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Interview
Vol.
12
千葉工業大学
工学部 デザイン科学科
准教授
原田 泰 先生
情 報を分かりやすい知識として人に伝え、
歴史や生活の記 録へとつないでいく情 報デザイン
工学系大学であるのに、デザインを学べる学科があると聞いてたずねたのは、千葉工業大学工学部の原田 泰先生です。
千葉工業大学では人間科学、自然科学、社会科学などに配慮した科学技術を求め、それを応用できるデザイナーの育成を
めざして、前身の工業デザイン学科を2003年度からデザイン科学科へと改編。さらに2008年度から、カリキュラムも
工学的科学技術を背景としたデザインができる人材育成を目標にしたものへと変更しました。原田先生は、
この工学部デザイン科学科で、2008年4月から情報デザインコースを担当しています。
現場でデザイナーとして活躍した経験を生かした情報デザインへの取り組みについてうかがいました。
執筆:秋山 謙一(イメージアイ)
原田 泰(はらだ・やすし)
千葉 工 業 大学 工学部 デザイン科 学 科 准 教 授、博士(感 性科 学)
1962年静岡県生まれ。筑波大学芸術専門学群(視覚伝達デザイン)卒業。凸版印刷株式会社、株式会社リクルートで、セールスプロモー
ションや広告制作に携わった後、デザイン教育・研究分野へ。筑波大学講師(芸術学系)、多摩美術大学情報デザイン学科教員(講師→
助教授)を経て、デザインの現場に復帰。2007年に株式会社デザインコンパスを立ち上げた。2008年4月から千葉工業大学 准教授(デ
ザイン科学科)として現在に至る。
会社員、教員、経営者と立場を変えながらも、情報デザイナーとして、ディジタル教材開発やWebサイトの企画・デザインの実践を通じ
て、経験・知識の視覚化、情報の動的図解表現(DIG: Dramatic Info Graphics)に関する研究を続けている。
千葉工業大学 工学部 デザイン科学科 :http://www.design.it-chiba.ac.jp/
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自然に身に付いていた情報デザインの感覚
インの2つがあると思うんです。私の取り組みは後者で、
『情報を使って、もう少し先の知識という形で使えるよう
工学 部 の中にあるデザイン科 学 科。そこに集まっている
にするための知識デザイン』という意識があるんです。し
学 生も、理 系出身であったり文 系出身であったりさまざ
かし 、知 識デザイナーとしてしまうと、ナレッジデザイン
ま。そんなデザイン科 学科で、
「ビジュアルデザイン系の
とかナレッジマネジメントという印象を与えそうなので、
情報デザイン」を研究テーマに、表現手法や、情報デザイ
情報デザイナーという立場で活動してきました」
ンの授業やゼミを担当しているのが、原田 泰 先生です。
20 05年度まで多摩美術大学で教えられ、その後、情報デ
ザイナーとして2年間のフリーランス活動を経て、20 08年
工学部のデザイン科学科では、
学びの体験を重視
度から千葉工業大学に着任しました。
デザイン 科 学 科 は、工学 部 の学 科ということもあって、
原 田 先 生は、新たな表現手法を模 索していく段 階で、結
1学 年2 0 0人の大 所 帯。授 業によっては10 0人ずつ2つの
果 的に情 報デザインに携 わっていたと言 います。その背
クラスに分 けて行っています。「 応 用 造 形 演 習」の 授 業
景には、広告デザイナーから大学 講 師 へと転 身していく
で は 、原 田 先 生 を 含 め 3人の 先 生 に よる 持 ち 回りで 行
間に、グラフィックデザインにおけるダイアグラム( 図式
い、専門科目の「視 覚デザイン論および演習2」は、原田
表現)をテーマに研究していったことがあるようです。
先 生 が1人で 受け 持っています。現 在、授 業 は半 期15回
を、毎 回テーマを設 定してワークショップ 形 式 で 取り組
「広告デザイナー時代には、私のデザインしたキャンペー
んでいます。
ン広告 の 効 果で、商品 がすぐに売り切 れた、といった体
験もしました。筑 波 大学 講 師として初めて大学で 教える
「工学 部ということもあって、受 験の段 階で 表現 系 の勉
ようになった19 9 4 年 頃 は、グラフィックデザインにおけ
強をしてこなかった学生も多く、大学に入ってから表現を
るダイアグラムを研究テーマにして、広告デザインの画面
身に付けていかねば ならないという状 況 があります。美
設 計そのものがダイアグラムであるという位置付けで取
術系 大学と違って学び の出発点 が異なっています。学生
り組んでいました。Web黎明期だったこともあって、Web
のポテンシャル 的な違いはあまり感じない のですが、知
を 使ったコミュニケーションの 新しいデザインを考えて
識があるかないかや、しっかりとしたものの見方が出来る
いた んです。ちょうどその頃 、多摩 美 術 大 学 の 須 永 剛司
か出来ないか の 違いは大きいですね 。そこで、まず 手 を
先生らが情 報デザインをテーマにし始めていた時期でも
動 かして形 を作ってから、その意 味を考えてみたり機 能
あり、プロダクト系のインタフェースやインタラクションと
を確 か めたりするやり方の方が、ここの学 生たちには 理
いった取り組みから、ビジュアルデザイン領域も含んだ取
解しやすく適していると考えたんです」
り組みへと変化していく段階でした。私は、情報デザイン
に取り組もうとしていたのではなく、ビジュアルデザイン
ワークショップ 形式を採 用したのは、原田先 生 が 他の 教
の 新しいメディアとしてコンピュータを捉 えた時に、うま
育工学系の先 生と交 流するなかで、新しいデザインワー
くあてはまる領域として『情 報デザイン』があったという
クのスタイルが求められてきていると知ったことがヒント
感じなんです。広告デザイナーとして機能的なビジュアル
になったと言います。そのワークスタイルは、これまでの
デザインを要求される仕事 をしてきました が、それ自体
ようにクライアントから仕事 の 依 頼を受けて、時 間をか
が情報デザインということだったんですね」
けてデザインして提 案するものではなく、クライアントの
思いや表現したいことを、その現場でクライアントと一 緒
情 報デ ザイナーとは な かな か 聞 き 慣 れ な い肩 書きです
に臨機応変にデザインをしていくというやり方です。
が、原田先生は、アートに近い作家性のあるデザインより
も、機 能を主体にしたデザインの方に興 味 があったと言
「 広告などの 仕事 で も 、以 前 に 比べ てますます 瞬 発 力
います。
を要求されるようになってきています。デザインのアウト
プットまでの時間をより短くするなかで、表現のプロとし
「 私 は 、グラフィックデ ザイン で もプ ロダクトデ ザイン
てのクオリティをどう出すかというところに関心がありま
で も なく、知 識 デ ザイン をして い ると 思って いま す。
す。1回で完結するワークショップにすることで、その現場
N a t h a n S h e d r o f f(ネイサン・シェドロフ)が 知 識 の 理
でデザインするということと、正解を用意するよりも自分
解プロセスを、データ、情 報、知識 、知恵という流れで説
たちで探 索しながら自分たちなりのデザインをすること
明したことが印 象に残っているのですが、情 報デザイン
ができるようにしています」
は、何かを情報化するデザインと、情報を知識化するデザ
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千葉工業大学工学部デザイン科学科は、津田沼キャンパス内にある。しかし、現在は2年がかりの大規
模な校舎建て替えの真っ最中。授業を行う教室は、津田沼キャンパスだけでなく、シャトルバスで10分
ほど離れた芝園キャンパスの教室も使用している状況。学科のゼミ室や研究室も、各キャンパスの空
きスペースを使用しており、原田先生のゼミ室も津田沼キャンパスの4号館に仮住まいしていた
ワークショップ 形式の授業を行っている一方で、そのワー
クショップ自 体 をどうデザイン するか、最 終 的 にワーク
ゼミ室 の 一 角 に 原 田 先 生 の 作 業 スペース が あった 。動 画 コン テン ツ
の ナレ ー ション 用 の マイクセットなど が 組 まれて い る 。現 在 は 、P S P
(Play St atio n Po r t ab l e)を使 用したインタラクティブコンテンツの可
能性を模索中だ
体験をコンテンツ化して残して
伝えていく重要性
ショップ をコンテン ツとしてどう表 現し 記 述 するか(ド
キュメンテーション)にも興味を持っているそうです。
ワークショップを通じて学びを体験させていく原田先生。
制作の最前線の現場で仕事をしてきた経 験の一端を、学
「限られた時 間の中で、表現の 基 礎をどう作り、応 用力
生に授業やゼミを通じて体験してもらうことも狙っている
をどう引き出していくのか。人に伝えるための表現である
ようです。
ということを常に意 識 させるような課 題にはしています
が、ワークショップでは手順を伝えて、出来 上がったもの
「工学 部 のなかで、ビジュアルデザイン系 の 情 報デザイ
をどう説明すればいいのかやってみましょうというところ
ンをどのように位置付けるかは、今後考えていかなくては
までですね 。その場で 資 料 を渡しても、なかなか理 解し
ならないと感じていますが、学生のスキルアップについて
づらいことも多いので、次回に渡すことで振り返ってみて
は、実はあまり心配はしていません。スキルは社会に出て
自分なりの意味付けを見出してもらうということにしてい
から育っていくものですから、大学時代にはあまり教え込
ます」
もうとしないほうがいいと感じています。むしろ、デザイ
ナーの先輩としての姿を見せることが役目だと思って取り
カリキュラムは、基 礎 から応 用まで のデザインを学 びな
組んでいます」
がら、手作業のデザインもコンピュータを使 用したデザイ
ンも経 験 する内 容です。デザインを手 作 業で行うことを
そんな原田先生が、現在最も興味を持っているのは、ワー
体験するのは重要だと原田先生は言います。
クショップなどで人々が経 験した内容を、ライブ感を含め
てどうやって残すかというところだと言います。
「実は、制約が厳しいほど、創造的なアウトプットが出せ
るということはよくあります。手作業でデザインするとい
「経験をコンテンツ化し、コミュニティのなかで活用でき
うことは、ソフトウェアが高機能になった現在、最大の制
るようにすることに取り組みたいんです。こうして取材を
約でもありますし 、手 作 業でどう行うのかを 知った 上で
受けたことも経験ですよね。しかし、確かに取材記事は残
ソフトウェアを 使 えるようになることは 大 切 なことだと
るんですが、少し努力をするだけで、その場の様子など文
考えています。コンピュータを 使うと、何が、どのように
字にならなかったものも残せるかなと思うんですよ」
助かるかは、使わない経 験がないと理 解できませんから
ね 。3 年生の 授 業 の課 題でも、まず 手 作 業で 表 現をして
こうした取り組みを原田氏は、
「ドキュメンテーション・テ
もらってからコンピュータで展開していく方法を採ってい
クノロジー」という言葉で表していました。デザイナーの関
ます」
わりによって出来事が残っていく。そういったコンテンツ
のあり方や新しいメディアを常に意識しているそうです。
原田先生は、教育系ワークショップに情報デザイナーとし
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授 業での学びの補間にはブログも積極的に活用している。文字も写 真
も、思いついた時に気 軽にアップロードでき、足りない部分は後から追
加できるという意味で、ブログの果たす役割は大きい。「Webデザイン
ツールを使ったこともありましたが、デザイン表現も凝ったものにしたく
なります。結果的に、仕上がらないということになりかねません。これで
は必要な情報を整理して、すばやく発信するというドキュメンテーション
の目的自体が達成できなくなってしまいます」と原田先生は話した
て参加していますが、そこでは、その日のワークショップの
にあります。後世に残しておかなければならない知識や情
過程を撮影した画像に、コメントやキャプションを付け加
報は、しっかりと情報デザインをしたうえで、分かりやすい
えてブックレット資料としてデザインし、その場でプリント
コンテンツとして社会に出していく必要があると考えてい
アウトして持ち帰ってもらったりしています。イベントに参
るのです。
加した人たちが、それぞれの経験を何らかのメディアで持
ち帰り、そのメディアを使って他の人に内容を紹介したり、
「コンテンツ自体に、視点や経験、知識といった中身その
自分で振り返れるようにするためです。
ものがないと意味 がありません。例えば、Web 検 索を考
えてみて欲しいんですが、どんなにインタフェースが洗 練
「経 験をコンテンツ化するということは、ワークショップ
されて使いやすいものになっていたとしても、最後に出さ
だけでなく、例えば、運動会や授業参観でお父さんが自分
れる検 索 結果であるコンテンツ内容が 悪 かったらダメと
の 子 供 を撮った映 像にも活用できます。もしも自分 の 子
いうことです。私は、情報にたどりつくためのインタフェー
供の映 像に加えて、学校関係 者が撮った行事全体の映 像
スのデザイン部分ではなく、最後の情報が出てくる時に、
を組み合わせることが出来れば、これまではメモ書きや記
しっかりとデザインされたコンテンツがあるようにしたい
事、画像、映 像という断片でしかなかったものが、それだ
と思って取り組んできました。そして、この取り組みが、内
けで作品性が上がり、人にも見せられるレベルの作品とし
容をどう表現するかというところにつながってきました。
て体験を残すことができますよね。つまり、ドキュメンテー
この表現のクオリティという部分はおろそかにされがちな
ション・テクノロジーを活用することによって、単なる記憶
のですが、つまり『コンテンツのあるべき姿』を表現するこ
ではなく、自分や他者が楽しめる魅力的なコンテンツとし
とは、さまざまな方法があると考えています。似たような
て経験を残せればと思うのです」
情報が溢れているなかで、本来、埋もれてはいけない情報
を、表現で輝かせる必要があると思うんです」
体験をコンテンツ化する取り組みの一環として、3年生向
けのダイアグラムの 授 業では、毎年作品 集を制 作してい
現在、歴 史や生活など日常のなかにあるものを題材にし
ます。このほかにも、授業内容を補間したり気付きを記録
て、情報デザインを行っています。原田先生は、歴史を題
したりするためのブログ、授業内容を振り返るための印刷
材にし始めてから、
「歴史的に大事なことをデザインされ
物、授業自体や作品を紹介するためのWebという3つの方
たコンテンツとして留めておくことは、必要なことであり、
法を活用しながら取り組んでいます。
やりつづけないといけない」と強く感じるようになったと
言います。
未来に向かってコンテンツを残していきたい
「ある学生は、卒業研 究として洛中洛外図屏風を題材に
原田先生の視点は、既存の情報を整理して分かりやすく見
した情報デザインを行っています。この屏風は1525年ごろ
せることにとどまらず、実際に体験したこと自体のライブ
のものですが、そのころの出来事が1枚の屏風絵として残っ
感をどう表現してコンテンツに落とし込むかというところ
ているわけです。歴史は形のない知識として捉えることも
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千葉 県・佐 倉にある歴 史 民 族博 物 館 所蔵の屏風 絵「洛中洛外 図 」(16
世 紀 )から、時 代 背景 や地 域を読 み取って情 報デザインした学生作 品 。
「1枚の屏風 絵でありながら、人物の力関係や、応仁の乱の後の京都の
復興途中の道など、さまざまな事象を盛り込んでいて、歴史資料の可視
化としてもすごいものだと思います。現代でこれと同じような歴 史の記
録があるかと言うと、何も存在していません。情報デザインによって、現
代の事象を記 録として残していくことも必 要なのではないでしょうか」
(原田先生)
できます。50 0年後に生きている我々でも、きちんと読み
解きさえすれば、他の資料で史実として伝えられている情
報が見えてきますし、もしかしたら、まだ知られていない
史実も示されているのかも知れません。学生は、歴史の専
門家のアドバイスを受けながらそうした読みを行い、その
知識を情 報デザインとして伝えようとしています。制作し
た時代から500年という時間が過ぎても、歴史が残ってい
る屏風というものはダイアグラムの観点からもすごいと思
います。自分たちに置き換えてみれば、現代の日々の出来
事を、歴史として50 0年後に残せるように情報デザインし
ているかと言えば、していないと思います。これは、現代を
生きる人たちのなかに、未来をどうするか、未来に向かっ
て何を残すのかという視 点が失われてきているからでは
ないでしょうか。現代にこんなことがあって、こんな考え
方をしていたと、きちんと整理してコンテンツ化して後世
に残すということは重要で、意味あることだと思います」
原田先生の問題意識は、自分が生きている今の体験を、
生き生きと、しかもカッコ良く残すということにあります。
情報デザイナーの役割は、モノを作って終わりというもの
ではなく、温かな視線をもって、人の経験を大切に見届け
るということなのかもしれません。
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www.adobe.com/jp/education/hed/vanguards/
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