「学び合う学び」を深める生徒の育成をめざして 「聴く

英語の授業でも「学び合う学び」を深める生徒の育成をめざして
「聴く、つなぐ、もどす」を取り入れた
コミュニケーション活動を通して
篠岡中学校
佐
々
木
利
恵
英 語 の 授 業 に お い て「 聴 く 、つ な ぐ 、も ど す 」活 動 を 取 り 入 れ 、個 人 作 業 や ペ ア ワ ー ク 、
グループワーク、全体での共有をどのように行うと、学び合う学びが成立するのかを検証
した。今まで実践してきた帯活動や辞書引きを継続しつつ、協同的な学びをより多く体験
させるために新たに導入した実践を加えて、今後さらに効果的に学び合う学びが成立する
ために必要なことに迫った。
英語の授業でも「学び合う学び」を深める生徒の育成をめざして
「聴く、つなぐ、もどす」を取り入れた
コミュニケーション活動を通して
篠岡中学校
1
佐
々
木
利
恵
はじめに
言語習得の最終到達点がディスカッションできることだと初任の年に聞き、その目標
に 向 か っ て 教 壇 に 立 っ て き た 。簡 単 な あ い さ つ か ら 英 語 学 習 が 始 ま り 、自 分 や 他 者 に つ
い て 説 明 し 、疑 問 文 で 理 解 を 深 め 、い ろ い ろ な 時 制 の こ と に つ い て 語 れ る よ う に な っ て
い く 。最 終 的 に は 、英 語 を コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ツ ー ル と し て 自 分 の 思 い を 伝 え る こ と を
目 標 と す る 。た だ 自 分 の 思 い を 伝 え る こ と が コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 活 動 か と い え ば 物 足 り
な い 。相 手 の 主 張 を 聞 き 、そ の 思 い に 賛 成 し た り 反 対 し た り す る こ と で 、自 分 の 意 思 表
示 を し 、自 分 の 考 え を 伝 え る 。そ の 繰 り 返 し こ そ が コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 活 動 だ と 私 は 考
え る 。さ ら に 、デ ィ ス カ ッ シ ョ ン は 相 手 を 納 得 さ せ る よ う に 主 張 を し て 、論 議 を 戦 わ せ
る 。難 し い け れ ど 、言 語 習 得 の 究 極 で あ る と 思 い 、初 任 の 年 か ら 取 り 組 ん で き た 。4 月
か ら 勤 務 校 が 変 わ っ た が 、前 任 校 で の 取 り 組 み を ま と め て み る こ と で 、現 任 校 で も 生 か
していきたいと考えている。
授 業 対 象 者 の 中 学 3 年 生 は 、総 数 2 2 7 人 と い う 環 境 の 中 で 、
「 関 わ り 高 め 合 う 」と い
う 学 校 ス ロ ー ガ ン の 下 、学 習 に 取 り 組 ん で き た 。4 人 グ ル ー プ を 取 り 入 れ た 班 活 動 の 場
で は 、「 分 か ら な い と き は 分 か ら な い と 聞 き ま し ょ う
分からないと聞かれたら分かる
ま で 教 え ま し ょ う 」と い う 合 言 葉 の 下 、各 教 科 の 授 業 に 取 り 組 ん で い る の で 、4 人 グ ル
ープにすると、自然と課題に向かい合う様子が見られる。
英 語 教 師 の 悩 み は「 ペ ア 学 習 は で き る が 、4 人 組 の グ ル ー プ 学 習 は 難 し い 」で あ る 。
(中
略 )グ ル ー プ で 英 語 表 現 を し て も 優 れ た 子 ど も の 答 え を 写 す だ け で は「 協 同 」と は 言 え な
い 。( 中 略 )
「 話 す こ と 」「 聞 く こ と 」 の チ ャ ッ ト 活 動 な ど は 「 協 同 」 と 呼 べ る も の で は な い 。 し か
し 、英 語 は 技 能 教 科 に 近 い 。理 屈 抜 き で 英 文 を 覚 え る こ と も 必 要 で あ る 。そ の 意 味 で 、身
に 付 け た い 基 本 文 例 な ど を「 帯 活 動 」と し て 毎 時 間 ペ ア 学 習 で 音 読 練 習 す る こ と は 、表 現
力育成に効果がある。
佐 藤 雅 彰 著 『 中 学 校 に お け る 対 話 と 協 同 ‐ 「 学 び の 共 同 体 」 の 実 践 ‐ 』( ぎ ょ う せ い )
-1-
英語における4人班でのグループ活動は、一つの課題について話し合うよりも、実際
に 英 語 を 使 用 す る 中 で 、使 用 場 面 を 知 り 、表 現 を 体 得 し て い く 方 が 効 果 的 で あ る 。会 話
と い う 活 動 を 通 し て 、一 人 で は で き な い 言 葉 の キ ャ ッ チ ボ ー ル を し 、相 手 の 話 す 内 容 を
聞き取って、自分の意見を返すことで協同が生まれる。
「 学 び 合 う 学 び 」を 支 え る 教 師 の は た ら き と し て 、
「 受 信 」つ ま り「 聴 く こ と 」と と も に
大切なことがある。
(中略)
「 つ な ぐ 」と い う は た ら き で あ る 。
( 中 略 )一 つ 目 は 、考 え と
考えをつなぐということである。
( 中 略 )二 つ 目 の「 つ な ぎ 」は 子 ど も の 考 え と テ キ ス ト
を つ な ぐ こ と で あ る 。( 中 略 ) 三 つ 目 は 、 子 ど も と 子 ど も を つ な ぐ と い う こ と で あ る 。
石 井 順 治 著『「 学 び 合 う 学 び 」が 生 ま れ る と き 』
(世織書房)
毎 社 会 科 の 授 業 で は 、教 師 だ け で な く「 ○ ○ さ ん と 同 じ で 」
「△△さんが言ったことに
関 連 し て 」と い う 言 葉 を 用 い て 子 ど も 同 士 が 意 見 を つ な ぐ 姿 が 見 ら れ た 。前 述 し た 仲 間
の 話 を 聴 き 合 う 姿 を 英 語 で も ぜ ひ 行 い た い と 思 い 、話 が つ な が ら な い と 成 立 し な い デ ィ
スカッションで実践してみることにした。
2
研究の仮説
英語の授業において「①聴く②つなぐ③もどす」ことに重点を置いて活動をすれば、
話すこと・聞くことの力が高まり、学び合う学びが成立する授業になるだろう。
(1)仮説に対する活動
①
聴く・つなぐ
英語でディスカッションを行うときに、相手の主張に対する自分の感想を付け加
えさせてから、次の話題に移らせる。
「 ○ ○ さ ん と 同 じ で 」「 ○ ○ さ ん が 言 っ た こ と に 関 連 し て 」
②
司会者は必ず発言者の意図を確認し、全体で共有する。
「 ○ ○ と い う こ と で す よ ね 。」
以上の活動を図に表すと以下のようになる。
-2-
3
研究計画
(1)単元名
Unit5 Electronic Dictionaries-For or Against
(2)単元の目標
英語でディスカッションをしよう‐聴く・つなぐ・もどす‐
(3)単元の指導計画
言語活動に必要な知識・技能を修得する段階・6時間
生徒の学習活動
関 係 代 名 詞 who、 which を 用 い た 文
の形・意味・用法を理解する
② 現在分詞及び過去分詞による後置修
飾の形・意味・用法を理解し、表現す
る
③ 間接疑問文の形・意味・用法を理解
し、表現する
④ 電子辞書を巡る各々の意見の内容や
論点を正確に理解する
言語活動の充実を図る手立て
①
⑤
⑥
討論会に向けて、自分なりの考えを
もつ
討論会をする
GDM( Graded Direct Method)で 関
係代名詞を先に習得させた後に、後置
修飾を理解させる
・ ワークシート
討論で使える表現をまとめる
・ ワークシート
・ グループワーク
・ 反 復 練 習( ワ ン ク ッ シ ョ ン 言 葉 )
・ ペアワーク
・ 辞書
・ ペアワーク
・ グループワーク
・ 役割分担(討論者・司会者)
・ ワークシート
(4)研究を支える土台
A
個人作業(単文なら話せる)
各教室に人数分の国語や漢字の辞書、英和・和英辞典があ
り、国語や英語の授業で辞書を引く活動があったり、社会の
授業で資料から調べたりする習慣が身についている。休憩時
辞書引きの様子
間に、気になる単語を調べる生徒の姿も見られる。今回のディスカッションも英作文
の延長として、教科書の本文を読んだ後、各自自分の意見をまとめる。ここまでは、
従来の授業でも行っており、英作文を発表することは既に行っている。しかし、これ
だ け で は 友 だ ち の 発 表 を 聞 い て 気 づ き は あ る か も し れ な い が 、一 方 方 向 の 学 び で あ る 。
「聴く・つなぐ・もどす」活動を取り入れ、双方向の学びを生み出したい。
B
級友との信頼関係
授 業 中 4 人 班 で 取 り 組 む 活 動 が 多 い た め 、多 く の 学 級 が く じ 引 き で は な く 、プ ロ グ
-3-
ペアワークの様子
ラム委員という学級運営委員が中心となり、授業での話し合いが成
立するように席替えをしている。それゆえ、毎授業で班のリーダー
が中心となって話し合いが成されているので、比較的4人班やペア
での活動は行いやすい。英語
の授業内ではペアで読み合う活動をしており、
ペアとの関係も良好である。
C
会話力・表現力
自分の英作文を考えるとき、題材にあったワ
ードリストをワークシートに記載したり、辞書
を与えたりしている。
今回はディスカッションということもあり、
ペアとの作戦タイムの時間を設けることで、活
動が活発に、かつ進化するように試みた。
授業の最初に行う帯活動では、
「 ペ ラ ペ ラ イ ン グ リ ッ シ ュ 」や「 読 み ト レ 1 0 0( 浜
島 書 店 )」、 英 語 の 歌 な ど を 交 代 し な が ら 行 っ て き た 。「 ペ ラ ペ ラ イ ン グ リ ッ シ ュ 」 は
ペアで取り組む1分間のミニ会話やキーセンテンスの反復練習である。読みトレは1
50語ほどの英文を読み、質問に答える活動である。英語の歌は、生徒が英語に慣れ
親しんだり、口慣らしをしたりする活動として行ってきた。今回はペラペライングリ
ッシュの延長として「ワンクッション言葉」を帯活動で行った。生徒は、他教科でも
意見をつないで発言することに慣れている。帯活動で英語でのつなぎ言葉を反復練習
することで、ディスカッションの場で使用できるようにした。つなぎ言葉を「ワンク
ッション言葉」と導入し、自分の意見を述べる前に必ず一言入れるようにした。
D
学び合う学び
学びは他者との交わりを通して遂行され、個と個の差異の擦り合わせを通して
達成されるいとなみである。
佐 藤 学 著「 教 育 改 革 を デ ザ イ ン す る 」
(岩波書店)
討論会は1回3分間で、全6回行われる。以前、グループで一度討論した後、全体
で討論会をしたこともあったが、一人一度の発言では出ないような学びが隠れている
ように感じた。今回は異なる相手と6回討論させることで、より多くの学びを出すこ
とを目的とした。
また、各討論会開始前に必ず作戦タイムを設けた。前回の討論会で、相手から攻め
-4-
られた意見を再構築したり、新たな意見を加えたりするために使うよう指示した。
討 論 会 を 通 し て 各 グ ル ー プ で 発 生 し た 学 び や 疑 問 点 を 、 ワ ー ク シ ー ト に 書 き 留 めて
おく。それらを学級で分かち合うことで、全体で共有し次の活動へとつなげていく。
(5)討論会の流れ
・
あらかじめ、議題に対して賛成・反対の役割を与える(前時)
・
ワンクッション言葉の反復練習をする(帯活動)
・
ペアで意見を共有し2人対2人で議論する
・
ローテーションで司会者を務める
・
3分時間が経過したらローテーションをして、異なるペアと議論する。グルーピ
ングカードを各ペアに渡し、3分経過したらそれぞれの場所に移動する。
(6)討論会を工夫した授業
ア
指導 の 力点
既習 の表 現 を用 い て、 議題 (LINE に賛 成か 反対 か) に 対し て の自 分の 意見 を 英
語で 表現 し 討論 さ せる 。対 戦相 手 の意 見を 聞 いて 、「ワ ンク ッ ショ ン言 葉( そ れに
対す る自 分 の賛 否 や感 想)」を置 いて か ら、自分 の意 見 を述 べ るよ うに させ 、英語
で意見をつなぐことにチャレンジさせたい。また、討論を6回することで、良い
意見を吸収したり、こんな意見を伝えたりしたいという今後の英語学習の動機に
繋げたい。なお、学び合う学びの一つとして、相手の意見を尊重させたい思いが
あるので、意見を戦わせることに重点を置いたディベートと言わず、ディスカッ
-5-
ショ ン( 討 論会 ) とい う投 げか け で行 っ た。
イ
目
○
標
友達 の 発表 に 興味 をも って 聴 き、理解 し 、
「 ワ ンク ッシ ョ ン言 葉」でつ な げ
るこ とが で きる 。
○
(7)
自分 の 意見 を 進ん で英 語で 述 べよ う とす る。
検証の方法
ワークシートに次の項目を設けて、検証することにした。
・
討論を通して、良いと思った意見やわかりやすかった意見、なるほどと思った
意見や表現を書こう。
4
・
各ペアと討論して伝えきれなかった表現について書こう。
・
全体のふりかえり
実践と検証
(1)個人作業
議 題 は 、ち ょ う ど 生 徒 の 生 活 の 中 で も LINE に つ い て ト ラ ブ ル が あ り 、改 め て 考 え
てほしいと思ったので、
「LINE に 賛 成 か 反 対 か 」に 設 定 し た 。全 員 が LINE の ユ ー ザ
ー で は な い の で 、 LINE の 特 徴 を 簡 単 に 説 明 し た 後 に 英 作 文 を さ せ た 。 ペ ア で 議 題 に
ついて情報を確認しながら、討論用の英作文活動に意欲的に取り組む様子が見られた。
【賛成意見例】
ラインで友達がたくさんできる。
ラインはメールよりも速い。
ラインは無料で送受信可。
【反対意見例】
情報が公表されても気づかない。
気持ちまで伝わらない。
ラインを使うと勉強ができない。
(2)討論活動
実際の討論は、ワンクッション言葉を使って、生徒同士で意見をつなぐ様子が見ら
れた。そして、反論意見は単語を並べて述べる姿が見られた。討論後の生徒の意見か
らもそれが分かる。
-6-
検証1:
討論を通して、良いと思った意見やわかりやすかった意見、なるほどと
思った意見や表現を書こう。
生
徒
A
生
徒
B
生
徒
C
検証2:
各ペアと討論して伝えきれなかった表現について書こう。
生
徒
D
生
徒
E
検証3:
全体のふりかえり
生
徒
F
生
徒
G
生
徒
H
(3)仮説の検証
英語の授業において「①聴く②つなぐ③もどす」ことに重点を置いて活動をさせた
ことは、話す・聞く力が高まり、学び合う学びが成立する上で有効であった。
①
聴く
聴くことはディスカッションを進行する上で必要不可欠であり、ワンクッション
言葉でつなげるため前者の意見に耳を傾けることができた。しかし、日本語で相手
に説明してもらう場面もあった。生徒にとって興味があり、考えてほしい議題に設
定したので、未習の単語が出てきたことが原因として考えられる。議題の検討と、
-7-
充分なワードリストを全員に提示し、発音を確認しておくことが聴く活動を助ける
手 立 て と な る だ ろ う 。し か し 、生 徒 F の ふ り か え り に 見 ら れ る よ う に 、う ま く 伝 わ
らないがゆえに、ジェスチャーを使って伝えようとする生徒もいた。
②
つなぐ
意見をつなぐ上で、特にワンクッション言葉は有効で、必ず自分の意見を述べる
前に入れさせたので、全員が達成することができた。つなぐ手段として、毎時間使
用したり、その時間に使えるワンクッション言葉をリストアップし渡したりしてお
くことはかなり有効だと思われる。生徒 G や生徒 H のふりかえりに書いてあるよ
うに、自分たちで意見をつなげて話を進めることは、英語を話している達成感を味
わ え る 。一 方 、生 徒 E の ふ り か え り に 見 ら れ る よ う に 、相 手 の 発 言 を 見 通 し て 、予
測を立てておくことはコミュニケーション活動において有効である。このことはデ
ィスカッションだけでなく、会話においても同様のことが言える。何を話すか予測
を 立 て る こ と や 、豊 富 な 知 識 量 は 意 見 を つ な ぐ 上 で 欠 か せ な い 。そ の た め に は 、日 々
少しずつ訓練する必要がある。
③
もどす
今回のディスカッションで主にもどす役割を担うのは、司会者の役割であった。
全員一度は必ず司会者になるようにローテーションをしたので、ほぼ達成できた。
意 見 を も ど す 手 立 て と し て What do you mean?や What do you think?と い う フ レ
ーズを討論会の前に確認した。議論が議題から離れないように、または後述者の意
見を聴いた後、前述者の意見を再度聴くために使用する場面が見られた。
討 論 会 の 次 時 に 生 徒 の ふ り か え り を も と に 、伝 え ら れ な か っ た 表 現 を 全 員 で 分 か ち
合った。多くの生徒は、十分に意見を伝えきれないもどかしさを感じていた。英作文
の 時 間 の 度 に 、既 習 の 単 語 や 表 現 を 使 用 し 、相 手 に 伝 わ る こ と が 大 事 だ と 伝 え て き た 。
しかし、辞書を引き新しい単語に出会う喜びも、同じくらい大切にしたい。全体で発
表する場合には手助けできるが、今回のように、同時に6ヶ所で討論が行われている
となかなか手助けすることができない。この分かち合いの時間を大切にすることが、
学び合う学びを確かにし、次へつないでいくことの鍵となる。生徒から出たのは主に
次の2文であった。
・
依存症になる。
・
それは個人の問題である。
-8-
これらをそのまま英訳すると、未習の単語を使わざるを得ない。そこで、生徒にそ
の伝えたい趣旨を聞き、既習の単語でなんとか表現できるように試みた。例えば「依
存 症 に な る っ て ど う い う こ と ? 」と 聞 く と 、
「 手 放 せ な く な る 。勉 強 が で き な く な る 」
と返ってきた。
「 そ れ だ と You can’t live(study) without line.で ど う か な ? 」と 聞 く と 、
な る ほ ど と い う 反 応 を 返 し て き た 。他 の 文 は ペ ア で 考 え さ せ 、It’s your problem.と い
う、伝えたいことをできる限り簡単な表現で表すことを共有した。
5
研究の成果と今後の課題
「 英 語 の 授 業 で も「 学 び 合 う 学 び 」を 深 め る 生 徒 の 育 成 を め ざ し て ‐「 聴 く 、つ な ぐ 、
も ど す 」を 取 り 入 れ た コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 活 動 を 通 し て ‐ 」と い う 研 究 テ ー マ の 下 、デ
ィ ス カ ッ シ ョ ン と い う 言 語 習 得 の 究 極 の 活 動 に 、特 に「 聴 く 、つ な ぐ 、も ど す 」こ と に
重 点 を 置 き 、英 語 の 授 業 に お い て も 学 び 合 う 学 び が 成 立 す る こ と を 検 証 し て き た 。結 果 、
十 分 な 言 語 材 料 と 聴 き 合 う 人 間 関 係 が 良 好 に 築 け て い る と き 、学 び が 成 立 す る こ と が わ
か っ た 。生 徒 全 員 が 学 級 の 中 で 同 じ 体 験 を し 、そ れ を 分 か ち 合 う こ と で 学 び が 確 か な も
の と な る 。ペ ア で 協 力 し て デ ィ ス カ ッ シ ョ ン に 取 り 組 ん だ り 、ペ ア 同 士 で 意 見 を 対 立 さ
せ た り 、自 分 に も 与 え ら れ た 立 場 が あ る 上 で 、司 会 者 を 務 め 、討 論 の 様 子 を 見 守 る こ と
は、より良い効果をもたらす。
お 互 い に 助 け 合 い な が ら 学 習 す る こ と は 、1 人 で 学 ぶ よ り も 、自 尊 感 情 を 高 め 、自 主 的・
主 体 的 な 学 習 を 促 進 す る と い う 。( 中 略 )
言 っ て み れ ば 、協 同 し て 学 ぼ う と い う プ ロ セ ス そ の も の が 学 習 で あ る 。教 室 の 中 で 生 徒
が お 互 い に 助 け 合 い 、interact す る こ と を 奨 励 し た い 。協 力 し な が ら 英 語 と い う 言 葉 を 身
に 付 け 、 異 文 化 理 解 を 深 め て ゆ く 。 そ れ が 生 徒 の self-esteem( 自 尊 感 情 ) を も 育 む こ と
にもなるだろう。
三浦孝、弘山貞夫、中嶋洋一著
『だから英語は教育なんだ‐心を育てる英語授業のアプローチ‐』
(研究社)
もちろん、個に返ることも必要であり、一人では考えもつかないような意見に出会え
た り 、同 じ 活 動 を し て い て 、相 手 が 何 を 感 じ な が ら 活 動 に 取 り 組 ん で い た の か を 知 っ た
りすることで共同作業の効果が現れる。
ふりかえりの中には「討論することで、今までに習ってきた文法を思い出し、一度に
た く さ ん の 文 法 を 復 習 で き ま し た 。」 と 書 い た 生 徒 も い た 。 確 か に 討 論 す る 上 で 比 較 級
を 使 う 生 徒 が た く さ ん い た 。そ れ だ け で な く 、受 け 身 や It… to~ 構 文 、接 続 節 、さ ら に
は 習 い た て の 後 置 修 飾 や 間 接 疑 問 文 を 使 う 生 徒 も い た 。日 記 や 会 話 文 と い っ た 英 作 文 で
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は 出 な い よ う な 表 現 が 、討 論 で は 多 々 使 わ れ る 。ぜ ひ 、ど の 学 年 で も 討 論 を 行 う こ と で 、
既 習 事 項 の 復 習 と 、次 な る 学 習 へ の 動 機 付 け と す る こ と を 今 後 の 課 題 と し た い 。1 年 生
で は 、 can の 学 習 の 時 期 に 、 2 年 生 で は if や when の 接 続 節 の 学 習 の 時 期 に 、 そ れ ぞ れ
の 段 階 で の 討 論 が で き る と 思 う 。3 年 間 継 続 し て 討 論 に 取 り 組 む こ と で 、生 徒 自 身 に 表
現の幅が増えたことを実感させたい。
技術面での今後の課題は2点ある。1つ目は、各班で起きていることを教師が敏感に
キ ャ ッ チ し て い く こ と で あ る 。検 証 の 中 に は 、人 の 話 を 聞 く こ と を 疎 か に し て 学 び か ら
逸 脱 す る 例 も あ っ た 。う ま く い け ば ど の 生 徒 に も 、毎 討 論 会 で 役 目 が あ り 、絶 え 間 な い
活 動 が 続 く 。し か し 、教 師 が タ イ ム キ ー パ ー を し な が ら 机 間 指 導 を す る と 、目 が 行 き 届
か な い 場 面 が 生 じ る 。そ う な ら な い よ う に 、例 え ば 、ほ か の 英 語 教 員 に 協 力 を お 願 い し
た り 、ALT と 連 携 し た り 、ど の 班 に も ボ イ ス レ コ ー ダ ー を 置 い て 討 論 の 様 子 を 観 察 し た
りする工夫が求められる。
2つ目はもどす活動が弱かったことだ。今回は、議題にもどしたり、意見の変容を求
め た り す る こ と を も ど す こ と と し た が 、本 来 は 教 科 書 に も ど し た い 。伝 え る こ と に 重 点
を 置 い た の で 、文 法 が 正 確 で は な い 文 例 が た く さ ん 出 て く る 。そ こ で 、討 論 を 終 え た 次
時 に 、何 が 間 違 っ て い る の か 全 体 で 考 え 、教 科 書 の 本 文 を 元 に お さ ら い が で き る と 良 い 。
今後も、英語での「学び合う学び」について研究を続けていきたい。聴く、つなぐ、
も ど す 活 動 は 学 び 合 う 学 び に 有 効 で あ る 。イ ン プ ッ ト は コ ン パ ク ト に 、ア ウ ト プ ッ ト は
様 々 な 使 用 場 面 を 設 定 し て 多 量 に 行 う こ と が 大 事 だ 。な ぜ な ら 、ア ウ ト プ ッ ト の 中 に は
学びのチャンスがたくさん潜んでいるからだ。発達段階に応じたつなぎ言葉を導入し、
意 見 が つ な が る 喜 び を 感 じ る 授 業 展 開 を 考 え て い き た い 。言 語 習 得 の 醍 醐 味 は 意 思 疎 通
に あ る 。ま ず は 、心 通 い 合 わ せ た 仲 間 と 練 習 し 、実 際 に 使 用 で き る 場 面 を 自 分 か ら つ く
っ て い く 姿 が 理 想 で あ る 。夢 の 可 能 性 を 持 っ た 授 業 を 展 開 し て い け る よ う 、こ れ か ら も
努めていきたい。以上のことをふまえて、新しい勤務校でも研究を続けていきたい。
参考文献
○
佐 藤 雅 彰 著 『 中 学 校 に お け る 対 話 と 協 同 ‐ 「 学 び の 共 同 体 」 の 実 践 』( ぎ ょ う せ い )
○
石 井 順 治 著 『「 学 び 合 う 学 び 」 が 生 ま れ る と き 』( 世 織 書 房 )
○
佐 藤 学 著 「 教 育 改 革 を デ ザ イ ン す る 」( 岩 波 書 店 )
○
三浦孝、弘山貞夫、中嶋洋一著
「 だ か ら 英 語 は 教 育 な ん だ ‐ 心 を 育 て る 英 語 授 業 の ア プ ロ ー チ ‐ 」( 研 究 社 )
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