「検定検査乳S」です。 - 北海道酪農検定検査協会

発行人 熊野 康隆
2015.7.16
No.
33
検定・検査情報の活用が
あなたの明日を支えます!
目 次
1.事故対策が求められる「死産」 ・・・北海道 NOSAIより・・・
………………… 2
~ 死産が後継牛確保に支障!!これは大きな損失です!! ~
2.血乳について… ………………………………………………………………………… 3
3.牛群検定 WebシステムDL… ………………………………………………………… 4
4.牛個体識別データから見た今後の乳用牛動向 について… ………………………… 6
5.シリーズ「乳の数値から今の酪農を読み取る」①
~ なぜ、乳脂率は低下してきたのか ~
…………………………………… 7
6.調整交配へのご協力について… ……………………………………………………… 8
7.当面の主な行事予定… ………………………………………………………………… 8
ホームページ http://www.hmrt.or.jp
No. 33
2
事故対策が求められる「死産」…北海道NOSAIより…
~ 死産が後継牛確保に支障!! これは大きな損失です!! ~
ホルスタイン種の母牛が受胎した胎子・子牛
の9% は「死産」によって失われています。乳用
胎子・子牛の死廃事故に占める「死産」の割合は
67% を占めています(図)
。なお本稿で述べる
「死産」とは胎齢240日以上の胎子の死亡、ある
いは出生当日に死亡・廃用となった子牛を指しま
す。
「 死 産 」 が 図 乳用胎子・子牛の死廃事故に
占める「死産」の割合
酪農経営に及
(H26 北海道の家畜共済実績)
ぼす影響は甚
大 で す。
「死
産」による経
済損失は子牛
の損失に留ま
らず、
「死産」
した母牛の
淘汰・空胎期
間延長・乳量
減にまで及び 乳用胎子・子牛の死廃事故頭数(45,468 頭)
ます。その経 乳用子牛等引受総頭数(662,942 頭)
済損失額は子牛損失よりも母牛の生産性低下に
よる損失のほうが大きいことが知られています。
また乳用種雌子牛の「死産」は後継牛の損失を
意味するので、搾乳牛の更新を遅らせる等、生
産基盤を土台から揺るがします。
「死産」発生には、以下の表のような傾向があ
ることが知られています。また、「死産」の半分
は難産に起因するようです。近年は難産と関連
しない「死産」が増えていることが報告されて
いますが、その真因は不明です。
諸外国では難産リスクの低い精液の人工授精
は、実際に難産を回避し、結果的には経済的で
あったと報告されています。近年、性選別乳牛
精液の使用により、難産が減少したとの報告が
あります。性選別乳牛精液の使用により約90%
の確率で雌子牛が出生します。雌子牛は雄子牛
よりも相対的に体格が小さいので、難産リスク
が低いと考えられています。ただし性選別乳牛
精液には通常精液より受胎率が低い傾向があり
ます。
死産胎子・子牛の約90% は分娩開始時点では
生存しているため、「死産」の多くは未然に防ぐ
ことが出来るとの報告がありますので、分娩看
護によっても「死産」は減らせると思われます。
「死産」によって出生子牛の9% が失われ
ています。これは子牛損失に留まらず、母
牛の淘汰・空胎期間延長・乳量減にまで及
びます。
「死産」は酪農生産基盤を土台から
揺るがしており、その事故対策が求められ
ています。
表 死産発生の傾向
死産の発生
要 因
多 い
冬 季
多胎分娩
初産母牛
雄子牛
少ない
夏 季
単胎分娩
経産母牛
雌子牛
・・・ 死産事故への対策【北酪検より】・・・
検定農家106戸を分析した結果、子牛の年間死産率は0〜21%と酪農家間でかなりの幅があり、毎年同様の
死産頭数です(図1)
。死産は、子牛だけでなく母体にも次期の繁殖や淘汰などでマイナスに影響します。管理
がしっかりされていれば、死産率を限りなく0%に近づけることも可能です。死産を防ぐ飼養管理上のポイント
は以下のとおりで、後継牛を確保するためにも是非取り組みましょう!!
①個体検定日成績の「性別」欄で死産頭数を数え、割合が5%以上の場合、原因を追究しましょう!(図2)
②初産牛や体の小さな雌牛は難産を避けるため、種雄牛の選定や性選別・黒毛の精液を適正に授精しましょう!
③分娩の際は、繋ぎから解放し自由度を高め、敷料を豊富に入れるなど床面が滑らないよう注意しましょう!
④出産が近くなってきた牛は監視を強化し、早すぎ・強引な介助をすることなく、自然分娩へ導きましょう!
⑤産まれた子牛は母牛に舐めさせ、速やかに高品質な初乳を飲ませ、冬期間は保温対策をしましょう!
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3
血乳について
道内で取引されるミルクタンクローリー乳での
異常乳は洗浄水の混入、血乳、細菌増殖、異常風
味などがあり、異常乳における事故の中で血乳に
よる廃棄事故は毎年、数件のペースで発生してい
ます。平成24年度から3ヵ年の血乳による廃棄件
数とその原因を表に示しました。
表 過去3ヵ年の血乳によるミルクタンクローリーの廃棄件数とその原因
年 度
廃棄件数 廃棄乳量 (t)
血乳が廃棄事故に
占める比率 (%)
発生原因
対 応
H24
8
73
30.8
乳房損傷
(3)
、外傷なし
(2)
、搾乳ロボット
停電による突発性乳房炎
(1)
、不明
(2)
フィルター見落とし
(5)
、
フィルター問題なし
(1)
H25
8
83
22.9
乳房損傷
(3)
、外傷なし
(3)
、不明
(2)
フィルター見落とし
(6)
H26
8
85
36.4
乳房打撲
(1)
、外傷なし
(3)、生理的要因
(1)
、不明
(3)
フィルター見落とし
(5)
、
フィルター問題なし
(3)
(北海道乳質改善協議会調べ)
平成26年度の血乳による廃棄乳量は85トンと
なっています。発生原因としては乳房の打撲・損傷
が多いのですが、外傷なしも毎年報告されていま
す。そのときの酪農家の対応としては、
「搾乳終了
後ミルクフィルターを確認していない」がほとんど
で(平均5.3件)
、
「ミルクフィルターを確認したが、
問題はなかった」という例も散見されます。
獣医学大辞典によると、血乳の定義は「乳汁
中に血液が混入して血様または微紅色を呈するも
の」とされており、病的血乳と生理的血乳に分類
されます。前者は乳房炎などの乳腺の疾患や乳房
損傷、後者の場合は分娩直後などの初期にみられ、
分娩後の急激な乳腺組織の充血による
小血管の破裂によるとされています。
血乳は加工原料乳生産者補給金等暫
定措置法(不足払い法)で定める加工原
料乳の規格基準において、視覚検査によ
る「色沢及び組織」における色沢(牛乳
特有の乳白色から淡クリーム色までの色
を呈す)異常として規格外になります。
血乳を出荷しないためには①搾乳時に
図1 酪農家における2年間での死産頭数の関係
乳房・乳頭の状態並びに前搾り乳を確認し、異常
があればバケットミルカーやクオーターミルカー
を用いて別搾乳すること②搾乳終了後必ずミル
カー洗浄前にミルクフィルターの血痕有無を確認
し、血痕があればバルククーラー乳のサンプルを
取って視覚検査すること③ミルクフィルターに問
題ない場合もあるので、泌乳初期での搾乳には注
意することなどが挙げられます。
抗菌性物質残留や異常乳による生乳の廃棄は、
生産者の皆さんの所得減に直結しますので、毎日
の作業において発生を防止できるよう、搾乳作業
工程を今一度確認しましょう。
図2 検定成績表(個体検定日成績)性別欄
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4
Dairy-Data Linkage System(でぃーえる)
牛群検定WebシステムDL
まもなくスタートします!
はじめに
Web システム DL は、乳検データを「今よりもっと活用して頂く」ためのシステムです。
現在、モデル地区で試験運用中ですが、まもなく乳検農家の皆さんにお届けする予定です。
現在稼働中の「牛群検定 Web システム」と連動しており、同じ「ユーザ ID、パスワード」で
利用頂けます。公開の際には、あらためてご連絡しますが、まずは概要についてご紹介します!
牛群検定 Web システムDL ってどんなシステム?
特 徴 リアルタイムな繁殖管理ツール!
乳検で報告された記録のほか、授精師さんが全国データベースに
報告した授精記録、皆さんがシステムに入力した記録を自動反映
していきます。
さらに、個体識別情報を使って追加・除籍・分娩も自動的に反映
していきますので、面倒な入力作業は最小限! 毎日「動く」繁殖データを、これからの管理にお役立て下さい!
特 徴 バルク情報との連携ツール!
出荷ごとの乳量、定期検査の乳成分データが自動更新されます※
バルク情報が月1回の乳検情報に加わることで、より緻密な牛群
管理が可能になります!
飼料設計をお願いする支援者にも、簡単に情報提供ができるので、
これまで以上のバックアップが期待できるかも知れません。
※ バルク情報の利用について
情報提供に関する同意、承諾書等の手続きは別途ご連絡致します。
特 徴 生産情報の 視覚化ツール!
乳検情報は、
「数字が多くて使いこなせない…」
「速報しか使えていない…」
、
こんな悩みをお持ちの方には、本システムが活用をお手伝い致し
ます! 隠れていた課題がきっと見つかるはずです。
全道の農場とデータを比較して、ご自分の 立ち位置 を確認して
みましょう!
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5
こんな機能であなたをサポート!
繁殖管理
繁殖管理ステージ別の頭数をリアルタイム管理!
“繁殖管理のホワイトボード ”を見るように、見たい
ステージをクリックすると該当牛の一覧を表示します。
牛の「並び替え」「絞り込み」も自由自在で、牛番号を
クリックすると、詳細な繁殖成績や乳検データが確認
できます。
帳票やファイルも作成できます
当日にチェックするべき個体をリストアップする機能
もありますので、毎日のタスク管理に役立ちます。
バルク情報
農場と支援者の橋渡しをお手伝い!
システムでは、自動的に出荷乳量や定期検査データ
が更新され、日々の変化はグラフでモニターできます。
生乳を廃棄した頭数を入力していくと、月内(検定~
次回検定) の個体乳量がグラフに表示され、飼養管理
と乳質管理の両面で使えるデータが蓄積されます。
データはファイル形式でも出力できるので、エサ設計
を担当する支援者に簡単に提供することができます。
グラフで分析
農場の損失を「見える化」! データ分析をもっと楽しく!
総合グラフでは、あなたのデータを4グループ (全道 / 地区 /
頭数規模 / 乳量水準)と比較できます!
グラフの項目は、経済的損失と関連の強いものばかりなので、
儲けに直結する課題が見えてくるはずです。
課題を見つけた後は、対策別グラフ(乳質 、 繁殖など)を使っ
て、より効果的な対策を検討しましょう!
総合グラフで、課題を発見!
対策別グラフで、さらに深く!
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6
牛個体識別データから見た今後の乳用牛動向について
家畜個体識別データにおける乳
用種(雌牛)
での24ヶ月齢以上の頭
数推移を図1に示しました。都府県
では、以前からこれら頭数は減少
傾向にありましたが、北海道では、
2012年の夏頃から、全体として減
少フェーズに入っていることがわか
ります。これは実に年間1万頭ペー
スの割合で、この傾向はますます大
きくなっています。
図 1 乳用種
(雌牛)
での 24ヶ月齢以上の頭数推移
次に、乳用種(雌牛)
での23ヶ月
齢以下の頭数推移を図2に示しまし
た。都府県では、
2013年に回復に
転じたかと思われましたが、
2014
年7月以降、減少傾向が大きくなっ
てきました。北海道は、
2013年の
秋以降回復傾向に転じたのではな
いかと考えられましたが、2015年
になってから、その勢いが衰えてき
ています。
図 2 乳用種
(雌牛)
での 23ヶ月齢以下の頭数推移
ここまで搾乳牛頭数の減少という
傾向が顕著になってくると、いかに
して後継牛を確保するかという大き
な問題に突き当たります。
年々経産牛頭数が減少する部分
を、北海道では、若牛の増加によっ
て、2014年度は、その減少ペース
を抑えられてきた部分がありました
が、直近になってその動きにも陰り
が出てきており、非常に心配な状況
になってきています。
北海道における乳用種と交雑種
の頭数推移を図3に示しましたが、
後継牛としての乳用種頭数が減少
図 3 北海道における乳用種と交雑種
(F1)の飼養頭数推移
傾向にある中、限られた乳用雌牛資
源に対して2013年以降、再び大き
No. 33
く黒毛和種の精液が交配され、交雑種(F1)
が増
も、死産事故等の防止や性選別乳牛精液の活用に
加している傾向にあります。初産での出生時での
取り組む必要があると考えられます。最近の研究
事故を防ぎたいという側面もありますが、今はむ
成果では、通常の乳牛精液より性選別乳牛精液の
しろ、近年の個体価格上昇に伴い、早めに現金化
方が受胎・出生した子牛で難産や死産が少ないこ
したいという理由も大きな要因になっているので
とも明らになってきており、これらの活用は、今
はないでしょうか。
後の乳用後継牛確保への有効な方策になっていく
乳用種の頭数が減少していくことを防ぐために
ものと考えられます。
「乳の数値から今の酪農を読み取る」①
シリーズ
~ なぜ、
乳脂率は低下してきたのか ~
過去15年間の合乳検査成績をみると、乳量、
乳タンパク質率、無脂固形分率は高まり、生菌数
や体細胞数も改善されてきています。しかし、乳
脂率だけは平成14年度に4.051%だったものが、
26年度には3.927%まで低下しています。
10年
間でわずか0.12%と思われるかもしれませんが、
北海道全体から判断すると、これは重く何かを示
唆している数値ではないでしょうか。 要因としては、乳牛の育種改良の結果とも考え
られるのですが、乳脂率の原料になるルーメン内
図 北海道における年次別乳脂率の推移
での酢酸、酪酸を産生する粗飼料は、どうなって
性炭水化物)が少ないため、乳酸発酵しづらく採
きたのでしょう。北海道の牧草作付面積は55万
食量を落してしまいます。
haですが、あるべき品質と必要な量というもの
その一方で、規模拡大が進んだこともあり、機
を軽視してきたのではないでしょうか。
械の大型化、高度化、外部委託と変わってきま
草地の更新率は、平成5年に6%前後であった
した。大きなハーベスターが草地を走り、併行す
ものが平成22年には2.8%まで低下しています。 る大型トラックが頻繁に重いタイヤで幾度も動き
これは、更新は30年に一回という頻度まで減っ
回るのを多く目にするようになってきました。ま
ているということを意味しています。関連する事
た、最近はTMRセンターが各地域に出現してい
業が減少したこともあって、石灰を適正に投入さ
ることで、土壌の硬度化が加速してきたように思
れていないなどの結果、草地の土はpHが低くな
えます。従来まで見られなかったサイレージ用ト
り、播種したチモシーやアカクローバが消え、踏
ウモロコシについても、すす紋病や根腐病も発生
圧に強い草だけを優先してきた部分があるのでは
してきています。
ないでしょうか。ギシギシやレッドトップからシ
以前は濃厚飼料が安かったため、購入飼料を上
バムギ、リードカナリーグラスやメドウフォック
手く組み合わせることで乳生産を高めることがで
ステールなどの地下茎イネ科雑草が増えてきたの
き、所得も多かったのも事実です。しかし現在は、
もそのためです。
濃厚飼料の価格上昇とともに自給飼料が再認識さ
各地で草地の草種構成の調査が行なわれていま
れ、各地で植生改善プロジェクトが動き始めてい
すが、およそ半分は雑草というショッキングな報
ます。また、トウモロコシは根が 2mを超えて張
告が多いのも事実です。雑草は牧草と比べ極端に
るため、土づくりを目的とした輪作作物を活用し、
出穂が早く、おまけに栄養価を下げ、WSC
(水溶
栽培面積を急速に拡大してきています。
7
No. 33
8
いつしか、酪農家は省力化を追求し、大型化と
さに、昔から言われている
「牛づくりは草づくり、
進む中で、草や土の変化を身近に感じる機会が少
草づくりは土づくりから始める」ことを、この乳
なくなり、あるべき姿を忘れつつあるのかもしれ
脂率のグラフが教えているように思えます。
ません。
今一度、大切な土作り・草づくりをしっかり見
牛は草食動物であることを考えると、良質な
直してみませんか?
サイレージ、乾草を調製して給与すべきです。ま
お知らせ
草地に大型機械が頻繁に走る功罪
農業試験場や農業改良普及センターで乳牛の飼養管理を
中心に活躍された田中義春氏が平成27年4月から本会に勤
務しています。
現場における乳検成績活用・栄養・繁殖・疾病・管理・・・・
など、技術的な問題や研修会等で対応が必要な際は、お気
軽に本会までご連絡下さい。
☆☆ 調整交配へのご協力について ☆☆
27後検の調整交配は、11月から開始予定で
取り進めておりますが、ゲノミック評価の手法
を取り入れつつ、候補種雄牛を185頭から160
頭に変更することが、7月15日に開催された全
国乳用牛改良推進会議において決定されました。
牛群検定農家の皆様には、今後とも、優秀な国
内産種雄牛作出のため、後代検定に係る調整交
配並びに娘牛保留に対し、ご協力賜りますよう、
よろしくお願い致します。
後代検定種雄牛精液の調整交配・優先配布などの
お問い合わせは地元の乳検組合まで!!
当面の主な行事予定
●
27年7月〜9月
平成27年度 検定員養成研修会(本別町)3回開催
●
27年9月下旬
平成27年度 生乳取扱者技術認定講習会(札幌市)
●
27年10月〜11月
平成27年度 検定情報活用研修会(現地密着型研修)
●
27年11月
平成27年度 地区別検定員研修会(全道10箇所)
●
28年2月下旬
平成27年度 検定員中央研修会(札幌市)
●
28年3月上旬
平成27年度 検定情報活用研修会(札幌市)
当機関誌に関するお問い合わせは下記までお願い致します。
総務部企画課
TEL 011­271­1342