肺高血圧症の診断と治療

肺高血圧症の診断と治療
~サルコイドーシスに合併した1症例~
鹿児島大学大学院 心臓血管・高血圧内科学
窪田 佳代子
2015年4月18日
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肺高血圧症とは?
何らかの原因で肺動脈の末梢の小動脈の
内腔が狭くなって血液が通りにくくなり、
肺動脈の血圧(肺動脈圧)が高くなる
“平均肺動脈圧 25mmHg以上”
ひとつの疾患を表すのではなく、病態の総称
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肺高血圧症とは?
肺動脈圧上昇
左心室
右心室
左室の圧排
肺小動脈の狭窄
右室の肥大・拡大
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肺高血圧症の臨床分類
80%
3%
11%
3%
3%
肺高血圧症治療ガイドライン(2012年改訂版)
Strange G et al. Heart 98:1805-11, 2012
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当科における肺高血圧症の原因別内訳
5群:その他:9%
4群:慢性血栓塞栓性:30%
1群:肺動脈性:61%
膠原病・特発性・門脈圧亢進・先天性など
2008年〜2014年末 計84名
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肺の有効血管床が1/3以下になって
はじめて肺動脈圧が上昇する
できるだけ早く確定診断し
原因に応じた適切な治療を開始する
Therapeutic Research.2005;26(10):2012-27.
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肺高血圧症の原因鑑別
胸部レントゲンで肺実質に所見
呼吸機能検査や胸部CTも参考に
なし
ある
心エコーで所見
肺疾患による肺高血圧症
なし
ある
心疾患に伴う肺高血圧症
肺血流シンチ所見
なし
膠原病や肝疾患のチェック
肺動脈性
ある
血栓塞栓性による肺高血圧症
全てに該当しない
特発性肺高血圧症
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当科における肺高血圧症の原因別内訳
5群:その他:9%
4群:慢性血栓塞栓性:30%
1群:肺動脈性:61%
膠原病・特発性・門脈圧亢進・先天性など
2008年〜2014年末 計84名
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肺動脈性肺高血圧症の治療アルゴリズム
一般療法
酸素(ClassⅠ)、利尿剤(ClassⅠ)、抗凝固療法(ClassⅡa)
急性血管反応試験(ClassⅠc)(Ca拮抗薬の有用性をみる)
陰性
陽性
経口Ca拮抗薬
機能分類Ⅱ度
機能分類Ⅲ度
機能分類Ⅳ度
タダラフィル(ClassⅠ)
シルデナフィル(ClassⅠ)
タダラフィル(ClassⅠ)
ボセンタン(ClassⅠ)
ボセンタン(ClassⅠ)
エポプロステノール(ClassⅠ)
シルデナフィル(ClassⅡa)
タダラフィル(ClassⅡa)
アンブリセンタン(ClassⅠ)
アンブリセンタン(ClassⅠ)
ボセンタン(ClassⅡa)
エポプロステノール(ClassⅠ)
アンブリセンタン(ClassⅡa)
シルデナフィル(ClassⅠ)
治療効果の持続
あり
なし
ベラプロスト(ClassⅡb)
初期併用療法(ClassⅡc)
初期併用療法(ClassⅡc)
改善なければ
肺移植
治療効果不十分な場合はET受容体拮抗剤、PDE5阻害剤、PGI2製剤の
多剤遂次併用療法
肺高血圧症治療ガイドライン(2012年改訂版)
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肺動脈性肺高血圧症の予後
REVEAL Registry (2006年〜) 全米55施設調査
Benza RL et al Chest 142:448-456,2012
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♦ Upfront combination therapy
具体的な治療到達目標を設定せず、治療初期から複数の
治療薬をほぼ時間差なく併用開始する
Ogawa A et al Life sci 118:414-9;2014
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当科における肺高血圧症の原因別内訳
5群:その他:9%
4群:慢性血栓塞栓性:30%
1群:肺動脈性:61%
膠原病・特発性・門脈圧亢進・先天性など
2008年〜2014年末 計84名
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慢性血栓塞栓性肺高血圧症の治療法
血栓が手術でとれる中枢側
にあれば血栓内膜摘除術が
第一選択
血栓が末梢にしかない場合は手術適応外
・抗凝固療法が基本であるが、CTEPHの治療薬として保険適応が
得られている薬剤は1剤しかない。
・血栓内膜摘除術の適応外となる末梢型に対し、日本では肺動脈
バルーン拡張術(BPA)が2010年に保険適応となる。
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肺動脈バルーン拡張術 (BPA)
治療前
治療後
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BPAによる平均肺動脈圧の変化
2011年5月~計20名
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当科における肺高血圧症の原因別内訳
5群:その他:9%
4群:慢性血栓塞栓性:30%
1群:肺動脈性:61%
膠原病・特発性・門脈圧亢進・先天性など
2008年〜2014年末 計84名
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症例
55歳 女性
【主訴】 呼吸困難
【現病歴】
2003年:
気管支鏡生検にて肺サルコイドーシスと組織診断される。
治療適応とはならず、しばらくして通院を自己中断された。
2011年:
肺炎で入院加療。その後より少量の血痰を自覚していたが、
肺炎の後遺症と考えていた。
2013年12月:
血痰が頻回に認められるようになり、労作時息切れも出現。
以後息切れの症状が徐々に悪化。
2014年7月:呼吸困難を訴えA病院を救急
受診。心エコーで肺高血圧症が疑われ、当科紹介入院。
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【入院時現症・検査結果】
◆ 現症
血圧 122/78 mmHg, 脈拍 90/min, 整, SpO2 98 % (room)
HS: Ⅰ→,Ⅱp↑, Ⅲ(-), Ⅳ(-), 心尖部:収縮期雑音(Levine Ⅲ/Ⅵ),
RS:no rale, 両側鼠径リンパ節腫脹, 下肢edema(-)
◆ 血液検査
WBC 5020/μl, Hb 12.8 g/dl, Plt 22.2×104/μl, AST 23 IU/L
ALT 12 IU/L, LDH 172 IU/L, T-Bil 0.6 mg/dl, BUN 13.4 mg/dl
Cre 0.63 mg/dl, Na 139 mmol/L, K 3.6 mmol/L, Cl 104 mmol/L
CRP 0.12 mg/dl, Ca 9.3 mg/dl, ACE上昇(-),BNP 40.5 pg/ml
膠原病スクリーニングで異常所見なし
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【胸部レントゲン】
【心電図】
CTR 47%, 左2弓突出
肺野にスリガラス状陰影
洞調律, HR 78/min, 右軸偏位
完全右脚ブロック
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【心エコー】
右室拡大、心室中隔の扁平化
推定右室収縮期圧:68 mmHg
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サルコイドーシス
サルコイドーシスは原因不明の全身性(多臓器性)肉芽腫性疾患で
その病理像は類上皮細胞肉芽腫を特徴とする。
日本の推定有病率は人口10万人に対し7.5~9.3人
● 組織診断群
一臓器に組織学的に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認め、かつ下記1)~3)のいずれかの
所見がみられる。
1) 他の臓器に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認める。
2) 他の臓器で「サルコイドーシス病変を強く示唆する臨床所見」がある。
3) 下に示す検査所見6項目中2項目以上を認める。
・
・
・
・
両側肺門リンパ節腫脹 ・ 血清ACE活性高値
ツベルクリン反応陰性 ・ Gallium-67 citrateシンチグラムにおける著明な集積所見
気管支肺胞洗浄検査でリンパ球増加または CD4/CD8比高値
血清あるいは尿中カルシウム高値
● 臨床診断群
組織学的に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫は証明されていないが、2つ以上の臓器において
「サルコイドーシス病変を強く示唆する臨床所見」に相当する所見があり、かつ全身反応を示す
検査所見6項目中2項目以上を認めた場合。
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肺高血圧症の臨床分類
肺高血圧症治療ガイドライン(2012年改訂版)
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サルコイドーシスに伴う肺高血圧症に関する報告
 日本においてサルコイドーシスの5.7%に肺高血圧症を認めた。
(Handa T et al. Chest 2006)
 ステロイド治療が有効であったとする報告や肺血管拡張薬
(ボセンタン)で平均肺動脈圧を改善させたとする報告があるが、
治療法は確立していない。
(Rodman DM et al. Chest 1990)
(Baughman RP et al. Chest 2010)
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サルコイドーシスに伴う肺高血圧症の予後
肺高血圧症なし
左室機能不全+肺高血圧症
肺高血圧症のみ
息切れを伴うサルコイドーシスの約50%に肺高血圧症を認めた
Baughman RP et al. Chest 2010
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【治療経過】
プレドニン
30mg/day
250mg/day
右心カテ<7/22>
(pg/mL)
PAP
59/22(36)
CI(Fick)
2.19
(mmHg)
70
右心カテ<11/6>
PAP
50/20(32)
CI(Fick)
2.57
40
60
右心カテ<2/12>
PAP
41/13(25)
CI(Fick)
2.77
20
50
40
2014/7
2014/11
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2015/2
RVsp
BNP
5mg/day
125mg/day
ボセンタン
60
20mg/day
2014年7月
2015年2月
6分間歩行 270 m
6分間歩行 410 m
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肺高血圧症の診断ポイント
心エコー
検査所見
心電図
胸部レントゲン
自覚症状
三尖弁逆流速度
3.0 m/s以上
CTR拡大
左2弓の突出
採血
BNP上昇
右軸偏位・右室負荷
*有意な心疾患がないこと
患者背景
労作時息切れ
胸痛
失神
喀血
膠原病:約1割
下肢静脈血栓症:約3割
・上記所見に、心エコー所見があれば疑いあり。
・心エコーが施行できなくても、上記所見が複数ある
場合は疑いあり。
肺塞栓症の既往:約3%
心房中隔欠損症:約6%
門脈圧亢進症:約5%
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肺高血圧外来初診患者推移
(人)
70
60
50
40
4月13日現在 35人
30
20
10
2008
2009
2010
2011
2012
2013
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2014
2015
(年)
一般開業医
循環器科
関連病院
膠原病科・呼吸器科
専門病院
地域の中核病院
皮膚科
肺高血圧専門外来
膠原病科
呼吸器科
心臓血管外科
心臓血管内科
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診断が難しいのでは?
よく知らないなあ・・・
すごく珍しい・・
治療法があるのか?
肺高血圧症専門外来:毎週月曜 お気軽にご相談ください
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