- 94 - 1(3)[1]大学院修士課程・岡山万里先輩講話 岡山万里:ただ今ご

1(3)[1]大学院修士課程・岡山万里先輩講話
※敬称略
岡山万里:ただ今ご紹介いただきました岡山万里です。私は、こ
の4月に教育学研究科幼児教育講座に入学を認められたのですが、
ご紹介いただいたとおり、大原美術館に勤めています。大原美術
館の人がなぜ幼児教育を勉強するのか、ということで不思議に思
われるかと思います。そこで、なぜ進学に至ったかを、お話しさ
せていただこうと思います。題して『告白!
岡山万里が岡山大
学大学院にやってくるまで』。
簡単に自己紹介します。幼児教育とは全く関係のないことをし
ていました。
大学は、ノートルダム清心女子大学文学部英語英文学科でした。どうして英語英文学科
かと言いますと、小さい頃から演劇が大好きだったのですね。それで、本当のことを言う
と、舞台の女優さんになりたかったのです。笑ってください。《笑い》 ですが、家族の
反対を受けてしまい、では演劇と関係があることが何かと考えたときに「シェークスピア
を勉強しよう」と思いついて、英語英文学科に入りました。ですが、シェークスピアでは
なく、詩、ポエムの面白さにふれ、「詩論」と清心女子大学では言うのですが、詩を専攻
して、ジョン・ダンというシェークスピアの同時代人を卒業論文では扱いました。
そして卒業のときに、学芸員の資格と教育免許状(中学・高校の英語)をいただきまし
た。なぜ学芸員の資格と教員免許を取ろうとしたかというと、学芸員の方は、美術館の展
覧会を思い浮かべていただきたいのですが、展覧会を作ることが舞台を作ることと似てい
ると、その頃思ったのです。舞台の演出家が俳優をどう生かそうかと演出することと、作
品を生かすにはどんな展示をしたらよいか考える学芸員の仕事は似ているのではないかと
考えたわけです。それから、教職課程を履修したのは、教育実習に行ってみたかったから
です。優れた先生は、優れた俳優に通じるものがあると言われますよね。それで、教育実
習をやってみたいと思いました。こういうことを先生方の前で言うと、邪道だと言われそ
うなのですが。そういうことで、中学・高校の免許状をいただきました。そして、卒業の
ときに、英米文学の方で進学するということも考えていたのですが、いろいろな方からご
助言いただく中で、「一度社会に出て、本当に自分が何を勉強したいのかということを見
極めてから、もう一度大学に戻ってくるというのもよいのではないか」というご助言をい
ただきまして、なぜか、それが心にかかりました。そして、社会人として歩み始めました。
初めに勤めたのが、株式会社スペイン村というところです。これは、当時玉野市に建設
が予定されていました、スペインをテーマにしたテーマパークの会社でした。その中に美
術館ができるという計画がありまして、その美術館開設準備室に入りました。ただ、同じ
部署にエンターテイメント部門やアトラクション部門などもありまして、「岡山さん、演
劇やってるんだったら脚本書いてみたら?」などと言われて、いい気になって、ショーの
台本などを書かせていただいたりしました。ただ残念なことに、バブル経済と言われたも
のが破綻をして、その残りでなんとかやっていたという時代だったのですが、事業が凍結
しまして、11 か月で退社をすることになりました。そして、大原美術館に入りました。
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そこで、教育普及担当学芸員、学芸員の中でも特に教育普及という部門を担当する学芸員
になりました。
では、私がたどり着いた大原美術館がどういう美術館かお話しします。大原美術館は、
1930 年に、日本で一番最初にヨーロッパの美術作品を本格的に紹介する美術館として開
館しました。創立者は、大原孫三郎です。大原孫三郎は、クラボウの発展に貢献した人で
すが、紡績事業の一方で、社会事業を行いました。倉敷中央病院の設立や農業研究所の設
立、現在岡山大学の生物資源科学研究所になっていますが、これ
はもともとは大原農業研究所だったものです。労働研究所、社会
問題研究所などの設立を行いました。その仕事の中に、奨学金制
度がありました。多くの学生が学ぶ中に、1人の画学生がおりま
した。それが、児島虎次郎という人物です。児島は、大原の援助
を受けてヨーロッパで学んだのですが、自分だけがそのような恵
まれた環境で学ぶのではなく、日本の他の画学生、あるいは日本
の多くの人たちが、優れたヨーロッパの美術作品にふれる環境を
作りたいと大原に願い出ました。今はどこの町へ行っても美術館
本館
があって、ヨーロッパの作品はもちろん、様々な美術作品を見る
ことができますけれども、当時は本物のヨーロッパの美術作品が
日本になかったのです。ですから、洋画を学ぶ人でさえ、図版で
しか作品を見ることができませんでした。そこで、優れた美術作
品を買って、日本に持って帰りたいと考えたわけです。そして、
それが許されて、絵が集められた。それらの作品をもとに建てら
れたのが大原美術館というわけです。
分館
では、大原美術館に、どんな作品があるかをご紹介します。大
原美術館は、3つの建物からできています。本館、分館、工芸・
東洋館があります。まず、本館。よくご紹介いただいているこの
ギリシャ神殿風の建物ですが、これが 77 年前に初めて建てられ
た部分です。大原美術館といったときに、一番にご紹介いただい
ているのが、このエル・グレコ『受胎告知』。そして、クロード・
モネの『睡蓮』やアンリ・マティス『画家の娘』などがあります。
次に、分館。建物は、第二次大戦後に建てられたものです。展
示してあるのは、日本人の作家による洋画作品です。重要文化財
に指定されている小出楢重『Nの家族』、関根正二『信仰の悲し
み』などがあります。
工芸・東洋館。昔の米倉を改築した建物です。中には、民芸運
動に関わった人たちの、陶器、版画(板画)、染め物などが展示
されています。大原美術館は、このような作品が展示してある美
術館です。
では、教育普及という仕事は何か、ということのお話をしてい
こうと思います。博物館法、という法律があります。その中に、
博物館の仕事が定められています。それは何かというと、「収集」
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工芸・東洋館
「保存」「展示」「研究」です。まず、「収集」。物がなければ、展示ができません。その
ため、展示する「もの」を集めなくてはいけない。そして、「保存」。物は必ず滅びに向
かいますから、その滅びに向かう時間をできるだけ長くして、できるだけよい状態で次の
世代へ引き渡すという使命があります。私達は、作品を大原美術館所蔵としていますけれ
ども、それは大原美術館のものということではなく、人類の共通財産を、今、大原美術館
がお預かりしている、そして次の世代に引き渡すという考えなのです。それから「展示」。
「保存」をするためには、しまっておくのが一番なのですが、それでは、今生きている私
達がその恩恵にあずかることができない。そこで「展示」をして、多くの方に見ていただ
くという仕事が出てきます。そして、そのものがどういう意味を持つものなのかというこ
とも知らなくてはならない。そこで「研究」が必要になります。これらが、美術館の仕事
の4つの柱と言われています。
ですが、ここ 20 年くらいの間に、もう1つ大きな柱が加わってきました。それが「教
育普及」です。せっかく物を収集して、よい状態に保存して、研究し展示しても、お客様
に見ていただけなければ意味がない。また来ていただいても、ただ作品の前を通り過ぎて
しまうだけでは意味がない。そこで「教育普及」、つまり多くの人に美術館に足を運んで
もらうにはどうしたらよいか、そして来ていただいたときに作品と親しく仲良くなっても
らうにはどうしたらよいかということについて、様々な手立てを考え、実施していく仕事
が必要になります。美術館とお客様をつなぐ。作品とお客様が、より親しく仲良くなれる
ようにつとめる。それが「教育普及」という仕事です。
ただ大原美術館では、先程簡単にお話ししましたけれど、元々の設立そのものに、教育
普及的な意味合いを含んでいますので、早くから教育普及的な活動を行っていました。講
演会や、展示室を会場にした音楽会を行ってきました。ただその対象は、ある一定年齢以
上の大人や、もともと美術や音楽に関心のある人に限られていたわけです。でも美術館の
教育普及は、もっと幅広い層全ての人に向けられるべきで、もっと対象層を広げていかな
くてはいけないのではないかと。そのような考えから、1993 年から子どもに向けた活動
を始めました。そして現在では、「幼児対象プログラム」「学校まるごと美術館」「学校団
体の受け入れ」「出前講座」「職場体験」「ギャラリーツアー」「チルドレンズ・アート・
ミュージアム」といった幅広い活動を行っています。さらには生涯学習社会に向け、さら
に対象層を広げられるよう模索中というわけです。
そして、はじめにお話ししましたように、幼児教育とは全く無縁だった私が、ここで「幼
児対象プログラム」というものと出会っていきます。
では、この幼児対象プログラムについて、お話ししていきます。このプログラムは、1993
年、大原美術館に隣接する保育園「若竹の園」との協同で始まりました。この保育園はた
だ隣にあるだけではなく、創立にも関わりがあります。美術館の創立者大原孫三郎の婦人
が初代園長を務めたという、兄弟姉妹のような保育園なのです。その保育園さんと、一緒
に何かできないかということで始まりました。そしてそれ以来、参加希望園が増えて、2006
年度は、24 の園、約 1250 名の子ども達が、この大原美術館の特徴的な事業に参加してく
れています。これは年間計画の中で実施していますので、1人の子どもが複数回、平均す
ると 3.7 回来館し、そして各回異なる内容のプログラムを体験していただく、ということ
になっています。
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そのプログラムの目的は、美術館の普及、美術の普及、そしてそれらを通じ、あらゆる
人の生活がより豊かになればということで、活動を行っています。
まず、美術館の普及として、4歳・5歳の子ども達に美術館をどう伝えているかと言う
と、こういう言葉を使って伝えています。「美術館にある作品は、みんなの宝物だよ」そ
して「美術館というところは、みんなの宝物を入れておく大きな宝箱のようなところなん
だよ」という言葉で伝えています。そして、「みんなの宝物だから、みんなで力を合わせ
て守ろうね。みんなの宝物だから、みんなが同じように静かな気持ちで見られるようにし
ようね」ということで、美術館でも約束・マナーを伝えていきます。美術館の約束を、
「さ
わっちゃ駄目」「走っちゃ駄目」「大きな声を出しちゃ駄目」と、単に「駄目」という言
葉で伝えるのではなく、「大切な宝物を守らないといけないから、さわらないようにしよ
うね」や「大切な宝物だから、1人だけが大きな声を出さないようにしようね」といった
ように、きちんと理由を一緒に考えることで、子ども達自身が「作品を守ろう」「他の人
の迷惑にならないようにしよう」と思ってくれたらと考えています。展示室での鑑賞活動
に入る前に、必ずこのような話をしています。これがそのときの
写真ですけれど、吹き抜けになっている広い空間があるのですね。
展示室に入る前に、そのような場所で、スタッフが図や表を示し
ながら、約束を話し合っていきます。それから展示室へ入ってい
くようになります。
次に、美術の普及です。美術作品と親しく仲良くなってもらうためにはどうしたらいい
かということで、プログラムメニューが6種類あります。「全体鑑賞」「絵画鑑賞・パズ
ル」「彫刻鑑賞・制作」「模写」「お話づくり・絵さがし」「美術館探検」これらが定番メ
ニューとしてありまして、先生方と相談しながら、うちは今年は「全体鑑賞」と「絵画鑑
賞」と「探検」をしよう、うちは「絵画鑑賞」と「模写」をしよう、と計画します。
では、それぞれのプログラムを見ていきましょう。1番目、「全
体鑑賞」から。これは、大原美術館の全体像をつかんでもらうた
めの、大原美術館にはこんな宝物がありますよ、と伝えるプログ
ラムです。写真を見ていただくと、子どもが裸足になっているの
に気付かれますか。裸足になって、建物の面白さも体感してもら
おう、という内容もあるのです。工芸館は、床が木でできていた
り、石でできていたり、釉薬をかけて焼いているところがあった
り、建物自体が面白いのです。その面白さを肌で感じてもらおう、
というものです。作品は勿論ですが、作品だけではなくて、建物
も楽しんでもらいたいというプログラムです。
2番目、「絵画鑑賞・パズル」です。絵画を中心に鑑賞するプ
ログラムです。一生懸命見ていますね。多分「馬に羽が生えとるー」
などと言っているのではないかと思いますが(シャヴァンヌ『幻
想』)。友達と話しながら見ていきます。
このように展示室の中を自由に見る時間の後、みんなで集まっ
て鑑賞していきます。「この部屋の中だったら、どの作品が好き
かな?」と尋ねます。そうすると、子どもは「私はこれ」「ぼく
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はこれ」と答えてくれます。そうすると、スタッフは「どうして?」「どんなところが気
に入った?」と尋ねます。すると「色がきれいだから」「この人の表情が好き」「かわい
い」など、自分なりの理由を答えてくれます。それだけでも、大変なことではないかと思
います。展示室の中には、たくさんの作品があって、そのどれも画家が力を尽くして描い
た作品です。その中から、「私は、これが好き」と1つ選ぶということは、多様な価値観
の中から自分の価値観を見出すということだと思います。そして、「どうして?」「どん
なところが気に入った?」と尋ねられ、もう一度自分の心を振り返る。なぜ自分はそう思
ったのだろう。そう感じたのだろう。自分の心を振り返ってみる。それは、作品鑑賞だけ
ではなく、他の事柄にも同じことが言えると思います。そのような体験をしてもらいたい
と思っています。
そして、1つの作品をみんなで見よう、ということをします。
そうすると、同じ作品を見ていても、気に入るところが違ったり、
違う感想を持ったり、ということに気付きます。そして、そのよ
うな子どもの発言を等しく受け止めていく。そのことで、「自分
はこの作品を見て、こう思ったけど、お隣の○○ちゃんは違うん
だね」ということを知り、それもいいのだということを伝えてい
く。そうして多様なものの見方を共有していく中で、より作品に
近づいていく。そのような鑑賞をしたいと考えています。
鑑賞が終わると、作品の前で、パズルを組み立てます。パズル
という楽しいあそびの要素を使って、パズルを組み立てるプロセ
スの中で、もう一度絵をよく見ていくという活動です。
3番目は、「彫刻鑑賞」です。ツアー形式で、館内に展示して
ある立体作品を鑑賞していきます。前から、横から、後ろからと
様々な角度から、また、近づいたり離れたりしながら見ていきま
す。写真のように、姿勢や格好を真似てみることもあります。
(ブー
ルデル『果物を持つ裸婦』)
鑑賞が終わると、今度は「彫刻家になって、彫刻を作ってみよ
う」という活動をすることもあります。彫刻を作るといっても、
日頃、子ども達が使い慣れている粘土を使って遊びます。分館の
前にある、広い芝生の上で活動します。芝生の中にも作品があり
ますので、それらを見て作ってもいいし、展示室で見てきた作品
を思い出して作ってもいいし、自由に作っても構いません。この
写真はロダンの『歩く人』ですが、この子達が前で作っています。
なかなか上手に作っていますね。作ることを通して、よく作品を
見てもらうプログラムです。
「模写」というプログラムもあります。模写という言葉は、作
品をそっくりそのまま描かなくてはいけないと誤解されて、問題
があるのではないかという批判もあるのですが、そうではなく、
このプログラムでは、描くことを通してよく見ることを目的とし
ています。活動の中で、どれだけその子が、1つの作品と向き合
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えたかを大切にしています。そして、作品はその子自身の作品に
なっているのです。こちらはピカソの『頭蓋骨のある静物』です。
とても人気のある作品で、たくさんの子どもが描いていました。
ですが、一人一人の作品は違います。机が大きくなっている子や、
頭蓋骨が特に大きくなっている子。この子は、机の脚が斜めにな
っているのが気になったのでしょうか。それぞれ、どの部分が気
になったのか、よく伝わってきます。そして時間があるときは、
最後にスタッフと一緒に話をして、自分が工夫をしたところや頑
張ったところを発表します。スタッフも「よく頑張ったね」と話
をします。
最後に、「美術館探検」です。これは、美術館の裏側を探検し
てみよう、というプログラムです。一般のお客様が入れないバッ
クヤードには、空調設備や機械室、収蔵庫などがあるのですが、
それらを見てまわることで、宝箱である美術館が宝物の作品をど
のように守っているかを知ってもらいたいと考えています。この
写真は、空気の循環をトイレットペーパーを使って説明している
ところです。子ども達より驚いていますね。女優の本領発揮でしょ
うか。《笑い》
このようなプログラムメニューを通じ、子ども達が、美術館や
美術と親しく・仲良くなれる体験をしてもらえたらと考えて行っ
ています。
そして、もう1つの目的があります。それらの活動を通じ、あ
らゆる人の生活がより豊かになるようにということです。これま
でこのような活動をしてくる中で、もう少し自分が力をつけたら
もっと何かできるのではないかという気がしてきたのですね。きちんと勉強したら、もっ
とよい活動が提供できて、もっと充実したものになるのではないだろうか、そう考えるよ
うになったのです。そしてそこから、岡山大学大学院への道につながってくるわけです。
でも、どうしたらいいのだろう、どこへ行ったらいいのだろう、と思っていました。仕
事は、幼児対象のものばかりではありませんので、自分が行くべきところが美術なのか、
社会教育なのか、生涯教育なのか、分からなかったのです。
そのときに手にしたのが『いちょう並木』でした。2005 年4月号です。岡山大学が学
外へ向けて出されている広報誌なので、皆さんはあまり手にされることはないかもしれな
いのですが、美術館に送っていただいたのですね。それをたまたま見たわけです。その中
に「教育の基盤としての幼児教育」という題名で、高橋敏之先生がご自身のご研究と幼児
教育講座が行っている教育活動について、非常に端的にお書きになったものがありました。
これを見たときに、ここに行けば私の悩みや疑問を解く糸口が見つかるかもしれないと思
いました。私の中に、幼児教育という道がはっきり見えてきたわけです。それから2年と
いう月日が必要でしたが、それでも、それだけの時間を経て、今、ここに来ることができ
て、本当に幸せだと思っています。
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この写真ですが、私はこの写真が大好きなのです。この写真の
ように、子ども達が光に向かって育っていくための小さな助けが、
私がこれからここで学ぶことによって、できるようになればと思
っています。
以上で終わります。どうもありがとうございました。《拍手》
司会:岡山万里先輩、ありがとうございました。質問がある人は
挙手してください。
質問者:美術品を見ての子ども達の反応は一人一人違って、様々
だと思うのですが、どのような反応があったかを、ぜひもう少し聞かせていただければと
思います。
岡山万里:例えば、展示室で「この部屋の中でどの絵が一番好き
かな?」と尋ねたとき。「かえるの絵」という子がいます。どの
作品か分かりますか?
最初にもご紹介したモネの『睡蓮』です。
描かれているのは、睡蓮の花の咲く池の水面で、かえるは描かれ
ていないのですが、子ども達はその作品を見て、池の中にいる「か
える」や「めだか」にまで思いをはせているのです。他には、今
日はご紹介していませんが、ゴーギャンの『かぐわしき大地』と
いう作品があります。タヒチの女性が、花に手を伸ばして摘み取
ろうとしている。その横にとかげがいる。という絵です。この作
品を使って「お話づくり」のプログラムをしたことがあるのです
が、そのとき子ども達が作ったお話が、「この女の人は地獄に堕
ちてしまいました。そして、助かろうと思って、石の上によじの
ぼるけれど、また堕ちてしまって…」というふうに、それを何度
も繰り返していったのです。地獄のお話なんて…と思われるかも
しれませんが、実はこの作品は、
「アダムとイブ」のイブを描いていると言われています。
禁断の実をとってしまったために楽園を追われたイブが描かれた作品から、「地獄へ堕ち
てしまって」という子どもの言葉が引き出されたことは、子どもの直感的な見方を思わさ
れます。
質問者:ありがとうございました。
司会:他に質問はありませんか。
質問者:同じ園の子が、3回も4回も美術館を訪れてくれるとおっしゃっていたのですが、
回を増す毎に子ども達がこんなことを学んでいっている、こういうところが成長している、
と感じられるようなエピソードなどがあれば教えてください。
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岡山万里:美術館に対しての親しみが増したり、マナーがより守れるようになるようです。
「この前来たときと、飾ってある絵が違うよ」とか、「前来たときは、この絵が好きだっ
たけど、今日はこっちがいい」、あるいは「前来たとき、この絵がよかったけど、やっぱ
りこの絵はいいなぁ」など、以前の来館のときのことをよく覚えていて、それと比較して
の発言なども聞かれます。卒園してからも美術館への親しみは継続するようで、小学校の
生活科の町探検などで周辺を訪れても、他のお店のインタビューはなかなかできないのに
美術館へは平気で入っていく、といったことなどを小学校の先生から伺ったりもします。
司会:他に質問はありませんか。
質問者:もし差し支えなければ、大原美術館へ勤務されるきっかけとなったことがあれば
教えていただきたいです。また、これから大原美術館でやってみたいプログラムなどがあ
りましたら、教えてください。
岡山万里:以前勤めていた企業の美術館準備室が事業凍結になったとき、大原が募集をし
ているからと教えてくださった方があり、受験しました。これからやっていきたいことに
ついては…、今、ここに入学して、これまでやってきたことを整理し、検証していく時間
をいただいたので、その学びの中で、また新たな可能性に気付いていけたらいいなと思っ
ています。
司会:他に質問はありませんか。
質問者:大原美術館で勤務されていると、小さな子どもから大人の方までいろいろな方と
接することがあると思うのですが、その中で、幼稚園や小学校で働くのとは違って大原美
術館でしか子どもがふれられないものや、働いていてよかったと思われるようなことがあ
りましたら、ぜひ教えてください。
岡山万里:純粋に「美術」というものを通して子ども達に接することができるのは、幸せ
です。あとは、得をしていると思うのは、子ども達は「美術館のお姉さん」ということで、
少し特別な目で見てくれるので、お話をするときに伝えやすいということはあるかなと思
っています。反面、先生方と違って、1年間で数回、ほんの数時間の関わりですので、美
術館へ来る前にどんなことがあったか、これから先どんな育ちがあるか、見ることができ
ないということがあります。そのため、その一瞬の関わりが子どもにとってどんな意味を
持つのか、よくよく考えて行動しなくてはいけないと思っています。よい出会いになれば
と願いますし、悪い出会いにならないよう慎重にならなくてはいけないと、プログラムの
ときはいつも真剣勝負です。
司会:岡山先輩、ありがとうございました。《拍手》
(岡山大学大学院:岡山万里)
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