プレストレストコンクリート技術協会 第20回シンポジウム論文集(2011年10月) 〔報告〕 萩・三隅道路 吉広高架橋 PC 上部工事の施工 大成建設(株) 土木本部 正会員 ○ 渡 大成建設(株) 土 木 部 貴司 西川 伸之 1.はじめに 萩・三隅道路は、長門市、萩市内の異常気象による通行規制時の通行確保や開発計画の推進・産業の集積 化による地域の活性化を目的とした、長門市三隅中から萩市椿に至る延長15.2kmの高規格幹線道路である。 この中の橋梁の一つである吉広高架橋は、萩市三見付近に架橋される全長624mの連続高架橋であり、起点側 214mの鋼橋と終点側410mの本橋からなる。本橋はPC6径間連続ラーメン箱桁橋で、上部工の架設方法は、移動 作業車4台による片持ち張出し施工による架設である。 本報文では、このPC6径間連続ラーメン箱桁橋の上部工工事の施工について述べる。 2.橋梁概要 吉広高架橋 PC 上部工事の橋梁概要を下記に示す。また、主要工事数量を表-1 に、構造一般図を図-1、 2に示す。本工事の対象範囲は吉広高架橋の終点側の 表-1 主要工事数量 橋梁であり、架橋区間において、市道石丸中山線と 工種 二級河川三見川と交差する箇所(P5~P6 橋脚間)が 最大支間 92mとなる。桁高は、柱頭部断面 6.5m PC片持箱桁橋工 (P7,P8 柱頭部は 5.0m)から閉合部および端支点部 種別 仕様 m3 4,042 鉄筋 SD345 D13~D32 t 510.5 PC鋼材 縦締 3200KN型(12S15.2B) t 84.6 縦締 5050KN型(19S15.2B) t 43.4 t 33.7 横締 950KN型(1S28.6) プレグラウトPC鋼材 る。P7 橋脚地点には拡幅部をもうけて非常駐車帯を 支承工 ゴム支承 P4橋脚 死荷重反力 設置している。PC 鋼材は内外併用ケーブル配置を採 地覆壁高欄工 路 線 名:一般国道 191 号 萩・三隅道路 橋 梁 名:吉広高架橋(終点側橋梁) 工 事 名:萩・三隅道路吉広高架橋 PC 上部工事 工 期:平成 21 年 7 月~平成 23 年 2 月 活 荷 重:B 活荷重 道路規格:第 1 種 第 3 級 設計速度;V=80 km/h 橋 長:410.000m 支 間 長:49.0+92.0+76.0+62.0+76.0+53.0(m) 有効幅員:9.500m 斜 角:90° 勾 配:縦断線形:3.000% 横断勾配:2.000% 橋梁形式:PC6 径間連続ラーメン箱桁橋 施工方法:片持ち張出し工法 2 1,522KN 箇所 52700 650 200 150 800 49000 m3 304 鉄筋 t 47.1 SD345 D13~D25 <P5,P6,P9 柱頭部> <支間中央部> 10140 445 9250 445 320 9500 320 1250 3500 3500 1250 4000 100070 構造中心線 アスファルト舗装 t=80mm ▽PH 170 2200 3000 6500(5500) 2.000% 5400 2200 170 ( )内寸法は、P7、P8 柱頭部 図-1 断面図 92000 76000 62000 76000 53000 A2 山線 市道 丸中 石 農道 三見川 川 三見 P1 P2 P3 P4 750 250 非常駐車帯 市道 石丸中山線 A1 2 コンクリート σck=27N/mm2 36500 53500 2 吉広高架橋 橋長 L=624000 PC6径間連続ラーメン箱桁橋 橋長 L=410000 鋼4径間連続少数鈑桁橋 橋長 L=214000 53500 1,578KN 箇所 P5橋脚 死荷重反力 12,483KN 箇所 A2橋台 死荷重反力 用している。 52700 数量 コンクリート σck=40N/mm2 3.0m に変化し、有効幅員 9.5m の一室箱桁断面であ 400 400 単位 P5 P6 図-2 吉広高架橋 側面図 −247− P7 P8 P9 〔報告〕 プレストレストコンクリート技術協会 第20回シンポジウム論文集(2011年10月) 2.1 施工ステップ STEP 1 P5・P9 橋脚引渡し 80tクローラークレーン 50tラフタークレーン 図-3に施工ステップ図を示す。 柱頭部施工 柱頭部施工 下部工工事からの橋脚の引渡しは、段階的 山 道 市 丸中 石 農 線 三見 道 川 A2 に 3 回に分けて引き渡された(最初に P5,P9 橋脚、続いて P6,P8 橋脚および A2 橋台、最後 P4 P5 P6 P7 P8 P9 STEP 2 P6・P8 橋脚、A2 橋台引渡し 90tクローラークレーン に P7 橋脚) 。そのため、上部工の施工は引き 柱頭部施工 張出し施工 渡しを受けた橋脚から順次施工を開始した。 山 道 市 丸中 石 張出し施工 柱頭部施工 脚頭部施工 農 線 三 見 道 川 A2 張出し架設には、一般型・2 主構の移動作 P4 業車を計 4 台使用した。はじめに設置した P5 P5 P6 P7 P8 P9 STEP 3 P7 橋脚引渡し 側径間施工 側径間閉合 橋脚の移動作業車は P8 橋脚へ転用し、 さらに P7 橋脚へ転用した(計 2 回の転用) 。P9 橋脚 移動作業車組立 移動作業車組立 山 道 市 丸中 石 線 農 三見 側径間施工 側径間閉合 柱頭部施工 道 川 A2 の張出し架設で使用した移動作業車は、P6 橋 P4 脚へ転用した。 これにより P5~P8~P7 の移動 作業車を 2 回転用するパスが工程のクリティ P5 P7 中央閉合 P8 P9 移動作業車組立 STEP 4 カルとなり、工程を遅延させないために迅速 市 石丸 道 中 山線 な移動作業車の転用、サイクル工程の短縮お よび P7 橋脚の拡幅部の施工方法の工夫等が 求められた。 P6 P4 農 三 P5 P6 STEP 5 P7 中央閉合工 山 道 市 丸中 石 P8 P9 中央閉合工 (1)圧送配管 P4 線 農 三 道 A2 3.施工概要 3.1 主桁コンクリート打設 見川 見 道 川 A2 P5 P6 P7 P8 P9 本橋は地上から30m以上の位置での施工と なり、橋桁の両端部が施工中であったため、 STEP 6 落橋防止装置 橋面附属物工 山 道 市 丸中 石 両側からのアクセスが不可能であった。コン クリート打設は縦配管を橋脚足場に設置し、 P4 線 農 三 見 道 川 P5 地上のポンプ車からの直接配管にて行った。 A2 P6 P7 P8 P9 図-3 施工ステップ 打設開始時の先行モルタルは筒先にてコンク リートホッパーに排出し、クローラクレーンにて運搬して処理を行った(写真-1) 。 (2)コンクリート打設時の暑中対策 最大張出し部では橋面上の水平配管延長は約44mになり、特に夏季におけるコンクリート圧送中の閉塞が 懸念された。地上から橋面までの縦配管(約30m)と橋面上の水平配管(最大張出時44m)に、散水した湿 潤マットと断熱マットを併用して巻くことにより、日射による配管の温度上昇を防いだ(写真-2) 。また打 設途中の水平配管の段取替えにかかる時間を短縮する為に、水平配管にキャスターを固定し、橋面上を滑ら せて移動させるようにした(写真-3) 。張出施工最盛期の2010年夏は全国的に猛暑日が続いたが、配管閉塞 トラブルの発生を防ぐことができた。 水平配管 縦配管 断熱マット キャスター 写真-1 橋脚足場への縦配管設置状況 写真-2 水平配管への養生 −248− 写真-3 水平配管移動の工夫 プレストレストコンクリート技術協会 第20回シンポジウム論文集(2011年10月) 〔報告〕 (3)コンクリート打設時の寒中対策 当該地域は冬季に、非常に強い北風が吹くため、通常の寒中養生に加 えて、移動作業車の全側面に風除けのシートを張った。冷風によるコン クリート表面温度の急激な低下の防止と移動作業車内の保温による寒 中養生を実施した(写真-4) 。 3.2 壁高欄コンクリート打設 風除けシート 壁高欄のコンクリート打設時期は冬季であった。前述したように、冬 季は非常に強い寒風が吹く地域であるため、打設直後、型枠存置期間中、 写真-4 移動作業車の寒中養生 および脱型後について、養生マット等が飛散しないようにネットを使用 して強風対策を行った(写真-5) 。打設直後に氷点下まで気温が下が ることが予想される時にはジェットファーネスを使用し、給熱養生を行 った(写真-6) 。 3.3 非常駐車帯部の施工 (1)施工順序 飛散防止用ネット P7中心の前後15m区間には非常駐車帯が設けられ、このため床版幅が 9,250㎜から12,750㎜に変化する。この非常駐車帯部を標準部(一次施 写真-5 壁高欄コンクリート 打設後の養生 工部=9,250㎜)と拡幅部(二次施工部=0~3,500㎜)の2回に分けて 施工した。横締めケーブルには、接続タイプのものを使用し、拡幅部へ の対応を行った。施工順序は、以下の通りである。 ① 標準ブロック(床版幅9,250㎜)を一次施工部として施工(型枠・ 鉄筋・PC組立、コンクリート打設) 。 ② 張出しケーブル(主方向ケーブル) 、床版横締め(一次ケーブル: ジェットファーネス 標準長9,250㎜)を緊張。 写真-6 壁高欄コンクリート 打設後の給熱養生 ④ 次ブロックも標準ブロックにて施工(型枠・鉄筋・PC組立、コンクリート打設) 。同時に前ブロックの ③ 脱枠後、移動作業車を次ブロックに移動。 拡幅部(二次施工部)の施工(型枠・鉄筋・PC組立、コンクリート打設) 。床版横締めは専用接続具に て接続。 ⑤ 次ブロック張出しケーブル(主方向ケーブル) 、床版横締め(一次ケーブル)を緊張。 ⑥ 前ブロック拡幅部(二次施工部)の床版横締め(二次ケーブル:1,750㎜)を緊張。 ⑦ 脱枠後、移動作業車を次ブロックに移動 支圧板 (以降、繰返し) O リング W 型スリー センタープラグ カップラーシース C 型スリーブ フロート 底板 標準部 拡幅部 (2)床版横締めの接続 拡幅部に設置される二次ケーブルは、標準部で既に緊 エポキシパテ センターライザー 1) 張された一次ケーブルと専用接続具 にて接続される。 また、コンクリートの打設前に、接続具はカップラーシースに 固定ボルト ウェッジ コンプレッショングリップ 図-4 プレグラウト用接続具の構成 より覆われ、このシースの中にプレグラウト樹脂が充填される。 充填の確認は、シースに付いた4箇所のフロートの浮き上がり にて判断できる(図-4、写真-7) 。 (3)移動作業車の型枠支保工・フレームの改造 次ブロック施工時に前ブロックの拡幅部の施工を行うため、 型枠を支える支保工梁とフレームを改造した(図-5)。 プレグラウト用接続具 写真-7 接続具使用状況 −249− プレストレストコンクリート技術協会 第20回シンポジウム論文集(2011年10月) 〔報告〕 P7 4 X 3 000=12 000 12 000 4 X 3 000=12 000 30 151 5 000 20 151 5 000 76 3 350 3 X 3 200=9 600 2 050 2 050 3 X 3 200=9 600 3 350 3 150 400 2 800 400 2 800 400 2 800 400 400 400 2 800 400 2 800 400 2 800 400 3 150 1 650 1 650 2次コンクリート 2 924 170 74 2 75 1 4 3 2 3 2 1 4 3 2 76 79 81 83 86 1 2 87 3 88 4 2 3 4 1 2 3 4 2 3 4 リブ 89 リブ 90 2 200 5 400 9 800 3 73 4 90° 2 200 10 140 1 750 170 1 750 4 72 2 924 76 CL 2次コンクリート 図-5 型枠支保工・フレームの改造 図-6 非常駐車帯部 打設平面図 (4)コンクリート打設順序 先述の施工順序に従い、コンクリートを打設した。打設平面図を図-6に示す。 ① ② ③ ④ 1 ブロック標準部 2 ブロック標準部+1 ブロック拡幅部 3 ブロック標準部+2 ブロック拡幅部 4 ブロック標準部+3 ブロック拡幅部 移動作業車 引戻し 道 農 3.4 P9橋脚の張出し架設 ブラケット支保工 A2 (1)柱頭部支保工上での移動作業車組立解体 本橋の架橋位置の両端部は山地となっており、特に本工事の施工範 囲である終点側(A2 橋台側)は急傾斜となっている。移動作業車の組立 P9 解体は橋脚近傍の地盤にて下段作業床の地組を行い、リフトアップす る場合が多いが、上記のような地形条件のため、下段作業床の地組は 図-7 P9 橋脚移動作業車の引戻し 不可能であった。そこで、柱頭部施工時に設置したブラケット支保工 を P9 橋脚の張出し架設完了時まで残置し、 柱頭部支保工上にて移動作 業車の組立解体を行った。これにより、地形の制約なしに組立解体を 移動作業車 行うことが可能となった(図-7、写真-8) 。 3.5 外ケーブルの施工 本工事の外ケーブルは、19S15.2B(5050kN型)のグラウトタイプの ケーブルであり、2径間に渡ってそれぞれ2~4本配置されている。工程 P9 橋脚 を短縮するため、閉合が完了した径間から順次施工を行った。桁内に 外ケーブル用の架台を組み立て、半透明タイプのシースを設置した。 緊張作業は、最大緊張力4,000kNの緊張ジャッキを2台使用した。 写真-8 移動作業車解体状況 (P9 橋脚) 4.おわりに 日本海に近く、風の吹き抜けやすい、緩やかな山あいの田畑・河 P7 橋脚 川上での工事は常に気の抜けないものであったが、地域の皆様方や 関係各位のご理解とご協力により、平成23年2月に竣工した(写真- 9) 。吉広高架橋を含む萩・三隅道路が、異常気象時だけでなく地域 P6 橋脚 P5 橋脚 の方々、また、山口県を訪れる方々にとって大きな利益をもたらす ことを期待する。 <参考文献> 1) 神鋼鋼線工業株式会社:CCLシングルストラン ド工法1S28.6 プレグラウト用接続具施工手順書、pp.1,2009. −250− 写真-9 全景写真
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