ICTを学校活動のプラットフォームとし、 世界の未来をつくる生徒を育てる

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ICTを学校活動のプラットフォームとし、
世界の未来をつくる生徒を育てる
私立
広尾学園中学校・高等学校 中高一貫校
共学
学科: 普通科 本科コース、医進・サイエンスコース、インターナショナルコース
規模: 中学1学年200人 高校1学年250人(2015年度)
主な進路状況: 国公立大29人、早慶上智ICU理科大154人(2015年度入試)
取り組み
● ICTプラットフォームを活かし、主体的な学びや活動を促す
● Classiを活用、現状把握から始まる学習習慣の確立
ICTプラットフォームを活かし、自主
的な学びや活動を促す
の実践や、学校改革の動きもあって、新校舎全館にWiFiを設置するなど、ICT導入の条件を整えていったので
す。現在では、各コースのニーズに合わせて、生徒一人
──── ICTを学校に導入した背景についてお聞かせ
ください。
ひとりが、ChromebookやiPad、Macbookなどの端末を持
つようになっています。
木村先生 広尾学園は、もともと順心女子学園という女
ICT環境整備の経緯
子校でした。 2007年に共学化し、それにとも
ない校名を変更。その後、2011年に“ 医進・
サイエンスコース ”を立ち上げました。
医進・サイエンスコースでは、設立当初から
「世界の未来をつくる」、そんな力を持った生
徒が育つコースにしたいというビジョンを
持って取り組んでいます。
まず、コースの教育活動の3本柱を、「授業」
「高大・産学連携」「研究活動」としました。そ
して、それを支えるツールとして「ICT」と「英
インターナショナルコースでMacBook導入
【2011年度】
医進・サイエンスコースでiPad導入(学校負担)
【2012年度】
・新校舎完成(全館Wi-Fi設置)
・医進・サイエンスコースの新入生および本科コース新
中学一年生全員がiPadを購入(各ご家庭負担)
語」は必須と考え、導入を決めました。
【2014年度】
なお、本校にはインターナショナルコースも
医進・サイエンスコースでChromebook を導入 あり、2007年には既にMacbookを一人1台体
制で導入しています。そういった他コースで
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【2007年度】
大学、研究機関、企業など、常に広い世界
──── ICTをどのような場面で活用されていますで
と繋がることができ、いつでも学ぶことができ
しょうか。具体的な実践例をお聞かせください。
るのです。
木村先生 第1に、学内のコミュニケーションプラット
フォームとして位置づけています。クラスの
活動や行事、部活動、家庭学習など、教員
も生徒も様々な場面で利用しています。連
絡事項や必要書類を共有することで、教員
の業務効率が格段に上がったこともあります
し、生徒たちはより主体的に活動を行うよう
になっています。リアルなコミュニケーション
が減るのではないか?とよく質問されます
が、連絡事項といった業務的な内容に割い
▲指導教員が生徒のプレゼン資料へコメントを書いている
ていた時間を、本質的な会話をする時間に
木村先生 第3は、授業での利用です。数学・英語・理
あてることで質の高いコミュニケーションが
科・社会・情報など、各授業で利用していま
行われるようになりました。
す。情報収集や授業内容の深掘りのために
取り入れたり、Web動画を用いた反転授業を
行う教科もあります。
重要なのはICTをツールとして取り入れるこ
とではなく、「授業は、どうあるべきか?」を模
索する中で、必要であればICTも利用するこ
とだと思っています。医進・サイエンスコース
では、答えを教えるのではなく、「学び方」を
教え、授業は「学問」の楽しさと本質を伝える
場にしていきたいと思っており、日々より良い
方法を探求しています。後述している数学
のアクティブラーニングとそれに伴う反転学
▲クラスの合唱練習動画を生徒がクラスグループウェアに共有
習などは、 「数学の“本質”を伝える授業と
は何か?」ということを突き詰めていく中で、
木村先生 第2に、研究活動での利用です。生徒は「世
チャレンジしている取り組みの一つです。
界の誰も知らないこと」をテーマに設定し、
研究活動を行います。そのためには英語の
学術論文を手に入れ、読み解いていく必要
があります。そこでもICTが活かされていま
すし、生徒が研究成果をプレゼン資料にまと
める際は、クラウド上で指導教員とデータを
共有し、教員からアドバイスを受けることが
できます。例えば、生徒が夏休みで2週間海
外研修に行っていたとしても、その間もアド
バイスを受け取れるわけです。
ICTがあることで、「時間・場所・ヒト」の制約
がなくなりますから、生徒たちは学校にいる
時だけが学びの場ではないと気がつきます。
学校といった限られた場所だけではなく、
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▲端末を利用した授業の様子
──── 反転授業の具体的な実践事例についてお聞
かせください。まずはなぜ、反転授業を導入しようと思わ
れたのですか?
堀内先生 以前は、通常通りのインプット中心の授業
展開を行っていましたが、生徒たちが自分で
考えることこそが大切であり、その時間をどう
したら捻出できるか考えていました。そこで反
転授業というスタイルの導入を検討しました。
反転授業では、生徒たちは事前に基礎事項
▲反転授業用の予習ノート
を理解してから授業に臨み、授業の中では
より発展的な問題、数学的な意味のある問
──── 授業中の実践方法についてお聞かせください。
題をクラス全員の知恵を出し合って解きます。
堀内先生 授業は以下の流れでやっています。授業
よって授業は、生徒たち自身が考え、学び合
中、生徒たちはICTを利用しません。
う場になるのではないかと感じていました。
反転授業の流れ
──── 具体的には授業前の課題はどのように提示
①チェックテスト
されていますか。
②チェックテストの解説
堀内先生 家庭でやることは、「基礎事項、つまり公
③標準問題へのチャレンジ
式・用語を予習してくる」です。その際、生徒
④応用問題へのチャレンジ
が一人で基礎事項を学んでくることは難しい
だろうと感じていたので、EDUPA(
http://edupa.org/)という数学の全分野の講
義解説が受けられる動画を利用しています。
その講師の先生が、実は私と知り合いで
あったということもあり、授業内容も信頼して
いるという前提で、こちらの動画を利用する
ことにしました。校内のプラットフォームを
使って、生徒たちに「次回の授業へ向けて、
このリンクの動画で予習してきてください」と
指示を出します。
ただし、始めた当初は動画をなんとなく流し
見してきただけの生徒もたくさんいましたの
で、EDUPAにあるPDFのワークシートをプリン
トアウトした「予習ノート」を紙で作り、配布す
ることにしました。デジタルデータでの共有
ではなく、生徒たちに手を動かしてもらいた
いということもあって、あえて紙での配布にし
たのです。予習ノートを配布すると、生徒た
ちは動画講義でチェックが入った項目に○
やアンダーラインを引いてくるようになりまし
た。ノートを見ると、「この生徒はしっかり予
習できているな」ということが一目で分かる
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ようになったのです。
堀内先生 動画で予習してこいといっても、事情があっ
てできない生徒たちがいます。そういった生
徒たちのフォローのため、チェックテストを設
けています。チェックテストは動画を見てい
れば分かるような簡単なレベルのもの。解
説をすることで見ていなかった生徒も最低限
の知識を把握した上で授業に臨めるように
しています。解説で工夫していることは、動
画をしっかり見ていた生徒が活躍できるよう
な質問を入れることですね。子供たちが前
の日に見たテレビ番組で盛り上がるようなイ
メージで質問をするのです。そうすると、見
ていなかった生徒も「そんなに盛り上がるん
なら、見てくればよかった」と思うようになる。
そんな解説を心がけています。
標準問題へのチャレンジに関しては、教科
書レベルの問題を提示しますが、別解をで
きるだけ挙げるように促します。その後の応
用問題は、今まで学習した事項を総動員す
るような面白い問題を扱います。
堀内先生 問題演習の時は、ペアワーク形式で、ジャ
Classiを活用、現状把握から始まる
学習習慣の確立
ンケンで勝った人が前半部分の解法説明、
負けた人は後半部分の解法説明といったよ
うなワークを取り入れたり、また、クラス全体
でディスカッション形式で問題を解いてみた
りしています。
──── 御校では実証研究段階から、Classiをご活用
いただいています。どのような目的でご活用されています
でしょうか。
木村先生 医進・サイエンスコースでは「平日3時間」を
──── 授業が盛り上がりすぎて、収拾がつかない。
目標に学習時間を確保しようと言っています。
もしくは発言がなく、授業展開が難しいということもあり
実証研究を行っていた際、研究に関わった
ますか。
生徒たちの平均学習時間が約30分増えまし
堀内先生 生徒たちは、最初ディスカッションしながら、
た。デジタル化により、瞬時に入力したデータ
問題を解くということに慣れていないため、
が反映され、学習時間の推移やバランスはも
戸惑いはあるようですが、1-2か月もすると
ちろん、集団の平均値やランキングが表示さ
慣れ、生徒同士で問題解決をするようになっ
れます。客観的なデータに刺激を受け、生徒
ていきます。静かに聞くところは聞く、みんな
たちの学ぶ意欲が向上することが分かりまし
で議論するところは積極的に議論するという
た。
メリハリのついた授業展開が出来ています。
学びの本質は時間だけではないと思いま
教員は生徒たちの発言を拾い、整理する
すが、主体的な学習習慣を確立することは
ファシリテーターの役目に徹しています。
非常に重要です。そのためにまず必要になる
のは正しい「現状把握」です。自分自身を客
──── 反転授業を導入したことで変化したことをお
観的に捉えられるようになることだと思って
聞かせください。
います。Classiの利用も、教員が生徒の学習
堀内先生 生徒たちが活発に議論するようになったこと
時間を管理するためのものではなく、生徒が
はもちろんですが、我々教員が想像しなかっ
自らの生活とモチベーションを管理できるよう
たような変化が起きています。例えば、数学
になるためのツールだと位置づけています。
が苦手だった生徒が議論して、考えた解法
が、通常過程の3分の1で解けてしまう解法
だったということが起こったり。生徒が自ら考
えて、学んでいるんだという実感を持って、
授業に臨んでくれているように感じています。
一方、我々教員の準備はこれまでの3倍か
かっているような状況です。当然ですが動画
を事前に視聴し、どのような課題を提示する
かということを考えたり、予習ノートを準備し
たり。クラスや生徒の特性を考えながら準備
をするので、別の授業に使い回しはきかな
いといった状況です。
課題は山積していますが、生徒たちが考
え、学び合って、教員の予想を上回る発想
や思考に至ることができる授業を目指して、
頑張っていきたいと思っています。
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▲医進・サイエンスコースの6カ年教育
木村先生 以前、紙媒体で学習記録を取っていた時
──── 全員の生徒に学習時間を毎日記録させるの
は生徒たちからのコメントが毎日「がんばっ
は難しいと伺うことがあります。どのように運用されてます
た!」だけだったのが、Classiの導入によっ
でしょうか。
て、より詳細な、自身の改善につながるコメ
木村先生 学習記録機能を利用する前に、先ほど申し
ントに変わりました。生徒たちからすると紙
上げた「意義目的」を伝えるようにしています。
媒体の学習記録を教員に提出するのは「先
正しい数字を毎日入力することが「自分自身
生にみせるために書くという意識が強いよう
のために」大切なのだと伝えるのです。また、
でした。一人1台の端末は生徒にとって携帯
現状を正しく把握したうえで、目標とのギャッ
やスマホのようなパーソナルなツールであり、
プを知ることが大事ということも伝えます。ベ
そこに入力するのは日記のように「自分のこ
ネッセから共有された成績と学習習慣に相
とを自分で知りたいから」という意識になるよ
関があるというビックデータを示すこともあり
うです。現状把握を目的としているので正し
ます。
い情報が必要になってきますから、入力の
習慣がつくまでは、教員側も待つ姿勢が大
運用面では、生徒の係活動のひとつとして
ICT係を設置し、その生徒が学習時間未入
力の生徒に声をかけるという取り組みを進
めています。終礼までに、昨日の学習記録
を入れようということで、ICT係の生徒が、
Classiの画面から「未入力者リスト」を見なが
ら終礼で呼びかけるのです。教員ではなく、
事です。「昨日は学習時間が0じゃないか」と
か「このクラスは学習時間が少ない」といっ
た発信をするようになると、生徒たちが正し
い情報を入力しなくなるため、控えるようにし
ています。大切なのは生徒自らが改善した
いと思うようになるようなサポートをすること
だと思っています。
生徒同士が声をかけあうで「自分自身のた
め」にやっているのだという意識を持ってもら
うよう、心がけています。
生徒の声
・学習変動がよくわかった。試験前に注目してデータを
見ると、やった分だけ結果が出てることなども分かった。
・勉強以外の時間もつけられるので、「部活にかなりたく
さん時間を費やしているな」といったことが分かるように
なった。
──── 毎日ご利用いただいているログを分析して、
どのように活かしていらっしゃいますでしょうか。
木村先生 集団のデータを分析すると、高1の時は学
習時間と成績伸長にある程度、相関がみら
れることが分かっています。量を確保し、知
識を蓄えるフェーズです。高2になると、学習
時間を確保しているからと言って、必ずしも
成績が伸びるとは限りません。量以上に質
を担保するフェーズになります。まずは現状
把握をし、学習習慣のきっかけ作りが出来
た生徒は、より高次なレベルで習慣づけをし
ていけるように、教員からの適切なアドバイ
スが必要になります。Classiに記入した学習
▲Classi「学習記録」機能
生徒の記録した学習時間・内容が瞬時に確認できる
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内容を元に各教科の学習内容に関するアド
バイスをすることもあります。
▲高1生の進研模試の成績伸長と学習時間平均の相関図
▲高2生の進研模試の成績伸長と学習時間平均の相関図
木村先生 今後、医サイの数学で実践している反転
授業のような形式の授業が増えていくと、生
徒の家庭での学習時間が課題で圧迫される
可能性もでてくると思っています。21世紀型
の教育を推進していくうえでも、教員が教科
を越えて、生徒の家庭で確保できる学習時
間や課題に費やしている時間、何より生徒
が主体的に学ぶための時間を把握する必
要があるのです。教員も正しい現状を把握
したうえで連携を取って、量や質を配慮した
課題提示などを行っていく必要があると考え
ています。
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課題に対して、当事者意識を持ち、活動する生徒が育っている
■ 反転授業などの活動を通じて、生徒一人一人に対応することが出来るようになりました。自分自身が何が
分かっていないかを分からない生徒に話しかけ、考え方を聞き、丁寧にサポートすることで急成長しました。
また授業では、当事者意識を持って参画する雰囲気を生徒たち自身が作ってくれています。
■ ICTを導入することで、時間・場所(学校‐家など)等を越え、
成
果
連続性を意識した指導が出来るようになりました。ICTという
プラットフォームがあることで、時間や人といったリソースを
柔軟に活かすことが出来るようになり、生徒と教員が同じ土
俵でコミュニケーションが出来るようになりました。
■ 従来型の入試でも結果を出し、21世紀型の学力を問うよう
なAO入試などでも結果が出ています。生徒たちは自律し、
当事者意識を持って、学内外の課題に取り組み、日々を過
▲生徒が自主的に企画した新入生向けの講座資料
ごしています。
■ ICTプラットフォームを活用することで、合教科型の授
業も自然発生してきました。社会の地理を扱った授業
に、理科のデータ解析の要素を取り入れるといったよ
うな、教科の壁を越えたチャレンジが始まっています。
今
後
■ 21世紀型の力を育てる授業を展開するにあたり、「リ
向
と考えています。1学期に一度の評価だけでなく、毎日
アルタイム」を意識した評価の仕組みを取り入れたい
の評価ログをリアルタイムに取っていくことで、主観的
要素の強い評価項目も、公平性を担保出来ると考え
ています。本校そして全国のビックデータを分析しなが
ら、日々の授業にフィードバックしていくことで、より良
い評価軸ができていくのではないでしょうか。
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お話を伺った 堀内陽介先生 木村健太先生