航空機産業を支える材料加工技術

3PM-F01
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
航空機の発展と技術の進歩
川崎重工業株式会社
航空宇宙カンパニ
社友
榊
達朗
鳥のように大空を自由に飛びたい。これは人類の果てしない夢であった。古来、数々の試行と失敗を繰り返
しながらこの夢を実現したのは 1903 年米国ノースカロライナ州キティホーク近郊でのライト兄弟によるラ
イトフライヤー号の動力式飛行機が世界初とされている。これを契機に飛行機は特に軍用機としての優位性
から急速に発展進歩した。現在では我々の生活にはなくてはならない交通機関となっている。この発展を遂
げたのは軽量強力な材料の開発、強力なエンジン、複雑な制御や安全を保つ電子機器類の出現である。これ
らの技術の進歩の過程を振り返りながら、今後将来に向けて航空機の目指すところを考察する。
100 年
ライトフライヤー(1903 年)
エアバス A380(2005 年)
日本国内での日本人による実機での初飛行は、1910 年(明治 43 年)陸軍徳川好敏、日野熊蔵両大尉による
東京代々木練兵場での飛行である。以後飛行機は軍用として進歩した。1945 年第二次世界大戦終了まで各国
は競って軍用機の開発に力をいれ、日本も世界屈指の航空機生産国になり、隼、ゼロ戦、飛燕と数々の優れ
た戦闘機を生み出した。
1945 年、終戦とともに我が国での航空機の開発研究、生産は一切禁止され、7 年後の 1952 年(昭和 27 年)
航空機再開が許されたが、その間に航空機はプロペラ機からジェット機へと大きな変革発展を遂げていた。
自衛隊の創立で自衛隊機のライセンス生産、民間機 YS-11 の開発と日本の航空機産業は徐々に実力をつけ始
めたが欧米のそれには追い付けなかった。
YS-11 の後継機としてジェット旅客機開発の計画が 1966 年(昭和 41 年)始まったが当時の日本の実力では
エアラインの望む大型の旅客機(200 席以上)の開発は単独では難しかったので、国際共同開発の道を選び
ボーイング社との共同開の道を選び、YSX/767 の開発・生産を始めた。日本の分担比率は 15%で下請け生産
的な形態ではあったが、大型機に関する設計技術、生産技術を習得することができた。結果日本の実力が認
められ、続く 777 では 21%、787 では 35%と現在ではボーイング社の主力旅客機のパートナー(メインサプ
ライヤ)として成長し、日本なくしてはボーイングの機体は出来ないまでに至っている。
一方、自前の完成機を持つことが重要で、今、ジェット旅客機(90 席)MRJ が三菱航空機で開発されており、
今年秋の初飛行を目指して、試作機の製造が進んでいる。
飛行機は「より早く、より遠くへ、より多くを」を目標に進歩を続け、達成した。それは①材料の進歩で当
初は木材や布、鋼管等であったが次第に軽量なアルミ合金が主流となり、最近では軽量かつ強靭な炭素繊維
強化プラスチック(CFRP)に変わりつつある。②飛行に欠かせないエンジンはレシプロエンジンから軽量か
つ大馬力のジェットエンジンへ更に高効率のファンジェットエンジンが主流になった。③飛行情報を瞬時に
解析し、各機器を効率よく作動させる電子機器の出現が大きく寄与している。今人類は次の目標に向かって
の研究開発が進められている。
「より安全に、より経済的(エコ)に、より快適に」である。数々の技術の開
発がこれらを可能にしつつある。環境問題を解決しつつ、安全安心で快適な空の旅を実現するために。
3PM-F02
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
スピニング加工とその周辺技術の応用例
株式会社よろづ鉸製作所
1.
はじめに
加藤隆広・金谷浩司
3.
応用加工実例の紹介
当社は 1950 年創業以来 65 年余、へら鉸り加工ひ
根本となるスピニング加工技術に加え、その周辺
とすじに其の可能性と応用技術を追い続け、その蓄
技術を充実させることで、今までスピニング加工の
積された技能・技術を NC スピングマシンに取り込み、
みでは実現できなかった高精度製品を実現すること
その他の周辺技術を効果的に結びつけた、ユニーク
ができる。そのいくつかの技術モデルを下記のよう
な提案型金属加工業として各種産業界のニーズに応
なフローを用いて解説していく。
えている。
今回の発表では、スピニング加工とはいかなるも
のか説明し、当社の持つスピニング加工技術の特徴
とその周辺技術の応用例を、加工映像と併せて紹介
をする。
2.へら鉸り(スピニング加工)について
鍛造、圧延、製缶加工等、様々な塑性加工の方法が
ある中で、スピニング加工は回転成形という独特な
上記のフロー図は、スピニング技術に切削技術を
手法で金属を塑性変形させていく加工方法であり、
複合させた技術モデルである。機械加工並みの精度
その加工応用性は非常に高い。
をスピニングのような塑性加工にて材料費を安価に
実現したいというニーズに応えた例であり、当社の
代表的な加工方法の一つである。
当社のへら鉸り加工技術は、発祥当時より培われ
る”手しぼり加工”と国内最大級の直径 3.2 メート
ル NC スピニングマシンなどを中心に展開をしてい
4. おわりに
るが、”へら鉸り(スピニング)”という加工がい
”へら鉸り(スピニング)”という加工は自在性
かにして成立をしているかを、その理論と共に、素
という大きな利点を有し、ある種独特ともいえる手
材技術という観点と、生産技術という観点で照らし
法を用い様々なニーズに応えていく力を持っている
合わせ、加工要素のメリットとデメリットを明確に
が、それと同時に技能継承の難しさも抱えている。
することで、今後当社にて展開されるべき量産にも
また、その加工方法により生み出すことのできる
多品種少量にも対応し高品質を実現していく”汎用
限界を多くの方々に理解されていない面も多く、ま
性の高いスピニング加工のニーズ”を加工時の映像
だまだ認知度を上げていかなければならない。今持
も交えながら解説していく。
つ我々の加工技術をさらに磨き上げ、まだこの先も
続く競争に立ち向かっていこうと思う。
金属 3D プリンタと複合切削技術の活用事例紹介
㈱ソディック 営業本部 DDM 営業部 部長 青木 新一
1. はじめに
焼結密度に関しても、レーザー加工が安定する条件開
弊社は「ものづくり」をサポートする総合メーカーとして
NC 形彫り放電加工機、ワイヤカット放電加工機、リニア
発をハード・ソフト、双方を開発する事により、従来よりも
高い密度を得られるようになった。
モーター駆動マシニングセンタ、射出成形機などを開
発してきた。「世の中にないものは自分で作る」をモット
ーとして 2014 年金属 3D プリンタ「OPM250L」を発表
した。本稿では「OPM250L」の特長や最新技術を説明
し、金属 3D プリンタの可能性や今後の研究・開発課題
について紹介する。
図3 Maraging 鋼磨き面
メルティング率 99.998%
SUS420J2 磨き面
メルティング率 99.999%
焼結密度の向上は加工時に発生しやすい“ス”(ポア)
2. OPM250L の特長
OPM250L は薄く敷き詰めた金属粉末を必要とする
を抑制し、バフ研磨機で磨きを行った造形物でも鏡面
に近い面質を得る事が出来た。
形状部のみレーザーにて焼結(PBF)しながら高速切
削が行える「金属光造形複合加工機」(DMLS with
Milling)である。
図 4 鏡面サンプル(0.014μmRa)
4. 今後の研究・開発
航空機産業大手が 3D プリンタを用いた製造手法を
図 1 OPM250L 外観及び加工概要
続々と採用している。鋳造困難な高機能材料、一体加
レーザーは最大出力 500W Yb ファイバーレーザーを
工による部品点数削減、軽量化、設計自由度の UP な
採用、切削においては XYZ 軸に自社製リニアモーター、
ど積層造形加工は「ものづくり」の概念を変える可能性
最大回転速度 45,000min⁻¹の主軸を搭載し精密高速
を秘めているが、品質の安定、歩留まりの改善など量産
切削を実現している。一般に形状精度±0.1mm、面粗さ
部品を製作する上では課題も多い。
50μmRz 以上の金属 3D 造形加工において切削を複
精度レベルの高い量産金型部品の加工を通して得た
合することにより±0.01mm 面粗さ 3μmRz を実現した。
技術を利用し、更に開発を推進していきたい
図5 3 次元冷却配管金型
図 2 テスト加工寸法図及び実際の加工物
(40×40×9.3mm)
5. おわりに
金属粉末開発、粉末コスト削減、焼結時間短縮、
残留応力低減など様々な課題をクリアし、「ものづくり」
3. 焼結密度向上と加工面質の大幅な改善
3D 造形において形状精度と共に大きな課題であった
のお役に立てるよう邁進する所存である。
3PM-F04
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
3Dプリンティングとソフトウェアテクノロジー
マテリアライズジャパン(株)
Software for Additive Manufacturing グループ
小林毅
◆3D プリンティングのためのソフトウェアプラットフォーム
近年、航空宇宙、医療、建築といった幅広い産業での適用用途の開発が進むとともに、多種多様な造形方法の
装置開発が進んでいる。マテリアライズはこうした需要に対応するために、3 次元設計やモデリングを行う CAD、
各種スキャンデータ、画像といった幅広いソフトウェアからのコンテンツを造形装置に橋渡しする 3D プリンテ
ィングの為のソフトウェアプラットフォームを提供している。
STL データを修正・/編集する「Magics」に加え、STL ベースの CAD として CAE プロセッシング、3D プリ
ントの特性を引き出すパーツデザイン、リバースエンジニアリングツールとしての「3-matic(トリマティック」
や 3D データと造形機をつなぐ各種造形機向け専用開発ソフトウェア「Build Processor
(ビルドプロセッサー)」、
AM プロセスの生産管理システム「Streamics(ストリーミックス)」がある。これらは、3D プリンティングの
プロセスサイクル全体の効率、生産性、可能性を向上する役割をになうソフトウェアとして、当社の造形部門を
はじめ、世界中の造形サービス会社や、企業の社内造形部門で認識、活用されている。
◆造形業務の効率化と大量生産
3D プリントではコストとリードタイムを削減しつつ品質の良いパーツを造形できる効率的な製造プロセスを実
施することが重要である。3D プリントが、試作品の一品生産から連続した部品の生産や大量生産に移行する際
には課題はより多くなる。熟練技術者の知識だけでは足りず、工程を自動化して経済的にも成り立つ方法を見つ
ける必要がある。また医療機器の製造や航空部品の生産など FDA、ISO 等の規格を遵守した製品を作るには、
一品一品について全てのプロセスが記録され、追跡可能である必要がある。そして人為的ミスというリスクは最
小限に留めなければならない。マテリアライズ社は開発した造形プロセスに特化した一元管理&自動化システム
「Streamics」では、3D プリンティングの業務全体を掌握することを目的として、人・マシン・工程・材料を
つなぎ、生産計画や実績収集など情報の整流化と自動化を行うことで生産性を向上する。
小林
毅
Software for Additive Manufacturing グループ
〒221-0052 神奈川県横浜市神奈川区栄町8-1 ヨコハマポートサイドビル 2 階
TEL
(045)440-4591
[email protected]
3PM-F05
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
レーザ粉体肉盛装置・LMD の紹介
神奈川県産業技術センター 機械・材料技術部
○薩田 寿隆
1.はじめに
航空機のエンジン部品は、稼働中は 1,000℃前後の高温環境下にあるため、高温酸化により損耗する。損耗した部
品は、整備時に交換され、廃棄される。しかしながら、材料費は高価なため、補修し再利用したいという要望が強い。
航空機産業が盛んなヨーロッパでは、レーザ粉体肉盛溶接装置・LMD による補修の研究開発が行われ、様々なエン
ジン部品への適用が試みられている。この粉体レーザ肉盛溶接は、エンジン部品の補修における重要な基盤技術とな
るものと考えられることから、当センターでは昨年装置を導入し基礎実験を開始した。本フォーラムでは、海外の研
究事例、装置の特徴およびインコネル合金の肉盛事例を紹介する。
2.海外の研究事例
航空機産業が盛んなドイツにおいては、図11)に示すように、タービンブ
レード先端を肉盛補修する研究プロジェクトがフラウンホーファー研究機構
を中心に行われている。そのプロジェクトにおいては、ブレード形状に積層
し、その後機械加工による成形を行い、従来の鋳造部品との耐久性、コスト
を比較することも検討されている。また、イギリスの TWI 溶接研究所にお
いては、EU(欧州連合)プロジェクトとして、レーザ粉体肉盛溶接による
インコネル718製の燃焼器チャンバーの試作が行われている。さらに、別
の EU プロジェクトにおいて、LMD 用の高温耐熱材料の開発が行われてい
る。1,200℃前後の高温環境下での使用を想定した、酸化物分散型耐熱合
金の開発プロジェクトが実施されている。このように、レーザ粉体肉盛溶
接による航空機エンジンの様々な部品への研究開発が実施されている。
図1 タービンブレードへのレーザ肉盛
3.装置の特徴
図2に装置外観を示す。レーザはディスク発振の YAG レーザで最大出力
は 3kW である。発振器から出たレーザ光は光ファイバ中を伝送し、6軸駆
動のロボットアーム先端に固定されたレーザヘッドより出射される。この
ヘッド先端からレーザ照射点に向けて粉末が3方向より均一に噴射される。
粉末は同時に2系統から個々の供給量を独立に設定して供給できる。例
えば、耐熱合金粉末と酸化物粉末を同時に供給しながら肉盛溶接を行い、
基材側は合金量の割合を多くし上の層に行くにしたがい酸化物の割合を増
やすことにより、
組成を傾斜させた複合層を形成させることが可能である。
図2 装置外観
4.事例紹介
インコネル625(Ni-21.5Cr-9Mo-3.7Nb)合金は、高温での強度が高く、耐食性にも優れる合金である。航空機部
品、海洋機器、船舶部品、油井管配管、熱交換器、圧力容器等に広く使用されている。
図3は低合金鋼上へ、インコネル625粉末により3層の肉盛溶接を行ったものの断面金属組織写真である。写真
においてエッチングされず明るく見える領域が肉盛層である。左から
順に各パス幅方向に 2mm 毎平行移動して溶接を行った。また、2層目
は4パス、3層目は3パスのビードを置いた。ヘッドとワーク間距離
が一定になるように、1-2層間、2-3層間は各パス高さ方向に 1mm
ずつレーザヘッドを上昇させた。肉盛層内には、融合不良、割れ、気
孔等の欠陥が認められず健全な改質層が形成されていることが確認できる。
図3 肉盛部の金属組織
5.おわりに
レーザ粉体肉盛装置・LMD の海外の研究事例、導入装置の特徴及び鉄鋼材料へのインコネル合金の適用事例を紹介
した。当日は、インコネル718合金の肉盛事例も紹介する予定である。多くの方の聴講を賜りたい。
参考文献
1) https://fabricationmecanique.files.wordpress.com/2012/10/eu_gasser_andres.pdf