Q&Aで綴る歩合給制賃金 - 社会保険労務士 楠瀬労務管理オフィス

※
主として「Q&AのQ(問題)」を中心に抜粋しました。「前付(目次を含む)」
「Q&AのQ及び解答・解説例」「後付」がご覧になれます。
楠瀬労務管理オフィス
〒331-0825
埼玉県さいたま市
北区櫛引町2-509-42
TEL:048-783-7888
FAX:048-663-1885
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URL:http://www.rohmkanri.jp/
本小冊子について
はじめに
この度は、本小冊子『Q&Aで綴る歩合給制賃金』をご購読いただき、誠にありがとうござい
ます。
社会保険労務士として活動しておりますと、
「従業員個々の働き(稼ぎ)に応じた賃金を支払い
たい」という事業主様、
「成果が上がった時はたくさんの報酬をもらいたいが、成果が上がらない
ときは低賃金でもいい」という労働者の方にお目にかかることも少なくありません。そして、
「完
全歩合給制だ」
「フルコミッションだ」「オール歩合給制だ」と言葉は勇ましいのですが、法の要
求を満足しない歩合給制が施行されていることも珍しくありません。
「国のいう通りやっていたら、会社はみんな潰れてしまう」という会社様がある一方、
「従業員
とのトラブルを回避し、円満かつ安定性ある雇用関係を築きたい」とコンプライアンスに熱心な
会社様も少なくありません。このような中にあって、楠瀬労務管理オフィスは、円満な労使関係
の下、安定的な経営を続けるためには、コンプライアンスは欠かせない経営課題だと考えて
おります。
そのような観点から、歩合給制賃金を運用する企業様の
お役に立てればと、小冊子『Q&Aで綴る歩合給制賃金』を
執筆した次第です。
必ず
お読みくだ
本小冊子のご利用にあたり、留意していただきたい事項
さい。
1 本小冊子は、平成27年8月1日現在の法律等に準拠しております。
2 記述の大部分をQ&Aに依存することにより、論点を明確にし、理解を容易にしました。
3 各Q&Aは全て問題、答え及び<解説>で構成し、極力理解が容易になるよう工夫しており
ます。確実に理解しながら、読み進んでください。
4 本小冊子の記述内容については、公開書籍等が少ない中、万全の注意を払いつつ、社会保険
労務士としての見解を明らかにしたものです。万一、行政当局との見解の相違・誤記等により、
損害が生じた場合においても、楠瀬労務管理オフィスはその結果についていかなる責任をも負
うものではありません。
必ず、同意の上で本小冊子をお使いください。
本小冊子の著作権について
本小冊子の著作権は、楠瀬労務管理オフィスに帰属します。当オフィスの許可なく、出版、電
子メディアによる配信等により、一般公開並びに転売等をしてはならないものとします。
参 考 文
献
1 厚生労働省労働基準局編『労働基準法解釈総覧[改定13版]』(労働調査会、平成21年)
2 労働省労働基準局編著『労働基準法(上)
(下) [全訂新版]労働法コンメンタール3』
(労務
行政研究所刊、平成8年)
3
労働調査会編労働基準広報/解釈例規物語(第37回)第27条関係/出来高払制の保障給
/保障給制度は6割の固定給を要求するものではない(中川恒彦著)
その他インターネット上に公開されている多数の記事を参考にさせていただきました。ここに
謹んで深甚の謝意を申し上げます。
目
本小冊子について
次
※
参考文献
ページ番号は、本誌(実物)のページ番号であ
り、本抜粋記事のページ番号とは一致しません。
第1章 歩合給についての基礎知識………………………………………………P
1
第1節 歩合給制賃金とは………………………………………………P 1
第1-1問
<歩合給とは何か>
第2節 歩合給制における割増賃金の算定……………………………P 2
第1-2問
<割増賃金の算定(1)>
第1-3問
<割増賃金の算定(2)>
第3節 歩合給制における年次有給休暇の賃金………………………P 8
第1-4問
<年次有給休暇の日の賃金(1)>
第1-5問
<年次有給休暇の日の賃金(2)>
第1-6問
<年次有給休暇の日の賃金(3)>
第4節 歩合給と最低賃金………………………………………………P11
第1-7問
<実際の賃金と最低賃金との比較(1)>
第1-8問
<実際の賃金と最低賃金との比較(2)>
第5節 歩合給と事業所得………………………………………………P14
第2章 保
第1-9問
<外交員等に支払う報酬>
コラム記事
<活動経費込の賃金と社会保険料>
障 給………………………………………………………………… P17
第1節 概
説………………………………………………………P17
第2節 保障給の基礎知識………………………………………………P18
第2-1問
<オール歩合給制(固定給なしの歩合給制)は、合法か?>
第2-2問
<「出来高払い制(歩合給制)の保障給」とは?>
第2-3問
<保障給を支払う場合>
第3節 保障給の実際……………………………………………………P25
第2-4問
<保障給額算定の基本的要領(1)>
第2-5問
<保障給額算定の基本的要領(2)>
第2-6問
<時間外労働がある場合>
第2-7問
<有給休暇がある場合>
第2-8問
<最低賃金の考慮を要する場合>
第2-9問
<使用者の責めに帰すべき休業がある場合>
第2-10問
<経営環境の悪化による減収の場合>
第3章 歩合給制賃金の設計・運用上の留意事項………………………………P37
第3-1問
<歩合給制導入の意義とリスク>
第3-2問
<歩合給制賃金と保障給(1)>
第3-3問
<歩合給制賃金と保障給(2)>
コラム記事
<歩合給に代わる成果給型賃金>
第3-4問
<就業規則と歩合給(1)>
第3-5問
<就業規則と歩合給(2)>
第3-6問
<個人事業主への委託制度から直接雇用制度への転換>
第3-7問
<歩合給部分の割増賃金を支払っていない場合の是正策>
第3-8問
<累進歩合制度等>
第3-9問
<自動車運転者に適用される保障給>
プロフィール・事務所案内
第1章 歩合給についての基礎知識
歩合給制の賃金は、製品の出来高や商品の売上高等に一定の賃率を乗じるものであり、特段難
しいことはないように思われます。しかしながら、割増賃金や有給休暇時の賃金をはじめ、賃金
計算に誤りが認められることも少なくありません。
本章では、歩合給制賃金の理解に必要な基礎知識を解説します。なお、保障給につきましては
本章では扱わず、次章で解説致します。
第1節 歩合給制賃金とは
歩合給制の賃金は、製品の出来高や商品の売上高等に一定の賃率を乗じて算定します。一例を
あげれば、次のとおりです。
・ 単価×出来高=100円/個×1,000個=100,000円
・ 売上高×賃率=100万円×30%=300,000円
なお、賃率には、歩率、歩合、コミッション率など様々な呼称があります。
第1-1問
<歩合給とは何か>
“歩合給とは何か”について、簡潔に説明しなさい。
第2節 歩合給制における割増賃金の算定
1 割増賃金の種類
2 割増賃金額の算式
細部略
3 1時間当たりの賃金額
4 割増賃金率
1
第1-2問
<割増賃金の算定(1)>
ある会社で、固定給なしのオール歩合給制(月払い制)を採用しています。以下の条件下
でAさんの賃金を算定し、時間外割増賃金、休日割増賃金、深夜割増賃金及び総支給額を答
えなさい。ただし、ここでは保障給は考慮しないものとします(保障給については、第2章
で解説します)
。
売上高
200万円
所定内労働時間
160時間
時間外労働時間
30時間
休日労働時間
10時間
深夜労働時間
10時間
総労働時間
第1-3問
歩合給に係る賃率
割増賃金率
売上高の30%
時間外労働
25%
休日労働
35%
深夜労働
25%
200時間
<割増賃金の算定(2)>
ある会社で”固定給+歩合給”制の賃金制度(月払い制)を採用しています。下記の条件
下でAさんの賃金を算定し、時間外割増賃金、休日割増賃金、深夜割増賃金及び総支給額を
答えなさい。ただし、前問と同様に保障給は考慮しないものとします。
売
上 高
200万円
固定給(基本給)
月額20万円
月平均所定労働時間
170時間
歩合給に係る賃率
売上高の20%
所定内労働時間
160時間
時間外労働時間
30時間
休日労働時間
10時間
総労働時間
答
割増賃金率
時間外労働
25%
休日労働
35%
深夜労働
25%
200時間
え
1 時間外割増賃金…… 59,118円
2 休日割増賃金……… 22,882円
3 総支給額……………682,000円
<解説>
1 固定給(基本給)
200,000円
2 歩合給
2,000,000円×0.2=400,000円
3 時間外割増賃金
① 固定給部分
固定給の額
月平均所定労働時間数
2
働時間数
×割増賃金率×時間外労働時間数
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200,000円
=
×1.25×30時間=44,118円
170時間
※1
×
上式の分母は、
“月平均所定労働時間数”です。当月の総労働時間数を用いないよう
にご注意ください。
2
固定給部分の割増賃金を算定する場合の割増賃金率は、1.25です。お間違いの
ないようにしてください。
② 歩合給部分
歩合給の額
当月の総労働時間数
=
働時間数
400,000円
200時間
×割増賃金率×時間外労働時間数
×0.25×30時間=15,000円
※1 上式の分母は、
“当月の総労働時間数”となっていることにご注意ください。
×
2
時間外割増賃金の内、
「1」の部分は、歩合給40万円の中に含まれています。よ
って、ここでは0.25を乗じた額が時間外割増賃金の額となります。
③ 時間外割増賃金
44,118円+15,000円=59,118円
3 休日割増賃金
………………以下略………………
第3節 歩合給制における年次有給休暇の賃金
年次有給休暇を取得した日については、次のいずれかの賃金を支払わなければなりません。
1 所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
2 平均賃金
細部略
3 健康保険の標準報酬日額
3
第1-4問
<年次有給休暇の日の賃金(1)>
ある会社で、
“オール歩合給制”の賃金制度(月払い制)を採用しています。以下の条件
下で、Aさんの有給休暇の賃金を算定しなさい。なお就業規則には、“有給休暇の際には、
所定労働時間労働したときに支払われる通常の賃金を支払う”と規定されています。
当月所定労働日数
20日
歩合給に係る賃率
1日の所定労働時間
8時間
売
総(実)労働時間
高
200万円
200時間
年次有給休暇
第1-5問
上
売上高の30%
2日
<年次有給休暇の日の賃金(2)>
ある会社では、”固定給+歩合給”制の賃金制度(月払い制)を採用しています。以下の
条件の下で、Aさんの有給休暇の賃金をどのように支払いますか。なお就業規則には、“有
給休暇の際には、所定労働時間労働したときに支払われる通常の賃金を支払う”と規定され
ています。
当月所定労働日数
20日
固定給(基本給)
月額20万円
1日の所定労働時間
8時間
歩合給に係る賃率
売上高の20%
総(実)労働時間
200時間
時間外労働時間
40時間
年次有給休暇
第1-6問
売
上
高
時間外割増賃金率
200万円
25%
2日
<年次有給休暇の日の賃金(3)>
前2問では、
“通常の賃金を支払う”場合について取り上げましたが、年次有給休暇の賃
金の支払い方には、他にどのような方法がありますか。
第4節 歩合給と最低賃金
労働基準法第28条(最低賃金)は、
「賃金の最低基準に関しては、最低賃金法による。」とし
て、最低賃金の取扱いを最低賃金法に委ねています。
本節では、歩合給制と最低賃金との関係について解説します。
1 実際の賃金と最低賃金との比較方法
2 最低賃金の対象となる賃金
細部略
3 適用される最低賃金
4
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第1-7問
<実際の賃金と最低賃金との比較(1)>
ある会社では、
“オール歩合給制”の賃金制度(月払い制)を採用しています。次の条件下
で実際の賃金と最低賃金を比較し、最低賃金額をクリアしているかどうかを判定しなさい。
また最低賃金額を下回っている場合は追加給付すべき額を算定しなさい。
歩合給
168,000円
1か月平均所定労働時間
168時間
時間外割増賃金
9,220円
(当月)所定労働時間
160時間
深夜割増賃金
3,073円
所定内労働時間
160時間
10,000円
時間外労働時間
45時間
通勤手当
総支給額
190,293円 深夜労働時間
最低賃金額
第1-8問
15時間
800円/時間
<実際の賃金と最低賃金との比較(2)>
ある会社では、
”固定給+歩合給”制の賃金制度(月払い制)を採用しています。次の条件
下で実際の賃金と最低賃金を比較し、最低賃金額をクリアしているかどうかを判定しなさい。
また最低賃金額を下回っている場合は追加給付すべき額を算定しなさい。
固定給
70,000円
1か月平均所定労働時間
168時間
歩合給
80,000円
(当月)所定労働時間
160時間
固定給分
22,917円
所定内労働時間
160時間
歩合給分
4,000円
時間外労働時間
44時間
固定給分
9,000円
休日労働時間
16時間
歩合給分
2,036円
割
増
賃
金
時間外
休 日
総支給額
※
答
187,953円 最低賃金額
800円/時間
時間外割増賃金率は25%、休日割増賃金率は35%とする。
え
1時間当たりの賃金額が最低賃金額を20円下回っている。
追加給付すべき額は、4,732円である。
<解説>
………………中略………………
3 結
論
800円/時間-780円/時間=20円/時間となり、1時間当たり賃金額が最低賃
金額を20円下回っています。
これを解決するためには、最低賃金額に達するまでの通常の労働時間の賃金の差額及び
その差額に対する割増賃金を支払うことが必要です。どのような方法でも1時間当りの賃
5
金を20円アップすればそれでよいはずですが、ここでは歩合給を追加支給するというこ
とで解決策を考えてみましょう。
追加給付すべき額は、
歩合給分=20円/時間×220時間=4,400円
時間外割増賃金分=20円/時間×0.25×44時間=220円
休日割増賃金分=20円/時間×0.35×16時間=112円
追加給付すべき額=4,400円+220円+112円=4,732円
それでは、4,732円を追加支給すれば最低賃金額をクリアするかどうか確認してみ
ましょう。
………………以下略………………
第5節 歩合給と事業所得
一般に賃金は給与所得として支給されるものですが、歩合給はときとして事業所得として支給
されることがあります。事業所得として支給される場合、税法上あるいは社会保険料等の観点か
ら若干補足説明すべき事柄があります。
しかしながら、それを詳細に説明するためには、所得税、消費税更には社会保険に関する突っ
込んだ記述が必要となります。紙面の都合上、本節では本冊子の事後の展開に必要な範囲で、そ
の概要を説明するにとどめさせていただきます。
第1-9問
<外交員等に支払う報酬>
外交員等に支払う報酬について、次の問いに答えなさい
Q1 外交員報酬を給与所得として支払う場合と、事業所得として支払う場合の違いを簡単
に述べなさい。
Q2 外交員報酬のうち、事業所得は給与所得ではないので、労基法の適用を受けないと考
えてよろしいでしょうか。
Q3 社会保険料は、給与所得にかかるものであって事業所得にはかからないと考えてよろ
しいでしょうか。
6
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第2章 保 障 給
労働者の賃金が極端に低額になるのを防止するため、労働基準法は既に説明した最低賃金
の外に、保障給の規定をおいています。
保障給は、歩合給制賃金を理解するうえで、最も重要な概念です。故に、本小冊子では独
立した章を設けてこの問題を解説します。
第1節 概
説
最初に労働基準法第27条(出来高払制の保障給※)の条文並びに保障給に関する解釈例規を見
てみましょう。なお、条文や解釈例規の詳細については、第2節以降で詳しく解説しますので、
ここでは細かいことにとらわれず、概要を把握するにとどめてください。
※
法令上の用語は、あくまでも“出来高払制の保障給”です。読者の皆様はこれを本誌のタイト
ルに合わせ“歩合給制の保障給”と読み替えてください。
1 労基法第27条(出来高払制の保障給)
2 解釈例規
細部略
<保障給の趣旨>
<使用者の責に帰すべき事由によらない休業の場合の保障給>
第2節 保障給の基礎知識
この節は、労基法第27条の「保障給」について理解することを目的としていますが、労基法
第26条の「休業手当」その他の規定について触れないと、保障給について十分な理解が深まら
ない恐れがあります。よって本節では、休業手当及びその他の規定についても、保障給の理解を
深めるために必要な範囲で解説を加えます。
第2-1問
<オール歩合給制(固定給なしの歩合給制)は、合法か?>
第27条には、
「労働時間に応じ一定額の賃金を保障しなければならない」とあります。
これは、“固定給なしの歩合給制(以下「オール歩合給制」という。)”を禁じたものとも考
えられます。オール歩合給制は合法でしょうか。
7
第2-2問
<「出来高払い制(歩合給制)の保障給」とは?>
出来高払い制(歩合給制)の保障給について、次の問いに答えなさい。
Q1
A社の就業規則は、歩合給制の保障給について、「平均賃金の100分の60を保障
する」と定めています。この規程は、適切でしょうか。
Q2 保障給の額をいくらにすべきかについて明文規定はありません。そこで、A社は就業
規則に「保障給の額は当時の最低賃金の額と同額とする」と規定しています。この規程
は適切でしょうか。
Q3 A社は就業規則に「歩合給制の従業員(賃金の6割程度以上が固定給である者と除く)
については、労働時間に応じ、固定的給与と併せて通常の場合に支払われる賃金の6割
を保障する」と規定しています。この規程は適切でしょうか。
Q4 A社では営業社員に歩合給制を採用していますが、社長は「保障給を就業規則等に規
定しなくても、実質的に第27条違反とならないように運用すればよい」と主張し、労
働契約書、労働協約、就業規則等には保障給について一切ふれていません。A社社長の
考え方は適切でしょうか。
第2-3問
<保障給を支払う場合>
労基法第27条は、「労働時間に応じ一定額の賃金を保障しなければならない」と規定し
ています。以下のケースについて、保障給の支払いの要否を答えなさい。なお、本問各ケー
スにおいて「賃金が著しく減少した」とは、賃金が従前の半額以下(零円を含む)に減少し
たことをいいます。
Q1 地震による工場設備の損壊により操業不能となり、工場設備の修復に要する期間、従
業員に休業を命じた結果、歩合給制で働く従業員の賃金額が著しく減少した。
Q2 自社の機械設備の不具合により出来高が半減し、歩合給制で働く従業員の賃金が著し
く減少した。ただし、実労働時間は従前どおりで、変化はないものとする。
Q3
自社の機械設備の不具合により従前どおりの操業が困難となったため、交代で毎日
1/2の従業員を休業させた結果、歩合給制で働く従業員の賃金が従前の半額程度に減
少した。ただし、休業により各従業員の実労働時間も1/2となったものとする。
Q4 協力会社(下請企業)の機械設備の不具合により部品の納入が遅延し、出来高が半減
した結果、歩合給制で働く従業員の賃金が著しく減少した。ただし、実労働時間は従前
どおりで、変化はないものとする。
Q5 協力会社(下請企業)の機械設備の不具合により部品の納入が遅延し、従前どおりの
操業が困難となったため、交代で毎日1/2の従業員を休業させた。その結果、歩合給
制で働く従業員の賃金が半額程度に減少した。ただし、休業により各従業員の実労働時
間も1/2となったものとする。
8
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Q6 従業員が労災事故により負傷し、労働することができないため、歩合給制で働く従業
員の賃金が著しく減少した。
Q7 従業員が通勤災害により負傷し、労働することができないため、歩合給制で働く従業
員の賃金が著しく減少した。
Q8 従業員が私傷病により労働することができないため、歩合給制で働く従業員の賃金が
著しく減少した。
答
え
Q1 不要
Q2 必要
………………中略………………
<解接>
1 Q1(地震による工場設備の損壊による休業)について
労働者が労働しなかった場合には、理由のいかんにかかわらず保障給の支払い義務は生
じません。この点について解釈例規<使用者の責に帰すべき事由によらない休業の場合の
保障給>は、『法第27条の「出来高払制の保障給」は、労働者の責に基づかない事由に
よって仕事が少なくなり、その賃金が極端に低額になる場合における最低保障給を要求し
ているのであって、労働者が労働しない場合には、出来高払制であると否とを問わず本条
の保障給は支払う義務はない』と述べています。法第27条が「使用者は労働時間に応じ
一定額の賃金を保障しなければならない」と規定していることからみても、当該解釈例規
の記述は当然の帰結と申せましょう。
なお、本ケースは、休業の帰責事由が使用者にも労働者にもありません。帰責事由が使
用者にない場合は、民法上も労基法上も何ら賃金(休業手当を含む)の支払い義務は生じ
ません。法は、休業の責任が使用者にない場合にまで、使用者に賃金支払い義務を課すの
は行き過ぎだと考えているのです。
………………以下略………………
第3節 保障給の実際
この節では、具体例を通じて保障給についての理解を深めます。
なお、本章の解説が理解できない場合は、
「第1章歩合給についての基礎知識」をご参照くださ
い。丁寧に説明してあります。
9
第2-4問
<保障給額算定の基本的要領(1)>
営業社員のAさん、Bさんは、オール歩合給制(月払い、コミッション率:20%)の賃
金を支給されています。当月は業界全体にアゲンストの風が吹き、Aさん、Bさんも売り上
げが低迷しています。下記のケースについて、保障給の額を算定しなさい。なお、保障給に
ついては、
“通常の労働時間の賃金(直近3か月平均)の6割”を保障するものとします。
Aさん
Bさん
2,500円/時間
3,000円/時間
売上高
100万円
100万円
総労働時間
160時間
120時間
0時間
0時間
通常の労働時間の賃金(直近3か月平均)
所定外労働時間
※
Bさんには40時間の欠勤があります。
第2-5問
<保障給額算定の基本的要領(2)>
営業社員のAさん、Bさんの賃金は、“固定給+歩合給”で構成されています。当月は業
界全体にアゲンストの風が吹き、Aさん、Bさんも売り上げが低迷しています。次のケース
について、保障給の額を算定しなさい。なお、保障給については、“通常の労働時間の賃金
(直近3か月平均)の6割”を保障するものとします。
Aさん
賃 金(月払い制)
固定給(月額)
Bさん
10万円
歩合給
通常の労働時間の賃金(直近3か月平均)
10万円
売上高の10%
2,500円/時間
3,000円/時間
売上高
100万円
100万円
所定内労働時間
160時間
160時間
所定外労働時間
0時間
0時間
160時間
120時間
総労働時間
※
Bさんには40時間の欠勤があり、固定給の25%(40時間/160時間)が欠勤控除
されます。
10
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第2-6問
<時間外労働がある場合>
営業社員のAさんの賃金は、
“固定給+歩合給”で構成されています。当月は業界全体に
アゲンストの風が吹き、Aさんの売上高も低迷しています。下記のケースについて保障給の
額を算定しなさい。なお、保障給については、“通常の労働時間の賃金(直近3か月平均)
の6割”を保障するものとします。
賃
金(月払い制)
固定給(月額)
歩合給
10万円
売上高の10%
通常の労働時間の賃金(直近3か月平均) 2,500円/時間
売上高
100万円
所定内労働時間
160時間
時間外労働時間
40時間
総労働時間
※
200時間
1か月平均所定労働時間は168時間、時間外割増賃金率は25%とする。
第2-7問
<有給休暇がある場合>
営業社員のAさんの賃金は、
“固定給+歩合給”で構成されています。下記のケースにつ
いて、保障給の額を算定しなさい。なお、保障給については“通常の労働時間の賃金(直近
3か月平均)の6割”を保障し、有給休暇については“所定労働時間労働したときに支払わ
れる通常の賃金”を支払うものとします。
賃
金(月払い制)
固定給(月額)
歩合給
10万円
売上高の10%
通常の労働時間の賃金(直近3か月平均) 2,500円/時間
売上高
有給休暇
所定内労働時間(有休分16時間を含む)
時間外労働時間
総労働時間(有休分16時間を含む)
※
100万円
2日
160時間
40時間
200時間
1日の所定労働時間は8時間、1か月平均所定労働時間は168時間、時間外割増
賃金率は25%とする。
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第2-8問
<最低賃金の考慮を要する場合>
営業社員のAさんの賃金は、
“固定給+歩合給”で構成されています。下記のケースにつ
いて、労基法第27条(保障給)又は労基法第28条(最低賃金)に基づき追加支給すべき
額を算定しなさい。なお、保障給については、“通常の労働時間の賃金(直近3か月平均)
の6割”を保障するものとします。
賃
金(月払い制)
固定給(月額)
歩合給
7万円
売上高の10%
通常の労働時間の賃金(直近3か月平均) 1,250円/時間
売上高
70万円
所定内労働時間
160時間
時間外労働時間
40時間
総労働時間
※
200時間
1か月平均所定労働時間は168時間、最低賃金は810円/時間、時間外割増賃金率
は25%とする。
第2-9問
<使用者の責めに帰すべき休業がある場合>
美容師Aさんは、オール歩合給制(月払い、コミッション率:総売上高の20%)で働い
ています。今月は、近隣に新規開店した美容室との競争激化による顧客数の減少及び不況に
よる客単価の低下などにより、お店の売上高が著しく減少し、苦戦を強いられています。そ
こでAさんの勤める美容室は、交代制による休業の実施、残業の削減等により人件費の圧縮
に努めていますが、手待ち時間も増加傾向にあります。次のケースにおいて、Aさんに対す
る保障給発生の有無、及び保障給が発生する場合はその額を答えなさい。
1か月平均総売上高
150万円
直近
所定内労働時間
160時間
3か月平均
時間外労働時間
40時間
総労働時間
総売上高
当
月
70万円
所定内労働時間
128時間
時間外労働時間
0時間
総労働時間
使用者の責めに帰すべき休業日数
※
200時間
128時間
4日
1か月平均所定労働時間は168時間、最低賃金は810円/時間、時間外割増賃金率は
25%とする。
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第2-10問
<経営環境の悪化による減収の場合>
営業社員のAさん、Bさんは、オール歩合給制(コミッション率:20%)の賃金を支給
されています。当月は業界全体にアゲンストの風が吹き、Aさん、Bさんも売上高が大きく
減少しました。このような中にあって、Aさんは「このようなときはジタバタしても仕方が
ない」と有休をとるなどゆったりとした勤務をしたところ、売上高は直近3か月平均売上高
の50%を確保するのがやっとでした。Bさんは、落ち込みを最小限にしようと残業に励ん
だ結果、直近3か月平均売上高の70%を確保しました。下記のケースについて、保障給発
生の有無、及び保障給が発生する場合はその額を答えなさい。
なお、保障給については“通常の労働時間の賃金(直近3か月平均)の6割”を保障する
ものとします。
直近
3か月平均
Aさん
Bさん
売上高
200万円
200万円
所定内労働時間
160時間
160時間
時間外労働時間
0時間
0時間
160時間
160時間
0日
0日
90万円
140万円
所定内労働時間
120時間
160時間
時間外労働時間
0時間
40時間
120時間
200時間
5日
0日
総労働時間
有給休暇
売上高
当
月
総労働時間
有給休暇
※
この会社の所定労働時間は1日8時間・週40時間、時間外割増賃金率は25%としま
す。
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第3章 歩合給制賃金の設計・運用上の留意事項
前章までで、歩合給制度に関する基礎的事項はほぼ説明を尽くしましたが、実際にこれを設計・
運用する場合、予期できなかった問題が生起することが少なくありません。本章では、歩合給制
賃金の設計・運用上留意すべき主要事項を述べることと致します。
第3-1問
<歩合給制導入の意義とリスク>
企業が歩合給制賃金を導入する意義及びそのリスクを述べなさい。
第3-2問
<歩合給制賃金と保障給(1)>
不動産業や保険代理店業界など、個々の外交員の営業成績が乱高下しやすい業界において、
歩合給制賃金を採用するリスク及びその是正策を述べなさい。ただし、本問における歩合給
制賃金とは、原則として売上高や保険料収入等にストレートにコミッション率を乗じて、各
月の賃金額を算定する賃金制度をいうものとします。
第3-3問
<歩合給制賃金と保障給(2)>
美容院のスタイリストに歩合給制賃金を適用する場合、保障給発生のリスクは大きいでし
ょうか。また、保障給発生のリスクばかりでなく、スタイリストの収入の激変を回避して安
定的な経営を可能にするには、どのような賃金制度を構築すべきでしょうか。
第3-4問
<就業規則と歩合給(1)>
どうしても就業規則に保障給を規定しなければなりませんか。
第3-5問
<就業規則と歩合給(2)>
歩合給、保障給、割増賃金及び有給休暇の賃金について、就業規則にどのような規定を置
けばよろしいでしょうか。
第3-6問
<個人事業主への委託制度から直接雇用制度への転換>
外交員等を個人事業主として委託契約を締結して事業を営んでいる事業主が、直接雇用型
の事業形態に転換し、歩合給主体の賃金制度を構築する場合、特に留意すべき事項を簡単に
述べなさい。
第3-7問
<歩合給部分の割増賃金を支払っていない場合の是正策>
“固定給+歩合給”制の会社です。今まで、歩合給部分の割増賃金を支払っていませんで
した。コンプライアンスの観点からも今後は正しい支払いをしたいのですが、人件費が高騰
すると経営に影響を及ぼします。何かいい方法はないでしょうか。
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第3-8問
<累進歩合制度等>
累進歩合制度等について、次の問いに答えなさい。
Q1 自動車運転者等に禁止されている累進歩合制度、トップ賞及び奨励加給とはどのよう
な制度ですか。また、累進歩合制度等が禁止されている理由は何ですか。
Q2 自動車運転者に禁止されていない積算歩合給制とはどのような制度ですか。
第3-9問
<自動車運転者に適用される保障給>
自動車運転者の保障給については、具体的に定められています。これについて、述べなさ
い。
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著者プロフィール
氏名
楠瀬貞義(S.22.09.20生)
資格
特定社会保険労務士
(登録番号:11090055号)
人事コンサルタント(日本マンパワー社)
所属
団体
埼玉県社会保険労務士会
(会員番号:1031283号)
さいたま商工会議所
学歴
職歴
楠瀬労務管理オフィス代表
防衛大学校卒業
陸上自衛官
交通事故損害賠償主任
(東京海上日動火災保険株式会社勤務)
事 務 所 案 内
名
称
楠瀬労務管理オフィス
住
所
埼玉県さいたま市北区櫛引町2-509-42
営 業 時 間
AM9時~PM5時
電
048-783-7888
F
A
X
メ
ー
ル
[email protected]
U
R
L
http://www.rohmkanri.jp/
考
埼玉新都市交通(ニューシャトル)
鉄道博物館駅下車、徒歩約10分
備
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話
048-663-1885
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