株式会社 ニッカトー

◇ 会員企業訪問 ◇
セラミックス産業のリーディングカンパニー
株式会社 ニッカトー
西村 隆 代表取締役社長
大阪府工業協会の会員企業訪問。今月は【株式
― 会社の沿革について
会社 ニッカトー】を紹介いたします。
当社は理化学用磁器の研究・生産からスタート
創業以来、工業用セラミックス製品、理化学用
いたしました。分析や研究に使われる「るつぼ・
陶磁器、加熱装置、計測制御機器およびシステム
蒸発皿・乳鉢・乳棒」などですが、実は当社がこ
の開発を続けてきた同社。設立は1913年、西村化
れらの製品を初めて国産化いたしました。国産化
学陶業試験場として誕生し、1948年に日本化学陶
する前の明治時代では、化学の実験用具・磁器と
業と社名変更、1991年には西村工業株式会社と合
いうのはドイツからの輸入に頼っていました。こ
併し現社名に。2013年で創立100年を迎えた歴史
れらの製品は創業当時から変わっておらず、100
ある企業です。日本の最先端技術を支える製品を
年経った今でも同じ形で生産を続けています。た
供給し、独自性ある「オンリーワン」企業を目指
だ理化学用製品は一回納品するとなかなかリピー
す西村隆代表取締役社長にお話しを伺いました。
トがこない製品でもあります。近年、化学分析か
ら機器分析に移ってきましたので、ますます量と
しては出ない商品になりました。当社の象徴的な
製品と言えばこれらの理化学製品で、理系の学生
さんからは学校の実験室で見たことがある、とい
う話も聞きます。そうは言ってもそんなに売れる
商品ではありません。戦後は工業用・産業用で
使っていただけるセラミックス製品の開発を続
け、今では当社の売上の大部分を占めるまでにな
りました。
また、セラミックス製品以外の分野では、「計
(西村 隆 代表取締役社長)
株式会社 ニッカトー
所在地:堺市堺区遠里小野町3-2-24
業 種:工 業用セラミックス、理化学用陶磁
器、計測制御機器およびシステム、
各種電気炉などの製造、販売
資本金:13億2,000万円 従業員:277名
URL:http://www.nikkato.co.jp/index.html
商工振興・2015.2
測・制御機器、電気炉」などのエンジニアリング
製品を製造販売しています。これは1953年、東京
に当社のセラミックス製品を売る総代理店として
西村工業㈱を設立したことに始まります。ただ、
それだけではいかんせん売上が少ないので、何か
他の事業を始めなければならないと考えたとこ
ろ、当社が扱うセラミックスはいわゆる窯業製品
で、そこから熱に関する知識やノウハウを持って
いましたので、熱に関する製品を販売したいと。
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そこで、株式会社チノーさんという温度計測を得
上手に粉砕・分散させることが重要で、そこに
意とされている企業の販売代理店をさせていただ
当社のジルコニアボールを採用していただいてい
くようになりました。
ます。
チノーさんの計器類、温度計測や記録計や制御
セラミックス製品の用途としては電子部品業界
機器を売っていた中で、たまたま当社が「ケラ
がメインですが、他の用途にも応用できないかと
マックス発熱体」という加熱装置の関連部材を開
試行錯誤し、ある会社と共同で窒化ケイ素を用い
発しました。しかし、これだけを売っていては
たベアリングボールを開発しています。ベアリン
もったいないので、組み合わせて電気炉を製作し
グ用のボールというのはほとんどが金属でできて
ようと。そして電子部品や半導体など、不純物を
います。昔からセラミックス製もありましたが、
嫌う素材を扱う業界から多くの注文をいただくよ
ごく限られた目的であったり、値段が高いとか加
うになりました。売上の比率で言いますとセラ
工がしにくいとかいろいろな規制があったり、そ
ミックス製品が7割、商社機能が強いエンジニア
れほど使われる製品ではなかった。しかし金属製
リング製品が3割といったところです。
に比べセラミックスには耐熱・防錆・軽量・省エ
ネとさまざまなメリットがありますので、今の時
流にはむしろ合っているのではないかと思いま
す。そこでコストダウンと量産体制の構築に向け
て鋭意取り組んでいます。
― 2013年に創立100周年を迎えられましたが、
業容拡大・事業発展のターニングポイントと
なった製品や技術について
創業以前に大阪市浪速区の芦原橋に工場を建設
しました。その後、1937年に業容拡大に合わせて
今の本社である堺市に新工場を建設しました。こ
― 製品(工業用セラミックス製品・加熱装置な
の新工場建設がひとつのターニングポイントかな
どのエンジニアリング製品)が使用される環
と思います。2工場体制になりましたが、昭和20
境や用途について
年には両工場とも戦災で焼けてしまいました。芦
当社のセラミックス製品は電子部品材料、高機
原橋の工場は借地でしたが堺は自前でしたので、
能材料の粉砕・分散に向いています。特にセラ
堺の工場だけを復旧させたと聞いています。2工
ミックスコンデンサを作られている企業さんから
場体制になっていなければ、戦後は解散していた
注文を多くいただきます。村田製作所さんや太陽
のではないかと思います。
誘電さん、TDK さんなどです。
堺工場を復旧させたものの、日本の工業は大打
ご存知の通り、セラミックスコンデンサという
撃を受けており、当社の製品も販売先が無いよう
のはチタン酸バリウムとニッケルの電極が交互に
な状況でした。今後は何を作っていこうかと議論
張り合わせられ、厚さが0.1mm の間に何百もの
になったそうで、今まで通り産業用・工業用製品
層があります。昨今、セラミックスコンデンサは
を作っていこうという意見と、茶碗などの民生品
小型大容量化へ一層進んでおり、良いセラミック
を作ろうという意見がありました。当時の日本に
スコンデンサを作るためには、いかに原料をスト
は茶碗どころか何もない。民生品を作れば当面の
レスなく小さくし、それをシート状に引き伸ばし
需要はあるという意見も当然です。しかし、その
てニッケルの電極と張り合わせていく作業になり
時創業者はやはり日本の工業の発展に役立つ製品
ます。つまりは張り合わせの前段階として原料を
を作ろうと決断しました。当然のことながら民生
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商工振興・2015.2
品では工業の役には立ちません。日本の工業はい
当社の製品は入社してすぐできるものではあり
ずれ復活するからその時に役立つものを供給した
ません。しかも職人と呼ばれるベテラン社員が定
いと、戦後は苦しかったと思いますが、その中で、
年で辞めていかれますので、技術伝承が課題と
工業用・産業用製品に絞って生産を続けていたこ
なっています。マイスター制度などを作っていま
とで、今のニッカトーがあるのだと思います。
すが、職人さんの世界なのでどうにも難しい。文
また、東京工業大学の教授と一緒に開発したア
書化したり、イラストや画像で残したりするのも
ルミナボールが、当社の技術面において一つの
難しい。感覚的なものが多いと言いますか、経験
ターニングポイントになったと思います。アルミ
に頼らざるをえない部分が多分にあります。昔は
ナボールの開発については、1970年に大河内記念
じっと我慢して先輩社員の技術を盗んで覚えて
技術賞をいただくこともできました。これは製品
いったものですが、今の若い人にはその理論は通
自 体 に で は な く、
用しません。逆に言えば新入社員でもすぐに作れ
「アイソスタティッ
る製品であったり、設備さえ導入すればできると
クプレス法による粉
いう製品であったりすれば、それはそれで競合他
体の加圧成形技術」
社が現れますので難しいところです。
として賞をいただ
き、当時セラミック
― 競合他社を寄せ付けないオンリーワンの技術
スの成形方法として
を感じさせるお話しですが、大手企業などが
参入してこなかったのでしょうか
は画期的な成形方法でした。当社は規模の大きな
企業ではありませんが、技術を世間に認めて頂い
たという実感に繋がりました。
30年ほど前、日本でセラミックスブームがおこ
りました。日本の重厚長大産業の景気も悪く、大
手企業がセラミックスに随分進出してきました
― アルミナボールや窒化ケイ素を用いたベアリ
が、ほとんど撤退していきました。というのも大
ングボールもそうですが、普段目に触れるこ
手企業は、大量生産は得意ですが先ほど申し上げ
とのない所で使われる製品だけに、従業員の
ましたようにこの業界は多品種少量です。大手が
方も自社製品の用途がイメージしにくいので
手掛けるにはコストがあわない。今でも同じこと
はないですか
が言えると思います。結局、大量生産にならない
お恥ずかしい話ですが、工場の現場で聞いて
製品を作っていくには、ノウハウと技術力の勝負
も、自社製品がどういうところでどういった風に
です。設備と資金力に頼らない分野だからこそ、
使われているのか知らない人がいます。携帯電話
当社が生き残ってこられたのだと思います。当社
の中に入っている部品を作る時に使われる製品を
の製品がシェア No. 1だといっても市場自体が小
作っている、と言ったところで携帯電話の部品の
さく、売上もそれほど高くはありません。まさに
中にも入っていません。むしろ入ってはいけない
この業界はニッチ産業だと思います。
材料です。その瞬間は分かっていただけるのかも
しれませんが、かくいう私も家族に説明するのに
― 先ほどの窒化ケイ素を用いたベアリングボー
非常に苦労いたします。そういう意味では当社の
ルの例のように、今後も研究開発については
製品の用途についての認知度は低いのかなと。た
さまざまな機関や企業と共同で行っていく予
だ、ものづくりという意味では非常に難易度が高
定でしょうか
い、ノウハウの固まりのような製品を作っていま
当社は昔から研究開発型の企業だと自負してお
す。新入社員や現場の若手社員に対して OJT で
ります。さまざまな研究開発機関と協力し、材料
ひとつひとつ時間をかけて教えていかなければな
から開発したりしています。セラミックスも一時
りません。
のブームのように、いろいろな材料がでてくるこ
商工振興・2015.2
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とはありませんが、既存のセラミックス製品の品
で、設備も技術も必要とされるものばかりです。
質をどう安定させるか、また現在の用途以外に使
ひとつの物を大量に作るのであれば、労働集約型
えるように、基礎技術の開発についてしっかり取
の産業なので人件費が安く抑えられるメリットも
り組んでいく必要があります。
ありますが、多品種ではそれぞれの技術が求めら
ご質問の件ですが、実はユーザーさんと一緒に
れますし、設備投資も莫大です。ましてや設備が
なって、ニーズを聞きながら製品を開発するとい
毎日動く保証もなければ、すぐに採算が取れる保
うことは稀です。むしろ製品ができあがった後
証もない。しかも現在の市場がほとんど日本で
に、どこにどう販売していこうかと思案するケー
す。海外で作って持ってきてもなおさら採算があ
スが多々あります。具体例を挙げますと、今当社
わないことになります。いくら製造拠点を海外に
の主力製品となっているジルコニアボールです
移転したとしても、先端技術は日本に残っていま
が、開発してから15年ほどは殆ど売れませんでし
す。そこで当社の製品をつかっていただく。そこ
た。開発した当時は、良いものができたと喜んで
でのニーズがなくなれば当社の存在価値もなく
いましたが、コストが高く、とてもじゃないが使
なったということかもしれません。大量生産より
える業界がなかった。しばらくしてセラミックス
も質で勝負する経営を肝に銘じています。
コンデンサでの需要が高まり、先ほど申し上げた
そうは言いながらもユーザーさんも徐々に海外
ように、そこで当社の製品が活躍できるように
へ進出されておられますので、現地調達という意
なった。お恥ずかしい話ですがユーザーさんの方
見もでてくれば、将来的には東南アジア辺りに出
で、当社の製品の用途を見つけていただいたよう
て行かなければならない状況も発生してくると思
な形になりました。今進めているベアリングボー
います。
ルに引き続き、今後はユーザーと一緒になって進
めるケースが増えてくるだろうと思いますし、そ
― 最後になりましたが、社長の「夢」について
お聞かせください
うありたいと望んでいます。
本当はユーザーのニーズありきで製品を開発し
この会社が100年続きましたので、今後も長く
たいという理想もありますが、そうもいかない現
続く会社であってほしいと願っています。誰もこ
実もあります。ノウハウの固まりのような製品を
れからのことはわかりませんが、創業200年に向
作っている、と申し上げました通り、本音を申し
けて礎を作っていくのが私の役割だと思っていま
上げると、あまり他社に知られたくない部分もあ
す。創業者である祖父が作った会社と創業者の精
ります。重要なコア技術を開示してしまうと、競
神が受け継がれていくことが私の夢です。そのた
合他社が現れたりします。そういう状況になって
めにはやはり当社でしか作れない製品を作り続け
しまうと、開発費だけかかってしまい、当社の優
る必要があります。理化学用陶器のるつぼが100
位性がなくなってしまいます。
年続いたこともある意味すごいことだと思いま
す。ただ、それだけでは生き残っていけないのも
― ものづくり企業の多くが国内での設備投資や
事実です。同じ製品ではこの先の100年は続いて
工場建設を縮小し、海外へと生産・販売活動
いきません。こ
をシフトしているなか、貴社では工場設備・
れからも新製品
規模の拡大を近年でも進めておられます。 を開発し続ける
大阪以外で、あるいは海外に生産拠点、研究
ため、当社独自
開発拠点を設置する予定は?
の路線を貫いて
海外進出については、先代社長の頃から何度も
検討しましたが、今のところ進出の予定はありま
いきたいと思い
ます。
せん。というのも、当社が扱う製品は多品種少量
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