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藻 類 学
第4回
光合成
本日の課題
明反応(光化学系 I と II )と暗反応を説明せよ。
光合成の効率を上げるために藻類がとった2つの方法を
説明せよ。
藻類の光合成
藻類にとって光合成はとても重要である。
一般的な話をしておこう。
光合成
(photosynthesis) は,高等植物や藻類が葉緑体(ク
ロロプラスト)内で行う,二酸化炭素の固定反応である。
(シアノバクテリアは細胞そのもの)
この過程で水が酸素に酸化され,二酸化炭素は還元され
て糖になる。年間に約1011t もの炭素が光合成で固定され
る。光合成は大きく2つの段階に区別される。
1つは明反応と呼ばれ,光のエネルギーを利用して水が
酸素に酸化されるとともに,二酸化炭素の還元に必要な
NADPH2+とATPをつくりだす。
もう1つの段階は暗反応と呼ばれ,NADPH2+とATPを利
用して二酸化炭素から種々の糖がつくられる。
http://www.sc.fukuoka-u.ac.jp/~bc1/Biochem/photosyn.htm
葉緑体(chloroplast)には透過性の良い外部境界膜と,透過性の
低い内部境界膜がある。
クロロプラストの内部はストロマと呼ばれる。ストロマには
高濃度の酵素があり,その半分はリブロースビスリン酸カル
ボキシラーゼ
(Rubisco) である。
また,ミトコンドリアと同様に,二本鎖の環状DNAや原核細
胞型のリボソームが存在する(共生の話,葉緑体の起源)。
DNAは約100種のタンパク質をコードしているが,それでも
葉緑体で必要な約10%にしか過ぎない。(これは高等植物の
場合,藻類ではいろいろな共生段階がある。) ストロマ内には膜で包まれたチラコイドという構造物が存在
する。チラコイドが10∼100個積み重なり,グラナという構
造をとる場合もある。(ピタパンのような構造)
グラナ間はストロマラメラで連結されている。 チラコイド膜はリン脂質の含量が約10%と低く,ガラクトー
スを含む糖脂質(上図)が大部分を占める(80%)。また,脂
肪酸は不飽和度が高いため,膜の流動性が高い。
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藻類の光合成の最初の段階は,光のエネルギーを利用し,
水を酸化して酸素にすると共に,暗反応の二酸化炭素還
元に必要なNADPH2+とATPをつくりだすことである。
これらの過程を明反応(light reaction)といい,全行程は
2 H2O + NADP+ → 2 NADPH2+ + O2
ADP + Pi → ATP
となる。
光合成で発生する酸素(O2)はこのように水に由来する
事が分かる。
ATP合成については,光リン酸化を参照。
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光を受容する受容体は,クロロフィル Chl a という緑色の
色素である。クロロフィルはプロトポルフィリンIXの誘導体
で,中心にMg2+が配位している。Mg2+が配位していないもの
をフェオフィチンという。
クロロフィル a の構造
フェオフィチンの構造
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明反応によるエネルギー担体の生産
光化学系 I と IIの間を電子が転移する事によって、NADPHと
ATPの生産ならびに水分子の分解と酸素ガスの放出が起こる。
クロロフィル a はチラコイド膜上にある。
エネルギーはチラコイド膜に埋め込まれたクロロフィル分子
によってとらえられる。クロロフィル分子の共有結合に関与
している電子は、光が当たるとそれからエネルギーを吸収し
て、より高い状態になる。これを“励起された”とよぶ。
補足したエネルギーを散逸したり消耗したりしないように、
アンテナ複合体を形成している。
クロロプラスト中の大部分のクロロフィルは光を集めるアンテ
ナの役割を果たす。
吸収された光子のエネルギーはアンテナクロロフィル間を励起
エネルギーとして移動し,アンテナクロロフィルよりも励起エ
ネルギーの低い反応中心クロロフィルに集められる。
反応中心クロロフィルは,タンパク質,電子伝達補因子,クロ
ロフィル二量体(特別ペア, special pair)からなる複合体である。
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反応中心クロロフィル分子の電子が励起状態になり、この高
エネルギー電子が電子受容体タンパク質に渡される。この電
子受容体タンパク質を電子伝達系とよび、アンテナ複合体と
共に、重量としてチラコイド膜の半分以上を構成している。
光化学系II:電子エネルギーを使って、ストロマからチラコイ
ド腔へプロトン(H+)を汲み上げる。ストロマ側のプロトン
が減る。
光化学系II(PS II)が光のエネルギーを受け取り,2分子の
H2Oを酸素(O2)にまで酸化できる強い酸化剤である酸素発
生複合体が生成するとともに,反応中心クロロフィル分子
(680 nmの波長に吸収極大があるためP680と呼ばれる)P680
を弱い還元剤(P680*)に変える。これに付随して,チラコイ
ド内では4つのプロトンが生じる。
2分子の水から4H+とO2と4e-が生じる。
チラコイド内腔へプロトン(H+)が溜まり、ストロマからは
減っていく、一方、光化学系 IIから電子が受け渡され、光エネ
ルギーを受けたアンテナ複合体から光化学系 I の反応中心であ
る
クロロフィル分子P700(吸収極大が700nmである)が励起
状態になり、高エネルギー電子が光化学系 I に受け渡さ
れ、NADP+をNADPHに還元する。 NADPHができる。
光化学系 IとIIとで、プロトン勾配(H+濃度差)がチラコイド内
腔とストラマに生じる。チラコイド膜はプロトンを通さないか
ら、濃度の低いストロマに戻るには、ATP合成酵素と呼ばれる
チラコイド膜を貫通するチャネルタンパク質を通じて移動する
しかなく、プロトンの移動によりエネルギーの解離が起こり、
それがATP合成酵素によってADPをリン酸化してATPを生成す
るのに使われる。
光化学系 I は IIの電子伝達系中の最後のタンパク質(PC, プラ
ストシアニン)から電子を受け取る。従って、光化学系 I は、
IIから転移された電子を使って、それ自身のアンテナクロロ
フィル分子から失われた電子を埋め合わせることになる。光
化学系 I は最終的に電子を電子伝達系タンパク質の一つに移
し、それが次には電子をNADP+に渡す。電子を渡された
NADP+は負電荷をもつようになるので、ストロマからH+を吸
収してNADPHになる。
明反応全体では、光化学系 IIとIとが共同して、ATPとNADPH
を生産し、それらが暗反応で使われる。
光合成で酸素ガスが放出されるのは、光化学系 II のアンテナ
複合体から失われた電子の穴埋めが必要である事に起因して
いる。
この穴埋めは、水分子がプロトン(H+)と酸素ガス(O2)に
分解して生ずる電子によって行なわれる。
光リン酸化
光化学系IIにおける水2分子の酸化で4H+,シトクロムb6-f複合体で8H+,合
計12H+がストロマからチラコイド内に生成または取り込まれる。この結果,
チラコイド膜を挟んでプロトン勾配が生じることとなる。
このプロトン濃度勾配(pH勾配)を解消するために,ミトコンドリアにお
ける酸化的リン酸化の場合と同様,プロトンがATP合成酵素(H+輸送
ATPase)を通ってストロマ側に汲み出される。3H+の移動と共役し
て,ADPとリン酸から1分子のATPが合成される。これを光リン酸化
(photophosphorylation)という。
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光リン酸化
ミトコンドリアの場合と異なる点としては,チラコイド膜がMg2+やCl-を通
すために電荷的中性は保たれ,ATP合成の駆動力は電荷勾配ではなく,pH
勾配だけに依存することである。ストロマとチラコイド内のpHの差は3.5に
も達する。
ATP合成酵素の分子的構成はCFoとCF1の2つの部分から成り,それらのサ
ブユニット構成もミトコンドリア酵素と酷似している。ATP合成機構もほ
ぼ同じと推定される。ただし,ATPase複合体の分子の向きは,ミトコンド
リアでは内向きであるのに対して,クロロプラストではストロマ側つまり
外向きである。
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暗反応
明反応で生産されたエネルギーの運搬体のATPとNADPHは、反
応で二酸化炭素から糖を合成するのに使われる。
暗反応は大気中にあるCO2ガスから無機炭素原子をとらえ、それ
らを糖に、取り込む。この過程は炭酸固定と呼ばれる。暗反応は
ストロマに遊離の状態で存在する酵素により触媒される。
最も重要な酵素はルビスコとして知られるリブロースビスリン酸
カルボキシラーゼである。ルビスコが触媒するのは、炭酸固定の
第一の反応で、一炭素化合物のCO21分子が
リブロース1, 5-ビスリン酸と呼ばれる五炭素化合物1分子と組み
合わされて、2分子の三炭素化合物を生産する。全体の反応にATP
からのエネルギーとNADPHからのプロトンの注入が必要である。
炭酸固定回路が3回転すると、C3の糖であるグリセロアルデヒド
3−リン酸が1分子生成する。
リブロース1, 5-ビスリン酸と呼ばれる五炭素化合物1分子と組み
合わされて、2分子の三炭素化合物を生産する。全体の反応にATP
からのエネルギーとNADPHからのプロトンの注入が必要である。
暗反応
2段階をまとめると,
3 CO2 + 9 ATP + 6 NADPH2+→ GAP + 9 ADP + 8 Pi + 6 NADP+
となる。これはまさに,二酸化炭素を還元して糖(GAP)を
創り出したことに他ならない。
グリセルアルデヒド-3-リン酸(GAP)から,糖新生やその他
の経路によって,ショ糖,デンプン,セルロース,脂肪酸,
アミノ酸などが合成される。
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Rubisco
リブロースビスリン酸カルボキシラーゼは光合成の要と
なる酵素で,葉緑体タンパク質の15%(ストロマの可溶性
タンパク質の実に50%) を占める。
自然界に最も多量に存在する酵素である。動物はこの酵
素をもたない。 植物,藻類,シアノバクテリアのRubiscoは,大サブユ
ニット
(L) 8つと,小サブユニット
(S) 8つから成る十六量
体タンパク質
(L8S8) である。
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これに対して,光合成細菌のRubiscoは大サブユニットだ
けから成り,紅色非硫黄細菌
Rhodospirillum rubrum は大
サブユニットの二量体
(L2),Chlorobium thiosulfatophilum
はL6,Thiobacillus intermediusはL8である。
基質であるCO2は大サブユニットに結合する。
葉緑体Rubiscoの大サブユニットはクロロプラストDNAに
コードされているが,小サブユニットは核DNAにコード
される。
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光呼吸
(Photorespiration)
リブロースビスリン酸カルボキシラーゼは正式にはリブロー
ス
1.5-ビスリン酸カルボキシラーゼ-オキシゲナーゼ
(略称は
Rubisco) と呼ばれる。
この酵素はリブロース
1,6-ビスリン酸(RuBP)のカルボキ
シル化を触媒して2分子の3-ホスホグリセリン酸(3-PG)を
生じるが,それだけでなく酸素添加反応も触媒するためであ
る。 http://www.sc.fukuoka-u.ac.jp/~bc1/Biochem/photosyn.htm
光呼吸
(Photorespiration) 酸素添加反応では,1分子の3-ホスホグリセリン酸(PG)と
1分子のホスホグリコール酸が生じる。
ホスホグリコール酸はペルオキシソームとミトコンドリアで
酸化的に代謝されてCO2と3-ホスホグリセリン酸になる。
これを光呼吸という。この過程の途中でATPとNAHPH2+が
消費されるので,随分無駄なことである。
この無駄な経路はRubiscoがCO2とO2を区別できないためで
ある。
酸素添加反応の効率は温度とともに上昇するので,光呼吸は
高温における酸素の障害から身を守る役割があるとも示唆さ
れている。
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光の吸収
陸上植物は、太陽から降り注ぐほぼ全波長を受けている。ク
ロロフィルの吸収極大がある青や赤の光の部分である。これ
に対して、水中では赤の光は数mで吸収されてしまい、深いと
ころでは青緑色の光になってしまう。
http://faculty.irsc.edu/FACULTY/TFischer/bio%201%20files/bio%201%20resources.htm
クロロフィル a が吸収できる光がたりないことになる。だから
藻類は、この問題に対して2つの方法で対処している。
1.鞭毛藻類は光を感じる 受容器 を持っていて、適当な光
量の方向に向かうことができる phototaxis 走光性をもつ。
Cryptomonads, green flagellates, dinoflagellates はロドプシンを使う.
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2.様々な光合成補助色素 (photosynthetic accessory pigments)
を進化させた。
アンテナ色素ともいう。light-harvesting complexes (LHCs)
その他には、光合成独立栄養だけでなく、周囲の有機物をと
りこむ混合栄養 (mixotrophy)で生育できる藻類も多い。
中には細菌やほかの藻類を食べてしまう連中もいる。
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プランクトンでは湧昇流にのったら表層に持ってこられて強
い光を浴びることになる。大型海藻にしても干潮時に強い光
にさらされることはざらにある。あるいは雪の表面(氷雪
藻)などはとても強い光条件下になる。
光合成に利用しきれないほどの光を受けてしまうことは、光
合成器官に深刻なダメージを与える可能性が高い。
タンパク質、クロロフィル分子は破壊され、活性酸素も生産
される。
ダメージを受けないように、カロテノイド色素が進化した。
弱光型、強光型がある場合も。
Diadinoxanthin
Light
Dark
Diatoxanthin
強い光を吸収して、熱に変換することでダメージ
を受けないようにする例
euglenoids, dinoflagellates, stramenopiles
Violaxanthin
Light
Dark
Antheraxanthin
Light
Dark
緑藻、陸上植物,
不等毛植物
Zeaxanthin
強い光を吸収して、熱に変換することでダメージ
を受けないようにする例
炭酸固定の問題
水中にいるということは二酸化炭素の溶け込みが悪く、空気中
にいるよりも10000倍も遅いという。
なので、藻類は炭素を濃縮する方法をあみ出している。
Rubisco (ribulose bisphosphate carboxylase/oxygenase)として知ら
れる酵素の異なる形のタイプを進化させている。
炭酸固定の問題
異なるタイプは酸素と二酸化炭素への親和力が異なる。特に酸
素の親和力が重要で、現在酸素の方が多く、二酸化炭素との競
合がある。
rubiscoに酸素が結合する過程は、光呼吸(光があたっていて)
で酸素が消費(rubiscoにくっつくから)され、二酸化炭素が発
生する過程でわかる。
rubiscoの多様性は、
構成するタンパク質のサブユニットの数、タイプが異なり、触
媒作用の違いとして現れる。
4つの基本型がある。
藻類には I 型と II 型のみがみられる。
タイプ II は、渦鞭毛藻類のペリディニンをもつものにのみ見ら
れる。
タイプ I は、ほかの藻類に見られる。
I はさらに、A, B, C, Dがあり、IAは原核生物のみ、IBは沿岸域
や淡水のシアノバクテリア、緑藻、ミドリムシ類、クロララク
ニオン、陸上植物にみられる。ICは、酸素非発生型光合成細菌
に、IDはβプロテオバクテリア、紅藻、クリプト藻、ハプト藻、
不等毛植物にみられる。