生活指導で落ち着いた学校作りを 江戸川区立一之江小学校 竹元 恵美 1. 赴任して 私が本校に赴任したのは、8年前の育児休暇明けと同時であった。2人の子供を保育時間 一杯まで保育園に預け、お迎えはいつも保育終了ぎりぎりの駆け込みだった。 同業の母親達と話をするのは「学校どう?大変?落ち着いてる?」。我が子が1年生にな る頃は保育園の他の母親達からも「入学する小学校ってどう?落ち着いてる?」そんな質問 を多く受けた。我が子が通う小学校が『落ち着いている』かどうかは保護者にとって一番に 気になることなのだと気がついた。 2. 生活指導に携わって ○特別支援コーディネーターとして 3年間は特別支援コーディネーターとして校内 の体制を整えていった。文科省によると通常学級 の6.5%の児童が発達障害を抱えている。40 人学級では、2~3名に特別な支援が必要という ことになる。 当時は、集団行動が苦手で授業中に騒いでしま う児童に学級担任が必死で対応していた。問題行 動を落ち着かせ、放課後は保護者と連絡を取り合 う日々であった。学級の他の子に授業は静かにき ちんと受けさせたい、本人にもその子に合った指 導をしてあげたい、と苦悩する担任を少しでも助 けたいという思いで、「特別支援対応時間割」を 作成した。 (特別支援対応時間割表) 本校は音楽・図工・家庭科を専科教員が担当して いるため、学級担任はその時間に学級事務を行うことができる。その空き時間に特別支援が 必要な学級に応援に入るという体制である。教員一人当たり週に一度、特別支援対応の時間 が設定できることになった。 トイレに行く時間もない忙しい中で、他の学級の応援を頼むことは申し訳ないと思いなが ら時間割を作成したが、同僚の苦労や熱意を知っている本校教員は皆快く協力してくれた。 担当の時間は支援が必要な学級に入り個別対応をしたり、TTとして学級全体を支援したり した。人が一人増えることで担任は落ち着いて授業を進めることができ、児童もその子に合 った対応で自尊感情が高まり穏やかな気持ちでいられることが増えた。クラス全体が落ち着 いてきた。 3. 生活指導主任になって 着任6年目からは生活指導主任となった。 他校の生活指導主任との研修会で、我校の 課題が見えてきた。「生活指導年間重点目標が 達成されていない」「校内外の小さな問題行動 が多い」「交通事故が多い」という点であった。 ○「あいさつ運動」 (登校時の「あいさつ隊」の活動の様子) 本校は「あいさつ・返事・くつそろえ」の 3つを生活指導の年間重点目標にしている。 目標と謳い呼びかけているが、中でも進んで 元気よく挨拶をすることができていない。そ こで「あいさつ隊」を立ち上げた。1週間を 1クラスが担当し、全校で1年間継続して朝 の登校時に校門に立ち、積極的に挨拶を投げ かけるという運動を始めた。初めは照れもあ ってあいさつ隊として大きな声を出すことに (「あいさつ隊」報告書) 抵抗があった。しかし、担当の1週間を終え、 感想を昼の放送で報告してもらうと「挨拶がかえってくるとうれしかった。」 「自分から大き な声で挨拶をすると気持ちよかった。」という声が聞かれるようになった。あいさつ隊が発 足して3年目となるが、注目を集めるように人気キャラクターに扮したり呼びかけのポスタ ーをもちながら挨拶したりと工夫を凝らした取り組みが見られるようになった。 ○「ふれあいタイム」 本校では学期に一度の割合でアンケート調 査を実施して児童の悩みや気になることに早 期対応し、早期解決を目指してきた。しかし、日々の学校生活で 学級の児童一人一人とじっくり話をする機会 はなかなかもてない。保護者とは年に2回、 家庭訪問や個人面談をしていても肝心の児童 と個別に話をする機会がないということに気 がついた。そこで「ふれあいタイム」として (「ふれあいタイム」の様子) 担任と児童が1対1で面談する時間を全校一 斉に朝の15分間作った。事前に取ったアンケートに触れながら一人一人と話をする機会は 教師にとっても有効な取り組みであった。 ○「交通安全指導」 本校は学区域に環状七号線が走りその抜け道となる小さな通りも多い。そのため全校児童 560人で毎年3~4件の交通事故が発生している。飛び出しによる事故がほとんどである。 「交通安全指導を徹底し、交通事故を0にしよう」と考えた。本校は朝の登校は地域ごとの 集団登校ではなく家庭ごとの登校であり、途中に保護者の見守りがないということも交通ル ールに対する意識の低さにつながっている。 登校時の実情を知るために朝通学路に立ってみて、その危険さに驚いた。同じ小学生の母 として心臓が止まりそうな光景にも遭遇した。危険な場所は交番に巡回を依頼したり、商店 に品物を搬入するため通学路に路上停車している大型トラックの運転手やお店の方にお願 いをして回ったりもした。 加えて「集団で登校させ交通安全指導を徹底しよう」と登校班を提案した。開校60年に して初めての集団登校を提案する上で全保護者にアンケートを取ると、7割、特に低学年の 保護者が集団登校に賛成であった。1年目は年度初めの3ヶ月と限定して取り組み、終了後 に再度アンケートを取ったところ、集団登校に反対していた割合が大きく減った。まだ課題 はあり交通事故も0ではないが、児童が交通ル ールを意識したり、高学年が小さい子を世話し ようとする気持ちが高まったり、集団登校を通 して保護者同士の関係が深まったりしたのは大 きな成果であった。 交通事故が多いと警視庁から報告があった水 曜の午前授業の日は、本校全教職員が通学路に 立ち下校する児童に交通安全指導をすることも 定着した。 (午前授業日下校時の交通安全指導) ○保護者や地域との連携 新しい取り組みを始めるうえで、まずは保護 者や地域との協力が必要と考えた。「生活指導 だより」を発行し学校の様子や生活指導で取り 組んでいること、協力してほしいことなどを伝 えた。管理職とともに地域の町会の会合に参加 し、集団登校の報告や交通安全の協力を依頼し たり、地域のまつりや運動会に参加し子どもの 様子を見たりして、学校の教員として「名と顔 を」覚えてもらうようにした。地域にある保育 園で来年度入学する園児の保護者に向け「小学 校ってこんなところ」と話をする機会も設けた。 このことは「学校のことを気楽に話せる先生」 として子供の指導に役立つと考えている。 (生活指導だより) 4. 落ち着いた学校に 学校全体も道徳教育の研究をして子供たちの心を育てる指導を積み重ねた。道徳を研究し て3年、子供たちに本校教育目標である思いやりの心が育ち、相手の気持ちになって考え行 動する子が増えてきている。数年前は多かった窓ガラスや校内の壁やドアの破損、給食の食 べ残しや食器の破損も減り、友達同士のトラブルも少なくなった。いじめや不登校、放課後 の地域でのトラブルもほとんどなくなってきている。これもみな教職員が一丸となり、保護 者や地域の方とも連携して、子供のために様々なことに取り組んできた成果だと考える。 保護者の方は交通事故防止のため登校時に交差点で交通安全指導をしたり、読書ボランテ ィアとして月に1度本の読み聞かせをしたりする取り組みを始めてくださった。 地域の方は「すくすくスクール」という放課後の時間に囲碁や大正琴、習字、お茶などを 教えながら子供たちと過ごしてくださっている。 昨年の開校60周年の記念行事では本校を卒業生した地域の方をゲストティーチャーと した授業を全学年で公開し、式典で5・6年生の合唱を披露した。お招きした区や地域の方々 が子供たちの様子に、口々に「素晴らしい学校だ」と称賛してくださった。 5.今後の課題 来年の新1年生は指定学区域以外からの希望が今まで以上に多い。これこそ以前私が母親 達から一番に聞かれた「落ち着いた学校かどうか」の評価の答えなのだと思った。今後はこ の落ち着いた生活態度を基盤にして、さらに思いやりの心を育てること、学習にしっかり取 り組み自ら考え学ぶ子を育てていくことを大切にしたい。
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