熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University Repository System

熊本大学学術リポジトリ
Kumamoto University Repository System
Title
帯電した液体の過渡的挙動に関する研究
Author(s)
小畑, 大地; オバタ, ダイチ
Citation
Issue date
2015-09-25
Type
Thesis or Dissertation
URL
http://hdl.handle.net/2298/33468
Right
別紙様式2
学位論文要旨
所属専攻 複合新領域科学専攻
氏
名
小畑 大地
論文題名(外国語の場合は、その和訳を併記すること。
)
帯電した液体の過渡的挙動に関する研究
要
旨(注:4,000 字以内にまとめること。
)
本論文では、能動的に帯電させた液体の挙動として静電噴霧について、受動的に帯電し
た液体の挙動として流動帯電について研究した成果を、帯電した液体の過渡的な振舞とし
て包括的に報告する。
静電噴霧とは微粒化のための応力として静電気力を用いた噴霧法である。他の噴霧法と
比べ、力学的な機構を必要としない、ノズル径よりも遥かに微細で均一な粒径の液滴を生
成できる、吐出後の液滴は帯電しており自発的に微粒化が進む、噴霧に指向性を持たせる
ことができる、対象物への付着力が高い等の特徴が挙げられる。これらの特徴を活かして
塗装や農薬散布等の噴霧技術全般に用いられる他、液体クロマトグラフィー質量分析
(LC-MS: Liquid Chromatograph Mass Spectrometry)において、高分子をフラグメント
化 す る こ とな く イオ ン化 さ せ る ため の 手法 (エ レ ク ト ロス プ レー イオ ン 化 法 , ESI:
Electro-Spray Ionization)として用いられるなど、その用途は多岐にわたる。静電気学的
な応力と流体力学的な挙動が密接に影響し合う静電噴霧現象は、非常に複雑で解析は困難
を伴う。しかし、長年の研究の末、多くの有効な噴霧モデルとスケーリング則が示され、
これにシミュレーション等の研究も加わって、噴霧装置の設計開発にも利用されている。
近年、プリント技術やマイクロアレイの作成等の新分野への応用及び量的制御性の向上
といった面から、静電噴霧を断続的に駆動する研究が盛り上がりを見せている。当初は断
続駆動法の最右翼と目されていた交流電源による駆動だが、高繰り返しでの駆動に不向き
であることが示され、現在ではパルス電源による駆動が主流となっている。実用化に向け
た研究が盛んに行われる一方、理論的に断続駆動特有の噴霧機構を解明するための研究は
ほとんど進展がなく、汎用的な噴霧のモデル化やスケーリング則の構築に向けた研究が待
ち望まれている。本稿では、電圧印加後の過渡的な噴霧機構を解明するため、印加電圧の
立ち上がり時間を制御し、噴霧開始時間への影響を調査した。
立ち上がり時間の噴霧開始時間への影響は、電流波形計測及びシャドーグラフ法による
噴霧形態の可視化によって定められた。噴霧開始時間は印加電圧の増加に伴って減少し、
減少曲線は 3 つの領域に分けられることが見て取れた。印加電圧が低い場合、立ち上がり
時間の影響はほとんど見られず、一定の印加電圧で顕著な影響が見られたが、さらに高い
印加電圧では再度影響が不明瞭となった。これらの領域を噴霧形態の可視化による経時変
化と照らし合わせると、それぞれが低周波パルセーションモード、高周波パルセーション
モード、マルチジェットモードに相当する噴霧形態であることが分かった。これらの結果
を解析するため、
Taylor-cone を形成する条件において内部の流れの状態を計算したところ、
層流であることが確認され流体運動の特性時間を容易に求めることが可能となった。この
特性時間と誘電緩和時間を立ち上がり時間と比較することで、変形初期の電荷分布が噴霧
の挙動に影響している可能性が示唆され、立ち上がり時間の影響が顕著に表れる閾値条件
も示された。
流動帯電とは液体が配管内を輸送される際の帯電現象である。特に可燃性有機溶剤を高
速で輸送する際、流動帯電による火花放電が原因となり、重大な爆発事故がしばしば発生
する。そのため可燃性液体の輸送には、帯電防止機能の装備や速度制限が必要となってい
る。また、半導体製造過程においては多量の純水や有機溶剤が用いられ、その配管として
PFA(PerFluoro- Alkoxyethylene)が用いられているが、PFA は非常に帯電しやすい性質
を持ち、流動帯電による火花放電がリーク事故等を引き起こす。半導体洗浄工程において
は、不純物混入が懸念されるため、帯電防止材の利用やチューブへの導電性の付加は行え
ない。
液体を搬送する状況において、液体の流動と停止を繰り返すような状況は珍しくなく、
これに伴う過渡的な帯電現象は、液体の挙動や誘電緩和時間等によっては定常的な帯電現
象と大きく異なるものとなる。このような高速輸送における過渡的な流動帯電に関する研
究は先例がなく、本稿では、PFA チューブ内に高速に純水を流した場合の過渡的な帯電現
象について調査した。
本来、純水と PFA が接触及び流動した際は、純水が正の、PFA が負の帯電傾向を示すこ
とが知られている。本研究においても全体的には同様の帯電傾向を示したが、水流の先頭
近傍では負の帯電が見られた。水流先頭近傍の負の帯電量も、それよりも後部の水流の正
の帯電量と同様、流速及びチューブ長への依存性が見られたため、雑音や他の要因による
ものではなく、流動帯電によるものであると考えられる。また、除電装置を用いて PFA チ
ューブ内の残留電荷を中和すると、水流先頭近傍の負の電荷量が減少することが確認され、
これは PFA チューブ内の残留電荷が影響していることを示唆する。流れの状態を計算した
結果、強い乱流状態であることが分かり、実験結果と併せて過渡的水流における帯電モデ
ルが示された。
静電噴霧における電圧印加開始直後の過渡的な振舞を、電流計測による噴霧開始時間の
観測やシャドーグラフ法による可視化によって調査し、静電気学的及び流体力学的な理論
計算により、印加電圧の立ち上がり時間の違いが初期の電荷分布に違いを生じる機構と閾
値条件が明らかとなった。また、PFA チューブ内の過渡的水流における帯電現象を、電流
計測による帯電量の観測によって調査し、理論計算の結果と併せて、過渡的水流における
帯電モデルを示した。