ミネルバ書房の本の CDと協力隊に関する章の図

青年海外協力隊と
キャパシティ・ディベロップメント
細野昭雄
(JICA研究所)
1.キャパシティ・ディベロップメントを
目指す協力
• 技術協力の目的は、開発課題に対する途上
国の自律的な課題対処能力(キャパシティ)
を、構築・強化し持続させるためにあるという
考え方は、キャパシティ・ディベロップメント
(Capacity Development. 以下CD) を目指す協
力として知られている
キャパシティ・ディベロップメント(CD)とは
• 途上国の課題対処能力が、個人、組織、社会など
の複数のレベルの総体として向上していくプロセス
として一般に定義される。 (OECD/DAC 2006、国連
等も同様の定義)
• その最大の特徴の一つは、CDの内発性の重視。
• キャパシティを外から構築するという意味での介入
を行うのが技術協力であるとの視点に対し、CDの視
点では、キャパシティは途上国自身による内発的な
プロセスであり、技術協力はそのプロセスに対して
触媒的な役割を果たすことを目指すものと考える
キャパシティ・ディベロップメントのプロセス
CD プロセスのス
ケールアップ
触媒(キャタライザー)としての
外部からのCDへのサポート
CD推進
の要因
CD推進
の要因
CD推進
の要因
CD推進
の要因
効果的に課題に取り組む
ための相互の学びあい
(Mutual learning)と革新
的解決法(Innovative
solutions)の創造
内発的CDの基礎: 自らの直面する課題に関する深い認識と
自ら行動する意欲・コミットメント・オーナーシップ
CDを可能にする環境 / CD のコンテクスト
Source: 筆者 (Hosono et al. 2011を参考に作成)
「日本の開発協力の良き伝統」
• 「相手国の自主性、意志および固有性を尊重
しつつ、現場主義にのっとり、対話と協働によ
り相手国に合ったものを共に創り上げていく
精神、さらには共に学び合い、開発途上国と
日本が相互に成長し発展する双方向の関係
を築いていく姿勢」
• (『開発協力大綱』2015年
協力隊のCDへの貢献
• 協力隊は、日本の協力の一端を担っただけ
でなく、その特徴を発揮するうえで、極めて重
要な役割を果たしてきた。協力隊員は、途上
国の人々と生活し、直面する問題に取り組む
人々に寄り添い、問題解決の新たな方法の
創造に寄与してきた。地元の人々と日々生活
を共にし、そのコミュニティや地方自治体など
を拠点として活動する協力隊員は、CDの触媒
となりうる条件をもっともそなえている。
2.中米・ドミニカ共和国算数プロジェクト
• 課題の認識:主体的な課題の認識、課題に取り組
むために行動する意欲、コミットメント、オーナーシッ
プ
• 協力隊の活動からスタート:小学校の現場に派遣さ
れた教員の経験を有する協力隊員が、ホンジュラス
の教員と協働する中で、算数教育改善の必要性を
痛感するに至るとともに、ホンジュラスの教員が、日
本の教員との交流を通じて、自らが直面する課題を
はっきりと認識するという、「相互学習と解決をめざ
す新たな取り組み」を現場で進めていくプロセスが
あった
教員の課題の認識
• 1998年に同国が初めて参加した中米・カリブ地域の
国際学力比較調査で、算数の成績が参加11ヵ国中
最下位だったことが、ホンジュラスの教育関係者に
大きなショックを与えたという背景もあった。これが、
ホンジュラス政府が算数教育に関する協力を日本
に要請する直接のきっかけとなった
政府(教
育省等)の課題の認識
• 課題への協働での取り組み
• ホンジュラスのプロメタムをはじめ、日本と現地政府
(教育省等)とからなるチームにより、課題解決に向
けた、新たな(innovative) なアプローチとして、教科
書編纂、教員用指導の手引書などの編纂が行われ
た。(グアテマラの場合はGuatematica)
政
府レベルのCD
• 学校現場での新たな教科書と教育法の普及には、
政府による研修に加え、学校に派遣された、協力隊
員の活動が大きく貢献
教員レベルのCD
• さらに、生徒には、協力隊員が教員を巻き込みつつ
「算数で考える力を育む」ことに尽力
児童生徒
のCD
• このような形での、各層のCDに、技プロの専門家と
チーム派遣の協力隊が連携して貢献
ホンジュラス共和国算数指導力向上プロジェ
クトフェーズ2実施体制
(プロジェクトにおける青年海外協力隊の貢献)
ホンジュラス共和国第2フェーズ
教育省
国立教育大学
合同調整委員長
教育技術担当
次官
成果1
教材改訂完了
●指導書・作業帳
の改訂
●FID課程算数指
導法講座指導案
集作成,FID・ノル
マル研修マニュア
ル作成
●FID数学教官・ノ
ルマル数学教員へ
の研修実施
●研究授業の実
施
●国レベル講師研
修の実施
成果4
算数教育関心向上
*1 INICE:国立教育実践研究所
*2 FID:国立教育大学基礎教
プロジェク
マネージャー
国立教育大学
学長
合同調整
副委員長
INICE*1
所長
JICA
ホンジュラス
事務所
チーフアドバイ
ザー
他4か国
算数技官
コアグループ
国際協力課
技官(1名)
教師教育課
技官(1名)
INICE技官
教官(1名)
(2名)
算数教育/業務
調整専門家
短期専門家
研修の実施
成果3
指導力向上
プロ目
指導力向上
上位目標
児童学力向
フィードバック等意見
国レベル講師
(現職教員研修)
FID数学教官/
12ノルマル校教
員
現職教員
教員養成課程
学生
1~6年生児童
1~6年生
将来児童
成果2
指導力向上
フィールド
調整員
JOCV
育教員養成課程
河隅さつき(2013):「算数大好き!」広域プロジェクト(Proyecto Regional “¡Me Gusta Matemática!” en
Centroamérica y El Caribe)関連各国現況とりまとめ資料
グアテマラ共和国算数指導力向上プロジェク
ト実施体制
グアテマラ共和国第1フェーズ
合同調整委員長
教育技術次官
JICA
グアテマラ
事務所
広域プロジェク
ト/チーフアドバ
イザー
プロジェクト調
整チーム/プロ
ジェクト専門家
算数教育専門
家(広域プロ
ジェクト)
プロジェクトコーディネータ
教育の質管理局
長
成果2-1
ドラフト完成
成果2-2
バリデーション完了
●指導書・作業帳の
グアテマラ化
●協力校からの
フィードバックの盛り
込み
成果1
能力向上
第一コアグループ
教育の質管理局
教員研修副局長
第二コアグループ
教員研修算数技
官
教育の質管理局
技術副局長
算数技官
(2名)
(3名)
プロ目
教材完成
バリデーション版学習帳・指
導書の配布研修の実施
パイロット県
バリデーション協力校
改善に関するフィー
ドバック等意見
JOCVが活動している協力県
における協力校
グアテマラ県内3県
4県
教育事務所
教育事務所
フィールド調整
員
上位目標
指導力向上
バリデーション
協力校
バリデーション
協力校
バリデーショ
ン
協力校
バリデーション
協力校
バリデーション
協力校
JOCV
(16校)
河隅さつき(2013):「算数大好き!」広域プロジェクト(Proyecto Regional “¡Me Gusta Matemática!” en
Centroamérica y El Caribe)関連各国現況とりまとめ資料
エルサルバドル共和国算数指導力向上プロ
ジェクト実施体制
エルサルバドル
プロジェクトディレクター
教育副大臣
JICA
エルサルバドル
事務所
広域プロジェクト
/チーフアドバイ
ザー
長期専門家
(算数教育/
業務調整)
算数教育専門
家(広域プロジェ
クト)
プロジェクトコーディネータ
全国教育局長
授業フォローアッ
プ部
●学習帳・指導書のエ
ルサルバドル化
●協力校からのフィー
ドバックの盛り込み
●高等教育教員養成
校教員に対する研修
の実施
コアグループ(G13)
成果1
能力向上
成果2
ドラフト完成・バリデーション実施
算数指導法に関す
る研修の実施
成果3
研修教材完成
G20
成果4
第1学年用形成評価ツール完成
教育開発部
プロ目
教材完成
指導主事課
(課長/技官)
教員研修課
(技官)
アカデミック課
(課長/技官)
(2名)
(4名)
(7名)
バリデーション版学習
帳・指導書の配布研修
改善に関する
フィードバック等
プロジェクト支
援チーム
バリデーション協力校
高等教育教員
養成校教員
上位目標
教員の算数指導力向
実験校7 校とその
フォローアップチー
ム(指導主事、運営
主事)
JOCV
河隅さつき(2013):「算数大好き!」広域プロジェクト(Proyecto Regional “¡Me Gusta Matemática!” en
Centroamérica y El Caribe)関連各国現況とりまとめ資料
協力隊員、教員と児童
• 日本の協力で作成された算数の教科書Guatemati
caは、2008年に国定教科書になっていたが、グアテ
マラ西部の小学校では、赴任当初ほとんど使われ
ていなかった。
• 研修会を重ねるにつれて、分かりやすく指導できる
Guatematicaの価値が見直され、全員の先生が使
うようになった。
• さらに、子供たちの反応も変わった。自分で考えて
問題を解く楽しさを知り、発言も増えてきた。
• (Mundi 2015年1月号より)
グアテマラで日本の協力で作成された算数教科書
(出典:河澄さつき氏)
ホンジュラスで日本の協力により作成された算数教科書
(出典:西方憲広氏)
教員への普及(例)
• 教員対象の研修会で、手作りの教材を使い
ながら小数点についてわかりやすく解説
• 授業が終わった教室で、教員が集まり、授業
を視察して気づいた点を話し合い表にまとめ
る
中米・ドミニカ共和国
広域協力プロジェクトへの発展
• 協力隊との連携は継続
• 各国の実情に合った取組が行われ、各国でも教科書の編纂
• 広域での経験の共有(広域研修)
• ホンジュラスでは、教材開発の重要性を認識した教育省が、
スペイン語や理科の教材を自ら作成(CDのさらなる進展)
• エルサルバドルでは、教育大臣に就任したカルロス・カンフラ
氏(数学者)は、JICAの協力を高く評価し、高校までの一貫し
た算数・数学教育を目指す新たなフェーズの協力が開始さ
れることとなった (CDのさらなる進展、スケールアップ)
年度(日本)
1980'
1990'
2000
2001
2002
LLECE 学力試験
広域研修/ワークショップ
第1回1996年実施
第1回広域W/S(3月)
第2回広域W/S(11月)
CECCへのJICA専門家の出席(11月)
2004
2005
第2回実施
(ホンジュ
ラス派遣専 日・中米サミット(8月)
門家の出
張により対 アドバンス本邦研修(10・11月)
応)
第1回広域研修(4・5月)
第1回本邦研修(6・7月)
第2回広域研修(4・5月)
2007
2008
第2回本邦研修(11・12月)
「算数大好
き!」広域
プロジェク
第2回報告書発表 ト
2006.042011.03
エルサルバドル
グアテマラ
ニカラグア
協力隊グループ
小学校教諭
1992年
小学校教諭
1996年
小学校教諭
活動展開
協力隊員派遣
和平合意
協力隊員派遣
和平合意
協力隊員派遣
1事前(1月)
マ
ド
ゥ
ー
ロ
政
権
(
国
民
党
個別専門
家,協力隊
JV/SV
個別専門
家(基礎教
算数指導力 育強化)20
向上プロジ 01.121中間(8月)
ェクト
2005.9
2003.42006.3
フ
ェ
ル
ナ
ン
デ
ス
政
権
2事前(6月)
)
セ
ラ
ヤ
政
権
1終了(9月)
2事前(10月)
(
ド
ミ
ニ
カ
解
放
党
個別専門
家(基礎教
育強化)20
05.102007.9
(
自
由
党
)
)
算数指導力
向上プロジ
ェクトフェ
ーズ2
2中間(11月)
2006.42011.3
第3回広域研修(4・5月)
第1回ボリビア研修(10月)
第3回本邦研修(11・12月)
第1回ホンジュラス研修(12月)
第4回広域研修(4・5月)
フ
ェ
ル
ナ
ン
デ
ス
政
権
個別専門
家(基礎教
育強化)20
07.102009.9
ミチェレティ政権
2009
(自由党)
第2回ボリビア研修(10月)
基礎教育第1サイクル算数指導・学習改善セミナー於ドミニカ共(3月) ロ
ボ
第5回広域研修(4月)
政
第24回ラテンアメリカ算数数学教育学会大会於グアテマラ(10月)
2終了(9月)
権
国際セミナー於ニカラグア(1月)
(
国
国際シンポジウム於ホンジュラス(2月)
民
党
2010
2011
(
ド
ミ
ニ
カ
解
放
党
基礎教育
強化
2011.112012.12
国際セミナー兼広域W/S於グアテマラ(9月)
基礎教育
数学教育
向上(?)
2013.042015.03
事前1(6月)
事前2(1・2月)
(
国
民
大
連
合
ボ
ラ
ー
ニ
ョ
ス
政
権
協力隊チー
ム派遣
(初等教育
算数科学力
プロジェクト)
2003.102006.03
(
立
憲
自
由
党
)
終了時(2月)
(
ド
ミ
ニ
カ
解
放
党
事前2(11月)
事前(1月)
教育の質
向上を目
指した地
域参加促
進プロジ
ェクト
2006.62008.05
)
算数指導力
向上プロジ
ェクト
中間(2月)2005.052010.05
個別専門
GN:
家(基礎
教育プロク
゙ラム強化2
007.102009.9
事前1(6月)
)
初等教育算
数指導力向
上プロジェ
クト
中間(11月)
2006.4コ
PDM改(11月)
2009.3
ロ
ン
終了(9月)
政
権
(
国
民
希
望
党
フ
ネ
ス
政
権
算数指導力
中間(7月)向上プロジ
ェクト
PDM改(7月)
2006.42009.3
事前(7月)
)
(
フ
ァ
ラ
ブ
ン
ド
・
マ
ル
テ
ィ
民
族
解
放
戦
線
オ
ル
テ
ガ
政
権
(
サ
ン
デ
ィ
ニ
ス
タ
民
族
解
放
戦
線
終了(7・8月)
)
ペ
レ
ス
政
権
算数指導力
向上プロジ
中間(10月)
ェクトフェ
ーズ2
2009.112012.10
(
愛
国
党
)
オ
ル
テ
ガ
政
権
終了(7月)
教育政策
アドバイ
ザー
2013.032015.03
)
交代
ベ
ル
シ
ェ
政
権
サ
カ
政
権
(
民
族
主
義
共
和
同
盟
メ
デ
ィ
ー
ナ
政
権
第3回実施予定
2014
事前(12月)
)
)
2012
2013
ドミニカ共和国
小学校教諭協力隊員派遣
2003
2006
ホンジュラス
交代
)
2015
(
サ
ン
デ
ィ
ニ
ス
タ
民
族
解
放
戦
線
初等教育算
中間(5月)
数指導力向
上プロジェ
クト
2006.042011.03
PDM改(6月)
終了(9月)
F/U
2事前(5月)
初等教育算
数指導力向
上プロジェ
クトフェー
ズ2
2012.92015.09
)
交代
備考
(比較的)左寄り政権
(比較的)右寄り政権
中道もしくは未宣言
2016年8月任期満了予定
河隅さつき(2013):「算数大好き!」広域プロジェクト(Proyecto Regional “¡Me Gusta Matemática!” en
Centroamérica y El Caribe)関連各国現況とりまとめ資料
2017年1月任期満了予定
1987年和平合意
3.マヤ・ブルーの復興へ
• 背景
• 藍は人類が最も古くから利用した染料の一つであり、中米で
も、マヤ時代に使われていた。しかし、安価な化学染料に駆
逐される形で、日本でも中米でも藍の文化は、廃れていった。
ただ、日本では、藍文化の伝統は四国などの地域で受け継
がれて今日に至っているのに対し、中米では、最後に残った
エルサルバドルでも、1974年に最後の藍工房が閉鎖された。
こうした状況に対し、コロンブスのアメリカ到達500周年の1992
年に開催されたパナマでの民族学会で藍文化復興の決議が
行われ、翌年には、エルサルバドル西部の都市、サンタアナ
の工房で藍染が再開された。同国文化庁にいたロレンソ・ア
マヤ氏などの尽力によるところが大きい。そして、グアテマラ
に在住していた児島英雄氏が1995年に同氏を訪問、エルサ
ルバドルと日本の藍文化の交流のきっかけとなった。
キャパシティ・ディベロップメントのプロセス
CD プロセスのス
ケールアップ
触媒(キャタライザー)としての
外部からのCDへのサポート
愛地球博への
出展
空港のアンテナ
ショップ
藍工房建設
児島氏、野田教授の
エルサルバドル訪問
効果的に課題に取り組む
ための相互の学びあい
(Mutual learning)と革新
的解決法(Innovative
solutions)の創造:協力隊
の貢献
内発的CDの基礎: 自らの直面する課題に関する深い認識と自ら行動する意欲・コ
ミットメント・オーナーシップ (文化庁などの藍文化復興の方針、藍染振興団体
CDを可能にする環境 / CD のコンテクスト
Source: 筆者 (Hosono et al. 2011を参考に作成)
藍工房での藍染技術の現地適応と普及
• 藍工房は、チャルチュアパ市のカサブランカ遺跡公園と、
サンタテクラ市の米州農業協力機構(IICA)の2か所 につく
られたが、いずれにも、協力隊員が派遣され、エルサルバ
ドルにおける、藍染の研究、普及に大きく貢献した。実際、
協力隊員の長期にわたる日々の活動なくしては、これまで
の、この国における藍染の技法の普及はあり得なかったと
言っても過言ではないであろう。藍産業復興については、
草の根技術協力を除いて、JICAが正式に技術協力プロジ
ェクトとして行ったことはなく、従って、専門家の派遣も行わ
れなかった。様々な協力を、大使館、JICA、JETROが行った
が、藍文化と藍産業復興への協力において、最も重要な、
いわば現場でのCDの部分を担ったのは、協力隊員であっ
た。
藍に関する認識の変化
• 米州農業協力機構(IICA)は、国際機関であり、その重要性
は広く知られているが、そのエルサルバドル支所の一般職
員には、当初は、藍染の重要性が十分知られていたとは言
えない。IICA内に設置された藍工房で染色をはじめると、臭
いを嫌って、戸を閉める職員や、いやな顔をする職員も当初
はいた。IICAに派遣された協力隊員は、道具を磨き、掃除を
し、授業と作品製作に没頭することで、意識を変えていった。
その結果、IICAに来賓が来ると、所長から必ずと言っていい
ほど藍の説明や、工房の案内を求められるようになり、帰国
が近づくと、任期の延長まで求められるにいたった。
相互の学習、協働での新たな取り
組み
• 藍工房での、藍染の授業では、教えることから新たな発見があり、
逆に生徒から教わる事もあった。また、藍農家を訪問し作業を手
伝い、種まきから育成、そして抽出までを経験できたことは、一藍
染作家としての本望であった。日本の 伝統にこだわらず、世界視
野で藍の世界を見れるようになったのは、青年海外協力隊に入隊
できたからこそだと思う。
• エルサルバドルで知られていない藍染の新技法の導入、国内外
における市場開拓、藍と藍染製品の品質の向上、特に海外と比較
しても品質が劣らない商品開発をするように、海外での販売可能
性のあるブランド形成をめざした品質指導など、活動は多岐にわ
たるものであった。
• 特に、エルサルバドルで確立していない「型染めの技法」の開発に
力を入れ、その技術を確立し、解説書を作成した。また、商品開発
では、草木染めと藍のあわせ商品を見本として制作している
藍工房における藍染め普及の効果
• IICAの藍工房のあるサンタテクラ市は同市の一村一品運動
の地元産の代表的民芸品として、藍染め製品を推進してい
る。同市におかれた、IICAの藍工房を拠点とした協力隊の長
期にわたる活動の寄与を無視することはできない。
• カサブランカ遺跡公園内にも設けられ、協力隊員が派遣され
ていたが、同公園内にあることから、遺跡とあわせ、藍工房
を訪問する人々が多く、公立学校の学生だけでも、訪問者数
は、年間3000人に達するとされる。また、藍工房で藍染を学
んだ人の数は、藍工房開設の2002年以来、1800人に上る。
4.協力隊と文化財(遺跡)の保存、観光の振興
• チャルチュアパ遺跡群
• マヤ文化の都市遺跡として最も重要なものの一つが、チャル
チュアパ遺跡群である。
• チャルチュアパ市に あるこの遺跡群に関しては、1960年代、
ペンシルバニア大学のロバート・シャーラー調査団によって
大規模な学術調査が行われたが、発掘後の建物の修復・保
存を伴うものではなかった。
• 1992年の内戦の終了、和平協定締結のわずか3年後 には、
大井邦明教授を団長とする京都外国語大学調査団が同遺
跡群の中のカサブランカ遺跡地区の考古学調査を開始し
た。
2002年に草の根文化無償資金協力によって
建設されたカサ・ブランカ遺跡公園の様子(植
村まどか、2012年撮影)
• 文化庁、名古屋大学、JICAにより、「チャル
チュアパ市の地域観光開発を目的とした先ス
ペイン期国立遺跡公園の整備プラン」が策定
された(市川、2014)。その実施に向けて、
JICAに対して考古学、保存科学、造園分野の
協力隊員の派遣が要請された。こうして、
2003年以降、順次協力隊員が赴任するに至
る
• 協力隊の活動内容から見て、この2003年からの5年間は、考
古学調査や、遺跡など文化財の保存修復活動を通じての、
技術移転、人材育成が主たる活動であった時期であった
• カサブランカ遺跡公園の詳細なデジタルマップを作成し、ま
た、タスマル地区等において、文化庁考古課職員、名古屋大
学調査団員とともに、調査を行うとともに、これを通じて、現
地の考古学専攻生や作業員らへの発掘調査にかかわる技
術移転を行った。この時期、協力隊員は多くの活動をおこ
なったが、なかでも、鈴木隊員が博物館の外に、考古学発掘
で作られた施設の一部を、屋外展示施設として活用する設
計案(4N試掘抗の覆屋と見学路、遺跡公園正門他)を作成
し、それが、草の根文化無償資金協力によって、建設され、
遺跡公園の整備・充実に貢献したことは特筆に値する
タシュマル遺跡(市川彰氏撮影)
2007年に草の根文化無償資金協力によって
建設されたカサ・ブ
ランカ遺跡公園屋外展示
施設(市川彰氏、2007年撮影)
協力隊員の貢献(事例)
• 市川隊員は、ラ・クチージョ地区の緊急発掘調査、カサブラン
カ地区5号建造物前の排水路整備や、タスマル地区などの発
掘調査を行い、これらを通じ、エルサルバドルで初めての先ス
ペイン期の埋葬地、原位置を保った石碑祭壇複合を発見する
など、いずれも、同国考古学史上重要な学術的発見 に貢献し
た
• 古代マヤ文化圏の中部や南部で特徴的な、建造物の正面に
石碑(あるいは石柱)と祭壇石を祭るという慣習が、カサブラン
カ遺跡の5号C建造物(紀元1-4世紀)においても確認された意
義は大きい
• 排水路整備にともなうチャルチュアパ遺跡カサ・ブランカ地区
5号建造物前調査(2006年)は、古代マヤ文明の特徴的な文
化要素のひとつである「石碑祭壇複合」の原位置での発見に
つながった。石碑も祭壇石も素面であるがゆえに、一見する
と何の価値もないようにみえるが、世界的に有名なティカル
やコパンといった諸都市が栄えた「古典期(紀元後3~10世
紀)」と呼ばれる時期よりも古い時期に相当することが重要で
ある。チャルチュアパはこれまでもマヤ文明の起源や盛衰を
理解するうえで学史上重要な遺跡と位置づけられてきたが、
石碑祭壇石複合の発見はその重要性をより決定的なものに
したといえる。 (市川彰「エルサルバドル考古学における青
年海外協力隊活動の学術的貢献」より。)
図3 カサ・ブランカ遺跡公園内5号建造物
(市川氏撮影)
成果を社会に還元することを目指す
協力隊員の活動
• 村野正景隊員は、パブリック考古学的視点から、遺跡をはじ
めとする文化財の観光や学校教育への活用に関する調査を
実施し、中米7か国の文化財や観光開発に関する広域研修
を実施したほか、考古学調査と住民との会話をヒントに古代
技術の復元と民芸品開発プロジェクトを立ち上げ、現地住民
や陶芸家を巻き込む活動を実施した。
• 池田瑞穂隊員は、考古学遺産を資源として活用できる人材
の育成をめざし、その結果、考古学活動の一端を現在に生
きる地域コミュニティの中に位置づけ、博物館は地域の歴史
に興味のある住民の相互コミュニケーションの場であるとし
て提示した。続く久松恵輔隊員も一般市民の身近なところに
文化財が存在することを周知させ、従来、主に考古学専攻
生や考古学の専門家を対象に技術や知識の移転が行われ
てきたが、協力隊の、近年の活動を通じて、協力隊員の達成
した成果が、さらに一般市民へも還元されるに至った。
図4 考古学を通じた教育活動の様子
(池田氏撮影)
協力隊によるCDへの貢献
• 考古学分野の政府、研究者、遺跡の保存に携わる人々のCD:文化庁文
化遺産局考古課に所属するエルサルバドルの考古学者8名のうち6名が
学部生時代に隊員との何らかの共同作業を行い、そこで技術指導を受
けている。残る2名についても、隊員のカウンターパートとして活動を共有
し、成果を挙げている(市川 2014)。この国の考古学への貢献という意
味でも、8名のCDは重要であったと考えられる。また、彼らのCDが、相互
の学びあい、共同作業によって進められたことも、特筆に値する。市川隊
員は、発掘調査実習生として受け入れた学生や、現地作業員である「彼
ら/彼女らとともに共同作業をおこない、調査報告書や論文をスペイン語
で執筆してきた。論文構成や調査アイディアの基本は筆者(注:市川隊
員) が提案してはいるが、同時にスペイン語などの校正作業などを通じ
て学生らに考古学研究者として成果還元や論文作成がいかに重要かを
認識させることに成功したものと思われる」と総括している
• チャルチュアパ市にある由緒ある教会の保存など
の活動を遺跡公園開所以前から行っていた、「サン
ティアゴ・アポストル教会修復・保存委員会」が地元
で中心的な役割を果たしてきたが、この組織のメン
バーや職員であった、遺跡ガイドは、現在もカサブラ
ンカ遺跡公園の職員として活躍している。このNGO
とそれに所属する人々は、「協力隊員との共同活動
を通じて遺跡への理解を深めるとともに、子供や一
般向けのワークショップを開くなどして文化財保護
や活用に関する啓蒙活動に関する手法を学んだ」
• 市川隊員は、考古学分野での、エルサルバドルに
おける協力隊の貢献を次のようにまとめている。「協
力隊活動の最大の功績は、調査研究から遺跡の修
復保存、そして社会還元にいたるまでの一連の過
程を通じて現地の様々な位相の人材育成に寄与し
たことであると筆者は考える。これは日本の考古学
が国際社会に貢献するための一つのモデルケース
として提示することが出来るだろうと思っている
5.結語
• 算数プロジェクトにおいては、プロジェクト実施の拠
点としてのプロメタムの建物の無償資金協力による
建設と教員訓練施設としてのプロメタムの制度的確
立は、CD推進の重要なドライバー であった。そして
技プロによって編纂、制作された教科書、練習帳と
指導要領の全国配布もそれに続き、重要なドライ
バーとなった。これらは、全国規模での教育の質の
向上に向けたCDを大きく推進する役割を果たし、ま
た、これらが、現場レベルの個人・組織(個々の教員、
その所属する学校など)のCDを容易にするコンテク
ストとなった。
• しかし、 これだけでは、現場レベルでのCDプロセス
は、十分に進まなかったであろう。それを可能にした
のは、チーム派遣による協力隊員であった。すなわ
ち、図の中で、課題の認識、課題に取り組んでいく
意欲、コミットメントがCDの基礎と位置付けられてい
るが、プロメタムにおける教員研修とならんで、派遣
された協力隊との交流が教員の認識を高め、動機
を強めるうえで、重要であったと考えられる。かつ、
現場レベルで、協力隊員と教員との相互の学びあ
いや、手を携えて課題に取り組み、新たな解決方法
を見出していく活動を行ったことも、CDプロセスにお
いて重要であった。
• エルサルバドルの考古学関係者、その組織、エルサルバド
ル全体での考古学の発展と、遺跡などの文化財を中心とし
た観光産業の発展にかかわるCDにおいても、協力隊員の貢
献は顕著であった。 タスマル地区を除けば、ほとんど知られ
ていなかったチャルチュアパ遺跡群の発掘・保存から、それ
を中心とした文化財保存にいたるまでを一貫して行ってきた、
日本とエルサルバドルの様々な人と組織、とりわけ、エルサ
ルバドル文化庁、日本の大学、協力隊員などの貢献は大き
い。そのCDのプロセスの中で、京都外国語大学や、名古屋
大学による調査団の活動、草の根無償などによる、博物館
の設置と、屋外諸施設の整備(試掘抗と覆屋、見学路など)
など、CDのドライバーが次々と、推進力を発揮したことは明ら
かである。
• しかし 、これらに、協力隊員の先に述べたような、日々の活
動、とくに、学びあい、課題解決の共同での取り組みがなけ
れば、真に内発的なCDプロセスは進まなかったであろうと考
えられる。遺跡の調査と保存・修復、それらについての、住
民の理解の向上、住民を巻き込んだ、文化財を活用しての
観光の振興は、日本からの調査団の調査や施設の充実を
前提としながらも、協力隊員と考古学専攻学生や作業員らと
の協働、地元の人々やNGOとの協働によってはじめて可能
であった。
• こうした協力隊の役割は、CDという文脈では必ずしもないが、
協力隊に関する法律の中でも示唆されていた点であった。旧
国際協力事業団法は、第1条(目的)を受ける形で、第21条
において、協力隊に係る業務として「開発途上地域の住民と
一体となって当該地域の経済および社会の発展に寄与する
ことを目的とする海外での青年の活動を促進し、助長するた
め次の業務を行うこと」と規定していた。 住民と一体となって
経済社会発展に寄与する活動の中に、内発的CDに貢献す
る活動は、その最も重要な部分の一つとして含まれると考え
られよう。 2008年の独立行政法人国際協力機構の発足に際
して、国際協力機構法が定められたが、この法律でも、第15
条等に、この考え方が継承されている。