地域活性化を主眼としたアートプロジェクトにおける平面的表現の意義 小野寺真央(宝塚大学) 、田島悠史(宝塚大学) Keyword: 地域アートイベント、平面作品、地域活性化 【問題・目的・背景】 などメディアを通しても意見を聴衆した。3)について 本研究は、地域活性化を主眼としたアートプロジェク は、2015 年 6 月 26 日に MMM が実施した、那珂湊第一小学 トにおいて、どのような平面的作品が求められるのかを 校とのワークショップにスタッフの一員として参加し、 明らかにするものである。なお本稿において、平面的表 フィールドノートをまとめた。ワークショップの内容に 現とは、映像作品や絵画作品を指す。 ついて、まちの中で自分が思い入れを持つ場所をオリジ 昨今、地域活性化を主眼とした地域アートプロジェク ナルの表現で地図に描く「まちの秘密の場所の地図づく トが日本の各地で発生している。本学会においても、平 りワークショップ」 、参加者に見知らぬ誰かを想定した手 野らの研究[1]や、田島らの研究[2]などが報告されてい 紙を書かせた上で、それを集め、そこからランダムに選 る。その表現手法は「パブリックアート」と呼ばれる彫 び、参加者に朗読させる「まだ見ぬ誰かへの手紙執筆ワ 刻作品や「インスタレーション」と呼ばれる立体的な現 ークショップ」 、海洋生物が印刷された用紙に、蛍光塗料 代芸術作品が多い。地方の広い空間を活かして、集客コ で色づけした後、暗闇の中で吊るし「光る水族館」を作 ンテンツから街のメディアまで様々な役割をアート作品 る「暗闇で光るお魚のワークショップ」の三種類だった。 は担うことができる。 その一方で、映像作品や絵画作品のような平面的な表 現については、あまり重視されていない。しかし、平面 的表現には持ち運びの簡易さ展示スペースの少なさなど、 立体的な表現にはない特性があると考えている。また、 ワークショップのような住民参加型のプロジェクトにし やすいのも平面的表現であると考えられる。 そこで本研究では、過去のアートイベントでの実践か ら平面的な表現と三次元作品を比較し、考察する。平面 写真 1.MMM による 的表現の有意性を明らかにすることは、 「アートとまちづ 「まちの秘密の場所の地図づくりワークショップ」 くり」という現在注目されているテーマを深めるもので ある、と考えている。 【研究・調査・分析結果】 まず、1)質問紙調査について、MMM では、平面的表現 【研究方法・研究内容】 のうちアニメーション作品については比較的評価が高か 研究方法としては、実際の地域アートプロジェクトの った。これは「おさむシアター」というアニメーション アンケート調査やインタビュー調査を対象に、平面的表 作品専用のミニシアターを制作したことが要因として推 現と立体的表現の比較を行なった。具体的には、1)茨 測できる。これによって、鑑賞者は「シアターに入る」 「シ 城県ひたちなか市のアートイベント「みなとメディアミ アターで鑑賞する」という体験を獲得し、平面的表現で ュージアム(以下、MMM) 」を中心に 3 年間(2011 年から あるはずのアニメーション作品が、結果として立体的表 2014 年まで)にかけて質問紙調査を実施し、地域活性化 現の特性を獲得することができている、と推測すること に関する影響を平面的表現と立体的表現とで比較、2) ができる。 地域住民などに対して「平面的表現」の強みを問うイン タビュー調査、3)実際に平面的表現を用いた地域アー トプロジェクトのワークショップの参与観察、を行なっ た。1)については結果として、3 年間で 200 を超える質 問紙を回収した。2)については、口頭および Facebook イラストやスタンプラリー、絵本など「分かりやすい媒 体」にすることができるし、鑑賞者もそれを期待してい ることがそれに該当する。写真や具象、スタンプラリー などはその形態を活かして地域を活性する様々な案件に 転用することなどが今後の展望として考えられる。 一方で、現代芸術作品の多くは抽象的な作品である。 こういった作品が一定の割合を占める以上、地域活性化 という視点ではどのように扱うべきか、一層分析する必 要があると考える。2)については、おさむシアターや 写真 2.おさむシアター(右:内観、左:外観) 地面へのドローイングなど、 「描かれる場所の特性」を活 かすことで、立体的表現の効果を平面的表現も獲得する また、そうでない平面作品については写真作品の評価 ことができることを意味している。 「気仙沼Tシャツ海岸」 が高く、また「もっともっと(那珂)湊の風景の作品お [3]や「赤崎水曜日郵便局」[4]などはその好例と言える。 願いします。 」などを始めとして、具象絵画の評価が高い。 3)については、制作における没入性がそれにあたる。 さらにはスタンプラリーのような参加者が関与できる仕 もちろん、作品制作や展示における目標や目的の統一や、 掛けを持つ平面的表現についても一定の高い反応が見ら まちとの関わりを持たせることは立体的表現・平面的表 れた。 現にも共通する。 次に、2)インタビュー調査について、 「地域のお年寄 今回の研究において、地域活性化を主眼とするアート りだけで映画を製作してる」や「いろんな人が一緒に楽 イベントにおける平面的表現の意義についての仮説を立 しめるものがいいな」という声があるなど、立体作品と てることができた。今後の展望として、自らそういった 比べて参加障壁の低さを求める声が多かった。また「展 試みに関わることを通してこれらの効果を検証して行く 示スペースに、さまざまな人々がデザインしたたくさん ことを考えている。 の旗がずらりと立ち並んだら壮観」や「地面に直接ルー トとかオススメポイントを書いちゃう」など、展示場所 【引用・参考文献】 に対する工夫に注目する意見も多かった。 [1]平野真,横井川美貴(2011),「アートによる地域活性化 こういった情報は、MMM のワークショップでも観察する ―地域に与える多様な影響 の考察―」,地域活性研究(2) ことができた。MMM のワークショップで用いされた手法は、 [2]田島悠史,小川克彦(2013),「緩やかなつながりをつ 決して難しい手法ではなくむしろどれもやったことのあ くる「よそ者」の地域コミュニティ参入モデル」,地域 るような作業であった。そのため、立体的表現と比べ、 活性研究(4) 作品制作や展示における目標や目的の統一や、まちとの [3]気仙沼 T シャツ海岸:http://www.tshirtkaigan.net 関わりについては気になった。また、平面的表現をワー (最終閲覧日:2015 年 6 月 30 日) クショップでやると、床に向けて書くことになるため、 [4]赤崎水曜日郵便: 他者とのコミュニケーションが下がるケースが見受けら http://www.akasaki-wed-post.jp/(最終閲覧日:2015 れた。そのため、実際には個々人で黙々と行う作業が多 年 6 月 30 日) く、ワークショップ参加者が大勢いるという利点が上手 く活かしきれていない可能性が見受けられた。これもま た平面的表現の特色として挙げることができる。 【考察・今後の展開】 これら三つの調査を整理すると、地域アートプロジェ クトにおいて、有効な平面的表現の特性として、1)参 加障壁の低さ、2)空間性の付与、3)孤独な制作工程、 が挙げられる。1)については、具体的なモチーフや、
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