季刊誌「リーグファイル」第17号 (PDF形式 436KB)

とちぎ協働デザインリーグ
とちぎ協働デザインリーグは、
協働のまちづくりの調査研究、
支援・協力、政策提言等を行う
シンクタンクです
る「 線 」の イ メー ジ であ る。
さて 、こ の3 つ の「き ょ うど う 」には 、そ れぞ れ
利点 と 欠点 が ある 。
「共 同」の 利点 は 地域 の 身近 な「 場」を 共有 す る
こと を 通し て 、濃 密 かつ 近接 的 に様 々 な助 け 合い が
可能 な 点で あ る。しか し 、そ の濃 密 性と 近 接性 は 欠
点で も あり 、
「 場」の 共有 を望 ま ない 人 にと っ ては 、
その よ うな 助 け合 い は「 わず ら わし い もの 」に な る 。
近年 自 治会 の 加入 率 の低 下や 、自治 会 から の 脱退 が
問 題視 さ れ て いる が 、「 共 同」 は 強 力 な助 け 合 い の
基盤 に なる 反 面、それ を 維持 す るこ と は、現代 の 日
本の 地 域社 会 にお い て難 しい 課 題と な って い る。
〒320-0032 宇都宮市昭和 2-2-7
とちぎボランティアNPOセンター内
URL:http://www.tochigi-tcdl.net
と ちぎ協働デザイ ンリ ーグ
TOCHIGI COLLABORATION DESIGN LEAGUE
3つの「きょうどう」
~意義と課題~
「 協同 」 の 利 点 は、「 共 同 」の よ う に 「 場」 に 縛
られ ず、自 分の 関 心や 興 味に し たが っ て、自由 に 助
け合 い の関 係 を作 れ ると ころ で ある 。共通 の 関心 事
でつ な がる の で、内 部の 関係 性 も良 好 にな り やす い 。
しか し 、助 け 合い の 関係 を自 分 で作 れ る人 は 良い が 、
そう で ない 人 は取 り 残さ れ、助 け合 い の関 係 から 漏
れて し まう 可 能性 が ある 。ま た 関心 事 を共 有 しな い
者同 士 はつ な がり を 作り にく い 。
「協 働」の 利点 は、地域 の課 題 を解 決 する こ とを
大石
剛史
とちぎ協働デザインリーグ 理事
国際医療福祉大学 准教授
目的 に 、多 様 な主 体 によ る繋 が りを 作 れる こ とに あ
る。
「共 同 」のつ な がり は 、地域 に 限定 さ れ 、
「協 同 」
の つな が り は 関心 に 限 定 さ れる が 、「 協 働」 に お い
ては 課 題さ え 共有 で きれ ば、様 々な 主 体の 連 携が 可
能で あ る。し かし 、行政 や企 業 、NPO、地縁 組 織 な
「き ょ うど う」の 営み に 関わ る 中で 、様 々 な人 か
ど、あ り方 の 異な る 多様 な主 体 の連 携 を図 る こと そ
ら「 きょ う どう」と は何 か? と 尋ね ら れる こ とが 多
のも の に難 し さが と もな い、その こ とが「協 働」の
い 。代 表 的 な 「き ょ う ど う 」に 「 共 同 」、「協 同 」、
最大 の 課題 と 言え る 。
「協 働 」があ る が 、私自 身は「 共 同 」は「資 源 や 場
この よ うに 、3 つ の「 き ょう ど う」には そ れぞ れ
を 共有 す る こ とを 基 盤 と し た助 け 合 い の仕 組 み 」、
利点 と 欠点 が ある 。これ から の 地域 社 会の 助 け合 い
「協 同」は「 共通 の 課題 や関 心 を持 つ 人の 間 の助 け
の仕 組 みを 作 るに は、こ の3 つ の「 きょ う どう 」の
合い の 仕組 み 」、そし て「 協働 」は 、
「 多様 な 主体 が 、
利点 は 活か し つつ 、欠点 とさ れ る部 分 をに つ いて は 、
地域 や 社会 の 課題 を 共有 する こ とで つ なが り 、課 題
実践の中で粘り強く克服する努力を重ねていくこ
の解 決 を共 に 図っ て いく 助け 合 いの 仕 組み 」と捉 え
とが 重 要で あ ろう 。
てい る 。
「共 同 」はコ ミ ュニ テ ィ 、
「 協 同 」は コ ーポ
「共 同」に おい て は、近 接性 と いう 利 点を 活 かし
レ ーシ ョ ン 、「 協働 」 は コ ラボ レ ー シ ョン と 訳 し て
なが ら 、多 様 な価 値 観を 地域 の 中で 受 け入 れ る努 力
いる 。自 治 会な ど の地 縁 組織 は「 共 同」の仕 組 み で
が 重要 で あ る 。「協 同 」 に おい て は 、 それ ぞ れ の 団
動い て おり 、生協 な どの 会員 組 織や ボ ラン テ ィア 団
体の 得 意分 野 を活 か しつ つ、異 なる 関 心事 を 持つ 団
体、 NPO な どは 「 協同 」の 仕 組み で 動い て いる 。
体 と、 ま さ に 「協 働 」 で 繋 がる こ と が 求め ら れ る 。
そし て「 協 働」は、多様 な主 体 が特 定 の課 題 によ っ
多様 な 価値 観 を受 け 入れ る努 力 と、課 題解 決 のた め
て結び付けられているネットワークのようなもの
のつ な がり 作 りを 厭 わな い実 践 の先 に、最 後の「 協
とし て 捉え ら れる 。
「 共同 」は プ ラ ット フ ォー ム(場 )
働」に よる 助 け合 い の仕 組み が 見え て くる の では な
を 共有 し て い る「 面 」 の イ メー ジ 、「 協 同」 は 特 定
いだ ろ うか 。
の 関心 を 一 つ に絞 っ て い る 「点 」 の イ メー ジ 、「 協
働」は課 題 に対 し、多様 な主 体 が繋 が りを 作 って い
リー グ ファ イ ル 17
01
とち ぎ 協働 デ ザイ ン リー グ
開かれたコミュニティへ
小針

協子
/
とちぎ協働デザインリーグ
「 開 く 」こ と で起 き る新し い 動 き
主任研究員
ごと に 再審 査 があ る。今 後ま す ます 、住 民 が自 ら の
平成 26 年 10 月 現在 の栃 木 県の 年 齢別 人 口構
価値 に 誇り を もっ て 、暮 らし や 資源 を 外に 開 く努 力
成 比 を み る と 、 15 ~ 64 歳 の 生 産 年 齢 人 口 は 、
が問 わ れる 。小 砂 地区 の「美 しい 村」存 続へ の 挑 戦
61.8% ( 前年 62.6% )、15 歳 未 満の 年 少人 口 は
が動 き 出し た 。
13.1%( 前年 13.2% )で 、毎 年 、減少 し て きて い
る。一 方 、65 歳 以 上の 割合( 高齢 化 率 )が 、調 査
以来 最 高の 25.1% ( 前 年 24.2%) と なっ た 。
市町 ご とに 人 口構 成 比に ばら つ きが あ り、高 齢化
プラ ス 過疎 化 が深 刻 な地 域も あ る。生 産年 齢 人口 が
仕事 を 求め て 流出 す れば 、残 され た 高齢 者 で、地 域
を支 え るこ と は難 し い。
しか し 、地 域 の現 状 を住 民自 ら が認 識 し互 い に共
有す る こと で 、地 域 づ く りを 核 とし た 人と 人 との 関
小砂地区:電線の無い田園風景
係が深まり、それが地域内外に開かれることで、
徐々 に では あ るが ① 交流 人口 が 増加 し 、戻 っ てく る
若者 や 外か ら の移 住 者が 見ら れ る。② 地域 の 高齢 者
が、楽し み なが ら 地域 貢 献し て いけ る。③ 地域 課 題
の解 決 に向 け て、細 やか な合 意 形成 が 展開 さ れた 等
の 動き が 起 き てい る 。「 開 かれ た コ ミ ュニ テ ィ 」 と
いう 観 点か ら 県内 の 動き をみ て みよ う 。

那珂川町:小砂地区コミュニティの挑戦
小砂地区:里山の芸術の森
「日本で最も美しい村」認定
NPO 法人 「 日本 で 最も 美し い 村連 合 」の 課 題意
平 成 26 年 4 月 か ら那 珂川 町 に住 ん でい る 「地
識は 、時 代 の流 れ の中 で 、小 さく て も素 晴 らし い 地
域お こ し協 力 隊」稲垣 さ ん( 埼玉 県 所沢 市 出身 )の
域資源や景観をもつ村の存続が難しくなってきて
発案 で、11 月 16 日「 広重 紅 葉ま つ り」に、農 産
い るこ と に あ る 。「 フ ラ ン スの 最 も 美 しい 村 」 運 動
物等のアンテナショップ「小砂
にな ら い、失 った ら 二度 と取 り 戻せ な い日 本 の農 山
cafe」が 出店 さ れた 。新 米の 焼 きお に ぎり の ほか 、
漁村 の 景観・文 化 を守 り つつ 、最 も 美し い 村と し て
地域のお母ちゃんたちの手づくり料理で地産地消
の自 立 を目 指 す運 動 を平 成 17 年 10 月 に スタ ー
をア ピ ール し 、そ の 後も 地域 の 各イ ベ ント に 出店 し
トさ せ た。
てい く との こ と。これ は 、地 区外 か ら入 っ てき た 若
お母ちゃん
平成 25 年 6 月 、那 珂川 町小 砂 地区 で は 、
「日本
者と 地 域の 熟 年世 代( お 母ち ゃ んた ち)と の協 働 に
で最 も 美し い 村」の 資格 委員 会 現地 調 査が 実 施さ れ
よる 地 域お こ しで あ り、また 、地 域 を内 外 に発 信 す
た。
る実 践 であ る 。
小砂 地 区は 、 ①人 口 が概 ね 1 万人 以 下で あ るこ
他に も、小 砂地 区 の美 し い地 域 資源 を 活用 し、棚
と。 ② 地域 資 源 が 2 つ 以上 あ るこ と 。③ 地 域資 源
田の オ ーナ ー 制度 を 設け 、棚 田 活用 に 絡め て 農家 民
を活 か す活 動 があ る こと 。と い う3 つ の条 件 をク リ
泊を 実 施し て いる 。ま た 、ウ ォー ク ラリ ー や体 験 イ
アし 、平 成 25 年 1 0月 に「 美し い 村」連 合 への 加
ベント等の取組みもさらに充実させていく方向で
盟 が認 定 さ れ た( 栃 木 県 で 最初 )。 こ の 取組 み は 、
いる 。今 年 度の 活 動の ふ りか え りと し て、地区 住 民
日本の美しい小さな村が自分たちのチカラで存続
との 連 携を 充 実さ せ 、地 域全 体 の盛 り 上が り とし て
して い くこ と(自 立 )を 目指 す ため 、認定 後 も 5 年
いき た いと い う意 見 があ がっ て いる 。
02
リ ー グフ ァ イル 17
とちぎ協働デザインリーグ

宇都宮市:清原地域振興協議会
地域資源の活用プラス新しいチャレンジ
清 原地 域 振 興 協 議会 は 、 市 の中 心 か ら 遠 く離 れ 、
古い 住 宅団 地( 光 が丘 団 地)での 新 しい 動 きと し
て、団 地の 一 角に 古 くか らあ る 酒店 を 若者 ら しい 感
性 で改 装 し た 「サ カ ヤ カ フ ェ
マ ル ヨ シ」 が あ る 。
高根 沢 町、芳賀 町、真 岡 市に 隣 接し て いる 。南 北 12
ここ を 起点 と して 、地区 外の 若 者が ベ ーグ ル 店や お
㎞に 渡 る細 長 い地 に 、広 大な 敷 地を も つ工 業 団地 を
好み 焼 き屋 を 出店 し てい る。い ずれ も 古い 家 屋を 利
抱え 、 地区 ご とに 様 々な 地域 資 源が あ る。
用し て、温 かみ の ある 雰 囲気 を 醸し 出 しつ つ、地 域
特に 板 戸町 に は、200 年ほ ど 前に 造 られ た 美し
に新 し い風 を 運ん で いる 。こ れ らの 店 を目 当 てに 遠
い天 棚 が住 民 の手 で 保存 され 、祭り に 活か さ れて い
くか ら 訪れ る 若者 も いる 。マ ル ヨシ で 供さ れ るラ ン
る。
チや 販 売品 の なか に は、清原 地 域の 農 産物 を 活用 し
た もの も あ り 、商 品 開 発 に は梨 農 家 ( 山口 果 樹 園 )
も関 わ って 、 清原 で の地 産地 消 を目 指 して い る。
清原 地 域 か ら 外へ 出 向い てい く 試み と して は 、
宇都 宮 市中 心 部で 開 催さ れる「 サー ズ デイ ナ イト フ
ィー バ ー 」や「 表 参道 マ ルシ ェ 」へ 、サ カ ヤカ フ ェ
マルヨシと山口果樹園が協働で商品開発した梨の
ピク ル ス等 を 出品 し てい る。
外から工業団地に勤務する人たちやスポーツ観
板戸地区:天棚
戦で訪れる人たちと地域住民との交流といった観
点で は、外 から 来 た人 た ちが 、板 戸 地区 の 天棚 に 代
鬼 怒川 の 水 は 、 美味 し い 米 を育 て る 。 畑 も多 く 、
表さ れ るよ う な地 域 資源 をど れ だけ 知 って い るか・
「清 原 ブラ ン ドの 農」は 、若 手農 業 士を 中 心に 将 来
訪れ て いる か。同 じく、県外 か ら多 く の農 業 者が 訪
に向 け ての 価 値あ る 取組 みを 生 み出 し てい る 。地 域
れる 山 口果 樹 園を ど れだ け知 っ て、そ こで 開 発さ れ
にあ る 福祉 施 設と 梨 農家 との 協 働が 見 られ 、ユニ バ
る清 原 地域 の 食品 を どれ だけ 口 にし て 、購 入 し て い
ーサ ル 農業 と して の 広が りも 期 待で き る。
るだ ろ うか 。仕 事 帰り・スポ ー ツ観 戦 帰り 等 に地 域
の人 と 交流 し なが ら 新鮮 な農 産 物を 購 入し 、調理 法
について語り合うなどの日常的な地域内外の交流
も望 ま れる 。

「開く」とは
「開 く 」は 「 つな が る」 とも 置 き換 え られ る 。
地域 特 性が 違 って も 、「 開く 」 の基 盤 には 様 々な 形
の「 人 と人 と のつ な がり 」が 見 られ た 。
果樹園の梨
小砂 地 区の 活 動か ら 、人 が減 り 、経 済 活動 が 縮
小し て も、 地 域が 消 えて しま う こと は く、 逆 に、
内陸型工業団地として日本最大級の面積を有す
小さ い から こ その 「 人と 人と の 関係 」 があ る 。地
る清 原 工業 団 地は 、 昭 和 52 年 に 第 1 号 企業 が立
域住 民 もま た 、外 と のつ なが り と同 時 に内 側 のつ
地し て 以来 、高度 技 術に 立脚 し た企 業 の誘 致 が図 ら
なが り を大 切 にし 、 さら に広 げ 深め て いこ う とし
れて い るの が 特徴 で ある 。工 業 団地 勤 務者 の 中に は 、 てい る 。
この 地 域に 移 り住 む 人も いて 、古く か らの 住 民と 外
清原 地 域の よ うに 大 きな 組織 が 、課 題 意識 を も
から 来 た人 と の交 流 を図 るこ と が、大 きな 課 題と な
って コ ミュ ニ ティ を 内側 に開 い たこ と は意 義 深
った た め、そ れら を 融合 しよ り 良い 地 域に し よう と
く、 地 域が 活 力を 増 して いっ た 。さ ら に外 と 内を
清原 地 域振 興 協議 会( 通 称:清振 協)が昭 和 59 年
つな ぐ 交流 に おい て 、様 々な 地 域資 源 の活 用 が考
に生 ま れた 。清 振 協は 発 足以 来、内 側に コ ミュ ニ テ
えら れ る。 こ こに も 「人 と人 と の関 係 性」 が みて
ィ を開 き 新 旧 住民 の 交 流 に 努め て き た 。今 日 で は 、
とれ る 。
この地で共に老いてきたことでの課題にも向きあ
って い る。
リー グ ファ イ ル 17
03
とち ぎ 協働 デ ザイ ン リー グ
【 書
評 】生き心地の良い町
岡
檀 著 / 講談社 / 2013 年 7 月
評者:舘野 治信(上三川町監査委員)
【目 次】
第1章
事のはじまり
―海部町にたどり着くまで
第2章
町で見つけた五つの自殺予防因子
―現地調査と分析を重ねて
第3章
生き心地良さを求めたらこんな町になった
―無理なく長続きさせる秘訣とは
第4章
虫の眼から鳥の眼へ
―全国を俯瞰し、海部町に戻る
第5章
明日から何ができるか
―対策に活かすために
B6判・200 ページ強の小振りな本書は、地域特
性と自殺率の関係を取り扱っている。著者は健康管理
を求めよとの意識である。
第三章
「生き心地良さを求めたらこんな町になっ
の研究者であり、本書は大学院での研究成果を平易に
た」では、地域の実態の一端を紹介している。異質な
記述したものである。学術書ではないが、地域コミュ
存在の排除ではなく、多様な人がいた方が良いとする
ニティについて、興味深い知見が示されている。
気質、監視ではなく関心、人物本位主義などの町民意
多くの場合、自殺率に関する考究はその原因である
健康問題、経済問題、社会とのつながりの問題などの
識が紹介されている。
第四章
「虫の眼から鳥の眼へ」では、自殺率と地
自殺を引き起こす危険因子に関するものである。著者
形の関係を全国的に比較・検討し、山間部より海岸部
は自殺を予防する因子に着目し、地域特性との関係を
で、また人口密度の高い地域で自殺率が少ないことな
調査・検討し、5つの自殺を緩和する因子を見出して
どの興味深い結果が示されている。
いる。さらに、そのような因子を育んできた地域の特
第五章
「明日から何ができるか」では、自殺予防
性形成の土壌についても検討し、貴重な結論を導いて
因子の研究成果を踏まえて、自殺予防につながる地域
いる。
作りの提言をしている。「幸せでなくてもいい」な
全5章構成で、第一章
「事のはじまり」で、課題
の設定と、研究の対象フィールドとなった徳島県の小
さな町にたどりつく過程が述べられる。
第二章
「町で見つけた五つの自殺予防因子」
ど、既成概念に捉われない新鮮な発想が展開されてい
る。
本書は自殺率と地域コミュニティの特性の関係を考
察もしたものであるが、さらには、そのような地域コ
で、自殺を予防していると推測される地域コミュニテ
ミュニティの特性がなぜ、あるいはどのように形成さ
ィ特性の調査結果を述べている。その一つ「コミュニ
れたのかについて検討している点も本書の読みどころ
ティのゆるやかな紐帯」は人と人のつながり(絆)が
である。地域作りや、地域内の人のつながり、そして
強い方がベターという通説を覆し、「つきあいはあい
個人の生き方を考える上で有意義な示唆を与えてくれ
さつ程度」というゆるい結びつきが自殺予防に寄与し
る一書である。
ていると指摘している。また、多様性が尊重される地
カワチ・イチローなどにより、ソーシャル・キャピ
域特性や、しばりの少ない地域内組織の存在が自殺予
タルと健康の関係が論じられるなど、地域の絆の多様
防に貢献していることを、調査結果を踏まえて示して
な意義が報告されているが、本書は地域コミュニティ
いる。さらには、「病は市に出せ」の地域住民の特性
やソーシャル・キャピタルの研究分野に新たな成果を
も納得の指摘である。困りごとや悩みを公開し、助け
もたらしたと言えよう。
04
リ ー グフ ァ イル 17