92 明海歯学(J Meikai Dent Med )44(1) , 92−97, 2015 頸部輪郭抽出法による喉頭運動の検出 −食物物性の違いによる差の検出− 高橋 明子1§ 良昭2 大地1 清水 小野 2 西條 滝田 光雅1 裕美1 高野 安井 梨沙1 利一1, 2 1 明海大学歯学部社会健康科学講座口腔衛生学分野 明海大学歯学部社会健康科学講座障害者歯科学分野 要旨:本研究の目的は,頸部輪郭抽出法を用いて,異なる物性の食物を嚥下したときの喉頭運動の違いを検出できるか を検討することである. 24 名の健康成人を対象として 20 ml の冷水及びトロミ水を嚥下させ,嚥下中の頸部側面の高速連続写真を撮影し,頸 部輪郭抽出法により喉頭運動曲線(LMC)を作成した.次に,LMC から喉頭が最大挙上状態を維持する時間(DMLE) を計測した.得られたデータは Student の t 検定を用いて有意差検定を行った.また,25 名の健康成人に同様の嚥下試料 の飲みにくさを 5 段階で評価させ,Wilcoxon の符号付順位和検定を用いて有意差検定を行った. 13 名(54.2%)の対象者で両嚥下試料ともにほぼ完全な LMC を得た.冷水嚥下の DMLE は 0.146±0.040 秒(平均値 ±標準偏差) ,トロミ水嚥下の DMLE は 0.291±0.116 秒であった.両者の間に統計学的有意差を認めた(p<0.01).飲み にくさの評価では,トロミ水が統計学的に有意に飲みにくい(p<0.05)との結果を得た. 頸部輪郭抽出法は異なる物性の食物嚥下時の LMC の違いを検出できた.本法は,嚥下訓練の評価として有用と考えら れる. 索引用語:嚥下機能検査,喉頭運動,喉頭挙上,食物物性 A Study on the Cervical Outline Detection Method for Measuring Laryngeal Movement −Detection of Differences in Food Textures− Akiko TAKAHASHI1§, Yoshiaki SHIMIZU2, Mitsumasa SAIJO1, Risa TAKANO1, Daichi ONO1, Yumi TAKITA1 and Toshikazu YASUI1, 2 1 Division of Oral Health and Preventive Dentistry, Department of Community Health Sciences, Meikai University School of Dentistry 2 Division of Special Care Dentistry, Department of Community Health Sciences, Meikai University School of Dentistry Abstract : The aim of this study was to evaluate whether it would be possible to detect differences in the duration of maximum laryngeal elevation (DMLE)due to differences in food texture by using the“ Cervical Outline Detection Method”(CODE)as one of the tests of swallowing function. Twenty-four healthy adult male volunteers drank both water and thickened water (20 ml ),and high-speed sequential photographs(60 frames/sec, 3 sec)were taken while either liquid was being drunk. These photographs were analyzed by use of a computer program that detects the outline of the neck, identifies the position of the thyroid/annular cartilages, and plots the positions of these cartilages to generate a laryngeal motion curve(LMC). Then we measured DMLE as the flat area of the LMC peak(gradient of LMC<30 mm/sec). The data were compared by using Student’s t-test. Also, 25 other healthy adult male volunteers drank both water and thickened water(20 ml );and then they evaluated their difficulty of swallow- 頸部輪郭抽出法−食物物性の差の検出− 93 ing by using the 5-grade evaluation system known as“Miyaoka’s Subjective Difficulty of Swallowing(SDS).”The data were compared by using Wilcoxon signed-rank test. In 13(54.2%)of the 24 subjects, it was possible to obtain 2 LMCs, one for water and the other for thickened water. The DMLE for the former was 0.146±0.040(mean±SD)sec ; and that for the latter, 0.291±0.116 sec. This difference was significant(p<0.01). In the SDS study, swallowing of thickened water was more difficult than swallowing of water(p <0.05). Thus, CODE could detect a difference in LMC between 2 different food textures. This method is probably useful for evaluation of swallowing exercises. Key words : test of swallowing function, laryngeal motion, laryngeal elevation, food texture 緒 言 喉頭の運動を観察することは,摂食・嚥下障害の病態 評価に重要である1). 嚥下における喉頭運動の役割には,喉頭が挙上するこ とによる二次的な気道閉鎖,喉頭が前方に移動すること るが,エックス線被曝を伴い13),高価で移動困難な装置 を必要とするため検査場所が限られ14),頻繁な検査や対 象者の居宅や病室での検査には適さない.VF 以外で は,頸部に装置や手指を接触させる必要があり,自然な 嚥下運動を阻害する可能性がある15)などの欠点が指摘さ れている. による食道入口部の拡大がある.また,嚥下時の下気道 これらの欠点を解消する非侵襲性,非接触性で,高い の防御は,最大挙上位置で最も強い効果がある.そのた 可搬性を有し,低廉な喉頭運動測定法として,嚥下運動 め,嚥下による喉頭挙上運動で最大挙上位置にとどまる 時の頸部連続写真画像からの計測が考えられる. 時間があることは,誤嚥の予防に重要な意味を持つ2). これまでの研究で,私たちは頸部側面の連続写真から また,水やお茶などの液体は,口腔内でまとまりにく 甲状軟骨と輪状軟骨による隆起を検出し,その運動を記 く,保持しにくいため,摂食・嚥下障害患者では,誤嚥 録するアルゴリズムを考案し,「頸部輪郭抽出法」と名 3) しやすい .トロミ調整食品の添加は誤嚥防止に有効で 付けた16).さらに,「頸部輪郭抽出法」を自動的に実行 あるが,過剰な添加をすると却って嚥下困難の原因にな するプログラムを作成し,このプログラムを Cervical ったり,口腔や咽頭に残留すると誤嚥の原因になったり Outline Detection Engine(CODE)と名付けた16). 4, 5) することがある . 今回,私たちは,①「頸部輪郭抽出法」を用いて食物 摂食・嚥下障害を引き起こす疾患はさまざまである 性状の違いによる DMLE 及び,DLE の変化を検出する が,喉頭挙上の持続時間が延長あるいは,短縮すること こと,②DMLE 及び DLE の主観的な飲みにくさとの関 がある.また,食物物性の粘性が高くなると食塊の咽頭 連性を明らかにすることを目的とした. 通過時間が延長するとの報告5)があり,食物性状の違い により,喉頭が最大挙上状態を維持する時間(Duration of Maximum Laryngeal Elevation ; DMLE)や,喉頭の挙 上開始から下降完了までの時間(Duration of Laryngeal Elevation ; DLE)が変化することが考えられる. 既存の喉頭運動の評価法には,嚥下造影検査6)(Vide- 材料と方法 1.頸部輪郭抽出法を利用した DMLE 及び DLE の計測 24 名の男性の健康成人ボランティアを対象とした. 本研究は,明海大学歯学部倫理委員会の承認を受けて実 施した(承認番号:A 0922).対象者は 22.4±2.4 歳(平 ofluorography:以下,VF),反復唾液嚥下テスト7, 8)など 均値±標準偏差,以下同様)で,身長 172.7±7.1 cm, の 触 診 に よ る 方 法 , 超 音 波 断 層 画 像9)( Ultrasonogra- 体重 61.5±6.8 kg であった(Table 1). phy:以下,US)などがある.また,頸部に圧力セン 対象者の姿勢はデンタルチェア上で坐位とし,ヘッド サ10, 11)や,距離センサ12)を装着する方法も報告されてい レストを対象者毎に調整し,嚥下に適した姿勢を取らせ る. た.対象者とデジタルビ デ オ カ ム コ ー ダ ( HDC-TM VF は,摂食・嚥下障害の検査法として確立されてい ───────────────────────────── §別刷請求先:高橋明子,〒350-0283 埼玉県坂戸市けやき台 1-1 明海大学歯学部社会健康科学講座口腔衛生学分野 750-H, Panasonic 社,東京)やバックスクリーンなどの 機材との配置を Fig 1A,撮影範囲を Fig 1B に示す.嚥 下試料は,冷水 20 ml ,トロミ水 20 ml とした.トロミ 94 高橋明子・清水良昭・西條光雅ほか 明海歯学 44 2015 Table 1 Characteristics of the subjects for Duration of Maximum Laryngeal Elevation(DMLE)and Duration of Laryngeal Elevation(DLE)study age [years] body height [cm] body weight [kg] 24.4(±2.4) 172.7(±7.1) 61.5(±6.8) n=24 Mean±SD Table 2 Characteristics of the subjects for Subjective Difficulty of Swallowing study age [years] body height [cm] body weight [kg] 25.6(±3.5) 173.7(±6.5) 65.4(±8.8) Fig 2 n=25 The algorithm of Cervical Outline Detection Engine Mean±SD 同時にデジタルビデオカムコーダで 60 枚毎秒,3 秒間 の高速連続写真の撮影を行った. 撮影後は,少量の冷水を飲ませ 3 分間休憩した後,次 の嚥下試料について試行した.各試料の試行回数はそれ ぞれ対象者 1 名につき 1 回とした. 撮影した写真は,私たちの開発した CODE を用いて 解析を行い,喉頭運動曲線を得た.CODE のアルゴリ ズムを Fig 2 に示す.得られた喉頭運動曲線から,DMLE は「喉頭最大挙上近辺で,喉頭運動曲線の傾きが 30 mm /s 未満を維持した時間」として,DLE は「上昇時に喉 頭運動曲線の傾きが 30 mm/s を超えた時点から下降時 に−30 mm/s を下回った時点までの時間」として計測を 行った. なお,代表的な喉頭運動曲線と DMLE 及び DLE 計 測部位を Fig 3 に示す. Fig 1 A : Upper view of the layout of devices B : Lateral view of the photograph area Th : Thyroid cartilage An : Annular cartilage 計測した DMLE, DLE を冷水嚥下,トロミ水嚥下の 両群間で Student の t 検定を用いて,統計学的に有意差 を検定した. 2 .嚥下試料の嚥下しにくさについてのアンケート調査 水は,「日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調 17) 本研究は 25 名の男性の健康成人ボランティアを対象 整食分類 2013」 で規定されている「濃いとろみ」とな とした.本研究は,明海大学歯学部倫理委員会の承認を るようにキサンタンガム系トロミ調整食品トロミパワー 受けて実施した(承認番号:A 0922).対象者は 25.6± スマイル(以下トロミ剤,ヘルシーフード株式会社,東 3.5 歳で,身長 173.7±6.5 cm,体重 65.4±8.8 kg であっ 京)2.5 g を冷水 200 ml に攪拌・溶解し,10 分間静置 た(Table 2). したものを利用した.各嚥下試料は予めディスポーザブ アンケートは ,Miyaoka らの Subjective difficulty of ルのプラスチックシリンジ(以下,シリンジ)に計量・ swallowing18)に基づき 5 段階評定尺度法を用い,標準刺 充填しておいた.嚥下試料の使用順はランダムとした. 激(本研究では 10 ml の冷水)と比較した各嚥下試料 嚥下試料は,シリンジで直接口腔内に注入し,合図を の主観的な嚥下困難感を自記式にて回答させた.評定尺 行うまで口腔内で保持させた.嚥下開始の合図を送ると 度は,「−2:大変飲みにくい」,「−1:飲みにくい」, 頸部輪郭抽出法−食物物性の差の検出− Fig A: B: C: D: 95 3 A sample of laryngeal motion curve of a subject Duration of Maximum Laryngeal Elevation(Thickened water) Duration of Maximum Laryngeal Elevation(water) Duration of Laryngeal Elevation(Thickened water) Duration of Laryngeal Elevation(water) 「0:変わらない」,「1:飲みやすい」,「2:大変飲みやす 結 い」,の 5 段階とした.喉頭運動計測と同様に調整した 果 1 .頸部輪郭抽出法を利用した DMLE 及び DLE の計 20 ml の冷水及びトロミ水を嚥下試料とし,嚥下試料の 測の結果 使用順序はランダムとした.対象者の姿勢はデンタルチ ェア上で坐位とし,ヘッドレストを対象者毎に調整し, 13 名(54.2%)の対象者について,冷水嚥下時とトロ 嚥下に適した姿勢を取らせた.嚥下試料は喉頭運動計測 ミ水嚥下時の両方の喉頭運動曲線が得られた.残りの 11 と同様シリンジで口腔内に注入した.それぞれの嚥下試 名(55.8%)の対象者については喉頭隆起の過小,髭に 料を嚥下した後,対象者自身でアンケートを記入させ よるノイズなどの理由によりいずれか一方または両方の た.最初の嚥下試料を嚥下した後は,少量の冷水を嚥下 喉頭運動曲線が得られなかった.冷水嚥下の DMLE は させ 3 分間休憩をした後,次の嚥下試料について試行を 0.146±0.040(平均値±標準偏差,以下同様)秒,トロ した.各試料の試行回数はそれぞれ対象者 1 名につき 1 ミ水嚥下の DMLE は 0.291±0.116 秒であった(Table 回とした. 3). 冷水嚥下とトロミ水嚥下の両群間で Wilcoxon の符号 付順位和検定を用いて統計学的に有意差を検定した. また,冷水嚥下の DLE は,0.979±0.198 秒,トロミ 水嚥下の喉頭挙上時間は 0.994±0.273 秒であった(Table 3). Table 3 Duration of Laryngeal Maximum Elevation and Duration of Laryngeal Elevation Duration of Laryngeal Maximum Elevation Duration of Laryngeal Elevation The data were compared by using Student’s t-test. Mean±SD n.s. : not significant ** : significant difference(p<0.01) water [sec] thickened water [sec] 0.146(0.040) 0.979(0.198) 0.291(0.116) 0.994(0.273) p value 0.00009** 0.41507 n.s. 96 高橋明子・清水良昭・西條光雅ほか Fig 4 明海歯学 44 2015 Subjective Difficulty of Swallowing of water swallowing and thickened water swallowing DMLE について,冷水嚥下とトロミ水嚥下の間に統 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会発行の「日本摂 計学的に有意な差を認めた(p<0.01).一方,DLE に 食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 ついては,冷水嚥下とトロミ水嚥下の間に統計学的に有 2013」17)で規定されている「濃いとろみ」(300∼500 mPa 意差を認めなかった. ・s 程度の粘性)である.水沼ら5)によると嚥下試料の粘 性が 100∼1000 mPa・s の間で,嚥下試料の咽頭通過時間 2 .嚥下試料の嚥下しにくさについてのアンケート調査 の結果 の延長が顕著になる.冷水嚥下とトロミ水嚥下の DMLE の差は,トロミ水嚥下において嚥下試料の咽頭通過に時 25 名の対象者全員からアンケートを回収した. 間を要したことが原因の 1 つと考えられる. 冷 水 嚥 下 で は,「 − 2 : 大 変 飲 み に く い 」 が 0 名 , さらに,飲みにくさのアンケートでは,トロミ水の方 「−1:飲みにくい」が 8 名,「0:変わらない」が 11 名, が有意に飲みにくいとの結果が得られており,冷水嚥下 「1:飲みやすい」が 5 名,「2:大変飲みやすい」が 1 名 では 0 名であった「大変飲みにくい」も 5 名いた.液体 であった.トロミ水嚥下では,「−2:大変飲みにくい」 嚥下の至適量は 20 ml との報告20)があるが,トロミをつ が 5 名,「−1:飲みにくい」が 13 名,「0:変わらない」 けると至適量が減少するとの報告もある21).トロミ水の が 2 名,「1:飲みやすい」が 4 名,「2:大変飲みやす 嚥下に大きな労作を要する17)ことが,DLME の延長の一 い」が 1 名であった.冷水嚥下とトロミ水嚥下の間に統 因として考えられる. 計学的な有意差を認めた(p<0.05)(Fig 4). 考 察 一方,DLE については,統計学的な有意差を認めな かった.これは,喉頭の挙上,下降に関しては,その所 要時間に食物物性の違いが影響を及ぼさなかったこと, 指示嚥下の場合,舌の上にある嚥下試料は舌の口蓋へ 喉頭の挙上,下降についてはその所要時間に個人差が大 の前方から後方への押しつけにより咽頭へ送り込まれ きかったことが考えられる.健康成人と,喉頭挙上に関 る.咽頭に嚥下試料が達すると,嚥下反射が惹起され喉 連する筋の筋力が低下している摂食・嚥下障害患者を比 頭の前上方への挙上と喉頭蓋の反転,声門閉鎖,上部食 較した場合には DLE にも有意な差が出る可能性があ 道括約筋の弛緩,咽頭周囲の筋の収縮による嚥下試料の る. 食道への送り込みが行われる19). 脳梗塞などの中枢神経障害や,神経筋疾患などでは, 冷水は,嚥下運動が開始されると重力により速やかに 口腔や咽頭,喉頭の嚥下に関与する筋の筋力低下が起こ 咽頭に流入し,上部食道括約筋の弛緩と共に速やかに食 り,また,疾患によっては感覚閾値の上昇や,反射の低 道内に流入すると考えられる.トロミ剤の使用は,嚥下 下が起こる.このような患者では,嚥下動作時,食物の 反射の遅延などで液体嚥下時に誤嚥を起こす摂食・嚥下 送り込みに時間が掛かるため DLE や,DMLE の延長が 障害患者で推奨されており,適切な使用は誤嚥予防に繋 起こるものと考えられる.一方,口腔や咽頭,喉頭の筋 がる17).一方,過度のトロミ剤添加を行うと,強すぎる 力低下により,喉頭の挙上を持続できず,嚥下が完了す 粘性・付着性のため,嚥下そのものが困難になったり, る前に喉頭が下降し嚥下運動が終了してしまうことも考 口腔や咽頭への残留を引き起こしたりして,却って誤嚥 えられる.また,Shaker 訓練など摂食・嚥下障害に対 の原因となることもある17).今回使用したトロミ水は, する訓練には,これらの筋の筋力を増強するものがあ 頸部輪郭抽出法−食物物性の差の検出− る.これまでの研究で,私たちは頸部側面の連続写真か ら甲状軟骨と輪状軟骨による隆起を検出し,その運動を 記録するアルゴリズムを新たに考案し,「頸部輪郭抽出 法」と名付けた16).さらに,「頸部輪郭抽出法」を自動 的に実行するプログラムである CODE を作成した. 本法は,可搬性が高く,被曝を伴わず繰り返し計測可 能である16).また,私たちは,これまでの研究で本法を 利用して得た喉頭運動曲線と VF を利用して得た喉頭運 動曲線が良く一致することを明らかにした16). 今回の研究では,頸部輪郭抽出法を用いて,冷水嚥下 及びトロミ水嚥下時の DMLE 及び DLE を計測できた. DMLE は冷水嚥下に対してトロミ水嚥下で有意に延長 したが,DLE には有意な差が無かった.また,今回使 用したトロミ水は有意に「飲みにくい」と評価され,ト ロミ水の高い粘性や付着性,嚥下に大きな労作を要する ことが,DLME の延長の一因となったと考えられる. DLME の延長を視覚的に表示できる本法は,口腔や 咽頭,喉頭の嚥下に関与する筋の筋力低下を来した患者 の評価や,これらの患者に対する摂食・嚥下訓練の効果 判定,患者の訓練へのモチベーション向上などの応用が 見込める. 結 語 頸部輪郭抽出法は異なる物性の食物嚥下時の LMC の 違いを検出できた.本法は,嚥下訓練の評価として有用 と考えられる. 本研究は 2013 年度宮田研究奨励金(A)の助成を受けて実 施された. 引用文献 1)金子 功:嚥下における舌骨運動の X 線学的解析−男女 差および年齢変化について.日耳鼻 95, 974−987, 1992 2)古川浩三:嚥下における喉頭運動の X 線学的解析−特に 年齢変化について−.日耳鼻 87, 169−181, 1984 3)大沢愛子,前島伸一郎,棚橋紀夫:脳卒中患者における食 物嚥下と液体嚥下−フードテストと改訂水飲みテストを用い た臨床所見と嚥下造影検査の検討.Japan Journal of Rehabilitation Medicine 49, 838−845, 2012 4)江頭文江:摂食・嚥下障害者の食事の対応,Modern Physician 26, 73−76, 2006 5)水沼 博,大塚一也,下笠賢二,大越ひろ,田山二朗:嚥 下流動に及ぼす液状食品の粘性特性の影響.日本機械学会論 文集(B 編) 70, 2697−2704, 2004 6)Dodds WJ, Logemann JA and Stewart ET : Radiologic Assessment of Abnormal Oral and Pharyngeal Phases of Swallowing. 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