小学校第 5 学年理科教科書に見られる条件制御の変数の特徴

日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 8(2015)
小学校第 学年理科教科書に見られる条件制御の変数の特徴
Characteristics of Controlled Variable Written in 5 th Grade Elementary Science Textbook
井上璃咲¹ 栢野彰秀² 中山雅茂³ 森建一郎³
INOUE Risa , KAYANO Akihide , NAKAYAMA , Masashige , MORI, Ken-ichiro
1 島根大学大学院 2 島根大学 3 北海道教育大学釧路校
1 Graduate School of Education, Shimane Univ. 2 Shimane University.
3 Hokkaido University of Education, Kushiro.
>要約@46 に記載された変数等の観点から我が国の小学校理科教科書の分析を行い、次の つの特徴が抽出
できた。①46 に記載されている変数等の過程が全て見られる単元がある。②4 に該当する変数の変化が見
られない単元がある。③どの単元も結論は従属変数に影響を与える変数を同定する。「%流水の働き」は、
これに加えて、従属変数の振る舞いを同定することも含まれている。
>キーワード@ 小学校理科第 学年条件制御46教科書
Ⅰはじめに
上位項目 が統合的な項目とされている。条
1『小学校学習指導要領解説理科編』に記載さ
件制御の能力は項目 「変数を制御する」である
ので統合的な項目に含まれる。表1に条件制御の
れた条件制御
『小学校学習指導要領解説理科編以下、指導
要領と略』には、各学年の問題解決の能
力が定められている。小学第 年のそれは条件制
御である。指導要領には、
「変化させる要因と変
化させない要因を区別しながら、観察、実験など
を計画的に行っていく条件制御の能力を育成す
ること」と記載されている¹⁾。この記述から条件
制御の能力とは、
「ア変化させる要因と変化させ
ない要因を区別する」能力と、
「イ観察、実験な
どを計画的に行っていく」能力の つの意味内容
能力に記載された下位項目を示した。
表1 条件制御の能力の つの下位項目
物質の反応または物理学の手順、生物学の手順の特性
に影響を与えているだろう変量を同定できる。
主変量、従属変量または研究、実験において定数に保
たれる変量を同定できる。
与えられた変量が、定数に保たれている条件や変量が
定数に保たれていない条件を区別できる。
反応する変量において つまたはそれ以上の変量の効
果を説明するためのテストを構成できる。
実験の表現において定数に保たれていない変量、もっ
とも全ての表現において同様の扱いで変化させられた
変量、任意抽出された変量を同定し、名づけることが
できる。
に分けられる。
2.
『6FLHQFH$3URFHVV$SSURDFK』に記
載された条件制御
条件制御の能力は、もともとアメリカの初等カ
とを比較すると、指導要領に記載されたアとイに
リ キ ュ ラ ム で あ る 『 6FLHQFH$ 3URFHVV
該当する下位項目は、表 中の と と言える。
$SSURDFK以下、6$3$ と略』に記載された「変
つまり、Ⅰ1に示したアが に相当し、イが 数を制御する」能力に該当する²⁾。6$3$ には に相当するのである。
3.7KH)RXU4XHVWLRQ6WUDWHJ\ の説明
7KH)RXU4XHVWLRQ6WUDWHJ\以下、46 と略
の上位項目と の下位項目が記載されている。
条件制御の能力は の上位項目の つである。
の上位項目の内、
上位項目 が基礎的な項目、
表1と指導要領に記載された文章記述Ⅰ1
とは、子どもが つの質問に答えることで仮説が
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46 に記載されている つの質問を表2に示し
4.指導要領、6$3$、46 の比較
指導要領と 6$3$ の条件制御の能力の下位項目
た。なお、表2中の で表された部分には調べ
及び と 46 に記載された変数等を比較し、表
たい内容を入れる。今回は説明のために振り子
3に整理した。表3中の 種類の下線は、変数の
と表した。
表2 46 の つの質問の内容
意味内容が対応していることを示している。
表3 指導要領と 6$3$ の条件制御の能力の
下位項目 、 と 46 に記載された変数等の比較
設定でき、探究が可能となる方略である³⁾。
4 (振り子)における実験を実施するためにすぐに手
に 入 れ る こ と が で き る 材 料 PDWHULDOV は 何 で す
か">変数の見出し@
4 振り子とはどのような振る舞い DFWをします
か">従属変数の見出し@
4 振る舞いに作用する振り子の材料をどのように変
化させることができますか">変数を変化させるための
方法@
4 振り子の振る舞いの反応が変化したことをどのよ
うに測定または説明することができますか">従属変数
の感知@
表2より、4 では「材料」と記述されているが、
変数を抽出させる質問である。4 は、従属変数を
指導要領
46
ア変化させる要
因と変化させ
ない要因を区
別する
主変量、従属変 D4 から つの変
量または研究、
数を独立変数
実験において
として選び、残
定数に保たれ
りの変数を定
る変量を同定
数とする。
できる。
E4 から従属変
数を感知する
方法を つ選
ぶ。
イ観察、実験な
どを計画的に
行っていく」
反応する変量
において つ
またはそれ以
上の変量の効
果を説明する
ためのテスト
を構成できる。
洗い出す質問である。4 は、従属変数に作用する
4 で見つけた変数を変化させる方法の質問であ
る。4 は、従属変数の感知を考えさせる質問であ
6$3$
4 と 4 を選ぶ過
程を通して設定
される仮説もし
独立変数が変化
したとしたら、従
属変数は変化す
るだろう。
る。46 には、これら つの質問に答えた後に行
表3から、6$3$ の条件制御の能力の下位項目
う科学のプロジェクトが 点記載されている。
は主変量と従属変量、定数に保たれる変量を同
つは、D4 に答えた変数の中から独立変数を つ
定できる能力である。この下位項目 と 46 に記
選ぶこと。残りの 4 の変数は定数になる。 つ目
載された変数等とを比較する。下位項目 は、46
は、E4 に答えた変数の中から従属変数を感知す
の 4~4 の質問に答えた後に行う科学のプロジ
る方法を つ選ぶこと。この つの過程を通り、
ェクトの D と E の過程に該当すると言える。6$3$
「もし、独立変数が増加減少したとしたら、従
の条件制御の能力の下位項目 は、46 の科学の
属変数がどう変化するか」、という形式を使用す
プロジェクトの過程の後の仮説を立てる部分に
ると、変数間の関係が明確な仮説が設定できる。
該当すると考えられる。
この仮説設定で「数値を大きくする小さくす
これらのことから、6$3$ に記載された条件制
る」などの独立変数を操作する方針が明らかとな
御の能力を構成する下位項目の 及び は、46
る。
に記載された変数等を用いると達成できると言
即ち、実験で操作するための独立変数と、従属
えるため、小学 年の学年目標の条件制御の能力
変数の関係が明らかな仮説を立てるために、46
を育成する方略として 46 を使用できるのではな
は 4変数の見出し→4従属変数の見出し→
いかと考えた。これが筆者らが本研究に取り組ん
4変数を変化させるための方法→4従属変数
だ問題意識である。
5.先行研究の概要と本研究の意味づけ
小林らは、6$3$ に記載されたプロセス・スキ
の感知と繋がっていく質問の段階を踏むのであ
る。
ルを精選・統合して開発した「探究の技能」に基
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表4 各内容で重視される能力
づいて我が国の小・中学校の理科教科書に掲載さ
れている観察・実験等を類型化している⁴⁾。さら
に小林らは、第 学年「ものの燃え方と空気」単
元を事例として、46 を基にして開発した「仮説
設定シート」を用いて授業を行っている⁵⁾。しか
領域
内容
$ 領域 物の溶け方 条件制御の能力
振り子の運動 条件制御の能力
電流の働き 条件制御の能力
% 領域 植物の発芽、成長、結実条件制御の能力
動物の誕生 推論と関係づけの能力
流水の働き 条件制御の能力
し、46 に記載された変数等の観点から我が国の
教科書の分析は行っていない。
6.用語の整理
Ⅰ2及び3における記述は筆者による邦訳で
ある。Ⅰ2では変量、Ⅰ3では変数と邦訳した。
本研究では、46 に記載された変数等の観点から
我が国の小学校理科教科書を分析するため、46
に記載された用語独立変数、従属変数等で統一
する。
Ⅱ研究の目的と方法
1研究の目的
本研究では、46 に記載された変数等の観点か
天気の変化情報を生活に活用する能力
容に相当する教科書の単元が、分析を加える対象
である。
2分析の観点の実際
表5には 46 に記載された変数等とそれを表す
記号が示されている。
表5 46 に記載された変数等と表す記号
記号
分類の内容
4 変数の記載が見られる場合
ら小学校理科教科書に分析検討を加えることを
目的とした。これにより、小学校第 学年条件制
4
4
従属変数の記載が見られる場合
変数を変化させる記載が見られる場合
4
D
従属変数の感知の方法が見られる場合
4 から独立変数を つ選んだ記載が見られる場
合
4 の残りの変数の記載が見られる場合
御の能力を育成する授業実践のための第一次資
D’
料が得られることが期待される。
2研究の方法
本研究では①『6FLHQFH$3URFHVV$SSURDFK
E
4 から従属変数の感知の方法を選んだ記載が見
られる場合
仮説 フォーマットを用いて仮説を立てる記載が見ら
れる場合
&RPPHQWDU\IRU7HDFKHUV』、及び②
表5に基づいて、教科書に記載された全ての文
『6FLHQFH([SHULPHQWVDQG3URMHFWIRU
章記述や写真、図、表などの流れに沿い、それら
6WXGHQWV』及び③我が国の小学校理科教科
が 46 に記載された変数等のどの部分に相当する
書を基本的な文献として収集した。その後①を読
のか、筆者らが分類を行った。
Ⅲ教科書の分析結果
1$ 領域に見られる変数等の特徴
表5に基づいて教科書を分析すると図1~3
み、プロセス・スキルに含まれる「変数を制御す
る」能力の意味内容を把握した。次いで、②を読
み、46 の意味内容を把握した。最後に③に記載
された事項に 46 に記載された変数等の観点から
べる。分析を加えたのは啓林館出版社の小学第 のように表された。
(1)$物の溶け方
図1より、46 に記載された変数等が現れる順
学年理科教科書である⁶⁾。
序が異なるが、全ての過程があることがわかる。
1指導要領に記載された各内容の能力
指導要領に記載された各内容で重視される能
考察を読むと、この単元の結論は、従属変数に影
分析を加えた。なお、詳細な分析の観点は後に述
響を与える変数を同定することであることが分
かる。
力を表4に整理した。
表4に示された条件制御の能力を育成する内
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教科書の構造
現象
調べたいこと
内容
溶けるという従属変数の振る舞いを観察する。
・溶かす時に必要な材料に触れている。
4QS
教科書の構造
Q2
現象
Q1
コイルの作成
4QSの( )に該当するところを子どもが決める
現象
ものが水にとける量
小単元1から得た
事実
水にとけたものは目に見えなくても水溶液の中にある。
溶けたものを数値で表す。
Q4
ものが水にとける量には限りがあるのだろうか
b
方針
・溶かすもの(食塩・ミョウバン) 1gずつ溶かす
・水の量50ml (・水の温度15℃)
Q3,a
実験2
①②食塩ミョウバンが50ml、15℃の水にとける量(独
立変数は溶かすもの)
③水の量を100mlにする(独立変数は水の量)
[定数は溶かしているものと水の温度]
疑問
結果
表、グラフで結果を記録する
考察
①②50ml、15℃の水に溶ける量は食塩とミョウバンで
異なる。(溶ける量[従属変数]は溶かすもの[独立変
数]により異なる)
③水の量を2倍にすると、溶ける量も2倍になった(溶
ける量[従属変数]は水の量[独立変数]により増加す
る)
結論(一般化)
一定に水の量に溶けるものの量には限りがある。水
の量を増やすと、ものが溶ける量も増える。
溶かす物によってその量が決まっている。
疑問
水の量を変えずに溶け残ったものを溶かすにはどう
自由試行
予想(仮説)
a’
疑問
方針(話し合い)
Q3,a
a’
Q3,a
水の温度を上げたら[溶けているものの量は]たくさん
溶けるのでは?
仮説
15℃、30℃、60℃に水の温度を上げていく
結果
表、グラフで結果を記録する
考察
水の温度とものが溶ける量との関係
・ミョウバン(独)は水の温度(独)を上げると溶ける量
(従)が変わる
・食塩(独)は水の温度(独)を上げても、溶ける量(従)
はほとんど変化しないことがわかる。
とけ残りの粒以外につぶが現れた。
疑問
とかしたものは水溶液から取り出せるのか
結果
粒を取り出せたかどうかを表にする。
考察
・水の量を減らすと両方取り出せる。
・水の温度を低くする時、ミョウバンは取り出せる。食
塩は取り出せない。
C水の温度を挙げたときの溶ける量が増えるものと、
増えないものとの違いだね。
内容
振り子は行ったり来たりしながら同じ動きを繰り返す
Q2,Q4
振り子の長さ、ふれ幅、おもり
ふりこ測定方法
ふりこが1往復する時間を測定すること
・振り子の長さを長くすると、従属変数は長くなる
・振り子のおもりを重くすると、従属変数は短くなる。
・振り子のふれはばを大きくすると、従属変数は長くなる。
T:振り子の長さを変えて調べるとき残りの2つはどうすれ
ばいいかな
疑問
振り子が1往復する時間は、どんな条件で変わるのだろ
うか
計画(話し合い)
変える条件と変えない条件について気をつけて実験の
計画を立てよう
計画
・電流の強さ(乾電池1個・2個)
・コイルの巻き数(100回巻・200回巻)
a,a’
実験
①電流の強さ(独)を変えて、従属変数を測定
②コイルの巻き数(独)を変えて、従属変数を測定
クリップの数で比べよう
Q4,b
結果
図と表でまとめている
考察
・コイルの巻き数が同じ時、コイルに流れる電流が強い
ほど、電磁石が鉄を引き付ける力は強くなる。
・電流の強さが同じ時、コイルの巻き数が多いほど、電
磁石が鉄を引き付ける力は強くなる。
程で振り子のおもりが見出される。この変数から、
の重さ、ふれ幅を抽出したため 4 の過程がみら
れなかったと考えられる。即ち、4 に該当する変
a
数の変化を 4 で扱っているのである。考察を読
a
むと、この単元の結論は、従属変数に影響を与え
る変数を同定することであることが分かる。
(3)$電流の働き
図3より、46 に記載された変数等が現れる順
序が異なるが、全ての過程があることがわかる。
4QS
Q2
考察を読むと、この単元の結論は、従属変数に影
響を与える変数を同定することであることが分
Q1
かる。
2.% 領域に見られる変数等の特徴
表5に基づいて教科書を分析すると図4~6
Q4,b
a,仮説
a’
のように表された。
(1)%植物の発芽と成長
計画に沿って3通りの実験を行う
結果
考察
Q4
a,Q4,仮説
Q3
させる。しかし、教科書では 4 の過程でおもり
b
ふりこのふれ方には何か決まりがあるのだろうか、ふり
こをつくって調べてみよう
振り子のつくり
実験
・電流を強くすると電磁石は強くなると思う
→電流を強くする方法は電池を2個直列つなぎにすれ
ばいいね。
・コイルの巻き数を増やすと強い電磁石になると思う。
載された変数等の過程を踏むのであれば、4 の過
図1 $物の溶け方
方針(予想)
強い電磁石を作るにはどうしたらよいかな
図2より、4 がみられない。これは、46 に記
学習課題
疑問 4QSの( )になる疑問を話し合う
(2)$振り子の運動
食塩とミョウバンの結果を対比させながら記録
とかしたものを取り出すには
①②水の量を減らす方法
③水の温度を低くする方法
現象
Q4
既習事項からの予想、水の量、水の温度を操作する。
実験4
教科書の構造
Q2
おもりの重さ、おもりを放す位置振れ幅と変化
現象
方針・計画
科学的用語を用いて、電磁石の振る舞いを観察する。
ゼムクリップや方位磁針を使って電磁石のはたらきを
調べよう。
図3 $電流の働き
とかしたものを取り出すためには
ろ過した現象
Q1
コイルづくり
a’,b
水の温度を上げる
実験3
4QS
電磁石の強さが変わる条件
すればよいだろうか。
方針
内容
コイルについての説明
振り子が1往復する時間は、振り子の長さで変わること
が分かる。
図2 $振り子の運動
図4より、4 がみられない。これは、46 に記
載された変数等の過程を踏むのであれば、4 の過
程で発芽に必要な変数が見出され、4 で 4 を変
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教科書の構造
現象との出会い
内容
4QS
3.花から実へ
Q2,Q4
教科書の構造
植物はどんな時、発芽するのだろうか。写真
Q1
現象
花がさき、実ができ始めた。
疑問
花のつくりは、どんなつくりかな
種子が発芽するにはどのような条件が必要だろうか。
b
観察1
花のつくり 2種類の花がさいている。
「発芽」という科学的用語を用いて現象と出会う。
学習課題
1.種子が発芽する条件
? 疑問
変数を抽出する
実験の方針
実験の計画
従属変数に影響を与える独立変数を抽出する。
温度、水、空気は必要。 土、日光は必要ない
Q1
実験で調べることを決めて、実際に調べていこう。
a
T:調べる条件だけを変えて、他の条件は同じにするん
だね。
a´
変数を抽出する過程で必要だと思う変数に精選してい
るので必要だと思うと付け足すことができる。[ ]内は
文章を補った。
・水は[発芽に]必要だろうか、[必要だと思う]
実験
3つの実験をそれぞれ行う。
結果
表で結果を整理する。
考察
1つでも足りなければ発芽しなかった。
結論
発芽には水、空気、温度が必要である。
4QS
Q1,Q2
1.花のつくり
仮説
結果
イラストで2種類の花のつくりを比べる
考察
アブラナの花との比較。
カボチャの花は2種類ある。科学的用語を用いて花
のつくりを整理している。
疑問
めしべとおしべはどんなところが違うのだろうか
観察
カボチャのめしべとおしべ
結果
表で2種類の花の特徴をまとめている
考察
推論
科学的用語を用いて考察を行う(花粉)
①つぼみの中のめしべの様子、②花がさいたあとの
めしべの様子
おしべの花粉が運ばれて、めしべの先に付いたと考
えられる(観察事実から推論)
科学的用語を用いて説明する。
Q3
花粉のはたらき
3.植物が成長する条件
疑問
種子の養分がなくなってからも植物がさらに成長する
(定性的)にはどんな条件が必要なのだろうか。
Q2,Q4
予想(変数の抽出)
C:日光がよく当たる場所に、肥料をあたえて植えたか
ら…。
Q1
方針
T:条件を1つずつ変える計画を立てて、実験しよう。
計画
変数を抽出する過程で必要だと思う変数に精選してい
るので必要だと思うと付け足すことができる。[ ]内は
文章を補った。
・肥料は[成長に]必要だろうか、[必要だと思う]
・水は毎日全ての植物にあたえる。[定数]
観察・記録しよう
内容
葉の大きさ、色、茎の太さやのび(定量的)について記
録しよう。従属変数を感知する方法を選ぶ。
結果
写真と表、短い言葉で結果が記録されている。
考察
結論
日光を与えないと成長できなくなった。
肥料をあたえた方が成長がよい
植物の成長には水のほかに日光が必要であることが
分かる。肥料をあたえると植物がよく成長することが分
かる。
a
現象
花がさくと受粉して実ができた。
疑問
受粉しなければ、実はできないのだろうか
計画
袋をかぶせて受粉ができないようにしておく
実験
受粉と実のできかた(対照実験をする花粉つける・つ
けない)
結果
イラストと写真、短い文章で記録する
仮説
Q3,Q4
a,b
仮説
a’
受粉しないと実ができないことが分かる。
a’
考察
一般化
Q4,b
植物は、受粉すると、めしべのふくらんだ部分が育っ
て実になり、その中に種子ができる。
花がさく植物は、種子をつくることで生命を受け継い
でいく(種子植物についての一般化)
図5 %植物の結実
地面を流れる水
教科書の構造
図4 %植物の発芽と成長
化させる過程をたどる。しかし、教科書では、4
で見出した変数をそのまま独立変数として選択
写真 雨がふって川の水の量が増している。
・積もったもの、けずれたところがある
現象
石や砂が流され川原に石や砂がたまっている。
疑問
流れる水には、どんなはたらきがあるのだろうか。
実験の見通し
するため、4 がみられないと考えられる。考察を
読むと、この単元の結論は、従属変数に影響を与
える変数を同定することであることが分かる。
(2)%植物の結実
図5より、46 に記載された変数等が現れる順
序が異なるが、全ての過程があることがわかる。
内容
現象
流水の働きを感知するためにどの部分を観察すれば
よいか、観察の視点の焦点化
・けずれたところ、たまったところを見る。
実験1
・土で山をつくって水を流す。
・流れの速さ、水のにごり方、土の積もり方
実験2
流水の働きに影響を与える要因の同定
・流水の速さ(傾斜大・小、曲がりの外側・内側)
・水の量(流速に影響を与える要因)
実験1の結果と比較する。この時実験1の変数(勾配、
曲がりなど)は定数に保たれるためa’
結果
流れが速いところ(傾斜大) 曲がっているところ
流れが緩やかな所(傾斜小)
考察
実験1
地面を流れる水のはたらきは侵食・運搬・体積(科学
的用語を用いて整理する)
4QS
Q1
Q4
a’
a,b,a’
Q2
実験2
流れる水のはたらきは、流れる水の速さや量によって
ちがう。
考察を読むと、この単元の結論は、従属変数に影
響を与える変数を同定することであることがわ
図6 %流水の働き
かる。
(3)%流水の働き
図6より、4 がみられない。これは、46 に記
という変数をだし、水の量と 4 の過程で 4 の変
載された変数等の過程を踏むのであれば、4 で水
の量を抽出したため 4 の過程がみられなかった
数を変化させる。しかし、教科書では 4 で、水
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と考えられる。即ち、4 に該当する変数の変化を
振り子の運動、%流水の働き、がこの場合に該
4 で扱っているのである。考察を読むと、この単
当する。4 で見出された変数を独立変数とし
元の結論は、従属変数の振る舞いを同定すること
て用いる場合である。例えば、%植物の発芽、
と、従属変数に影響を与える変数を同定するとい
の水とは、4 で見出される変数である。この変数
う 点であるとわかる。
3.全体的傾向
は 4 で水の量、水の S+ などに変化できる。しか
し、教科書では 4 で見出したそのままの変数を
独立変数として選択しているため 4 の過程がな
図1~図6を用いて変数等が各単元において
く、変数の操作も数値を伴わない「与える与え
どのような順序で現れるかを表6にまとめた⁷⁾。
表6 変数等が現れる順序
ない」
という 通りの操作になったと考えられる。
つ目は、どの単元も結論は従属変数に影響を与
える変数を同定することである。%流水の働き、
単元名
単
元
内
の
小
単
元
の
流
れ
A(1)
溶け方
A(2)
振り子
A(3)
電流
B(1)
発・成
B(1)
結実
B(3)
流水
Q2
Q1
Q2
Q1
Q4,b
a,仮説
a’
Q1
Q2
Q4
Q2,Q4
Q1
b
Q1
a
a’
仮説
Q1,Q2
Q3
Q1
Q4
a’
b
a,b,a’
Q2
Q4
b
Q3,a
a’
Q3,a
a’
a’,b
Q3,a
仮説
Q4
a,Q4,仮説
Q3
a,a’
Q4,b
Q2,Q4
Q1
a
仮説
a’
Q4,b
では、従属変数の振る舞いを同定することも含ま
れている。
次は、主要教科書会社 社の新訂教科書に同様
の観点から分析を行いたいと考える。
註
文科省:
「小学校学習指導要領解説理科編」SS
Q3,Q4
a,b
仮説
a’
大日本図書
$$$6「6FLHQFH$3URFHVV$SSURDFK&RPPHQWDU\
IRU7HDFKHUV」SS;(52;&RUSRUDWLRQ
Q2,Q4
b
a
a
&RWKURQHWDO「6FLHQFH([SHULPHQWVDQG
3URMHFWIRU6WXGHQWV」SS,
表6から、%流水の働きは、仮説が設定され
.HQGDOO+XQW3XEOLVKLQJ&RPSDQ\
小林ら:小・中学校の理科教科書に掲載されて
ていないことがわかる。同単元の実験 では、従
いる観察・実験等の類型化とその探究的特徴
属変数の振る舞いを同定した。続く実験 では、
理科教育学研究9ROSS
従属変数に影響を与える変数を同定した。即ち、
小林ら:児童自らに変数の同定と仮説設定を行
従属変数の振る舞いは、実験 が終わるまで分か
わせる指導が現象を科学的に説明する能力の
らないのである。このため、仮説を立てる過程が
育成に与える効果理科教育学研究9RO
なかったのではないかと考えられる。
Ⅳ.まとめ
これまでの教科書の分析結果をまとめると次
SS
啓林館:
「わくわく理科 」
表6中の点線は小単元の区切りを表す。書き込
みがなされていない小単元では条件制御の能
の 点にまとめられる。 つ目は、46 に記載さ
れた変数等の過程が全てある単元がある。 つ目
は 4 に該当する変数が見られない単元がある。
これらの単元には、 つの場合がある。4 の
過程で見出される具体的な変数を 4 で、すでに
抽出する場合である。啓林館の教科書では、$
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力を用いられていない。
「」で区切られて表示
された場合、教科書が 46 の記載に該当する変
数を同時に扱っているという意味である。