保育施設におけるリスク・マネジメント (抜粋)

安全とは? 安心とは?
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保育施設におけるリスク・マネジメント
(抜粋)
掛札逸美(博士・社会/健康心理学)
• 安全とは: 物理的または行動学的に計測(計量)できるもの。
具体的に、「作っていくもの」。
• 安心とは: 個人の主観。同じ「安全」情報を得た複数の保護
者・家族が、同じレベルの「安心」を感じるわけではない。
★ 「不安」は人間にとって必須の反応であり、性格の一部で
もある。不安を感じている人に理屈をおしつけたり、「安心
してください」と言い続けたりしても、安心は生まれない
★安心は、日常のリスク・コミュニケーションから生まれていく
★相互信頼感から「培っていくもの」
NPO法人 保育の安全研究・教育センター
http://daycaresafety.org/
掛札逸美、2015年
掛札逸美、2015年
掛札逸美、2015年
要点
• 事故による、子どもの死亡、重傷、後遺障害などは予防しなけ
ればならない。ゼロにはできないが、大部分は予防できる
• ヒヤリハット、軽傷(症)から「この事故によって起こりうる最
悪の結果」を予測する → 予測される最悪の結果が深刻
であるならば、最低限、その「最悪」だけは予防できるよう
★保育士さんの「安心」のために
に対策をとる
★『保育所におけるリスク・マネジメント(兵庫県保育協会と製作。2014)
★『保育界』の連載(NPOのウェブサイト)
★NPOウェブサイト → トピックス → 保育施設におけるリスク・マネジメント
• 「ヒヤリハット、軽傷/症 → 予測しうる深刻な結果の予防」
を迅速に可能にする園内コミュニケーション
事故(accident)
意図せずに起きた悪いできごと(結果ではなく、できごとの過程
全体を指す)
例:卵アレルギーの子どもの鍋に、誤って小麦が入った。
子どもが昼食後、歯ブラシをくわえて歩きまわりだした。
保護者Aに渡すべき書類を持って、Bのほうへ歩きだした。
事故が結果に至った
ケガ(傷害)
プライバシー
漏洩
等
食物アレル
ギー発症
保護者から
の苦情
傷害:外的な要因で体に悪影響が及ぶこと。
熱中症・低体温症、溺水・誤嚥・窒息、
毒物中毒等も含む
ニア・ミス(near‐miss)
事故の過程は進んだ
が、悪い結果は生じ
なかった場合
ヒヤリハット
= ニア・ミスの中
で、「ヒヤリ」「ハッ
と」されたもの
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事故予防 ≠ ケガ予防
保育園で起きうる「最悪のこと」
• 「事故予防」ではなく、「深刻な傷害(ケガ)の予防」(WHO)
• 特に、子どもの「事故」を予防することは、非常に難しい
(おとなであっても…?)
– おとなのための空間(園以外)で暮らす子どもにとっては、身のま
わりのすべてが興味をそそるもの → 子どもに「誤使用」はない
– 子どもの判断力、注意力、予測能力などは、すべて未成熟
– 子どもは、環境探索や他人とのかかわりの間で育っていく
• 「事故が起こるのは当然」と考え、事故の結果としてのケガ(発
症)が深刻にならない対策を立てる
• 軽傷を防ぐ? 死亡を防ぐ?…… どの段階の予防を目指すかに
よって予防策は異なる場合もある。まず「深刻なケースをなくす
こと」をターゲットにするという明確化が必要
• 子ども自身では、自分の命を守ることができないできごと
• 子どもには「学び」のないこと。学びの機会を奪うこと
•
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•
•
•
•
睡眠中
・ プール事故
誤嚥(窒息)
食物アレルギー
高所(遊具)からの転落 ★ケガは育ちに不可欠だが…
置き去り、取り残し(園外、園内)
道への飛び出し
• 予防は…
声出し、指差し(復唱、間違いの指摘)
掛札逸美、2015年
掛札逸美、2015年
掛札逸美、2015年
「息ができないできごと」等は…
情報が回らない園、上がってこない園は危険
ヒヤリハットや気づきから危険を拾い上げていくしかない
← 受診や保護者連絡という「意識化」がほとんどなされないため
死亡、脳障害
死亡、重傷(症)
中等度~軽度
ヒヤリハット、
ニアミス
外傷、食物アレルギーなど
(ハインリッヒの法則に従う)
• 組織内コミュニケーションは、リスク・マネジメントの基礎
• 危なさや安全、保護者・家族対応などについて、自由に話し
あえる「風通しの良い」保育所(施設)をつくる
この部分がな
く、意識化され
にくい
ヒヤリハット、
ニアミス
誤嚥・窒息・溺水、窓等からの転落な
ど(ハインリッヒの法則に従わない)
– 「これは危険」「ヒヤリハットした!」「対応、困ったなあ」と
思った時、先輩、主任、園長に伝えられる?
– 先輩、主任、園長は、情報をきちんと受け止められる?
– 報告・連絡・相談は、「したつもり」では、絶対にダメ
声を出す!
掛札逸美、2015年
2
「最悪」を予測…できる?
「深刻な最悪」を予測するための方策
人間は、「最悪」を考えたくない生き物 → 「楽観バイアス」と呼ば
れる、ものの見方の歪み(認知バイアス)のひとつ
• 「自分(家族、属する組織など)には悪いことは起こらない」
• 安全や健康はいつも後回し。最優先は、「今、しなければなら
ないこと」「今、したいこと」
• 「いつも大丈夫だから、これからもずっと大丈夫」
• 深刻な結果が起こらないのは、確率(運)による部分が大きい。
しかし、「自分が努力しているからだ」と、努力していなくても思
い込んでしまう(「見守っているつもり」「注意しているつもり」)
★こうした認知バイアスが誰にでも絶対にある、という事実を理解
することが第一歩
掛札逸美、2015年
• 他人のアラや失敗を指摘することは、「私は大丈夫」と思いたい
人間としては避けられない
→ アラや「馬鹿げている」と思う部分を徹底的に話しあった後、
「でもね、うちの園には似たような危なさがないかな」「私た
ちの園で似たようなことが起きた時のことを考えてみよう
か」と誰かが言ってみてください。
• 「これまで大丈夫だったから、今度も大丈夫」を考え直す
– 子どもの要因(例:課題のある子どもの数。…今年? 今日?)
– 保育士の要因(例:ヒヤリハット・スキル、保育スキル)
– 製品、環境の要因(例:同じ玩具でも…、クラスで使っている?
合同保育中に放置されている?)
– 保護者の要因(例:「かすり傷でもさせたら許さない!」)
掛札逸美、2015年
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