血中プロカルシトニンと凝固・線溶系因子との連動性の検証

血中プロカルシトニンと凝固・線溶系因子との連動性の検証
伊佐 和貴(1), 石橋
和磨(1), 崎山
健伸(1), 山内
恵(1), 山根
誠久(1) (2)
(1)琉球大学医学部付属病院検査部, (2)琉球大学大学院医学研究科先進検査医学講座
【緒言】プロカルシトニン(PCT)は、甲状腺で分泌されるカルシトニンの前駆物質であるが、
炎症促進性刺激、細菌由来生成物に反応して全身で発現分泌され、特に重症細菌感染症や
敗血症で増加することが知られている。PCT 2.0ng/ml を超える場合は重症度が高いことが
予測され、その動態を慎重にモニターする必要がある。また、これらの病態の進行におい
ては DIC の合併率が高く、その多くが凝固優位型を示し、臓器症状を発症する。そのため、
DIC への進行を早期に捉えることが敗血症の予後を大きく左右する。今回、血中 PCT 値と
凝固線溶系に関連するマーカーを測定し、血液凝固亢進状態との連動性について解析した。
【方法】対象は、血中 PCT 測定を目的に提出された患者検体 192 例とした。そのうち、168
例は PCT 陽性例(0.5ng/ml 以上)
、24 例は PCT 陰性例(0.05ng/ml 以下)とした。
検討項目は PCT、FDP、D ダイマー、ATⅢ、可溶性フィブリンモノマー複合体(SFMC)
とし、PCT 値を陰性群と陽性群とに分け、陽性群はさらに A 群(0.5~2.0ng/ml)、B 群 (2.0
~10ng/ml)、C 群 (10ng/ml 以上)の 3 つに分類し、凝固線溶マーカーとの連動性について
検討した。また、PCT 陽性例について厚生省 DIC 診断基準を用いて DIC 群と非 DIC 群に
区分し、各マーカーの ROC 解析を行った。
【結果】PCT 陽性例の内訳は ICU、小児科、次いで循環器外科、感染症内科の順に多かっ
た。PCT と各マーカーとの比較では、FDP、D ダイマー、SFMC はすべて PCT 陽性群で
有意に高値を示した。しかし、A~C 群の各 PCT 陽性群の間には有意差は認められず、各マ
ーカーの連動性は認められなかった。AT-Ⅲは PCT 陰性例に比べて PCT 陽性例で低く、陽
性例のうち重症群である B 群および C 群は A 群に比べて有意に低値を示した。PCT 陽性例
における DIC 判断の ROC 解析では SFMC が最も高かった(AUC:0.79) 。一方、DIC 群と
非 DIC 群に PCT 値の有意な差はなく、PCT の DIC 判断能も高くはなかった(AUC:0.60)。
DIC を合併した敗血症例においては、PCT の著しい上昇に先行して SFMC が異常高値を示
した例、SFMC,FDP,DD がともに上昇する例など PCT と凝固線溶マーカーに一様の連
動性は認められなかった。
【考察】今回検討した凝固線溶マーカーについて、PCT 陽性例で PCT 陰性例との間に有意
な差を認めたものの、PCT 値との連動性は認められなかった。また、PCT 陽性例において
DIC 判断に有用なマーカーを見出すことはできなかった。DIC を早期に捉え、病態の増悪
を防ぐためにも、各検査マーカーをモニタリングし、その変動を注意深く読み取ることが
重要である。今後、敗血症に合併する凝固優位型 DIC に特異的かつ鋭敏な検査マーカーが
検証されることを期待したい。