題名 協働体による地域ガバナンスの形成に関する研究 ~栃木県小山市における実践活動を通じて~ ガバナンス研究科ガバナンス専攻 指導教員 青山 佾 教授 学籍番号 7111081104 本人氏名 山口 忠保 0.はじめに 私は 22 年間、地元小山市の羽川地区における住民主体のまちづくりに取り組み、様々な 事業を進めながら、住民参加や協働による住民の合意形成活動等に携わってきた。この経 験から、 「住民自治」確立への糸口や、協働体による地域ガバナンスの形成について研究す る。 1.地域ガバナンスと住民主体・協働まちづくり 「地域ガバナンス」とは市民、地域団体、企業、NPO、行政等の多様な主体が、互いに 対等の立場で、それぞれの役割と責任を自覚し、協働して地域の様々な課題の解決に当た ること、もしくはそういう社会の在り方と定義できる。 また、全国画一的な法制度や行政主体のまちづくりには限界があり、地域特性に応じた きめ細かなまちづくりを進めるには、住民が主役となって取り組むことが重要である。そ のためには、地域における多様な主体(住民、地域団体、企業、NPO 等)の参加のもと、 住民自身が主役となり、互いに議論し、提案し、活動する“場”としての、住民自治を具 現化する「地域自治的コミュニティ」が必要である。 2.実践:小山市羽川地区における地区まちづくり活動 羽川地区は小山市の北部に位置し、下野市に隣接する地域である。南北を国道 4 号線、 JR 宇都宮線、東北新幹線が縦貫し、東西を主要地方道小山環状線が横断しているなど、広 域的な交通条件にも恵まれており、人口及び世帯は現在でも増え続けている。 羽川地区のまちづくり活動を時系列的に概括する と、初動期:1988(昭和 63)年度~ 1994(平成 6)年度には、羽川地区まちづくり研究会が発足し、まちづくり勉強会やアンケ ート調査等を実施しながら、「羽川パークロードネットワーク構想」を作成した。 胎動期:1995(平成 7)年度~2000(平成 12)年度には、「まちづくり推進委員会」となり、 地区計画制度に関する勉強会や、羽川ボンネルフの提案を行った。黎明期:2001(平成 13) 年度~2004(平成 16)年度には、公共下水道整備や国道 4 号の拡幅整備に向けた作業や、み ち再生事業調査の実施、羽川中央地区地区計画(案)や分科会等の検討などを行った。計 画推進期:2005(平成 17)年度~2008(平成 20)年度には、小山市地区まちづくり条例制定に 1 より、 「地区まちづくり推進団体」に認定された。また、 「地区まちづくり構想」を策定し、 羽川中央地区地区計画と羽川南地区地区計画が都市計画決定された。そして、事業展開期: 2009(平成 21)年度~を迎えることとなった。 3.成果:小山市羽川地区における地区まちづくり活動の成果 (1)進展する具体的地区まちづくり まちづくり事業としては、国道 4 号の拡幅、歩車共存道路、羽川北緑道、羽川広場、下 田公園、はねっこセンター(集会所)等の整備を行い、地区計画としては、羽川中央地区 地区計画と羽川南地区地区計画が都市計画決定されるなど、具体的地区まちづくりへと進 展した。 地区計画の検討にあたっては、分科会を開き、尐人数でも議論をした。その結果は、参 加できなかった住民のために「まちづくりニュース」を通して周知し、さらに、アンケー ト調査なども行った。この地区計画決定までのプロセスは、住民自治確立に向けての第1 歩となることは間違いない。 (2)パートナーシップ型まちづくりシステムの構築 地元のまちづくり組織の自立化には、行政と住民が協働したパートナーシップ型のまち づくりが重要となる。羽川地区においては、地元住民の代表でつくる「まちづくり推進委 員会」と行政、及び両者の中間にあって、これらをつなぐコーディネーター役の「まちづ くりコンサルタント」が緊密に連携し、施策の推進と住民の合意形成活動を行ってきた。 まちづくりの住民組織も「羽川地区まちづくり研究会」から、地区整備構想を推進するた めの「羽川地区まちづくり推進委員会」へとステップアップし、まちづくり組織の自立化 が進んできた。 羽川広場の清掃等維持管理は、地元羽川中自治会の有志で構成される「羽川広場愛護里 親会」と市の協働で行うことになった。 また、羽川北緑道の維持管理については、地元住民を主体とした「羽川北緑道をきれい にする会」が結成され、道路管理者である市との協働で清掃等の活動を行うこととなり、 同会と市の間で「羽川北緑道管理協定」が結ばれた。 (3)新しい行政制度への展開 ―地区まちづくり条例の制定― 「小山市地区まちづくり条例」は、小山市都市計画マスタープランに基づき、地区レベ ルの課題に応じたまちづくりを進めるため、市民が主体となったまちづくり組織の結成や まちづくり構想の策定、まちづくり活動への支援などについて具体的に定め、市民・事業 者・行政による協働のまちづくりの推進に必要となる基本的事項を定めるものである。 「小山市開発行為の許可基準に関する条例」は、市街化調整区域において既存集落の人 2 口減尐に歯止めがかからず、地域コミュニティの維持や学校の存続等が困難になりつつあ る中、都市計画法が定める一定の条件のもと、条例で区域や建築物の用途等、市街化調整 区域内における立地基準を定めることにより、開発行為が可能となる新しい制度の活用を 図るためのものである。 2010(平成 22)年 5 月末現在、「地区まちづくり研究会」として 13 地区を登録、「地区ま ちづくり推進団体」として 9 地区を認定している。また、各地区の活動状況の報告や先進 事例の学習、地区まちづくりの現状や課題の共有化、今後の活動展開に向けた意見交換な どを行うため、「地区まちづくり推進協議会」が設立された。 4.課題と方向性:住民主体・協働まちづくりと地域ガバナンス (1)地区協働まちづくりにおけるパートナーシップ環境の充実に向けて 地方分権の大きな流れの中で、住民参加は地方自治の基本であり、住民と行政がこれま で以上に協働してまちづくりを進めることがますます重要になってきている。 その背景には社会の成熟化に伴う、行政に対するニーズの多様化・高度化、住民の行政 活動への参加意識の高まりとともに、環境問題、福祉・介護、まちづくり、教育等、行政 の取り組みだけでは解決することが難しい課題領域の拡大や厳しい財政状況等、行政を取 り巻く環境の変化が挙げられる。 住民と行政のパートナーシップ(協働)の基本は、住民と行政は互いに対等な存在と認 識し、地域社会における住民の主体性を最大限尊重することにある。そのうえで住民自ら がまちづくりを自主的に進めようという意識を持たせるために、自分たちの住む地域の環 境や快適な暮らしのための各種施策について、真剣に考え、将来どのようなまちにしてい きたいか、そのために自分たちでは何ができるか考える機会を設けることが重要となる。 さらに、この住民自治組織に一定額の「予算提案権」まで与えると、住民意識はいやがう えでも高まることは間違いない。 地域協働では、熱意をもった「キーパーソン」となる人材の発掘と育成が必要となり、 従来の要望型からキーパーソンを中心とした実行型への行動が必要となる。生涯学習、ボ ランティア講座、NPO の法人化、団体や組織の自立化などの研修会を、まちづくり学習の 一環として位置づけ、協働に対する市民意識の高揚を図るための環境整備と、協働を推進 するリーダーを創出するための人材育成に積極的に取り組む必要がある。 (2)協働体による地域ガバナンスの形成に向けて ―住民自治確立への期待― 地域住民が、地域ごとの課題を、日常生活の中で、自ら解決してゆくための住民自治組 織が必要である。それを「地域協働体」と名付けたい。地域協働体とは、 「地域における多 様な公共サービス提供の核となり、地域コミュニティ組織など地域の多様な主体による公 共サービスの提供を総合的、包括的にマネジメントする組織」 (新しいコミュニティのあり 3 方に関する研究会報告書 2009(平成 21)年 8 月 28 日)といえる。小山市の場合は、「小山 市コミュニティ基本計画書」に基づいて設置されているコミュニティ施設ごとに設定する のが望ましいと考える。既設の公民館等を拠点と考えるならば、既に 10 か所ありコミュニ ティの結成は 10 地区で可能である。 上記の単位は地縁団体である自治会の組織ともラップしてくる。小山市には 260 の自治 会(2009(平成 21)年 4 月 1 日現在)があり、それぞれの自治会が旧町村を単位とする 5 つ の支部(10 地区)を組織している。地区社会福祉協議会も上記 10 地区の設立を目指して いる。さらに小山市民生委員児童委員協議会、小山市青尐年育成団体協議会、小山市子ど も会育成会連絡協議会、 (財)小山市体育協会の支部等々もほぼ重なってくるので、多様な 主体によって構成される地域協働体の単位としては妥当と思われる。 当面この 10 地区のコミュニティ単位に「地域協働体」の設置を進めたい。そしてそれぞ れに一定額の予算提案権を与え、 「自分たちのまちは自分たちでつくる」との意識のもとに、 計画・決定、執行、評価・改善のすべての段階を住民自らの手で実践させることとする。 この「地域協働体」は当面、条例で規定する市の認定団体としてその位置づけをすると ともに、その予算提案に関しては最大限尊重するものとし、団体自治の執行機関の予算書 の一部として議会の審査にかかるものとする。地域協働体には執行機関と分科会等の付属 機関がおかれ、公民館等の職員はその補助機関としての役割も併せ持つものとする。地域 協働体にも法律や条例に反しない限りにおいて地域ごとの規則として、一定の公定力を与 えることも検討する必要がある。そして将来的には、英国のパリッシュのような一定の課 税権をもつ第三の自治体を目指したい。そしてこの小地域の「地域協働体」の集合体が小 山市であるとなるのが望ましい。 4
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