1 「わが国の FTTH の現状と政策課題」 ∼高地圭輔(情報通信政策研究

「わが国の FTTH の現状と政策課題」
∼高地圭輔(情報通信政策研究所
調査研究部
主任研究官)
情報通信政策研究所の高地と申します。宜しくお願いします。あまり聞き慣れない研究
所だと思いますが、昔は郵政研究所と呼ばれていました。情報通信分野については平成1
3年の組織改革の後、殆ど出直しのような感じで立ち上がって、現在は研究員7人でやっ
ております。今日は我が国の FTTH の現状と政策課題ということで、今後の方向性などを
含めて報告させて頂きたいと思います。まず、これはブロードバンド全体の加入者数なん
ですけれども、これ全部足すと1,750万ぐらいになります。去年の9月現在で、一番
多いのは DSL なんですが1,200万ぐらいです。ケーブルインターネットは一定のペ
ースでのびている様な状況です。そして FTTH に関しては200万をちょっと超えるくら
いなんですが、伸び率は一番高いです。最後に、無線は期待する声もあるが実際には補完
的役割に留まっています。
ブロードバンドの料金水準に関しては、国際電気通信連合による報告によれば日本がも
っとも安くて速いと言えます。次の主要諸国との比較については、加入者数の比較では、
各国の間にかなり構造の違いがあって、アメリカではインターネットはケーブルが多く、
韓国では普及率が高くなっています。我が国の場合、FTTH の加入者が200万もあり、
これが他の国とはかなり違って特徴があるという部分になると思います。
次にこれは、国内の地理的なサービス提供状況についての総務省の研究会での資料なん
ですけれども、全体的状況としては3,123市町村のうち、89%にあたる2,774
団体において何らかのブロードバンドサービスが提供されているわけです。但し、サービ
スごとに見ると若干違いがありまして、FTTH やケーブルインターネットについては、人
口が多いところでサービスが行われているという傾向が見られるわけです。これらのサー
ビスの提供には、線路設備への新たな投資が必要なことが、サービスが普及してゆく過程
ではネックになっていると思います。
ここで話が飛びますが、インフラに関して政府方針というものが出ています。ここでは
主だったものを挙げてみたいと思います。2001年に e-Japan 戦略というものが出て、
超高速ネットワークインフラの整備を進めるというものが出てきたわけです。当時は、
FTTH の加入者数が300ぐらい、ADSL が3万4千位、ケーブルが一番多くて60万ぐ
らいと言うような状況で、その後5年でかなり変わったというか、もはや違う世界という
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くらいになったわけです。この時の目標は3千万の高速インターネット、それに加えて1
千万が超高速インターネットアクセス、常時接続可能であるということが掲げられたわけ
です。 その2年後に e-Japan 戦略Ⅱというものが出ました。ここでは e-Japan で掲げら
れたインフラの目標を事実上達成している状況ですので、少し重点を変えてインフラ整備
から利活用へという事が言われました。さらにユビキタスネットワーク化を意識して無線
を含めての整備ということも言われました。さらに昨年の e-Japan 重点計画2004では、
より意欲的に目標を再定義して2005年までに、有線・無線を問わず、高速インターネ
ットアクセス(144kbps 以上 30Mbps 未満)へ4千万加入、それに加えて超高速インター
ネットアクセス(30Mbps 以上)へ1千万加入を達成すべきであるとしています。ここで高
速インターネットは3G携帯を含めてということになるわけなのでハードルとしてはさほ
ど高くないと言う意見も御座いますが、超高速1千万というのは高いハードルと言えると
思います。
それから、一番最近のものでは今年の1月に u-Japan 構想というものが出ています。こ
れは、ユビキタスネットワークというものを前面に出したという事になると思いますが、
それに加えてブロードバンドバンド基盤の全国整備というものが政策課題としてあげられ
ています。これらを簡単にまとめれば、全体の流れとしては、高速なサービスの導入促進
といった当初の目標から、最近ではジタルデバイド解消という方向性が打ち出されてきた
と言うような状況です。
ここで、FTTH をめぐる政策課題例についてご説明します。
今申し上げたように、第一に地理的デバイドというものが大きな政策課題となっておりま
して、格差の把握、潜在需要の発掘、公共光ファイバの解放促進、不採算地域への支援と
いうことが言われております。FTTH の場合は新たな投資が必要で御座いますので、これ
を如何に効率的にやるかということが、この課題のポイントではないかという風に考えて
います。
それから二番目に新技術導入ということがあります。一層の高速化のための新技術の開
発・実用化と迅速な標準化、及び、低コスト化などが目標として挙げられます。
三番目は、有効な競争の確保ということで、競争評価ということを総務省でも京都大学
の研究チームと行っておりますが、こうした結果を踏まえて競争を促進するということに
なろうかと思います。
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四番目はコンテンツやサービスの多様化なんですけれども、ビジネスルールの整備やサ
ービスプラットフォームの確立によって、市場の拡大や利便の向上を目指すことが政策目
標として挙げられるのではないかと考えています。
次に地理的デバイドによって、どの様な格差が発生しうるのかということをご説明いた
します。配布した表では「ブロードバンドユーザが得る経済効果」と「ブロードバンドが
利用できない場合の負の効果」として一つの表にまとめてあります。現在、年間125万
円ぐらいの格差がでており、2010年頃にはさらに250万円に拡大するとされていま
す。
次はインフラ整備費用の試算結果をご紹介いたします。ここでの試算は競争環境でのイ
ンフラ整備は考慮してなく、あくまでモデルに基づく試算であることをご了解頂きたく、
また便益の分析なども今後行いたいと考えております。全国3,123の地域を地理的条
件に従って5つに分割して平均したところ、都心部と山間部郊外では約7倍ぐらいの開き
があるわけです。これぐらいコストの差があると FTTH が広がってゆく際に、地理的条件
やエリアの広さが影響してくるわけです。
次の図は、整備費用の要素毎の内訳なのですが、高コストの地域ではコストの大半を光
ファイバケーブルの敷設費が占めるということを示しています。ここは人件費の比率も高
いということで、なかなかコストダウンが難しい部分と言うことではないかと思います。
この部分をどう低減してゆくかと言うことを考えることも大事なことではないかと思いま
す。
次は全国整備に向けた残りの投資額の推定ですが、最大値で3兆2,332億円(3,
213地域中2,572地域において集線点の光化が行われていると推定)、最小値で1兆
3,313億円(3,213地域中641地域において集線点の光化が行われていると推
定)となっています。また、全ての自治体の3割で FTTH サービスが利用可能であるとい
うことを前提として単純に計算すれば約2兆5千億円という数字になります。いずれにせ
よ相当の額の投資が今後必要となっているわけです。
次は少し話が飛びますが、主要電気通信事業者各社の設備投資規模についてです。NTT
は売り上げ11兆、設備投資2兆ということで非常に額が突出している事が分かります。
先ほどの設備投資額2兆、3兆ということになりますと他の事業者にそうした規模の投資
を期待することは非常に難しいものがあるかも知れません。
次に市場の状況について申し上げます。FTTH 契約回線数とシェアの推移についてです
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が、平成15年9月からその1年後の間に NTT はシェアを57.6%から59.7%に
若干のばしています。
FTTH 集合住宅向けの契約回線数推移ということでは、1年前に比べて NTT 東西のシ
ェアは23.8%から31.5%とかなり上がっている事が分かります。ここには図がな
いですが、戸建てに関しては NTT 東西が8割、電力系が2割と言うようなことが実情で
す。
次に示す図は NTT のアクセス網光化投資推移のグラフです。平成13年に FTTH の開
放と言うことがあったわけですが、その次期を境に NTT の FTTH 投資が減っているとい
うような状況は見て取れません。
これまでにご説明したような様々な状況を見て、総務省の競争評価などでも、FTTH は
基本的に競争状況にあるものの、設備に関しては NTT さんが非常に高い占有率にあった
りするので、引き続き注視しようということが言われております。
次に FTTH への需要が高まり、整備が進むにはコンテンツやサービスの多様化が重要で
す。例えば、3月末にドラマのストリーミング配信に関する権利者と放送局との間のレベ
ニューシェア基準についての合意が成立しましたが、こういうことが放送コンテンツのブ
ロードバンド配信を加速し、放送と通信の補完や連携を促進し、ひいては FTTH への需要
を喚起してゆくのではないかと考えられます。実際この話に限らずコンテンツとインフラ
整備、競争、新技術の導入というのは相互に強い関係がありますので、一体のものとして
みる視点が大事なのではないかと考えられます。
FTTH 上のコンテンツとして、放送コンテンツ伝送への期待が昔からあります。通信と
放送というのは、社会的役割など全く違うのですがそれぞれ技術(デジタル化)やサービ
ス(双方向化、多様化)の方向性が似通ってきたり、FTTH と地上デジタル放送がたまた
ま同時期にエリア拡大を行っている状況であるということで類似性もあるわけです。そこ
で、この両者が相互に連携・補完できる分野の例として二つあげてみました。一つは市場
拡大・サービス多様化のための標準化・ルール整備です。もう一つは条件不利地域の投資
の効率化です。
放送事業者が FTTH を利用するメリットが本当にあるのかということについて数字の
計算はまだ終わっていないのですが、感触としては、単純にコストだけで言えば、殆どの
場合アンテナの方が安いわけですが、ただ、難視聴地域など場所によってはアンテナを整
備するより、電気通信事業者と FTTH の整備コストを分担する方が安い場合もあるのでは
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ないかと思っています。その際、放送を伝送するためのコストが高くては、電気通信事業
者・放送局の両者にとってメリットが薄くなります。例えば、地上放送の難視聴対策であ
ればそれほどのハイスペックは必要ないとも考えられます。
最後に簡単なまとめになりますが、これまでご説明させていただいた四つの分野(地理
的デバイド、新技術の導入、有効な競争の確保、コンテンツやサービスの多様化)の政策
はそれぞれ目指す方向が違いますが、これらの方向性の違いを認識し部分最適を実現させ
ながら、その調和を取り、全体最適を考えることが大事なのではないかと考えています。
なお、配付させて頂いた資料の最後に費用試算モデルについて参考資料を添えさせて頂き
ました。
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