Vol.198-1【平成 27 年 1 月 30 日発行】 テーマ1 プロヴィンチアの挑戦 ~ともに未来へ向かって~ 【株式会社ヴァンフォーレ山梨スポーツクラブ 専務取締役ゼネラルマネージャー 佐久間 悟】 これまで 2000 年(平成 12)にクラブ存続の危機に直面したヴァンフォーレ甲府は、翌、2001 年(平成 13)に海野社長(現会長)らがクラブ再建に着手、10 年ひと昔と言われますが、 今から 14 年前のことでした。クラブ関係者の努力と山梨県民を中心とする多くの皆様の ご支援とご協力の甲斐あって、クラブは不死鳥のように蘇り、13 期連続の黒字決算(過 去においては、G 大阪、川崎フロンターレの2クラブが達成)を成し遂げるまでに至りま した。また、これまで多くの指導者と選手の挑戦や努力によって、着実に力をつけてきた チームは、J1昇格、J2降格、J2優勝などの歴史を刻みながら昨シーズンも J1残留を 果たし、今シーズンは3シーズン目の J1 という、また新しい歴史に挑戦することになり ます。今日まで、皆さんに育んで頂いたヴァンフォーレ甲府は、J リーグの理念を具現化 している「地域密着クラブ」の模範クラブとして評価され、近年では国内外を問わず多く のクラブ経営者や行政の関係者が勉強に訪れるほどまでに成長することが出来ました。こ れは、私たちだけではなく、同時に山梨県に対してご評価を頂いているものであると誇り に感じています。 これから 順風満帆に思われるヴァンフォーレ甲府ですが、「これから」「未来」に目を向けると、 決して楽観視することは出来ません。 一番目の理由としては、山梨県を取巻く環境にあります。J リーグはこれまで「地域密 着」を理念として掲げ活動を展開してきました。この理念を順守することは、すなわち「地 域とともに生きる」ということであって、地方が抱える様々な社会問題に対して、真正面 から向き合うことが必要になってきています。つまり、人口減少や予想を上回る高齢化と 少子化、可処分所得の低下や雇用の不安定などの社会問題は、 「 地域密着クラブ」にとって、 決して対岸の火事では無く、今では、自らの課題として受け止めなければならない状況下 -1- にあります。 二番目の理由としては、日本サッカー界と J リーグを取巻く環境の変化です。「日本代 表の強化がすべての成功につながる」と考えられているようですが、実際には、少子化や 競技者マインドの変化など、近年では、チーム登録数やスポーツ少年団の減少が競技への キッカケづくりを阻害しているだけではなく、競技レベルの向上を追求するエリートとそ れ以外という二極分化が進んでいます。 三番目の理由としては、これまでの「地域密着」を活動理念としている J リーグは、今 シーズンから、 「共存から競争のリーグ」へと方針転換に大きく舵を切ったことです。これ が意味するものは、従来の公平な利益分配から、強者の論理に基づいたサッカー界におけ る「新自由主義」の幕開けであり、資本力のあるチームがすべてにおいて有利になる可能 性が高く、いわゆる大都市、大資本に支えられたクラブが中心となり、ヴァンフォーレ甲 府のような経済基盤が弱い「地域密着」の地方クラブには、大変厳しい状況となります。 上記の様に、①山梨県内における社会構造の変化、②日本サッカー協会と J リーグを取 巻く環境の変化、③J リーグの方針転換 のなかで、今後も継続して安定したクラブ経営 をすることが使命であると考えている私たちにとって、この数年間は、 「まさしく存続の危 機に匹敵する変化の時代」と位置付け、課題克服のためにヴァンフォーレ甲府に係るすべ ての皆さんとの一体感を醸成して、対策を講じる必要があると考えています。 これからに向かって 長期的な対策としては、「専用球技場」の建設だと考えています。「専用球技場」は、決 してサッカーだけに使用される施設ではなく、①ラグビー、アメリカン・フットボールな どの球技場として、②コンサートなどの文化施設として、③災害時における非難場所など として、複合施設としての機能を備え、「山梨県民の県民による県民のための専用球技場」 として、山梨県の文化、歴史、伝統、教育、スポーツ、物産、健康、観光、安全などの発 信拠点になればと考えています。「専用球技場は聖地」として、まさしく老若男女が集う、 「オールやまなし」の象徴になればと大いに期待をしています。 中期的な対策としては、「地域密着クラブ」の代表格として育んで頂いた皆様への恩返 しとして、 「地域が抱える社会問題」に対して、これまで以上に積極的に取組む必要がある と考えています。山梨県の元気・勇気・希望の星として、ヴァンフォーレブランドを活用 した国際交流事業やサッカーにおける実育 1 活動、大規模なサッカーフェスティバルや全 国大会を誘致して地域経済の活性化に寄与することなど、今後もただ単にプロサッカーの 興業だけではなく、山梨県のメディアとして、コンテンツとして、さらには、異業種・団 体・組織を結びつけるファシリテーターとして地域内連携を図りながら、山梨県のブラン ド向上や子どもたちの教育、高齢者の健康増進など、公共の利益に資する活動において中 心的な役割を担うことが出来ればと考えています。 短期的な対策としては、サッカークラブとして最も重要な役割である、日本サッカー界 や J リーグの変革期において、クラブの存在価値を高めること、つまり、チーム成績の向 上に努め魅力ある集団形成に努めることと考えています。言うまでもありませんが、どん なに崇高な理念を掲げたとしても勝負の世界では、結果が全て。 「勝者のみに発言する機会 -2- が与えられ、敗者はただ消え去るのみ」という世界です。私たちは、何としても J1とい うステージに拘り続け、安定感のあるチームを作ることが皆様からの信頼を得る唯一の方 法であることを理解しています。 そこで、安定感をもたらす手段のひとつとして、選手を育成するシステムの構築は不可 欠であると考えていますが、その為には、クラブ内のアカデミー(育成カテゴリー)の充 実を図り、山梨県内において育成した選手で構成されたチームがレベルの高いリーグで誇 りを持って戦う。その選手たちをサポーターの皆さんが応援する。まさしく、 「地域内連携 によって育成した選手たちが躍動する」ことで、皆さんに幸福、感動、苦悩、絶望、希望 を提供することができ、サッカー文化である「みる」「する」「ささえる」が実現できるの ではと期待しています。ヴァンフォーレ甲府は、世界のどの国のリーグにもどこの国の選 手にも劣らない、 「山梨県民の県民による県民のためのサッカー」を表現することが私の理 想です。 これからへの決意 最後になりますが、私たちクラブスタッフは、「サッカークラブは、過去の人々のもの であって、また、現在の人々のものでもある。しかし、最も重要なことは、未来の人々の ものでもある。」ということを忘れず、韮崎市出身の大企業家であった、小林一三氏の「庶 民の手の届く範囲内で庶民の為の娯楽をつくる」ことを大切にしたいと考えています。 また、私は、地方の時代と言われて久しいなか、 「もう一度、地域に対する誇り、愛情、 歴史に培われた地元のルーツを考 え魅力を問い、拠りどころは何な のか?決してミニ東京にしない。」、 これがヴァンフォーレ甲府の進む べき道ではないかと思っています。 吉田松陰は、 「 夢なき者に理想な し、理想なき者に計画なし、計画 なきものに実行なし、実行なきも のに成功なし。故に、夢なき者に 成功なし。」という言葉を残しまし た。 私も夢を抱く、挑戦者でありたいと思っています。 1 実育:ヴァンフォーレ甲府が提唱している教育理念。実りある教育の意。 発行:平成 27 年 1 月 30 日 編集:公益財団法人山梨総合研究所 TEL:055-221-1020(代表)FAX:055-221-1050 URL:http://www.yafo.or.jp 発行人:村田俊也/編集責任者:末木 淳 -3- 甲府市丸の内 1-8-11
© Copyright 2024 ExpyDoc