LED 照明シンポジウム 2015『「LED+α」で拡がる LED の新たな潮流を

LED 照明シンポジウム 2015『「LED+α」で拡がる LED の新たな潮流を探る』
2015 年 7 月 30 日、LED 照明シンポジウム 2015「「LED+α」で拡がる LED の新たな潮流を探る』が開
催されました。当日は、HEMS の第一人者である神奈川工科大学教授の一色正男氏による基調講演、照明
デザイナーの金田篤士氏による「照明コントロールの未来」についての講演に続き、両氏に加えてハウ
スメーカーや照明器具メーカーからパネリストが集まり、
「2020 年ごろをイメージした近未来に向けた
LED 照明」を討論するパネルディスカッションが行われました。LED 照明シンポジウム 2015 の講演内容
を掲載します。
◆基調講演
「スマートハウスがもたらす未来のくらし」
神奈川工科大学教授
スマートハウス研究センター長
一色
正男 氏
スマートハウスは、第3次ブームとも言われるように、ここ3年で非常
に注目されるようになってきました。そのスマートハウスの中でも照明は
重要なテーマの一つです。LED 照明や様々なモノをコントロールするということも多くなってきていま
す。まず、スマートハウスの定義ですが、従来は省エネの機器を詰め込んだものをスマートハウスと呼
んでいました。最近では、太陽光発電や燃料電池の創エネ・LED 照明をはじめとする節電機器の省エネ、
蓄電池、電気自動車などの蓄エネを、ICT を利用してうまくつなぎ合わせ省エネ性、快適性、利便性等
の生活価値を向上させるものをスマートハウスと定義しています。ビジネスとしては、これらをいかに
うまくつなぎ合わせるかが課題となります。
副座長を務めた経産省のスマートハウス・ビル標準化・事業促進等検討会では、様々な設備機器をつ
なぎ合わせる為の規格作りを、白紙の状態からスタートしました。世界中の様々な規格を調査する中で、
ネットワーク層は IP を使う、サービスはクラウド時代でありインターネットを使う、家電機器だけで
なくエネルギー機器などへの拡張性を有する最適なプロトコルとすること、たくさんのコマンドが出せ
る事などの方向性を議論してきました。海外の多くの規格の中で、特に優れていた欧州の BtoB のビル
マネージメント用の規格である KNX と米国の ZigBee をベースとしたエネルギーコントロール用の規格
である SEP2.0 の各々のスマートハウス対応の規格を確認しましたが、2011 年に確認した時点では IP に
対応していない、アジアで要求されている細かいコマンドに対する規定ができていないなどの問題点が
あることも確認できました。
検討会では、様々な設備を HEMS とつなぐ時に、異なるメーカー間の相互接続性が確保できること、
同じようにスマートメーターと HEMS 間の接続性も確保する為の標準インターフェースであること、HEMS
による省エネを確実に実行できることという観点からプロトコルとコマンドを多数有する ECHONET Lite
を推奨することに決めました。
ECHONET Lite は、IP ベースで且つ細かいコマンドがあり、無償で公開している国際標準規格書であ
ることから、世界中で評価されつつあり、同じような取り組みが可能となりました。特にアジアの国々
との国際連携活動を推進しています。更に国際標準として ISO にも登録済みです。
現在では、ECHONET Lite という標準規格を利用するようになり3年が経過しましたが、既にハウスメ
ーカーで約30万戸、電機メーカーで約20万戸の住宅に、この規格に準拠した HEMS が納入されまし
た。日本の約5000万戸の住宅市場の約1%がスマートハウスになりましたが、ビジネスとしては、
まだ始まったばかりです。家庭内で電気をたくさん使う製品として照明機器も含む重点8機器が選定さ
れ、規格に適応した製品が市場に投入されるようになり、いよいよ普及段階に移行しつつあります。さ
らに普及させる為には、単なる省エネだけでは限界があり、機器の連携が必要になると考えています。
ECHONET Lite の特徴としては、家庭内のあらゆる機器のコマンドを多数定義しており、リモコンに設
定されている機能はフルにインターネットからコントロールできるようになっています。また、独自コ
マンドの領域も確保され使用しやすいものになっています。
さらに、専用製品を作らなくても、市販の製品で連携サービスが可能となりますので、たとえばブラ
インド制御と LED 照明を連動させ、
照度をコントロールしたり、色温度を変えたりすることも可能です。
是非、うまく活用してマーケットを創造してほしいと思います。
ECHONET Lite は、オープンな規格ということでプログラミングを簡便に作ることが可能です。SDK(ソ
フトウェア開発キット:Software Development kit)も公開しており、スマートフォン用のサービスア
プリ開発を容易にする SDK やビジュアルプログラミングツールとして各コマンドをパーツ化した SDK な
どを提供しています。こういうものが簡単に作れるという事がオープンな規格に対応している良さであ
り、ビジネスに直結できる良さではないかと考えています。
従来の HEMS の世界とは違う新しいインターフェースを紹介します。今から出てくるのはレイちゃん
と言う女の子です。この子が ECHONET Lite 対応のコマンドを送り照明を点滅させます。ラズベリーパ
イ(Raspberry Pi)という簡単な PC で作成したもので、スマートフォンの中で、AR でレイちゃんと会
話をしてコマンドを送り、LED 照明をオンオフするものです。これはスマートハウスの次の形態の一つ
として実験中のモノです。単純にリモコンとして色々な事をする、オートメーションで色々な事をする
ということとはまったく別に、コミュニケーションをしたりするようになると擬人化が存在したり、そ
の中にある自然な生活の中に、コントロールされているものが存在するような世界が将来くるのではな
いかと考え実験をスタートしました。レイちゃん以外にもたくさんの擬人化されたモノが様々な場面に
登場し、会話をしながらいろいろなコマンドを出すようになっています。このように会話をしながら生
活することで、楽しくなる新しいコントロールの世界が出来るのではないかと思っています。
次に、現在研究室で実験した LED 照明と制御の事例を紹介します。照明学会などで発表したものです
が、HEMS を利用した照明とブラインドを制御するアンドロイド用のアプリケーションです。携帯電話の
照度計とデータベースを利用して、外が明るくなったらブラインドの照射角を制御してフラットにする、
適正照度を下回ったら LED 照明を点灯させ、日没後はブラインドを閉じるというように携帯電話をコン
トローラーとして活用したものです。ビルなどでも全体制御と個別制御などを行う上で、携帯電話から
のフィードバックで照明をコントロールすることが可能になると考えています。
スマートハウスは住まう人(スマート)の家(ハウス)と私は考えています。住む人の為のサービス
であり、技術を埋め込む為のスマートハウスではなく、住まう人の為の家をより良くすることがこれか
らのテーマと考えています。照明環境を設計したり、家に合わせた照明をコーディネートしたり、本当
に現場のことを知っている立場の方々が、HEMS や ECHONET Lite の技術を利用することで、人の為にな
るものが創られていくと考えます。日本発信のオープンな国際規格のプラットフォームである ECHONET
Lite に注目して頂き、これを広めることでオープンなプラットフォームの上に立つビジネスとして、こ
れらに適合した機器が開発され、それに合わせたサービスを提供する事で、更に機器が売れていくとい
う循環を進化させていくオープンなビジネスこそが21世紀のビジネスと思っています。アジア諸国は
このオープンな仕組みに注目しています。高くても安全な日本製品を買うといってくれています。日本
の5倍の市場が世界にはあります。是非、このビジネスチャンスを活かして頂きたい。LED 照明はいろ
いろなところで、色温度を変えたり、うまくオンオフしたり照度を切り替えることで防犯やいろいろな
ことに使えます。ネットワークにつながった世界、オープンなプラットフォームにつながった世界の中
にある新しい生活、新しいビジネス領域を皆さんと一緒になって作っていきましょう。
最後に、センター長を務めている HEMS(ECHONET Lite)認証支援センター(http://sh-center.org/)
では、相互接続認証環境を提供しています。是非ご活用ください。ありがとうございました。
◆講演
「照明コントロールの未来 ~ LED の特徴を最大限に活かすには ~」
照明デザイナー ワークテクト代表取締役 金田 篤士 氏
照明デザインと照明コントロールの関係性について、大きな市場である
ホテルを事例に説明します。ホテルの部屋のコントロールシステムとしては、
ベッドの近くにあるナイトパネルシステムがあります。 便利集合スイッチともいえるものですが、ホ
テルでは、ステータスコントロールシステムと言って「起こさないで下さい」「クリーニングをして下
さい」という連絡や部屋に滞在・不在の表示の信号に加え、照明や空調、TV のスイッチがついているも
のとなります。日本に本格的に導入されたのは約50年前の東京オリンピックの時に世界中のお客様を
迎える為に建築された第一次ホテルブームの時に遡ります。アメリカではすでに 1960 年代に、ルート
ロン(LUTRON)社の調光システムも発売されています。
自分自身がコントロールを潜在的な意識として持ったきっかけは、1965 年頃に放映されたサンダーバ
ードの人形劇で使用された様々な機器でした。トランシーバーや腕時計電話、運転手のいない自動車な
ど、2025 年を想定した物語でしたが、今では、携帯電話や、Apple Watch、自動運転自動車など 50 年前
に創造したものが実現しています。映像の中で想像したものが実現されていく凄さを感じます。
さて私がホテルのコントロールに初めて関わったのは 1984 年のホテル西洋銀座のプロジェクトに参加
し、施主側の立場で、コントロールシステムや AV 機器を発注する立場にいた時でした。このプロジェ
クトでは、ナイトパネルを考えたり、デザインしたり、照明を同時に動かしたりとコントロールシステ
ムを意識した仕事の始まりでした。オールスウィート型のホテルというコンセプトで、欧米の生活一端
を垣間見るもので、ルートロンの調光システムに直接触れた現場でした。
住宅コントロールとしては、1980 年代からホームオートメーション住宅、1990 年代はインテリジェ
ントハウス、2000 年代にはマルチメディア住宅と新しい技術とともに進化していきました。特に、九州
や北海道の大きな広い住宅ではオーディオシステムの進化と同時にクレストロンや AMX というコントロ
ールシステムと連動させたホームオートメーション住宅が見受けられました。
照明デザイン事務所を設立した以降、2000 年頃になるとマンションの照明のデザインの依頼が増えてき
ました。背景には都心の大型複合施設が手掛けられるようになり、言い方もマンションからレジデンシ
ャルに代わり、都心で生活するホテル的なマンション住まいとして、空間のコントロールを意識したシ
ステムが開発されるようになってきました。一方で、iPhone などのスマートフォンが発売され、簡単に
アプリを入手したり、一般の人がアプリを設計したりして、コントロールというものが身近になる時代
に入ってきました。我々の普段の生活、文化に大きな影響を与えるものになってきたと言えます。
2011 年の東日本大震災や原発の影響から省エネ、省電力化が一般生活の中でも現実化してきました。
これ以降、日本は LED 先進国と呼ばれるようになり、現在では、世界の LED 市場の1/5が日本マーケ
ットです。照明デザイナーとして中国やインドネシア、タイ、フィリピンなどで仕事をしていますが、
日本の LED の使われ方と中国、東南アジアの使い方、発注の仕方は違っています。日本では、住宅でも
商業施設でも LED 照明にして省エネしようという意識が当たり前のようになっています。中国や東南ア
ジアの国々では、省エネ施設の指標になるグリーンビルディングの認証プログラムである「 LEED 認証」
の取得を目指して LED による照明プランを最初は希望されます。しかし、コストが合わなくなると既存
の光源に戻したりします。電力事情が深刻でないことから、このような事が起こることになります。し
かし、アフリカのように元々、電気がない地域では電力事情が深刻で、ビルやホテルでは自家発電が設
置され、電気は毎日供給されものではないという意識から、電気を使わずに照明を点灯することが出来
ないかということを要求されます。つまり環境により考え方に大きな違いがあると感じています。
米国は、省エネ先進国ですが、1997 年にカラーキネティクス社から LED デジタルカラーライティング
が発売され、白色 LED とは別にエンターテイメント照明やメディア・ファサードとして別の使われ方を
されるようになりました。
アメリカでは 10 年ほど前には白色 LED のブームがありましたが、LED のあかりの質が悪かった為に、
デパートやブランドショップなどでは CDM やハロゲンに回帰しています。使われる場所ごとに細かく光
源を選択するのが米国の現状です。最近の米国のLED照明事情ですが、SORRA 社の次世代 LED と言わ
れる Ra95以上の高演色型ものが色ムラもなく美術館などに使われるようになってきています。
LED は、テレビ、オーディオ、携帯電話、車等の進化に貢献していますが、LED 照明の先進国にいる
照明業界の方々は、どのようにLEDが使われるかをあまり考えていないように思えます。照明デザイ
ナーから見ると照明業界は、末端の消費者からメーカーまでが非常に遠い存在と感じています。
照明器具=専門家がつけるものという状態になっている事が大きな問題ではないかと思っています。
車の世界では、ハイブリッドや電気自動車で日本のメーカーが市場を誘導しているように、照明の業界
でも、世界中で日本の LED 照明が見られるようにならないかと期待したいところです。
業界の方々と話すと、アイデアを持って新しいものを開発していくと LED は長寿命なので、需要が悪
化し、東京オリンピックが終わったら照明業界は苦戦するという話をよく聞きます。車でも、スマホで
も新しいモノが出て買え需要が発生するように、同じように照明もデザインや機能、新しいアイデアを
取りいれて進化していけば、寿命が来る前に買え変えるという需要が必ずでてきます。かつて日本のソ
ニーはウォークマンを持って音楽を外に持ち出しで需要を創出したように、照明を持ち運ぶ、外に持ち
出すデザインや工夫をすることで新たなマーケットをつくることが出来ないかと思っています。新しい
使い方を創造すれば必ず、世界中で新たなマーケットができます。フィリップスの LED ランプキットの
Hue(ヒュー)は、アップルストア―で照明として販売され、iPhone や Apple Watch で照明の調色、調
光が簡単にできます。まさに、新しいマーケットを創出しようとしています。
照明メーカーは、先行きに対し非常に悲観的ですが、新たな環境を創造し、自分たちでマーケットを
作っていけば、全く悲観することはないです。2020 年を過ぎても照明は決してなくならない物です。ど
んどん新しいものを開発し、どんどん新しいマーケットを作っていってほしいと思います。
◆パネルディスカッション 「LED 照明からライフスタイルの近未来を考える」
<パネリスト>
一色 正男氏(神奈川工科大学教授 スマートハウス研究センター長>
省エネ社会の実現に向けて大きな期待がかかっているスマートハウス・HEMS の第一人者。HEMS における公知な標準インターフェースで
ある「ECHONET Lite」機器の開発・普及支援を通じて、国際標準化を推進。
金田 篤士氏(照明デザイナー ワークテクト代表取締役)
国内外のホテルなど、様々な商業施設の照明デザインを数多く手がけている照明デザイナー。
「制御機能」を生かした IT と連携した最
先端の照明空間デザインなど、無駄のない照明で、その場に適した光と影を創作し、常に新しい照明の技法や光源を採用、メンテナン
スやコストパフォーマンスまで考慮した技術によって支えられるデザインをポリシーとしている。
石田 建一氏(積水ハウス 執行役員環境推進部長兼温暖化防止研究所長)
「売れる商品があって会社は存続し、結果として社会貢献もできる」という考え方に基き商品企画を考える。温室効果ガスの排出削減
の観点から「グリーン ファースト ゼロ」と銘打ち「エネルギー収支ゼロ」
「太陽電池、燃料電池、蓄電池」の“3 電池”などを備えた
住宅を前面に打ち出す。
花井 架津彦氏(大光電機 TACT大阪デザイン課)
店舗や住宅の照明設計を通し、顧客に、最適な「光」を提供することで快適で洗練された光環境を創造する、一歩先を進んだライティ
ングソリューションを数多く提案している。
<モデレーター>
野田 高季氏(LED 照明推進協議会 事務局長)
――野田氏(LED 照明推進協議会)
LED は省エネルギーや CO2 削減という照明の“従来からある”側
面だけでなく、コントロールや通信技術との融合により IT との親和性を最大限に生かすことで、人間
の感性や心地よさなど「ヒカリ+α」という視点から貢献できるのではないかと考えます。本パネルデ
ィスカッションでは、「LED 照明からライフスタイルの近未来を考える」として、2020 年ごろをイメー
ジした近未来に向けた LED 照明への期待やポテンシャルについて議論します。
それでは各パネリストからそれぞれの専門分野における取り組みや考察についてプレゼンテーショ
ンしていただきます。一色さん、金田さんには先ほど講演をいただきましたので「未来のスマートハウ
ス」の視点から石田さんプレゼンをお願いします。
■未来のスマートハウス
石田氏(積水ハウス)
積水ハウスとしてどのように考えて業務をしてい
るかということを紹介します。世の中には様々な社会問題がありますが、
その中心は住宅であり、住宅がよくなれば社会問題を変えられると当社で
は考えています。企業としては利益追求だけでなく、社会貢献をすること
が重要で、社会の問題を解決して、よりよい社会をつくることがモチベーションになっています。エネ
ルギー的な話をしますと、2008 年の洞爺湖サミットの時に日本は 2050 年までCO2を 60%から 80%削減
しますと言ったわけです。これに対して何が出来るかということを考えた時、工業立国の日本としては
産業部門で大幅な削減をしたら生産部門を国外に出さなくてはならなくなります。日本が将来にわたっ
て元気でいる為には、産業部門の排出枠を残して、それ以外の部分をゼロにすればいいという考え方か
ら、担当部門の住宅の CO2排出をゼロにしようと考えてスマートハウス、省エネ住宅を推進しています。
実験棟のような住宅で CO2をゼロにするのではなく、普通の家で快適に暮らして CO2がゼロになる家に
ならないと本当に普及しないと考え、手の届く普通の家で CO2の排出量をゼロにすることを目指してい
ます。
最新の技術で快適な暮らしをサポートしようというブランドビジョン「SLOW & SMART」を掲げていま
す。HEMS を例にとりますと、HEMS の見える化だけでは、限界があります。会社で数字に追われる中で、
家に帰ってまで省エネの見える化で数字に追われて暮らしたくないし、奥さんにもっと節電しなさいと
省エネ、効率を求めては、家庭の平和が保てないと私は考えています。積水ハウスのお客様は省エネを
求めているのではなく、健康で、快適で経済的に暮らせ、その上で省エネな住宅を希望されています。
家が自動的に省エネ、発電してくれれば、わざわざ見える化をしなくとも良くなりますので、単に見え
る化をするだけでは限界があると考えている訳です。
世界の住宅の省エネ対策への取り組み状況では、2020 年には新築住宅について、EU も、イギリスも、
フランスも、アメリカも、日本もゼロエネルギー住宅にすることを表明しています。
ご存じのように、ゼロエネルギー住宅は、1 次エネルギーでゼロにするということで、省エネをするだ
けでは達成できない為に、太陽光発電や創エネを組み合わせプラスマイナスでエネルギーの使用をゼロ
にしようという考え方です。
積水ハウスでは、2009 年から CO2を 50%以上削減する「グリーンファースト」住宅を手掛けています。
これは、断熱を良くして、LED 照明をはじめとする省エネ機器を採用し、太陽光発電とか燃料電池の創
エネ機器を入れて CO2を削減するものです。積水ハウスとしてのこだわりとしては、太陽光発電のエネ
ルギーの為に家をデザインするのではなく、一見わからない瓦型太陽電池を採用することで、家並にマ
ッチした「省エネ+創エネ」住宅を提供することです。2013 年 4 月に発売した 2020 年を先取りしたネ
ット・ゼロエネルギーハウス「グリーンファースト ゼロ」でもこの考え方を採用し、エネルギーの為
だけの住宅ではなく、街並みにとけ込む普通の家でゼロエネルギーを達成できる住宅を作っています。
ゼロエネルギー住宅の中での LED 照明の関わりですが、今までは長寿命化や CO2削減という省エネで
販売されてきました。これからは、単なる省エネではなく、快適、便利という付加価値機能をもった LED
照明がスマートハウスで使われる要件ではないかと考えています。たとえば、和食用の照明とか、中華
用の照明とか、料理をよりおいしく引き立てる照明、冬用の照明とか、夏用にちょっと涼しさを感じさ
せる照明、付加価値を付けてシステムで販売していくべきと思います。照明単体では付加価値がありま
せんので、安価な製品が出てきたら価格競争に陥るだけです。付加価値をシステムで売っていくビジネ
スが重要ではないかと考えます。
――野田氏
次に、空間のあかりを設計する視点から花井さんプレゼンをお願いします。
花井氏(大光電機)
当社は LED 中心の照明専業メーカーなのですが、
私は、TACT(トータル・アドハンス・クリエイティブ・チーム)
という照明デザイン集団の部署の中で住宅の照明設計を担当し、建築家、
住宅設計者の照明設計の光の空間づくりのお手伝いをしています。
大光電機は 7 名に 1 名が照明デザイナーという会社で照明のソフト提案
に力をいれているのが特徴の会社です。
住宅のひかりを考えると、外光をインテリアととらえて室内からどのように見せていくかという考え
方のもと、住宅のデザインの付加価値を高めていくというトレンドがある中で、夜の住宅屋外の光を照
明で表現するというお手伝いをしています。住宅照明の空間設計をする中で大事にしていることは、デ
ザインの観点からすると、照明器具、HEMS とかの設備機器をノイズととらえて照明設計をするようにし
ていることです。通常、住宅で設備機器と言えば、エアコンや照明器具とか付いていて当たり前の設備
機器ですが、それをマイナスしていくデザインを如何に考えていくか、設備機器などの必要なものを見
せないようなデザイン、光だけを存在させるようなデザイン設計を心がけています。最近では間接照明
を多用した設計が多くなっています。商業施設などと住宅の照明の違いは、家は長時間滞在する空間で
あり、明るい時も必要であれば暗い時も必要であるという照度差を考えるべきものと思っています。LED
照明器具の進化にともなって、グレアを配慮した照明器具を多用して、照明器具の眩しさを感じさせな
い照明空間の設計なども行っています。住宅の昼間の空間は、外光を活用すべきものであり、外光がな
くなった時に人工照明を活用していくか、内外のバランスをうまく活用していくと、デザイン的にもつ
ながった美しい空間が表現できるのではないかと考えています。
また、室内だけの照明設計をしただけでは、夜間にガラスに照明が写り込んでしまう当たり前の空間
になってしまいがちですが、調光と配光をコントロールすることで、庭を美しく見せていくことも可能
になります。LED 照明器具を駆使しながら、住宅空間の良さを表現することが照明の付加価値を高める
ことになるのではないかと考えています。
――野田氏(LED 照明推進協議会) 本シンポジウムで掲げた「「ヒカリ+α」で拡がる LED の新たな潮
流を探る」というテーマの中で、「ヒカリ+α」という視点に対し、パネラーの皆さんはそれぞれの立
場でどのような印象がありますか。
一色氏(神奈川工科大学) 「ヒカリ+α」は「ヒカリ+HEMS」と思っていましたが、最終的には「ヒ
カリ+住まう人」と思っています。つなぐ技術があって、その先には、住まう人にとっての素敵なヒカ
リの生活があるのだろうと思います。
金田氏(ワークテクト) 照明デザイナーとしては、
「ヒカリ+α」は、普段から仕事で携わっているそ
のものと思っています。コントロールはハードウエアだけではなくソフトウエアも活用し、ソフトウエ
アを使う人間がソフトウエアに使われずに、どのように使いこなしていくかが重要です。照明をコント
ロールするハードウエアとコントロールされるもの、そして人間がうまく共存できる社会を作るのが
「ヒカリ+α」の世界ではないでしょうか。
石田氏(積水ハウス) 冷暖房はスイッチをいれても効果が表れるまで多少時間がかかります。照明は
スイッチを入れた瞬間から明るくなります。必要な時にスイッチを入れればいい。LED 照明は付け替え
ただけで省エネ効果が期待できるようになったところが、
「ヒカリ+α」と思っています。
花井氏(大光電機) HEMS、コントロールの視点から見ると照明はまだまだハードウエアの部分でも不
足しています。そして、ソフトウエアの部分もメーカーがしっかり考えていかないと現実的な連動には
なりません。メーカーがもっと前向きにとらえてチャレンジしていかないと、「ヒカリ+α」の普及に
はつながらないと考えます。
“合理的な照明”から脱すると未来が見えてくる
――野田氏
照明の付加価値について議論した中で、キーワードとして出てきたコントロールについて、
花井さんは住空間のあかりを変化させていく提案をされていらっしゃいます。
花井氏(大光電機) 住宅の照明設計をするにあたり、調光を取り入れながら明るさの提案から陰影の
提案に重点を置いています。一言でいうと脱ベース照度です。タスク照度と全体照度を考えていくと、
住宅の中で必要なのは作業照度です。これは絶対的に確保しながら、空間の心地よさや居心地をどう考
えていくかで照明設計をしています。単純にあかりの量を減らすことで省エネにも貢献できる、時代の
流れにも反映できる照明を設計しています。
――野田氏
照明を提案する側の責任もあるのではないかと思っていますが、日本の住宅照明では、部
屋の中心にシーリングライトが 1 台だけついているような照明空間が多く見受けられます。日本のある
種合理的な照明から脱し、新たな付加価値を上げていくという観点に切り替えていく必要があるのでは
ないでしょうか。コントロールだけでなく、新しい提案が出来ないかという視点をお持ちの金田さんは
どのように考えますか。
金田氏(ワークテクト) 年齢やシチュエーションに応じて、環境を変えられる装置というのが、照明
の大きな要素だと考えます。日本人が得意とする様々なモノをコンポーネントして、色々な機能を備え
た製品を作り上げることが、メーカーにとってこれからの照明の開発テーマだと思います。
中国や東南アジアでは新しい技術が入ってきたら、新しいことをどんどん取り入れていきます。日本
の照明業界は非常に長い間に、丈夫で耐久力のある製品を作ってきました。日本で発売されてから、ハ
ウスメーカーに採用されたころには、海外では新たなモノが出てきているというのが現状です。文化の
違いもありますが、日本の照明メーカーは柔軟性をもって開発に取り組んでもらうと、良い点も悪い点
も見えてくるのではないでしょうか。もう少し世界に目を向けて取り組んでほしいと思います。
自動的に好みの明るさを学習?
近未来の生活から照明を考える
――野田氏 「近未来に生活がどう変化するか」という観点から、必要とされる未来の照明像が見えて
くるのではないでしょうか。照明器具メーカーの考えとして、花井さんはどのように考えますか。
花井氏(大光電機)
LED になって照明はコンパクト化し、さらに光源から熱が出にくいなど従来光源
との違いが明確に現れています。プロダクトが進化していくと、より体に近づいたウエアラブル的なモ
ノに進化していく可能性があります。LED 照明も身体により近い所で明るさを取っていくというような
考え方に変化することで、脱ベース照度が新しいトレンドになっていくと考えます。身につけるという
感覚により近づくと、空間に寄り添わないという新しい考え方になるのではないでしょうか。
――野田氏
全体を俯瞰した中で「近未来がどう変化するか」について、ハウスメーカーの立場から石
田さんはどう考えますか。
石田氏(積水ハウス) 住宅メーカーとしては、安心、安全、快適な暮らしを目指してきましたが、交
通事故で亡くなる方よりも、家で亡くなる人の方が 2 倍以上います。浴室での「ヒートショック死」な
ど高齢者のお風呂での死亡事故などまだまだ多いです。バリアフリーや、指挟み事故の防止などに取り
組んできましたが、もっと安心、安全な暮らしを実現させて死亡事故を減少するために、IT やロボット
技術を組み合わせたものを活用した住宅環境作りを研究中です。
システムを導入することで何が出来るではなく、何を必要として、システムが入ることで何がより快
適に、より便利になるかが重要となります。我々がビジネスをする上で、システムを導入して単につな
がるだけではなく、「こんなに快適な暮らしが実現できますよ」を実感できるようにすることが重要で
す。LED 照明でも、人それぞれに好みの快適なあかりがあります。技術の進化が必要ですが、HEMS がい
つの間にか自動的に学習し、自動的に個人個人の好みのあかりや空調をコントロールするというような、
便利で快適な時代が来るのではないかと考えます。
――野田氏
HEMS の観点から、一色さんはどのような未来像を予測していますか。
一色氏(神奈川工科大学)
次世代の HEMS 研究として、アンコンシャス(unconscious)な HEMS の開
発に取り組んでいます。無意識の中で色々な制御をしてくれるというものです。様々な機器を全部扱う
という前提で、IoT スペースを設け、ECHONET Lite で関連している機種を全てつないで何が実現できる
かを実験中です。私は「人+HEMS」と呼んでいますが、人がどこにいて何をやっているかが分かった場
合、HEMS は色々なことをしてくれるようになるだろうし、場合によっては余計なことをするようになる
かもしれません。
さらなる課題として、人間は何もしなくなるかもしれないし、何もしなくてもよくなると怠惰な人間
になるかもしれないというおそれも出てきます。人間が、怠惰にならないための HEMS とは何だろうと
いうのもテーマです。
未来の生活を作るというキーワードとして HEMS を捉えるとアンコンシャスな HEMS から、もっと賢く
なった HEMS も作れるのではないかと期待をしています。現状はまだ、人を認識できるレベルに無く、
始まったばかりのシステムです。技術者たちの知恵がもっと必要になってくると思っています。一緒に
なって色々なことに挑戦できたら面白いと感じています。
HEMS と連携した LED の好例を紹介しましょう。既に取り入れた事例ですが、防犯システムと連携した
照明は使えるという話です。防犯システムとしてテストして分かったことは、女性が帰宅するときにど
この部屋に住んでいるかを見ている人がいるということでした。でも、自宅に帰る前に家の照明を点灯
しておくと、どの部屋に入ったか分かりません。何でもないことのようですが、マンションで HEMS が
よく使われる事例です。誰かが倒れた時に照明が点滅する、色温度を変えて異常を知らせるなどの使い
方を防犯会社と論議をしています。
色温度が変えられる LED は、テレビと平均照度を合わせた LED の照明の使い方や、冷房時に照明の色
温度を変えて、少し青くすると冷房温度をあまり下げなくてもすむのではないかなどの研究を開始して
います。私たちは、標準化をして、色々な企業と連携して環境をより良くしていくことがミッションで
す。こういう環境を実現できたときにどういうサービスを作るかは、企業側のミッションです。ぜひ、
挑戦していただきたいですね。
――野田氏
NEXT
本日議論したことをどう実現させていくかが今後の課題です。本シンポジウムは LED
STAGE 2016 のプレイベントとして開催しました。今日議論したことが、NEXT STAGE の中で、ど
れだけ展開できるか、今日、発信できたことが、皆様にどれだけ共感を得ていただけたかが重要だと考
えます。LED の付加価値が議論される中で、このことについて注目して、活動を進めてまいります。議
論は尽きませんが、パネルディスカッションを終了いたします。ありがとうございました。