和牛日本一の誇りをかけて(PDF)

JAトップインタビュー
和牛日本一の誇りをかけて
坂下栄次
宮崎県 JAこばやし 代表理事組合長
平成22(2010)年の口蹄疫、そして翌年1月の新燃岳の噴
火……災害の克服は、JAと組合員・地域の一体感を生み、
地域共生社会を目指すJAにとって大きな自信になりました。
◆相次いだ災害、全国の支援に感謝
こうていえき
しんもえだけ
日は、家畜市場でせりが行われていました。
――口蹄疫、新燃岳の噴火と、JAこばやし
ただちにせりを中止。牛の移動ができないた
はいずれもその当該地域でしたが……。
め、400頭以上をJAと畜連で預かって飼育し
まずお礼を申し上げなければなりません。
ました。さらに11月に再開したときも、疑似
JA関係組織をはじめとする全国の皆さんの
患畜が出て、せりの中止に追い込まれました。
ご支援があってこそ、大きな危機を乗り越え
それが一段落したと思ったら、その翌年の1
ることができました。今の宮崎県の農業があ
月の新燃岳の噴火です。避難命令が出た地区
るのはそのおかげだと思っています。いまだ
の牛296頭を一時、畜連の施設などに預けた
感染経路が分かっておらず、二度と発生させ
り、急造の簡易牛舎に移動させたりしてしの
ないよう防疫に全力を挙げています。
ぎました。
平成22(2010)年 4月20日、口蹄疫が確定
さらにお茶は大量の灰をかぶり、どうしよう
され、この地域が搬出制限区域に指定された
もない状態でした。すぐ決断し、茶葉を洗う
機械を導入。なんとか乗り越えましたが、こ
のときの苦い思いを忘れず、JAこばやしの
行動指針でもある「組合員・地域社会に必要
とされる組織」への進化に取り組んでいます。
◆職員の支援が農家の信頼に
――そのとき、JAの職員の支援が、組合員
から大変感謝されたそうですね。
口蹄疫のときも全職員が昼夜を問わず防疫
JAこばやし本所
12
月刊 JA
2015/05
作業に努めました。新燃岳のときもメロンや
さかした・えいじ
昭 和52年 就 農。 平 成17年 J A
こばやし理事、20年 4 月副組合
長、22年7月代表理事組合長に
就任。26年 5 月西諸県郡市畜産
販売農業協同組合連合会会長、
同年 6 月宮崎県農業協同組合中
央会副会長に就任。
マンゴーの施設が灰をかぶり、農家は諦めて
す。役員になって、このことがよく分かりまし
いましたが、職員が休日返上で灰の除去に当
た。これはやはり普段から職員同士、また農
たりました。JAこばやしの職員は本当に農家
家と膝を交えながら付き合っていたからでき
のことを考えているなと実感しました。
たのだと思います。
系統以外と取引している農家にも分け隔て
なく支援しました。これがJAのよいところで
◆職員と生産者の一体感
すが、これをきっかけにJAの共販に戻った
――宮崎県は全国和牛能力共進会で 2 大会連
農家もあります。われわれは、組合員や地域
続全国制覇するなど、日本一の和牛産地です。
の人から「JAがあってよかったね」と言われ
その中心である管内で、どのような将来展望
るJAを目指していますが、こうした災害を乗
を持っていますか。
り越えることで着実に実現しつつあると感じて
県の畜産共進会でもこの地域が 3 連覇して
います。
います。名実ともに日本一の産地だという誇
こうした職員の行動は一朝一夕にできるも
りを持っています。共進会の前には、JAの
のではありません。先輩たちが長年かかって
技術員が 3 か月間くらい、ほぼ毎日、朝夕農
培ったつながりによるものです。何かあったら
家の牛舎に足を運んで、調教などの世話をし
農家やJAにすぐ駆け付ける。組合員のため
ています。
に働くということが身に染み込んでいるので
そこで飼育の技術を磨き、農家の信頼を得
2015/05
月刊 JA
13
JAトップインタビュー
JA職員による新燃岳噴火のハウス降灰の除去作業
第10回全国和牛能力共進会(平成24年10月)
ているのです。牛も家族同様です。JAには
まず農家の経営を先に考える。これがJA
15人ほどの畜産の技術員がいますが、このと
こばやしの方針です。期末の決算を見てから
きは行政の技術員も一緒です。これも誰かに
支援というのでは、当面の農家の危機に間に
言われたからというのではなく、JAの職員と
合いません。ピンポイントで期中支援する。
して自然に身に付いたものだと思います。牛
当然、JAにとってはリスクになりますが、農
を介してJAと農家、地域の団結が自然に
家のリスクを軽くするのがJAであり、年に
育っているのです。
よって金額の違いはありますが、これを毎年
一方、JAでは畜産をはじめとする農家の
計上しています。
◆畜産農家のリスク軽減へ
――具体的にどのような対策がありますか。
JAとしての基本は、畜産経営を安定させ
るため、畜産農家の経営リスクをなるべく軽
くすることだと思っています。そのためにJA
で子牛を購入して、繁殖センターで育成し、
妊娠した雌牛を農家に払い下げる事業を行っ
ています。確実に妊娠した牛なので希望者が
多く、これからも拡充しようと思っています。
さらにアパート方式で、JAが牛舎や堆肥
営農支援を積極的に行っています。農家経営
舎などを備えた肉用牛生産団地をつくり、飼
緊急対策として毎年予算を組み、平成25年度
育農家に貸す仕組みもあります。将来は独立
は1億2,400万円計上しました。配合飼料や生
するようにということです。これを利用するの
産資材、燃油価格高騰や農畜産物価格の低迷
は、主に規模拡大を目指す畜産農家ですが、
など、組合員の負担になっていることに対し
畜産農家の初期投資を抑えることが目的です。
て直接支援する対策です。必要なときに必要
ほかにも繁殖牛預託など、さまざまな支援
ほ てん
14
なところに重点的に補 填 する、という考えに
策があり、こうした事業をスムーズに行うた
基づいたもので、JAでは利用高配当に代わ
め、JA自体が認定農業者になっています。
るものとして位置づけています。
また直営の農場「JAファーム」があり、コー
月刊 JA
2015/05
写真 P.14上左、上右、P15. 上右=JAこばやし提供
マンゴーの施設栽培
ンロールのサイレージ(販売、作業受託)事
す。JA職員の6 割は農家で、いまも農業をし
業、耕作放棄地などを使った WCS(稲発酵粗
ています。定年後の就農も多くあります。楽
飼料)作業受託事業もやっています。
しみとしての農業も大事で、これに対してJA
JAトップインタビュー
直売所「百笑村」小林店の外観
は何を提案するかが重要です。こうした農家
ひゃくしょう む ら
◆国は明確な将来ビジョンを
の売り先として直売所「百 笑 村」の開設や宮
――農業従事者の高齢化が進むと、生産の組
崎市内に直売所やインショップもつくりました。
織化が必要になると思いますが、集落営農は
野菜では加工も含め、大規模経営がいくつ
どのように進めていますか。
かありますが、これとは、双方のよいところを
JAの支援は農業の担い手支援対策でもあ
とり、相互に補い合っていくことが大事だと
ります。小林市には地域農業の構造改革に向
思っています。
け、関係機関・団体・農業者が一体となって
特に畑作は天候による豊凶の差が大きく、
地域農業を企画・支援するための「きりしま
また同一作目の連作が難しく、また消費ニー
農業推進機構」があり、集落営農づくりを進
ズに合わせた複数作目の輪作が必要です。そ
めています。現在、管内には22の営農組合が
れにはJAと法人の、相互の強みを生かすべ
あり、あと数地区残すのみで、ほぼ地域全体
きだと思います。これこそが、JAの掲げる「地
を網羅できる状態です。そのうちの 4 つの農
域共生社会の実現」の姿ではないでしょうか。
業生産法人となっています。
どのような農業の将来ビジョンを描くかが
大事ですが、同じ管内といっても土壌が違い、
気象条件も異なります。小林市は畜産が中心
ですが、野尻町は施設園芸で、全国トップク
(撮影・JAこばやし管理部 向江和江)
◎JAこばやしの概況
昭和49年、小林市、高原町、野尻町、須木村の1市2町1村の
JAが合併してJAこばやしが誕生。
宮崎県
ラスの所得を上げています。
施設園芸には後継者がいますが、地域全体
では将来が不安です。後継者不足の一番の問
題は、国に明確な農業の将来ビジョンがない
ことだと思います。先のことが分からないと、
農家は投資ができません。
JAこばやし
▽組合員数
9,497人
(うち正組合員5,950人)
▽貯金残高
524億円
▽長期共済保有高
2,448億円
▽購買品取扱高
78億円
▽販売品取扱高
173億円(うち畜産133億円)
▽職員数
521人(うち正職員209人)
(平成27年1月31日現在)
定年退職者も有力な地域農業の担い手で
2015/05
月刊 JA
15