行政経営の方針と実態に関する首長アンケートの基礎分析 2015 年 3 月

行政経営の方針と実態に関する首長アンケートの基礎分析
2015 年 3 月
-目次-
Ⅰ.基礎集計の分析
Ⅱ.クロス集計の分析
Ⅲ.個別分析
Ⅳ.資料:アンケート原票
-アンケート調査の概要-
本アンケート調査は 2014 年 1 月 15 日に日本国内の全市町村長を対象に、郵送による配布・
回収により実施したものである。本調査の目的は近年の首長の行政経営方針と実態を把握
すること、及び「地方財政のガバナンスとシステム改革に関する総合的研究」
(JSPS 科研費
19203016 研究代表者宮川公男)において 2008 年に実施したアンケート調査と比較し、2007
年時点との首長の行政運営の方針の変化についても把握することである。なお、
「本調査は
行政改革のインパクトとポスト NPM への展開に関する総合的研究」
(JSPS 科研費 25245025
田尾雅夫)の一環で実施したものである。
調査期間 :2014 年 1 月 15 日~1 月 31 日
方
法:郵送調査
調査対象者:全国の市町村長
発
送 数:1,719
有効回答数:1,121
回
収 率:65.2%
調査にご協力をいただいた多くの自治体関係者の方に感謝を申し上げたい。本報告書は基
礎分析であるが、今後詳細な分析を行なっていく予定である。これらの分析が実際の行政
の場でわずかながらでも貢献ができればと考えている。
なお、本報告書の執筆はⅠ.基礎集計およびⅡ.クロス集計の分析を山本清(東京大学大
学院教育学研究科教授)と渡邊壽大(一般財団法人統計研究会研究員)が、Ⅲ.個別分析
を川上栞(東北大学大学院教育学研究科博士前期課程)と青木栄一(東北大学大学院教育
学研究科准教授)が担当をした。
Ⅰ.基礎集計
1.行政課題
行政課題として認識されているもので重要な項目を順番に 3 つ選択してもらった。人口減
少社会の到来の一方、マクロ的には地方財政は苦しい中で改善に向かっていることを受け、
どのような認識をしているかを探ることを意図したものである。第一位にあがった項目は
財政の健全化(313 件)、地域経済の活性化(235 件)及び少子化対策(198 件)であり、第一位か
ら第三位までの合計では地域経済の活性化(668 件)、財政の健全化(565 件)及び少子化対策
(527 件)の順である。財政はすべての政策にかかわることを踏まえると、地域社会の経済
面及び人口動態面での持続可能性を確保することが最大の課題と認識されているといえる。
図 1.行政課題として重要な項目(単位:件)
2.財政運営
(1)10 年後の財政予測については現状より悪化しているとみる者が多い。
「悪化している」
または「やや悪化している」と回答した割合は 75.9%であり、その原因の上位 3 つは「社会
福祉関連経費の増減」(750 件)、
「国庫補助金・負担金の増減」(746 件)及び「地方税収の
増減」
(634 件)となっている。歳出面で高齢化の進展による医療福祉関係の増、歳入面で
地方分権の推進の地方財政への影響が考慮されているのであろう。前回(2008 年)実施した調
査(
「地方財政に関するアンケート調査(市町村編)
」)の回答と比較すると、団塊の世代の
職員大量退職が終わること及び高い金利の地方債の償還が進んでいることから、
「人件費の
増減」及び「公債費負担の増減」の項目は大きく減少している。
図 2.10 年後の財政運営影響を与えると考えられるもの(単位:件)
(上段:2008 年調査(n=1,312),下段:2014 年調査(n=1,102))
また、地方分権の推進の基礎となる国と地方の役割分担について、①自治体が主体的に役
割を担う補完性の原理、②国が全体の公共福祉の観点から担うべき領域を確定し、残りを
自治体が担う考え方、あるいは③条件・環境に応じて分担するという 3 つ(正確には「そ
の他」があるので 4 つ)から選択してもらった。その結果は、2008 年調査と大きな違いは
なく、①の補完性原理を支持する意見(37.6%)が若干増加したものの、②は 31.3%、③は 29.0%
と 3 つの意見は依然として拮抗している状態である。
さらに、財源構成としてどのような歳入項目を増やす方がよいかを尋ねたところ、地方
税 67.8%、地方交付税 28.9%の 2 つが大半であり、この結果は 2008 年調査と変わらない。
3.合併に対する評価
いわゆる平成の大合併(平成 11 年から平成 22 年)により自治体の数は 3232 市町村から
1727 に大きく減少したが、
回答した自治体で実際に合併したものは 37.3%(417 件)であった。
約 4 割が合併に関係したことは組織的には大きな減少といえる。また、合併した自治体に
平成の大合併の評価をしてもらったところ、経費の節減になった、政策形成能力が上がっ
た、広域行政が可能になった、サービス水準が向上したという肯定的評価が全体の 83.4%と
なり、意外な結果となった。ハコものを合併特例債等で造ったため今後維持管理費増とな
ること、いったん合併で財源が特例で増加したものの地方交付税措置がなくなる等で財政
状態が悪化するという報道等と異なる結果となっている。今後財政データと照らし合わせ
この評価の妥当性を吟味していく必要があろう。
4.地方財政健全化法について
地方財政健全化法で自治体の財政状態を管理する制度が平成 20 年度決算から適用されて
いる。夕張市のように財政状態の健全化に長期間要するものもあるが全般的には財政状態
は改善傾向にあり、健全化比率を満たすように各自治体は努力しており、財政再生団体に
該当する自治体は夕張市のみである。健全化法を評価するものは「高く評価する」または
「やや評価する」は合わせて 64.4%に上っており、2008 年調査の 57.3%より微増である。
5.自治体の政策対応
(1)地方財政の在り方として選択・競争を重視するか公正・標準を重視するかの二つの軸
があり、どちらを採用して運営にあたっているかを尋ねたところ、選択・競争を支持する
(
「甲に近い」と「やや甲に近い」の合計)は 23.2%に対し、公正・標準を支持する(「乙に
近い」と「やや乙に近い」の合計)ものは 39.0%である。2008 年調査よりも選択・競争を
支持する割合は若干高まっている(16.5%から 23.2%へ増加)ものの、公正・標準が選択・
競争に対し優位になっている。これは、地方財政として市場原理的な考え方も増えてきて
いるものの公正・標準という公共価値的な考え方が優先されることを物語っている。いわ
ゆる自治体間競争や住民に選ばれる都市という概念は選択・競争に近いが、一定の要件を
満たす住民に等しくサービスを供給することも公正・標準から要請されるからであろう。
(2)行政運営において自治体が地域のニーズに全て応えていることは財政的にも能力的に
も困難であるが、それに加え地域住民等の利害関係者と協働して問題解決に当たったほう
が効果的・効率的な事態もある。たとえば、子育てや介護は行政の他、地域住民や NPO 等
の団体と分担した方がきめ細かく、かつ、行政・当事者の負担も軽減されやすい。いわゆ
るガバナンス型の自治体経営(アンケートでは「甲」
)である。これに対照されるのは、行
政は住民の要望を踏まえ地域の課題を解決していくという機能区分型(アンケートでは
「乙」
)である。自治体の採用している方針を尋ねたところ、ガバナンス型を志向するもの
は 77.5%であり、機能区分型を志向するものは 9.9%である。これを前回の 2008 年調査と比
較するとガバナンス型が 67.8%から約 10%増加している。多くの自治体が方針としては住民
協働を旨とするガバナンス型を目指しているといえる。
(3)このガバナンス型の行政運営の方針を多くの自治体が採用していることは、行政が住
民をパートナー(協働者)とみなしていることを意味する。他方、地方財政の運営として
選択・競争あるいは公正・標準をとることは、前者は NPM 的な顧客の側面を重視すること
に、また、後者では行政サービスの受益者の側面に焦点をあてることになる。また、どの
立場をとるにせよ財源の負担者として住民を納税者として位置づけることになる。納税者
は納税の義務を負うとともに政府・自治体は徴税権を行使することができる。自主的な財
源負担者である出資者や交換取引の対価を支払う消費者と住民とは、財源負担の非自発性
と強制力の点が異なる。住民の主権者以外のこの 4 者の役割の実態をどのように認識して
いるかを尋ねたところ、肯定的に役割を認識していた(「そう思う」と「ややそう思う」の
計)のは受益者、負担者、顧客、協働者についてそれぞれ 77.2%、51.5%、32.9%、65.6%で
あった。
我が国では NPM 的改革が小泉政権以降自治体に関しても継続しているものの顧客志向の経
営はなかなか浸透していないようであり、選択・競争より公正・標準を支持しうる考え方
が依然として優位であることと整合している。
他方、首長の政策方針として 4 者の役割の在り方を尋ねたところ、受益者、負担者、顧
客、協働者を肯定する割合(
「そう思う」と「ややそう思う」の計)はそれぞれ 81.9%、72.7%、
43.4%、91.5%であり、実態をいずれも上回っている。このなかでも負担者及び協働者の増
加が大きく、財源負担の拡充(収入面)と協働型経営(支出・経費面)の双方を重視して
政策を実施していくべきと考えていることが推察される。
図 3 住民の位置づけ・役割(単位:%)
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
受益者
負担者
顧客
実態
協働者
理想
6.政策決定について
我が国の自治体の政治システムは二元代表制であり、首長と議員の双方が選挙で選ばれる。
首長は行政を担い、議員は議会を構成するから、首長の政策がそのまま実現するわけでな
く議会やその他の利害関係者も政策決定に影響力を有する。特に憲法上地方自治が規定さ
れているものの国からの財政措置や各種規制で国・府省庁も大きな影響力を有している。
そこで首長が自らを含め政策決定に現時点でどの程度影響力を有しているかを主要な関係
者について評価してもらい、望ましい影響力の水準についても合わせて尋ねた。
その結果、影響力が「大きい」または「やや大きい」と回答した比率が最も高いのは首
長(95.6%)で、次いで議会(72.7%)、市民・有権者(65.4%)の順になっている。望ましい姿にお
いて影響力が「大きい」または「やや大きい」としたものは首長がトップ(95.0%)で、二位
は市民・有権者(81.1%)、そして三位は議会(66.2%)である。市民から直接選出され委任を受
けているという自信の表れか、市民よりも首長の影響力が実態及び理想双方で高いとみな
している。首長の自信なのか協働型経営志向とどのように調和化するのか等につき今後分
析を深めている必要があろう。また、国の影響力は現状では 56.2%が「大きい」あるいは「や
や大きい」とみているが、望ましい水準は 14.4%であり、国の関与は低減すべきとみている。
図 4.影響力の程度(単位:%)
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
首長
議会
担当部局
国
実態
理想
関係団体
市民
隣接自治体
Ⅱ.クロス集計の分析
今回の目的は NPM やポスト NPM が現実の自治体の行政運営にどのように浸透しているか、
位置づけられているかを首長のアンケート調査の回答を用いて分析することである。その
ため、すべてのクロス集計分析を行ったり自治体の財政力や社会経済構造等の基礎データ
との関係を分析するのは次の課題にしている。自治体の行政運営、地方財政の運営方針に
関する回答と住民の位置づけの実態及び政策当局側の首長と議会の実態について限定的に
クロス集計を行うことにした。
1.地方財政の運営原理との関係
(1)人口規模
選択・競争対公正・標準との関係については、我々の先行調査で人口密度が高まるにした
がい選択・競争の支持が高まることが確認されている。今回の回答では人口規模のみであ
るが、人口規模別に選択・競争(甲)対公正・標準(乙)を数値化(「甲に近い」を 2、
「や
や甲に近い」を 1、
「どちらともいえない」を 0、
「やや乙に近い」を-1、
「乙に近い」を-2)
して表示すると図 5 のようになる。
これからわかるように人口規模が拡大するにしたがい、
選択・競争を支持する傾向がみられる。
図5.人口規模と選択・競争対公正・標準
0.3
0.2
0.1
0
-0.1
1万未満
1-3万
3-5万
5-10万
10-20万
20万以上
-0.2
-0.3
-0.4
-0.5
選択・競争対公正・標準
(2)財政規模
この財政と地方財政の考え方との関係も先行調査で財政力指数が高まるにしたがい選択・
競争を選好する傾向が確認されている。今回の調査は直接的には財政規模を聞いているだ
けであるが、図 6 に示すように財政規模の拡大にしたがい選択・競争を選好する割合は増
加している。人口規模と財政規模には強い相関があり、自治体の規模拡大で選択・競争メ
カニズムが機能するといえる。
図6.財政規模と選択・競争対公正・標準
0.2
0.1
0
-0.1
50億未満
50-100億
100-200億
200-500億
500-1000億
1000億以上
-0.2
-0.3
-0.4
-0.5
-0.6
選択・競争対公正・標準
(3)国と地方の役割分担
国と地方の役割分担については補完性原理、国が先に担う領域を決定し残余を自治体が担
う原理、条件・環境原理の 3 つに大別され、概ね 3 つが拮抗していた。この原理選好と選
択・競争対公正・標準の関係についてはどうなっているだろうか。選択・競争というには
自治体が主導的役割を担うことが前提になるから補完性原理を、反対に公正・標準には国
が全国的な均衡・一定の質を保証することが優先されるから残余を自治体が担う原理を選
好すると想定できる。図 7 に示すように、補完性原理を選好する自治体(首長)は残余原
理を選好する自治体(首長)より確かに選択・競争を支持する傾向がある。もっとも、条
件・環境原理の選択・競争選好は残余原理に近く、その点からは補完性原理とそれ以外に
二分されるとみなして良いのかもしれない。
図7
国と地方の役割分担と選択・競争対公正・標準
0
補完性原理
残余原理
条件・環境原理
-0.05
-0.1
-0.15
-0.2
-0.25
-0.3
-0.35
(4)住民の役割
先述したように選択・競争を志向するならば、住民が住む自治体を選定すると考えること
になるから顧客としての役割を重視するはずであり、反対に公正・標準を志向するならば
住民を消費者や顧客でなく、行政サービスの対象者である受益者とみなすと考えられる。
そして、協働者や負担者の役割は選択・競争対公正・標準の軸では明確な関係を見出せな
いと想定できる。首長の住民の実態をどう見ているかの回答を選択・競争対公正・標準と
対照させたのが図 8 である。この図からいえるのは地方財政の運営原理と住民の役割同定
化とは明確な関係があるわけでなく、むしろ、受益者、顧客、負担者及び協働者という住
民の役割を肯定しない(
「そう思わない」または「そう思わない」)ほど、公正・標準を選
好する傾向があるということである。民間経営での顧客・消費者という概念に住民を位置
付けるのも、協働型のパートナーとして位置づけるのに抵抗がある者ほど伝統的な公正・
標準の原理を志向している。
図 8.住 民の 役割と選 択・効 率対 公正・標 準
あまりそう思わない
-0.163
-0.167
-0.219
-0.177
協働者
-0.55
-0.609
-0.335
-0.207
-0.4
そう思わない
顧客
-0.144
負担者
-0.127
-0.196
-0.444
-0.178
-0.192
受益者
どちらでもない
-0.011
ややそう思う
-0.147
そう思う
注:データ数が 10 未満の回答となった「そう思わない」は除外している。
(5)首長と議会の影響力
首長と議会の政策決定への影響力と地方財政の原理(選択・競争対公正・標準)の関係に
ついてみてみよう。後者はいわゆる効率と公正の対立軸であり、政治的影響力が強ければ
効率を重視すると考えやすい。公正・標準はこれまでのサービス水準の維持につながりや
すいからである。もっとも、政治的影響力はその背景にある住民からの支持に支えられて
いるならば、公正・標準を志向する住民が多ければ政治的影響力はそちらに向かう。現実
の首長と議会の影響力と地方財政の原理の関係は、首長アンケート(つまり首長が議会の
影響力を判断して回答している)によれば図 9 のようになる。これから理解できるように
(政策決定における)政治的影響力が大きいほど、選択・競争を選択する傾向にあり、現
在では住民の意向を呈したリーダーシップを通じた影響力の回路よりも首長または議会の
パワー・意向を反映しているとみなされる。
図9.政治の影響力と選択・競争対公正・標準
0
首長
議会
-0.05
-0.1
-0.15
-0.2
-0.25
-0.3
-0.35
大きい
やや大きい
中立的
やや小さい
注:データ数が 10 未満の回答区分は除外している。
2.行政運営の方針との関係
(1)人口規模
ガバナンス型と機能分担型のどちらを選択するかについては人口密度が高いほどガバナ
ンス型を選好する傾向があることが先行調査で確認されている。今回の調査は人口規模に
関するデータのみ尋ねているので、人口規模との関係を見てみる。その結果は、図 10 に示
すように人口規模が高まるにしたがいガバナンス型を選好する(ガバナンス型、つまり協働
型を選択するほど数値は大きくなり、最大 2、最小‐2 である)。一定の人口規模になると住
民にも責任を負担してもらわないと行政が運営できないのかもしれない。
図10.人口規模と協働対機能分担の関係
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
1万未満
1-3万
3-5万
5-10万
10-20万
20万以上
協働対機能分担
(2)財政規模
財政規模と行政運営の原理との関係も人口規模と財政規模が強い相関にあるため、規模の
拡大にしたがい協働型を選好すると想定される。実際、図 11 に示すように財政規模が大き
くなるに伴い協働型を選択する傾向が確認される。
図11.財政規模と協働対機能分担の関係
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
50億未満
50-100
100-200
200-500
500-1000
1000億以上
協働対機能分担
(3)国と地方の役割分担
地方財政の考え方にもつながる国と地方の役割分担について、行政運営の原理との関係を
みてみる。国と地方の政府間関係の在り方と自治体経営における行政と住民との関係は次
元が異なるものの、ここでは首長の意見を尋ねているので、政府関係の見方と行政運営の
考え方がどう関係しているか(関係していないか)を確認する。その結果は図 12 に示すよ
うであり、理論的に想定されていたように明確な関係は見出されない。政府間関係の要因
が行政と住民の関係を規定することはないようである。
図12.国と地方の関係と協働対機能分担
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
補完性原理
残余原理
条件環境原理
その他
協働対機能分担
(4)住民の役割
行政運営の原理は協働型対機能分担型の選択であり、そこでの住民の位置づけは選択・競
争対公正・標準とは異なる軸がある。協働型はその名の通り住民の協働者としての役割を
重視するのに対し、機能分担型は住民が要望を的確に出すという点で発言する顧客の性格
を有する。もっとも、対価を負担する民間財の顧客と異なる点に留意しなければならない。
受益者、負担者、顧客及び協働者としての位置づけへの認識と行政運営の原理との関係を
見たの
が図 13 である。これから理解できるのは行政運営の原理として協働型を志向する首長ほど
住民を受益者、負担者及び協働者とみることに肯定的なことである。そして行政運営の原
理と住民を顧客とみることには明確な関係を見出せなかった。NPM は協働型でも機能分担
型とも異なるから顧客とみることへの肯定感と行政運営の原理にもともと関係はないとも
考えられる。いずれにせよ、住民を協働者とみることは論理的に当然であるが、受益者及
び負担者として見ることと協働型が調和的であって対立するものでないと首長はみなして
いることは興味深い。ガバナンス論(new public governance; NPG やポスト NPM)と NPM
が相互に対立するのでなく補完的な関係という理論的・実証的な先行研究が我が国でも成
立する可能性を示唆している。
図13.住民の位置づけと協働対機能分担
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
受益者
そう思う
負担者
ややそう思う
顧客
どちらでもない
協働者
あまりそう思わない
そう思わない
(5)首長と議会の影響力
行政運営の原理のうち協働型は住民と行政が一緒に問題解決に取り組んでいくものであり、
機能分担型は住民の要望を聴くスタイルである。その意味で政治家の関与はどちらを選択
するかで変わってくると思われる。現実に首長と議会の政策決定への影響力と行政運営の
原理の関係を整理したものが図 14 である。
図 14. 政治家の影響力と行政運営の原理
1.2
1
1.129
0.997
0.892
0.887
0.922
0.8
0.6
0.595
0.4
0.2
0
首長
大きい
議会
やや大きい
中立的
注:データ数が 10 未満の回答区分は除外している。
やや小さい
0.861
この図からわかるように首長の政策決定への影響力が大きいほど協働型の行政運営の原
理を選択している傾向がある。議会については明確な関係はない。政治的影響力や指導力
は住民と協働で行政を進めていく姿勢よりも行政への要望を聴いて実現していく姿勢(機
能分担型)と整合的な印象を受ける。しかし、協働型の実現には対話力とともに政治的な
影響力を持った首長の方が取り組んでいるといえる。
(6)地方財政の運営原理
地方財政の運営原理である選択・競争対公正・標準と行政運営の原理の協働対機能分担の
関係は、いずれも NPM やポスト NPM を代表する構成要素である。したがって、両者の原
理同士に緊張関係があれば、NPM とポスト NPM も緊張・競合関係にあることになる。前
述したように NPM とポスト NPM は緊張関係と補完関係の双方がある。今回のアンケート
調査で両者の関係をみたのが図 15 である。全体的には選択・競争を志向するほど協働型の
行政運営を採択しているとしており、対立関係というより協調関係にあるといえる。つま
り、我が国の首長の政策として選択・競争志向と協働志向は概念的には異なるものの理念
的には同じ方向と認識されているとみなされる。理念的には矛盾する可能性がある側面が
両立しているのが日本の地方政府の実像かもしれないし、そのことが我が国の NPM 改革及
びポスト NPM 改革が不透明ながら継続している理由かもしれない。
図15.協働型志向性と選択・競争対公正・標準
1.8
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
甲に近い
やや甲に近い
どちらともいえない
やや乙に近い
乙に近い
注:甲は選択・競争、乙は公正・標準であり、数値は協働型になるほど大きくなる(最大 2、
最小‐2)。
Ⅲ.個別分析
子どもに関わる政策(少子化対策・教育)を政策課題としてあげた自治体に関する分析
1.少子化対策を行政課題に挙げる自治体の特徴
本節では、行政課題として少子化対策を挙げた自治体に焦点を当てて、その特徴を示す。
アンケートにご回答いただいた 1122 自治体のうち、少子化対策を行政課題の第 1 位に挙げ
た自治体数は、198、第 1 位から第 3 位までに挙げた自治体数は 527 であった1。なお、分母
は 1122 である。また、本章で用いた人口や財政に関する情報は、平成 22 年国勢調査および
平成 24 年度市町村別決算状況調査に基づいている。
1.1
人口構成
(1)人口規模
人口が 1 万人未満および 50 万人以上の自治体において、過半数の自治体が行政課題に少
子化対策を挙げている。相対的に人口規模の小さな自治体においては、人口動態面での持
続可能性を確保する必要性から少子化対策が課題となっている一方で、大規模な自治体に
おいては、保育所待機児童の解消に向けた保育所の整備など、子育て環境の整備について
住民の需要へ対応していくことが課題になっていると予想される。なお、自治体の人口規
模と少子化対策を行政課題認識に挙げるか否かとの関係について、カイ二乗検定を用いて
検定した結果、人口規模の小さな自治体ほど少子化対策を行政課題に挙げる傾向にあるこ
とが示された2(n=1102、df=5、p<.01)
。
図 1.行政課題認識と人口規模
1
ここで示した値は、行政課題の第 1 位から第 3 位までのそれぞれに対して、複数の行政課題を
回答した自治体を除いたものである。第 1 位から第 3 位までの行政課題について複数回答をした
自治体も含めると、少子化対策を第 1 位に挙げた自治体数は 200、第 1 位から第 3 位までに挙げ
た自治体数は 532 となる。本章の分析には複数回答をした自治体も含めている。
2
図 1 に示したように人口を 11 段階に区切ってカイ二乗検定を行うと、一部のセルで期待度数
が 5 未満となり、過度に 2 変数の関連が示される恐れがあるため、人口を 6 段階に区切ってカイ
二乗検定を行った。なお、人口の区切り方は「5 千人未満」「5 千人以上 1 万人未満」
「1 万人以
上 3 万人未満」
「3 万人以上 5 万人未満」
「5 万人以上 10 万人未満」
「10 万人以上」の 6 段階であ
る。
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
32
36
68
138
88
110
41
41
84
137
76
74
68
31
16
14
21
11
2
5
4
5
行政課題第1-3位に「少子化対策」を含まない
行政課題第1-3位に「少子化対策」を挙げている
(2)人口増加率
2005 年から 2010 年にかけての人口増加率が負になっている自治体ほど、行政課題に少子
化対策を挙げる割合が高くなっている。特に人口増加率がマイナス 10%未満であった自治
体では 58.0%の自治体が行政課題に少子化対策を挙げている。人口規模の縮小は自治体の存
続にかかわる問題であり、人口増加率が負になっている自治体においては、若年世帯の呼
び込みおよび将来的な人口増加を目的とした少子化対策への取り組みが喫急の課題になっ
ていると考えられる。なお、自治体の人口増加率と少子化対策を行政課題に挙げるか否か
との関係について、カイ二乗検定を行った結果、有意差が認められた(n=1102、df=4、p<.001)
。
図 2.行政課題認識と人口増減率
100%
80%
37
161
60%
40%
20%
0%
51
208
202
181
148
36
69
9
行政課題第1-3位に「少子化対策」を含まない
行政課題第1-3位に「少子化対策」を挙げている
(3)自治体の総人口に占める 15 歳未満人口および 65 歳以上人口の割合
自治体の総人口に占める 15 歳未満人口の割合が低い自治体ほど、行政課題に少子化対策
を挙げる割合が高くなっている(図 3)。総人口に占める 15 歳未満人口の割合が 10%未満の
自治体においては、59.3%の自治体が少子化対策を行政課題に挙げている。なお、自治体の
総人口に占める 15 歳未満人口の割合と、少子化対策を行政課題に挙げるか否かとの関係に
ついて、カイ二乗検定を用いて検定を行った結果、有意差が認められた(n=1096、df=4、p
<.001)
。
一方、自治体の総人口に占める 65 歳以上人口の割合が高い自治体ほど、行政課題に少子
化対策を挙げる割合が高くなっている(図 4)
。高齢者人口の割合が 30%以上を占める自治
体では過半数が少子化対策を課題に挙げており、高齢者人口の割合が 40%以上の自治体で
は、62.3%の自治体が行政課題に挙げている。少子高齢化の進んでいる自治体で少子化対策
が行政課題に挙げられている様子がうかがえる。自治体の総人口に占める 65 歳以上人口の
割合と少子化対策を行政課題に挙げるか否かとの関係についても、カイ二乗検定によって
有意差が認められた(n=1099、df=5、p<.001)
。
図 3.行政課題認識と自治体の総人口に占める 15 歳未満人口の割合
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
50
73
116
223
151
195
146
46
75
21
行政課題第1-3位に「少子化対策」を含まない
行政課題第1-3位に「少子化対策」を挙げている
図 4.行政課題認識と自治体の総人口に占める 65 歳以上人口の割合
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
78
24
180
153
99
52
20
129
141
130
60
33
行政課題第1-3位に「少子化対策」を含まない
行政課題第1-3位に「少子化対策」を挙げている
1.2
財政的特徴
財政力指数が低い自治体ほど、少子化対策を行政課題に挙げる割合が高くなっている。
財政力指数と少子化対策を行政課題へ挙げるか否かの関係についてカイ二乗検定を行った
結果、有意差が認められた(n=1102、df=5、p<.001)。図 5 より、財政力指数が 0.6 未満の
自治体においては、過半数の自治体が少子化対策を行政課題に挙げている。相対的に財政
力指数が低い自治体において、多くの自治体が少子化対策を行政課題に挙げていることは、
自治体の財政を維持・安定させていくための打開策としても少子化対策が認知されている
可能性が考えられる。
なお、10 年後の財政状況に対する捉え方と行政課題に少子化対策を挙げるか否かについて、
特定の関係は観察されなかった。10 年後の財政状況を楽観的に捉えているか悲観的に捉え
ているかに関わらず、4 割から 5 割の自治体が行政課題として少子化対策を挙げていた。
図 5.行政課題認識と財政力指数
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
72
84
157
166
121
105
123
90
99
30
41
14
行政課題第1-3位に「少子化対策」を含まない
行政課題第1-3位に「少子化対策」を挙げている
1.3
自治体の政策対応と少子化対策に関する行政課題認識の関係
本節では、自治体の政策対応と少子化に対する行政課題認識との関連について示す。結
論から述べると、自治体が行財政運営において重視する価値観と、行政課題として少子化
対策を挙げるか否かについて、特定の関係は観察されなかった。少子化対策については、
行政運営の在り方に関わらず、自治体が抱える人口構成および財政状況を維持していくう
えでの危機感から行政課題に挙げられている様子がうかがえる。
(1)地方財政の運営において重視する価値観
図 6 は、地方財政の在り方として、選択・競争を重視する考え方と公平やナショナルス
タンダードの確保を重視する考え方との間でどちらを重視して運営にあたっているかとい
う質問項目と、行政課題として少子化対策を挙げたか否かについてのクロス集計を行った
結果を示したものである。
「公正・標準に近い」「やや公正・標準に近い」と回答した自治
体の方が「選択・競争に近い」
「やや選択・競争に近い」と回答した自治体に比べて、若干
少子化対策を行政課題に挙げる自治体の割合が高くなっているが、統計的関連が観察され
るほどの差異ではなかった。少子化対策については、自治体間競争を意識した自治体が、
住民に選ばれる自治体を目指して取り組むことも考えられうる。しかし図 7 からは、選択・
競争を重視する自治体と、少子化対策を行政課題に挙げるか否かについての関連は確認さ
れなかった。
図 6.自治体の財政運営において重視する価値観と行政課題認識
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
18
9
131
220
181
39
102
202
182
34
行政課題第1-3位に「少子化対策」を含まない
行政課題第1-3位に「少子化対策」を挙げている
(2)自治体の行政運営における方針と住民に求める役割
図 7 は、自治体の行政運営方針と、行政課題として少子化対策を挙げたか否かについて
のクロス集計の結果である。なお、アンケートでは、「甲」が「身近な地域の課題について
は、住民自らが責任を負いながら行政と協働して主体的に解決していくことが重要」、
「乙」
が「身近な地域の課題についても、行政の責任で解決すべきものが多く、住民はきちんと
要望を出していくことが重要」となっている。自治体の行政運営に関する方針と、行政課
題として少子化対策を挙げたか否かについては、図 8 に示したように特定の関係は確認さ
れなかった。
また、図 8 は、首長から捉えた、あるべき住民の位置づけ・役割を示したものである。
行政課題に少子化対策を挙げるか否かにかかわらず、協働者としての役割を望む割合(「そ
う思う」
「ややそう思う」の計)が最も高くなっており、約 9 割の自治体が住民の協働を望
んでいる様子がうかがえる。
少子化対策は官民一体として取り組む必要があり、行政課題として少子化対策を挙げる
か否かに関わらず、行政の運営方針や住民に期待する役割が極端な差異は観察されなかっ
た。
図 7.自治体の行政運営方針と行政課題認識
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
183
279
76
47
147
257
65
53
3
7
行政課題第1-3位に「少子化対策」を含まない
行政課題第1-3位に「少子化対策」を挙げている
図 8.住民の位置づけ・役割(理想)と行政課題認識
100.0%
90.0%
80.0%
70.0%
60.0%
50.0%
40.0%
30.0%
20.0%
10.0%
0.0%
80.5% 82.5%
91.0% 89.5%
76.0% 73.4%
58.2% 55.7%
受益者
負担者
顧客
行政課題第1-3位に「少子化対策」を含まない
行政課題第1-3位に「少子化対策」を挙げている
協働者
2.教育を行政課題に挙げる自治体の特徴
本節では、行政課題として教育を挙げた自治体における人口構成・財政状況等の特徴を
示す。アンケートにご回答いただいた 1122 自治体のうち、教育を行政課題の第 1 位に挙げ
た自治体数は 35、第 1 位から第 3 位のいずれかに挙げた自治体数は 192 であった。なお、
本章で用いた人口や財政に関する情報は、平成 22 年度国勢調査および平成 24 年度市町村
別決算状況調査に基づいている。
2.1
人口構成
(1)人口規模
図 1 には、人口規模と行政課題に教育を挙げるか否かの関係を示した。50 万人以上 100
万人未満の自治体において教育を行政課題に挙げた自治体は 0 となっているものの、概ね
自治体の人口規模が大きいほど、行政課題に教育を挙げる割合が高くなる傾向にある。自
治体の人口規模と教育を行政課題認識に挙げるか否かとの関係について、カイ二乗検定を
用いて検定した結果、有意差が確認された3(n=1102、df=5、p<.05)
。
図 1.行政課題認識と人口規模
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
2
67
66
131
228
140
148
71
25
25
10
4
6
11
21
47
24
行政課題第1-3位に「教育」を挙げている
36
28
5
7
0
行政課題第1-3位に「教育」を含まない
(2)人口増加率
3
図 1 に示したように人口を 11 段階に区切ってカイ二乗検定を行うと、一部のセルで期待度数
が 5 未満となり、過度に二変数の関連が示される恐れがあるため、人口を 6 段階に区切ってカイ
二乗検定を行った。人口の区切り方は「5 千人未満」
「5 千人以上 1 万人未満」「1 万人以上 3 万
人未満」
「3 万人以上 5 万人未満」「5 万人以上 10 万人未満」「10 万人以上」の 6 段階である。
2005 年から 2010 年にかけての人口増加率が高い自治体ほど、行政課題に教育を挙げる自
治体の割合が高くなっている。人口増加率と行政課題に教育を挙げるか否かの関係につい
て、カイ二乗検定を行ったところ、有意差が確認された(n=1102、df=4、p<.001)
。
特に人口増減率がプラスになっている自治体において 2 割以上の自治体が教育を行政課
題に挙げている。この背景には、若年世帯の人口流入が高い自治体において、住民の需要
に応え、教育を行政課題に挙げる自治体が多くなっていること、もしくは教育政策を自治
体の行政課題として取り組むことで人口流入が進んでいる可能性が考えられる。
図 2.行政課題認識と人口増減率
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
82
326
314
157
34
6
43
69
60
11
行政課題第1-3位に「教育」を含まない
行政課題第1-3位に「教育」を挙げている
(3)自治体の総人口に占める 15 歳未満人口および 65 歳以上人口の割合
自治体の総人口に占める 15 歳未満人口の割合が高い自治体ほど、行政課題に教育を挙げ
る自治体の割合が高くなっている(図 3)
。15 歳未満人口の割合が 10%未満の自治体では、
教育を政策課題に挙げる自治体の割合が 8.9%であるのに対し、14%以上の自治体では 2 割
を超える自治体が教育を行政課題に挙げている。自治体の総人口に占める 15 歳未満人口の
割合と、教育を行政課題に挙げるか否かとの関係について検定を行ったカイ二乗検定の結
果からも有意差が認められた(n=1096、df=4、p<.005)
。
一方、自治体の総人口に占める 65 歳以上人口の割合が低い自治体ほど、行政課題の第 1
位から第 3 位に教育を挙げる自治体の割合が高くなっている(図 4)。子どもを持つ若年世
帯の割合が多い自治体において教育政策が行政課題となっている様子がうかがえる。自治
体の総人口に占める 65 歳以上人口の割合と教育を行政課題に挙げるか否かとの関係につい
ても、カイ二乗検定によって有意差が認められた(n=1099、df=5、p<.001)
。
図 3.行政課題認識と自治体の総人口に占める 15 歳未満人口の割合
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
112
233
344
166
53
11
34
74
55
14
行政課題第1-3位に「教育」を挙げている
行政課題第1-3位に「教育」を含まない
図 4.行政課題認識と自治体の総人口に占める 65 歳以上人口の割合
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
74
237
252
198
101
48
28
72
42
31
11
5
行政課題第1-3位に「教育」を挙げている
行政課題第1-3位に「教育」を含まない
2.2
財政的特徴
(1)財政力指数
財政力指数が高い自治体ほど行政課題に教育を挙げる自治体の割合が高くなっている。
特に財政力指数が 0.6 以上の自治体においては、2 割を超える自治体が教育を行政課題に挙
げている。財政力指数と教育を行政課題認識に挙げるか否かとの関係について検定を行っ
たカイ二乗検定の結果からも、有意差が認められた(n=1102、df=5、p<.005)
。
今回の調査からは、教育を行政課題に挙げている自治体が具体的にどのような施策へ取
り組んでいるのかを把握することはできないが、財政的に余裕があって教育を行政課題と
する自治体では、少人数学級や学力向上政策のための教員の独自雇用等、一定の財源を必
要とする独自施策へ取り組んでいる可能性が考えられる。
図 5.行政課題認識と財政力指数
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
140
277
207
153
102
34
16
46
37
42
38
10
行政課題第1-3位に「教育」を挙げている
行政課題第1-3位に「教育」を含まない
(2)10 年後の財政力指数
10 年後の財政力指数を楽観視している自治体ほど、行政課題に教育を挙げる自治体の割
合が高くなっている。10 年後の財政予測と教育を行政課題認識に挙げるか否かとの関係に
4
ついて、カイ二乗検定を用いて検定した結果、有意差が認められた(n=1096、
df=4、p<.05)
。
10 年後の財政力指数について、
「悪化している」「やや悪化している」と回答した自治体
では 15%前後の自治体が行政課題に教育を挙げているのに対し、「変わらない」「やや改善
している」
「改善している」と回答した自治体では、2 割以上の自治体が行政課題に教育を
4
カイ二乗検定の結果、有意差は確認されたが、1 つのセルにおいて期待度数が 5 未満を示して
いた。このことは、今回の調査で回答を得られなかった自治体から回答を得られた場合、結果が
変動する可能性があることを意味しており、留意が必要である。
挙げている。財政力指数と合わせて検討すると、財政状況を楽観視できる自治体において
教育が行政課題に挙げられる傾向にあることを指摘できよう。
図 6.行政課題認識と 10 年後の財政力指数
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
229
481
98
86
15
39
86
30
27
5
行政課題第1-3位に「教育」を含まない
2.3
行政課題第1-3位に「教育」を挙げている
自治体の政策対応と教育に関する行政課題認識の関係
本節では、自治体の政策対応と教育に対する行政課題認識との関連について示す。
(1)地方財政の運営において重視する価値観
図 7 は、地方財政の在り方として、選択・競争を重視する考え方と公平やナショナルス
タンダードの確保を重視する考え方との間でどちらを重視して運営にあたっているかとい
う質問項目と、行政課題として教育を挙げたか否かについてのクロス集計を行った結果を
示したものである。選択・競争を重視する自治体の方が公正・標準を重視する自治体に比
べて、行政課題に教育を挙げる割合が高くなっている。行政課題に教育を挙げた自治体は
「選択・競争に近い」で 37.0%、
「やや選択・競争に近い」で 23.6%だったのに対し、
「やや
公正・標準に近い」では 14.3%、
「公正・標準に近い」では 12.3%となっている。なお、重
視する価値観と教育を行政課題に挙げるか否かの関係について検定を行ったカイ二乗検定
の結果においても、有意差が確認された5(n=1118、df=4、p<.01)
。選択・競争を重視し、
住民に選ばれることを意識している自治体、もしくは市場原理を政策に導入することを志
向し、成果や効率性を追究する首長がいる自治体において、教育政策が行政課題として取
5
カイ二乗検定の結果、有意差は確認されたが、1 つのセルにおいて期待度数が 5 未満を示して
いた。このことは、今回の調査で回答を得られなかった自治体から回答を得られた場合、結果が
変動する可能性があることを意味しており、留意が必要である。
り組まれている可能性が考えられる。
図 7.自治体の財政運営において重視する価値観と行政課題認識
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
17
10
178
357
311
64
55
65
52
9
行政課題第1-3位に「教育」を含まない
行政課題第1-3位に「教育」を挙げている
(2)自治体の行政運営における方針と住民に求める役割
図 8 は、自治体の行政運営方針と、行政課題として教育を挙げたか否かについてのクロ
ス集計の結果である。なお、アンケートでは、「甲」が「身近な地域の課題については、住
民自らが責任を負いながら行政と協働して主体的に解決していくことが重要」、
「乙」が「身
近な地域の課題についても、行政の責任で解決すべきものが多く、住民はきちんと要望を
出していくことが重要」となっている。
前節で示したように、市場原理を重視する自治体において教育が行政課題に挙げられる
割合は高くなっていた。市場原理は自己責任論と関係が深い。消費者の自己責任を重視す
るならば、行政の責任を強調した乙よりも住民の主体性を重視する甲を選択する自治体に
おいて教育を行政課題に挙げる割合が高まると考えられる。しかし、図 8 からは、自治体
の行政運営方針と、行政課題認識との特定の関連を確認することはできなかった。
また、首長が理想とする住民の位置づけ・役割について、図 9 に示した。行政課題に教
育を挙げる自治体の 91.2%が住民を協働者としての役割を期待しているものの、行政課題に
教育を含めない自治体との差はほとんどなかった。
図 8.自治体の行政運営方針と行政課題認識
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
273
441
123
80
9
57
95
18
20
1
行政課題第1-3位に「教育」を含まない
行政課題第1-3位に「教育」を挙げている
図 9.住民の位置づけ・役割(理想)と行政課題認識
100.0%
90.0%
80.0%
70.0%
60.0%
50.0%
40.0%
30.0%
20.0%
10.0%
0.0%
82.5%
90.1% 91.2%
76.7%
75.9%
69.4%
57.1% 57.0%
受益者
負担者
顧客
行政課題第1-3位に「教育」を含まない
行政課題第1-3位に「教育」を挙げている
協働者
(3)政策決定に関わるアクターの影響力
図 10 は、首長に対して政策決定に関わる各アクターの影響力の大きさをたずねた質問項
目と、行政課題に教育を挙げたか否かについてのクロス集計から得られた結果である。
行政課題に教育を挙げた自治体では、教育を挙げなかった自治体に比べ、議会および関
係団体の影響力に対して評価すると回答した割合(「大きい」「やや大きい」の計)が 10 ポ
イント近く低くなっている。日本の地方政治では首長と議会の二元代表制が採用されてい
るにもかかわらず、教育を行政課題に挙げる自治体において、議会の影響力を評価しない
首長が多いということは、政策決定において首長の影響力・リーダーシップが強い自治体
が教育を行政課題に挙げやすい可能性が指摘できる。
図 10.政策決定に関わるアクターの現時点での影響力
100.0%
90.0%
80.0%
70.0%
60.0%
50.0%
40.0%
30.0%
20.0%
10.0%
0.0%
96.2%
95.8%
78.1%
68.1%
71.2%
57.8%
59.2%
62.7%
63.7%
47.7%
68.3%
38.6%
18.5%
12.6%
首長
議会
担当部局
国
関係団体 市民有権者 隣接自治体
行政課題第1-3位に「教育」を挙げていない
行政課題第1-3位に「教育」を挙げている
3.おわりに
少子化対策を行政課題に挙げる自治体については、行財政運営に関する首長の方針など
政治・行政に関わる項目について、少子化対策を行政課題に挙げなかった自治体との回答
の差は確認されず、人口構成や財政状況などをめぐる差異が確認された。しかし、教育政
策に関しては、人口構成・財政状況のほか、行財政運営をめぐって首長が重視する価値観
や、各アクターの影響力についても、教育政策を行政課題に挙げなかった自治体と回答の
差異があることが確認され、教育を行政課題に挙げる自治体は、首長のリーダーシップや
意向が反映されていることが考えられる。
(付録)アンケート調査票
自治体行政運営(経営)に関するアンケート調査のご依頼
平成 26 年 1 月 15 日
○○ 市市長
○○ ○○ 様
拝啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
さて、このたび私ども、経営学、財政学、行政学、公共経済学、地域政策・地域医療・
教育行政等各分野の研究者が学際的に集まり、地方自治体の政策意思決定と行政運営(経
営)のあるべき姿について4年間にわたり研究を行うこととなりました。
本研究の名称は「行政改革のインパクトとポスト NPM への展開に関する総合的研究」と申し、
今年度から文部科学省から科学研究費補助金(基盤研究(A)課題番号 25245025)の助成対象とな
っております。研究メンバーは以下のとおりです。
田尾雅夫(京都大学名誉教授、愛知学院大学教授)
宮川公男(一橋大学名誉教授、統計研究会会長)
井堀利宏(東京大学教授)
工藤裕子(中央大学教授)
山本 清(東京大学教授)
佐藤 徹(高崎経済大学教授)
大山耕輔(慶応大学教授)
土居丈朗(慶応大学教授)
伊関友伸(城西大学教授)
秋吉貴雄(中央大学教授)
吉田 浩(東北大学教授)
青木栄一(東北大学准教授)
研究初年度の今年は、まずは、地方自治体の運営(経営)の先頭に立っておられる各市
町村長のお考えを伺うことから着手することとしました。そこで、貴市町村長にも別添の
アンケートによりご意見をお聞きしたいと考えております。
アンケートのご回答につきましては、守秘義務を厳守し、本研究の目的以外には使用しないこ
とを確約致します。どうか、市長・町村長ご自身の忌憚のないご意見をお述べ下さるようお願い
致します。
ただでさえお忙しい市長・町村長に年度末を控えた時期に煩わしいお願いをすることとなり、
まことに恐縮に存じますが、地方自治のさらなる新展開をめざしての研究であることに格段のご
配慮を賜りまして、調査へのご協力のほど何卒よろしくお願い申し上げます。
末筆となりましたが、貴自治体の今後ますますのご発展を祈念しております。
敬具
研究代表者
田尾
雅夫
追伸 ご回答は本年1月○○日(消印有効)までに同封の返信用封筒にて御返信下さい。ご不明
の点については、事務局担当者(一般財団法人統計研究会(渡邊)TEL. 03-3591-8496 Fax.
03-3595-2220)までお問い合わせ下さい。
行政運営の方針と実態に関するアンケート
1 行政課題
(1) 貴自治体において現在の行政課題として認識されているもので、重要な項目をもっとも重要な順に下記から 3 つ
選択してください。
1.財政の健全化・安定化
2.他の自治体との合併・連携
4.少子化対策
7.教育
10.保健・医療
12.その他(具体的に:
5.防災・防犯
8.高齢・福祉・障害者対策
11.環境
第1位
3.人事制度の見直し・
職員能力の向上
6.地域コミュニティの崩壊
9.地域経済の活性化
)
第2位
第3位
2 財政運営
(1)
10 年後の貴自治体の財政予測について、該当する番号に○をつけてください。
1.悪化している 2.やや悪化している
(2)
3.変わらない
4.やや改善している
5.改善している
その原因は次のうちどれによるとお考えですか。該当する項目を影響度の順に 3 つ選択してください。
1.地方税収の増減
4.社会福祉関連経費の増減
7.財政運営に関する住民等の
監視
10.人件費(退職金を含む)
の増減
13.その他(具体的に:
第1位
2.地方交付税の増減
5.公共事業費の増減
8.病院・水道・交通など地方
公営企業への操出の増減
11.受益者負担(使用料等)
の適正化
3.国庫補助金・負担金の増減
6.防災対策の経費の増減
9.第三セクター・出資法人等
に対する不良債権処理
12.公債費負担の増減
)
第2位
第3位
(3) 国と地方との役割分担はどのような関係が望ましいとお考えですか。以下の項目からもっとも該当する番号 1
つに○をつけてください。
(1) 補完性の原理(事務事業の分担は、まず基礎的な自治体が、次いで広域自治体を優先し、広域
自治体にも適さない事業のみを国が担うべしという考え方)にしたがい分担すべきである。
(2) 国が全体の公共福祉(国民生活の維持向上)の観点から担うべき領域を決定し、残りは自治体
に委ねるべきである。
(3) 条件・環境に応じて分担すべきである。
(4) その他(具体的に:
)
(4)
貴自治体の財源構成(普通会計)について、現状に比べ、以下のどの項目の構成比率を増やす方がよいと思わ
れますか。該当する番号 1 つに○をつけてください。
1.地方税
2.地方交付税
3.国庫支出金
4.地方譲与税
5.地方債
6.使用料等
3 合併に対する評価
(1)
平成の大合併についてお聞きします。その時、貴自治体は合併されましたか。
1.合併した
(2)
2.合併しなかった
(1)で「合併した」と回答された方にのみ伺います。平成の大合併についてどのように評価されますか。該当す
る番号に○をつけてください(複数可)。
1. 経費の節減になった
2. 政策形成能力が上 3. 広 域 行 政 が 可 能 に 4. サ ー ビ ス 水 準 が 向
がった
なった
上した
6. 政策形成能力が下 7. 広 域 行 政 が 可 能 に 8. サ ー ビ ス 水 準 が 低
がった
ならなかった
下した
5. 経費の増嵩になった
4 地方財政健全化法について
(1) 地方財政健全化法が平成 20 年度決算から適用されていますが、これについてどのように評価されていますか。当
てはまるもの 1 つに○をつけてください。
1.高く評価する
4.あまり評価しない
2.やや評価する
5.評価しない
3.どちらともいえない
5 貴自治体の政策対応について
(1)
地方財政のあり方の議論として、選択と競争を重視する考え方と、公平とナショナルスタンダードの確保を重
視する考え方の両軸があります。貴自治体は下記のうちどれに最も近い形で運営しておられますか。当てはま
るものに○をつけてください。
甲に近い
(甲)選択・競争
1
やや
甲に近い
2
どちらとも
いえない
3
やや
乙に近い
4
乙に近い
5
公正・標準(乙)
(2)
自治体の行政運営について貴自治体の方針は次の記述のうちどれに最も該当しますか。該当する番号に○をつ
けてください。
(甲)
身近な地域の課題に
ついては、住民自ら
が責任を負いながら
行政と協働して主体
的に解決していくこ
とが重要
甲に近い
1
やや
甲に近い
どちらとも
やや
いえない 乙に近い
2
3
4
乙に近い
(乙)
5
身近な地域な課題に
ついても、行政の責
任で解決すべきもの
が多く、住民はきち
んと要望を出してい
くことが重要
(3) 1990 年代以降、わが国の自治体においても民間的経営手法や市場原理の活用などを図る動きが生まれ、最近では
その見直しもなされてきています。地方自治で住民は主権者でありますが、同時に多様な位置づけが可能で、改
革の動きもその位置づけをどうするかに関連しています。住民の下記のそれぞれの位置づけ・役割に関して貴自
治体の実態と思われるもの一つに○をつけてください。
そう思う
受益者
負担者
顧客
パートナー(協働者)
1
1
1
1
やや
そう思う
2
2
2
2
どちらでも
ない
3
3
3
3
あまり
そう思わない
4
4
4
4
そう
思わない
5
5
5
5
(4) 次にご自身の政策方針として、住民の下記の位置づけ・役割はどうあるべきと考えておられますか?それぞれ最
も近いもの一つに○をつけてください。
そう思う
受益者
負担者
顧客
パートナー(協働者)
1
1
1
1
やや
そう思う
2
2
2
2
どちらでも
ない
3
3
3
3
あまり
そう思わない
4
4
4
4
そう
思わない
5
5
5
5
6 政策決定について
(1) 自治体の重要な政策決定にあたり、現時点で誰の影響力が大きいかについてお尋ねします。ご自身を含めそれぞ
れの者の影響力の程度について最も該当する水準に○をつけてください。
大きい
首長
議会
担当部局
国(府省)
関係団体
市民・有権者
隣接自治体
1
1
1
1
1
1
1
やや
大きい
2
2
2
2
2
2
2
中立的
3
3
3
3
3
3
3
やや
小さい
4
4
4
4
4
4
4
小さい
5
5
5
5
5
5
5
(2) 次に、ご自身が望ましいと考えられるそれぞれの者の影響力の程度について最も該当する水準に○をつけてくだ
さい。
大きい
首長
議会
担当部局
国(府省)
関係団体
市民・有権者
隣接自治体
1
1
1
1
1
1
1
やや
大きい
2
2
2
2
2
2
2
中立的
3
3
3
3
3
3
3
やや
小さい
4
4
4
4
4
4
4
小さい
5
5
5
5
5
5
5
7 基本情報(フェイスシート)
人口(住民基本台帳の平成 25 年 11 月末現在)
財政規模(平成 23 年度決算カード)
人
千円
以上で終了です。ご多忙中のところ長時間にわたりありがとうございました。
なお、本アンケートの結果についてご希望の自治体には後日結果を郵送させていただきます。
ご希望の場合は下記にご連絡先をご記入ください。
ご連絡先(自治体名・担当部局名)
首長のお名前または担当者名