2014年度 制度・運用WG 成果報告 『実用新案の無効化方策』 2015年2月5日 中国IPG 制度・運用WG 氏名 小林利彦(エプソン(中国)有限公司) 0.WGメンバー 氏名(敬称略) ○ 小林利彦 企業名 氏名(敬称略) 企業名 エプソン(中国)有限公司 小林義典 松下電器研究開発(蘇州)有限 公司 分部悠介 IP FORWARD法律特許事務所 金海娟 松下電器研究開発(蘇州)有限 公司 浜田祐一 キヤノン(中国)有限公司 任峰 パナソニックチャイナ有限公司 夏宇 上海金天知的財産代理事務所 張苗 富士電機(中国)有限公司 中村崇諒 コニカミノルタ(中国)投資有限 公司 李春艶 日本富士電機(株)北京代表処 羅蘭 コニカミノルタ(中国)投資有限 公司 熊澤一 ブラザー工業株式会社 石丸幹朗 ソニー(中国)有限公司 奥田聖二郎 ブラザー(中国)商業有限公司 王瑜 ソニー(中国)有限公司 張明慧 ブラザー(中国)商業有限公司 江原晋作 日産(中国)投資有限公司 武田忠利 マツダ(中国)企業管理有限公司 王瑩瑩 日産(中国)投資有限公司 ◎ 前川淳 デンソー(中国)投資有限公司 △ 神野将志 特許庁特許審査第三部審査官 (注) ◎ : WGリーダー ○ : テーマリーダー △ : オブザーバー参加 2 1.現状認識と課題 中国だけでなく韓国や日本も、少なくとも法文上で要求される進歩性(中国では 創造性)のレベルは発明専利に比べて実用新案専利は低い。 しかしながら韓国や日本では法文上の違いはあるものの、実審査における実 用新案の進歩性のレベルは発明特許とほぼ同等と言われている。 一方中国においては、専利審査指南第4部分第6章の規定に基づき、参照す る「現有技術の分野」と「現有技術の数」において違いを設けている。 この違いにより、中国においては実用新案専利は発明専利に比べ無効化しにく いという声を聞く。 ところが無効化が難しいという声がある一方で、発明専利と実用新案専利との 間に、法的な保護水準(差止、損害賠償)において明確な相違は無い。 (注:権利期間や保護対象等の違いはある) すなわち独占権を与えるという意味での差止や損害賠償額の判断において、 『小発明』としての扱いはされていない。 例:シュナイダー事件 一審の浙江省温州市中級人民法院は3.3億元(約43億円)の賠償命令 最終的には1.5億元(約22億円)で和解 3 【補足】中国専利法22条3項 中国実用新案の創造性(進歩性) 発明専利 実用新案専利 『突出した実質的特徴及び顕著な進歩』 『実質的特徴及び進歩』 専利法22条3項によれば、実用新案専利に要求される創造性(進歩性)の水準は、発明 専利のように「格別」と「顕著」の要件が求められていない。 従って、実用新案専利に要求される創造性のレベルは、発明専利より低いと言える。 この点から、実用新案専利は『小発明』ともいわれる。 法文上の実用新案の進歩性の基準が発明専利より低いという点は、日本も同様である。 日本の特許法では当業者が先行技術から「容易」に発明できたときには進歩性がないと されるが、実用新案法では「きわめて容易に」考案できたときに進歩性がないとされる。 4 【補足】実用新案専利の創造性の判断基準 創造性(進歩性)の判断は現有技術の中に「技術的ヒント」があるかどう かということで示される。 現有技術の中に「技術的ヒント」があるかを判断する際に、発明専利と実 用新案専利とでは、(1)現有技術の分野および(2)現有技術の数の2点 で差を設けている。 次ページに専利審査指南 第四部分 第六章の該当部分を記す。 尚、日本では実用新案の進歩性の判断に引用し得る先行文献の技術分 野や数に制限はない。 5 【補足】専利審査指南 第四部分 第六章 (1)現有技術の分野 発明専利については、当該発明専利の属する技術分野のみならず、それに隣 接若しくは関連する技術分野、及び当該発明により解決されたい技術的課題で その分野の技術者が技術的手段を探り出すこととなるほかの技術分野を合わ せて考慮しなければならない。 実用新案専利については一般的に、当該実用新案専利の属する技術分野に着 眼して考慮すべきである。ただし、現有技術で明らかなヒントが与えられる場合、 例えば、現有技術に明確に記載されており、その分野の技術者が隣接或いは関 連する技術分野から関連の技術的手段を探り出すこととなる場合には、その隣 接或いは関連する技術分野を考慮してもよい。 (2)現有技術の数 発明専利については、1つや2つ、或いは複数の現有技術を引用してその創造 性を評価することができる。 実用新案専利については、一般的に1つや2つの現有技術を引用してその創造 性を評価することができる。「単純に重ねている」現有技術により成された実用 新案専利の場合は、状況に応じ複数の現有技術を引用してその創造性を評価 することができる。 6 【補足】「単純な重ね合わせ」 「単純な重ね合わせ」とは? 審査指南 第四部分では、「単純な重ね合わせ」について明確に規定していない が、審査指南 第二部分「実体審査」第四章「創造性」第4項「カテゴリーの異なる 幾つかの発明の創造性の判断」における4.2「組み合わせ発明」の規定に関連 する説明がある。 組合せ発明とは、現有技術に客観的に存在する技術的問題を解決するために、 幾つかの技術案を組み合せて、1つの新しい技術案を成すことを言う。 組合せ発明の創造性を判断する時に、通常は、組み合わせた後の各技術的特 徴は機能上で相互に支持し合うかどうか、組み合わせの難易度、現有技術には 組合せについての示唆が存在しているかどうか、組み合わせ後の技術的効果な どを考慮する必要がある。 (1)保護を請求する発明は単に、幾つかの既知の製品又は方法を組み合せ、又 はつなぎ合せて、各々は通常の方法で作動しており、かつ総体的な技術的効果 は各組み合わせた部分の効果の総和であり、組み合わせた後の各技術的特徴 同士は機能上で相互作用の関係がなく、単純な重ね合わせに過ぎない場合、こ のような組み合わせ発明は創造性を具備しない。 【例】電子時計付きのボールペンの発明。発明の内容は既知の電子時計を既知のボール ペン本体に取り付けたものである。電子時計とボールペンを組み合わせた後、両者は各 々通常の方法で作動し、機能上で相互作用の関係がなく、単純な重ね合わせに過ぎない ため、このような発明は創造性を具備しない。 …… 7 【補足】関連規定のまとめ 専利法22条3項 発明専利 『突出した実質的特徴及び顕著な進歩』 実用新案専利 『実質的特徴及び進歩』 要求される創造性水準について、実用新案は発明よりも低く定められている。 実用新案は、発明のように「突出した」と「顕著な」の要件は求められていない。 専利審査指南 第四部分第六章 発明専利 実用新案専利 現有 •当該発明専利の属する技術 技術 分野 の分 •隣接・関連する技術分野 野 •当該実用新案専利の属する技術分野 但し、「明らかなヒント」が与えられる場 合、その隣接・関連技術分野を考慮して もよい 現有 •制限無し 技術 の数 •最大2つ 但し、「単純に重ねている」場合は、制 限なし 8 【補足】進歩性の各国比較 特許 実用新案 特許法29条2項 韓 29条1項各号のいずれか一つに 国 該当する発明により容易に発明す ることができれば、特許を受ける ことはできない。 実用新案法4条2項 4条1項各号のいずれかに該当す る考案によって極めて容易に考案 することができるならば、実用新 案登録を受けることはできない。 専利法22条3項 中 創造性とは、既存の技術と比べて 国 当該発明に突出した実質的特徴 及び顕著な進歩があること。 専利法22条3項 創造性とは、既存の技術と比べて 当該実用新案に実質的特徴及び 進歩があること。 特許法29条2項 日 29条1項各号に掲げる発明に基 本 づいて容易に発明することができ たときは、特許を受けることができ ない。 実用新案法3条2項 3条1項各号に掲げる考案に基づ いて極めて容易に考案することが できたときは、実用新案登録を受 けることができない。 注)韓国と日本は進歩性が無い場合を規定し、中国は進歩性が有る場合を規定している。 9 【補足】日中の制度比較 中国発明特許 中国実新 日本実新 保護対象 構造、方法、ソフト(2条) 構造 構造(1条) 権利期間 20年(42条) 10年 10年(15条) 実体審査登録 有(35条) 実体審査を経る 無(創造性以外は初歩審査される) 無効理由あっても登録 無(14②) 無効理由あっても登録 特より実質的に低い ┗組合せ公知技術数は原則2つ迄 (審査指南 第四部分第六章 4) 実質的に特許と同等 創造性(進歩性) 高い ┗組合せ公知技術数に制限無し (審査指南 第四部分第六章 4) 不要。但し人民法院が要求し証拠に できる(61条) 要(29の2) 評価書 義務 提示義務や訴訟提起条件になっていない 請求人 権利者&利害関係人(細則56条) 誰でも可(12①) 過失の推定 有 有 無(特103条不準用) 注意義務 無 無 有(29の3) ・無効審判 ・非侵害確認訴訟 ・無効審判(進歩性低いので注意) ・非侵害確認訴訟 無効審判(37条) (評価書範囲外にも無効理由→賠 償義務:29の3) 訴訟を中断させたければ、答弁期間 内に審判請求が必要。原則、訴訟 中断。 審判中止(40①) 訴訟中止(40②) 被警告人の対応 無効審判と訴訟の 関係 (最高人民法院による専利権侵害をめぐる 紛争案件の審理における法律適用の若干 問題に関する解釈 18条) 訴訟を中断させたければ、答弁期 間内に審判請求が必要。ただし、 実際に訴訟を中断させるかは、裁 判官次第(一般的には中断する)。 (最高人民法院による特許紛争案件審理 の法律適用問題に関する若干規定 11条) (最高人民法院による特許紛争案件審理の 法律適用問題に関する若干規定 9条) 10 2.調査目的 中国では専利審査指南 第四部分 第六章の規定により、参照す る「現有技術の分野」と「現有技術の数」とが発明専利と実用新案 専利とで異なる。 この違いにより、中国においては実用新案専利は発明専利に比 べ無効化しにくいという声を聞く。果たして、実用新案専利が発明 専利に比べ無効化しにくいというのは本当だろうか? そこで「現有技術の分野」と「現有技術の数」とにポイントを置きな がら実用新案に関する無効審判の事例を研究し、最終的には、 増え続ける実用新案を確実に無効にするためにはどのように対 処したらよいかという、実用新案の無効化方策を検討する。 無効化するために考慮すべき点を無効審判事例より探る 11 3.調査研究方法(以下の事例を研究) 審判番号 審決番号 審決日 5W101397 WX17012 2011/07/29 1 5W102197 5W103210 23508 2014/08/12 2 5W101396 WX17033 3 5W11713 No. 4 出願番号 授権公告番号 名称 201020301198.4 CN201604358U 防漏注墨嘴和注墨瓶 2011/06/29 200920303854.1 CN201424434Y 一种具有金属膜的灯饰玻璃 WX15133 2010/06/04 200620055069.5 CN2868367Y 用于玩具的眨眼眼珠部件 WX13123 2009/03/20 03278197.0 CN2637841Y 双闸气锁耐磨陶瓷阀 5 5W102912 20658 2013/05/03 200920210507.4 CN201559185U 工具手柄 6 1F103361 WX8905 2006/11/26 02217841.4 CN2563882Y 一种带负离子发生器的荧光节能灯 5W03321 WX3992 2001/09/26 99226473.1 CN2374567Y 5W05996 WX6491 2004/10/08 99226473.1 CN2374567Y 5W07469 WX10461 2007/08/29 99226473.1 CN2374567Y 5W05344 WX6210 2004/06/22 01279530.5 CN2510621Y 5W06708 WX7596 2005/10/20 01279530.5 CN2510621Y 9 WX13590 2009/06/23 200420003299.8 CN 2704087U 电子发音书装置 10 WX11586 2008/05/24 200520001516.4 CN 2773904U 热管散热器 5W101401 WX17158 2011/08/10 5W102198 5W102694 2012/03/29 200520131946.8 CN2825289Y 连续供墨系统的连接装置 18359 5W102447 5W102456 18294 2012/03/15 200920315148.9 CN201546034U 一种缝纫机的控制电路 7 8 11 12 下悬浮式全自动洗涤脱水机 油井自热源超导防蜡降粘装置 12 4.研究に基づく成果 まず、以下の4つの観点でいくつかの事例を分類する。 ■隣接・関連する技術分野を考慮した事例 ■隣接・関連する技術分野が考慮されなかった事例 ■単純な重ね合わせと判断された事例 (3以上の証拠可) ■単純な重ね合わせではないと判断された事例 (3以上の証拠不可) 13 4.研究に基づく成果(事例2) 隣接・関連技術分野を考慮した事例 事例2 無効審判の対象となった実用新案 イルミネーションガラス 証拠1 省エネガラスとエコガラス 証拠2 金属膜がめっきされた工芸品及びその製造方法 有色ガラス容器の内外壁に金属膜をめっきする方法を開示 14 4.研究に基づく成果(事例3) 隣接・関連技術分野が考慮されなかった事例 事例3 無効審判の対象となった実用新案 玩具(玩具の瞬きに用いる眼球部材) 証拠1 玩具(人形の動的眼球) 証拠2 カメラ部材(カメラのシャッターシステム) 証拠2は、バイアス磁石、コイル及び磁石の設計を開示したが、その技術分野は、本実用新 案と違う。 現有技術に明確に記載され、その分野の技術者が隣接・関連する技術分野から関連の技術 的手段を探り出すこととならないため、現有技術には、証拠1、証拠2及び公知常識を組み合 わせて本実用新案の請求項1の技術方案を得る示唆が欠如しており、請求者の主張は、成 立しない。 15 4.研究に基づく成果(事例4、10) 単純な重ね合わせと判断された事例(3以上の証拠可) 事例4 提出された合計8つの現有技術のうち、3つ(証拠2,3 ,4)で、本実用新案の請求項1の創造性を否定 事例10 本実用新案と証拠1との間には、2つの差異があったが 、差異1については証拠2で、差異2については証拠3で カバーすることにより3つの証拠で請求項1の創造性を 否定 前記2つの課題の間にはいかなる関連性もなく、且つ、前記2つの課題を解決するためにそれぞれ 採用した技術的手段の間には、相互の組み合せもなく、相互に影響及び作用もなく、両者には関 連性がない。 このような場合、証拠1、2、3の組合せは、実質的に証拠1と証拠2、証拠1と証拠3とをそれぞれ組 み合わせることであり、3つを全て組合わせることとは異なる。 16 4.研究に基づく成果(事例5) 単純な重ね合わせではないと判断された事例(3以上の証拠不可) 事例5 ■請求項4(請求項3に従属) →証拠2と6の組み合わせで創造性を否定 ■請求項10(請求項4に従属) →無効請求人は請求項4に対する付加技術的特徴は 証拠15に開示されていると主張したが、PRBは請求人 の主張を否定し、有効(創造性あり)と認定 「証拠15は、相応の技術的示唆を与えている」という請求者の主張に関し、実用新案については、 一般的に、1つや2つの現有技術を引用してその進歩性を評価するが、「簡単な組み合わせ」で現 有技術に成された実用新案の場合は、複数の現有技術を引用してその進歩性を評価することがで きる。請求項10における「受止部」と被覆層の横辺など、いずれも構造上の関連を有している。そ れぞれ独立した機能あるいは独立した役割を持ち、構造上に相互の関連を有しない簡単な組み合 わせ部材ではないため、請求者の主張は、成立しない(即ち、請求項10の有効が維持された)。 17 4.研究に基づく成果 ここまで述べてきた内容に類似する研究は、2012年8月 林達劉グループ 「中国にお ける実用新案の作成から無効審判までの実務要領」P35-P39にも記載されている。 しかしながら、単純に ■隣接・関連する技術分野を考慮した事例 ■隣接・関連する技術分野が考慮されなかった事例 ■単純な重ね合わせと判断された事例(3以上の証拠可) ■単純な重ね合わせではないと判断された事例(3以上の証拠不可) と仕分けられた結果だけを見て、 無効資料が隣接・関連する技術分野に限られないケースもある 3以上の証拠が認められるケースもある と判断し、 (許容される範囲は不明瞭ながら)実用新案が必ずしも無効化しにくいというわけでは ないと結論づけるのは、 無効化方策の結論をミスリードする恐れがあると感じる。 18 4.研究に基づく成果 創造性の判断方法に沿って冷静に事例を検討する(1) 専利審査指南 第四部分「復審と無効請求の審査」 第四章「無効宣告請求の審査」 3. 無効宣告請求の形式審査 3.3 無効宣告請求の範囲及び理由と証拠 (5)請求人は、無効宣告の理由を具体的に説明しなければならない。証拠を提出してい る場合には、提出したすべての証拠について具体的に説明しなければならない。技術方 案を比較する必要のある発明又は実用新案の専利について、係争専利及び引例文献 にある関連技術方案を具体的に描写し、比較分析を行わなければならない。比較する 必要のある意匠専利については、係争専利及び引例文献にある関連図面又は写真に よって示された物品の意匠を具体的に描写して、比較分析を行わなければならない。 例えば、請求人が専利法22条3項における無効宣告の理由について、複数の引例文献 を提出している場合には、無効宣告の請求対象専利と最も隣接している引例文献、そし て単独比較か結合比較かとの比較方式を明記し、係争専利と引例文献にある技術方案 を具体的に描写し、比較分析を行わなければならない。結合させた比較であり、2つ又は 2つ以上の結合方式がある場合には、具体的な結合方式を明記しなければならない。異 なる独立請求項については、最も隣接している引例文献を個々に明記してもよい。 ・・・・・・・・・・・・ 19 4.研究に基づく成果 創造性の判断方法に沿って冷静に事例を検討する(2) 専利審査指南 第二部分「実体審査」 第四章「創造性」 3. 発明の創造性の審査 3.2.1.1 判断方法 保護を請求する発明が現有技術に比べて自明的であるかどうか を判断するには、通常は以下に挙げられる3つの手順に沿って 行って良いとする。 (1)最も近似した現有技術を確定する (2)発明の区別される特徴及び発明で実際に解決する技術的問 題を確定する (3)保護を請求する発明がその分野の技術者にとって自明的であ るかどうかを判断する 20 4.研究に基づく成果 (手順1)最も近似した現有技術を確定する 最も近似した現有技術とは、現有技術において保護を請求する発明と最も密接に関連し ている1つの技術方案を言う。これは、発明に突出した実質的特徴を有するかどうかを判 断する基礎になる。最も近似した現有技術は、例えば、保護を請求する発明の技術分野 と同一であり、解決しようとする技術的問題、技術的効果又は用途が最も近似し、及び/又 は発明の技術的特徴を最も多く開示している現有技術、若しくは、保護を請求する発明の 技術分野とは違うが、発明の機能を実現でき、かつ発明の技術的特徴を最も多く開示して いる現有技術など。注意されたいのは、最も近似した現有技術を確定する時に、先ずは技 術分野が同一又は近似している現有技術を考慮しなければならない。 中心証拠は同一分野であって、且つ、請求項の構成要素(クレームエレメント) ができるだけ共通するもの(共通数が重視)が求められる。 【参考】パテント 2014年3月号 「中国における特許・実用新案の進歩性判断について」 北京集佳知識産権代理有限公司 経志強弁理士 『この判断手順は形式上日本とほぼ同じであるが,具体的な内容を見ると日本の判断手法と異なる部分もある。まず,手順1における最 も近接する先行技術(主引用発明)の選定において,中国の審査基準では,技術分野が同一又は類似する先行技術を優先的に選定し, 共通の技術的特徴の数も考慮される(「専利審査指南」第二部分第四章の3.2.1.1)。これに対し,日本の審査基準では,「論理づけに 最も適した一の引用発明を選び,請求項に係る発明と引用発明を対比する」とされている。したがって,同じ引用文献を使って同じ発明 の進歩性を判断する場合でも,中国の審査官と日本の審査官がそれぞれ異なる引用文献を主引用発明とすることは有り得る。 例えば,2011 年に中日韓特許審査専門家部会が行った「進歩性に関する事例研究」の事例1では,「改良無緩型牽引棒組立体」に関す る特許出願について中日韓三国の特許庁は,提示された3つの引用文献に対して請求項に係る発明が進歩性を有するかについてそれ ぞれ独自に審査を行った結果,日本の特許庁は進歩性を否定する論理を構成するために最も適した引用文献1を最も近接する先行技 術とし,引用文献2を補助的な先行技術として選定したことに対し,中国の国家知識産権局は請求項に係る発明との共通点が最も多い 引用文献2を最も近接する先行技術とし,引用文献1を補助的な先行技術として選定した。勿論,最も近接する先行技術の選定につい て事例毎にまたは審査官によって多少差違があるが,上記審査基準の差異が大きな影響を与えていると考えられる。』 21 4.研究に基づく成果 (手順2)発明の区別される特徴及び発明で実際に解決する技術的問題を確定する 審査において、発明で実際に解決する技術的問題を客観的に分析し、確定しなければな らない。そのため、先ずは保護を請求する発明が最も近似した現有技術に比べて、どんな 区別される特徴があるかを分析し、それからこの区別される特徴で達成できる技術的効果 に基づき、発明で実際に解決する技術的問題を確定しなければならない。この意味で言え ば、発明で実際に解決する技術的問題とは、より良好な技術的効果を得るために最も近 似した現有技術に対し改善する必要のある技術的任務を言う。 審査の過程において、審査官が認定する最も近似した現有技術は、出願人が説明書に おいて説明している現有技術と異なる可能性もあるため、最も近似した現有技術に基づき 改めて確定した、発明で実際に解決する技術的問題は、説明書において説明している技 術的問題と異なる可能性がある。こうした場合に、審査官が認定した最も近似した現有技 術に基づき、発明で実際に解決する技術的問題を改めて確定しなければならない。 改めて確定した技術的問題は、おそらく各発明の具体的な状況により定める必要がある。 その分野の技術者が当該出願の説明書の記載内容からその技術的効果を知り得るもの なら、原則としては、発明の如何なる技術的効果でも改めて確定した技術的問題の基礎と なることができる。 中心証拠との対比により実際に解決する技術的課題(明細書で述べている技 術的課題とは必ずしも一致しない)が改めて認定される。 無効化の観点で言うと、改めて認定された課題に関し、権利者は明細書に記 載の無い効果も主張することがある。(例:事例1、11) 22 4.研究に基づく成果 (手順3)保護を請求する発明がその分野の技術者にとって自明的であるかどうかを判断 する この手順において、最も近似した現有技術及び発明で実際に解決する技術的問題に着 手して、保護を請求する発明がその分野の技術者にとって自明的であるかどうかを判断し なければならない。判断の過程において確定するのは、現有技術が全体として、ある種の 技術的示唆が存在するかということ、つまり現有技術の中から、前述の区別される特徴を その最も近似した現有技術に運用することにより、そこに存在する技術的問題(即ち、発明 で実際に解決する技術的問題)を解決するための示唆が示されているかということである。 このような示唆は、その分野の技術者がその技術的問題に直面した時に、その最も近似し た現有技術を改善して、保護を請求する発明を得るために動機づけるものである。現有技 術にこのような技術的示唆が存在する場合には、発明は自明的であり、突出した実質的特 徴を有しない。 以下の2つを共に判断する。 ①中心証拠との相違点が他の現有技術(別の証拠または技術常識)に開示されているか。 ②当該相違点が開示されている他の現有技術を中心証拠に適用する場合に、既に認定 した実際に解決する技術課題を解決する示唆が現有技術全体の中に存在するか。 無効化の観点で言うと、権利者が主張するかもしれない明細書に記載の無い効果まで考 慮して、他の現有技術の証拠に示唆があるかを考慮しなければならない。 これはとても難しいことなので、結果として、中心証拠はできるだけズバリのものがよいと いうことになる。(言うまでもないですが・・・) 23 4.研究に基づく成果 研究した事例の中から2つの事例(事例6と7)を取 り上げ、スライド19-23の内容を踏まえ詳細に検 討した結果を説明する 24 4.研究に基づく成果(事例6) 本件は、発明専利が出願された後、対応する実用新案が出願され、当該実用新案に無効 審判がかかり、実用新案の有効性を争ったケースである。 無効審判の結果、並列接続を特徴とする請求項1は有効となり、直列接続を特徴とする請 求項2は無効となった。 尚、発明専利は途中で取り下げられたため、実用新案との実質的な比較できなかった。 日付 発明専利 2002年04月22日 出願 対応実用新案 実用新案への無効審判 出願 2002年05月31日 2002年09月25日 実体審査請求(早期公開請求) 2002年12月25日 公開 2003年03月19日 実体審査開始 授権 2003年07月30日 2004年09月14日 無効審判請求 2005年04月25日 口頭審理 2006年11月26日 審決 2008年05月16日 2008年09月26日 審査意見通知書発行? 2009年03月25日 取り下げ 25 4.研究に基づく成果(事例6) 有効(創造性あり)と判断された請求項 請求項1(並列接続) マイナスイオン発生器付き省エネ蛍光灯 は以下を含む (1)交流整流フィルター回路:それ は交流を直流に変換する; (2)起動回路:それは発振回路を起 動するためにパルス信号を生成する; (3)発振回路:それは直流電圧を高 周波発振電圧に変換する; (4)LC直列共振出力回路:それは蛍 光管を点灯する高周波数高電圧を生成 する; (5)マイナスイオン発生回路とLC直 列共振出力回路は発振回路に並列接続 されている; (6)発振回路から出力される発振電流は 高電圧変圧器T2の一次コイルT2aに流れ、二 次コイルL2bに高周波数電圧が誘導される; (7)二次コイルT2bで誘導された高周波数 高電圧はダイオードDとキャパシタCの整流 フィルターを介して、10000ボルトの負電圧 を生成し、空気中にマイナス酸素イオンを 放出する; (8)コイルT2aとT2bとの間には抵抗R4が 直列接続されている。 26 4.研究に基づく成果(事例6) 無効(創造性なし)と判断された請求項 請求項1とは、並列接続か直列接続の違い 請求項2(直列接続) マイナスイオン発生器付き省エネ蛍光灯は 以下を含む (1)交流整流フィルター回路:それは 交流を直流に変換する; (2)起動回路:それは発振回路を起動 するためにパルス信号を生成する; (3)発振回路:それは直流電圧を高周 波発振電圧に変換する; (6)発振電流は高電圧変圧器T2の一次コ イルT2aを流れ、二次コイルT2bに高周波数 電圧が誘起される; (4)LC直列共振出力回路:蛍光管を点 灯する高周波数高電圧を生成する; (5)マイナスイオン発生回路とLC直列 共振出力回路は発振回路に直列接続され、 即ち高電圧変圧器T2の一次コイルT2aを、 発振回路とLC直列共振出力回路との間に 直列接続している; (7)二次コイルT2bで誘起された高周波数 高電圧はダイオードDとキャパシタCの整流 フィルターを介して、10000ボルトの負電圧 を生成し、空気中にマイナス酸素イオンを 放出する; (8)コイルT2aとT2bとの間には抵抗R4が 直列接続されている。 27 4.研究に基づく成果(事例6) 対比文献1:ZL01204395.8 (実案) 対比文献2:ZL93212188.8(実案) マイナスイオン発生器付き蛍光灯 マイナスイオン発生器 対比文献3:CN1154739A(特許) 空気浄化装置 文献3の並列回路 整流器23→逆相増幅器25→変圧器26→ 高電圧整流器27 整流器23→逆相増幅器24→ランプ12 28 4.研究に基づく成果(事例6) 対象実用新案の請求項1(並列接続) (1)交流整流フィルター回路;それは交流を直流に変換する (2)起動回路;それは振動回路を起動するためにパルス信号を 生成する (3)振動回路;それは直流電圧を高周波振動電圧に変換する (4)LC直列共振出力回路;それは蛍光管を点灯する高周波数高 電圧を生成する (5)マイナスイオン発生回路とLC直列共振出力回路は振動回路 に並列接続されている (6)振動電流は高電圧変圧器T2の一次コイルT2aを流れ、二次コ イルT2bに高振動数電圧が誘起される (7)二次コイルT2bで誘起された高周波数高電圧はダイオードD とキャパシタCの整流フィルターを介して、10000ボルトの負電圧 を生成し、空気中にマイナス酸素イオンを放出する (8)コイルT2aとT2bとの間には抵抗R4が直列接続されている 対比文献 対比文献 対比文献 1 2 3 ◯ ◯ - - ◯ - - ◯ - - × - △ ◯ - - × ◯ - × ◯ - 中心証拠の対比文献1には直列接続は記載されていたものの並列接続の開示は無し。 無効請求人はその差異に文献3を当てたが、本件は整流器を用いて生成された直流電圧を高周波発 振電圧に変換した後に並列接続するのに対し、補足証拠の対比文献3は整流器から並列接続されて いる点で技術方案が異なり、当業者が簡単に対比文献1および対比文献2を合わせた技術方案に組 み合わせることができないと判断された。結果論ではあるが、明細書に並列接続での格別な効果の記 載はなく、権利者は並列接続による格別な効果も主張していないことから、対比文献3を使わずに直 列接続を並列接続に変えることは技術常識だと主張した方がよかったのではないかと考えられる。 29 4.研究に基づく成果(事例6) 対象実用新案の請求項2(直列接続) 対比文献1 対比文献2 (1)交流整流フィルター回路:それは交流を直流に変換する; (2)起動回路:それは発振回路を起動するためにパルス信号を 生成する; (3)発振回路:それは直流電圧を高周波発振電圧に変換する; (4)LC直列共振出力回路:蛍光管を点灯する高周波数高電圧を 生成する; (5)マイナスイオン発生回路とLC直列共振出力回路は発振回路 に直列接続され、即ち高電圧変圧器T2の一次コイルT2aを、発振回 路とLC直列共振出力回路との間に直列接続している; (6)発振電流は高電圧変圧器T2の一次コイルT2aを流れ、二次コ イルT2bに高周波数電圧が誘起される; (7)二次コイルT2bで誘起された高周波数高電圧はダイオードD とキャパシタCの整流フィルターを介して、10000ボルトの負電圧 を生成し、空気中にマイナス酸素イオンを放出する; (8)コイルT2aとT2bとの間には抵抗R4が直列接続されている。 ◯ ◯ - ◯ ◯ - ◯ - ◯ - × ◯ × ◯ 請求項2の技術方案は、対比文献1、2を合わせ、簡単に組み合わせることができる。 30 4.研究に基づく成果(事例6) 本件における請求項1の創造性の判断において、現有技術の文献数が3つになってし まったことが無効にできなかった最大の理由とは思えない。 むしろ無効にできなかった理由は、そもそも請求項1の構成要素(5)を開示する適切な 現有技術(技術常識を含む)を示せなかったことにより、単純な重ね合わせだとPRBを説 得できなかったことが原因であると考える。 31 4.研究に基づく成果(事例7) 本案件は、登録された実用新案に対して無効審判が請求され、 PRBと一審(中級法院)において無効と判断されたが、 上級審(高級法院)において前審を覆して有効であると判断され、 別の証拠を加えた2回目無効審判においても、有効であると判断されたケースである。 1回目 1999年04月30日 2000年04月19日 2000年11月17日 2001年09月26日 2001年 2002年06月20日 2002年 2003年03月20日 2004年07月01日 2004年10月08日 2回目 2006年01月26日 2007年08月29日 :航星公司が実用新案出願。 :専利権取得 (実用新案番号:ZL99226473.1) :江蘇海獅公司がPRB(国家知識産権局復審委員会)に無効審判を請求。 :PRBによる決定 (専利権無効 (全Claimに対して)) :江蘇海獅公司が北京市第一中級人民法院に提訴。 :北京市第一中級人民法院判決 (PRB決定を維持する:専利権無効) :江蘇海獅公司が北京市高級人民法院に上訴。 :北京市高級人民法院判決 (PRB決定を取消す:専利権有効 (全Claim)) :合議体再結成の上、再審理を開始。 :PRBによる決定 (専利権有効) :上海鸿尔机械有限公司がPRBに、別途、無効審判を請求 :PRBによる再決定 (専利権有効) 32 4.研究に基づく成果(事例7) 1回目 本件 フレーム 機械主体 ベース(底座) バネ台 油圧緩衝器 フレーム台 【請求項1】 サスペンション型全自動 洗濯脱水機において、 フレーム(1)と、 前記フレーム内に設置された機械主 体(2)と、を含み、 前記機械主体(2)の下方にベース (底座)(4)が備えられ、前記機械主体 (2)と前記ベース(4)との間に左右対称 にバネ衝撃吸収器(3)と油圧緩衝器 (5)が備えられていることを特徴とする。 <提出した現有技術は一つの特許文献(CN2267262Y)のみ> 外フレーム 機械主体 (フレーム内に設置される) バネ衝撃吸収器(機械主体の 左右に対称に設置) 油圧緩衝器 (機械主体の前後に対象に設置) 現有技術(CN2267262Y) 実施例2は、バネ衝撃吸収の 構造に関する内容。 その中に、バネ衝撃吸収器の 一部となる両端の部品が外フ レームに設置されているベース (底座)と機械主体にそれぞれ 連結する旨の記載あり。 33 4.研究に基づく成果(事例7) ■実用新案権者の主張 バネ衝撃吸収器が機械主体とベースの間にあるのに対して、現有技術文献は、機械主 体の左右前後にバネ衝撃吸収器が設置されている。 本発明は、機械主体の衝撃がベースを通して地面に伝わるので、フレームは衝撃を受 けないという効果がある。 フレームとベースとは異なる概念であり、ベースはフレームと分離可能 ■北京高級人民法院は科学技術部知財事務中心に「技術鑑定報告書」を委託 【技術鑑定報告書の概要(2002年11月28日提出)】 本件の「ベース(底座)」と「バネ衝撃吸収器」及び現有技術の「外フレームの底部」と「バ ネ衝撃吸収器」との構造、位置、作用は同じではなく(不相同)、また、それらと機械主体 との結合も同じではない(不相同) 。 当該技術分野の当業者が現有技術の記載に基づき、本専利権と基本的に同じ手段・機 能・効果を有する技術方案を想到できるとは言えない。 本鑑定書の原文は確認出来ず 34 4.研究に基づく成果(事例7) 現有技術文献(CN2267262Y) 本件請求項1 PRBの決定、及び 中級法院の判決 高級法院の判決 サスペンション型全自動洗濯脱 水機において、 ◎ ◎ フレームと、 ◎ ◎ 前記フレーム内に設置された機 械主体と、を含み、 ◎ ◎ 〇 実施例2に、ベース(底座) に関する記載あり × ベース(底座)の記載がない。実施例2に記載のベー ス(底座)については総合的に判断するとフレームの 底部と解釈すべき。 〇 実施例2に、ベース(底座) とバネ衝撃吸収器とを接続 する旨の記載あり △ バネ衝撃吸収器の記載はあるが、接続先のベース( 底座)に関する記載がない。 〇 実施例1にフレームの底部 と油圧緩衝器を接続する 記載と、実施例2の記載か ら、容易に想到可能 △ 油圧緩衝器の記載はあるが、接続先のベース(底座) に関する記載がない。 前記機械主体の下方にベース( 底座)が備えられ、 前記機械主体と前記ベース(底 座)との間に左右対称にバネ衝 撃吸収器と油圧緩衝器が備えら れていることを特徴とする 35 4.研究に基づく成果(事例7) 本件 フレーム 2回目 機械主体 ベース(底座) バネ台 油圧緩衝器 現有技術1(CN2267262Y) フレーム台 【請求項1】 サスペンション型全自動 洗濯脱水機において、 フレーム(1)と、 前記フレーム内に設置された機械主 体(2)と、を含み、 前記機械主体(2)の下方にベース (底座)(4)が備えられ、前記機械主体 (2)と前記ベース(4)との間に左右対称 にバネ衝撃吸収器(3)と油圧緩衝器 (5)が備えられていることを特徴とする。 Outer Housing 現有技術2(US5711171A) バネ衝撃 吸収器 Motion damping 油圧緩衝器 Spring Base Plate 21 36 36 4.研究に基づく成果(事例7) 既存の現有技術に、ベースの記載がある文献を一つ追加(US5711171A)し再度無効審 判を起こす。しかしながら、PRBの判断は、以下のとおり。 ■PRBの判断 ①本件のベース(底座)は機械主体の下側に設置されているが、現有技術2のBase Plateは外フレームと一緒になって機械主体を構成している。 ②本件のバネ衝撃吸収器と油圧緩衝器は機械主体の下側に設置されるが、現有技術2 の緩衝器は機械主体の直立下方向にあるわけではない。 以上の違いから、本件のベース(底座)による(機械主体)の支え方及び振動の伝え方は 現有技術2とは異なると言える。つまり、本件のベース(底座)は機械主体の下側で直接 機械主体を支え、振動は機械主体からベース(底座)に伝わり、それから地面に伝わる。 現有技術2の振動は外フレームに伝わり、且つ、Base Plateも横向きの力を受ける。 よって、本件請求項1の技術方案は現有技術2(及び現有技術1)とは異なり、二者の組 み合わせをしても請求項1の技術方案を想到するのは容易ではない。 37 4.研究に基づく成果(事例7) ベース(台座)の観点において、2回目の無効審判で新たに提出した現有技術2が、 PRBの創造性判断に有効に機能していない。結局、現有技術1と現有技術2とは共に、 ベース部分はフレームの底部であってフレームの一部にすぎず、ベースが別体である 本件実用新案とは異なる構成を持ち、作用効果も異なると判断された。 振動を吸収するためにベース(台座)を別体で敷くことは周知慣用であるというアプロー チにより単純な重ね合わせであると主張すべきだったのでは?と思われる。 38 5.実務への提言 1. 創造性の観点において、実用新案専利が発明専利に比べて無効化しにくいを示す客 観的な事例は見つからなかった。(今のところ、判断できない) 2. それよりもむしろ、創造性の判断方法が日中で異なる部分があることを再認識すべき 。通常審査に比べ審判はその性質上厳密に規則が適用される傾向にあるため無効化 しにくいとの印象を与えている可能性あり。(これは実用新案専利に限らないと予想す る。実用新案の無効審判での維持率が発明専利と大差ないのはそのためか?) 3. 中心証拠は同一技術分野でクレームの構成要素ができるだけ共通なものを見つけ出 す(共通要素の数を重視)。当たり前だが、ズバリの文献に近いものほど良く、証拠の 組み合わせ数を減らす努力はすべき。 4. 中心証拠に開示されていない構成要素を補うための別証拠が弱いと感じたら、当該別 証拠を無理に使用せず、技術常識を強く主張することも検討する。無効化のアプロー チで失敗していると思われる事例が見受けられる。(事例6,7) 5. だからと言って中心証拠が開示していない多くの差異を全て技術常識として無効主張 するのは乱暴。(事例9) 6. PRBでつぶれなければ、審決取消訴訟は検討すべき。(行政訴訟で判断が覆った事 例1、7、8、9) 7. 一方権利者の立場では、改めて認定された「実際に解決する技術的課題」に関し、明 細書に記載の無い効果であっても主張することは試みるべき(事例1、11)。 39 ご清聴ありがとうございました。 中国IPG 事務局 日本貿易振興機構(JETRO) 北京・上海・広州事務所
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