家庭内での子どもの事故

今月の執筆者
今月のテーマ
家庭内での子どもの事故
留寿都診療所所長
糸矢 宏志 医師
大人にとっては危険のないもの
紫色に。父親がすぐに背中を強く
でも、小さなお子さんにとっては
叩くも顔色が回復せず救急車を呼
身の回りのものすべてが「危険な
びました。6分後に救急隊が到着
モノ」に成り得ます。おもちゃ、 して心肺蘇生を開始しました。22
食べもの、日用品などびっくりす
分後に病院へ到着し、喉からブド
るようなもので、不幸にも子ども
ウが吸引され、さらに19分後に心
たちが障害を負ったり命を落とし
拍再開しましたがすでに脳死状態
たりすることがあります。小さな
となっており、3か月後に亡くな
お子さんがいる家庭では「何が危
りました。
険か」をよく知って注意を払う必 【事例2】
要があります。
2歳6か月の男の子が自宅で母
親と一緒に巨峰を食べていまし
た。ブドウまるごと1個を一人で
子どもの死因で多い窒息
食べた直後泡を吹いて意識を失い
厚生労働省「平成25年人口動態
ました。そばにいた母親は慌てて
統計」の「子供の死因順位」によ
手でかき出そうとしましたが取れ
ると、
「不慮の事故」が0歳では第
ず、救急車を呼びました。
母親が子
4位、1~4歳では第2位、5~
どもを抱いて外に出たところたま
9歳では第1位です。事故の原因
たま通りかかった人がハイムリッ
は0歳では「窒息」が圧倒的に
ヒ法(※)
を行いブドウが一塊とな
多く、1~4歳では「交通事故」 って吐き出されました。直後に子
「溺死・溺水」
「窒息」が多くなっ
どもが泣き出して、発症後5分で
ています。日本小児科学会ホーム
子どもは奇跡的に助かりました。
ページに公開されている「Injury
Alert(傷害速報)」からいくつかの
窒息を引き起こす果物として
事例をお示ししますのでお子さま
は、ブドウの他に
「ミニトマト」
「リ
の安全のためにお役立てください。 ンゴのかけら」などが知られてい
ます。
事例:食べもの
(ブドウ)
事例:おもちゃ
ふざけて口に入れ母親に見せに来
ました。母親はすぐに出すように
叱りましたがむきになった子は頑
なに口を閉じ、喉に詰まらせまし
た。母親が口からかき出そうとし
ましたが奥へ入っていき、背部叩
打法でも取り出せず救急車を呼び
ました。発症から18分後に病院に
到着しましたが重度の低酸素脳症
で脳死に近い状態となりました。
かたく
事例:カーテンの留めひも
(タッセル)
【事例4】
一人で数歩程度歩けるぐらいの
1歳1か月の男の子が居間に一人
でいて、母親は外で洗濯物を干し
ていました。数分後に母親が発見
した時には、男の子は床から50セ
ンチメートルの高さに垂れていた
タッセルに首をかけた状態でし
た。足は床に着いていましたが呼
吸がすでにありませんでした。5
分後に救急隊が到着して病院へ搬
送され、高度の集中治療を受けた
結果、歩けるようになるには1か
月かかりましたが退院しました。
最近では「ジェル状洗剤」を誤
って子どもが口に入れてしまう事
故が増えているそうです。洗濯1
回分の液体洗剤を透明フィルムで
包んでいるものですが、高濃度で
あるため嘔吐、呼吸障害、意識レ
ベルの低下、角膜損傷などが報告
されています。
【事例1】
1歳6か月の男の子が自宅で父 【事例3】
親、祖母、兄と一緒にいました。 2歳0か月の女の子が母親と6
この子は、これまでブドウを食べ
歳の兄、双子の妹と一緒に夕食を
たことがなく父親が皮をむいて丸
食べていました。先に食事を終え
ごと1個をこの子に渡しました。 たこの女の子がままごとセットの
自分でブドウを手に取って口に入
イチゴのおもちゃ(中心部の直径 (※)上腹部と胸部を圧迫して喉に詰ま
れたところ、顔面蒼白となり唇が
は3.5センチメートル)の先端を、
ったものを吐き出させる方法
平成27年2月号 12