特集(2)ステークホルダーダイアログ (PDF形式

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特集 2 ステークホルダーダイアログ
オープン・イノベーションの
促進により、ステークホルダーとともに
成長する企業グループへ
特集2
日立化成は、2012 年の創立 50 周年を機に、10 年後の姿を見据えたWOW-BB 活動、筑波総合研究所内のオープン・
ラボ、グローバル・コーチング・プログラムなど、50 年後のあるべき姿を見据えた新しい挑戦に取り組んでいます。
日立化成の姿勢、取り組みについて、社外のステークホルダーはどう考えるのか。当社執行役が社外有識者と意
見を交換しました。
3
4
2
1
参加者
開催概要
[社外有識者]
1
竹ケ原 啓介氏 株式会社日本政策投資銀行 環境・CSR部長
2
山崎 直実氏 一般社団法人 株主と会社と社会の和 代表理事
[テーマ]
日立化成の長期ビジョンにかかわる取り組
みとステークホルダーとの関係について
[日 時]
[日立化成側出席者]
3
丸山 寿 日立化成株式会社 執行役常務 経営戦略本部長
4
武井 裕之 日立化成株式会社 執行役 営業本部長
50 年後の将来像を見据えて
10 年後の戦略を考える
2015年6月2日
[場 所]
日立化成株式会社 本社
Beyond Boundaries)活動を開始しました。その中で
は、10 年後の夢を語る
「10 年戦略活動」と、有言実行の
挑戦を称える
「WOW グローバルアワード」を推進して
丸山 2012 年に創立 50 周年を迎えたときに、グルー
います。
プ全従業員が参加して 50 年後の日立化成の将来像を
竹ケ原 50 年という遠い未来を展望するところに新鮮
語り合いました。それを受けて、次の 50 年に向け日立
な印象を受けました。日本は社歴 100 年を超えるレジ
化成の取り組みを具体的に考えるための第一歩として
リエント
(しなやかで強い)な会社が多いと言われます。
2014 年度からWOW-BB(Working On Wonders
レジリエントの本質は何かと考えると、いつでも起業の
Annual Report 2015
特集 2 ステークホルダーダイアログ
原点に立ち戻ることができるしっかりした理念があると
ノベーションを実現することが困難な時代となりまし
いうことに尽きるのではないでしょうか。そのような理
た。これまで以上に外部資源を効率的に取り込み、イ
念があるからこそ、50 年先にジャンプして未来を描ける
ノベーションの促進を図りたいと考えています。
わけで、そこが貴社の強みだと感じます。
オープン・ラボの活用によってお客さまや装置メー
山崎 WOW- B B は、とてもユニークな活動だと感じ
カー、競合他社との関係も中長期的に変化していくで
ました。従業員一人ひとりが 10 年先を見据えて夢を語
しょう。
日立化成は、オープン・ラボを通じて先端情報
り議論し、会社全体のビジョンとして共有化することは、
を入手し、それぞれに得意分野を持つ装置・材料メー
ビジョン実現に向けた戦略が実効性の高いものになる
カーとコンソーシアムを組んでお客さまの期待に応え
と思います。
ていくことをめざしています。
丸山 四半期ごとに結果を求めなければいけない部分
丸山 オープン・ラボの考え方は、実装材料以外の分
もありますが、もっと将来を見た長い時間軸での議論、
野にも適用可能ですので、他の事業分野への展開も検
施策も必要です。例えば、当社は独自のスタイルとして、
討を進めているところです。
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お客さまとの密度の濃いお付き合いの中からお客さま
が 抱える課題を発見し、高い材料技術によりソリュー
ションを提供してきま
した。これ は 短 期 の
ビジョンをグローバルで共有し
グループとしての求心力を高める
視 点ではできないア
武井 当社の2014 年度の海外売上高比率は、53%に
プローチです。
なりました。今後もグローバル化を加速し、M&A を含
竹ケ原 顧 客との 関
めた海外拠点の強化・拡充と、アフリカ、中近東など未
係の中で潜在的な
開拓な市場への展開をテーマに取り組んでいきます。海
ニーズ を 引 き 出して
外展開を進める上では、今後は現地パートナーとのコ
い くと い う 手 法 は、
ミュニケーションの円滑化とパートナーの経営文化を尊
まさにオープン・イノ
重したマネジメントが課題だと認識しています。
ベーションの 考え 方
竹ケ原 M&Aで買収した会社の人財が流出しては元も
ですね。
子もありません。いかに現地に権限委譲しつつ求心力
を発揮するか、これが貴社の非財務的な力の要素になっ
てくると感じます。
オープン・イノベーションで
お客さまとの新しい関係性が見えてくる
丸 山 当 社 は、今 年
丸山 オープン・イノベーションの新しい取り組みとして、
り、従 業 員 の 半 分 以
筑波総合研究所内に開設したオープン・ラボがあります。
上が日本人 以 外とい
最 先 端 の 装 置 を 備 え た オープ ン・ラボ で お 客 さ
う構成になりました。
まと一 緒 に 半 導 体 の 実 装 プ ロ セ スを 開 発 すること
グ ローバル 化する以
で 開 発 期 間 の 短 縮 とニーズ の 先 取りを 目 的 にして
上、ダイバーシティの
い ま す。お 客 さ ま、装 置 メーカ ー、材 料 メーカ ー と
推 進は避けて通るこ
一 緒 に なって プ ロ セ スを 開 発 して い き ま す。当 社
とはできません。そし
材料では十分な特性を出すことができない場合には、
てさまざ まな バック
競合他社の材料を試すこともあります。これは他に例
グラウンドを持つ従業員一人ひとりに対して求心力を
を見ない試みです。
発揮するためには、経営ビジョンの共有化を進めるし
昨年の開設以 来、多くのお客さま、装置・材料メー
かないと考えています。
カーにご来所いただき、すでに製品認定や共同開発に
また、
次期の中期経営計画では、グローバル展開にお
結びついた例も出てきました。注目度の高さを実感し
ける本社の役割は何かということを明確化する必要が
ています。 あると考えています。
武井 市場環境が急速に変化し、顧客ニーズが多様化
山崎 最近、海外では、特に公務員に対する贈賄や課
するなか、社内の資源だけで潜在ニーズを発見し、イ
税回避の問題への対応が厳しく問われています。自社
1月の 台 湾 神 戸 電 池
の連結子会社化によ
Annual Report 2015
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特集 2 ステークホルダーダイアログ
の考え方や防止策をしっかり開示することが重要となっ
初めて企業としての強みになります。投資家も企業の持
ています。
続可能性を検討する際に重視するので、こうした非財務
丸山 贈賄については、譲らない一線を持ち、周知徹底
的な強みをどのように説明していくのかが、ポイントに
を図っています。また、課税回避については、私たちの
なりますね。
使命は正当な利益を計上して税金を支払い、世の中に
価値を提供することですから、絶対に外してはいけない
ところだと考えています。
武井 CSR やコンプライアンスへの備えを怠ることは、
特に海外展開を進める上で大きなリスクになると認識し
中期経営計画の議論に数字はいらない
10 年後を見据え、
直近 3 年間の方向性を考える
ています。取り組み方針のもと、監査を定期的に実施す
山 崎 次 期 中 期 経営
るほか、従業員教育を繰り返し行っています。
計画
(2016 ~ 2018年
度 )は、WOW-BB 活
グローバル人財の育成により
企業ビジョンを世界で実現する
動の
「10 年 戦 略 」を
ベースに策定するとい
うことですね。
丸山 私たちは、グループ内でビジョンを共有し、知識
丸 山 当 社 は 毎 年 秋
やスキルを磨いて自ら成長する人財を「ワールドクラス
に事 業 戦 略 会 議 を 開
プロフェッショナル (WCP)」と呼んでいます。それは日
催しています。これま
本人だけではなく海外の従業員にも等しく要求してい
で は 次 年 度 の 予算 策
ます。日立化成ではさまざまな教育プログラムを通じて
定 に向 けての 基 本 方
WCP の育成に取り組
針を 確 認 すること が
んでいます。
中心でしたが、昨年は主要部門の「10 年 戦 略」の発表
武 井 ビ ジ ョ ン を
会としました。今年の秋も事業戦略会議を予定してい
実 現 するために挑
ますが、そこでは 10 年後にどうありたいかを徹底的に
戦した 人を 表 彰する
議論し、それを基に直近の 3 年間に私たちは何をすべ
「WOW グ ロ ー バ ル
きかを考え、それを新しい中期経営計画に落とし込も
アワード」ですが、初
うと思っています。
年度の最終選考に
従来の計画は、過去を出発点とする財務中心の数字
残った10 チームのう
ベースの積み上げ型でした。今回は非財務の目標も取り
ち 4チ ーム が 海 外 か
込むなど、新しいスタイルで策定するつもりです。
ら の 参 加 でした。国
竹ケ原 私もそうなのですが、投資家は日立化成がな
内 で 培ってきた日 立
ぜ 業 界平均あるいはライバルを上回る利益率を達 成
化成の理念がグローバルに浸透し、根づき始めている
できるのかを知りたいのだと思います。中期経営計画
ことを実感しています。
で非財務的な内容はあまり語られませんが、他社との
竹ケ原 買収 先 企 業が日立化 成の経営理 念を受け入
差別化要因として説明すれば、投資家に響くのではな
れて、海 外で日立化成にシンパシーを持つ人を育てる
いでしょうか。個人的には技術・人財・顧客との関連性
ことが できれば、そのアウトカムは間違いなく大きい
など、そのあたりに貴社の強みがありそうだと感じて
ですね。
います。
武井 外部から優秀な人 財をヘッドハンティングして
山崎 投資家が知りたいのは、経営者が頭の中に描く
も、短期間では当社文化への理解は深まりません。やは
ビッグピクチャーです。①どこへ向かうのか
(経営理念)
、
り勤続年数の長い人には日立化成へのロイヤリティを感
②課題は何か
(使命)
、
③どのような未来を創るのか
(事
じます。長く勤務し、日立化成のビジョンを理解してくれ
業目的)
、
④目的地へどのように進むのか
(戦略)
、
⑤重要
る人を積極的に登用したいと考えています。
資本とその再生 産をどう行うのか
( ビジネスモデル)
、
山崎 グローバル化にあたり経営理念が重要であるこ
⑥どのように健全な経営を行うか(ガバナンス)、⑦ど
とは確かです。ただ、飾り物として掲げるのでは意味が
のような機会とリスクを想定し、どう対応するか(サス
ありません。従業員に浸透し、実際の行動に反映されて、
ティナビリティ・E S G)、⑧ 今どこにいて、今後どうな
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特集 2 ステークホルダーダイアログ
るのか(中期経営計画)という流れで、10~20年の長
育成しようと取り組んでいます。経営陣と従業員との対
いスパンで話してほしいとよく聞きます。短 期につい
話、また従業員同士の対話がないと、私たちが 望む中
ての中期経営計画は最後になります。目的地が 定まれ
期経営計画は完成しません。計画策定のプロセスは、全
ば、自ずとすべてが明らかになり、整理されるのではな
従業員で10 年後を考える絶好のチャンスであり、それ
いかと感じています。
を大事にしたいと考えています。
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山崎 目標達成に向けた従業員のモチベーションアッ
財務・IR の世界にも
オープン・イノベーションの時代が到来
丸山 当社は、グループ内に対話の文化を根づかせた
いと考え、それを大きな課題と捉えています。一つの目
プには、プロセスが最も大切ですからね。
非財務の要素を
「見える化」する
KPI の開発にも挑戦してほしい
標に向かい成長をめざして話を交わすことが 対話であ
武井 中期経営計画を策定した後には、開示資料を作
り、これを従業員、株主をはじめとするステークホルダー
り上げなければいけません。
との間で進めていかなければなりません。
山崎 素材はすでにでき上がっているので、後はいかに
山崎 投資家との対話については、社長自身が計画の
それらの素材を組み合わせて投資家にとって納得感のあ
失敗や要因についてもオープンにすることで投資家を
るストーリーを作り上げるかという作業になりますね。
味方につけ、経営に巻き込んでいくような姿勢が求めら
竹ケ原 非財務的要素も含め、日立化成の次の絵を描
れていると思います。それができれば企業に対する投資
くためのマテリアルの抽出が完了しているように思いま
家の信頼はいっそう厚くなるのではないでしょうか。
す。後はそれをどう社内外に見せていくかですね。難し
また、投資家に限らずステークホルダーもいろいろで
いことですが、社会貢献の KPI のようなものも、貴社に
す。N GO、N PO も含め多様なステークホルダーと対
開発してほしいと思います。
話しながら、それぞれの考え方を吸収することが大切で
丸山 いつか「日立化成の売上が増えれば世の中がよ
しょう。まさに IR の世界におけるオープン・イノベーショ
くなる」と言えるような姿をお見せできれば嬉しいです
ンです。
ね。これから全体をつなぎ合わせて魂を入れ、統合化
丸山 重要なステークホルダーである従業員に対して
しなければなりません。今日は大変な課題をいただい
も、私たちは
「グローバル・コーチング・プログラム」や
「タ
くと同時に、大変勉強になりました。ありがとうござい
ウンミーティング」など、あらゆる手法で対話の文化を
ました。
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