氏 名 ・(本籍) 脇田 晃行(岐阜県) 専攻分野の名称 博士(医学) 学 位 記

Akita University
氏 名
・(本籍)
脇田
晃行(岐阜県)
専攻分野の名称
博士(医学)
学 位 記 番 号
医博甲第 891 号
学位授与の日付
平成 27 年 3 月 22 日
学位授与の要件
学位規則第 4 条第 1 項該当
研 究 科 ・ 専 攻
医学系研究科医学専攻
学 位 論 文 題 名
REG Iα Promotes PD-L1 Expression in Esophageal Cancer Cells.
(食道扁平上皮癌細胞において REG Iαは PD-L1 の発現を誘導する )
論 文 審 査 委 員
(主査) 教授 眞鍋
求
(副査) 教授 三浦 昌朋
教授
大森 泰文
Akita University
考
学 位 論 文 内 容 要 旨
REG Iα Promotes PD-L1 Expression in Esophageal Cancer Cells.
食 道 扁 平 上 皮 癌 細 胞 に お い て REG Iα は PD-L1 の 発 現 を 誘 導 す る
脇田晃行
研
究
的
目
腫 瘍 内 Regenerating gene I( REG I)発 現 は 胃 癌 、 大 腸 癌 、 乳 癌 、 非 小 細 胞 肺 癌
における予後不良因子であり、悪性度の指標となることが報告されているが、そ
の 機 序 は 未 だ 十 分 に 解 明 さ れ て い な い 。 一 方 、 Programmed death 1(PD-1)/
Programmed death-ligand 1(PD-L1)経 路 は T 細 胞 活 性 化 の 抑 制 シ グ ナ ル を 出 し 、
腫 瘍 宿 主 か ら の 免 疫 回 避 機 構 を 働 か せ る 。そ こ で 私 は REG Iα が PD-L1 発 現 を 誘 導
し、免疫寛容により腫瘍を増大させると仮説を立て、これを検証すべく以下の実
験を行った。
研
究
方
法
と
成
績
食 道 扁 平 上 皮 癌 細 胞 TE-5、TE-9、TE-12 を 使 用 し た 。TE-5、TE-12 を 用 い Real-time
RT-PCR で REG Iα と PD-L1 mRNA の 発 現 を 解 析 し 、そ の 相 関 を 検 証 し た 。そ の 結 果 、
REG Iα 低 発 現 の TE-5 に 対 し REG Iα 高 発 現 の TE-12 で PD-L1 mRNA の 発 現 が 有 意
に 高 か っ た 。 REG Iα mRNA と PD-L1 mRNA の 発 現 は 相 関 し た 。
次 に REG Iα 低 発 現 の TE-5、 TE-9 に REG Iα 遺 伝 子 を 導 入 し 、 REG Iα 遺 伝 子 を
強 制 発 現 さ せ た 細 胞 を 用 い 、 PD-L1 の 発 現 を Real-time RT-PCR お よ び ウ エ ス タ ン
ブ ロ ッ テ ィ ン グ で 解 析 し た 。 ヒ ト REG I α 遺 伝 子 を pCI-neo 発 現 ベ ク タ ー の
XhoI/XBaI 部 位 に 挿 入 し た 。 そ の 発 現 ベ ク タ ー 、 ま た は 挿 入 cDNA を 含 ま な い コ ン
ト ロ ー ル ベ ク タ ー を そ れ ぞ れ TE-5 と TE-9 へ エ レ ク ト ロ ポ ー レ ー シ ョ ン 法 に よ り
導 入 し た 。コ ン ト ロ ー ル 細 胞 に 対 し REG Iα 遺 伝 子 導 入 細 胞 で は PD-L1 発 現 の 増 強
を 認 め た 。 つ ま り 、 REG Iα 遺 伝 子 導 入 が 癌 細 胞 の PD-L1 発 現 を 誘 導 し た 。
最 後 に 術 前 治 療 な し 食 道 扁 平 上 皮 癌 切 除 3 標 本 を 用 い 、組 織 免 疫 染 色 法 で REG I
α お よ び PD-L1 発 現 に つ い て 検 討 し た 。 結 果 、 REG Iα 陽 性 部 位 に お い て PD-L1 の
高発現が認められた。
察
現 在 、 PD-1/ PD-L1 結 合 を 抗 PD-1 抗 体 に よ り 遮 断 し 、 抗 腫 瘍 効 果 を 発 揮 さ せ る
と い う 治 療 法 が 悪 性 黒 色 腫 で 行 わ れ て い る 。 そ れ ば か り か 、 抗 PD-L1 抗 体 の 非 小
細胞性肺癌、悪性黒色腫、腎細胞癌などに対する抗腫瘍効果の研究も盛んに行わ
れ て お り 、 PD-1/ PD-L1 は 新 規 癌 治 療 と し て 現 在 大 き な 注 目 を 集 め て い る 。 PD-L1
の発現は食道扁平上皮癌を含むいくつかの癌において予後不良因子であるとの報
告 が 多 い が 、 こ れ は PD-L1 に よ る 腫 瘍 宿 主 か ら の 免 疫 回 避 機 構 に よ る も の と 考 え
ら れ て い る 。一 方 、腫 瘍 内 REGI 発 現 も 予 後 不 良 因 子 と さ れ て い る が 、PD-1/ PD-L1
との関連は報告されていない。
代 表 的 な サ イ ト カ イ ン で あ る IL-6 は IL-1β に よ り そ の 産 生 が 惹 起 さ れ 、免 疫 応
答 、 炎 症 反 応 に 寄 与 す る こ と が 知 ら れ て い る 。 REG Iα と IL-1β お よ び IL-6 に 関
し 、 教 室 で は こ れ ま で REG Iα 遺 伝 子 導 入 細 胞 で は IL-1β お よ び IL-6 分 泌 が 増 強
さ れ る こ と を 証 明 し て き た 。今 回 の 研 究 で は REG Iα 遺 伝 子 導 入 し た 食 道 扁 平 上 皮
癌 細 胞 は PD-L1 の 発 現 が 増 強 さ せ た 訳 だ が 、 こ れ ら を 総 合 す る と REG Iα が IL-1
β お よ び IL-6 を 介 し て PD-L1 を 誘 導 し た と 考 察 す る 。
結
論
食 道 扁 平 上 皮 癌 に お い て REG Iα は PD-L1 の 発 現 を 誘 導 し た 。 REG Iα が 腫 瘍 増
殖および腫瘍免疫に関与する因子であることが示唆された。
Akita University
学位(博士‐甲)論文審査結果の要旨
食道扁平上皮癌細胞に REG Iα遺伝子導入することにより、PD-L1 の発現が増幅・誘導される
ことを初めて見出したことにある。
主 査:眞鍋 求
申請者:脇田晃行
2)重要性
REG Iαの発現が様々な癌において予後を反映し、悪性度を示す分子機序は、これまで明ら
論文題名:REG Iα promotes PD-L1 expression in esophageal cancer cells (REG Iαは
かにされていなかった。本研究の成果は、食道扁平上皮癌において、REG Iαが PD-L1 の発現
食道癌細胞において PD-L1 の発現を誘導する)
を誘導することにより、腫瘍宿主からの免疫反応を回避することを明解に示している。予後
や病勢に関連する機序として、REG Iαと PD-L1 の相互作用が同定されたことは、食道癌患者
要旨
申請者らは、食道扁平上皮癌を対象として、予後や悪性度に関連する因子を検討した。ま
における至適個別化治療を考える上で極めて重要であると言えよう。
3)研究方法の正確性
ず、株化食道扁平上皮癌細胞である TE-5、TE-9、TE-12 における腫瘍内 Regenerating gene
食道扁平上皮癌細胞における REG Iαおよび PD-L1 の発現は、Real-time RT PCR、Western
(REG) Iαと Programmed death-ligand 1(PD-L1) mRNA の発現を解析したところ、REG Iα低
blot、免疫組織染色法にて検討されており、解析にあたっては検討する内容に応じて適切な
発現の TE-5 に対し、REG Iα高発現の TE-12 では、PD-L1 mRNA の発現が有意に高かった。次
統計学的処理がなされている。研究結果の妥当性を担保するに十分な客観性、正確性を有し
に、REG Iα低発現の TE-5、TE-9 に REG Iα遺伝子を強制発現させ、PD-L1 の発現を解析した
ていると判断される。
ところ、コントロール細胞と比較して、REG Iα遺伝子導入細胞では PD-L1 発現の増強を認め
4)表現の明確さ
た。最後に、術前治療なし食道扁平上皮癌切除 3 標本を用い、REG Iαおよび PD-L1 発現につ
いて検討した結果、REG Iα陽性部位において PD-L1 の高発現が認められた。これらの所見は、
REG Iαが PD-L1 発現を誘導し、T 細胞活性化の抑制型補助シグナルを介して、宿主からの免
疫回避機構により腫瘍を増大させることを示唆するものである。
本論文の斬新さ、重要性、実験方法の正確性、表現の明確さは以下の通りである。
1)斬新さ
REG Iαの発現は、胃癌・大腸癌・膵癌・肝細胞癌・乳癌・非小細胞肺癌などにおいて予後
不良と相関しており、悪性度の指標となることが報告されている。また、PD-L1 の発現は食
道扁平上皮癌を含むいくつかの癌において予後不良因子であると報告されており、抗 PD-L1
抗体による非小細胞性肺癌・悪性黒色腫・腎細胞癌などに対する臨床研究も盛んに行われて
いる。本研究の斬新さは、食道扁平上皮癌において REG Iαと PD-L1 の発現が相関し、また
REG Iαが予後を反映し、悪性度を示す機序を解明するための背景、研究方法、結果および
考察について明瞭に記載されている。
以上述べたように、本論文は学位を授与するに十分値する研究と判定された。