空間の感触を掴む

2015 年度居住環境デザイン 第 10 章「空間について」
修士 2 年
中村達也
修士 1 年
溝口頌悟
学部 4 年
鈴木稜平
空間の感触を掴む
□はじめに
例えば小さい空間だからこそ人主体の濃密な振る舞いが
空間とは建築の本質であり、建築家は建築という枠組
みを利用することで、自らの空間概念を表現してきた。
可能であるが、大きい空間であれば住居空間とはかけ離
れた荘厳で神聖な空間が出来上がる。(別紙参照)
本章ではフーゴ・クーンの「 空間は~(中略)空気ではな
【空間の制限】
く、現実に作用する無である。」という言葉を取り上げ、
空間が人に対してある行動を促すような明確な空間や、
空間の存在意味を説明している。人々は空間に対して何
人に対し行動を制限せず多くの選択肢を与える曖昧で自
らかの意味を見出してきたのである。
由な空間が存在する。
(別紙参照)
単なる空気だったものは建築によって空間になり、そ
【空間の方向】
の空間は人の心理や行動に影響する「感触」を持ち始め
空間には方向性が働いていると考える。外部との関係性
る。建築を設計する際には、目には見えないが空間に存
や形態によって、人の意識を水平方向や垂直方向に向け
在するその「感触」を捉える事が重要なのではないだろ
させるという性質を持つ。
(別紙参照)
うか。
□おわりに
ここまで、空間に存在する「感触」に関して 4 つのパ
□空間の感触
そこで空間の「感触」を様々な視点の軸で考え、捉え
ラメータを例に挙げ可視化した。それらの「感触」は意
ていく。ここでの「空間」とは本来空気であったものが、
識しなくとも人の心理や行動に自然に影響する。そのた
建築によって意味付けされ「感触」をもったものとする。
めに設計者は設計段階において、図面や絵など視覚的情
以下では、
「空間」がどのような「感触」によって捉えら
報だけでは捉える事のできない空間の「感触」
(硬度、単
れるかを、実際の建築物を例にして分析していく。
位、制限、方向)を想像し、適した素材やスケール感、
形態を決定していくことが必要である。
コンピューターが発展した現在では、この見えない「感
触」を可視化するものとして BIM という考え方が生まれ
上図.空間の概念図
た。BIM は空気の流れや日影などの自然環境、コスト、
【空間の硬度】
時間など目には見えない情報を可視化し判断する方法論
空間には硬度(硬さ・やわらかさ)があると考える。例え
である。BIM を活用し、物理的なモノを掴むように空間
ば空間を構成する素材によって、温かみのある柔らかい
の「感触」を掴むことによって、これからの社会のニー
空間であったり、硬く冷たい空間であったりする。その
ズに応えていくことが我々の課題である。
硬度は人の心理に安堵感や緊張感などを与える。
(別紙参
照)
参考
【空間の単位】
空間には単位が存在し、人に対してのスケール感をもつ。
空間
建築
身体/矢萩 喜従郎 著
空間に向いて/安原盛彦 著
空間の硬度
空間の単位
感触因子:素材
感触因子:大きさ
陽の楽 屋/隈研吾 ( 2000年)
外部と内部の空間を仕切る壁が和紙のみで成り立っている。
内部空間は床や構造にまで和紙を表面に見せることによって、
とてもやわらかで繊細な空間を生み出している。
平面
床
( 勝手 )
二
( 枚襖
柔らかい
茶
道
口
茶室
)
0
S=1:200
陽の楽屋内観
http://kkaa.co.jp/img/2000/04/l4.jpg
素材による違い
平面
硬
度
待庵内観
1
2m
http://ocyaocya.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_19a/ocyaocya/E5A699E596
9CE5BAB5EFBC88E88CB6E5AEA4E5BE85E5BAB5EFBC892.jpg?c=a1
茶室の大きさ
S=1:1000
光の教 会 / 安 藤 忠雄 (1 9 8 9 )
カテドラル内観
カテドラルの大きさ
S=1:1000
https://s0.smlycdn.com/data/product2/2/3788d8f5ce8d3bda489904e759c99cc1b4562ac4_l.jpg
待 庵 / 千 利 休 ( 1492年 ∼ 1501年 )
東 京カテドラル 聖マリア大 聖 堂 / 丹 下 健 三 ( 1 9 6 4 )
2畳という極小空間の中で主人と客が茶を媒体に対面する。
主人と客のあいだにはヒエラルキーは存在せず、この極小
空間によって両者は最大限の茶のふるまいが可能になる。
コンクリートによる大空間のシェルで空間を構成している。天井に
ある十字架のトップライトから重く荘厳な光が降り注ぐ。内部空間
を大空間にすることにより、光が放たれた空間は神聖な場所となる。
人間>空間
空間と人間の力関係
人間<
空間
大きさによる違い
居住環境デザイン 10 章「空間について」 別紙
硬い
http://pds.exblog.jp/pds/1/200708/21/47/d0114047_216420.jpg
平面ドローイング
コンクリートの厚い壁を用いて、厳格で幾何学的な空間を生み出していることから硬い空間の印象を受ける。
その硬く冷たい空間は十字のスリッドから差し込む光をより強調する。
感触因子:動線
ヘルシンキ現 代 美 術 館 /スティーヴン・ホール ( 199 8 )
少
感触因子:形態
View
→
Entrance
http://www.linea.co.jp/info/detail/iid/422
金 沢 21世 紀 美 術 館
/ S A NA A ( 2004)
→
平面
S=1:1300
→
→
Entrance
→
→
→
形態による違い
→
→
方向の意識
垂直的
→
水平的
→
→
→
→
→
多
→
各フロアを滑らかな螺旋階段でつないでいる。最上階
ではロンドンの景色が一望できるということから、上
昇的な意識が空間に働いている。
→
水平的な広がりのある形態や、川の方向へバルコニーを深く突き出していることから、
外部の自然を意識していることが伺える。また内部空間の石畳や自然の石の表出は、
室内にいても外部を感じる仕組みを仕掛けている。
Entrance
円形の平面に大きさの異なるボリューム
を不規則に配置することによって、制限
されない自由な動線が生まれている。
ユーザーは自由な水平の移動により変化
に富んだシークエンスを体感する。
→
シティ・ホール/ノーマ ン フ ォ ス タ ー ( 2002)
→→→→
→→
→→
→→→→
落水 荘 (カウフマン邸)/フランク・ロイド・ライト( 1935)
→
シティ・ホール断面
→
落水荘内観
→
落水荘断面
→
River
→
→
→
→
Entrance
→
緩やかなカーブを描くボリュームは都市の軸を意識しており、
内部空間ではユーザーの動線を明確にすると共に、スロープが
先へと人を誘うような空間形態になっている。ダイアグラムで
は一つながりのシークエンスを意識した考えが現れている事が
わかる。
バルコニー
行
動
の
選
択
肢
ダイアグラム
10m
→
0
動線による違い
平面
→
空間の方向
空間の制限
→
光の教会内観
空 間
の
感 触