インテリアリペア事件

最 新判 決情報
2015 年
〔4 月 分 〕
〇トータルリペア事 件
東 京 地 裁 H27.4.15 H27(ワ)906 商 標 権 侵 害 損 害 賠 償 等 請 求 事 件 (嶋 末 和 秀 裁 判 長 )
自 動 車 の内 装 修 理 事 業 を営 む原 告 が、加 盟 店 契 約 終 了 後 も原 告 登 録 商 標
( 右 図 ) の使 用 を 続 けた被 告 に対 して、加 盟 店 契 約 に規 定 された 競 業 避 止 義
務 違 反 と商 標 権 侵 害 に基 づき、使 用 差 止 と損 害 賠 償 を求 めた事 案 である。
なお被 告 は 口 頭 弁 論 期 日 に出 頭 せず、答 弁 書 も提 出 しなかったので、擬 制
自 白 となり、原 告 の請 求 が認 められた。
損 害 賠 償 額 については、競 業 避 止 義 務 違 反 に対 しては、加 盟 店 契 約 に規 定 された通 りの最 低 月 額 ロイヤ
リティー5 万 円 の 55 か月 分 275 万 円 と、商 標 権 侵 害 分 としては製 作 物 1 件 につき 100 万 円 との原 告 の主
張 が認 められた。
なお原 告 は合 計 375 万 円 の損 害 額 の遅 延 損 害 金 として、商 事 法 定 利 率 年 6 分 を求 めたが、商 標 権 侵 害
の損 害 分 (100 万 円 )については、商 事 法 定 利 率 の 6 分 ではなく、民 法 所 定 の年 5 分 の割 合 と修 正 された。
遅 延 損 害 金 に関 する主 張 は、擬 制 自 白 の対 象 にはならないようである。
〇京 都 老 舗 和 菓 子「松 風 」鶴 図 形 商 標事 件
知 財 高 裁 H27.4.27 H26(行 ケ)10196 審 決 取 消 請 求 事 件 (清 水 節 裁 判 長 )
京 都 西 本 願 寺 ゆかりの銘 菓 として知 られる「松 風 」を製 造 販 売 する(株 )亀 屋 陸 奥 が
創 業 したのは、一 休 さんの時 代 である室 町 時 代 の 1421 年 だそうである。また銘 菓 「松
風 」は、1570 年 に始 まった織 田 信 長 と石 山 本 願 寺 との合 戦 中 の最 中 、本 願 寺 の門 徒
たちの兵 糧 の代 わりに創 られ、後 に顕 如 上 人 の和 歌 「わすれては 波 の音 かとおもい
なり 枕 にちかき 庭 の松 風 」から銘 を受 けたとされている。
それほどの老 舗 にまつわる商 標 事 件 であるが、想 像 されるように、1421 年 から本 願
寺 に仕 えていた原 告 (個 人 )の先 祖 A 某 が家 業 を創 業 し、A 家 の三 代 目 である C が菓 子 「松 風 」を創 製 し、
1975 年 から「亀 屋 陸 奥 」の屋 号 を名 乗 るようになり、他 方 、被 告 は昭 和 39 年 に設 立 された株 式 会 社 であり、
上 記 の A 某 が創 業 した事 業 を引 き継 いだとされる複 雑 な関 係 である。
さらに、原 告 は、平 成 12 年 に従 業 員 として被 告 会 社 に入 社 後 、平 成 19 年 から取 締 役 に就 いたが、平 成 21
年 に「三 木 都 」の屋 号 で独 自 に店 舗 を開 業 し、同 様 に「松 風 」を販 売 したため、平 成 22 年 に競 業 行 為 の制 限
に違 反 したことを理 由 に解 任 されたという、これも複 雑 な関 係 である。
この点 、原 告 の主 張 では、原 告 が取 締 役 に就 任 し、「松 風 」の製 造 に携 わるようになり、被 告 菓 子 の製 造 に
関 して改 善 を求 めたが容 れられず、被 告 代 表 取 締 役 が交 代 したため、原 告 の発 言 権 や決 定 権 がなくなると
考 え、個 人 で工 房 を作 って「松 風 」の製 造 を 行 なうため、「三 木 都 」の店 舗 と工 房 を構 えたので、原 告 こそが
「亀 屋 陸 奥 の松 風 」の正 当 な承 継 人 であると発 言 していたようである。
而 して、被 告 による本 件 鶴 の図 形 商 標 の使 用 開 始 はさほど古 いものではなく、平 成 元 年 以 降 のことであり、
「松 風 」の包 装 紙 、掛 紙 、掛 紙 を留 めるシール等 について使 用 していたところ、「三 木 都 」を設 立 したあとの平
成 24 年 8 月 に原 告 が本 件 商 標 を出 願 し、商 標 登 録 された。
これに対 して被 告 は登 録 異 議 申 立 てを行 なったが、引 用 商 標 でもある被 告 商 標 の継 続 的 な使 用 を立 証 す
ることができず、周 知 性 が認 められず登 録 維 持 の決 定 が下 された。
そこで、被 告 は、十 分 な使 用 証 拠 を揃 えた上 で、法 4-1-19 号 違 反 を理 由 に原 告 登 録 商 標 に対 して無 効 審
判 を請 求 し、これにより原 告 商 標 登 録 が無 効 とされたため、原 告 が本 件 審 決 取 消 訴 訟 に及 んだ次 第 である。
なお原 告 商 標 と被 告 引 用 商 標 とはほぼ同 一 といえる構 成 の模 様 である。
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判 決 に記 載 された被 告 引 用 商 標 の使 用 実 績 は相 当 なものであり、「松 風 」の年 間 販 売 個 数 は 8 万 個 から 9
万 個 で、店 舗 数 も多 く、各 種 出 版 物 やウエブサイトで繰 り返 し紹 介 され、その結 果 、原 告 商 標 の出 願 時 、登
録 査 定 時 とも、引 用 商 標 は需 要 者 、取 引 者 の間 で相 当 程 度 知 られていたと判 決 は認 定 している。
問 題 は、被 告 が引 用 商 標 を包 装 紙 等 の絵 柄 として用 いているだけで、自 他 商 品 識 別 標 識 として使 用 してき
たものではないとの原 告 の反 論 である。この点 は、判 決 は、包 装 に標 章 を使 用 する行 為 を商 標 の使 用 と定 義
した法 2-3-1 号 の規 定 を持 ち出 し、事 実 、引 用 商 標 は内 装 袋 が見 えるように陳 列 されていたので、商 標 的 使
用 に当 たると認 定 している。
ここで疑 問 に思 うところは、確 かに法 2-3-1 号 は、包 装 に標 章 を付 する行 為 を商 標 の使 用 としているが、そ
れは飽 くまでも標 章 を自 他 商 品 識 別 のための商 標 として包 装 に付 した場 合 を言 っているのであり、包 装 紙 の
デザインとして描 かれている態 様 までも含 まれるという意 味 ではない。判 決 からは明 らかではないが、本 来 で
あれば、被 告 商 標 が包 装 紙 等 に自 他 商 品 識 別 標 識 として使 用 されてきたか否 かを判 断 しなければならない
ところ、判 決 は条 文 を逆 に読 み、包 装 に表 示 されているのだから商 標 としての使 用 であると言 っているかのよ
うな印 象 を受 ける。
仮 に筆 者 が疑 問 に思 うように、引 用 の図 形 が商 標 としてではなく、被 告 包 装 紙 のデザインとして使 用 されて
きた場 合 はどうであろう。この場 合 でも、十 分 な使 用 実 績 が認 められれば、不 競 法 がいうところの周 知 商 品 等
表 示 になることは間 違 いなく、たとえ商 標 としての使 用 でなくとも、少 なくとも 15 号 の該 当 性 は認 められるので、
結 果 的 に大 きく異 なるものではないであろう。
いずれにしても、引 用 商 標 が包 装 紙 等 にどのような態 様 で使 用 されてきたかを見 たいものである。
そして最 後 に 19 号 の要 件 である「不 正 の目 的 」(判 決 では「不 当 の目 的 」と誤 記 されている。ちなみに、判 決
4 頁 でも「第 3 原 告 主 張 の決 定 取 消 事 由 」といっているが、これも「審 決 取 消 事 由 」の誤 りである。)であるが、
結 論 として、「原 告 による本 件 商 標 の使 用 は、引 用 商 標 に表 象 される被 告 の老 舗 としての価 値 、業 務 上 の信
用 を自 身 に帰 属 させようとするもので、商 標 法 4 条 1 項 19 号 の『不 当 の目 的 』をもって使 用 するものに該 当
する」と認 定 されている。
特 許 情 報 プラットフォームによると、被 告 名 義 で 12 件 の商 標 がヒットしたが、引 用 商 標 は見 当 たらない。これ
だけ商 標 に理 解 があるのになぜ引 用 商 標 を出 願 して来 なかったのであろうか。このことは、被 告 が引 用 商 標
を「商 標 」として認 識 していなかったことの証 左 であろうか。
いずれにしても、使 用 を開 始 した平 成 元 年 当 時 に引 用 商 標 を登 録 出 願 しておけば、防 げた問 題 である。
〇ハイブリッドエアロ/ハイウエイスター S-HYBRID エアロモード事 件
東 京 地 裁 H27.4.27 H26(ワ)21249 商 標 権 侵 害 差 止 等 請 求 事 件 (嶋 末 和 秀 裁 判 長 )
第 12 類 「自 動 車 」ほかについて登 録 商 標 「HYBRID/AERO(図 形 )」(右 図 )および
登 録 商 標 「ハイブリッドエアロ」(標 準 文 字 )を持 つ原 告 が、「ハイウェイスター
S-HYBRID エアロモード」ほかを使 用 する日 産 自 動 車 に対 して、商 標 権 侵 害 として使
用 差 止 と損 害 賠 償 を求 めたが、商 標 非 類 似 として請 求 が棄 却 された事 案 である。
一 見 して原 告 登 録 商 標 と被 告 商 標 とは非 類 似 と判 断 されるが、原 告 の主 張 は、被 告 商 標 中 「 S-HYBRID」
の冒 頭 の「S-」は「special」「super」「small」などの頭 文 字 に過 ぎず「HYBRID」の性 質 を表 示 した記 号 である。
その後 の「エアロモード」の「モード」は「様 式 」を意 味 するので、被 告 商 標 において「 HYBRID」と「エアロ」が近
接 して並 べられているため、原 告 が販 売 するエアロパーツを観 念 させるので、両 商 標 が類 似 するというもので
ある。
しかし、判 決 は、被 告 商 標 のうち、「HYBRID」と「エアロ」の部 分 のみが識 別 標 識 として支 配 的 な印 象 を与 え
るものではないとして、原 告 の主 張 を斥 けている。
自 動 車 で「HYBRID」は今 や一 般 的 であり、また「エアロ」も「(デザインなどが)空 気 力 学 的 な [流 線 型 の]」と
の意 味 があり、被 告 日 産 自 動 車 は「セレナ」「エルグランド」「ラフェスタ」などのスタイリッシュで魅 力 的 な装 備
を有 する特 別 仕 様 車 に「エアロモード」を使 用 しているのであるから、原 告 の主 張 にはやや無 理 があったようで
ある。
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