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Title
機械システムの受動性に基づく非線形制御に関する研究( 本
文(Fulltext) )
Author(s)
清水, 年美
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(工学) 甲第196号
Issue Date
2003-03-25
Type
博士論文
Version
publisher
URL
http://repository.lib.gifu-u.ac.jp/handle/123456789/1917
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。
機械システムの受動性に基づく非線形制御に関する研究
Non-1inearControlofMechanicalSystemsBasedonPassivity
1■■■■■■-tt■r-,い■、■-、【-■¶■T■【●■←一一"一←叫、▼一=■岬●■▼仰
司
学才詫、▼ト.-.至(工学)甲
2002年
清
水
年
美
目次
1
1序論
1.1線形制御と非線形制御
1.2
非線形制御の流れと現在の動向.
2
1.2.1厳密な線形化
3
1.2.2
1.2.4
‥‥‥
適応制御.
1.2.3IQC
2
1
‥‥
3
4
‥‥‥‥
非線形最適制御.‥‥‥‥
1.3
受動性にもとづく非線形制御の現在の動向
1.4
本研究の目的.
1.5
本論文の構成
4
‥.
5
6
7
‥.
剛体球磁気浮上系に対するモデルベースド制御
8
2.1
はじめに‥
8
2.2
剛体球磁気浮上系に対するモデリング
9
2.2.1支配方程式の書き換え.
2.2.2
11
支配方程式の性質‥‥
13
2.3
剛体球磁気浮上系に対する受動性解析
14
2.4
剛体球磁気浮上系に対するコントローラの導出.‥‥‥.‥.‥‥.
15
2.4.1
コントローラの導出に利用する命題.‥‥‥..
16
2.4.2
コントローラの設計
18
2.4.3
安定性解析
2.5
‥
21
‥‥
数値シミュレーション.‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥.‥.
22
2.5.1
シミュレーション条件
22
2.5.2
シミュレーション結果
‥‥‥‥‥.‥‥
‥‥‥.‥.‥‥‥.
23
目次
2.6
ii
実験
‥‥‥
‥.‥
27
‥.
27
2.6.1実験条件.
2.7
3
2.6.2
実験結果‥
27
2.6.3
速度信号の改善.‥
30
まとめ
剛体球磁気浮上系に対する電気系と機械系を分離した制御
34
3.1
はじめに...
34
3.2
支配方程式の書き換えとサブシステムへの分割‥‥‥‥.
35
3.3
コントローラの導出
37
3.3.1制御入力祝の決定.‥‥‥.‥
38
3.3.2
目標磁束¢dの決定‥‥‥‥‥
38
3・3・3
目標力んag。の決定‥・
39
3.3.4
安定性解析
40
3.4
数値シミュレーション
3.5
実験.
44
3.6
線形コントローラとの比較.
46
3.6.1線系モデルの導出‥
46
実験条件‥.
47
3.6.2
3.7
4
32
‥
まとめ
42
‥.
51
‥
柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性にもとづく制御
4.1
はじめに....
52
4.1.1柔軟構造物に対する研究動向
52
4.1.2
4.2
52
柔軟構造物に対する磁気浮上系に関する研究動向.‥.
柔軟ビーム磁気浮上系のモデリング‥.
54
4.2.1座標系の設定と柔軟ビームの運動の記述
4.3
53
‥
54
4.2.2
基準座標系で観測した柔軟ビーム磁気浮上系のエネルギ
55
4.2.3
運動方程式の導出‥‥
57
4.2.4
電気系のエネルギに関する考察
59
柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性解析
‥
‥.‥..‥‥‥.‥.
61
iii
目次
4・3・1Lagrange関数による支配方程式の表現
4.3.2
4.4
4.5
4.6
4.7
4.8
5
サブシステムへの分割
63
柔軟ビーム磁気浮上系に対するコントローラ導出
69
‥‥
4.4.1磁束を用いた支配方程式.
69
4.4.2
71
コントローラの導出
数値シミュレーション
78
4.5.1
シミュレーション条件
78
4.5.2
シミュレーション結果
80
実験
88
4.6.1
コントローラの実装に関する検討‥‥
88
4.6.2
実験条件‥‥.
89
4.6.3
実験結果.‥
90
位相進み補償による応答の改善
92
4.7.1モデルベースド型コントローラ,軌道追従制御‥
92
4・7・2
モデルベースド型コントローラ,ステップ入力に対する定値制御‥
96
4.7.3
重力補償付きPDコントローラ,追従制御.
96
4・7・4
重力補償付きPDコントローラ,ステップ入力に対する定値制御‥
98
4.7.5
実験結果まとめ
98
まとめ
‥
‥
結論
.‥.‥..‥.‥..‥.
100
102
5.1本研究で得られた成果
5.2
62
…..
今後の展開
102
103
謝辞
105
参考文献
114
A
115
受動性に関する表記法と諸定理
第1章
序論
1.1
線形制御と非線形制御
1960年にKalman[1]によって創始された状態空間法にもとづく現代制御理論は,最適
制御やカルマンフィルタなどの制御系設計法を世に送り出し,さまざまな機械システムに
適用され大きな成功を収めた.しかし,現代制御理論は制御対象となるプラントのモデル
にもとづく制御方法であるため,プラントモデルが正確に分かっている必要がある.実際
にはプラントモデルを正確に求めることやパラメータを正確に得ることは事実上不可能で
あり,パラメータの不確かさやモデル化誤差を含んだプラントモデルに対してコントロー
ラ設計が余儀なくされている.また,実際のプラントは開いた系であるので,外部環境の
変化に応じてプラントの特性も変化する.このような場合,線形制御理論にもとづいたコ
ントローラでは制御性能の劣化,あるいは安定性が保証されなくなる[2][3]・
このような現代制御理論が抱える問題に対処するため,1981年にZames[4]によって月云
制御理論が提案され,Doyle[5]らによって周波数領域におけるループ整形の重要性が指摘
された.これらの先駆的な研究をきっかけとして,今日ではロバスト制御に関する研究が
数多くなされている.ロバスト制御理論では,制御対象となるプラントのモデルはノミナ
ルモデルにある大きさ以下の構造的,あるいは非構造的不確かさが存在するものとして扱
われる.このとき,ノミナルモデルを中心として最大の摂動幅を半径とする円板状のプラ
ントモデルの集合が得られる.ロバスト制御理論はこのプラントモデルの集合に含まれる
すべてのプラントに対して指定された制御性能を満足するコントローラを設計するための
手法を与える[6].実システムの完全な数学モデルを得るのは事実上不可能であるため,制
御対象として不確かさを含んだプラントの集合を用いるロバスト制御理論は,ノミナルモ
デルのみに対する現代制御理論と比較して,非常に有効であると考えられる.
1
第1章序論
2
非線形モデルとして与えられる制御対象を制御する場合,現代制御理論ではモデル化
によって得られた非線形のプラントモデルを動作点近傍で線形近似し,得られた線形近似
モデルに対してコントローラが設計される.しかし,線形近似モデルでは動作点近傍のご
く狭い範囲でしか実システムを記述できないため,現代制御理論を用いて得られたコント
ローラは動作点近近傍のごく狭い範囲でしか安定性を保証できない.一方,ノミナルモデ
ルを線形近似モデルとし,線形領域から外れることで現われる非線形性を非構造的不確か
さとして扱い,線形ロバスト制御理論を適用することで非線形系に対しても十分な制御性
能を達成できる場合があり,この設計方法を実プラントに適用した文献も見られる[7ト[9].
しかし,安定領域を広く取るためには,不確かさの最大値を大きくする必要がある.一般
に線形ロバスト制御理論は与えられたプラント集合の最悪値に対するコントローラ設計法
であると考えられるので,不確かさの最大値を大きく設定して安定領域を広げることと制
御性能の間にはトレードオフの関係がある.このことより,非線形系に線形ロバスト制御
を適用することの限界が見えてくる.
これに対して非線形制御理論では制御対象のプラントモデルを線形近似する必要がない
ため,コントローラの安定範囲を大きく取ることができる.また,非線形項を陽に扱うの
で,不確かさを考慮し,不確かさを含むプラント集合に対するコントローラ設計を行う場
合,不確かさの最大値を小さく見積もることができる.したがって,非線形制御を行うこ
とで線形制御と比較して高い制御性能が得られると期待できる.しかし,非線形系に対し
ては平衡点の安定性に関する必要十分条件が存在せず,Lyapunov関数を試行錯誤的に探索
することでしか安定性を証明することができない.また,可積分性などの数学的な厳密性
が要求され,扱う系を数学的に厳密に特定する必要がある.これらの理由に加え数学的な
難しさも伴って,実システムに非線系制御理論を適用した例は少なく,理論を中心とした
研究が多く行われている[10].次節では非線系制御に関する研究の流れを簡単に示し,現
在の非線形制御に関する研究動向を手短に述べる.
1.2
非線形制御の流れと現在の動向
非線形制御に関する研究の歴史は意外と古く,1970年代にBrockett,Hermann,Krener,
Fliess,Sussmannらによって線形システムで得られた可制御性,可観測性などの概念を非
線形システムに拡張する試みがなされたのが始まりであるとされている[11].1980年代に
はIsidori,Krener,Gori-Giorgi,Monacoらによって可制御性,可観測性だけでなく,線
1.2.非線形制御の流れと現在の動向
3
形系における多くの結果が非線形システムに拡張された.また,これらの研究と平行して
IsidoriとFliessらにより非線形システムを状態フィードバックと座標変換により線形化す
る手法が考案されている.これは微分幾何学[12]をツールとするコントローラ設計手法で
あり,ここで得られた結果がIsidoriの著書[13]にまとめられている・
以下に現在行われている非線形制御のうち,代表的なものについて述べる.
1.2.1
厳密な線形化
厳密な線形化はIsidoriによって提案されたコントローラ設計手法[13]であり,設計ツー
ルとして微分幾何学を用いた設計理論である.厳密な線形化手法ではアファインな非線形
システム
よ
y
=J(諾)+タ(∬)祝
=
九(£)
に対して,座標変換と状態フィードバックを行い線形化を行う.厳密な線形化は平衡点近傍
で恥ylor展開を行って線形近似するのではなく,非線形系が線形系となるように座標変換
を行い,さらに非線形項を打ち消すような状態フィードバックを施して線形化を行う.いっ
たん厳密な線形化がなされれば,適当な線形コントローラを適用することで安定化を実現
することができる.厳密な線形化手法を実プラントに適用した事例は比較的多い.杉江ら
[14]は磁気浮上系に適用して,得られた線形システムに対して月云制御を行い,また松村
ら[15]は磁気軸受けに対して厳密な線形化手法を適用し,得られた線形系に対してLQ制
御を行った.両者とも,安定領域を広く取れるという点でよい結果が得られており,これ
らの設計手法が有効であることを示している.ただし,非線形システムが完全な相対次数
を持つことが厳密な線形化を行なえるための必要条件の1つであるため,そうでないシス
テムには厳密な線形化を適用することができない.
1.2.2
適応制御
コントローラは通常プラントモデルをもとにして設計されるので,その動特性を十分
に把握する必要があるが,実際にはプラントは開いた系であり,外部環境の変化に応じて
プラントのパラメータは変動する.プラントパラメータの変動が大きいときには制御性能
の劣化,あるいは不安定が引き起こされる.このような場合に,オンラインでプラントの
第1章序論
4
パラメータを推定し,プラントモデルを逐次更新していく制御方法が考案されている.適
応制御には大別してモデル規範型適応制御(MRACS)とセルフチューニングレギュレ一夕
(STR)がある.MRACSは1950年代後半にWhitakerによって航空機の自動操縦に適用さ
れたのが最初の研究とされている[16].1980年代になると高い非線形性を有するロボット
マニピュレータに対して適応制御が適用され,1980年代後半頃にはロボットマニピュレー
タの動特性の物理的構造を考慮したロボット特有の適応制御がSlotine[17]らによって考案
され,その後多くの研究者によってさまざまなロボットマニピュレータシステムに適用さ
れて,大きな成果をあげている[18卜[20].
1.2.3
IQC
IQC(IntegralQuadraticConstraint)は近年注目を集めている非線形/時変/不確定要
素を含むシステムに対する安定性解析のためのツールである[21].1970年代にロシアの
Yakubovichが非線形システムの安定性を解析するためにIQCを用いたのが始まりとされ
ている・近年ではMegretskiとRantzerがIQCに関する研究を行っている[22],[23].IQC
は周波数領域で与えられた信号祝とyに対する,ある関数◎に対して次式で表される2次
形式の積分型の制約条件である.
自㌶臣可霊,]du≧0
(1・3)
IQCを用いることにより,〝解析や非線系フィードバック系の安定性解析で得られている
結果の多くを統一的に扱うことができる.安定性解析はLMIに帰着でき,特にロバスト
安定化条件はBMI(BilinearMatrixInequality)で記述される非凸計画問題に帰着できるこ
とが知られている[24].しかし,実プラントに対してIQCを適用し,コントローラ設計を
行った事例は見当たらないため,いまだ理論の域を抜け出ていない感がある.
1.2.4
非線形最適制御
線形系の最適制御を非線形系に拡張したものであり,与えられた評価関数を最小化する
ような制御入力を求める問題である.線形最適化問題の解は代数Ricatti方程式を解くこと
で得られるが,非線形最適化問題ではHJB(Haimilton-Jacobi-Be11man)方程式を解く必要
がある.非線形月云制御では外乱入力から制御出力までの£2ゲインを最小化するような
制御入力を求める問題であり,HJI(Hamilton-Jacobi-Isaacs)方程式を解かなければならな
1.3.受動性にもとづく非線形制御の現在の動向
5
い.代数Ricatti方程式は有本-Potterの方法[25]を用いて比較的容易に解くことができる
が,HJB方程式,HJI方程式はいずれも解析的な解を求めるのは非常に困難である.その
ため,与えられた問題を部分最適化問題に簡略化し,部分最適化問題を繰り返し計算する
ことで近似解を得る方法が考案されている[26].また,ある制御入力が与えられたときに,
この制御入力によって最小化される評価関数を逆に求める,逆最適制御に関する研究も行
われている[27].
1.3
受動性にもとづく非線形制御の現在の動向
受動性は外部入力がある場合に,システムに蓄えられるエネルギと外部からの供給エネ
ルギとの関係から,エネルギの減衰特性に焦点を当てた概念である.システムが受動的で
あるとは,入力を払
出力を討とし,エネルギ供給率をぴ(叫牒)とするシステムに対し,ス
トレージ関数と呼ばれる準正定関数ガ(f)が存在して,任意のr>0に対して消散不等式
叩)≦卯)+上rぴ(叫牒)df
(1・4)
が成り立つことをいう.(1.4)式はシステムに蓄えられるエネルギは外部から供給されるエ
ネルギより小さい,すなわち,システム内部でエネルギが消費され,システム内部にエネ
ルギの発生源がないことを示している[28]・
受動性は電気回路の性質を示す概念として古くから知られていたが,1981年に1もkegaki[29]
が剛体リンクマニピュレータの定値制御を行うために機械システムに対して受動性を導入
した.それまで,単純なPD制御を用いることで非常に高い非線形性を有する剛体リンク
マニピュレータをうまく制御できることが経験的に知られていたが,理論的な根拠が示さ
れたことがなかった.この論文は,受動性を導入することで剛体リンクマニピュレータに
対するPD制御の有効性を示した.この論文をきっかけに,特に剛体リンクマニピュレー
タに対する適応制御[30]や学習制御[31][32]の分野で受動性を用いた安定性に関する議論
が多くなされた.
一般的な受動性にもとづくコントローラ設計では,制御入力によって閉ループ系が受動
性を有するようにコントローラ設計が行われる.このとき,コントローラの設計パラメータ
として閉ループ系のストレージ関数を指定する.ストレージ関数は完全駆動系,すなわち,
システムの自由度とアクチュエータの数が等しく,定値制御を考えるときにはシステムの
ポテンシャルエネルギを変更し,減衰項を挿入することで指定する.また,完全駆動系の
第1章序論
6
追従制御を考えるときは,ポテンシャルエネルギの変更と減衰項の挿入に加えて,運動エ
ネルギも変更してストレージ関数を指定する[33].また,受動性はシステムのパラメータ
に依存しないため,パラメータ変動に対してロバストである.したがって,受動性にもと
づくコントローラはパラメータ変動に対してロバストとなることが知られている[34].受
動性にもとづくコントローラ設計はシステムが有する非線形性をふまえた上で受動性とい
うそのシステムが有する本質的な特質を利用した制御であるため,この意味で,受動性に
もとづくコントローラ設計をダイナミクスペースト制御と呼び,従来のプラントモデルに
もとづくコントローラ設計をモデルベースト制御と呼ぶこともある[35].
近年では運動方程式が偏微分方程式として表されるフレキシブルリンクマニピュレータ
に対して,受動性にもとづくコントローラ設計が多く報告されている[36ト[38].これらの
論文では,受動性を用いることで関節角度と関節速度,およびフレキシブルリンクの根元
のひずみを直接フィードバック(PDS制御)することで関節角度を目標値に収束させ,なお
かつ弾性振動が減衰できることが示されている.これらの文献で得られるコントローラは,
実装が容易で,なおかつコントローラ設計において有限次元化を行わないためスピルオー
バーが生じないという特徴がある.
これらの研究に対して,一方では理論的な研究も行われている.SchaftはHamilton系
として記述される一般的なシステムに対して受動性を考察し,£2ゲインと受動性を関連付
けて議論を行った[26].また,申ら[39][40]は閉ループ系のストレージ関数をバックステッ
ビング法を用いて構成し,不確かさを持っシステムに対して,閉ループ系をロバスト受動
化することでロバスト安定化またはロバスト£2外乱抑制特性を達成する非線形ロバスト
コントローラの設計方法を示した.
1.4
本研究の目的
本研究ではこれらの背景をもとにして,機械系システムに対する受動性にもとづく,特
に分布定数系を含む機械系システムに対する非線形制御を考える.本研究では非線形モデ
ルで記述される機械系システムの一例として,磁気浮上系を考え,これに対して受動性にも
とづく非線形コントローラ設計を行う.浮上対象物体としては剛体球と柔軟ビームを考え,
特に柔軟ビームに焦点を当てて議論を進める.これまでの柔軟物体を含む機械システムの
受動性の証明はHamiltonの原理から運動方程式を導出し,得られた運動方程式に対して直
接受動性の計算が行われている.通常,フレキシブルマニピュレータのような分布定数系を
1.5.本論文の構成
7
含む機械システムでは非常に長く複雑な運動方程式が得られるため,受動性の証明には多
大なる労力と時間を要する.そこで,本研究では柔軟物体を含む機械システムをLagrange
関数を用い,Lagrange系が有する性質に着目して受動性の証明を試みる・Lagrange関数
を用いて運動方程式を記述することで,分布定数系を含む機械システムの受動性を非常に
容易,かつエレガントに示すことができる.また,運動方程式を変形して系をいくつかの
サブシステムに分割し,それぞれのサブシステムに対して非線形コントローラを設計する
手法を用いることで,コントローラ設計が容易になることを示す.さらに,フレキシブル
マニピュレータの場合に得られている結果と同様に,柔軟ビームに対してたわみに関連す
る量をフィードバックすることで柔軟ビームに生じる弾性振動を抑制できることを示す.
1.5
本論文の構成
本論文は以下5つの章から構成される.
第1章では線形制御と非線形制御の比較を行い,非線形制御の優位性を挙げる.さら
に非線形制御系の設計手法を述べながら最近の研究動向をまとめ,本研究の目的を端的に
述べる.第2章,第3章では,柔軟ビームを対象とした磁気浮上系に対する制御を行うた
めの前段階として,剛体球を対象とした磁気浮上系を取り上げ,これに対して受動性を用
いて非線形コントローラを設計する.第2章では対象とするシステム全体の受動性を考え,
システム全体に対する受動性にもとづくコントローラが設計される.第3章では対象とな
るシステムを複数のサブシステムに分割し,それぞれのサブシステムに対して独立にコン
トローラが設計される.さらに,Kalmanフィルタを用いたLQG線形コントローラを設計
し,得られた非線形コントローラとの比較検証を実験により行い,非線形コントローラの
優位性を示す.第4章では第2章,第3章で得られた結果と知見をもとに,柔軟ビームを
対象とした磁気浮上系に対して受動性を用いてコントローラを設計する.ここでは第3章
と同様にシステムを複数のサブシステムに分割し,それぞれのサブシステムに対して独立
にコントローラを設計する.第5章では本研究で得られた知見をまとめ,結論とする.
第2章
剛体球磁気浮上系に対するモデルベースド
制御
はじめに
2.1
本章では非線形性を有する機械システムの一例として剛体球磁気浮上系を考える.磁気
浮上技術に関する研究は,磁気浮上鉄道,磁気軸受,クリーンルーム等での搬送装置等の
分野などで広く行われており,すでに実用段階にある技術である.磁気浮上系は元来不安
定なシステムであるために,なんらかのフィードバックを施し安定化する必要がある.磁
気浮上系を対象とした最近の研究では,浮上自体を目的とする研究から,高精度化,ロバ
スト安定化,外乱抑制[41]-[44]を目指した研究が中心になっている.また,電流と磁束を
用いて浮上対象物体の位置を推定し,位置センサレスを目指したセルフセンシング方式の
磁気浮上系に関する研究[45]-[48]も盛んに行われている.これらの多くの研究では導出さ
れた磁気浮上系モデルを線形近似し,LQG/mR,月云制御等の線形制御則を適用して平衡
点近傍での安定浮上を実現している.しかし,元来非線形系であるシステムを線形化して
コントローラを導出しているので,コントローラを線形領域で動作させなければ系の安定
性が保証されない.これは対象物体の浮上量を大きく取れないことを意味している.磁気
浮上搬送系を利用した塗装システムなどでは,大きな浮上量が要求されることがあり,こ
のような場合には線形コントローラでは安定な浮上が困難になるものと考えられる.
これらの問題に対処するために,磁気浮上系に対して非線形制御を適用する研究も行わ
れているが,その数は線形制御に比べると非常に少ない.杉江ら[14]は磁気浮上系に対し,
厳密な線形化により非線形補償を行い,g∞制御で非構造的なモデル化誤差に対処するこ
とで制御性能の向上と安定範囲の広域化を行った.Linら[49]は磁気軸受系に対し,厳密な
8
2.2.剛体球磁気浮上系に対するモデリング
9
線形化を行い,得られた線形系にファジィ制御を適用することでパラメータ変動と外乱に
対する過渡特性とロバスト性の改善を行った.楊ら[50]はバックステッビング手法を用い
て速度誤差による位置誤差を除去するためにPI制御を用いた仮想入力と,モデリング誤差
に対処するために非線形減衰項を挿入して速度誤差の安定化をはかることで,浮上対象物
体を広範囲で精度良く目標軌道に追従させることができることを示した.また,Lyapunov
の直接法を用いた非線形制御[51]も提案されている・
一方,ロボット工学の分野では,近年,受動性をもとにした制御[35]が脚光を浴びてい
る.受動性を用いれば,非線形性の強いロボットアームがPD制御を用いることで漸近安定
化できることが知られている[29].そこで,本章では非線形系である磁気浮上系が有する受
動性を利用し,与えられた軌道に漸近追従する非線形なコントローラを導出する.一般的
な受動性にもとづくコントローラ設計法にならって,閉ループ系が受動系となるようなコ
ントローラを設計する.このとき,閉ループ系のストレージ関数は運動エネルギの整形と
減衰項の挿入によって構築される.本研究で得られるコントローラは文献[33]によって導
出されたコントローラをもとにし,磁気浮上系プラントのダイナミクスにもとづくフィー
ドフォワード部分と位置と速度のフィードバック部分から構成される.また,数値シミュ
レーションと実験を行い,本研究で得られたコントローラの有効性を検証する.
2.2
剛体球磁気浮上系に対するモデリング
本章ではFigure2.1に示す1つの電磁石を用いて剛体球を浮上させる磁気浮上系を考え
る.電磁石への印加電圧を叫
電磁石に流れる電流を豆。とし,電磁石のインダクタンスと
内部抵抗をそれぞれん
一札とする.また,電磁石下端面に沿って∬0軸を持ち,電磁石の
中心に沿って鉛直上向きを正とするy。軸を持っ∬0一封0座標系を設定する.剛体球の位置
は帥を用いて記述される.剛体球の質量をmとし,剛体球に作用する重力と電磁力をそ
れぞれふんagとする・ここで,記述を簡単にするために,以下の仮定を設ける・
1.漏れインダクタンスは十分小さく,無視できるものと仮定する.
2.剛体球はy。方向の並進運動のみを行い,水平方向の並進運動,および各軸方向の回
転運動は行わないものと仮定する.
一般的に,電磁石のインダクタンスエは封0の関数として,
ム(yo)=訂㌔+エ0
(2.1)
第2章剛体球磁気浮上系に対するモデルベースド制御
10
Figure2・1:Magneticlevitationsystemわrarigidball.
と表される[52トニこで,Clとc2はそれぞれインダクタンス定数とギャップ定数であり,上0
は漏れインダクタンスである.本研究では漏れインダクタンスを無視しているのでエ0≡0
である.
Euler-Lagrangeの方程式を用いてプラントモデルを導出するために,電気系のエネル
ギ㌔と剛体球の運動エネルギコ㌦を求めると,それぞれ次のようになる.
℃=…抽0)d≡
㍍=…m由呂
(2.2)
(2.3)
また,Rayleigbの散逸関数は電磁石の抵抗月eを用いて以下のように定義される.
摘)=去月e亘2
(2.4)
剛体球のポテンシャルエネルギ鴨(的)は封0=C2においてエ(帥)→00となることを考慮し
て‥点yo=C2をポテンシャルエネルギが0となる点とする.重力加速度をg(=9.80665>
0[m/sec2])とすると,帥は鉛直上向きを正としているので,ポテンシャルエネルギは次式
で与えられる.
(2.5)
鴨(yo)=一上;0ト汀もg)dモ=-mタ(c2一的
2.2.剛体球磁気浮上系に対するモデリング
11
これらより,剛体球磁気浮上系のLagrange関数Laは
ム。=
二㌦+℃一鴨
(2.6)
去エ(封0)か去mか明(c2-yO)
として与えられる.式(2.6)を散逸項を含めたLagrangeの運動方程式
d一虎
∂エ。
d一成
)
∂ ・帥
∂ダ(豆。)
(2.7)
=0
(2.8)
∂yo
=`tムー
に代入すれば,電気系の回路方程式と機械系の運動方程式としてそれぞれ次式を得る.
Cl
エ(yo極+
1
m弘
2.2.1
(c2-y。)2
cl
2(c2-y。)2
(2.9)
yo豆。+月。亘。=祝
d2+mg=0
(2・10)
支配方程式の書き換え
ロボット工学の分野では関節変数を一般化座標として,慣性行列を用いた運動方程式
刀(q柏+C(q,亘拍+g(q)=丁
(2・11)
が一般的に用いられる[53].qは一般化座標ベクトル,か(q)は慣性行列,C(亘,q)はコリ
オリカなどの速度の2乗に比例する項の係数行列,gは重力ベクトル,丁は一般化カベク
トルである.この運動方程式を調べることで慣性行列の正定対称性など多くの有用な性質
が導かれ,それらの結果をもとにモデルベースド適応制御など数多くの制御法が提案され
ている[20].
そこで,本研究においても剛体球磁気浮上系の支配方程式(2.9),(2.10)を(2.11)式の
ような一般化座標と慣性行列を用いて表し,支配方程式が持つ性質を調べ,その結果をコ
ントローラ設計に利用する.
そのために,まず,一般化座標を
q=二≡三:
(2.12)
第2章剛体球磁気浮上系に対するモデルベースド制御
12
と定義する・系の支配方程式(2.9),(2.10)より慣性行列は
瑚)=[エ曾0)ヱ]
(2・13)
と定義できる.このとき,電気系のエネルギと機械系の運動エネルギの和rは慣性行列
β(9)を用いて,
r
コ㌦+℃
=
主砲0)か芸m洩言
芸西(函
(2・14)
と与えられることは明らかである・したがって,Lagrange関数(2.6)は慣性行列を用いて
エα=芸西(q)巨鴨(q)
(2・15)
と書くことができる.これを散逸項を含めたLagrange方程式に代入すれば,
d一成
)
孟〈孟(主軸)叶芸〈主軸拍瑚
瑚+カ輌一芸〈芸西(叫+空箸
∂ダ(¢。)
∂亘
(2・16)
(2.17)
擁)仁志〈芸西(q)亘〉全c(抽
なる行列C(q,d)を導入し,重力項gを
g(q)=
∂鴨(q)
∂q
(2.18)
とすれば支配方程式(2.9),(2.10)は以下のように書き直される.
か(q)亘+C(q,亘)亘+g(q)=〟祝一月亘
(2・19)
2.2.剛体球磁気浮上系に対するモデリング
13
ここで,
1
C(亘,q)
cl
2(c2一帥)2
封O
-qe
qe
O
(2.20)
(2.21)
(2.22)
(2.23)
である.支配方程式(2.19)において外部入力項は〃祝∈f㍗として表されていることに注
意する.〃∈月陀×乃uは定数行列で祝∈月㌣は制御入力である・れ,れ祝はそれぞれシステ
ムの自由度と制御入力の数である.れ祝<れのときにはアクチュエータの数がシステムの
自由度よりも少ないことを意味し,劣駆動系であることを示している.この場合はれ=2,
れ祝=1であるので,剛体球磁気浮上系は劣駆動系となる・
2.2.2
支配方程式の性質
結論から述べると,前項で得られた剛体球磁気浮上系の慣性行列を用いた支配方程式
(2.19)において以下の性質が成立する・
命題2.1
1.慣性行列か(q)は正定対称行列である・
2.行列カ(q)-2C(q,亘)はひずみ対称行列である・
証明2.1(1)については慣性行列の定義とエ(yo)>0,m>0より自明である・(2)につい
ては次のように示すことができる.まず,慣性行列(2.13)を用いれば,剛体球磁気浮上系
の全エネルギβは次式で与えられる.
芸西(q)亘+榊)
(2.24)
第2章剛体球磁気浮上系に対するモデルベースド制御
14
上式を時間微分すると,
dβ
孟〈芸西(如+醐〉
有
仕丁餉)亘+芸西(如+亘r塑
中榊+言ゎ輌+笥
(2.25)
となる・支配方程式(2・16)において,すべての外力項を0,すなわち,右辺=0とした式,
(2・26)
瑚+カ領一芸〈芸西(叫+箸=0
を(2.25)式に代入すれば,
d月
面
を得る.さらに,
(2.27)
=叶主軸亘+芸〈主軸)叫
瑞〈揮(如〉=押(如〉
(2・28)
となる[54]ので,次式が成立する.
芸=一抽軸一芸〈主軸)瑚=0
(2・29)
上式にC(q,亘)の定義(2.17)を代入すれば,剛体球磁気浮上系の全エネルギの時間微分は
dβ
有
(2・30)
=去亘r〈力㈲-2C(㈹〉亘=0
となる・これは行列β(q)-2C(9,亘)がひずみ対称行列であることを示している.q
これらはマルチボディシステムではよく知られた結果[55]であるが,これらの結果が
電磁気回路を含む剛体球磁気浮上系でも成立することが示された.
剛体球磁気浮上系に対する受動性解析
2.3
この節では前節で得られた支配方程式をもとに,剛体球磁気浮上系の受動性に関して
議論する・結論から述べると,得られた剛体球磁気浮上系に対して以下の命題が成立する.
受動性に関する諸定義は付録A章に示す.
命題2・2
剛体球磁気浮上系(2・19)は受動的な写像ぶ:祝→〃r9を定義する.
2.4.剛体球磁気浮上系に対するコントローラの導出
15
証明2.2前節の支配方程式(2.19)の性質を調べるときに得られた,系の全エネルギの時
間微分(2・25)
芸=中(銅+主力輌+空欝]
(2・31)
に系の支配方程式(2.19)を代入すれば次式を得る・
(2.32)
誓=省三力領一C(由掴一月亘+肌]
ここで,行列カ(q)-2C(q,亘)のひずみ対称性と,行列Rが準正定行列であることより
仕丁月々≧0となることを用いると,以下の不等式が成り立っ.
(2.33)
有=仕丁(肋卜√月々≦仕丁(肋)
上式の両辺を区間[0,r]で時間積分すると,次式を得る・
(2.34)
上r芸df=瑚(r))一瑚0))≦上r(昭)r祝虎
ゆえに消散不等式が成立し,剛体球磁気浮上系はストレージ関数を系の全エネルギとし,エ
ネルギ供給率を
ぴ(〃r如)=(〃r亘)㌦=如
(2.35)
とする受動系であることを示している.q
この結果は,剛体球磁気浮上系が入力を電磁石の印加電圧仇
出力を電磁石を流れる電
流d。とする受動系であることを示している.したがって,電磁石の印加電圧祝を用いて電
流d。を制御するのは容易であるといえる.しかし,本研究で制御対象となるのは剛体球の
位置であるが,電磁石の印加電圧を入力として剛体球の位置を出力とした場合には受動性
が成立しないため,剛体球の位置制御を容易に行うことができるとは結論付けられない.こ
れは,剛体球磁気浮上系の入力が電磁石の印加電圧1つのみであるのに対して,出力が電
磁石を流れる電流と剛体球の位置の2つである劣駆動系となっていることに起因している.
剛体球磁気浮上系に対するコントローラの導出
2.4
前節で示したとおり,剛体球磁気浮上系は劣駆動系であるので,電磁石の印加電圧祝の
みを用いて電磁石の電流d。と剛体球の位置封0を制御するには何らかの工夫が必要である.
剛体球の位置制御を行うための方法として,
第2章剛体球磁気浮上系に対するモデルベースド制御
16
1.系の全エネルギを整形して,閉ループ系が劣駆動系とならないようなコントローラを
設計する.
2.電流d。が目標電流に収束すると,剛体球の位置軌道も目標軌道に収束するようなコ
ントローラを設計する.
の二つが考えられる.本章では前者の考えをもとにコントローラを設計し,次章で後者の
考えにもとづくコントローラについて議論する.
2.4.1
コントローラの導出に利用する命題
はじめに,閉ループ系が完全駆動系になるようなコントローラを設計する際に有用とな
る命題[33]を以下に示す.
命題2.3
微分方程式
か(q)烏+(C(可,亘)+gd(q,亘))β=少
(2・36)
は入力を中∈Rm,出力をβ∈R陀とする出力強受動系である.ここで,β(9)∈R…と
gd(q,亘)∈月几×乃は正定で,C(q,亘)∈月乃×陀は
か(q)-2C(9,亘)
(2・37)
がひずみ対称行列となるような行列である.
証明2・3与えられた微分方程式(2.36)のストレージ関数として,
仇=土βr瑚)β≧0
2
(2・38)
を考える・(2・38)式を微分方程式(2.36)に沿って時間微分して,か(q)-2C(q,d)のひず
み対称性を利用すれば,
仇
紬(q)β+去βr軸)β
βr(中一C(抽一札函,擁)+去βr軸)β
2.4.剛体球磁気浮上系に対するコントローラの導出
17
βr少+去βT〈軸)-2C領)〉…rg両)β
-βr∬d(q,亘)β+中rβ
(2・39)
を得る.ここで,∬dの正定性よりある正の定数α乞(哀=1,…,れ)が存在して次式が成立
する.
βrgdβ≧∑α宜βぎ
(2.40)
ここで,β宜(豆=1,…,れ)はβの第乞要素である・いま,α=min(α豆)とおくと
≧
βr∬dβ
∑α盲βZ
宜=1
βrdiag(α1,…,αm)β
>
=
αβTβ
αl酬2
(2.41)
となるので,これを(2.39)式に適用すると,
ガム
=
≦
-βr∬d(9,射β+中rβ
-αllβ】l2+中Tβ
(2.42)
を得る.上式の両辺を0からrで時間積分すれば,
瑚(r),細卜瑚(0),紳))=一上rβrgd(抽机上r中
(2・43)
≦一上rα‖β冊+上r中rβdf
となるので,以下の消散不等式を得る.
(2.44)
仇(q(r),亘(r))-仇(q(0),亘(0))+αl酬…r≦〈少lβ〉r
第2章剛体球磁気浮上系に対するモデルベースド制御
18
上式は(2・36)式がストレージ関数を(2.38)式,エネルギ供給率を
ぴ(中,β)=中Tβ-αl酬…r
(2・45)
とする出力強受動性であることを示している.q
出力強受動系は£2安定であるので,微分方程式(2.36)において中∈£2であればβ∈£2
である.したがって,中=0のときβ∈£2である.本章ではこの命題を用いてコントロー
ラを設計する.
2.4.2
コントローラの設計
本研究の目的は剛体球の既知な目標軌道yod(りが与えられたときに,剛体球の位置y。
を目標軌道に追従させることである.受動性にもとづくコントローラ設計を行うので,コ
ントローラの設計指針として,
1.閉ループ系が受動系となるようなコントローラを設計し,
2.追従問題であるので,閉ループ系のストレージ関数をポテンシャルエネルギの整形と
ダンピングの挿入に加えて,運動エネルギの整形を行うことで指定する.
いま,運動エネルギを整形することで,閉ループ系のストレージ関数が
仇=去βr瑚)β
(2.46)
となるようなコントローラを考える.ここで,
β=亘+A亘,亘=9-甘か
A=[㍑]
(2.47)
であり,
9d=ほ:]
(2.48)
は目標軌道,亘は軌道誤差である.いま,制御の対象となるのは電荷q。ではなく,剛体球
の位置封0と電流d。であるのでAは上のように選ぶことができる.
命題2・3より,(2・36)式で与えられる常微分方程式はストレージ関数を(2.38)式とする
出力強受動系となるので,剛体球磁気浮上系の閉ループ系のダイナミクスが
β(q)占+(C(亘,q)+Rd)β=中
(2.49)
19
2.4.剛体球磁気浮上系に対するコントローラの導出
となるようなコントローラを考えれば,剛体球磁気浮上系の閉ループ系はストレージ関数
を(2.46)式とする出力強受動系となり£2安定が保証される・ここで,月d>0は
乾
垢。
Rd=月+∬d,」打d=
0
芸m]>0
(2・50)
であり,∬dは閉ループ系に挿入されるダンピングで,鶴e>0,j㌔m>0である.(2・49)
瑚)(る+A占)+C(如)(占+A亘)+Rd(占+A亘)+∬dβ
瑚)〈(亘一亘。)+A占〉+C(如)掴一々。)+A亘)+昆H(亘一々d)+
刀(q)亘+C(亘,q)亘+昂適
ー〈瑚)(亘。-Aさ)+C(如)(亘。-A亘)+品(亘。-A叫+∬dβ
=
(2・51)
〃祝一夕-(β(q柏γ+C(亘,q)亘γ+見料)+∬dβ
を得る.ここで,亘r=亘-A亘である.少=0のときβ∈£2となるので少=0とおけば,
コントローラ
〟祝=か(q拍r+C(亘,亘)亘γ+見料+g-∬dβ
(2.52)
を得る.さらに,上式を展開すれば以下の2式を得る.
l
Cl
祝=-⊥」-一亘ed+豆
C2 yO
l
cl
お0¢。+
cl
(c2-y。)2洲Ye■2(c2-y。)2
亘。(如d-Am釦)
(2・53)
+月。由一穐。亘。
1
0=m(弘d-Am壷。)
cl
2(c2-y。)2
如。d+mダー穐m(壷。+Am威0)(2・54)
上式第1式は電磁石の印加電圧祝を決定する式である.第2式は制御中に常に成り立たな
ければならない式であり,
J(¢。,由,yO,血,帥d,如d,弘d)=0
(2.55)
第2章剛体球磁気浮上系に対するモデルベースド制御
20
と表すことができる・ここで,センサによって電磁石を流れる電流豆。,剛体球の位置封0と
速度由が測定できるとすれば,(2.54)式における不定元は電流の目標値豆。dのみであるの
で,これより電流の目標値由を決定することができる.したがって,電流の目標値由と
その微分値範dは以下のように決定できる.
qe(ま
2(c2-y。)2
〈m(弘d-Am壷。)+昭一垢m(壷。+Am威0)〉
Clqe
範d
2(c2-yO)
(2・56)
(2如0+鮎(c2-yO))〈m(弘d-Am壷。)+mダー垢m(壷。+Am釦
Cl豆2
〈m(碧-Am毒0ト叫0+Am壷0)〉
(2・57)
Clqe
Figure2・2に(2・52)式をもとに描いた,コントローラのブロック線図を示す.(2.53),
(2.54)式より,得られたコントローラでは,フィードフォワード部分に相当する参照モデ
ルのパラメータ,インダクタンス定数cl,ギャップ定数c2,電磁石の抵抗月。,剛体球の質
量m,および重力加速度タと,フィードバック部分に相当するゲインAm,j㌔。,j㍍mを調
節できる.
[!!
⊂コ
⊂==コ
==コ
ニコ「ニコ
[
コ
=
===「.∴
r
∴
=.-ノ
こ⊥「
⊥.∴
L=」」二二
==二一
Position,Velocity,andcurrentfeedback
Figure2.2:Blockdiagramofthepassivitycontroller.
ブロック線図から分かるように,導出されたコントローラは剛体球の位置と速度,およ
び電流のフィードバックと,プラントの参照モデルによるフィードフォワードから構成さ
れる・このコントローラの構成は,ロボット工学におけるモデルベースド適応制御[56]の
適応機構を除いたコントローラと同じ構成になっている.モデルベースド適応制御の言葉
を借りれば,亘rは参照速度,βは剰余誤差と呼ばれる.なお,(2.56),(2.57)式において,
2.4.剛体球磁気浮上系に対するコントローラの導出
21
電流の目標値を決定するときに電流による除算が含まれるため,電流が0とならないよう
に注意する必要がある.
2.4.3
安定性解析
閉ループ系が受動的になるようなコントローラを設計することで,閉ループ系が£2安
定,この場合はβ∈£2,となることが保証される.しかし,£2安定性は信号の有界性の
みを保証するものであり,漸近安定性を保証するものではない・そこで,得られたコント
ローラの漸近安定性を示すために,Lyapunovの安定定理を用いる・前項で得られたコント
ローラに対して,以下の命題が成立する.
命題2.4
導出されたコントローラ(2.52)は剛体球磁気浮上系を漸近安定化し,f→∞に
おいて
q→0,亘→0
(2.58)
となる.
証明2.4受動系において,ストレージ関数がLyapunov関数の候補となり得る[40]ので,
Lyapunov関数の候補として,ストレージ関数(2・46)
仇=土βT瑚)β
2
(2.59)
を考える.このとき,月云はβ=0において大域的な最小値j㌔=0をとる正定値関数であ
る.いま,(2.59)式を閉ループ系のダイナミクス(2・49)に沿って時間微分して整理すると
島=紬(9)β+去㌔如)β
ーβrR。(q,亘)β+中rβ
(2.60)
いま,中=0とおいているので上式は月dの正定性より
島=-βrRd(q,亘)β≦0
となる.月云はβ=0のみで0となることは明らかであるので,月云は負定関数となり
Lyapunov関数である.したがって,Lyapunovの安定定理よりf→∞のときs→0,す
(2.61)
第2章剛体球磁気浮上系に対するモデルベースド制御
22
なわち
(2.62)
9一+0,亘→0
となる.q
数値シミュレーション
2.5
本章で得られたコントローラの有効性を検証するために数値シミュレーションを行う.
2.5.1
シミュレーション条件
コントローラの導出には電磁石の漏れインダクタンスを無視した剛体球磁気浮上系のモ
デルを用いたが,数値シミュレーションでは,制御対象として電磁石の漏れインダクタン
スを考慮した次式で与えられるプラントモデルを考える.
(云㌔+ム0)範+
(z。-的)2
myo
封0豆。+月1亘。=祝
d2+mg=0
(∬。一帥)2
(2.63)
(2・64)
ここで,Qはインダクタンス定数,エ0は漏れインダクタンス,Zoと諾0はギャップ定数,た
は磁気吸引定数,mは剛体球の質量,gは重力加速度定数であり,実験装置を同定するこ
とで得られれるパラメータである.理論的にはQ=2た,ご0=Z。であり,コントローラの
導出のために用いたプラントモデルではQ=2た=Cl,∬0=Z。=C2としていたが,本研
究で用いた実験装置を同定した結果Q≠2たとなった.これより,本研究ではQとたは互
いに独立なパラメータとして扱うことにする.実験装置を同定して得られた各パラメータ
をTable2.1に示す.
プラントモデルとコントローラはMATLAB/Simulinkを用いて構築し,サンプリング
時間を1[msec]として4次のRunge-Kutta法を用いて数値計算を行った.本章で得られた
コントローラは電流の目標値d。dを求めるときに電流亘。による除算を行うので,制御開始
時の電流を0[A]に設定することはできない・そこで,電流の初期値を0[A]に設定してお
き,5・0[Ⅴ]の初期電圧を1[sec]印加して電流が一定値になった後に制御を開始した.剛体
球の初期位置は,実験装置の制約により実現できるギャップが制限されることを考慮して
-10[mm]とした.
2.5.数値シミュレーション
23
1もble2.1:Identifiedplantparameters.
SyInbol
Idemiifiedvalue
Inductanceconstant
Q
8.45×10
5
Leakageinductance
エ0
1.19×10
1
Inductancegapconstant
Zo
2.20×10-3
Magenticforcegapconstant
諾0
2.20×10
3
5.53×10
5
Parameter
Magneticforcecoe伍・Cient
た
Coilresistance
月。
4.57
Ballmass
田
63.7×10
Gravityacceleration
タ
9.80665
[Hm]
[H]
田
田
[Nm2/A2]
田
3
[kg]
[m/sec2]
目標軌道はFigure2.3に示すものを用いる.これは-10[mm]から-5[mm]までの5[mm]
の浮上量を2.0[sec]で滑らかに移動する軌道で,電流の微分の目標値を計算するときに目
標軌道の3階微分を必要とするので,加加速度までが滑らかになるように次式に示す時間
に関する7次の多項式を用いた.
封。。(り=一0.00078125壬7+0.00546875f6-0・013125f5+0・010937f4-0・01(2・65)
この軌道ではyoが-10[mm]から-5[mm]に変化するとき,(2・63)式のインダクタンスと
(2.64)式第2項目の電磁力の係数は,それぞれ1・04倍,2・87倍となり,系は非線形を示す・
2.5.2
シミュレーション結果
1もble2.2に示すようなゲインと参照モデルのパラメータを用いて数値シミュレーション
を行った結果をFigure2.4に示す.シミュレーション結果では時刻1[sec]において制御が
開始されている.Figure2.4より浮上量を5[mm]としても位置,速度ともに目標軌道に非
常に精度よく追従していることが確認できる.電流については制御開始時にコントローラ
によって計算された目標値と観測された値が大きく異なる.これは制御開始時の電流値を
5[Ⅴ]の制御電圧を印加したときに回路に流れる電流値とし,系を平衡に保つような電流に
設定していないためである.また,この影響により制御電圧にもスパイク状の立ち上がり
が生じていることが確認されるが,位置と速度には影響を与えていないことが分かる.
第2章剛体球磁気浮上系に対するモデルベースド制御
24
-5.0
5 0
[OU∽\∈]倉UO-OA
-6.0
[且已○芸岩d
4 0
-7.0
つJ
0
-8.0
2 0
-9.0
1 0
-10.0
0.0
1.0
2.0
3.O
0
1.0
Time[sec]
3.O
Time[sec]
(a)Desiredposition.
(b)Desiredvelocity.
10.0
0.03
[NUOの竜]⊆層扇誌tひUUく
8.0
0.02
6.0
4.0
2.0
0.0
-2.0
-4.0
-6.0
-8.0
-10.0
2.0
[cUO∽竜]七〇→
0.01
0.00
-0.01
-0.02
-0.03
0.0
1.0
2.0
-0.04
3.O
0.0
1.0
Time[sec]
2.O
3.0
Time[sec]
(C)Desiredacceleration.
(d)Desiredjerk.
Figure2.3:Desiredtrajectory.
Table2.2:Gainsandparametersofthereferencemodel.
Parameter
Referencegaln
Fbedbackgain(mechanicalsubsystem)
Fbedbackgain(electricalsusbystem)
Symbol
Value
Am
100
鶴m
1.5
穐。
20.0
Coilinductanceconstant
Cl
Gapconstant
C2
11.06×10
月。
4.57
Ballmass
田
63.7×10
g
9.80665
[Hm]
四
2.20×10-3
Coilresistance
Gravityconstant
5
3
[n]
[Kg]
[m/sec2]
25
2.5.数値シミュレーション
Tヱl三一-′=.-
[Ou∽\且首00-UA
2.0
〇.0
0.0
2.0
4.O
6.0
Ti皿e【sec]
匝)Velocity仕如ectoⅣ.
【>]論題〇三nd占
2.0
4.0
Ti皿e[sec]
(d)Inputvoltage.
Figure2.4:Simulationresultofmodelbasedcontroller.
6.O
第2章剛体球磁気浮上系に対するモデルベースド制御
26
ゲインと参照モデルのパラメータの決定は試行錯誤的に行った.ゲインを大きくする
と追従特性は改善されるが,制御開始時の制御電圧のスパイク状の立ち上がりが過大に
なる傾向が見られる・参照モデルパラメータを適切に調節し,フィードフォワードの影
響を大きくしフィードバックの影響を小さくすることで,制御電圧が過大になるのを防
ぐことができる・Figure2.5に制御電圧におけるフィードフォワード成分とフィードバッ
ク成分を示す・ゲインは恥ble2・2に示された値を用い,参照モデルのパラメータを,(a)
図ではcl=11・06×10-5[Hm],C2=2・20×10
Cl=8・00×10
3[m],Rl=4.57[0]とし,(b)図では
5[Hm],C2=1・50×10-3[m],凡=3.50[n]とした.なお,制御開始時にス
パイク状の大きな電圧が現れ,定常状態の電圧の変化が読み取りにくくなるので,制御開
始時における電圧の変化を省いた.(a)図は参照モデルのパラメータを適切に調整した場
合に対応し,(b)図は参照モデルのパラメータを不適切に調整した場合の結果に対応する.
この結果より,参照モデルのパラメータを適切に調整した場合はフィードフォワード成分
が大きくなり,フィードバック成分は小さくなる.逆に参照モデルのパラメータが適切に
調節されていない場合には,フィードフォワード成分の影響が小さくなり,フィードバッ
ク成分の影響が大きくなることが分かる.したがって,参照モデルのパラメータを適切に
調節しておき,フィードフォワードをメインにし,フィードフォワードでは補償しきれな
い分をフィードバックで補償するようなゲインとパラメータ設定にするのが効果的である
といえる.また,調整された参照モデルのパラメータは,同定により得られたパラメータ
と異なる値となっている.これは,制御対象としたプラントモデルが漏れインダクタンス
を考慮しているためである.さらに,参照モデルのパラメータは軌道誤差が小さくなるよ
うに設定されれば良く,必ずしも同定されたプラントのパラメータと同じ値に設定されな
くても良い.これは,モデルベースド適応制御ではよく知られた事実であり,パラメータ
推定値が真値に収束することは保証されていない[57].
2.6.実験
6.0
4.0
4.0
2.0
0.0
-2.0 1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
6.O
Time[sec]
(a)c】=11.06xlO
[>]乱雲〇三已ロ】
【>】乱雲○ヱnd亡-
6.0
5,C2=2.20xlO-3,糧司.57.
2.0
0.0
-2.0 1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
6.O
Ti皿e[sec]
仲)cl=8.00x10▼5,C2=l.5触10-3,糧=3.50.
Figure2.5:Feedbackandfeedforwardcomponentsofthemodelbasedcontroller.
実験
2.6
2.6.1
実験条件
本章で導出されたコントローラの実機での有効性を検証するために実験を行う.コント
ローラはMATLAB/Simulinkを用いてCコードを生成し,それをDSPにダウンロードす
ることで実装する.実験装置の概要をFigwe2.6に示す.
剛体球の変位はレーザー変位計を用いて測定し,速度,加速度は変位の後退差分を用
いて近似的に微分して求める.電流は0.1囲の基準抵抗の両端の電圧を増幅器で10倍に
増幅して測定する.電流の微分範は測定された電流を後退差分を用いて求める.サンプ
リング周期は1[msec]とした.位置と速度の初期値はシミュレーションと同様にそれぞれ
-10[mm],0[m/sec]とし,制御開始時の電流の初期値は5[V]の制御入力を印加したときに
電磁石を流れる電流値とする.また,目標軌道はシミュレーションで用いたものと同じ時
間に関する7次の多項式を用いた.
2.6.2
実験結果
ゲインと参照モデルのパラメータをTable2.3に示す値に設定したときの実験結果を
Figure2■7に示す・実験では時刻1[sec]から制御が開始されている.実験ではゲインを高く
設定すると,振動が励起されて不安定になりやすくなる.そのため,実験ではゲインを低め
に設定し,参照モデルのパラメータcl,C2,月。をより詳細に調節し,フィードフォーワー
ドの効果を大きくすることで制御性能の向上を図った.実験では制御開始時に若干の位置
第2章剛体球磁気浮上系に対するモデルベースド制御
stage
LaserSensor
28
yo
Figure2.6:Experimentalsystem.
「mble2.3:Gainsandparametersofthereferencemodel.
Parameter
Referencegaln
Fbedbackgain(mechanicalsubsystem)
Fbedbackgain(electricalsusbystem)
Symbol
Am
Value
225
穐m
2.0
穐。
10.0
Coilinductanceconstant
Cl
Gapconstant
C2
10.50×10
月。
4.55
Ballmass
田
63.7×10
g
田
2.00×10-3
Coilresistance
Gravityconstant
[Hm]
5
9.80665
3
[n]
[Kg]
[m/sec2]
軌道誤差が生じるが,ただちに目標軌道に収束していることが確認できる.また,速度は
レーザー変位計の分解能が5[〃m]であり,速度があまり大きくならないような軌道を用い,
さらにレーザー変位計の出力を後退差分を用いて近似的に微分したものであるので,量子
化ノイズの影響が大きく現れていることが確認できる.この速度信号をフィードバックに
利用しているため,制御電圧には激しい振動が現れる.しかし,電磁石の励磁コイルが約
20[Hz]をカットオフ周波数とするローパス特性を有する[58]ので,電磁石を流れる電流に
はこの影響はあまり大きく現れず,位置軌道にもほとんど影響を及ぼしていないことが確
認できる.したがって,この実験では電磁石の持つローパス特性が良い方向に働いている
といえる.このゲイン・パラメータ設定の場合,フィードバック成分を抑えてフィードフオ
29
2.臥
ワード成分に頼った制御になる.このため,長時間運転による励磁コイルの発熱による抵
抗の変化などのモデルパラメータの変動が生じた場合にはフィードバックによる誤差修正
が強く行われず,位置,速度,電流軌道に偏差が現れる.この場合ゲインの再調整が必要
となる.
ー3
1
1
10.0
l
l
D(:Si†Cd
0.0
2.0
4.O
1
6.0
Thle[sec]
[Uひ∽、五首旨-ひ>
[≡〓…〓…ニ
Rcsult
5.0
0.0
-5.0
-10.0 0.0
(a)Positiontrajectory.
爪U
5
6.O
【己乱雲○>lnd月
5
4.0
T血e[sec]
(C)Cu汀ent.
[>]乱雲〇三コd月
J〇一こ告Od∈OU
0.0
2.0
4.0
4.O
Ti皿e[sec]
(b)Velocitytr毎ectory.
[皇}uUh≒U
2.0
2.0
(i.O
T血ersec]
(e)Ccomponentsofinputvoltage.
Figure2.7:Experimentalresultofthemodelbasedcontroller.
実験
第2章剛体球磁気浮上系に対するモデルベースド制御
2.6.3
30
速度信号の改善
前項で得られた実験結果では剛体球の速度信号がレーザ変位計の量子化誤差と後退差分
による近似微分の影響により激しいノイズが現れた.微分器は周波数が高くなるにしたが
いゲインが高くなる特性を持つ.一般にノイズは高い周波数を持つため,単純に微分を行
うとノイズが増幅されてしまい,制御性能の劣化を引き起こす.実験を行う場合,電磁石
の持つローパス特性が良い方向に働くためこの影響はあまり大きく現れないが,制御電圧
が激しく振動するなど,制御系に何らかの悪影響を与えていると考えられる.特に,量子
化誤差を含む速度信号を微分して加速度を求めた場合にはおおよそ加速度とはかけ離れた
信号になっていると考えられる.そこで,文献[59]に示される,伝達関数表現による擬似
微分器を用いて剛体球の速度信号を得ることを考える.本研究では電磁石のカットオフ周
波数が約20[Hz]付近にあることをを考慮して,50[Hz]で折点を持つ一次遅れ系と微分を組
み合わせた,伝達関数が
C(β)=
0.0031831β+1
(2.66)
で与えられる近似微分器と,その2倍の100[Hz]で折点を持っ一準遅れ系と微分を組み合
わせた,伝達関数が
C(β)=
0.001592β+1
(2・67)
で与えられる近似微分器を用いた場合について実験を行った.
実験で用いたゲインと参照モデルのパラメータを1もble2.4に示す.ゲインAmはカット
オフ周波数が50[Hz]のときはAm=120とし,100[Hz]のときはAm=170とした.なお,
カットオフ周波数が50[Hz]のときにAm=170とした場合には,系は不安定となり激しい
振動が生じた・Figure2・8にカットオフ周波数を50[Hz]としたとき,Figure2.9にカットオ
フ周波数を100[Hz]としたときの実験結果をそれぞれ示す.また,Figuer2.10に剛体球の
位置の軌道誤差を示す.実験結果より,速度信号を近似微分器を用いて生成した場合,速
度信号に現われるにノイズの影響を抑えることができることが確認できる.しかし,後退
差分を用いて速度信号を生成したときと比較した場合には,定性的に以下のことがいえる.
1.ゲインを大きく設定することができない.
2.剛体球の位置と速度は振動的になり,不安定になりやすくなる.
3.目標軌道への追従特性が劣化し,定常偏差が生じる.
31
2.6.実験
Table2.4:Gain5andparametersofthereferencemodel.
Parameter
Vallユe
Symbol
Feedbackgain(mechanicalsubsystem)
Feedbackgain(electricalsusbystem)
1.0
亀m
5.0
_打de
Coilinductanceconstant
Cl
Gapconstant
C2
10て5×10
Ballmass
4.5
63.7×10
四
Gravityconstant
四
2.00×10▼3
月1
Coilresistance
[Ⅱm]
5
9.80665
g
3
†り〕
[Kg]
[m/sec2]
2つ目と3つ目の特性はゲインを大きく設定できないことに起因すると考えられる.近似
微分器のカットオフ周波数を高くすると,ゲインをより高く設定できることを考慮すると,
ゲインを大きく設定できない理由は,ゲインを大きくしたときに機械系の固有振動数が挿
入された近似微分器の折点よりも高周波側に移動し,速度信号の位相が遅れるためである
と考えられる.ゲインを大きく設定できるようにカットオフ周波数を高く設定すると,速
度信号に現われる量子化誤差が十分に減衰できなくなることと,上述の結果を考慮すると,
速度信号を生成するために近似微分器を用いるよりも,後退差分を用いたほうが有利であ
るといえる.
0.04
【00∽\且倉001むA
[且已○雲岩d
0.02
0.00
-0.02
0.0
2.0
4.O
Tlme[sec]
(a)Positiontr8jectoけ.
6.0
-0.04 0.0
2.0
4.0
6.O
Time[sec】
(b)VelocitytraJeCtOry.
Figure2・8:Experimentalresultwithapproximatedderivationofcut-0fffreq.at50[Hz].
第2章剛体球磁気浮上系に対するモデルベースド制御
32
0.04
【己】旨≡岩丸
【UUの\百]倉U〇一U>
0.02
0.00
-0.02
0
12・㌔
2.0
4.O
6.0
-0.04
0.0
T血e[sec]
2.0
4.0
(5.O
Time【sec】
(a)Positiontr如ectory.
(b)Velocitytrq)eCtOry.
Figure2・9=Experimentalresultwithapproximatedderivationofcut-0fffreq・atlOO[Hzユ,
5.0
5.0
x10
【且】○ヒリ告三SOd
[且hOヒリ口○州)叫岩d
0.0
0.0
-5.0
-5.0
-10.0
-10.0
-15・%0
2.0
4.0
6.O
-15・%0
2.0
4.0
6.O
Time[sec]
Time[sec]
(a)Cuト0ぼ丘equency50[Hz].
(b)Cut-Off丘equencylOO[Hz].
Figure2・10=Experimentalresultwithapproximatedderivation(positionerror),
2.7
まとめ
本章では剛体球磁気浮上系に対して,受動性にもとづくコントローラの導出を行った.
本章では磁気浮上系の支配方程式を一般化座標ベクトルと慣性行列,粘性行列を用いて表
し,慣性行列が正定対称性とカー2Cのひずみ対称性が剛体球磁気浮上系でも成り立つこ
とを示した.さらに剛体球磁気浮上系が電磁石の印加電圧を入力とし,電磁石を流れる電
流を出力とする受動系であることを示した.これらの結果をもとに閉ループ系が受動系に
なるようなコントローラを設計した.コントローラ設計では追従制御を考え,閉ループ系
のストレージ関数を構築するためにポテンシャルエネルギの整形とダンピングの挿入,お
33
2・7・まとめ
よび運動エネルギの整形を行った.得られたコントローラはプラントダイナミクスにもと
づくフィードフォワード部分と剛体球の位置,速度および電流のフィードバック部分から
構成される.また,得られたコントローラが与えられた目標軌道に漸近追従することを示
した.さらに,数値シミュレーションと実験を行った結果,非常に良い追従特性を得るこ
とができ,その有効性を確認した.
第3章
剛体球磁気浮上系に対する電気系と機械系
を分離した制御
はじめに
3.1
第2章では系の全エネルギを整形して,閉ループ系が劣駆動系とならないようなコント
ローラを設計した・一方,電磁石を流れる電流が目標電流に収束すると,剛体球の位置軌
道も目標軌道に収束するようなコントローラを設計するという考え方もある.これは,電
磁石を独立したアクチュエータと見なし,このアクチュエータに対して剛体球に目標とな
る運動を行わせるための力を発生させることで剛体球の運動を制御しようとする立場であ
る・この場合,電磁石と剛体球に対してそれぞれ独立に安定なコントローラを設計するこ
とで系全体を安定化できると期待できる.ただし,このようなコントローラを設計するた
めには電磁石と剛体球のダイナミクスが独立した系でなければならない.
このような考えをもとに,本章では剛体球磁気浮上系を電気系サブシステムと機械系サ
ブシステムに分割し,それぞれのサブシステムに対して独立にコントローラを設計する.こ
のために,まず剛体球磁気浮上系の支配方程式を磁束を用いて記述し,電気系サブシステ
ムと機械系サブシステムのそれぞれについて受動性を解析し,それぞれのサブシステムに
対して独立にコントローラ設計ができることを示す.得られた結果をもとに,それぞれの
サブシステムに対して安定化を実現するコントローラを設計する.本章で得られるコント
ローラは電気系サブシステムに対しては何らフィードバックを必要とせず,機械系サブシス
テムに対しては剛体球の位置と速度のフィードバックからなるコントローラとなる.また,
数値シミュレーションと実験を行い,本章で得られたコントローラの有効性を検証する.
34
3.2.支配方程式の書き換えとサブシステムヘの分割
35
3.2
支配方程式の書き換えとサブシステムヘの分割
2.2節で得られた支配方程式(2.9),(2.10)を磁束¢を用いて書き換え,電気系と機械系
を分離することを考える.磁束¢は電磁石の漏れインダクタンスを無視すると次式で定義
¢=拍0)¢e=訂㌔qe
(3.1)
磁束¢を用いて磁気浮上系の支配方程式(2.9),(2・10)を書き換えると次式を得る・
¢
β:
一芸(c2-yO)¢…
んag=去¢2
m弘
(3.2)
ム。ag-mタ
=
このとき,電気系の回路方程式と機械系の運動方程式は静的な関係
んag=去¢2
(3.3)
によって結合されており,磁気浮上系を電気系と機械系の2つのサブシステムに分離でき
る.そこで,電気系サブシステムをβ1,機械系サブシステムを量とすると,2つのサブシ
ステムβ1,β2に対して以下の命題が成立する.
命題3.1電気系サブシステムβ1:祝}¢は出力強受動系である.
証明3.1電気系サブシステムβ1のストレージ関数を
穐=去¢2
(3・4)
とする.これを電気系サブシステムの支配方程式(3.2)第1式に沿って時間微分すれば,
毎=扁=一芸(c2-yO)が+如
(3.5)
を得る.ここで,α=月。/cl>0とおくと,yO<0よりc2-帥>0となるので,
月ふ
=
-α(c2-yO)¢2+如
≦ -α¢2+如
(3.6)
第3章剛体球磁気浮上系に対する電気系と機械系を分離した制御
36
を得る.上式の両辺を0からrまで時間積分すれば,
上r如=脚卜卿)
≦-α上r¢2dけ上丁如d壬(3.7)
となり,消散不等式
上r如虎≧α上r¢2糾脚)一柳)
(3・8)
が成立する・(3・8)式は電気系サブシステムgl:祝→¢がストレージ関数を(3.4)式,エネ
ルギ供給率をぴ(¢,祝)=画一α¢2とする出力強受動系であることを示している.q
命題3・2
機械系サブシステム量:(んag-mタ)}由は受動系である.
証明3・2機械系サブシステムβ2のストレージ関数を機械系の運動エネルギ(2.3)とする.
これを機械系サブシステムの支配方程式(3.2)第3式に沿って時間微分すれば,
二㌦=m由弘=由(んag-mタ)
(3.9)
を得る.上式の両辺を0からrまで時間積分すれば,
上r加=㍍(rト瑚)
上r蝿ag-mタ)df
(3・10)
が成立する・上式は機械系サブシステム銭‥(んag-mタ)→如がストレージ関数を機械系
サブシステムの運動エネルギ(2・3),エネルギ供給率をぴ(如,んag-mタ)=匁。(んag-mタ)
とする受動系であることを示している.q
これらの命題より電気系サブシステムについては,電磁石への入力電圧祝を用いて磁
束¢を制御することは容易であるといえる.同様に機械系サブシステムについては,剛体
球に作用する力んagを用いて剛体球の速度如を制御するのは容易であるといえる.また,
電磁力んagと磁束¢の間には静的な関係式として(3.2)第2式が成り立っ.これらより,
3.3.コントローラの導出
37
Figure3・1‥Decomposedmagneticlevitationsystem・
電気系サブシステムを剛体球が目標軌道に追従するような電磁力を発生させる磁束となる
ように制御することで,剛体球の運動を制御できると期待できる.したがって,電気系サ
ブシステムは剛体球を駆動するための独立したアクチュエータと見なすことができ,それ
ぞれのサブシステムに対して独立に安定なコントローラを設計すれば系全体を安定化でき
ると期待される.
また,電気系サブシステムと機械系サブシステムはFigure3.1に示すように,電磁力と
剛体球の位置を通してフィードバック結合された系であるとみなすことができる・
3.3
コントローラの導出
第2章と同様に本章でも剛体球の位置に関する追従制御を考える.前節の2つの命題よ
り,電気系サブシステムと機械系サブシステムが完全に分離でき,それぞれのサブシステ
ムに対して受動性が成立するので,それぞれのサブシステムに対してエネルギの整形と減
衰項の挿入を独立に行うことでコントローラ設計ができると期待される.系全体のコント
ローラは独立に設計されたサブコントローラを結合することで得られる.それぞれのコン
トローラの役割は以下のとおりである.
1.機械系サブシステムに対するコントローラでは,位置誤差を0とするような電磁石が
発生すべき目標電磁力んag。を計算する・
2.電気系サブシステムに対するコントローラでは,機械系サブシステムのコントローラ
で得られた目標電磁力んag。を発生させるような目標磁束如を計算し,さらに,磁
束が目標磁束¢dとなるような制御入力祝を決定する.
第3章剛体球磁気浮上系に対する電気系と機械系を分離した制御
3.3.1
38
制御入力祝の決定
機械系サブシステムが的を整定するために必要な電磁力んag。と,それを発生させる
ような目標磁束如が与えられているものとして,¢→¢dとなるような制御入力祝を決定
する・本研究では受動性にもとづく追従制御を考えているので,閉ループ系が受動系とな
るようなコントローラを設計する.そのために,電気系サブシステムのエネルギを整形し,
所望する閉ループ系のストレージ関数が
(3・11)
仇=去∂2
となるようなコントローラを考える.ここで,¢=¢-¢dは磁束誤差である.いま,入力祝
祝=∂d+苦(c2-yO)¢両
(3・12)
とすると,電気系サブシステムに関する閉ループ系のダイナミクスは,
∂=一芸(c2一帥)∂+γ (3・13)
となる・ここでγは新しい入力である・このとき,電気系サブシステムの閉ループ系(3.13)
はストレージ関数を(3・11)式,エネルギ供給率をぴ(∂,祝)=み-α∂2とし,入力をγ,出
力を¢とする出力強受動系であることは命題3.1の証明と同様の手続きにより容易に示す
ことができる・また,γ≡0のとき,α=月。/cl>0,C2-yO>0より電気系サブシステム
の閉ループ系(3・13)は指数安定であることは明らかで,ま→∞のとき¢→¢dとなること
が保証される.
3.3.2
目標磁束如の決定
電磁力んagは磁束誤差¢と目標磁束¢dを使って以下のように書ける.
んag=去¢2
2.d
′のT
i
+
∼′¢
∼′¢
+ 2
(
宛
)}
(3.14)
前項の結果より,γ≡0のとき∂→0が保証されているので目標磁束¢。を(3.14)式におい
て¢=0,Lnag=Lnag。とした式
んagd=去¢3
(3.15)
3.3.コントローラの導出
39
の解として選ぶ.この解は以下のように得られる.
(3.16)
二
(3.17)
l一2
・如
ここで,目標電磁力んag。の時間微分は既知であると仮定し,如<0となる解は用いない・
このとき,(3.12)式に(3.16),(3.17)式を代入すれば制御則uはんag。とたag。を用い
のように書ける.
2んa些(1+〃
祝
3.3.3
ー一旦-んag。+月。(c2-y。)Cl
2よnag。
(3.18)
目標力んag。の決定
最後に機械系サブシステムをyoに整定させるための目標電磁力んag。を決定する・機
械系サブシステムは単なる2次系であるので,ここではPID制御則を用いて目標電磁力
んag。を以下のように定義する・
(3.19)
んag。=m〈弘一た2壷0一拍-た0鉢伊〉
ここで,威0=yo-yOdは位置誤差で,た0,た1,た2>0は
d(β)=β3+た252+たび+た0
(3・20)
がHurwitz多項式となるように与える.ここでsはラプラス演算子である.
Figure3.2に導出したコントローラのブロック線図を示す・図中のClは(3・18)式に対
応し,Gは(3.19)式に対応する.得られたコントローラは,電気系サブシステムに対して
はフィードフォワードに相当する制御を行い,機械系サブシステムは剛体球の位置に関す
るPID制御で構成される.(3.18),(3.19)式より調節できるモデルパラメータはインダク
タス定数cl,ギャップ定数c2,電磁石の抵抗月日
クゲインた0,た1,た2である.
および剛体球の質量mとフィードバッ
第3章剛体球磁気浮上系に対する電気系と機械系を分離した制御
40
Figure3・2‥Blockdiagramofthepassivitycontroller.
安定性解析
3.3.4
導出されたコントローラに対して以下の命題が成立する.
命題3・3
剛体球磁気浮上系モデル(3・2)に対し,γ≡0としたコントローラ(3.18),(3.19)
を適用した場合,f→∞のとき威0→0となる.
証明3・3(3・14),(3・15)式,および(3.19)式を(3.2)第3式に代入すれば次式を得る.
(∂+2¢d)一明
m弘=m〈如-た2壷0-た1弘一戊0鉢佃〉
+去∂
(3・21)
ここで,上式を適当に移項して整理すれば,機械系サブシステムの閉ループダイナミクス
(3・22)
〈壷0+症+摘+た0上土紬dT〉=去∂(∂+2¢
を得る.ここで,適当な変数変換を行うと,重力の影響を取り除くことができ,
(3・23)
〈壷0+症+摘+た0鉢伊〉=去∂(∂+2¢d)
とすることができる.いま,状態変数ベクトルを
諾=[威0壷。鉢伊]r
(3.24)
と定義し,入力滋を
克=去∂(∂+2¢d)
(3・25)
と定義して,閉ループ系のダイナミクス(3.23)を書き換えると,
壷=A諾+月協
(3.26)
3.3.コントローラの導出
41
を得る.ここで,行列A∈R3×3とβ∈R3×1は次のとおりである・
た
O
0戎0
1戎0
0
1
(3.27)
0
l
また,行列Aの特性多項式は(3.20)式に一致し,d(s)がHurwitz多項式となるように係
数た。,た1,た2が選ばれているので行列Aは安定である・したがって,正定対称行列Pと
準正定対称行列Qが存在してLyapunov方程式
PA+ArP=一々
(3.28)
が成立する.閉ループ系のダイナミクス(3.26)の漸近安定性を示すために,行列Pを用い
Ⅴ=去抑諾
(3・29)
を考え,これを閉ループ系のダイナミクス(3.26)に沿って時間微分し,(3・28)式を用いて
整理すれば,
ウ=一芸諾rQ打拍動
(3.30)
を得る.(3.30)式,第1項目は行列Qの準正定性により,
一芸諾rQ諾≦0
(3.31)
が直ちにいえるが,第2項目は符号の判定がつかない.そこで,第2項目の有界性につい
て考察する.まず,目標磁束¢dに関して,
l¢。l2≦l2mcll(l鮎l+ll∬‖l匝‖)
(3.32)
∬=[た2た1た0]
(3.33)
を得る.ここで,
である.これより適当な正数α1,α2>0が存在して,
l¢dl≦α1+α21㈲l
(3.34)
とすることができる.同様にして,
紺∂l+2㈲〉
(3.35)
第3章剛体球磁気浮上系に対する電気系と機械系を分離した制御
42
となるので適当な正数α3,α4>0が存在して,
l叫 ≦
剣(α3+α。l酬)
(3.36)
とすることができる・これらの結果より,(3・30)式,第2項目は適当な正数β1と戯を用
いて
諾rP仇l≦同〈β1+馴諾Il2〉
(3・37)
と書くことができる・¢は指数的に0に収束するので,Qを適当に大きく取ることで
(3・38)
ウ≦一芸諾rQ諾+l抽+β21軒〉≦0
とすることができる・したがって,Vは閉ループ系(3.26)のLyapunov関数となり壬→∞
で諾→0が示された.一q
数値シミュレーション
3.4
本章で得られたコントローラの有効性を検証するため数値シミュレーションを行う.シ
ミュレーション条件および目標軌道は2.5.1項で示されたものと同じ条件で行う.ゲインと
モデルのパラメータを「mble3.1に示すように設定したときの数値シミュレーション結果を
Figl∬e3・3に示す・シミュレーションでは時刻1[sec]において制御が開始される.
Tもble3.1:Gainsandparametersofthereferencemodel.
Parameter
Symbol
Value
Di鮎rentialgaln
た2
500
Propotionalgaln
た1
2500
Integralgaln
た0
250
Coilinductanceconstant
Cl
Gapconstant
C2
Coilresistance
Ballmass
Gravityconstant
10.75×10
5
2.20×10-3
月。
4.50
田
63.7×10-3
タ
9.80665
[Hm]
団
[n]
【Kg]
[m/sec2]
シミュレーション結果より,位置と速度の軌道に若干の誤差が生じるが,おおむね良好
に追従しているといえる.ゲインとパラメータは試行錯誤的に決定したが,モデルベース
43
3.4.数値シミュレーション
-4.0
5.0
【00∽\五首0〇一〇>
-5.0
Result
[∈】GO害岩d
4.0
-6.0
Dく∋Sir(∋d一
3.0
-7.0
2.0
-8.0
一
1.0
-9.0
0.0
-10.0
0
11・%
2.0
4.0
0
1・㌔
6.O
Time[sec】
/0
つん
0 6
0 4
2.0
4.O
【>]論題〇三nd占
【く】l亡り呂一U
0 8
4.0
6.O
(b)Velocitytr勾eCtOry.
L4
1 0
2.0
Time[sec】
(a)Positiontrq]eCtOry,
l
ー3
x10
6.0
0
5 5
】
】「
一】▲
一▲
1
1
5 0
4 5
Ti皿e【sec]
(C)Cl爪ent.
L
0
2.0
4.0
6.O
Time【sec]
(d)1nputvoltage.
Figure3.3:Simulationresultoftheseparatedcontro11er.
ドコントローラの場合と同様に,電気系サブシステムに対するコントローラのパラメータ
を調整しておおよその追従特性を得たのちに,機械系サブシステムのゲイン調整を行った.
本章で導出されたコントローラでは,機械系サブシステムのゲインよりも電気系サブシス
テムに対するパラメータの方が制御性能に大きな影響を与える.本章で導出されたコント
ローラではモデルパラメータの変化に対する感度は高いが,ゲインた2,た1,た。の変化に対
する感度が鈍い.これは,それぞれのサブシステムに対するコントローラが独立しており,
電気系サブシステムは機械系サブシステムを駆動するためのアクチュエータとみなせるの
で,電気系サブシステムが目標磁束如に収束しない限り目標電磁力を発生できないためで
ある.したがって,機械系サブシステムに対するコントローラのゲインた2,たい
に調整して応答性を改善しようとしても,電気系サブシステムの応答性が悪いと目標磁束
に追従することができず,結果的に系全体の応答性が劣化する.この意味で分離型コント
ローラではゲイン・パラメータ調整がシビアである.また,電気系サブシステムの閉ルー
た。を適切
第3章剛体球磁気浮上系に対する電気系と機械系を分離した制御
44
プ系の収束速度は月。/clによって決定され,さらに何らフィードバックを行っていないた
め収束速度を調節することができない.磁束のフィーバックを行うことで,制御特性の改
善が期待できるが,この場合,電気系サブシステムは依然として非線形であるので,平衡
点が目標値とは異なるところに移動するピーキング現象[10]が発生し制御性能を劣化させ
る恐れがある.
3.5
実験
本章で得られたコントローラの実機での有効性を検証するため実験を行った.実験条件
は2・6節で示されたものと同じ条件とする・ただし,制御開始時の電流の値は5.5[Ⅴ]の制
御入力を電磁石に印加したときに電磁石に流れる電流とした.目標軌道はこれまでと同じ
ものを用いる.
機械系サブシステムのコントローラのゲインと電気系サブシステムのコントローラのパ
ラメータをTbble3・2に示すように設定したときの実験結果をFigure3.4に示す.実験では
時刻1[sec]より制御が開始されている.
1もble3.2:Gainsandparametersofthereferencemodel.
Parameter
Symbol
Value
Diff6rentialgaln
た2
430
Propotionalgaln
た1
1850
Integralgaln
た0
Coilinductanceconstant
Cl
Gapconstant
C2
10
10.25×10
5
2.00×10-3
Coilresistance
月。
4.30
Ballmass
田
63.7×10-3
Gravityconstant
タ
9.80665
[Hm]
団
[n]
[Kg]
[m/sec2]
モデルベースド型コントローラと同様に速度信号を得るために後退差分を用いたため,
レーザー変位計の量子化誤差によるノイズが現れていることが確認できる.この影響によ
り制御電圧には大きな振動が現れるが,電磁石が有するローパス特性により位置軌道に大
きな影響を与えていないことが確認できる.また,非線形性の影響があるにもかかわらず
目標軌道に良く追従しているということができる.
45
き.5.実験
0.03
-4.0
[00S\∈]倉00-○>
0.02
-5.0
言言二三…ニ
-6.0
0.O1
-7.0
0
-8.0
-9.0
-0.01
-10.0
-1l.0 0.0
l
2.0
4.O
-0.02 0.0
6.0
2.0
4.0
Time[sec]
T血e[sec】
(a)PositiontT叫eCtOry.
0))Velocitytr毎ectory.
6.O
′0
l 2
1 0
0 受U
2.0
4.O
[>】乱雲〇三己丘
l 4
[且一仁りヒnU
臥0
′m0
Ti皿e[sec]
(C)Cu汀ent.
2.0
4.0
Time[sec]
(d)1npufvoltage.
Figure3A:Experimentalresultoftheseparatedcontroller.
本章で得られたコントローラはモデルベースド型コントローラよりもゲインを大きく設
定することができない.また,前章で得られたコントローラよりも振動が生じやすく,不
安定になり易い傾向が見られた.この理由は次のように考えられる.電気系サブシステム
は機械系サブシステムを駆動するためのアクチュエータとみなすことができ,さらに,電
気系サブシステムは平衡点近傍では近似的に1次遅れ系とみなすことができる.したがっ
て,機械系サブシステムのコントローラが生成した目標電磁力がアクチュエータのバンド
幅を超える周波数成分を有する場合,その周波数成分に対しては十分なゲインを得ること
ができないため,機械系サブシステムに生ずる振動を十分減衰させることができない.し
たがって,ゲインを大きくして機械系サブシステムの固有振動数を上げると系は不安定に
なりやすくなると考えられる.このため,あまりゲインを大きく設定することができず,位
置軌道にも若干振動が残り,追従性に関しても若干誤差が生じシミュレーションほど良好
な結果を得ることができない.
6.O
第3章剛体球磁気浮上系に対する電気系と機械系を分離した制御
46
線形コントローラとの比較
3.6
本節ではこれまでに導出された非線形コントローラと線形コントローラとを比較する
ことで非線系コントローラの優位性を示す.線形制御では本来非線形であるシステムを平
衡点近傍で線形近似してコントローラ設計を行うため,線形領域から外れたところでは閉
ループ系は安定性が保証されず,広範囲での安定化が困難である.しかし,これまでに導
出された非線形コントローラはハードウェアの制約を受けない限り理論的にはあらゆる範
囲で安定性が保証される・線形制御の方法は多くの種類があるが,本章では文献[58]をも
とにLQG制御とKalmanフィルタを用いた状態推定器を組み合わせたものを取り上げる.
3.6.1
線系モデルの導出
剛体球磁気浮上系を線形近似する際の剛体球の位置,速度,および電流の平衡点をそれ
ぞれ封g,姐dgとし,これらの平衡点を実現するための電圧を祝0とおく.このとき,剛
体球磁気浮上系を同定して得られたプラントモデル,
(石㌔+エ0)鮎+
(z。-y。)2
myo
yo豆。+月1亘。=祝
(3.39)
(3・40)
¢2+mタ=0
(ご。-y。)2
を平衡点近傍で線形近似すれば以下の式を得る.
エ0△範+た3△洩。+凡△d。=△祝
m△弘一硯△yo-た㌘△d。=0
ここで,△yo,△q。,△祝はそれぞれ剛体球の位置,電流,および制御電圧の平衡点からの
微小な変化であり,係数エ0,た‰た㌘,た3はそれぞれ,
エ0
+エ0,硯
ニ0-J/g
2た(鵡2
(諾。-y8)3'
(3.43)
2た豆g
銚g
(∬。-yg)2'
(z。-yg)2
である.ここで,状態変数ベクトルを
諾=[軸。△如△豆。]r
(3・44)
3.6.線形コントローラとの比較
47
とおくと状態方程式
(3.45)
ゐ=A諾+む△祝
を得る.ただし,行列Aとむはそれぞれ以下のとおりである.
0
1
0
(3.46)
た岩
見l
ム0
ム0
いま,剛体球の位置と電磁石を流れる電流が観測可能なので出力方程式を以下のように定
y=C諾,C=[去3冒]
(3・47)
本研究では上式で与えられた近似線形モデルに対してKalmanフィルタを用いたLQG
制御を行う.Kalmanフィルタではすべての状態を推定し,推定された状態を用いて状態
フィードバックを行う.なお,線形コントローラを用いたシミュレーションは行わず実験
結果の比較のみに留める.
3.6.2
実験条件
実験では目標位置をyod=-5[mm]とし,初期位置を-7[mm],-10[mm]としたときの
初期値応答を求める.線形モデルを得る際の系の平衡点には目標位置を用い,封g=一5[mm]
3)g=0[m/sec]とし,電流に関しては電磁力が重力と釣り合うときの値とした・
初期位置を-7[mIn]としたときの実験結果をFigure3・5に示す・(a),(b),(c)図はそれ
ぞれLQGコントローラ,モデルベースド型コントローラ,分離型コントローラの実験結果
であり位置と速度の結果のみを示した.LQGコントローラの状態変数の重みQβと入力の
重みQ祝は試行錯誤によりそれぞれ以下のように設定した.
Q。=2500×
,Q祝=1.0
(3.48)
また,モデルベースドコントローラのゲインと参照モデルのパラメータはAm=250,j㌔m=
2.0,j㌔。=10.0,Cl=10.75×10
5[Hm],C2=2.0×10
3[m],月。=4.55[n=こ設定し,分離型
第3章剛体球磁気浮上系に対する電気系と機械系を分離した制御
48
コントローラのゲインとパラメータはた2=240,た1=1500,た0=15,Cl=9.00×10-5[且m],
C2=2・00×10
3[m],島=4.2[n]に設定した.
Figure3・5より線形コントローラでは定常振動が現れていることが確認できる.一方,非
線形コントローラでは分離型コントローラで若干振動的になっているが,両者ともほとん
ど振動もなく目標位置に収束していることが確認できる.しかし,立ち上がりは線形コン
トローラの方が結果が良く,非線形コントローラでは目標値付近での収束がやや遅くなっ
ていることが確認できる.特に分離型コントローラでは線形コントローラとモデルベース
ドコントローラと比較して立ち上がりの遅さが目立っ.これは,先に述べた通り分離型コ
ントローラでは系全体の応答が電気系サブシステムの応答に左右されてしまうことと,電
気系サブシステムの収束速度を調節できないことに起因する.一方,線形コントローラと
モデルベースドコントローラでは電流フィードバックを用いるので電気系の応答速度を改
善することができ,その結果目標値への収束を速くすることができる.また,非線形コン
トローラでは定常偏差は確認できないが,線形コントローラでは偏差が生じていることが
確認できる.
Figure3・6は初期位置を-10[mm]としたときの実験結果である.線形コントローラでは
目標値と初期位置のギャップが2・5[mm]に達したときに安定浮上ができなくなり,5.0[mm]
では浮上自体ができなかった・初期位置を-7[mm]とした場合の実験結果と同様にモデル
ベースドコントローラでは立ち上がりが速く,目標値に収束した後も安定しており,振動
は現れていない.一方,分離型コントローラでは立ち上がりが遅くなり,制御開始時に生
じた振動が収束するまでに時間がかかっている.しかし,両者ともに最終的には目標値に
よく収束しているといえる.
以上の結果より,非線形コントローラでは初期位置と目標値のギャップを5[mm]として
も安定に,かつ精度良く目標値に追従させることができるが,線形コントローラでは初期
ギャプが2[mm]程度で定常振動と偏差が発生するようになり,それ以上では浮上自体が不
可能になった.これより,目標値への追従という点と広い安定領域という意味で,非線形
コントローラの明らかな優位性が示された.また,非線形コントローラ同士で比較すると,
電流フィードバックを持つモデルベースドコントローラの方が振動の減衰特性,立ち上が
りの速さの両面で分離型コントローラより有利であることも示された.
49
3.臥
良0
ー8.00.0
2.0
4.0
6.O
[0聖篭】倉00-ひ>
丁二-=三…二
5. 0
線形コントローラとの比較
2.0
Time[sec]
4.0
6.O
Time[sec]
(a)LqGcontroller.
[0慧、五首旨10>
ニニ;三〓′ニニ
0
0
0
2.0
4.O
05
<U
0
Ti皿e【sec】
2.0
4.O
Ti皿e[sec]
(b)Modelbasedcontroller.
[UOS竜】倉00t¢>
5 0
[∈]宕≡岩d
′D 0
7 0
ー8.00.0
2.0
4.0
6.O
Tilne[sec】
2.0
4.O
Tilne[sec]
(C)Separatedcontro11er.
Figure3・5:Experimentalresultsoflinearcontrollerandnon-1inearcontro11ers(initialgap
2[mmり.
第3章剛体球磁気浮上系に対する電気系と機械系を分離した制御
50
ー4.0
丁′〓ニ(〓.:∵ン
[且岩三等d
-6.0
-8.O
10.0
2.0
4.O
2.0
Tmle[sec]
4.0
6.O
Time[sec]
(a)LQGcontroller.
[OU∽\五首U01む>
【且uO芋芯Od
2.0
4.O
2.0
Time[sec]
4.O
Time[sec]
(b)Modelbasedcontrol]er.
【OUS\且倉U〇一〇>
【且亡〇三等d
」
0
2.0
4.0
6.O
2,0
4.0
6.O
Tlme[sec]
Ti皿e[sec]
(C)SeparatedContro11er.
Figl∬e3・6:Experimentalresultsoflinearcontrollerandnon-1inearcontrollers(initialgap
5【mm]).
3・7・まとめ
51
まとめ
3.7
本章では剛体磁気浮上系を電気系サブシステムと機械系サブシステムに分割して,それ
ぞれのサブシステムに対して独立に安定かつ受動的なコントローラを設計し,それらのコ
ントローラを結合することで系全体を安定化するようなコントローラを導出した・本章で
得られたコントローラは電流のフィードバックを必要としない・
本章で得られたコントローラの制御性能は第2章で示されたコントローラより若干制御
性能が劣るが,電気系サブシステムと機械系サブシステムを分離でき,それぞれを独立に
安定化するようなコントローラが得られれば系全体を安定化できるため,機械系サブシス
テムに分布定数系が含まれるような系に対してコントローラ設計が容易に行えると考えら
れる.また,線形コントローラとしてKalmanフィルタを用いたLQGコントローラを設計
して実験を行い,非線形コントローラと比較・検討を行った.その結果非線形コントロー
ラの明らかな優位性を示すことができた.
第4章
柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性にも
とづく制御
はじめに
4.1
4.1.1
柔軟構造物に対する研究動向
前章までは機械系システムの一例として剛体球を対象とした磁気浮上系を取り扱ってき
た・しかし,近年では機械システムの小型・軽量化
さらに高精度,高速化にともない弾
性振動を無視できない場合や制御対象がもともと弾性体であるなどの理由により,柔軟物
体に対する制御の要求が高くなってきた.柔軟物体に対する制御の研究として,圧電素子
を用いたマイクロアクチュエータに関する研究[60][61]やフレキシブルマニピュレータに対
する研究[62]-[65]が数多く行われている.柔軟物体の運動方程式は偏微分方程式で記述さ
れるため柔軟物体は無限個の自由度を持つ.このような機械システムに対するコントロー
ラを設計,実装するためには通常,以下の設計法のどちらかを用いて有限次元コントロー
ラを導出する[38].
1・無限次元コントローラを設計して得られた無限次元コントローラを有限次元化する.
2.無限次元モデルを有限次元化して得られた有限次元モデルに対して有限次元コント
ローラを設計する.
Sasakiら[66]は圧電素子マイクロアクチュエータに対して無限次元モデルをモード展開し,
高次のモードを打ち切って有限次元化し,得られた有限次元モデルに対して線形制御を行っ
て有限次元コントローラを得ている.しかし,このように何らかの有限次元化を行った場
52
4.1.はじめに
53
合,打ち切りによって発生するモデル化誤差が原因となってスピルオーバーが生じる恐れ
がある.
一方,Okudaら[67]はLyapunovの直接法をコントローラ設計に用い,設計パラメータ
として正定値関数を与え,これがLyapunov関数となるようなコントローラの設計手法を
提案した.この設計法では有限次元化の手続きが一切含まれておらず,直接実装可能な安
定化コントローラを得ることができる.したがって,有限次元化に伴うモデル化誤差がな
いため,スピルオーバーによる制御性能の劣化が起こらない.また,このとき得られるコン
トローラはひずみフィードバックから構成される.近年では一部の分布定数系に対しても
受動性が成立することが次第に明らかにされてきており,特にフレキシブルマニピュレー
タの分野で受動性にもとづくコントローラ設計が盛んに行われている.この設計法ではエ
ネルギの整形とダンピングの挿入により閉ループ系のストレージ関数を構築し,閉ループ
系のストレージ関数が同時にLyapnnov関数となるように制御入力を決定する.この意味
ではLyapunovの直接法によるコントローラ設計と同様の設計法であり,得られるコント
ローラはひずみフィードバックを含むコントローラ(PDS制御則)となることが知られて
いる.
4.1.2
柔軟構造物に対する磁気浮上系に関する研究動向
本研究では柔軟物体を有する機械系システムとして柔軟ビーム磁気浮上系を考える.柔
軟ビームをはじめとする柔軟物体に対する磁気浮上は,磁気浮上を利用した搬送システム
や塗装システムで要求されている.柔軟物体を浮上させる場合,その弾性振動の影響によ
り剛体球を浮上させる場合よりも不安定になりやすい.柔軟物体に対する磁気浮上に関す
る研究はあまり多くなく,自動車の製造ラインで用いられる薄鋼板の搬送系を対象とした
ものを中心に報告されている[68ト[72].しかし,これらの研究では薄鋼板に生じる弾性振
動を陽に考慮してコントローラ設計が行われておらず理論的な根拠が乏しい.一方で,押
野谷ら[73]-[75]は薄鋼板を1次元の分布定数系としてモデル化し,得られたモデルをもと
にして線形最適制御を適用し,佐々木ら[76]は柔軟ビームに対する磁気浮上系を考え,柔
軟ビームのダイナミクスを陽に考慮して外乱オブザーバとLQG制御を適用した.これら
の研究では柔軟物体に対する磁気浮上系のダイナミクスは平衡点近傍で線形近似され,さ
らに弾性振動についてはモード展開を行い高次モードを打ち切ることで有限次元化される.
このようなモデルを用いてコントローラ設計を行った場合,非線形の影響により安定範囲
第4章柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性にもとづく制御
を大きく取れないばかりでなく,高次モードを打ち切ったことによるスピルオーバーが発
生し,制御性能を劣化させると考えられる.そこで,本研究では柔軟ビーム磁気浮上系が
有する受動性に注目し,これにもとづくコントローラを設計する.これにより,非線形か
つコントローラ設計に有限次元近似を必要とせず直接実装可能なコントローラを得ること
ができると期待できる.
柔軟ビーム磁気浮上系のモデリング
4.2
本章ではFigure4.1に示すような柔軟ビーム磁気浮上系を考える.柔軟ビームの長さを
g,線密度をβ,曲げ剛性を即,質量をm=〆とする.電磁石に印加する電圧を坊電磁
石を流れる電流をd。,電磁石のインダクタンスと抵抗をそれぞれん.月。とする.
Figure4.1:Magneticlevitationsystemfortheflexiblebeam.
4.2.1
座標系の設定と柔軟ビームの運動の記述
柔軟ビーム磁気浮上系では柔軟ビームの運動は垂直軸方向の並進運動と弾性振動が組み
合わさったものとして記述できる.そこで,柔軟ビームの運動をどこかに固定された座標
系に対する運動と柔軟ビームとともに運動を行う動座標系に対する運動に分解して記述す
る.このために,以下の2つの座標系を設定する.
基準座標系∑。電磁石下端面に設定される運動を行わない固定座標系.座標系原点は電磁
石下端面に設定され,ご0軸は水平方向に,yO軸は電磁石の中心を通り鉛直上向きを
54
4.2.柔軟ビーム磁気浮上系のモデリング
55
正として設定される.
ビーム座標系∑1柔軟ビームの向かって左端に設定される柔軟ビームとともに運動を行う
動座標系.座標系原点は柔軟ビームの中立軸上に設定され,∬1軸は変形前の柔軟ビー
ムの中立軸に沿って,yl軸は鉛直上向きを正として設定される・
柔軟ビームは電磁力によりyo方向のみの並進運動を行い,∬0軸方向の並進運動,および
各軸周りの回転運動を行わないと仮定する.また,柔軟ビームはベルヌーイ・オイラーの
仮定が満たされる両端自由はりとしてモデル化する.さらに,柔軟ビームのたわみは垂直
軸方向の並進運動に比べて十分小さいとする.
ビーム座標系∑1の原点から距離£1だけ離れた柔軟ビーム上の点をPとし,点Pにお
ける柔軟ビームの弾性変位をぴ(∬1,f)で表す.このとき,ビーム座標系∑1で観測した柔軟
ビーム上の点Pの位置ベクトル1ppは次式で与えられる・
1pp=し(;:,t)]
(4・1)
また,基準座標系∑0座標系で観測したビーム座標系∑1への回転行列0月1と原点位置ベク
トルOplはそれぞれ次式で与えられる・
7・む一2
喩
1
ニ
O
ト]
0
1
一
O
p
(4・2)
二
l
封0
したがって,基準座標系∑。で観測した柔軟ビーム上の点Pの位置ベクトルOppは次式で
与えられる.
Opp=ORllpp+Opl=
豆+∬1
(4・3)
帥+ぴ(∬1,f)
基準座標系∑。で観測した点Pの速度は(4.3)式を時間微分すれば以下のように得られる・
(4・4)
0少p=[由+ご(∬1,り]
4.2.2
基準座標系で観測した柔軟ビーム磁気浮上系のエネルギ
柔軟ビーム磁気浮上系の支配方程式をHamiltonの原理[78]にもとづいて導出するため,
柔軟ビーム磁気浮上系が有するエネルギを導出する.まず,基準座標系∑0で観測した柔軟
第4章柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性にもとづく制御
56
ビームの運動エネルギ垢は基準座標系∑0で観測した柔軟ビーム上の点Pの速度(4.4)を
用いて以下のように書ける.
垢
瑞礪0如玖
主上`抽+坤扉げゐ1
(4・5)
また,材料力学の公式[77]より,柔軟ビームの弾性ひずみエネルギ鴨は次式で与えられる.
(4・6)
鴨=上菅〈
柔軟ビームの重力に関するポテンシャルエネルギ鴨はgを重力加速度ベクトル,
(4・7)
g=[;]
とすると次式で与えられる.
βgrOppdれ
上gβタ(yo+ぴ(∬1,榊1
(4.8)
ただしタ>0は重力加速度定数である.ここで,2.2節で得られた剛体球磁気浮上系に対す
る重力によるポテンシャルエネルギ(2・5)では,yO→C2のときエ(y。)→∞となることを
考慮して,
鴨=-mタ(c2-yO)
(4.9)
と修正していたので,柔軟ビーム磁気浮上系の場合においてもこのことを考慮して(4.8)式
(4・10)
鴨ン上`βタ(c2一封0-ぴ(諾1,榊1
ここで,C2はギャップ定数である.
電気系のエネルギ℃はここではとりあえずyo,ぴ(∬1,り,豆。,および∬0の関数として
℃(yo,叫豆。,∬0)と表されると仮定する.これについては後に具体的な考察を与える.
電磁石の入力電圧現によって電気系に蓄えられる仮想エネルギ∂Wlは仮想仕事の原理
より
∂Wl=祝∂q。
(4.11)
4.2.柔軟ビーム磁気浮上系のモデリング
57
と表される.また,電磁石の内部抵抗により消費される仮想エネルギ∂Ⅵちは負の仮想仕事
となり次式で与えられる.
(4.12)
∂l鳩=一月。d。∂q。
これらより,入力電圧祝と電磁石の内部抵抗月。による仮想仕事∂Ⅳは次式で与えられる.
∂lγ=∂Ⅳ1+∂Ⅵち=祝∂q。一月ed。∂qe
4.2.3
(4.13)
運動方程式の導出
Hamiltonの原理より柔軟ビーム磁気浮上系が行う運動は汎関数
(4・14)
∫=J:2(垢+℃-鴨一陥+Ⅳ)戯
が停留値となるような方程式,すなわち,
(4.15)
∂∫=f2∂(垢+℃-鴨一鴨+Ⅳ)df=0
を満たす方程式で与えられる.ここで,∂Ⅳは(4.13)式で定義された仮想仕事である・こ
こで,
軸0,呵=吉相+廟,り)2
(4・16)
冤(y。,W)=βタ(c2-y。-ぴ(諾1,り)
(4.17)
2
1ノ
疏(ぴ′′)=去即〈
(4.18)
とおいて停留条件(4.15)を計算すると支配方程式
∂7こ
上ヱ孟(霊)玖一
一上g語払=0
什孟(慧)+・
一芸(語)〉坤1,絢+慧叫刷
∂yo
(4・19)
∂鴨
∂ぴ
孟(芸卜芸=0
(4・21)
第4章柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性にもとづく制御
58
および,境界条件
(4.22)
(4・23)
∂
(4・24)
∂£1
∂
(4・25)
∂∬1
を得る.
(4.19)式は柔軟ビームの剛体モードの運動方程式であり,各項を計算すると次式を得る.
(4・26)
上`柏+柚)}払一芸+上`輌1=0
(4・27)
m=上`極,弛=三上g叩(諾1梱1
とおくとmは柔軟ビームの質量であり,弛は柔軟ビーム座標系で観測した柔軟ビームの
封1軸方向の質量中心である・これより,(4.26)式はmとycを用いて
棉+鮎)一芸+mg=0
(4・28)
と書くことができる・これは,基準座標系∑0で観測した柔軟ビームの質量中心(y。+弛)
に関する運動方程式を表している.いま,ビーム座標系∑1は変形前の柔軟ビームの中立
軸に沿って,すなわち,£1軸が質量中心を通るように設定されているので弛=0となり,
剛体モード運動方程式は
となる.
m弘一芸輌=0
(4.29)
(4.21)式は電気系の回路方程式であり,各項を計算すると次式を得る.
孟倍)
=祝一月。豆。
(4・30)
4.2.柔軟ビーム磁気浮上系のモデリング
59
(4.20)式は柔軟ビームの弾性方程式であり,各項を計算すると次式を得る・
∂4ぴ(∬1,り
+壷(諾1,f))+βタ+βJ
∂諾壬
〉坤1梱1+慧叫刷=0(
仲弘
(4.31)式において,ぴの変分∂ぴ(∬1,りが消去されていないのは∂ぴ(諾1,りが諾1の関数であ
るため,第2項目が∬1に関する積分とならない限り全体を∂(∬1,f)でくくれないためで
ある.
また,境界条件(4.22)から(4.20)の各項を計算すると境界条件は次式のようになる・
∂2乱,(い)
=0
∂.l・苦
(4.32)
∂21〃(0,f)
=0
∂.J・i
(4・33)
∂3ぴ(い)
=0
∂∬雪
(4.34)
∂3て〃(0,f)
=0
∂.J・モ
(4.35)
(4.32)式から(4.35)式はそれぞれ,∬1=gにおける曲げモーメントの境界条件,∬1=0に
おける曲げモーメントの境界条件,∬1=gにおけるせん断力の境界条件,∬1=0における
せん断力の境界条件である.
電気系のエネルギに関する考察
4.2.4
前項まで電気系のエネルギはyo,ぴ(∬1,り,亘。,および∬0の関数として℃(帥,叫豆。,諾0)
のように表されると仮定して計算を行ってきた.そこで,剛体球磁気浮上系の場合の電気
系のエネルギと比較して,柔軟ビームの場合の電気系のエネルギをどのようにモデル化す
ればよいかを考察する.
4.2.4.1
弾性方程式より得られる事実
前項で示されたように弾性方程式は
∂41〃(£1,f)
∂.Ⅰ一壬
+壷(諾1,り)+βタ+即
.申き二
〉軸,頼+慧叫瑚=0(4
第4章柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性にもとづく制御
60
として与えられ,任意の関数であるぴの変分∂ぴ(諾1,りが式中に含まれている.したがっ
て,∂ぴ(ご1,りを上式から消去するには∂℃/∂ぴが£1に関する積分として
∂℃
=上`£柔(弥勒如)払
∂(JI
(4・37)
と表されていればよい.℃はある関数である.このとき,弾性方程式は
叶ま
∂4て〃(∬1,り
∂柔(y。,町々。,ご1)
∂ぴ(∬1,りゐ1=0
∂ぴ
∂£壬
(4.38)
〉
+壷(∬1,f))+βタ+即
となるので∂ぴ(∬1,りを消去でき,さらに位置に関する積分を外すことができるので柔軟
ビームの弾性方程式は以下のように書き直すことができる.
∂4ぴ(ご1,f)∂柔(封。,町亘。,諾1)
β(弘+呵£1,り)+βタ+即
4.2.4.2
∂ぴ
∂夷
=0
(4・39)
剛体球磁気浮上系の電気系のエネルギとの比較
(4.37)式より電気系のエネルギが
℃=拝(yo,叫抽)払
(4・40)
で与えられると仮定し,℃の形について考察する.この式は柔軟ビーム上の1点Pを考
え,その点における電気系のエネルギ℃を柔軟ビームの全長にわたって積分したものと見
なすことができる.柔軟ビームのような長尺物に電磁力を作用させる場合,柔軟ビームの
各点Pにおける柔軟ビームの表面を磁束が通過するため,電磁力は£1軸方向の分布力と
して表される・このことを考慮すると(4.40)式のような諾1軸方向の積分として電気系の
エネルギをモデル化することは妥当であるといえる.
そこで,柔軟ビーム上の点Pを通過する磁束如ミy。とび(∬1,りの関数として
Cl
C2
yO
ぴ
β(諾1)亘。
(4.41)
と表されると仮定する・ただし,漏れ磁束は無視し,β(∬1)は分布を表す関数で
上`β(可ゐ1=1
(4.42)
を満たすとする.このとき,柔軟ビームの点Pにおける電気系のエネルギは
1
cl
毛(y。,叫豆。,ご1)=三
2c2-帥-ぴ
亘2β(諾1)
(4.43)
4.3.柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性解析
61
と書くことができる.ここで,Clとc2はそれぞれインダクタンス定数とギャップ定数であ
る.電磁力の分布は有限要素法や境界要素法を用いて計算される[79】[80]が,コントロー
ラの導出が行いやすいようにするため電磁力は柔軟ビームの中心に集中荷重として作用す
(4・44)
β(諾1)=∂(∬1一芸)
を用いる.以上の議論より本研究では柔軟ビーム磁気浮上系の電気系のエネルギは次式の
ように与えられるものと仮定する.
Cl
.〃U「一
2
紬,痛,∬1)=上`芸
∫U
e
C2
yO
T-む一2
(J.J・1
( )
∬l
(4.45)
電気系のエネルギが(4.45)式で表されるとした場合,剛体モードの運動方程式(4・29),
電気系の回路方程式(4.30),および柔軟ビームの弾性方程式(4・31)はそれぞれ以下のよう
に求められる.
剛体モードの運動方程式
Cl
(4.46)
m弘+Ⅷ叩一芸亘2
(c2-y。一視兢)2
柔軟ビームの弾性方程式
∂4ぴ(£1,り
β(弘+叫諾1,り)+βタ+即
∂.l、i
Cl
(c2-y。-ぴ)2
-ん一2
=0
( )
∬ l
(4・47)
電気系の回路方程式
Cl
Cl
(如+てれ)+月。豆。=祝
(4・48)
c2-yO-び九■Ye(c2-y。一礼兢)2
ただし,祝兢=W(g/2,りは柔軟ビームの中心におけるたわみである・また,柔軟ビームの剛
体モードの運動方程式と弾性方程式は基準座標系∑。で観測したときの方程式であり,さ
らに,剛体モードと弾性モードに分解されているので柔軟ビームのたわみぴ(∬1,f)には0
次モードが含まれないことに注意する.
柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性解析
4.3
本節では柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性解析を行う.まずはじめに,文献[81]を
参考にして前節で得られた支配方程式をLagrange関数を用いて表し,柔軟ビーム磁気浮上
第4章柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性にもとづく制御
62
系を電気系サブシステムと機械系サブシステムに分割し,柔軟ビーム磁気浮上系がこれら
のサブシステムのフィードバック結合として表されることを示す.さらに,それぞれのサ
ブシステムが受動性を有することを示す.
4.3.1Lagrange関数による支配方程式の表現
柔軟ビーム磁気浮上系のLagrange関数L。は次式で与えられる.
エ。=
垢(如,呵+℃(yo,叫亘。)一鴨(封0,ぴ)一鴨(ぴ′′)
汀相川2払+主上g
(4・49)
Cl
C2
亘2∂(諾1一芸)函
封0-ぴ
(4・50)
+上gβタ(c2-yO-叫1一芸上工即(
柔軟ビーム磁気浮上系のLagrange関数は位置に関する積分として表される.そこで,積分
を外したLagrange関数Laを定義しておく.
五α=琉(由,呵+柔(y。,叫豆。)一冤(y。,ぴ)-疏(ぴ′′)
1
吉相+㌦+
cl
2c2-yO-ぴ
離
1-む一2
+ βg
( )
∬1
(2
ハし
〃)0
ぴト去即(芸)2
(4・51)
垢,℃,鴨,鴨はそれぞれ,積分を外した柔軟ビームの運動エネルギ,電気系のエネルギ,
重力によるポテンシャルエネルギ,弾性ひずみエネルギである.4.2.3項で求められた柔軟
ビーム磁気浮上系に対する支配方程式をLagrange関数を用いて記述すると以下のように
なる.ただし,境界条件は省略する.
d一成
)
(剛体モード)
∂iα
∂ぴ
孟(語)
∂2
∂∬≡
=祝一月。豆。
=0
(弾性モード)
(電気回路系)
(4.52)
4.3.柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性解析
63
ここで,弾性モードの運動方程式のみ積分を外したLagrange関数で与えられていることに
注意する.そこで,弾性モードの運動方程式を£1に関して0からgで形式的に積分して弾
性モードの運動方程式を積分を外していないLagrange関数にて表す.
上`〈孟(慧)-慧一芸(封〉血=孟(計慧
一般的に,上式は積分した結果が0になることのみを保証する式であり,積分した結果が
0となるような被積分関数が必ずしも弾性方程式を満足するわけではないことに注意する.
いま,一般化座標ベクトルqを
q=[qe封。ぴ(諾1,り「
(4.54)
と定義すると支配方程式は
孟(箸卜箸
ーV2=〃祝-Q
(4・55)
と書ける.ただし,
1
0
V2=
(4.56)
0
である.
4.3.2
サブシステムヘの分割
Lagrange関数を
エ。=エ。+エm
と表す.ここで,
エ。=
エm
℃(yo,町q。)
=
香南0,可一鴨(帥,ぴ)一鴨(ぴ′′)
であり,Leは電気系サブシステムのLagrange関数,Lmは機械系サブシステムのLagrange
関数を表す.このとき支配方程式(4.55)は以下のように書き直される・
孟(芸卜芸-V2
(4.57)
第4章柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性にもとづく制御
64
∂(エ。+エm)
。+エm)
∂亘
∂9
-V2
∂ム。
∂豆。
∂エm
∂由
∂エm
∂止
九九一々
(4・60)
したがって,支配方程式は以下のようになる.
d一亜
)
∂エm
∂エ。
軸0
軸0
∂ムm
∂ム。
∂ぴ
∂ぴ
=0
機械系サブシステム(4.61)
∂2
孟(驚)
孟(語卜語=祝一触〉電気系サブ
∂ご至
このとき,電気系サブシステムに対して以下の命題が成り立っ.
命題4・1電気系サブシステム(4.62)は入力を血,出力を百とするとき,受動的な写像
β1:包ト+百
(4.63)
を定義する.ここで,
(4・64)
包=[_加工止ん],百=はg]
であり,んagは柔軟ビームの中心に作用する電磁力
Cl
(c2-y。一礼兢)2
んag=芸
ある・ここで,乱兢(り=ぴ(g/2,りである.
(4.65)
4.3.柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性解析
65
証明4.1電気系サブシステムのLagrange関数Leを電気系サブシステム(4・62)に沿って
時間微分すると
∂エ。
dエ。
(4.66)
範+慧直面び
df
∂豆。
を得る.ここで,
)
些弛
)
d一戯
二
dl虎
∂エ。‥
面qe
∂エ。.
・‰
(4.67)
・‰
であることを利用すると
些弛・‰
) 孟(語ト+監如+慧止
d一虎
dム。
孟(糾-(祝一月擁+監折詰止
(4.68)
となる.上式第3項目は以下のように変形できる.
∂エe.
上意抽
面yO
Cl
e
C2-yO
1
cl
T-む一2
・的d ∬
( )lノ
2 ∫U
.ハリ一
∬
揖0
2(c2一封。-び九)2
△
(4 叫
ムnagカ0
同様に第4項目は以下のように変形できる.
票こニ・
.轄ざご・′さ・ご
i
ハし
2
∫U
バ乾
〃レ
0
cl
2
.ロー
2(c2-y。一視兢)2
ム。ag通ゎ
e
∬
′二2
∫U
膏乾
yo
△
・ぴ
∬
-d
∬
( )
Cl
1
1-む一2
( )lノ
Cl
・ぴ .」α
諾
・ぴ
,ね
(4.70)
第4章柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性にもとづく制御
66
(4・68)式に(4・69),(4・70)式を代入すると電気系サブシステムのLagrange関数の時間微分
は以下の式となる.
一視豆。+月。d2+んag(如+呵
(4・71)
ここで,(4・64)式で定義された入力由と出力百を用いれば(4.71)式は以下のように書き直
される.
孟(糾一砦=包丁専一紬
(4・72)
ここで,
月=[竃e3]
(4・73)
である・(4・72)式の左辺は電気系の全エネルギに等しく,これを筏とおくと
=面r専一百r月毎
(4・74)
を得る.上式を時刻0からrまで積分すれば
上r警df=卿卜卿)
上r包丁百か上丁紬df
≦上r絢f
(4・75)
を得る・これは電気系サブシステムが入力を面,出力を百とする受動系であることを示し
ている.q
また,機械系サブシステムに対して以下の命題が成り立っ.
命題4・2
機械系サブシステム(4・61)は入力をんag,出力を由+止九とするとき,受動的
な写像
β2:ム。agト+如+止ん
を定義する.
(4・76)
4.3.柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性解析
67
証明4.2機械系サブシステムのLagrange関数Lmを機械系サブシステム(4・61)に沿って
時間微分すると次式を得る.
∂エm.′′
驚壷+慧両面び
謡曲+驚恒
(4.77)
ここで,
∂ムm..
孟(驚如卜孟(驚)如
(4.78)
有yO
れ‥トll」ノ肘
d一成
d一成
翫
二
れl一い肘
(4.79)
・ぴ
を用いると(4.77)式は次のように整理される・
二
d一虎
警
翫 ) 孟(箸ト+驚由
害さご・一覧
liJ//
d一成
ニ
+孟(糾一芸(砦ト
翫 ) (些触+慧)如+箸血
慧山謡止′′
+孟(雲糾-〈砦+慧+芸(語)ト
d一成
二
∂ム。.
れりlJ小什-■
面yO
(4・80)
+孟(慧止ト〈慧+芸(語)ト芸㌍
ここで,(4.80)式の第3項目から第5項目のぴに関する項を積分形で表し,部分積分を行
い境界条件を用いて整理すれば
上g孟(砦〕払一上g〈慧+芸(封〉
=上`孟(慧〕仇一上`〈藍+芸(封
第4章柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性にもとづく制御
68
+[糾∴堤(針]三+上`芸(針ゐ1
上ヱ孟(告〕払一上意抽
止′JO
( )
ト†二三
、れ小■lJ‥出
-α
諾
e
7-む一2
諾
・ぴ
∬
.〃u
.ハUユ
翫)
2 ∫U
l一2
d一成
止′力
二
d一成
二
=上g孟(慧〕払-んag血
(4.81)
を得る・したがって,(4.80)式は以下のように書ける.
孟(驚血+砦正一エm)=んag(由+通
(4・82)
上式左辺の括弧の中は機械系サブシステムの全エネルギであるから,これを耳乃とおくと
d軌
df
=んag(如+通ゎ)
(4・83)
となる.したがって,上式の両辺を時刻0からrで積分すれば
(4.84)
上r警df=仇甘卜鋸0)=上rんag払+血)df
を得る・これは機械系サブシステムが入力をんag,出力を由+止九とする受動系であるこ
とを示している.q
これらの命題より,電気系サブシステムと機械系サブシステムはともに受動系であり,
全体の系は2つのサブシステムを電磁力んagと柔軟ビームの中心の速度如+止んを用いて
Figure4.2のようにフィードバック結合したシステムと見なすことができる.ここで,機械
系サブシステムに注目すると,その受動性により電磁力んagを用いて柔軟ビーム中心の速
度如+止たを制御することは容易であると結論付けられる.一方,電気系サブシステムで
は入力電圧祝から電磁石の電流豆。までの受動性が成り立たないため,入力電圧現によって
電磁石の電流d。を制御するには工夫が必要である.
4.4.柔軟ビーム磁気浮上系に対するコントローラ導出
69
≡
的+ぴん
Figure4・2:Decomposedthemagneticlevitationsystemforaflexiblebeam
柔軟ビーム磁気浮上系に対するコントローラ導出
4.4
前節では柔軟ビーム磁気浮上系を電気系サブシステムと機械系サブシステムに分割し,
これらがともに受動系であることを示した.その結果,機械系サブシステムに対しては電
磁力んagを用いて柔軟ビームの中心の速度由+止んを制御することが容易であることが分
かったが,電気系サブシステムに対しては入力電圧祝を用いて電流亘。を制御するのは容易
でないことが分かった.一方,第3章において剛体球磁気浮上系では電気系サブシステム
を磁束¢を用いて表すことで,入力電圧祝から磁束¢までの受動性が示され,この結果よ
り電気系と機械系サブシステムのコントローラを独立に設計できることを示した.このこ
とより,柔軟ビーム磁気浮上系に対しても電気系サブシステムを磁束を用いて表すことで,
電気系が入力電圧から磁束までの受動性を有することを示す.さらに,それぞれのサブシ
ステムに対して独立にコントローラを設計することを試みる.
4.4.1
磁束を用いた支配方程式
(4.41)式より,柔軟ビーム磁気浮上系の磁束¢は次式で定義される・
Cl
発2
∫U
〃U0
′U一2
∬ l
・‰ -α
( )
∬1
Cl
C2
封0
(4.85)
祝兢
また,電磁力は
1
ム。ag
cl
2(c2-y。-びゎ)2
(4.86)
と与えられるので電磁力は磁束¢を用いて
んag=去¢2
(4.87)
第4章柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性にもとづく制御
70
と書ける.また磁束を時間微分すると
Cl
Cl
¢=
C2-yO-ぴた1C■(c2-y。-ぴん)2
は0+血)豆。
(4・88)
を得るので,系の支配方程式は
¢=一月。
C2
yO-び九
Cl
¢+祝
んag=去¢2
(4.89)
m弘+mタームIag=0
柏+帖頼桜-んag∂(∬1一芸)=0
と書き直すことができる.このとき,得られた電気系のサブシステムに対して以下の命題
が成立する.
命題4・3
磁束を用いて表した電気系サブシステムは入力を電磁石への印加電圧払
出力
を磁束¢とする出力強受動的な写像
βi:祝}¢
(4.90)
を定義する.
証明4.3
電気系サブシステムのストレージ関数の候補を
穐=去¢2
(4.91)
とする.これを電気系サブシステムに沿って時間微分すれば
(4・92)
一芸(c2-yO一視兢)¢2極
となる・ここで,α=月。/clとおくと,lyol≫l祝兢lを仮定しているのでc2-yO一礼兢>0
となり
月ふ
=
≦
-α(c2-y。一礼兢)¢2+如
-α¢2+如
(4.93)
4.4.柔軟ビーム磁気浮上系に対するコントローラ導出
71
を得る.上式を時刻0からrで時間積分すれば
上r如=卿)一柳)
≦-α上r¢2如上r如dt
(4.94)
上丁如df≧α上r¢2机抑)一柳)(4.95)
を得る.これは写像旦‥祝=イがエネルギ供給率をぴ(¢,祝)=画一α¢2とする出力強受動
性を有することを示している.q
この結果より,第3章で得られた剛体球磁気浮上系と同様に電気系サブシステムと機械
系サブシステムに対して独立にコントローラを設計できる.次節ではこの方法によりコン
トローラの導出を行う.
4.4.2
コントローラの導出
4.4.2.1電気系サブシステムに対するコントローラ
電気系サブシステムに対するコントローラは,第3章で示した方法を用いて導出する.
すなわち,
1.目標の電磁力んag。に追従するような目標磁束¢dを計算し,
2.目標磁束を実現するような電磁石への入力電圧祝を決定する.
このとき,電気系サブシステムの閉ループ系が受動系となるようにコントローラを設計
する.このためにまず,電気系サブシステムに対する目標のストレージ関数を
仇=去∂2
(4・96)
とする.¢=¢-¢dは磁束誤差で,¢dは機械系サブシステムを整定させるために必要な電
磁力を発生させる目標磁束である.いま,電磁石への印加電圧祝を
(4・97)
祝=∂d+苦(c2-yO一礼兢)¢出
第4章柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性にもとづく制御
72
とおくと,電気系サブシステムの閉ループ系は
(4・98)
∂=一芸(c2一封0-ぴん)∂…
となる・ここで,γは新しい入力である.いま,電気系サブシステムの目標ストレージ関
数(4・96)を電気系サブシステムの閉ループ系(4.98)に沿って時間微分すると次式を得る.
=叶苦(c2-yO-ぴん)れ〉
(4.99)
一芸(c2一肌「-Ⅵ耽)節+ぁ
ここで,α=月。/cl>0とすると,C2-yO一礼兢>0であるので次式を得る.
仇≦-α∂2+み
(4・100)
上式を0からrで時間積分すれば消散不等式
上r警df=瑚(r)ト仇榊))
≦-α上r鋤+上r如
(4.101)
を得る・これは,電気系サブシステムの閉ループ系の写像机→¢が出力強受動性であるこ
とを示している・また,(4・100)式においてγ…0とおくと,
島=-α∂2≦0
(4.102)
となり,仇が電気系サブシステムの閉ループ系(4.98)のLyapunov関数となる.したがっ
て,f→∞のときに¢→0も同時に示される.
次に目標磁束¢dを決定する・いま,電磁力んagは目標磁束¢dを使って以下のように
書ける.
(4.103)
んag=去〈¢…(∂+2¢d)〉
ここで,f→∞のとき¢→0となることより目標磁束¢dを
んagd=去¢孟
(4.104)
4.4.柔軟ビーム磁気浮上系に対するコントローラ導出
73
の解として決定する.ここで,んag。は柔軟ビームの質量中心を目標軌道に追従させ,なお
かつ柔軟ビームの振動を抑制するような電磁力の目標値である.これより,¢dとその時間
微分は以下のようになる.
(4.105)
何
Lnag。
ムnag。
∂d=去
これを電気系サブシステムのコントローラ(4.97)に代入すると,
祝=∂d+芸(c2-封0一礼兢)¢d
んag。+月。(c2-yO一礼兢)
2んag。
Cl
(4.106)
となる.
4.4.2.2
機械系サブシステムに対するコントローラ(1)
機械系サブシステムのコントローラでは目標軌道に追従させ,かつ,弾性振動を抑制す
るような電磁力んag。を決定する・まずはじめに,柔軟ビーム磁気浮上系の平衡点につい
て議論しておく.ここで,平衡状態とは柔軟ビームが浮上して静止しており,さらに重力
によりたわんだ状態を示す.
∈1=y。,∈2=由,(1=勒(2=止とおくと0次モードと1次モード以上の運動方程式
は以下のように書ける.
崇_mタ+んag〉
(4・107)
慧弐¢2+頼喘-んag∂(ご
これらを行列とベクトルを用いて書くと
0
0
m
O
0
O
0
0
O
1
0
0
β
0
ハr
・丸い・′b・′h・G押
1
∈2
-mタ+ムIag
(4.108)
-βクー即∂4(1/叫+んag∂(∬1一書)
第4章柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性にもとづく制御
74
となるから,平衡状態は上式の右辺を0として
∴二
ど2
ふIag
く2
O,m
∴=∴ニ
(4.109)
O,
mタ∂(∬1一書卜βタ
即諾
となる・ここで,(4・109)第4式を満たすたわみをぴ0とおけば機械系サブシステムの平衡
点は
意
-
∴「
任0
yO・帥
0
-
(4・110)
ぴ0
び・ぴ
∵∵
となる・yOは任意の値を取ることができるので,無限個の平衡点が存在することに注意
する.
機械系サブシステムに対するコントローラを導出するにあたり,まず,剛体モードのみ
を考慮したコントローラについて考える.第2章で示された剛体球のコントローラと同様
の考え方を用い,以下のようなコントローラを考える.
ム1ag
=
β
m弘γ+mダーj㌔β,j㌔>0
yo
=
(4・111)
yOγ
由一如+入1(yo-yOd)
=
威0+入1威0
=
少0γ
由d一入1(帥一封Od)
=
ここで,j㌔,入1>0はゲインで,βは剰余誤差,yOγは参照速度,y。dは目標軌道である.こ
のとき,剛体モードのみを考慮した閉ループ系のダイナミクスは次式のようになる.
myo
=
=
-mタ+m裏0γ+mクーj㌔5
myoγ-j㍍β
(4.114)
ゆえに,閉ループ系のダイナミクスは
m占+j㍍β=0
となる.上式はf→∞のときβ→0となることはすでに証明済みである.
(4.115)
4.4.柔軟ビーム磁気浮上系に対するコントローラ導出
75
この結果をもとに柔軟ビームを含む機械系サブシステムに対するコントローラを考え
る.文献[35]ではひずみフィードバックを用いることで弾性振動を抑制できることが示さ
れているので,これを参考にして剛体モードのみを考慮したコントローラ(4.111)式を次
のように変更する.
んag。=
m弘γ+mダーj㌔β-7鶴
上ヱヰ一芸)払
(4.116)
m弘γ+mダーj㌔β-7j㌔止ん(f)
変更されたコントローラ(4.116)を用いて柔軟ビームを含む機械系サブシステムの閉ルー
プダイナミクスを求めると
(4.117)
m占+j㌔β+7j㌔止九(t)=0
となる.このとき,以下の命題が成立する.
命題4.4
得られたコントローラ(4.116)は機械系サブシステムを漸近安定化しf→∞の
極限で
yo-yOd=0,
yo-yOd=0,
(4.118)
ぴ-ぴ0=0,
止=0
となる.
証明4.4Lyapunov関数の候補として関数
伊
(ぴ
ゐ1
(4・119)
Ⅴ=去mβ2+7ル2如7上ヱ喜郎〈
を考える.ここで,各項はすべて正であるので関数Vが0となるのは
1.威0=0のとき,かつ,
2.威。=0のとき,かつ,
3.止=0のとき,かつ,
4.励=ぴ-ぴ0=0のときのみ
第4章柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性にもとづく制御
76
である・したがって,関数Ⅴは目標値で唯一の最小値Ⅴ=0を取る正定値関数となり,
Lyapunov関数の候補としてふさわしい・(4.119)式を機械系サブシステムに沿って時間微
ウ=mβ中上`β嗣1+小幕雛1(4・120
上式第3項目は2回部分積分して境界条件と品=止であることを用いて整理すると以下の
ようになる.
距
∂2て力∂2ゐ
ゐ1=l且J
∂∬雪∂∬至
=.f
即諾び
+か葛抽
f告・むこ
(4・121)
したがって,Ⅴは以下のようにまとめられる.
mβ中上g〈抑瑠一朗器〉抽
β(-j㌔β-7j㌔止た)
+7錘ag∂(£1一芸トかβダー(mヰ一
β(-j㌔β-7j㌔止ん)
+7神曲γ+叩針-∬訴-7軌)∂ト去)
-かβクー(mヰ一芸ト)〉抽
β(-j㍍β-7j㌔止ん)
+イ(m弘γ-垢β-侮ヰ一芸)抽一抹函
4.4.柔軟ビーム磁気浮上系に対するコントローラ導出
77
いま,止は柔軟ビームの中立軸に沿ったビーム座標系で観測されているので
(4.123)
β止ゐ1=0
である.したがって,次式を得る.
ウ
=
-j㌔β2-7j㌔β止ん+7(m弘r-j㌔5-7j㌔血)
上gヰ一芸)れ
一鶴β2-7j㌔β止ん+7(m弘r-j㌔β一再存血)血
一鶴β2-7穐β止ん+γm脚。γ止た-7穐β血-72鶴城
一垢(β+γれ)2+7m弘γ血
(4.124)
ここで,穐,7を適切に設定し,また柔軟ビームの質量mがあまり大きくなければ上式は
第1項目が支配的となり
ウ=一鶴(β+7血)2≦0
(4・125)
とすることができる.7を任意に決めることができるので,上式でウ=0となるのはβ=0,
止た=0のときとなる.ただし,このときでもぴは任意の値を取ることができることに注意
する.また,血=0の条件は柔軟ビームの中心のみの速度が0になることを示しており,
柔軟ビームの全長にわたって0になることを示していない.ところが,柔軟ビームには電
磁力が柔軟ビームの中心に集中荷重として作用すると仮定しているので,偶数次のモード
しか励起されないと考えることができる.したがてって,柔軟ビームの中心の速度が0で
あれば柔軟ビームの全長にわたって速度が0であると考えることができる・また,ぴ≠ぴ0
のときには止=0に留まることができないため,機械系サブシステムの最大不変集合は点
(5,叫可=(0,ぴ0,0)のみからなる・ゆえにLaSalleの定理を適用すればf→∞の極限で
1imβ=O
f→∞
1imぴ=ぴO
t→00
1im止=O
となる.よって,閉ループ系の漸近安定性が示された.q
(4.126)
第4章柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性にもとづく制御
78
以上の結果をまとめれば,電気系サブシステムに対するコントローラ(4.106)と柔軟ビー
ムの中心のたわみ速度フィードバックを用いた機械系サブシステムに対するコントローラ
(4・116)を組み合わせることにより,目標軌道に追従し,なおかつ弾性振動を抑制すること
ができる.
4・4・2・3
機械系サブシステムに対するコントローラ(2)
(4・124)式において弘γ≡0とおくと
ウ=-鶴(β+γれ)2
(4・127)
が得られ,ゲインの選び方によらず閉ループ系の平衡点を漸近安定化することができる.そ
こで,(4・116)式のコントローラで弘γ≡0として得られるコントローラ
んag=mクーj㌔β-7j㌔血(り
(4.128)
を考える・これは,重力補償,剛体変位の位置と速度のフィードバック,および柔軟ビー
ムのたわみ速度から構成されるコントローラである.以下では(4.116)式で与えられるコ
ントローラをモデルベースド型コントローラ,(4.128)式で与えられるコントローラを重力
補償付きPDコントローラと呼ぶことにする.
数値シミュレーション
4.5
4.5.1
シミュレーション条件
シミュレーションでは浮上対象物体となる柔軟ビームとしてTable4.1に示すような物
理パラメータを持っアルミニウム製の平棒を用いる.アルミニウムは強磁性体ではないた
め,実際には電磁石に吸引されることはないが,ここでは電磁石に吸引されるものとして
シミュレーションを行う.
制御対象のプラントモデルは柔軟ビームに対しては
ぴ(諾1,f)=∑先(∬1)℃(り
(4.129)
宜=1
としてモード展開を行い,コイルの漏れインダクタンスを考慮した次式で与えられるもの
を用いる.
(云㌔+ム0)範+
(z。-帥)2
yo豆。+月1豆。=祝
(4・130)
4.5.数値シミュレーション
79
1もble4.1:Physicalparameters
oftheflexiblebeam.
Value
Paramter
〒ength
1.0
Width
10×10
3
Height
2.0×10
3
2.698×103
Density
7.03×1010
Mass
54.0×10
myo
Young'smodulus
3
田
田
田
[Kg/m3]
[Pa]
[Kg]
(4.131)
亘2+mg=0
(∬。-y。)2
(4.132)
肱警+抑)=んag端(g/2)乞=1,2,…,5
柔軟ビームは5次モードまでを考慮してシミュレーションを行う・パラメータQ,た,和,
zo,凡,およびエ0は恥ble2・1で示した実験装置を同定して得られた値を用い,柔軟ビー
ムの質量mと長さgは恥ble4.1で示された値を用いる.几弟,垢,先(g/2),および各モー
ドの固有角振動数u壱と固有振動数ムについては恥ble4.1に示された値をもとに計算した
ものをTable4.2に示す.
Table4.2:Natural`frequencies
oftbeflexiblebeam.
Mode
1st
LJi[rad/sec]
65.9
10.5
182
28.9
1.42
356
56.7
0.00
589
93.7
880
140
0.0540
235
2nd
0.0540
1780
-1.22
0.00
3rd
0.0540
6850
4tb
0.0540
18700
5tb
0.0540
41800
-1.41
目標軌道は2.5節で与えられた加加速度までが滑らかになるような時間に関する7次
の多項式とステップ状のものを用いる.時間に関する多項式で与えられる目標軌道は剛体
モードの変位y。が-12[mm]から-7[mm]まで5[mm]の浮上量を2[sec]で移動するもの
とする.ステップ軌道は剛体モードの変位yoが初期位置から-7[mm]まで移動するもの
第4章柔軟ビtム磁気浮上系に対する受動性にもとづく制御
80
とする・位置と速度の初期値はyo(0)=-12[mm],9。(0)=0[m/sec]とし,電流の初期値
は制御入力の初期値として5[Ⅴ]を0.5[msec]印加し,電流が一定値となったときの値とす
る・たわみの初期値は柔軟ビームを支持台の上に置いたときに自然に生じるたわみとする.
たわみ速度の初期値は柔軟ビームの全長にわたって0[m/sec]とする.シミュレーションは
MATLAB/Simulinkを用いて行い,サンプリング時間を1[msec]とし,ソルバには4次の
Runge-Kutta法を用いた.
4.5.2
シミュレーション結果
4・5・2.1モデルペースト型コントローラ,軌道追従制御
Figure4・3,4・4にモデルベースド型コントローラを用いて軌道追従制御を行った場合の
シミュレーション結果を示す・Figu∫e4.3は位置,速度軌道,制御電圧,および電流の結果
で,Figure4・4は弾性振動の各モードに対する結果である.コントローラのゲインとパラ
メータはTもble4.3に示すように設定した.
1もble4・3:Gainsandparametersofthereferencemodel.
Parameter
Symbol
Value
Referencegaln
入1
Fbedbackgain(mechanicalsubsystem)
Fbedbackgain(deflectionrate)
鶴
9.0
7
0.54
Cl
6.00×10
C2
2.20×10-3
Coilinductanceconstant
Gapconstant
10.0
Coilresistance
月e
4.75
Beammass
田
54.0×10-3
Gravityacceleration
タ
[Hm]
5
圏
9.80665
[n]
[Kg]
[m/sec2]
Figure4・3より位置,速度軌道はわずかな誤差を生じているが目標軌道によく追従して
いることが確認できる.また,剛体モードyoの運動では定常偏差,振動もなく非常に良好
な応答が得られているといえる.Figure4.4より1次,3次,5次モードの振動が制御開始
時に励起されているが,これらの弾性振動は直ちに減衰され一定のたわみ量に収束してい
ることが確認できる.これは,たわみ速度フィードバックが弾性振動の抑制に有効である
ことを示している.一方,2次モードと4次モードは不可制御なモードであるため理論的
には振動は生じないが,シミュレーション結果では振動が生じているように見受けられる.
81
4.5.数値シミュレーション
X
O
6. 0
-6.0
てブ≡丁ぎ一=T一ノ
【〓ニ〓〓〓7‥二
-8.0
-10.0
-12.0 0.0
1.0
2.0
4.O
3.0
T血e[sec]
4. 0
2. 0
〇.0
l.0
3.0
4.0
5.O
Ti皿e[sec】
(a)Positiontrqiectory.
7.0
2.0
(b)Velocity叫ectory.
1.5
l
」
[>]法官一〇三コdロー
6.0
一
5.0
l
l
†
I
[まl口0ヒ∋U
1.0
I
一
l
l
I
l
l
l
■
3・00
0.5
一
4.0
丁
O
l.0
2.0
▲
「
】
▲「
3.0
◆-
▼
4.0
Time[sec]
(C)Inputvoltage.
1
5.O
0.0
0.O
l.0
2.0
3.0
4.O
5.0
Time[sec】
(d)Cu汀ent.
Figure4・3=Simulationresultofthemodelbasedcontro11er(trajectory).
しかし,その振幅は他のモードに比べて非常に小さいため0とみなすことができる.これ
らの結果より得られたモデルベースド型コントローラは軌道追従制御に対して有効である
とことが確認された.
第4章柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性にもとづく制御
Ⅹ10-3
1.057
ー2.736
l
▲
-2.738
xlO-Ⅰ8
l
T
▲
▼
l
▼「▼
▼1
l.056
l
[且宍宅遥占
[且宍竃遥占
-2.740
-2.742
-2.744
-2.746
2.0
1.1005
82
4.0
⊥_】_____】_.→L▼_▼___▼_▼J
l
1
1.055
1
r
1.054
l
l.053
6.O
-【▼「▼
2.0
▼▼▼▼■▼「
4.0
Tlme[sec]
T血e[sec]
(a)Firstmode.
仲)Secondmode.
6.O
xlO-4
l
1.1000
[且亡〇一10苫○□
1.0995
_▼_」ト_【________し__
官]□○州〕UU笥ロ
l
■▲十
■■-`■■■
■
「
-■
■-'
卜
1.0990
1.0985
ー3.215
1.0980
1.0975
2.0
4.0
6.O
T血e[sec]
2.0
4.O
Ti皿e[sec】
(C)Tb∬dmode.
(d)Four也mode.
xlO-5
ー1.788
■■「-■「
-1.789
[且宍名産占
-1.790
+
l
1
l
-1.791
一一・-トーーーーーーーーーーー・-」
-1.792
-1.793
l
2.0
4.0
(i.O
Time[sec]
(e)Fiftbmode.
Figure4・4=Simulationres一ユ1tofthemodelbasedcontroller(de且ectionofeachmode),
83
4.5.数値シミュレーション
4.5.2.2
モデルベースド型コントローラ,ステップ入力に対する制御
FiglⅡe4ふ4.6にモデルベースド型コントローラを用いてステップ入力に対する制御を
行った場合のシミュレーション結果を示す.Figl∬e4.5は位置,速度軌道,制御電圧,およ
び電流の結果で,Figwe4.6は弾性振動の各モードに対する結果である.コントローラのゲ
インとパラメータはTabIe4.3に示した軌道追従制御の場合と同じ値を用いた.
Figl∬e4.5より位置軌道,速度軌道とも目標軌道の立ち上がりと同時に振動が生じてい
るが,直ちに減衰して目標値に収束していることが確認できる.定常偏差もなく良好な制
御性能が得られている.弾性振動については各モードとも軌道追従制御よりも大きな振幅
の振動が生じているが,時間の経過とともに減衰して一定量のたわみに収束していること
が確認できる.2次モードと4次モードの弾性振動は他のモードに比べて非常に小さいた
め0とみなすことができる.
xlO-3
0.15
-6.0
[0ひ∽\五首8【U>
【且宕≡SOh
-8.0
-10.0
-12.0 0.0
1.0
2.0
3.0
4.O
Time[sec]
0.10
0.05
0.00
1.0
+
+
【■一
一----
【>】払遥〇三nd三
■■■■■
+
「
つム
0
++
】
L
I
「▲
】
「
▲
【皇)已むヒコU
「
.」_____⊥_____L____」_
l
l
l
l
l
5.0
l
l
I
】
l
l
l
l
l
‡
T
5.O
(b)VelocitytrqJeCtOry.
l 5
10.0
4.0
3.0
Time[secl
(a)PositiontraJeCtOry,
++
2.0
l 0
【
L
l
l
+
一・」-・一--一=一◆--【----トーーーー㍗------」
l
▲「】
】
▲T
一
l
「▲◆
▼▼1▼▼
▼1
1
0.0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
Time[sec]
(c)Inputvoltage.
5.O
0
1.0
2.0
1
3.0
4.0
l
5.O
T血e【sec】
(d)Cu汀ent.
Figwe4・5‥Simulationresultofthemodelbasedcontroller(trajectory).
貰4章柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性にもとづく制御
84
xlO-3
1.6
l
-1.5
l.4
⊥_____】_____l__▲__
l
l
■---一一一一--トーーー・-・
-2.5
-3.0
l
-3.5
一丁一一一一一一一-+m--
-4.0 0.0
2.0
l
一〓】lミニノノL;l一
[旦宍竜遥占
-2.0
】.ヱ
1.0
0.8
0.6
0・も
0
4.O
2.0
Time[sec]
4.0
(i.O
Ti皿e[sec]
(a)Firstmode.
仲)Secondmode.
x10-1S
-1.5
∵ニ〓ニニンノニ・.二
「=こ〓=〓㌧三上-
っー
∩川
2.0
-2.0
【■▼▼「■▼
▼▼▼▼
「▼
1
-2.5
【
一▲
-3.0
卜
▼▼▼▼▼
▼1
-3.5
-4.O
l・ミ.
0
4.O
【■
2.0
4.0
Time[sec]
Tlme[sec]
(c)Thlrdmode.
(d)Fourthmode.
6.O
Ⅹ10-5
一1.2
-l.4
▲▲
T
▲
▲▲
」
}「
l
[旦宍琶遥占
l
-l.6
-1.8
-2.0
-2.2
-2.4 0.0
-■-▲一一一-------トーーーーーーーー1
1
】
2.0
4.O
6.0
Ti皿e[sec]
(e)Fifibmode.
Figure4・6:Simulationresultofthemodelbasedcontroller(deflectionofeachInOde).
4.5.数値シミュレーション
85
4.5.2.3
重力補償付きPDコントローラ,軌道追従制御
Figure4・7,4・8に重力補償付きPDコントローラを用いて軌道追従制御を行った場合の
シミュレーション結果を示す.Figure4・7は位置,速度軌道,制御電圧,および電流の結果
で,Figure4・8は弾性振動の各モードに対する結果である・コントローラのゲインとパラ
メータは恥ble4.3に示したこれまでのシミュレーションと同じ値に設定した・
Figure4・7より位置,速度軌道に関しては同一のゲインとパラメータを用いたモデルベー
スド型コントローラよりもわずかに軌道誤差が増加しているがほとんど差異は認められず,
良好な追従特性を示している.これは,モデルベースド型コントローラ(4・116)において,
柔軟ビームの質量,目標加速度が小さいため,(4・116)式の第1項目がその他の項に比べて
非常に小さくなり無視でき,重力補償付きPDコントローラとほとんど等しくなるためで
ある.同じ理由で弾性振動についてもモデルベースド型コントローラとほとんど差異のな
い結果が得られることが確認できる.
また,上と同じ理由によりステップ入力に対する定値制御に対してもモデルベースド型
コントローラとほとんど差異のない結果が得られることを確認した・これらの結果より重
力補償付きPDコントローラが軌道追従制御とステップ入力に対する定値制御に対しても
有効であることが確認できた.
第4章柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性にもとづく制御
86
ー6.0
[Uロの\且倉0〇一ひ>
一三-‥三〓′=ニ
-8.0
-10.0
-12.0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.O
Ti皿e[sec]
(a)Positio山鴫ectoけ.
7.0
一二.〓㌧J≒-
[>】論題〇三コd亡l
6.0
5.0
4.0
3・00
0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.O
0・00
0
1.0
2.0
3.0
Ti皿e【sec]
T血e[sec]
(c)lnputvoltage.
(d)Clment.
4.O
Figure4・7=SimulationresultofthePDcontro11er(trajectory).
5.0
87
4.5,数値シミュレーション
1.057
ー2.738
1.056
[且ロ○葛占りq
-2.740
[且已○叫lU小串口白
-2.742
-2.744
-2.746
-2.748
2,0
4.O
1.055
l.054
l.053
2.0
Ti皿e[sec]
4.0
6.O
Time[sec]
(a)FirstⅡ10de.
1.1005
xlO-柑
仲)Secondmode.
xlO-4
1.1000
___J_________l____
l
一
l
l
l
1.0990
】
7
▼-
「
一
1.0985
1.0980
1.0975
「
2.0
▲▲▲-
4.0
1
6.O
Time【sec]
(C)nirdmode.
【≡】〓=〓ン.L∋-
ニ三ここごン.ニ.こ
1.0995
-3.215
2.0
4.O
TiIne[sec】
(d)Four也mode.
xlO-5
一1.788
ニ土-∵三.二十一二
-1.789
-1.790
-1.791
-1.792
-1.793
2.0
4.0
6.O
Time[secl
(e)Fi蝕mode.
Figure4・8ニSimulationresultofthePDcontroller(deBectionofeachmode).
第 4章柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性にもとづく制御
88
実験
4.6
4・6・1
コントローラの実装に関する検討
本研究では柔軟ビームの変位測定のためにレーザー変位計を用いるが,レーザー変位計
を用いて測定される量は基準座標系で観測された柔軟ビームの剛体運動とたわみの和yo…ん
である・本章で得られたコントローラは柔軟ビームの剛体変位yoと弾性変位祝兢を個別に
測定する必要がある・一般的に弾性変位を測定するためにはひずみゲージが用いられるが,
磁気浮上系では電磁力により対象物体を浮上させるため対象物体には渦電流が流れる.そ
のため,ひずみゲージを用いてひずみ測定を行うことができない.この問題に対処するた
め以下の仮定を設ける.
1・たわみ速度フィードバックゲイン7は7垢=穐+m入1となるように設定する.
2・柔軟ビームの中心のたわみ祝塙は帥に比べて十分小さく,yO+乱厄芦ゴ封0とすることが
できる.
これらの仮定のもとでモデルベースド型コントローラ(4.116)を以下のように変形する.
んag。=
m弘γ+mダーj㌔β-7j㌔血
=m払d一入1(洩0一弘d))+mダー穐払一如+入1(帥-y。。)ト(穐+m入1)止ん
母m払d一入1(由+止九一歩od))+mダー垢伍+止九一如+入1(y。+乱兢一封。。))
(4・133)
また,重力補償付きPDコントローラ(4.128)は以下のように変形できる.
んag。母mダー垢(由0+止ん一編+入1(yo+ぴん-yOd))
(4.134)
(4・133),(4・134)式は柔軟ビームが目標軌道に追従し,なおかつ弾性振動を抑制するために
は剛体変位とたわみを別個に測定しなくとも柔軟ビームの中心の位置と速度を計測すれば
十分であることを示している・また,(4.133)式の第1項目と第2項目はフィードフォワー
ド項に対応し,第3項目はyo+乱塙に関するPD制御となっている.同様に,(4.134)式の
第1項目は重力補償項,第2項目はy。+乱兢に関するPD制御となっている.機械系サブ
システムが入力を電磁力んag,出力を柔軟ビームの中心の速度如+止んとする受動系であ
ることとを考慮すると,得られたコントローラが受動性を有する系に対してはPD制御を
用いることで安定化できるという従来の結果に一致している.
4.6.実験
89
4.6.2
実験条件
実験装置は2.6節で示されたものを用いる・柔軟ビームには恥ble4・1で示された物理パ
ラメータを持つアルミニウム製の平棒を用いる・アルミニウムは強磁性体ではないので電
磁石によって吸引されないため,Figuer4・9に示すように柔軟ビームの中心に鋼製の半球を
取り付けた.また,これにより柔軟ビームに作用する電磁力の分布がモデリングで仮定し
たデルタ関数になることが期待できる.
ヽ
\
l
l
同同
‖
‖
‖
■和
Steelhalfsphere
H
Aluminiumflexiblebeam
ト、
Figure4・9‥Experimentalsystemwithaflexiblebeamattachedsteelhalfsphereatthe
centerofthebeam.
目標軌道は基準座標系で観測された柔軟ビームの剛体変位yoを与えるべきであるが,
本研究で用いる実験装置では帥+乱兢のみしか測定できないことを考慮してyo+軋兢の
目標軌道を与える.y。+whの目標軌道は-12[mm]から-7[mm]までの浮上量5[mm]を
2[sec]で移動するシミュレーションと同様に時間に関する7次の多項式による滑らかな軌
道と,初期位置から-7[mm]まで移動するステップ状の軌道を用いる・位置と速度の初
期値は(y。+wh)(0)=-12[mm],(9。+血)(0)=0[m/sec]とし,たわみに関しては支持
台に柔軟ビームを置いたときに自然に生じるたわみとした・制御開始時の電流値は制御入
力の初期値として5[Ⅴ]を印加したときに電磁石を流れる電流値とした・コントローラは
MATLAB/Simulinkで作成し,それをDSPにダウンロードすることで実装する・また,サ
ンプリング時間は1[msec]とした・
第4 章柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性にもとづく制御
90
実験結果
4.6.3
Figure4・10にモデルベースド型コントローラを用いて滑らかな軌道に対する追従制御を
行ったときの実験結果を示す・実験で用いた機械系サブシステムに対するコントローラの
ゲインと電気系サブシステムに対するコントローラのパラメータは恥ble4.4に示すように
設定した.
1もble4.4:
Gainsandparametersofthereferencemodel.
Parameter
Symbol
Referencegaln
入1
Fbedbackgain(mechanicalsubsystem)
垢
Coilinductanceconstant
Value
140
0.35
Cl
10.0×10
5
[Hm]
Gapconstant
C2
2.20×10
3
Coilresistance
団
月。
4.25
Beammass
田
58.0×10-3
Gravityconstant
タ
9.80665
[n]
[Kg]
[m/sec2]
Figure4・10より制御開始から1・5[sec]ほどの遅れをともなって浮上が始まることが確認
できる・また,若干の振動をともないながら目標軌道の最終値に追従しようとするが,制
御開始後4[sec]付近から高い周波数の振動が生じ,この振動の影響により浮上を維持でき
なくなり,柔軟ビームが落下することが確認できる・Figure4.11に高周波の振動が生じた
ときの速度軌道の周波数スペクトル密度を示す・これより,柔軟ビームに生じている高周
波の振動の振動数が45[Hz]であることが確認できる.この振動数はゲインを変化させても
変化しないことより,この振動が弾性振動によるものであると考えることができる.また,
恥ble4・2に示された各振動モードの固有振動数と柔軟ビームに生じている振動を目視した
結果よりこの振動が3次モードであることが確認できる・恥ble4.2に示された固有振動数
と値が異なるのは柔軟ビームの中心に鋼製の半球を取り付けたためであると考えられる.
剛体球の分離型コントローラの実験結果の項で述べた通り,機械系サブシステムの振
動数が電気系サブシステムのバンド幅を超えると,その周波数成分に対しては十分な減衰
が働かない・本章で得られたコントローラも電気系と機械系を分離しているため同様の現
象が起こる・機械系サブシステムの3次モードの弾性振動が電気系サブシステムのバンド
幅よりも高いところにあるため,このコントローラでは3次以上のモードの弾性振動を抑
制することができない・また,機械系サブシステムのゲインを高くすると弾性振動が励起
Ⅹ10-3
-b.1l
-7.0
[≡】一…亨二
-8.0
-9.0
-10.0
-11.0
-12.0
13・%
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
(;.0
7.0
8.0
9.O
Time【sec]
(a)positiolltr句eCtOけ.
0.10
[0翳\且首旨lO>
0.05
0.00
-0.05
-0.10
O
l.0
0・1も
2.0
3.0
4.0
5.0
6.0
7,0
臥O
9.0
Time【sec】
(b)Velocity廿毎ectoけ.
Figure4.10:Experimentalresult.
されやすくなり,大きなゲインに設定することができず,目標電磁力の生成において位置
フィードバックが強く働かず,浮上するまでに遅れが生じるものと考えられる.
第4章柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性にもとづく制御
92
xlO-3
-1--トー・--・・-:・・
++
1.4
l
1.0
l
十 ▼▼
I
▼
▼■▼▼【
」
づ
1▼
▼▼▼
▲
「
】
1
卜
一
1
80
.
100
一
120
140
一一
_._ ..
l
一
▼
一 一
一 一
一一
_.」_
60
「
一
1
_
40
「
l
■↑】▲
ト
「
一一
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
20
▲
+
Opn}州誌再∑
1.2
,■■T■TトTr⊥T-ナー←■←■
1.8
1.6
一 一
160
FTequenCy[Ⅰ七]
Figure4・11=Spectraldensityofvelocitytrajectory.
位相進み補償による応答の改善
4.7
前節で得られた実験結果では電磁石の有するローバス特性により高次モードの振動を減
衰できず,安定浮上ができないことが示された.そこで,安定浮上を実現するために高周
波領域で電磁石のゲインが低下するのを線形位相進み補償器によって補償することを考え
る・試行錯誤によって40rHz]に折れ点を持っ位相進み補償器を用いる.また,実装する際
には位相進み補償器を離散化するが,このとき伝達関数がプロパーでないと離散化が行え
ないので,次式の伝達関数で与えられる位相進み補償器を用いた.Fi卯re4.12にボード線
図を示す.
C(β)=
4.7.1
3.98×10
3β+1
1.0×10
3β+1
(4.135)
モデルベースド型コントローラ,軌道追従制御
Figure4.13に位相進み補償器を付加したときのモデルベースド型コントローラを用いて
滑らかな軌道に対する追従制御を行ったときの実験結果を示す.コントローラのゲインとパ
ラメータはJ㌔=0・65,ん=160,月e=4・20[n],Cl=9・25×10
5[Hm],C2=2.20×10】3[m]
と設定した.このゲインとパラメータ設定の場合,位相進み補償を行った場合でも高周波
の振動が現れて浮上を維持できなくなり柔軟ビームは落下するが,位相進み補償器を付加
しない場合と比較して,制御開始時の遅れが改善され,浮上を維持できる時間が長くなる.
Figure4.14に高周波の振動が現れた付近の速度軌道のスペクトル密度を示す.位相進み
補償器を用いた場合には45[Hz]の振動の代わりに115[Hz]の振動が生じていることが確認
できる.これは5次モードの弾性振動である.これより,位相進み補償器を用いた場合,3
93
4.7.位相進み補償による応答の改善
12
10
【tニ.〓≡こ
8
6
4
2
0
IOl
102
103
Angular鮎quency【m〟sec】
(a)Gain.
【叫Up】り詔蟹
【+++;
:
-
l
▼T▼▼「■▼T
;
-
r
T▼「TTTT.▼▼
l
l
l
l
102
-
l
l
103
A皿gnlar丘equency【m〟sec]
(b)Pbase.
Figure4.12:Bodediagramofthephaseshiftcompensator.
次モードの弾性振動を抑制できることが確認できる.しかし,依然として5次モード以降
は減衰されないため,これらの高次の弾性振動の影響により安定な浮上を維持できなくな
ると考えられる.これらの高次の弾性振動は速度信号に現れるノイズがPDフィードバッ
クゲインにより増幅されるために励起されるものと考えられる.
Figure4.15に位相進み補償器を付加したモデルベースド型コントローラを用いて滑らか
な軌道に対する追従制御を行った実験結果を示す.コントローラのゲインとパラメータは
亀=0・35,入1=140,月e=4・15[n],Cl=9・55×10
5【Em],C2=2.20×10
3[m]に設定
し,ゲインを低くして減衰の効果が弱くなるようにした.この場合,低周波の振動が減衰
されずに持続するが浮上は維持し続けることができる.これは,得られたコントローラに
よって減衰可能な低次の振動が支配的になり,減衰不可能な高次の弾性振動が無視できる
ためであると考えられる.これらの結果より,位相進み補償器を付加した場合,付加しな
い場合と比較して制御開始時の遅れを若干改善することができ,3次モードまでの弾性振
第4章柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性にもとづく制御
94
∵■て∵ここ・こニ
■
l
l
l
I
Result
「■
l
】
0.O
l.0
2.0
■■l
■■
一
Desired
l
l
3.0
4.0
5.0
6.0
7.0
8.O
Qノ 0
0 0
Time【sec]
(a)Positiontrqjectory,
0.10
[00∽\且曾00HU>
0.05
0.00
-0.05
0
1.0
0・1も
2,0
3.0
4.0
5.0
6.0
7.O
00
0
9 0
0 0
Time[sec]
(b)Velocitytrq]eCtOry.
Figure4・13:Experimentalresult(modelbased,traCking).
動を減衰することができるといえる.また,ゲインとパラメータを適切に調整することで
若干の振動が残るが,安定な浮上が実現できるといえる.なお,柔軟ビームの上下方向以
外の運動,左右方向の並進と各軸周りの回転運動は基本的に不可制御な運動モードである
ので,外乱などの影響によりこれらの運動が発生すると,それらによる位置誤差の振動を
減衰することはできない.
95
4.7.位相進み補償による応答の改善
x10-3
▼「
一一一丁-----一丁---=一1一一一一---】----l
丁
▲
ひpn}竃欝∑
】■丁
▲
十
▼
1
」
「■▼
「「い
1日
1▼▼
【T
▼▼
「
▼
1
「
「
▲
▲▲
「一
■
`】▲l
一
一
「
▲】一
▼1
=
「
T
一
J
--
----トーーーーーー=+-・一-一一-」------▼--1----l
l
し-----▼▼⊥▼▼-▼▼▼▼」
------⊥一一一一--⊥---▼▼_」_▼____」_____
l
L▲一_▼▼¶_⊥▼▼_▼__」
______」__】_」__⊥_■__▼_」▼_____」___▲_
0
40
60
80
100
120
1(iO
140
Frequency[Hz]
Figure4・14=Spectraldensityofvelocitytrajectory.
【≡∵主こミニ
0
1.0
14・も
2.0
3.0
4.0
5.0(;.0
7.0
8.0
9.0
10.O
Time[sec]
(a)PositlOntrqJeCtOry.
0.03
一---⊥---+-
l
[UU∽\且合U010>
0.02
Result
1
Desiこed
l
一
1
0.01
一
0.00
「
-0.Ol
「
▲
「「▼▼▼▼「▼
I
【
0.0
1.0
丁
l
丁
l
l
2.0
3.0
4.0
5.0
6.0
7.0
8.0
9.0
10.O
Time【sec]
(b)Velocitytrqjectory.
Figure4・15‥Experimentalresult(modelbased,traCking).
第4章柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性にもとづく制御
4.7.2
96
モデルベースド型コントローラ,ステップ入力に対する定値制御
Fig∬e4.16にモデルベースド型コントローラを用いてステップ入力に対する定値制御を
行った場合の実験結果を示す.コントローラのゲインとパラメータはj㌔=0.60,入1=120,
月。=4・15[n],Cl=9・55×10
5[E叫,C2=2・20×10-3rm]に設定した.浮上を維持するた
めに減衰は低く設定してある.ゲインを高く設定し,減衰を強くした場合には前項の結果
と同様に低周波の振動は抑制できるが5次モード以降の弾性振動が減衰できないため浮上
が維持できなくなる.また,ステップ入力に対しては立ち上がりに関しては追従制御より
も良好な性能が得られている.
臥0
了∵てここ′=ニ
∩"0
用ぃ
2.0
4.0
6.0
臥O
Time[sec]
(a)PositiontrqJeCtOry.
[OUS盲]倉00tOA
04
02
00
2.0
4.0
6.0
8.0
10.O
T血e[sec]
(b)Velocitytrqjectory.
Figlne4・16=Experimentalresult(modelbased,Step).
4.7.3
重力補償付きPDコントローラ,追従制御
Fi訂1re4.17に重力補償付きPDコントローラを用いて滑らかな軌道に対する軌道追従
制御を行ったときの実験結果を示す.コントローラのゲインとパラメータはj㌔=7ふ
97
・4.7.位相進み補償による応答の改善
入1=12・0,島=4・25[n],Cl=10・20×10
5[Hm],C2=2.20×10▲3[m]に設定した.モデ
ルベースドコントローラでは入1は1以下の小さな値で,j㌔は100以上の大きな値にしか
設定することしかできなかったが,PDコントローラでは入1とj㌔は互いに近い値で10付
近の値に設定されていることに注意する.
追従特性に関しては制御開始後1[sec】付近から浮上が始まっており,遅れが生じている
ことが確認できる,モデルベースドコントローラと比較してもあまり追従特性に変化は見
られない.また,この場合はゲインを低めに設定しているので初期振動が発生するが,時間
の経過とともに減衰されていく様子が確認できる.この実験結果では制御開始後約15[sec]
に低周波の振幅の大きな振動は減衰するが,これまでの結果と同様に5次モードの弾性振
動が発生して(位相進み補償を挿入しているため3次モードは減衰する),それが原因とな
り浮上を維持できなくなる.後のステップ入力に対する定値制御でも示すが,ゲインをさら
に低めに設定して低周波の振動が減衰しないようにすると,浮上を維持することができる.
-6.0
ニ=二三ニ■′三
-8.0
-10.0
-12.0
0
14・も
2.0
4.0
6.0
8.0
10.O
Tilne[sec]
(a)Positiontr毎ectory.
[Uひ∽\且倉UjU>
2.0
4.0
6.0
8.O
T血e[sec]
O))Velocitytrq)eCtOTy.
Figlne4・17=Experimentalresult(PD,traCking)・
第4章柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性にもとづく制御
4.7.4
98
重力補償付きPDコントローラ,ステップ入力に対する定値制御
重力補償付きPDコントローラを用いてステップ入力に対する定値制御を行ったとき
の実験結果をFigure4.18から4.20に示す.コントローラのゲインとパラメータはFigure
4.18ではj㌔=7.0,入1=12.5,月。=4.25[n],Cl=10.0×10-5[Hm],C2=2.20×10
3[m]
に設定し,Figure4.19ではKd=9.0,入1=10.0,Re=4.25[0],Cl=10.0×10-5[Hm],
c2=2.20×10
3[m]に設定し,Figure4.20ではKi=6.4,入1=9.5,Re=4.25[0],
cl=10.0×10
5[Hm],C2=2.20×10-3[m]に設定した.
ゲインと制御性能の関係はおおよそ以下の通りになる.ゲイン入1を大きく設定すると
位置ゲインが大きくなるために追従特性が良くなるが周波数の高い振動が発生しやすくな
る.ゲイン鶴を大きくすると速度ゲインが大きくなると同時に位置ゲインも大きくなる
ので,振動の減衰が強くなるとともに追従性能を向上することができる.
Figure4.18は入1を大きく設定し追従性能の向上をはかり,Kdを少L,/J、さめに設定して
減衰を弱くした場合の実験結果である.この図より立ち上がりが速いが減衰が弱いために
振動がなかなか減衰しない応答が得られることが確認できる.なお,この実験結果では約
30[sec]ほどで5次モードの弾性振動が現れ浮上が維持できなくなる・
Figure4.19はj㌔を大きく設定し減衰の効果を強くしたときの実験結果である・また,
j㌔を大きく設定したので入1は位置ゲインがFigure4.18で設定した位置ゲインKd入1=87.5
に近い値になるように設定した.Figure4.19での位置ゲインはKd入1=90である.この図
よりFigu∫e4.18の結果よりも速く振動が減衰していることが確認できる・しかし,5次モー
ドの弾性振動が8[sec]と早い時期から現れ,浮上が維持できなくなる様子が確認できる・
Figure4.20にはさらにゲインを低く設定し,低周波の振動が減衰しないように設定した
ときの実験結果である.この場合,j㌔と同時に入1も小さくしているので立ち上がりはこ
れまでの結果より遅くなり,また偏差も大きくなっていることが確認できる.また,低周
波の振動が持続しているため浮上は維持し続けることが確認できた.
4.7.5
実験結果まとめ
これまでの実験結果より定性的に以下のことがいえる.
1.たわみ速度フィードバックを用いることで柔軟ビームの弾性振動を抑制できることが
できる.
99
4.7.位相進み補償による応答の改善
[且uO≡SOh
0
は ハuU
2.0
4.0
8.0
(i.0
1仇O
Ti皿e[sec]
(a)Positiontrq)eCtOry.
l
甘OS竜]倉00芯>
<U
5
I
_L___▲_____⊥
Result
-
+
Desired
O0
l
O5
▼
「▼▼
▼▼
▼▼「▼
▼
▼
▼▼T
▼▼T▼
▼
l
0
0・1も
2.0
4.0
6.0
8.O
Time[sec]
(b)Velocitytrq]eCtOry.
FiglEe4.18:Experimentalresult(PD,Step).
2.得られたコントローラでは電磁石のバンド幅よりも大きな周波数を持つ振動を減衰す
ることができず,3次モードの弾性振動が現れ浮上を維持できなくなる場合がある.
3・コントローラが出力する制御電圧に40[Hz]に折点を持つ位相進み補償器を施して,3
次モードの弾性振動に対するゲインを回復させることによって,3次モードの弾性振
動を減衰させることができる.しかし,この場合,5次モードの弾性振動が現れ浮上
を維持できなくなる場合がある.
4.5次モードの弾性振動により浮上が維持できなくなる場合は,減衰を小さくして制御
性能を敢えて落として低周波の振動が持続するようなゲイン設定にすることで,浮上
を維持し続けることができる.
第4章柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性にもとづく制御
【≡∵‥=ご7=ニ
0
100
∩川
つム∩〟
0
14・も
2.0
4.0
(I.0
8.O
Time[sec]
(a)Positiontr如ectory.
[OU∽\五首呂tむ>
0 05
0 00
0 05
0
0・1も
2.0
4.0
6.0
8.O
Ti皿e[s∝]
仲)VelocitytraJeCtOけ.
Fig11re4・19:Experimentalresult(PI),Step).
5.目標軌道に滑らかな軌道を用いた場合,低周波の振動が励起されにくいため高次モー
ドの振動が現れやすくなり浮上の維持が困難になる.逆にステップ入力の場合は低周
波の振動が励起されやすいので浮上の維持は滑らかな軌道よりも容易になる.
6.モデルベースドコントローラと重力補償付きPDコントローラの両者の場合に対し
て,ゲインとパラメータの調整は非常に難しい.また,時間の経過ともにシステムの
パラメータが変動した場合にはゲインの再調整が必要となる.
4.8
まとめ
本章では柔軟ビーム磁気浮上系に対して,受動性をもとにした非線形コントローラの導
出を行った.柔軟ビーム磁気浮上系に対しては電気系サブシステムと機械サブシステムを
分離し,それぞれのサブシステムに対して独立にコントローラを設計することで安定な閉
101
l〓ニ…≡…二
0
ー14・も
2.0
4.0
6.0
8.O
Tlme[sec]
(a)Positiontr毎ectoけ.
[0慧\且」君0〇一〇>
02
0
nV
ハU2
2.0
4.0
(i.O
S.0
10.O
Time[sec】
匝)Velocitytr再ectoけ.
Figure4・20:Experimentalresult(PD,Step).
ループ系を得ることができた.機械系サブシステムには柔軟ビームの中心のたわみ速度を
フィードバックすることで弾性振動を減衰させることができる.
得られたコントローラの有効性を示すために数値シミュレーションと実験を行った.そ
の結果数値シミュレーションでは良い結果が得られたが,実験では電磁石の有するローバ
ス特性により高次モードの弾性振動を減衰させることができず,安定な浮上ができなかっ
た.そこで,位相進み補償器を用いて高周波領域のゲインを回復することで低周波振動が
残るものの安定浮上が実現できた.これより,本制御法の有効性が実験でも確認できた.
第5章
結論
本研究で得られた成果
5.1
本研究では機械システムの例として剛体球磁気浮上系と柔軟ビーム磁気浮上系に対し
て,それぞれの系が有する受動性に着目して目標軌道に漸近追従するコントローラの導出
を行った.
第2章では剛体球磁気浮上系に対して系全体の受動性の考察を行った.その結果,入力
電圧から電流までの受動性が示され,入力電圧を用いて電流を制御することは容易である
ことが結論付けられた.しかし,磁気浮上系は劣駆動系であるので入力電圧を用いて剛体
球の位置を制御するには何らかの工夫が必要であることが分かった.そこで,閉ループ系が
完全駆動系となり,さらに追従問題にも対応できるように系の運動エネルギを整形して閉
ループ系のストレージ関数を構築することでコントローラの導出を行った.この結果,目
標軌道に漸近追従するコントローラを得ることができ,その有効性を数値シミュレーショ
ンと実験により検証し,非常に高い追従性能を得た.このコントローラは参照モデルによ
るフィードフォワード部分と位置と速度のフィードバックから構成される.
第3章では,第4章での柔軟ビーム磁気浮上系への応用を狙い,剛体球磁気浮上系を
電気系サブシステムと機械系サブシステムに分離し,それぞれのサブシステムに対して受
動性に関する考察を行った.その結果,電気系サブシステムに対しては入力電圧から磁束
までの出力強受動性が,機械系サブシステムには電磁力から剛体球の速度までの受動性が
成立することを示した.また,二つのサブシステムは磁束と電磁力の間に成り立つ静的な
関係によって,フィードバック結合によって結び付けられることを示した・これらの結果
より系全体を制御するにはそれぞれのサブシステムに対して独立に漸近安定なコントロー
ラを設計すればよいことが分かり,このことにもとづいて,それぞれのサブシステムに対
102
103
5.2.今後の展開
して独立にコントローラを導出した.その結果,電流のフィードバックを用いないコント
ローラを得ることができ,数値シミュレーションと実験によりその有効性を示した.また,
線形コントローラと実験による比較を行い,安定性と広い動作範囲という点で非線形コン
トローラの方が有利であることを示した.
第4章では第3章で得られた知見をもとに,柔軟ビーム磁気浮上系に対する制御系設
計を行った.柔軟ビーム磁気浮上系に対しても電気系サブシステムと機械系サブシステム
に分離し,全体の系が2つのサブシステムのフィードバック結合で表されることを示した.
柔軟ビームを含む機械系サブシステムでは,電磁力から電磁力の作用点における柔軟ビー
ムの剛体運動の速度とたわみ速度との和までが受動的になることを示した.この結果より
柔軟ビームのたわみ速度をフィードバックするPDS制御を行うことで剛体運動を目標軌道
に漸近追従させ,なおかつ柔軟ビームの弾性振動を抑制することができるコントローラを
導出した.また,数値シミュレーションによりその有効性を示した.しかし,実験では電
磁石の有するローパス特性により高周波領域のゲインが低下し,高次モードの振動を減衰
できないことが分かった.そこで,位相進み補償を付加することで高周波ゲインを改善す
ることで安定な浮上を実現し,実験においても導出されたコントローラの有効性を示した.
5.2
今後の展開
本研究では分布定数系を含む機械システムの受動性にもとづく制御の対象として柔軟
ビーム磁気浮上系を考えた.この他にも分布定数系を含む機械システムにはさまざまなも
のがるが,特にフレキシブルマニピュレータに対しては多自由度になると受動性自体の証
明が困難になる.現時点では受動性が示されているのは2自由度のマニピュレータのみで
あり,受動性を用いた制御が行われているのは1自由度のみである.本研究で得られた知
見は他の柔軟構造を持つ機械系システムへ応用できるものと考える.
第5章結論
104
謝辞
本論文をまとめるにあたり,岐阜大学工学部教授堀康郎先生には懇切丁寧な御指導と
御助言を賜ったことに謹んで感謝の意を表します.また,岐阜大学工学部教授武藤高義先
生,ならびに同教授谷和男先生には本論文審査,および御助言を賜りましたことを深く感
謝いたします.
研究を進めるにあたり,問題解決の指針から些細な疑問まで微に入り細に渡る懇切丁寧
な御指導,さらには研究のみならず様々な方面で御鞭撞を賜りました岐阜大学工学部助教
授佐々木実先生には深く感謝いたします.また,研究者としてのあるべき姿を示され,多
大な御指導と御援助を賜りました静岡文化芸術大学デザイン学部教授藤澤二三夫先生に深
く感謝いたします.また,本来技官という立場でありながら博士前期課程,後期課程への
進学に御尽力いただいた岐阜大学工学部教授川崎晴久先生,またそれを快く受け入れてく
ださった岐阜大学工学部の各先生方,工学部事務長をはじめとする事務部ならびに技術部
の方々に深く謝意を表します.さらに,日頃から激励を頂き,良き相談相手となって頂い
た名古屋工業大学助手川福基裕先生,ならびに本研究の実験装置など研究環境を整えて頂
いた株式会社リンクスコーポレーション小林義光氏に厚く御礼申し上げます.
最後に,山田博之氏をはじめとする岐阜大学工学部堀研究室の諸氏に感謝いたします.
105
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付録A
受動性に関する表記法と諸定理
定義A・1(L:p空間)R+=[0,∞]とし,f:R+→RをLebesgue可測関数[82][83]とする・
このとき,p=1,2,‥.,∞に対して,以下を満たす関数Jの全体の集合をち(0,∞)=ち
空間と呼ぶ.
上∞げ併df<∞
brp=1,2,‥・
ess
br
supげ(t)l<∞
(A.1)
p=∞
粍tO,∞]
brp=1,2,…
‖刑l。=(上∞げ(f)1pdま)1′p
(A.2)
for
lLf(t)LIL∞=eSS器]lf(t)1<∞p=∞
を定義することでち空間はBanacb空間[84]となる・
定義A.2(打ち切り演算子)可測関数J:R+→Rと,任意のr∈R+に対して写像
丹:R→Rを
J(り
0<t<r
(A.3)
㈲(f)=〈吉(り冒≡i≦
によって定義する.この写像丹を打ち切り演算子と呼ぶ・
定義A.3(拡張£p空間)p=1,2,‥・∞に対して,すべてのr∈[0,∞]に対して丹J∈£p
115
付録A章受動性に関する表記法と諸定理
となる可測関数J拝)全体が作る集合
ち。=(Jl丹J∈ち,∀r∈[0,∞])
(A.4)
を拡張ち空間とよびち。で表す.
定義A・4(ち安定)p=1,2,‥・,∞とする・システムβ‥ち。→ち。に対して,システム
への入力を祝∈・ちとしシステムの出力をy∈ちとするとき
l馴ち=≠腑‖£p
(A・5)
を満たす正定数≠が存在すれば,システムβはち安定であるという.
定義A・5(消散性)次の状態方程式で表される非線形システムを考える.
(A.6)
さ‥〈三≡∴二三‡
このとき,関数び‥打×y→月を定義したときに,関数ガ:諾→見+が存在して,すべ
ての初期状態∬0∈ズとすべてのfl≧f。,およびすべての入力現に対して以下の不等式が
成立するとき,システムβは消散的であるという.
(A・7)
g帥))≦g(㈱)+£1ぴ(勅(榊
ここで,£0=£(fo)であり,∬1は時刻flにおけるシステムgの状態である.また,関数び
をエネルギ供給率,gをストレージ関数とよぶ.
定義A・6(受動性)非線系システム(A.6)が受動系であるとは,ぶがエネルギ供給率を
ぴ(叫牒)=祝r訂として消散系となることである・さらに,ぶがエネルギ供給率をぴ(叫牒)=
祝rダー∂潮2として消散系になるとき,βは入力強受動的であるといい,エネルギ供給率
び(叫牒)=祝rツー∂。l馴2として消散系になるとき,gは出力強受動的であるという.ここ
で,∂壱>0,∂。>0である.
命題A・1非線系システムβ:祝ト+封が出力強受動的であるとき,βは£2安定である.