平成21年、県内の自治体、経済団体等が中心となり、独創
的かつ新規性があり、卓越した特性を有する工業製品を発
掘・育成し、販促を支援する「みやぎ優れMONO発信事業」
を立ち上げました。品質、技術、安全・安心、環境など10
項目の厳しい認定基準をクリアした製品だけに与えられる
『みやぎ優れMONO』は現在32製品(平成26年度)
。産業・
文化の基盤であるものづくりを牽引し、新しい時代に向け
た〔新/真〕価値創造、そして新ビジネス創出に挑んでまい
ります。
みやぎ優れ MONO 発信事業事務局
〒981-3206 宮城県仙台市泉区明通 2 丁目 2 番地
宮城県産業技術総合センター内 ( 一社 ) みやぎ工業会
TEL. 022-777-9891 FAX. 022-772-0528
2015.3