最新判決情報 2015 年 〔5 月 分 〕 〇アドミラル事 件 知 財 高 裁 H27.5.13 H26(行 ケ)10170~10174 審 決 取 消 請 求 事 件 (設 楽 隆 一 裁 判 長 ) 良 くある話 であるが、海 外 の有 名 ブランドの商 標 権 が日 本 企 業 に売 り渡 され、商 品 としては 海 外 ブランド品 として販 売 されてはいたが、実 は その商 標 権 者 は日 本 企 業 であったということ がある。本 件 のアドミラルもそうである。 判 決 によると、右 商 標 で知 られるアドミラルは、1914 年 にイギリス海 軍 の軍 服 のブランドとし て発 足 し、その後 、日 本 でも知 られる国 際 的 なブランドとなった。 最 初 の商 標 権 者 はスイス法 人 のアドミラル・スポーツウエア・ライセンス AG である。その後 の経 緯 を経 て、第 25 類 「被 服 類 」については、 日 本 企 業 である豊 田 通 商 (株 )が商 標 権 者 となっている。 本 件 は第 25 類 のうち、「被 服 」以 外 の「履 物 」に関 する事 案 であり、以 下 のように商 標 権 が分 割 譲 渡 されて いる。なお指 定 商 品 の記 載 は以 下 とは異 なっている。 〔原 告 〕 双 日 ジーエムシー(株 ) → サンダル靴 ,サンダルげた,スリッパを除 く履 物 (22A01.A02.A03) 〔被 告 〕 (株 )IBEX → サンダル靴 ,サンダルげた,スリッパ(22A01,A03) つまり、サンダルやスリッパ系 の履 物 は被 告 がアドミラル商 標 を使 用 し、それ以 外 のスポーツシューズなどは、 原 告 がアドミラル商 標 を使 用 していることになる。 しかし、需 要 者 からみれば、同 じ商 標 が使 用 された商 品 は、同 じ出 所 の商 品 と考 えるのが自 然 であるが、実 際 のところ、商 標 権 者 が何 社 かに分 かれていても、その事 実 は需 要 者 には知 られていないことになる。 また、同 じ商 標 権 が分 割 されたため、異 なる企 業 が商 標 権 者 となったのであるから、同 じ出 所 の商 品 であろ うと思 っていた需 要 者 らには、出 所 の混 同 を生 じることになる。それでは、商 標 が表 示 する商 品 の出 所 とは誰 を指 すのであろうか。インディアンモトサイクル事 件 やモズライト事 件 では、海 外 ブランドの原 権 利 者 である企 業 が消 滅 してしまっている。このような事 態 をどのような観 点 から解 決 すれば良 いのであろうか。 かつては商 標 法 上 、出 所 混 同 防 止 の観 点 から、異 なる 企 業 に対 して、類 似 する商 品 についての商 標 権 の 分 割 移 転 が禁 止 されていた。しかし、現 在 の商 標 法 第 24 条 の 2 ではそのような制 限 がなくなったので、同 じ 商 標 権 が異 なる企 業 に分 割 移 転 され、その結 果 、出 所 混 同 が生 ずるおそれがあることを商 標 法 は予 測 し、 一 方 の商 標 権 者 が、不 正 競 争 の目 的 で登 録 商 標 を使 用 し、他 方 の商 標 権 者 と出 所 の混 同 を生 じた場 合 、 何 人 も商 標 権 を取 消 すことができると規 定 し、出 所 混 同 の防 止 を担 保 している(第 52 条 の 2)。 しかし、商 標 法 第 52 条 の 2 が規 定 するのは、商 標 権 者 自 身 が不 正 競 争 の目 的 で使 用 した場 合 であり、商 標 権 に対 して使 用 権 が許 諾 され、その使 用 権 者 が使 用 した場 合 には、取 り消 しの対 象 とはされていない。 本 件 は、正 にこのケースであり、出 所 混 同 を生 ずる使 用 をしたのは、被 告 自 身 ではなく、その使 用 権 者 であ る(株 )チヨダであったため、原 告 は第 52 条 の 2 ではなく、使 用 権 者 による出 所 混 同 行 為 を取 り消 しの対 象 と した第 53 条 に基 づいて、取 消 審 判 を請 求 した。 しかし、ここでも問 題 がある。第 53 条 の使 用 権 者 による登 録 取 消 しの対 象 は、単 に出 所 混 同 を生 じた場 合 であるので、同 じ商 標 権 が 類 似 商 品 について 分 割 譲 渡 され場 合 、当 然 、異 なる企 業 が同 じ商 標 を類 似 する 商 品 に使 用 することになるので、出 所 混 同 が生 ずることは避 けられない。つまり、類 似 商 品 について商 標 権 が 分 割 譲 渡 された場 合 、常 に第 53 条 の取 消 しの対 象 になってしまうことになる。 しかし、特 許 庁 原 審 決 の見 解 は異 なっていた。上 記 のように、アドミラルブランドはイギリス海 軍 に由 来 する 老 舗 ブランドとして現 在 も需 要 者 に認 識 されて居 り、原 告 の業 務 に係 る商 標 とは認 識 されていないし、需 要 者 は原 告 商 標 と被 告 商 標 とを区 別 することなく、「 Admiral(アドミラル)」というブランドによって、原 告 被 告 以 外 の他 人 の商 品 とを識 別 するので、原 告 被 告 間 で出 所 混 同 を生 ずるおそれはない。従 って、第 53 条 の要 件 を 具 備 しないとして、原 告 の取 消 請 求 を棄 却 した。 1 © 2015 FUJIMarks Japan all rights reserved そこで本 件 知 財 高 裁 判 決 となった次 第 であるが、結 論 として判 決 は 審 決 を取 消 している。 まずアドミラルブランドの出 所 について 判 決 は、審 決 が認 定 するイギリス発 祥 のブランドとの認 識 は需 要 者 らに商 品 の出 所 として認 識 されているのではなく、そのようなブランドイメージとして の認 識 を意 味 するに過 ぎ ない。またそのようなブランドイメージがあるからといって、国 内 の商 標 権 者 を出 所 として観 念 でき ないわけで はない。出 所 とは、需 要 者 らが特 定 の権 利 者 に商 標 権 が帰 属 していることまで認 識 している必 要 はなく、「我 が国 おいて適 法 に権 利 を有 する者 」の業 務 に係 る商 品 であると認 識 していれば良 い。国 際 的 に周 知 著 名 な 商 標 であっても、登 録 商 標 について保 護 されるべき出 所 は登 録 商 標 権 者 であり、法 第 53 条 の「他 人 の業 務 に係 る商 品 」における「他 人 」とは、商 標 権 者 のことである。 次 に、出 所 混 同 について判 決 は、商 標 法 が類 似 する商 品 についての分 割 移 転 を許 容 している以 上 、 第 53 条 の解 釈 にあたり、商 標 と商 品 の類 似 性 のみをもって「混 同 を生 ず るものとした」と解 することは相 当 ではない。 むしろ、新 たに規 定 された第 52 条 の 2 を第 53 条 の特 則 として位 置 づけ、これを第 53 条 において類 推 適 用 し、使 用 権 者 が使 用 した場 合 にも、「不 正 競 争 の目 的 」を要 求 するべきである。 而 して、使 用 権 者 が登 録 商 標 又 はその類 似 商 標 を使 用 する具 体 的 な使 用 態 様 において、類 似 性 により 通 常 生 じ得 る混 同 の範 囲 を超 えて、社 会 通 念 上 、登 録 商 標 の正 当 使 用 義 務 に反 する行 為 と評 価 される ような 態 様 、すなわち、不 正 競 争 の目 的 で他 の商 標 権 者 の業 務 と混 同 を生 じさせる行 為 と評 価 できる態 様 により混 同 のおそれを生 じさせるものをしたことを要 するとしている。 以 上 までが法 律 論 であり、これを本 件 商 品 に当 てはめてみる。 対 象 商 品 は右 写 真 であり、左 側 が原 告 商 品 、右 側 が被 告 使 用 権 者 チヨダの商 品 である。 原 告 商 品 は、「ワトフォード」というモデルの人 気 スニーカーであ り、使 用 権 者 チヨダの商 品 の外 観 は、これを模 したものといえる。 ただし、被 告 商 標 権 の指 定 商 品 は「サンダル靴 」であるので、 チ ヨダの商 品 では踵 部 分 がサンダルのように突 っかけ履 きできるよ うに、えぐれて低 くなっている、という相 違 がある。 さらに需 要 者 層 も 20 歳 前 後 の若 年 層 であり、大 型 靴 量 販 店 である使 用 権 者 チヨダの店 舗 では、同 じ棚 の上 段 に原 告 商 品 が、 中 段 にチヨダの商 品 が、そして下 段 に原 告 商 品 が陳 列 され、同 じ棚 で販 売 されている アドミラル商 品 において、 出 所 が原 告 商 品 と使 用 権 者 商 品 とで区 別 できるような表 示 はされていなかったという取 引 の実 情 があった。 以 上 の事 実 より判 決 は、スニーカーとサンダルという商 品 種 類 の類 似 性 から通 常 生 じ得 るという範 囲 を超 え て、使 用 権 者 チヨダの商 品 の具 体 的 使 用 態 様 が原 告 商 品 と酷 似 していたということから、需 要 者 らに原 告 商 品 と同 一 の出 所 に係 るものであるとの認 識 を生 じさせる具 体 的 な混 同 のおそれを生 じさせた と判 断 した。 したがって、使 用 権 者 チヨダによる被 告 商 標 の使 用 は、社 会 通 念 上 、商 標 の正 当 使 用 義 務 に反 する行 為 と 評 価 される態 様 、すわなち、不 正 競 争 の目 的 で混 同 のおそれを生 じさせたので、第 53 条 に該 当 すると結 論 し た。 次 に判 決 は、第 53 条 1 項 ただし書 には「当 該 商 標 権 者 がその事 実 を知 らなかった場 合 において、相 当 な注 意 をしていた」ときは、取 消 しを免 れると規 定 されているので、この点 を判 断 した。 前 提 として、被 告 は販 売 前 にチヨダから商 品 の写 真 とともに報 告 を受 け、被 告 が確 認 した上 で販 売 を承 諾 することとなっていたので、チヨダ商 品 について、その形 状 、デザイン、商 標 を付 する位 置 な ど構 成 について知 っていたことが伺 われるとした。 他 方 、被 告 は原 告 と同 じ商 標 権 について分 割 移 転 を受 けていたのであるから、原 告 商 品 の周 知 性 の程 度 や、原 告 商 品 と具 体 的 な混 同 を生 じないよう注 意 をする義 務 を負 っていたとした。 そして、被 告 が仮 に原 告 商 品 を認 識 せず、使 用 態 様 が酷 似 し、混 同 を生 ずるおそれがあることを知 らなかっ たとして、被 告 は、そのような混 同 が生 じるおそれがあることを知 るための相 当 の注 意 を欠 いていたとして、第 53 条 1 項 ただし書 の抗 弁 の成 立 を否 定 した。つまり、事 実 として 被 告 が混 同 のおそれがあることを知 らなかっ たから抗 弁 が成 立 するのではなく、混 同 のおそれがあるか否 かについて 被 告 は知 るように注 意 するべきであ ったのに、していなかったから抗 弁 が不 成 立 とされたのである。 2 © 2015 FUJIMarks Japan all rights reserved 非 常 にレアなケースで、将 来 類 似 のケースに遭 遇 するとも思 われないが、解 釈 論 としては興 味 深 い判 決 で ある。 〇ディープクレンジングオイル事 件 知 財 高 裁 H27.5.14 H25(行 ケ)10011 審 決 取 消 請 求 事 件 (富 田 善 範 裁 判 長 ) 第 3 類 「 ク レ ジ ン グ オ イ ル 」 を 指 定 商 品 と す る 登 録 商 標 「 DEEP CLEANSING OIL/(ハングル文 字 )」(右 上 )に対 して、「DHC」ブランドで知 られる原 告 が、無 効 審 判 を請 求 したが、これが不 成 立 とされたため、当 該 審 決 の取 消 しが求 められた事 案 である。 無 効 理 由 は商 標 法 4 条 1 項 10 号 又 は同 15 号 であり、引 用 商 標 として原 告 DHC が使 用 してきた商 標 は、「 DEEP/CLEANSING/OIL」を三 段 に 書 いた商 標 (右 下 ) 他 である。 而 して、被 告 商 標 権 者 は、口 頭 弁 論 に出 頭 せず、答 弁 書 も提 出 しなかったため、原 告 主 張 の事 実 を争 わな いものとして擬 制 自 白 となったが、判 決 では、審 決 同 様 、原 告 DHC の主 張 が退 けられている。 原 告 DHC が初 めて「DHC ディープクレンジングオイル」の発 売 を開 始 したのは平 成 7 年 12 月 であり、その 後 、新 聞 、雑 誌 、テレビ CM 等 の宣 伝 広 告 を行 なった結 果 、その販 売 実 績 は伸 び、クレンジング部 門 で第 1 位 に選 ばれるほどとなった。 他 方 、「ディープクレンジングオイル」の名 称 を含 む商 品 が、平 成 13 年 から平 成 22 年 にかけて、原 告 以 外 の少 なくとも 11 社 により発 売 され、これらの使 用 に対 して原 告 DHC は、差 止 請 求 又 は権 利 侵 害 等 の警 告 は 行 なわなかったし、また原 告 商 標 について、商 標 登 録 出 願 も行 なっていなかった。 また「ディープクレンジングオイル」の名 称 も、「皮 膚 の深 いところからきれいにするクレジングオイル」を意 味 すると一 般 に認 識 される。 以 上 の理 由 により、被 告 商 標 の出 願 当 時 、原 告 引 用 商 標 が原 告 の業 務 に係 る商 品 を表 示 するものとして 周 知 されていたとは認 められないと判 決 された。 やはり、原 告 DHC が「DEEP CLEANSING OIL」を発 売 した平 成 7 年 当 時 に商 標 登 録 出 願 を行 なっていれば、 被 告 商 標 は登 録 されなかったであろうし、他 社 化 粧 品 メーカーも「ディープクレジングオイル」の名 称 の使 用 は できなかったであろう。もちろん、平 成 7 年 当 時 であっても、特 許 庁 が「DEEP CLEANSING OIL」の出 願 を、識 別 性 なしとして拒 絶 した可 能 性 もあったが、その場 合 には、3 条 2 項 の主 張 も可 能 であったであろう。 而 して、「DEEP CLEASING OIL」は現 在 では商 品 の普 通 名 称 ないしは品 質 表 示 語 となった訳 であるが、とい うことは、被 告 商 標 権 者 も商 標 中 の「DEEP CLEANSING OIL」の語 については、権 利 主 張 することができなく なったことになる。 また本 件 商 標 中 のハングル文 字 について、判 決 では日 本 人 には 読 み方 や意 味 は知 られていないので、特 定 の称 呼 、観 念 は生 じないと判 断 されているが、ハングル文 字 の識 別 が日 本 人 にできないとすると、本 件 商 標 は全 体 としての識 別 性 を欠 くとして、無 効 理 由 とはならないのであろうか。 つまり、「DEEP CLEANSING OIL」の語 にハングル文 字 が併 用 されていれば、被 告 商 標 と理 解 することもあ ろうが、ハングル文 字 部 分 が他 の文 字 に置 き換 えられて いたとしても、日 本 人 にはその相 違 が分 からないの であるから、ハングル文 字 は図 形 商 標 としても識 別 に機 能 しないことになる。 そうすると、本 件 登 録 商 標 自 体 の識 別 性 が問 題 になってくるのであろうか、という疑 問 である。 なお擬 制 自 白 とは、 相 手 方 の主 張 を争 わないと見 なされるものと誤 解 されるが、本 件 では相 手 方 が主 張 し た事 実 を争 わないと見 なされただけで、その事 実 に基 づいた判 断 、本 件 で言 えば DHC 商 標 の周 知 性 までも が自 白 したと認 められたことにはならず、原 告 主 張 の事 実 に基 づいた周 知 性 の有 無 という法 的 な判 断 は裁 判 所 の権 限 となる。 3 © 2015 FUJIMarks Japan all rights reserved
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