日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015) Live Biblia: タンジブルインタフェースを用いた博物館における展示案内システムの開発 Live Biblia: Development of the Tangible Guide System for Museum Exhibitons 江草遼平 1,2,齋藤万智 3,楠房子 4,稲垣成哲 2 EGUSA Ryohei1,2, SAITO Machi3, KUSUNOKI Fusako4, INAGAKI Shigenori2 日本学術振興会特別研究員 1,神戸大学 2,ヤフー株式会社 3,多摩美術大学 4 JSPS Research Fellow1, Kobe University2, Yahoo! Japan Corporation3, Tama Art University4 [要約]本研究では,博物館におけるタンジブルインタフェースを用いた展示案内システム, Live Biblia のプ ロトタイプシステムを開発した. Live Biblia は, 実物資料を用いた物理的なオブジェクトを媒介として, 博物館の展示情報にアクセスするシステムである. 直接観察し, 触ることのできるオブジェクトから来館 者の興味・関心を外化し, それを元に来館者の学習したい内容に関する展示マップを作成することで, 博物館における学習を支援する. 本研究で開発したプロトタイプシステムでは, 古生物を題材としたコ ンテンツを作成し, 物理的なオブジェクトから資料の情報を呈示する機能を実装した. [キーワード]博物館,Live Biblia,展示案内,タンジブルインタフェース 1.問題の所在 展示側の意図する展示群の連続性を掴むことができ 本研究では, 博物館におけるタンジブルインタ ないこともある (Falk & Dierking, 2013). これらの問 フェースを用いた展示案内システム, Live Biblia の 題は, あるテーマに沿って体系づけられた展示の関 提案を行う. Live Biblia は,来館者の博物館利用 連性の把握を困難なものにし, 結果として, テー マ に際して,多数の展示から最適な鑑賞順序をナ 全体の理解を阻害することに繋がると考えられる. ビゲーションするシステムである. このように, 展示の配置などハード面での解決が ICOM (2007) の定義によれば, 博物館は, 有 困難であることから, ソフト面からの解決方法を検討 形あるいは無形の資料について収集, 保存, 研究 する必要がある. 井上 (2006) は, 資料をデジタ またはそれを用いた教育活動を行う機能を持つ, 一 ルアーカイブス化することにより, Web 上でタグ情報 般公衆に開かれた非営利機関である. 教育活動に を元にした事前検索を可能とするシステムの開発を おいては, 博物館が収集した 1 次資料, またそれ 行っている. 関・日高・斎藤 (2000)では,バーチャ を元に作成される 2 次資料を展示として公開する. ルミュージアムに関する研究として, 複数の博物館 展示を行う際, 展示作成者は, 一定のテーマに基 の資料について, デジタル上で関連性をもとに観覧 づいてそれぞれの館が持つ収蔵品, あるいは他館 順序をソートし, 閲覧可能とするシステム提案がなさ の持つ文化財を選定し, 来館者の理解を助ける解 れている. 来館者の博物館における学習を支援す 説 ・ 配置についての考慮が必要である (全国大学 るにあたって, 関連性を持った展示群の鑑賞順路を 博物館学講座協議会西日本部会, 2008). 呈示することが有効な手段であると考えられる. しかしながら, 展示環境上の問題から, 関連性の そこで, 著者らは, 実際の博物館現場において, ある展示が離れて設置されてしまうことや, 一旦設置 来館者個別の学習に関する興味 ・ 関心から展示群 すると移動が非常に困難な展示があると考えられる. の鑑賞順路を柔軟に呈示するシステム, Live Biblia なぜならば, 資料の保存の問題から, 博物館空間 Ishii & Ulmer(1997) の構想を行った.Live Biblia は, 利用上の限界, 資料の特性による光量, 温度, 湿 の提唱するタンジブルインタフェースを採用してい 度の制限などを考慮する必要があるためである (全 る. タンジブルインタフェースは, 無形である情報に 国大学 博物館学講座協議会西日本部会)。 また, アクセスする際のインタフェースとして物理的なオブ 展示構成上の不注意などから, 来館者はしばしば, ジェクトを利用する. 本研究では, 来館者の学習に ― 57 ― 日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015) 図 1.Live Biblia:システム概念図 関する興味 ・ 関心の手がかりとして, 手に収まるサ イズの実物資料をオブジェクトとして利用する手法を 考案した. 図 1 は Live Biblia のシステム概念図である. 物 理的なオブジェクトから外化された学習者の興味 ・ 関心を元に, 博物館の展示をソートし, マッピングを 行う. これにより, 既存の展示環境の制約に捉われ ない, 来館者固有の観覧マップを作成することがで きる. また, マップの更新に展示物の移動を必要と せず, 展示開発の負担を軽減することができる. 図 2.Live Biblia プロトタイプシステム 2. プロトタイプシステムの概要 図 2 は, Live Biblia プロトタイプシステムのフレー のフレームワーク ムワークである. Live Biblia は, ノート PC, プロジェ ク タ, RFID セ ン サ ー, RFID タ グ (Passive) 付 オ ブジェクトで構成されている. 開発環境は, Adobe ActionScript 3.0 及び Adobe Flash CS6 であった. プロトタイプシステムは, 古生物をテーマとして作 成された. 古生物を採用した理由は, 以下の 2 つ である. 1 つ目は, 古生物は, 化石を実物資料と して利用できるためである. 2 つ目は, 一定量の古 生物資料群の関連性について, それぞれが生息し ていた化石時代, 陸地や海など生息していた環境, 捕食方法, 進化系統といった多様な分類が可能で あるためである. 図 3 は, プロトタイプシステムにおける RFID タグ 付オブジェクトの例である. オブジェクトに, 実物資 ― 58 ― 図 3.RFID タグ付オブジェクト 日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015) 料であるアンモナイトの化石が埋め込まれている. で, RFID 情報の読み取りが行われる. 虫眼鏡は, 来館者は, このアンモナイトを直接触ったり, 近くで オブジェクトを設置する場所を直感的に示す他, 化 観察することができる. オブジェクトは, 手に収まる 石を詳細に観察する際にも用いることができる. サイズであり, 複数を見比べやすい. また, 物理的 RFID 情報がノート PC に読み取られると,プロジェ なオブジェクトを用いる利点として, 複数のユーザ クタからその化石に関する情報がアニメーションで表 で意見を共有するなどの活動が行える点があげられ 示される. 図 6 は, プロジェクションされるアンモナ る. 図 4 は, オブジェクトの利用場面である. ユー イトに関するアニメーションの例である. アニメーショ ザである来館者の 1 人がオブジェクトを触りながら, ン上では, 主題であるアンモナイトが強調表示され グループで意見を交流している様子がわかる. この ており, その生態が解説される. また, アンモナイト ような活動を通じて, 自身の興味 ・ 関心を外化する. と同時代の生物であるモササウルスとの捕食関係が オブジェクトには RFID タグが埋め込まれており, 説明されている. このように, 興味を持った資料とそ RFID センサに接近させることで RFID 情報の受け渡 の他の資料の関連性について呈示することで, 博物 しが行われる. 図 5 は, RFID センサを内蔵した装 館展示の観覧ルートを構築する一助となる. 図 7 は, 置である. 虫眼鏡の下にオブジェクトを設置すること アニメーションの利用場面である. プロジェクタを用 図 4.RFID タグ付オブジェクトの利用場面 図 5.RFID センサ 図 6.アニメーション ― 59 ― 日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015) 図 7.アニメーションの利用場面 Coast Press Inc, 2013. いてスクリーンに投影することで, 複数人の来館者 ICOM: Museum Definition, 2007 Retrieve from で情報を共有することができている. http://icom.museum/the-vision/museumdefinition/ (最終閲覧日 : 2015 年 10 月 21 日) 3 今後の課題 本稿では,タンジブルインタフェースを用い 井上 透 : サイエンスミュージアムネットを活用した博 た博物館案内システム,Live Biblia のプロトタイム 物館デジタル ・ アーカイブスの流通, 第 22 回年 システムの開発を行い, その詳細を報告した. プロ 会論文集, pp.76-77, 2006. トタイムシステムでは, 実物資料を用いた物理的な Ishii, Hiroshi. & Ulmer, Brygg.: Tangible Bits: オブジェクトから資料同士の関連性を呈示するシス Towerd Seamless Interfaces between Peaople, Bits テムが実装された. and Atoms. In the Proceedings of Conference on Human Factors in Computing Systems '97, pp.1-7. 今後の課題としては, 博物館内で展示順路をナ Los Angeles, CA: ACM, 1997. ビゲーションする機能の開発, 実装を行うことが挙げ られる. また, 博物館において実際に来館者の利 関 良明 ・ 日高哲雄 ・ 斉藤典明 : コンテンツ連携 用データを集め, Live Biblia の博物館学習支援効 技術を応用したディジタル展覧会システム, 電子 果について有効性を検討する. 情報通信学会技術研究報告 OFS, オフィスシス テム 100(102), pp.29-34, 2000. 附記 全国大学博物館学講座協議会西日本部会編 : 新し 本研究は,JSPS 科研費 24240100 の助成を受け たものである. 引用文献 Falk, J. H. & Dierking, L. D.: The Museum Experience Revisited . Walnut Creek, CA: Left ― 60 ― い博物館学, 芙蓉書房出版, 2008.
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