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2015年11月16日
Financial services
tax alert
EY税理士法人
OECD、BEPS
最終レポートを公表:
アジアパシフィックに
おける銀行業界に対する
影響
エグゼクティブ・サマリー
Contents
行動1:
電子経済についての課税上の課題
行動2:
ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメント
の効果の無効化
行動3:
行動4:
外国子会社合算税制
(CFC税制)
の強化
利子損金算入や他の金融取引の支払い
を通じた税源浸食の制限
行動5:
有害な租税慣行への対応
行動6:
不適切な状況での条約の特典付与の
防止
行動7:
PE認定の人為的回避の防止
行動8-10: 移転価格の側面
行動11:
BEPSのデータ収集・分析
行動12:
濫用的なタックス・プランニングの開示
行動13:
移転価格文書化及び国別報告書に係る
ガイダンス
行動14:
紛争解決メカニズムの有効性向上
行動15:
二国間租税条約改定のための多国間
協定の策定
まとめ
EYグローバル・タックス・アラート・
ライブラリー
EYグローバル・タックス・アラートは、オン
ライン/pdfで以下のサイトから入手可能
です。
http://www.ey.com/GL/en/Services/Tax/
International-Tax/Tax-alert-library%23date
経済協力開発機構(OECD)
は、税源浸食と利益移転(BEPS:base erosion and
profit shifting)に関する2年間にわたるプロジェクトにおいて、15の行動計画
すべての重点分野に関する最終レポートを公表しました。これらのレポートは、移
転価格ルール、
支払利子の損金算入、
ハイブリッド、
恒久的施設の概念、
及び租税条
約の特典の制限を含め、
国際課税システムにおける主要な要素に係る重要な変更
についてOECD及びG20諸国が策定した推奨事項を詳述しています。
これには、
新
たな国別報告書の要件及び2階層となる移転価格文書化の新たなアプローチも含
まれています。
このプロジェクトは、
租税条約、
OECDモデル租税条約コメンタリー、
移転価格ガイドライン及び国内法の改正を通じて、
利益に対する課税が、
当該利益
を生み出す経済活動が行われている場所及び価値創造の場において、
確実に行わ
れるようにすることを幅広く目指しています。
OECD及びG20諸国がBEPS推奨事項の導入に関するモニタリン
同時にOECDは、
グに取り組み、
かつこれらの試みにさらなる国々を含めた枠組みを策定する計画を
発表しました。多国間協定や金融取引の支払いなどの一部のトピックに関する作業
2017年まで継続される予定です。
は、
銀行業界は、規制主導の構造改革に係る過去に例を見ない対応と同時並行で
BEPSの進展に対処しなければならないという独自の課題に直面しています。本ア
ラートでは、最終レポートから生じる主要な内容のうち、
アジアパシフィックの銀行
業界にとって関連性の高いものをご紹介しています。
銀行業界にとっての特段の関心事は、
利子及び経済的に同等な
その他の支払いの損金算入や課税が、BEPSへの取組みにお
ける主要な重点分野の1つとされていることです。行動4は、
企
業における利子の損金算入について特に焦点を合わせていま
す。
しかし、
これは資金調達に関連するBEPS対抗措置の中のツ
ールの1つに過ぎません。特に、
ハイブリッド・ミスマッチ・ルール
(行動2)、被支配外国法人(CFC)ルール
(行動3)、条約の濫用
(行動6)
及び移転価格
(行動8-10)
はすべて、
銀行の資金調達
構造に影響を及ぼします
(ただし、
これらのそれぞれルールの
対象は、
単なる資金調達にとどまりません)
。
ン決済プロセス及び高速取引に言及しているものの、
金融サー
ビスに関する具体的な提言は行っていません。
しかし、
OECD及
びG20諸国は2016年に本行動のさらなる検討を継続する予
定です。
行動2:ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジ
メントの効果の無効化
当初のレポートは2014年9月にOECDにより公表されたため、
行動 2 の下における推奨事項の大部分は既に知られていま
アジアパシフィックの国・地域の多くは正式なOECD加盟国で す。上記のとおり、最新のレポートは、受領者において課税さ
はないため、推奨事項全体を導入しない可能性があります れない支払いに係る控除を否認するという第1のルール、
また
が、
これらの国・地域の多くはBEPSプロジェクトに関与したた 第1のルールを導入していない国からの所得に課税するという
め、
BEPSの影響はアジアパシフィックにおいても実感されるよ 第2のルールを各国が導入すべきであるという推奨事項を確認
うになると考えられます。アジアパシフィックのOECD非加盟国 しています。
がBEPSの提案の一部を導入しない場合であっても、
オースト
したがって、
アジアパシフィックの銀行グループにおけるハイブ
ラリア、
米国又は欧州の銀行のアジアパシフィックを地域拠点と
tower structure”
や”
intra-group convertibles”
など)
リッド
(”
した金融取引及びグループ構造が、
これらの本国で想定される
の利用を特定することが特に重要となります。これは、控除を
BEPS関連の国内法の改正による影響を受けるであろうことは
行おうとする場所である国がこれを否認しない場合(例えば、
疑う余地がありません。
行動2を導入していないアジアパシフィックの国・地域の場合)
ある国が1つ又は複数の行動を導入することを決定した場合 であっても、第 2 のルールの下で当該所得がカウンターパー
に、異なる各行動がどのように相互作用し得るかが検討されて ティー
(BEPS適用国・地域に所在している可能性がある)
に含め
きました。特に、
ハイブリッド・ミスマッチ・ルール
(行動2)
は利子 られ、
これによりアジアパシフィックを本拠とする銀行のハイブ
の損金算入を制限する固定比率ルール
(行動4)
に先立って適 リッド融資の効果が無効化される可能性があるためです。
用されるべきであることが既に確認されています。さらに、
ある
また推奨事項は、二重控除及びインポーテッド・ハイブリッド・ミ
国が利子制限ルールと並行してCFCルールを適用した場合、
親
スマッチを提供するストラクチャーも対象としています。
会社において課税対象となるCFC所得は、
行動4における利子
損金算入ルールの下で、固定比率ルール及びグループ比率ル ASEAN の金融サービスの中心であるシンガポールは、ハイ
ールを適用する際に親会社のEBITDAの計算に含められる可 ブリッド取引の分類に関する税務当局のガイドラインを最近
能性があります。行動4によって、
各グループがグループ内にお (2014年)導入しており、行動2の推奨事項に基づき、国内法
(パ
ける利子の支払い水準の引下げを促されると予想されます。
し 及びガイドラインにさらなる改正が生じる可能性があります
たがって、
これはさらに各国のCFCルールに対する圧力を低下 ートナーシップなどのハイブリッド事業体のより幅広い検討を
含む)
。香港は現在バーゼルIIIの規制資本取引のクーポンに係
させると見込まれます。
る税務上の損金算入額を見直しており、
私たちは今後数カ月の
銀行業界においては、
各国・地域の国内法及び租税条約が幅広
間に審議を予想していますが、
最終的なBEPS推奨事項が議論
く改正される可能性があるため、推奨事項の複雑性と相まっ
の対象となる可能性があります。
て、
短期と長期の両方にわたる資金調達アレンジメント、
資本及
びグループ構造の潜在的な寿命について、
レビューすることが 行動2は、取引又は事業体のハイブリッド性に起因する税務上
のミスマッチのみに関係するものであり、所得が双方の国・地
重要になっています。
域で同様に分類される場合における税法の違いに起因する税
行動1:電子経済についての課税上の課題
務上のミスマッチには関係していないことは注目に値します。
したがって、行動2の推奨事項は、例えばシンガポールにおけ
行動1の最終レポートは、電子経済によりもたらされるグロー る様々な金融セクターの優遇税制(適格金融所得に対する減
バルな課税所得を帰属させるにあたってのBEPSリスク及び一 税又は免税の適用)や、香港における課税対象とならない非
般的な課題に焦点を合わせています。最終レポートはオンライ 源泉所得の分類から生じるミスマッチにまで拡大されるべき
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でないと思われます
(ただし、下記の行動5に関するコメントを
参照)
。
国・地域においてまだ適用していない設計の構成要素を採用す
るかどうかの決定は個々の国に委ねられています。
最終レポートは特に、貸株及びレポ取引に関して従来よりも詳
細なルールを含んでおり、
また所得がCFC の合算により得ら
れる場合には、
ミスマッチにつながるべきでないと述べてい
ます。
推奨事項はオーストラリアやニュージーランドのCFC税制(こ
れらの国が強固なものと既にみなしている)
と概ね整合的で
あり、
さらなる改正を行う計画はないものと私たちは理解して
います。その他のアジアパシフィック諸国(日本や韓国など)
に
おいて、CFC税制の改正があるか否かはまだ明確ではありま
せん。インド、
シンガポール、香港、
マレーシア、
タイ、ベトナム、
フィリピンなどのアジアパシフィックの各国・地域はCFC税制を
有していませんが、最終レポートはCFC税制の強化を促してい
るものの、CFC税制のない国・地域にその導入を明示的には求
めていません。
最終レポートは、各国・地域が適切と考えるグループ内ハイブ
リッド規制資本に関する税務上の取扱いに自由に取り組めるこ
とを確認しており、
これは銀行業界がこの点において異なって
いることを認めたものとして歓迎されます。ある国が特定のハ
イブリッド規制資本取引に関してハイブリッド・ミスマッチを無効
化するルールを適用しないことを選択した場合でも、
その特定
の取引に関して当該ルールを適用すべきか否かについて他の
国・地域が政策を選択するにあたって影響を及ぼしません。
CFC税制は中国本土で最近導入され、台湾で法案と
現時点で、
して提案されていますが、その他の上記のアジアにおける国・
地域でCFC税制が導入される計画はないと私たちは理解して
これは各国間における相当な差異が生じる余地を残します。
います。
例えば、
シンガポールは政策上の事項として、その他Tier 1
(AT1)資本取引に係る分配は税務上利子として取り扱われる より可能性が高いと想定される変化は、
世界の他地域のOECD
べきであり、
よって損金算入可能と推定されると定めた国内法 加盟国における既存のCFC税制の改正に伴い、
より税率の低
を導入しました
(それとは対照的に、香港やオーストラリアなど いアジアパシフィックに存在する
(シンガポールや香港などの)
の他の国・地域はこのような国内法を導入していません)
。AT1 子会社における潜在的なCFCの課税所得が影響を受けること
の損金算入額に係る国内法は行動2を踏まえて改正される可 です。
能性があり、
これにより資本の調達における税務上の不確実性
又は複雑性の1つの要素が潜在的に増えることとなります。
行動4:利子損金算入や他の金融取引の支払
また最終レポートは、行動6における条約の濫用に関する作業
の結果として生じる多数の条約の条項が、
ハイブリッドの役割
の縮小において重要な役割を果たす可能性が高いことを確認
しています。モデル条約第1条に係る文言の草案が含まれてい
ますが、
その目的は、
ある事業体の所得が国内法の下でいずれ
の締結国の所得にも含まれない場合に、条約の特典を利用で
きないようにすることです。
これは米英条約の第1
(8)
条におけ
る既存の文言を基本的に反映しており、特にパートナーシップ
に関連しています。最終レポートは、最終的に国内ルールが提
案されたとおりに起草されている限り、
各条約における無差別
条項との対立は存在しないはずであると結論付けています。
行動3:外国子会社合算税制
(CFC税制)
の
強化
最終レポートは、
税率の高い親会社からより税率の低い被支配
子会社への利益の移転を防止するための効果的なCFC税制の
設計に係る基礎構成要素
(CFCの定義、
適用除外の範囲及び基
準要件、所得の定義・計算方法及び帰属、並びに二重課税の防
止及び排除に係るルールを含む)
を定めている一方で、
常に具
体的な推奨を行っているわけではありません。
したがって、各
いを通じた税源浸食の制限
行動4は、支払利子の利用を通じた税源浸食を防止するため
のルールの設計におけるベストプラクティスに関する推奨を行
い、
過去のディスカッション・
ドラフト
(討議草案)
の細部の多くを
具体化しています。最終レポートは銀行業界のグループにおけ
る多数の特定の特徴を考慮する必要があることを認めていま
すが、銀行業界についての適用除外は提案していません。
した
がって、業界の特定の特徴を考慮して銀行がもたらす潜在的
なBEPSリスクに対処するためのベストプラクティスのルール
を特定すべく、
さらなる作業が2016年に実施されると思われ
ますが、
私たちは最終レポートがこれらのリスクについて詳しく
記述していないことに留意しています。ただし最終レポートは、
推奨された利子制限ルールが、将来の金融危機のリスクを軽
減することを目的とする資本規制と対立したりその有効性を低
めたりしないことは極めて重要であると強調しています。
当該ルールは広範な柔軟性を提供しており、
これは比率に基
づく利子の損金算入を既に制限している国・地域が重要な変更
を行わないことを認めることを目的としている可能性がありま
す。
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きである
この点において、
シンガポール及び香港が、利子配賦ルール
(すなわち、利子が株式の非課税配当の原資となる場合など、
• 否認された利子及び未使用の利子枠の繰越しを認める
課税所得の創出に用いられない場合にはこれは損金算入でき
ルール、
又は否認された利子の繰越し及び繰戻しを認め
ない)
を用いて利子の損金算入額を既に制限していることは
るルール
注目に値します。また、
この地域の複数の国・地域は、移転価格
の視点から見た異なるアプローチを取っています。現在、
オー • ルールを迂回するストラクチャーを防止し追加的なリスクに
対処するための標的を絞った租税回避防止が要求される可
ストラリア及びこの地域のその他の近隣国・地域は法定の一般
能性がある
的な独立企業テスト
(及び税務当局により公表された裏付けと
なるガイドライン)
を参照して利子の損金算入を制限しており、 • 既存の債務の適用除外、
及びグループの再構築を可能にす
オーストラリアは独立企業ルールを法定比率テスト
(銀行につ
るために導入を先送りする移行規定が認められる
いてはリスク・アセットによる資本計算を反映する)
で補完して
います。香港の事例においては法定のルールはなく、
IRD(香港 • 各国固有の利子制限ルール(例えば、独立企業規定又は過
少資本ルール)
が固定比率に先立って適用されることが推
内国歳入庁)
の「独立企業
(arm’
s length)」ガイドラインのみ
奨される。
ただし、
これは最終的には該当する国・地域が自ら
です。
のルールの設計、
及び係るルールが対処しようとするリスク
最終レポートは、
各国・地域が独立企業テストを維持し、
比率テス
を考慮して行う意思決定である
トを利子損金算入の上限としてのみ適用することを特に認め
提
ています。アジアパシフィックの各国・地域が、それぞれの独立 • グループ会社に支払われる適切な実態を欠いた利子を、
供された資金に対するリスクフリー投資収益以下に制限する
企業テストを変更しない可能性は十分にあります。重要な問題
(下記の行動8∼10と関連)
は、各国・地域が以下の主要なOECDの推奨事項のいくつかを
導入するために既存の規定又はガイドラインを拡大するか否か
です。
• 否認された利子に対する源泉徴収税は依然として支払わな
• 純利子は、10%から30%の範囲におけるEBITDA(利子・税
• ルールは2020年までにレビューされる
金・減価償却控除前利益)
に対する一定の比率以下に制限
されるべきである。例外的な状況においては、各国はEBIT
(税前利益)又は資産に基づく比率を代わりに用いること
ができる。非課税配当や外国支店利益などの非課税所得は
EBITDAから除外されるべきである
• 各国は、企業が自らの全世界グループのEBITDAに対する
ければならない
行動5:有害な租税慣行への対応
行動5は優遇税制に係る実質的な活動を要求しており、
所定の
規準を満たす優遇制度に関連するルーリングに関して、
税務当
局間の強制的な自動情報交換の枠組みの策定を求めていま
す。
この目的において、
OECDはルーリングのカテゴリーの定義
及びどの国がルーリングを受けるべきかの決定を支えるプロセ
スの定義に取り組んでいます。
ネット支払利子として計算される比率まで利子を損金算入
することを認める全世界グループ比率ルールを適用するこ
とができるが、
これを強制はされない。
グループ比率の計算
において、各国・地域は10%を上限とする純利子の増額を この枠組みは、ルーリングの6つのカテゴリー―
(i)
優遇制度に
認めることができる。損失を計上しているグループ又は損 関連するルーリング、
(ii)
クロスボーダーの一国のみによる移
失を計上している事業体を含むグループに係るグループ比 転価格の事前確認
(ユニラテラルAPA)
又は移転価格に関連し
率の計算方法に関する諸問題は、
2016年に先送りされた。 た他のユニラテラル・ルーリング、
(iii)課税所得の減額調整を
グループ比率がない場合は、多国籍グループと国内グルー 要請するルーリング、
(iv)
恒久的施設
(PE)
に関するルーリング、
プの間に不適切な差別が存在すべきではない
(v)導管取引に関するルーリング、及び
(vi)情報交換を行わな
いことがBEPSを生じさせるであろうという見通しのあるその
他の種類のルーリング―が対象となります。これらの動向は、
より補完することができる
銀行業界が今後ルーリング取得に対するアプローチを全般的
• 純利子の少ない事業体に係るデミニマス(僅少性)
に検討すべきであることを意味しています。
テスト
さらに、
アジアパシフィック地域において本行動は、
地域の銀行
• 公益性のある資産のための資金を調達する期間10年
中心拠点が特定の所得に対するより低い法人税率を利用でき
以上の第三者のノンリコースローン
(他にも制限あり)
に
るようにするシンガポールで利用可能な金融業界インセンティ
適用される公益適用除外。この適用除外が適用される
などの優遇税制と特に関連性があります。
ブ
(「FSI」)
場合、
残りのグループに係る比率の計算は適用除外され
OECDは投資を呼び込むためのツールとして
た利子及び関連する利益を除外するよう調整されるべ この点において、
• 各国は、固定比率ルール及びグループ比率ルールを以下に
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の優遇税制の利用には反対していません。実質的活動要件
(知
的財産優遇税制について議論されているとおり)の下では、優
遇税制の適用と実際の経済活動とのネクサス
(課税の根拠とな
る関連性)
のルールが鍵となります。OECDは、
優遇税制の恩恵
を受ける所得と当該所得に貢献している中核的活動の間にネ
クサスの存在を確認することに焦点を合わせています。提案さ
れるアプローチの1つは、
支出の水準を用いて当該所得を稼得
するために必要とされる実態及び活動を測定することです。
政府は既に、
FSIがOECDによ
シンガポールのFSIに関する限り、
る提案と原則的に整合するような実態に基づくアプローチ
(最
低人員数要件、事業予測、事業支出など)
を伝統的に適用して
きました。いくつかの微調整が必要とされるかもしれませんが、
推奨事項がシンガポールのFSI制度に悪影響を及ぼす可能性
は低いと思われます。
シンガポールにおいてFSI又
一般的なBEPS上の論点の1つは、
はその他の優遇税制を検討する納税者が、
シンガポールにおけ
る業務がビジネス主導であり、
優遇税制の一部として要求され
る厳格な条件を充足できるようにしなければならないことがか
つてなく重要になっていることです。同様に、税務当局は恩恵
を受けるために要求される定性的規準の範囲に関して従来よ
りも注目することになるでしょう。これは最近、何らかの優遇税
制を同様に導入した他のASEANの国・地域にも当てはまると思
われます。
行動6:不適切な状況での条約の特典付与の
防止
過去の提案と一貫して、OECDは、租税条約を締結する国は
条約漁り
(トリーティーショッピング)のアレンジメントを通じた
ものを含む脱税又は租税回避による、非課税又は減税の機会
の創出を回避することを意図しているという明確な言明、
及び
以下のいずれかが条約に含まれるべきであることを確認して
います。
• 主要目的テスト
(PPT)
及び特典制限
(LOB)
ルールの形式に
よる一般的な条約濫用防止ルール
• PPTのみ
• 導管防止ルールにより補完されたLOBルール(一部の米国
の現行条約に見られるとおり)
多くの主要な国は引き続きPPTを支持すると予想されます
が、
LOBルールを支持する米国や日本などのいくつかの注目す
べき例外があります。LOBルールに関して米国が最近公表した
提案を検討するための追加的な作業が要求されると思われ、
し
たがってこれは2016年の初めまで最終決定されないことが予
想されます。
また、
特定の種類のファンドに係る条約特典の権利
に関連する課題のレビューも、
その結論に係る同様の期限まで
継続するでしょう。
例えば、
シンガポールの財務省は行動6の推奨事項を歓迎して
おり、
多くの既存の条約にPPT又はLOBが含まれている限りに
おいて、
自らの条約ネットワークを概ねBEPS遵守とみなしてい
ます。銀行グループ内のシンガポールの会社
(特にSPV又は中
間持株会社)
は最終的な推奨事項を踏まえた受益所有権の実
証に関する自らの実態にますます留意すべきであり、
魅力的な
条約国(インドなど)
におけるカウンターパーティと取引を行う
場合にはなおさらでしょう。
新たな租税条約又は多国間協定の導入に先立っての必要に応
じた再構築の機会であるため、
アジアパシフィックの銀行は今
こそ、
自らの複数階層の融資ストラクチャー及び資金のフロー
をレビューすべきです。
行動7:PE認定の人為的回避の防止
最終レポートには、OECDモデル租税条約における恒久的施
設(PE)の定義の変更が含まれています。新たな定義は、ある
企業の代理として行動する者が当該企業のPEを生じさせる要
件について修正することにより、
コミッショネア及び類似のアレ
ンジメントによるPE認定の回避に対抗することを目指していま
す。PEの定義は、
「契約を締結する」
という伝統的な権限を超え
て、新たな草案の下においては、ある者が「重要な変更を加え
ることなく日常的に締結されている契約の締結に関し、
その締
結に向けられた主要な役割を常習的に果たしている」状況を含
めるよう拡大されています。
クロスボーダーのビジネスモデルを持つ銀行は、
ある者が契約
を締結する権限を行使しているか、
又は関連する企業による重
要な変更を加えることなく日常的に締結されている契約
(例え
ば、
定型化された契約)
の締結に関し、
その締結に向けられた主
要な役割を果たしているかどうかをレビューすることが必要と
なります。また銀行は、
「駐在員事務所」、
並びにオンショア営業
チーム及び出張者である銀行員の活動が、課税対象PEとなり
得るかどうかを分析する必要があります。
さらに、ある者が独立代理人であるかどうかを決定するにあた
っては、ある者が自らの密接に関連する1つ又は複数の企業を
独占的又はほぼ独占的に代理する場合には当てはまらないと
考えれます。企業が密接に関連しているかどうかは、すべての
関連する事実に基づいて、一方が他方を支配していたり、両方
が同じ者又は企業の支配下にあったりするかどうかによります。
これは、
これまで議論されてきた「関連付け」基準よりも粗い基
準となっています。
またガイドラインは、
「独立の代理人が代理人の事業と関連し
ない活動を実施している場合には、
これはその事業の通常の過
程において独立の代理人の役割を果たしているとは言えない」
と述べています。
グローバルなブッキングモデルを持つ銀行に
Japan tax alert 2015年11月16日 |
5
ついては、係るモデルが追加的な従属代理人のPEリスクを生 グループのシナジーを考慮することも要求しています。
しかし、
じさせるかどうかを判断するため、
個別に検討されるべきです。 金融取引の移転価格の側面に関するさらなる作業に取り組む
必要性が確認されていることに留意すべきです。これは2016
最終レポートで提案されている変更の結果として、生じるで
年及び2017年中に開始される予定です。
あろうPEへの利益の帰属に関するガイドラインを提供するた
めのフォローアップ作業が必要になると思われ、
これは2010年 銀行業界に係る行動8-10から生じる主要な課題には、以下が
の恒久的施設への利益の帰属に関する報告書を土台とする可 含まれます。
能性が高いと述べています。
この作業は2016年末までに完了
• 資金移転価格及び流動性移転価格モデルを、金融取引に
することを目指しています。
関して引き続き取り組まれるであろう作業を踏まえて再評
価すべきである。これらの方針のレビューにおいて鍵とな
最後に、
これらの提案は条約の PE の定義のみを取り上げて
おり、
よって国内法が同様に幅広いものであるかどうか、
及び各
るのは、支店及び別個の法人の資金へのアプローチの違
国が国内法上の定義を拡大するかどうかを検討することが必
いに係る独立企業間資金会計の税務上の移転価格概念に
要となります。私たちは、
テリトリアル方式に準じた制度を持つ
基づく内部財務モデルを理解し差別化する能力である
シンガポールや香港などが実質的に所得の源泉に基づく課税
• 別個の法人間における取引にKERT(Key Entrepreneurial
を行っており、
所得課税に係る国内法がPE概念を中心として構
Risk Taking/重要な起業家的リスク負担)拠点の概念が現
成されていないことに注目しています。
しかし、
これらの国・地域
在適用されるようになっているため、子会社の移転価格の
においても、PEの定義は、課税権を他の国・地域との間で条約
アレンジメントをレビューすべきである。新たなガイドライ
に従い決定する目的上、
依然として重要です。
ンは当事者間における契約関係の分析に焦点を合わせて
おり、
各当事者の行為は、
対応する事業活動を実施する企業
行動8-10:移転価格の側面
に対する利益の配賦につながる
行動8-10の下におけるOECDの作業の結果は、OECD移転価
格ガイドラインの改正になると思われ、
これはさらにアジアパシ
フィックの一部における国内の移転価格ガイドラインに取り上
げられる可能性があります。OECDは経済的実態の重視を強め
ており、
資産及びリスクは機能に従うということに基づいて、
機
能、資産及びリスクのバランスの取れた評価から、
(人員の)機
能のさらなる重視へと移行しつつあります。さらに、
移転価格申
告書の正当性を説明するための経済的実態の重要性がより強
調されています。
• マネジメント及びグループ・サービス・フィー(テクノロジーを
含む)
をレビューし、
文書化を改善すべきである。
これは、
修
正後のガイドラインにおいてこれらが特に識別されている
ことから、
「これらがBEPSプランニングのための仕組みで
ある」
と主張する発展途上国
(アジアパシフィックのいくつか
の国を含む)
から身を守るのに役立つためである
• 無形資産を巡る移転価格方針を明示的に検討及び文書化
する必要性。無形資産の定義は幅広いので、
グループ内の
知的財産の再評価、
並びにどの事業体が法的及び/又は経
済的な所有権を持っているかの再評価が必要である。伝統
的に、
銀行業界の納税者は明示的な無形資産の方針を設け
てこなかった。現在は、行動13の下で作成すべきマスター
ファイルにおいて、
無形資産に対するアプローチを示すとい
う要件が存在する
最終レポートは、資本が豊富で機能の低い事業体の「 BEPS
プランニング」における役割の関連性を低下させようとして
いることを示しています。業界からの異議にも関わらず、最終
レポートは、
利益の適切な立地を決定するにあたっての銀行に
おける資本の具体的な役割及び重要性に言及していません。
しかし、
利益分割及び金融取引に関するさらなる作業が開始さ • トータル・リターン・スワップ、
クレジット・デフォルト・スワップ、
れるであろうという確信から、一定の安心が得られるかもしれ
金利スワップなどのその他の金融取引における価格設定を
ません。
レビューすべきである。所得をより税率の高い国・地域から
より税率の低い国・地域に移転させるように見える可能性の
行動 4 の最終レポートは、利子及び経済的に利子と同等な
あるものは、
価格設定及びより税率の低い国・地域における
支払いは、
移転価格ルールにも影響を受けると認めています。
実態を独立企業間の商業的なものとして守れるようにする
行動8-10の最終的な推奨事項は移転価格の結果と価値創造
ため、
特に重要である
との整合に関するものであり、
グループ会社に支払われる適
切な実態を欠いた利子の金額を、
資金に対するリスクフリーの
投資収益以下に制限することを提案しています。またこれは、
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| Japan tax alert 2015年11月16日
行動11:BEPSのデータ収集・分析
本行動は銀行業界に特有の影響を及ぼすものではなく、
BEPS
の一般的な影響の測定及びBEPSの経済的影響の分析に関し
て各国・地域が直面する課題に焦点を合わせています。本行動
は、
データの収集、編集及び分析の重要性を強調しています。
本行動は税務行政に主な焦点を合わせていますが、税務当局
の分析に情報を提供するであろう行動13における報告の重要
性について示唆しています。
行動12:濫用的なタックス・プランニングの
開示
本行動は、義務的情報開示ルールを持たない国が、潜在的に
積極的又は濫用的な税務プランニングのスキーム及びその
利用者に関する早期情報を収集するためのルールを導入する
ことを可能にするような枠組みを提供することを目的としてい
ます。
これらのルールが国内法において導入されているその他の
国(例えば、英国)
では、
これらは租税回避目的で仕組まれた金
融取引の早期開示に幅広い影響を及ぼしています。本行動に
おける推奨事項は最低基準(ミニマム・スタンダード)
にあたる
ものではないため、
アジアパシフィック諸国が係る開示制度を
導入するかは不明です。本行動は、国際的な税務スキームを
標的としたルール、税務当局間の情報交換の策定及び導入並
びに協力に係る推奨事項を定めています。アジアパシフィック
地域の国々が今後本行動にどのように対応するかは注目すべ
きです。
行動13:移転価格文書化及び国別報告書に
係るガイダンス
本行動は、
多国籍企業
(MNE)
がグローバル事業展開全体に関
する情報を税務当局に提供するための、移転価格文書化に係
る修正された基準及び国別報告書
(CbCレポート)
に係るテンプ
レートについて規定しています。財務諸表上の収益が7.5億ユ
ーロ以上のMNEが国別報告書の提出を要求され、
2016年1月
1日以降に開始する事業年度より導入される予定です。収益の
基準値は2020年のレビューの一環として再検討されます。
特定の国・地域の納税者がマスターファイルの提出を要求され
るか否かは国内法によって異なります。ただし、
作成される初年
度の文書は、
すべての税務当局がその後の年度について閲覧
できる基本情報となるため、
最も重要なものとなります。マスタ
ーファイルは、国別報告書のデータと共に、
グループの移転価
格ポリシーにおける問題、
新たなPEの可能性、
並びに無形資産
の立地及び関連する機能を巡る問題を浮彫りにすると考えられ
ます。
アジアパシフィックでは、
中国本土及びオーストラリアが国別報
告書の規則を導入しており、租税条約又はその他の税務情報
共有協定を通じて国別報告書を入手できない場合に、現地の
事業体から国別報告書を入手できるような方法で自らのルー
ルを起草しています。香港は、現在のところ法律の導入又はこ
の点における審議を行っていません。シンガポールは、その移
転価格ガイドラインにおいて類似のローカル/マスターファイ
ルを有していますが、
国別報告書の規定の導入に関して現在審
議しています。
行動14:紛争解決メカニズムの有効性向上
行動14の下で策定された措置は、2014年OECDモデル租税
条約第25条に基づく相互協議手続き
(MAP)のプロセスの実
効性及び効率性を強化することを目的としています。行動14
は、MAPに関連する条約上の義務が導入され各事案が解決さ
れること、
条約紛争の解決に関連する行政プロセスが導入され
ること、
及び適格である場合に納税者がMAPにアクセスできる
ことを目的とするミニマム・スタンダード
(最低基準)
を策定して
います。
このミニマム・スタンダードの導入をモニタリングする評価手法
を構築するためのさらなる作業が開始されています。
二国間条約において強制的な拘束力のあるMAPの仲裁につ
いて定める決意を宣言しているアジアパシフィックの国が、
オー
ストラリア、
ニュージーランド及び日本のみであることは注目に
値します。
行動15:二国間租税条約改定のための多国
間協定の策定
本行動は多国間協定の策定に関連する税務及び国際公法上の
問題の分析を提供しており、
これによって、
係る分析を行いたい
国がBEPSに関する作業の過程で策定された措置を導入し二
国間租税条約を改正することができるようになります。多国間
協定を策定するための特別グループが設置されており、
交渉は
2016年12月31日まで継続する見通しです。当該条約につい
て交渉するための最初の会議は、
英国が議長国となり中国及び
フィリピンの副議長が補佐する形で2015年11月5日に始まり
ます。90を超える国・地域が当該交渉への参加を表明していま
Japan tax alert 2015年11月16日 |
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す。参加国は、
多国間協定の策定及び導入への参加の条件に関
して一定水準の柔軟性を与えられています。
中国、
日本、
インド、
オーストラリア、
シンガポールを含む多くの
主要なアジアパシフィック諸国が、BEPSの多国間協定の策定
に関する当初の議論に関与しており、
本行動に関する動向はア
ジアパシフィックと強い関連性があります。
まとめ
OECDによって公表された最終レポートはこの取組みを反映し
ていますが、
銀行業界に関する作業は完了からはほど遠い状態
にあります。私たちがBEPSプロジェクトの次の段階に進み、
各
国政府がOECDの推奨事項の導入を開始する中で、
銀行は自ら
の資金調達、資本及びグループ構造を注意深くレビューし、業
界に影響を及ぼす可能性のある政策の選択が行われる前に、
政策の意思決定者に対し十分な情報を与えられるようにするた
めの作業を継続する必要があるでしょう。
銀行業界は重要な商業上及び規制上の変革を継続して経験し
てきており、過去2年間にわたって銀行のビジネスモデルに関
し、
関連するOECDの作業部会と情報を共有するための相当な
取組みを行ってきました。
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