平成 22 年度視覚情報基礎研究施設学術講演会の概要

平成 22 年度視覚情報基礎研究施設学術講演会の概要
本年度は「最先端領域に挑む視覚情報技術」というテーマで 3 件の招待講演を企画した.国内外
において生体医用工学,動画像認識,カラー画像処理の各分野を代表する研究者の方々を招待し,
最先端の研究事例をご紹介頂いた.中でも富永先生は,本学在職中に VIRI の創設にご尽力され初代
施設長を務められた方であり,VIRI がその活動を終えるに当たって富永先生に学術講演会でご講演
頂けたことは大変幸運であった.講演はいずれも現実的な問題に対して学術的な見地から解決法を
提案するものであり,大変意義深いものであった.参加者は本学教員および学部生・大学院生のほ
か,学外からも含め計 122 名であり,例年通りの盛況となった.各講演の概要は以下の通りである.
1.
「バイオ・メディカルイメージング関連の2,3の話題」
(奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 教授 湊 小太郎 先生)
研究室で行っているバイオ・メディカルイメージングの研究のうち,蛍光相関分光(FCS)イメ
ージングと医用画像 3D ビューワについて紹介する.FCS イメージングは,微小な領域に出入りす
る分子の蛍光信号のゆらぎの時定数から分子の大きさ,信号の強度から濃度を推定する方法である.
エバネッセント照明では奥行き方向についてイメージセンサの画素サイズ程度の深さで照明するこ
とができないため,FCS には適さない.この問題に対し,臨界角よりやや小さい角度で照明を入射
する方法(臨界角照明法)を提案し,電子増倍 CCD(EM-CCD)を用いて蛍光粒子の 2 次元計測に
成功している.医用画像 3D ビューワは,CT や MRI の画像に基づき臓器や骨を 3 次元的にシミュレ
ートするシステムであり,術前計画の策定などに有用であると期待される.任意断面の再構成,手
術による臓器の変形のシミュレーション,インタラクティブな骨の切削のシミュレーションなどを
実現している.
2.
「歩容映像解析の最前線」
(大阪大学 産業科学研究所 教授 八木 康史 先生)
歩容(歩き方)は生体認証の有力な情報の一つであり,遠隔での認証や広域監視に有用であると
期待される.歩容の動画像系列に対しては,まず各フレームから 30×20 画素の歩容シルエット画像
を抽出し,次に各画素の時系列データについて振幅スペクトルを 0~2 次まで計算し,1800 次元の
特徴ベクトルを生成する.この特徴ベクトルをあらかじめ学習により生成したモデルと照合するこ
とにより人物認証を行う.実際には歩容画像が獲得されるカメラの方向は様々であるから,その方
向を考慮したモデル(方向変換モデル)を生成しておく.この研究はテレビ番組でも取り上げられ,
モデル女性の歩容認証の実験が行われた.
3.
「ディジタルカラー画像処理の研究」
(千葉大学 大学院融合科学研究科 教授 富永 昌治 先生)
あるシーンをカラーカメラで撮影した場合,獲得されるカラー画像は同じシーンを肉眼で見た場
合と見えと一致しないことが多い.特に屋外において陰影やハイライトを含むシーンでは,その不
一致が顕著に知覚される.この原因は,実空間における光強度のダイナミックレンジに対して人間
の視覚がうまく対応できるのに対し,カメラやディスプレイのダイナミックレンジはそれに比べて
はるかに狭いというところに起因する.この不一致を画像処理によって補正するのがトーンマネジ
メントの目的である.トーンマネジメントの方法としては,空間的な処理(平滑化など)を行わな
い空間不変法や,Retinex モデルに基づく方法,視覚順応モデルに基づく方法などがある.Retinex
モデルの下では照明光の分布が物体の表面反射率よりも空間的に緩やかであるという仮定に基づき,
場所ごとにトーンマッピング関数を変更することができる.しかし通常の Retinex モデルの方法では
“halo”とよばれるアーティファクトが生じる.これに対し多重解像度の Retinex モデルを導入し,
“halo”を抑制することに成功した.その他の方法としては,が考えられている.一方,視覚順応モデ
ルに関しては,これを画像に対して局所的に適用し,個別にパラメータを設定することにより,高
ダイナミックレンジ画像の圧縮に成功している.