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勧誘に対する断りの研究 : 日本語母語話者とマナド語母
語話者の比較 [学位論文内容の要旨/学位論文審査の要旨/
日本語要旨/外国語要旨]( 日本語要旨 )
吉田, 好美
Citation
Issue Date
URL
2015-03-23
http://hdl.handle.net/10083/57616
Rights
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Type
Thesis or Dissertation
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論
文
要
旨
学位論文題目 「勧誘に対する断りの研究-日本語母語話者とマナド語母語話者の比較」
氏名
吉田好美
【キーワード】 断り、意味公式、間接的断り、付随表現、情報要求
【要旨】
本論文は、日本語母語話者(以下 JNS)とマナド語母語話者(以下 MNS)を対象として、母語場面で同等
関係における断りを比較対照することで、それぞれの特徴を明らかにすることを目的とした。そして、両
国間で起こるコミュニケーションにおける摩擦の軽減と、円滑な異文化間コミュニケーションの実現に寄
与することを目指した。
本論文は、断りに至るまでの言語行動に着目した研究Ⅰ、勧誘直後に見られる「第1の断り」について
分析した研究Ⅱ、再勧誘が起こった際に見られる「第2の断り」以降の出現の有無および断りの様相を分
析した研究Ⅲ、それぞれの断りの連鎖について分析した研究Ⅳ、断りの展開パターンについて述べた研究
Ⅴの五つの研究で構成されている。また、断り発話の分析には、断り発話の構成を表現形式ではなく機能
別に分類した「意味公式(Semantic Formula)」を分析枠組とした。意味公式には、不可などの「直接的
断り」、言い訳、謝罪などの「間接的断り」、ためらいや驚きなどの「付随表現」があり、断り発話をそ
れぞれの意味公式に分類し、分析を行った。
研究Ⅰでは、断りに至るまでに、JNS には情報要求、ためらい、願望、情報確認などが見られたが、MNS
はほとんどが情報要求であった。
研究Ⅱと研究Ⅲでは、意味公式使用数、初出意味公式、意味公式の出現パターンの 3 点に着目し分析を
行った。研究Ⅱの「第 1 の断り」では、意味公式使用数は MNS のほうが JNS より多く、MNS のほうが
多くの機能を使用して断りを表出することが分かった。次に初出意味公式については、JNS は「間接的断
り」と「付随表現」を、MNS のほとんどが「付随表現」を使用していた。ただし、同じ「付随表現」でも、
JNS には繰り返しや願望、MNS にはためらいや驚きというように、異なる意味公式が見られた。最後に、
意味公式の出現パターンについては、JNS は言い訳などの「間接的断り」を単独使用することで、察しを
求めて断りを伝達しようとするが、MNS は「直接的断り」の前後に「付随表現」や「間接的断り」を組み
合わせたり「付随表現」を連続使用したりして、様々な機能を用いて具体的に断りを表現するという特徴
が見られた。
研究Ⅲの「第 2 の断り」については、JNS には「第 2 の断り」以降の出現が少なく、ほとんどが「第 1
の断り」の出現に留まっていた。一方 MNS は、
「第 2 の断り」以降の出現率が高く、
「第 5 の断り」まで
出現するデータが見られた。MNS の「第 2 の断り」の特徴としては、
「第 1 の断り」と比較して、意味公
式使用数の減少、初出意味公式の付随表現使用率の減少、及び「間接的断り」の増加がみられた。組み合
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わせには「付随表現」+「間接的断り」及び「間接的断り」の単独使用が見られ、JNS の「第 1 の断り」
に近い様相になることが分かった。
「第 3 の断り」においては、意味公式使用数が減少したものもあれば、
第 1、第 2 の断りよりも増加し、「付随表現」の連続使用が見られた。第 4、第 5 の断りに至るまでには、
「付随表現」の使用が減少する一方で、代案提示や説得が出現していることが明らかになった。
研究Ⅳでは、MNS の断りの連鎖について分析を試みた。その結果、MNS は「付随表現」と「間接的断
り」を使用しながら断りを進めていくということが分かった。また、断りの連鎖には、同じカテゴリーの
連鎖、
「付随表現」が減少して「間接的断り」が増加、
「直接的断り」が減少して「付随表現」が増加とい
う連鎖が多く見られた。
「間接的断り」の減少に関しては、ほとんど見られず、断りの連鎖においては、
「間
接的断り」が中核を占めるということが示唆された。
研究Ⅴでは、断りの展開パターンの解明を試みた。
「第 1 の断り」のみで終わるデータの中で、JNS は
意味公式使用数が少なくても断りとして認識されていたが、MNS は意味公式数が少なかったり、不可表
現が使用されていなかったりすると断りにならない可能性が示唆された。MNS は断りの出現が 3 回以上
になると、断りの最後の発話において、
「付随表現」を含む多くの意味公式を使用することで断りの意図を
表したり、説得などで相手を納得させたりするということをして、断りの談話を収束に向かわせるという
ことが明らかになった。
以上のことから、JNS は言葉少なく手短に断りを表現することで、相手に断りの意図を察してもらうこ
とを要求し、断りを伝達していた。また、その断りがどのような内容であっても、なるべく早く受諾され、
会話を収束させるというスタイルであることが示唆された。一方 MNS は、情報要求を多用することで、
相手の働きかけに対して積極的に関わりつつ、JNS よりも複数の機能を使用して具体的に断りを表現し、
断りを伝達している。また、断りが表出されてからも、再勧誘を受けながら複数回の断りを表出する。そ
して、
「付随表現」と「間接的断り」の組み合わせを使用して、
「付随表現」を減少させ「間接的断り」を
中核として残しつつ断りを連鎖させ、最終的には、説得を用いるか、意味公式使用数を増加させることで、
断りの意図を伝達し、会話を収束に向かわせることが分かった。
本研究では、断り発話のみならず、断りまでの言語行動、断りの連鎖と展開パターンを分析することで、
様々な観点から断りを包括的に捉え、対照研究における新たな可能性を打ち出した点に意義がある。JNS
と MNS では断りのコミュニケーションの流れにそれぞれ特徴があり、円滑な異文化間コミュニケーショ
ンのためには、互いの違いを理解し、コミュニケーションを進めていく必要性が示唆された。
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