参加型福祉研究センター情報紙「オプティマム」 optimum 「 市 民 が つくる 公 共 」 コミュ ニ テ ィ・ オ プ テ ィマ ム 福 祉 を 地 域にひろげる オプティマム 参加型福祉研究センター 〒 231-0006 横浜市中区南仲通 4-39 石橋ビル4F 参加型システム研究所内 2015 年、社会保障制度の大転換を前に、 2025 年を見据えた「参加型福祉」の戦略をどう考えるか? 参加型福祉研究センター 共同代表 小川泰子 日本の少子・高齢社会はいよいよその実態を見せ始め、 さて、今度は私たちがこれからの先の 30 年、あるいは 私たち市民の日常生活にじわじわと影響が出始めてきま 50 年を見据えて「参加型福祉の実現」をはからなければ した。私たち「参加型福祉の実現」に取組んでいる者と なりません。理由はただ一つ、次世代につなぐ「いのち」 してわかっていたはずの「2025 年問題」は、“ 生協組合 の保障です。 員組織の厚い層となっている団塊世代が介護を必要とす 今、国主導で行われようとしている二つのテーマに私た る高齢当事者になる ” ことを踏まえての市民主導の福祉戦 ちは強い関心を持つ必要があります。一つは「介護予防・ 略であった 「参加型福祉」 を社会に提言する起点でした。 日常生活支援総合事業」です。市町村が中心となり、住民 1985 年以降「地域に暮らし続けるために」次々設立した の多様な主体が参画し、多様なサービスを充実することで、 在宅福祉のワーカーズ・コレクティブ。いかなる制度にも 地域の支え合い体制づくりをはかるというもの。もう一つ 左右もされず守られもせず、しかし確実に地域に根を張り、 は、医療と介護の一体的提供をはかるという「地域包括ケ 大きな木として市民の生活を全世代型で支えてきました。 アシステム」です。この二つに対して私たちは生活者・市 全ては市民資源を活用して創り上げてきたものです。 民としてどう向き合うのか、その立ち位置を間違えると制 2000 年の介護保険制度開始から 15 年、今、日本の社 度に振り回されかねません。制度を理解しつつ、制度を活 会保障制度は歴史的大転換に舵を切りました。私たちが 用もしつつ、オルタナティブな ( もうひとつの ) 事業を創 30 年前に見据えていた「2025 年問題」を楯に、人本位 造することが重要です。 から制度本位へと、社会保障は「介護市場化」となってい きます。 クラブ橋本 生活リハビリ 協神奈川の ( 生活クラブ生 施設 ) ビ デイサー ス 開所式 25 日 2015 年 1 月 「オプティマム」VOL.5 目次 オルタナティブ eye 市民による生活困窮者支援 15 年の実践から・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2ー3 フューチャーセッション コミュニティの力で地域課題を解決する・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4-5 地域活動情報 参加型福祉の拠点としての「生活リハビリクラブ橋本」の実現に向けて・・・・・・・・・・・ 6 My Issue 子ども・子育て支援新制度スタートに向けて 子どもの領域研究所 尾木まり氏・・・・・・・・・・ 7 講座・研修案内 参加型福祉まちづくりフォーラム開催のお知らせ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 「オプティマム」vol.5 1 近未来の社会を展望する オルタナティブ eye 市民による生活困窮者支援 15 年の実践から 話せない、縁が切れる、職場でも気づかれて離職する、最 終的に路上生活に至る人も少なくない。多重債務者救済事 市民による生活困窮者支援 〜 KS サポート 15 年間の実践から〜 業を模索する中で、NPO 法人神奈川県生活サポートはそ のことに気づいた。 「まずはこの人たちを救いたい」 。そし 2014 年 12 月の衆議院議員選挙の自 て 2001 年、路上生活から緊急避難し生活再建するための 民 党 大 勝 を 受 け、12 月 30 日「2015 一時的な停泊地・自立支援施設「ハーバー宮前」を開設す 年度与党税制大綱」が決定された。法 る。再び海原 ( 社会 ) に出てい 人税改革では実行税率が段階的に引き くための「港」 (ハーバー)の 下げられるなど、大企業や富裕層への 役割を果たしたいとの思いを 優遇が目立つ税制大綱だ。アベノミク 石上恵子さん 込めたネーミングだった。 スが言う《富裕層が豊かになれば富が 滴り落ち全体が豊かになる》というト 路上生活に陥ることは家だ リクルダウン理論が有効でなかった、と実感する者にとっ けでなく、家族・友達など人 ては絶句するところだ。同じ 12 月にフランスの経済学者 利用者の野球チームをつくった! との関係性を失うことに他な トマ・ピケティ著『21 世紀の資本』の日本語訳が発売さ らない。生きる意欲を失い、飢え、病に倒れ、その先には れた。曰く《資本主義の下では、資産を持つ人がますます 孤立死が待っている。「もう一度前に進んでもらうための 富み、持たない人との格差が広がり続ける。富も貧困も世 様々な支援」が必要な人々が目前にいた。路上ではとにか 襲されていく》という分析が、経済学者のみならず、多く くお腹が減って今日の食べ物のことしか考えられない。肉 の一般の読者層を獲得しているという。そして 2013 年 体的にも精神的にも大きなダメージを受けている。暖かい 12 月 6 日に成立した生活困窮者自立支援法の 15 年 4 月 食べもの、屋根のあるところに来て、ようやく先のことが 施行が目前だ。 考えられる。路上生活者へのサポートには、「路上で人を 今回の「オルタナティブ eye」は、 これらの状況を背景に、 死なせたくない」という思いがあるという。 市民による生活困窮者支援を考える。15 年に亘り市民に よる生活困窮者支援に取り組んできた NPO 法人神奈川県 生活サポート(KS サポート)の活動を専務理事の石上恵 子さんに聞いた。 最低のセーフティネット:生活保護 ハーバー宮前では、路上に出ている人にはまず生活保護 を受給してもらって生活を安定してもらう。そして病気を 治し、規則正しい生活習慣を取戻し、仕事をして自立をめ 多重債務相談事業からホームレス支援へ ざす。ハーバー宮前の利用者の収入源は、生活保護のみ、 神奈川県生活サポートグループは、1999 年貸付を視野 生活保護 + 年金、生活保護 + 仕事、仕事 + 年金、仕事のみ に入れた多重債務相談事業【NPO 法人神奈川県生活サポー など、多様だ。石上さんは「完全自立には時間がかかる。 『半 ト(KS サポート)】立ち上げの模索から始まった。多重債 就労、半福祉』で良いのではないか」と言う。 務は、多額の収入があれば関係ないという話ではない。収 生活保護への社会の目は厳しい。2014 年 8 月、国は 入より支出が多く、その都度借り入れでしのぐことが続く 物価の下落などを理由に食費・光熱費などを支 と多重債務に陥る。プライドもあって家族に つき で恒例のもち ハーバー宮前 2 「オプティマム」vol.5 オルタナティブ eye 援する「生活扶助」の支給額を引き下げた。2000 年 110 し弁当・ケーキの 万人だった生活保護受給者は 2013 年に 215 万人を超え、 製造販売)を運営 おそらく今後も増え続ける。しかし人が人間らしく生きる する【一般社団法 ための最後のセーフティネットが生活保護であることは忘 れてはならない。 「キッチンたいむ」設立 3 周年記念パーティにて すべて利用者さん手作りの料理がいっぱい! 人ラヴィ・アシス タンス】を設立し、 ところで、生活保護費を食い物にする「貧困ビジネス」 3つの法人(神奈川県生活サポートグループ)の総合力で、 というのがある。路上生活者などに「寝場所や食事を提供 幅広い生活困窮者支援に取り組んできた。 する」と声をかけ、生活保護を申請させ劣悪な施設に収容 石上さんは言う。 「目の前の必要に背中を押されて進んで する。様々な名目で高い利用料を徴収する。保護費をあて きた。丁寧にやればやるほど、持ち出しになる世界。しか にしたビジネスだから、路上生活者への自立支援や生活支 し目前にニーズは広がっている。一人のニーズをどう満た 援はほとんど眼中にない。弱者を痛めつける貧困ビジネス せるか、使える制度を活用し、ニーズを満たすサービスを への対抗軸としての「課題の見える化」も、ハーバー宮前 つくってきた。 」路上生活者が行政に相談にいくと、有期で には籠められたという。 の住まいの提供と、ハローワークで仕事を斡旋される。し かし路上での様々な体験は、自分から積極的に社会に戻る ホームレスの障がい者生活支援から、 障がい者支援へ 石上さんたちの活動はそれで満足 気力をはぎ取っていることがおおい。斡旋された仕事に対 応できない、職場でいやな思いをすると耐えられない、日 常生活の気力が続かない・・ 「生活や性格を知り丁寧に寄り 添って相談に乗る覚悟がいる。それは行政にはできない。 」 しない。路上生活者の多くがなんら かの障がいを持つことがわかると、 2006 年全国初の路上生活者のため の障がい者グループホーム「ハーバー 非営利・協同の連帯への期待 ~インタビューを終えて 野毛」 (現在は「ハーバー横浜」とし 2010 年 6 月に貸金業法が施行され、総量規制、金利体 て野毛を含む 3 か所のホームがある) 系の適正化などにより多重債務は減少したかに見えるが、 を開設する。 逆にどこからも借りられずに困窮している人は増えてい 路上生活者は建設業界の凋落によ り仕事を失った 50 代、 60 代が多かっ ハーバー横浜 る。一方で、生活保護受給者数は年々増加する。4 月から 施行される生活困窮者自立支援法による生活保護認定の厳 たが、リーマンショック後はさらに 40 代の働き盛りが増 格化と生活相談、就労支援による自立支援策だけで、生活 え、そして今は 20 代 30 代の若者がネットカフェを渡り 困窮者の自立が促進されるとは思えない。支援法の目指す 歩くようになった。そこで、神奈川県生活サポートは入 ところは生活保護をふやさないための水際作戦ではないは 居者同士がささえあうシェアハウス(2009 年)をつくっ ずだ。社会の劣化が多くの生活困窮者を生む。制度は制度 た。2011 年には生活再生相談事業【一般社団法人神奈川 として活用し、さらに神奈川の非営利・協同組織の連帯に 県生活サポート基金】を始め、同年、障がい者の働く場と よる支援の仕組みを検討する必要があるのではないか。つ して、就労継続支援 B 型事業所(キッチンたいむ:仕出 よく感じるところだった。(荻原妙子) 「オプティマム」vol.5 3 フューチャーセッション●立場を超えたつながりが未来をつくる 風の丘 コミュニティの力で地域課題を解決する 社会保障制度が大きく変わろうとしている。その変化がこれからの私たちの生き方・暮らし方に大きく影響してく ることは間違いない。経済格差を背景に、高齢者だけでなく、子育て世代、若者世代にも不安が広がっている。家族 のあり方や地域コミュニティが大きく変容する中にあっても、人は誰もが人を取り巻く多様な人との関係性の中で生 きている。そして多くの人が、そのような関係性の中で最後まで自分らしく暮らし続けたいと願っている。これから の大きな社会の変化の中で、高齢になって介護が必要になっても「人と人との関係性を大切にしながら住み慣れたま ちで暮らしたい」 を実現するにはどうしたらよいのか。小規模多機能居宅介護施設、住まい ( 有料老人ホーム )、 デイサー ビス、コミュニティスペースなどを地域で有機的に関連させながら安心して暮らせるまちづくりをめざして事業を展 開している事例を NPO 法人一期一会の理事長川上道子さんにお話を伺った。 ペースとして開設し、映画鑑 賞、健康麻雀、カラオケなど 曜日ごとの企画を行っている。 NPO 法人一期一会は、川上さんが関係していた高森台 開設に当たっては、団塊世代 福祉の町づくり勉強会、伊勢原ホームサービス、生活クラ の男性が地域に戻ってきたこ ブの共同購入班のメンバーや地域の人々に声をかけてでき とを機に、彼らがまちに集いもう一度コミュニティづくり た組織が前身。親の介護を見据えている主婦たちや幼稚園 を始めるきっかけづくりにつなげようと、地域の方のアド のお母さん仲間と共に家事援助活動に取り組んだのが始ま バイスをもらいながら進められた。この日は団塊世代の男 りだ。活動エリアである愛甲原住宅は、1960 年代に国家 女 8 人が 2 卓を囲み、和気あいあいと会話を弾ませなが 公務員のための住宅として開発された厚木市と伊勢原市に ら麻雀を楽しんでいた。2003 年に開設された『デイ愛甲 またがる分譲地である。当初から移り住んできた住民同士 原』とはドア 1 枚でつながっており、デイサービスの利 が協力して自治会形成や児童館開設に向けての寄付活動を 用者が希望によって『CoCo てらす』での麻雀やカラオケ 行うなど、住民参加型によるまちづくりの土壌が広がって に自由に参加することもできる。まさしく人々の行き交う いた。まちの成熟と共に、多くの市民が高齢化の問題に直 まちの交差点的な役割を果たしているようである。 面する中で「信頼を築いてきた地域の人々と共に、このま ここに集うのは高齢者だけではない。土曜日には子ども ちで暮らし続けたい」という思いを実現するために勉強会 向けのアート教室が開催され、楽しい工作の場となってい を開いたり、寄付活動を行うなど、自分たちの力で働きかけ、 る。また、近隣の大学との連携で大学生が『CoCo てらし隊』 地域での実践を積み重ねてきている。 というボランティアグループを形成し、カフェや野菜栽培 などを企画運営し、 「人と人をつなぎ、まちを元気にする」 老若男女がつどい、世代をつなぐ、地域をつなぐ 最初に訪問したのはコミュニティスペース『CoCo てら す』 。愛甲原住宅中心のバスロータリーに隣接する、正に 活動に若者が一役かっている。 『CoCo てらす』の壁 面にはボランティアで絵本作家 & イ ラ ス ト レ ー タ ー の 米 山 永 一 さ ん と『CoCo て ら し まちの交差点のような場所に位置する。2012 年 4 月に居 宅介護支援事業所・短時間デイサービス・コミュニティス CoCo てらす 子どもアー ト教室 4 「オプティマム」vol.5 フューチャーセッション●立場を超えたつながりが未来をつくる 隊』の手によってまちの地図が描かれていて、ロータリー を中心に NPO 法人一期一会の事業所、近隣の施設や商店 がそれを取り囲むように立地している様子がよくわかる。 また壁面には大小様々な手形が彩りよく並んでいる。まさ にこのまちをつくり支えている一人ひとりの手、このたく さんの手によって世代をつなぎ、地域をつないで「ささえ あうまちづくり」を実践している。 地域で「自分らしく暮らす」を考えてできた 小規模多機能居宅介護施設『風の丘』 『風の丘』は、愛甲原で地域の人たちから信頼された二 人の女性から生まれた。小規模多機能型居宅介護施設の勉 強会を通して、川上さんと以前から家事援助のサービス提 供で親交のあった津崎能子さんから「うちの土地を使って ちょうだい」という申し出があった。2006 年 4 月「風の 丘」は、津崎さんから付託を受けた土地に、地域の方々か ら借りたお金をもとに誕生し、津崎さんは最初の入居者と なった。 「風の丘」の1階は介護保険事業の 小規模多機能型居宅介護サービスと 「町の台所』 (食事サービス)があり、 し合いながら暮らせるまち」を作ることだと考えた。自 分だけの力で暮らせなくなった人も、その人たちを支え る人も輝いて暮らせるまち、その仕組みをおおぜいの自 発的な力でつくることだ。川上さんは言う。地域の人た ちの「住み慣れたまちに居たい」と思うエネルギーと信 頼が集まって、 「どんなまちにしたいのか?」の思いを 一つ一つ形にしてきている。制度のために作るのではな い。まちの人が必要と思うからつくる、と。昭和 40 年 代前半のころ、このまちをつくってきた人たちのエネル ギーと信頼を次の世代が受け継いで、希薄になりそうに なっていた地域のつながりを束ね、もう一度まちを自分 たちで支え合おうと取り組んでいる。 2階は住宅型有料老人ホームになっ ている。利用者ほとんどが近所に住 んでいる人たちで、自宅と同じまち 川上道子さん にある『風の丘』のことは、利用す る以前から施設として知っていた。川上さんとも普段から お付き合いのある人たちだ。 川上さんは地域福祉に携わる中で、地域の人々の様々な 思いに触れてきた。「このまちで信頼できる人と最期まで 暮らしたい」「独り暮らし で入浴が心配だ」 「食事づく りに困っている」そんな声 を解決するのは「人々が支 えながら、笑いながら、許 必要と思うことを形にしてまちに現す 愛甲原住宅エリアでのこれらの取り組みは、型通りの 制度における施設建設、事業展開ではない。地域のキー パーソンである川上さんと、地域に住む人々がこれまで の関係性の中で培ってきた信頼と、知恵や資源など自分 たちが持っているものを出し合ってできた市民がつくる 地域包括ケアシステムのモデルのようなものとも受け止 められる。 私たちも自らの生き方、暮らし方を捉えなおし、人々 の信頼と支えあいの根付くまちづくりに向けた市民の力 の発揮が必要だ。 ( 城田喜子・白尾有紀) 「オプティマム」vol.5 5 地域活動情報 参加型福祉の拠点としての 「生活リハビリクラブ橋本」の実現に向けて さがみ生活クラブ生活協同組合 理事 柴田正子 ( たすけあい担当 ) まずは、どの組織エリアが手をあげるか?から さがみ生活クラブ生協では、2013 年度の春、初めての 福祉施設建設に取り組むことを決定しました。 「生活リハビ リクラブ※ 1」は神奈川県には5ヶ所ありますが、さがみ生 活クラブの 8 コモンズ※ 2、2 デポー※ 3 の組織のうち、どの 組織エリアに建設していくかを検討する必要がありました。 先ずは、この活動に取り組むことを検討してみようと、 4つのコモンズ組織が検討チームのメンバーとなりました。 初めての取り組みなので、参加型福祉を理解することも必 要でした。地域の状況や組合員の福祉への関心度などの調 働き方の理解も必要です。説明会をするために、先ずは自 分達がワーカーズ・コレクティブを理解することから始め ました。この働き方に共感する人にも出会え、自分達の思 いをしっかりと伝えていく価値を実感しました。 一番の難所は物件探しでした。緑さがみはらコモンズエ リア内をくまなく探しても、条件に合う物件や組合員が描 いていたイメージの物件がなく、暗礁に乗り上げました。 最後に残った唯一の物件は、決して自分達の望むようなも のではなかったのですが、ここで歩みを止めるのではなく、 先ずはこの物件で、参加型福祉の拠点を創っていくことを 査、施設見学も行ないました。そして、建設主体となるコ 決めました。 モンズを決定する段階になり、2 コモンズが手をあげまし 組合員の力で超高齢社会を乗り越える た。チームで意見交換し、再度、コモンズ運営委員会で討 議することにしました。あくまでも、主体はコモンズです。 最終的に手をあげたのは、緑さがみはらコモンズでした。 決して、運営委員全員が賛成したわけではありません。手 を上げる決め手になったのは、組合員の拡大活動がなかな か進まない状況の中、一石を投じてみようではないか、と いう委員長の言葉でした。この覚悟が、緑さがみはらコモ ンズに大きな一歩を踏み出すきっかけになりました。 今まで見えていなかったことが表に出てきた?! その後、組合員集会を開催し、大勢の組合員と直接会っ て、どんな施設がほしいか、そこでどんなことをしたいか、 自分が利用者だったら、自分が働くとしたら等、自由に夢 を語りました。この集会への参加を募る為の電話掛けでは、 あいにく出席できない組合員ともいろいろ話しをし、福祉 への関心の高さを感じました。今まで活動に参加しなかっ た組合員が集会に出席したり、チラシまきを積極的に行っ たり、福祉に関心を持つ組合員や働いてみたいと思ってい る組合員に出会ったり、新しいつながりができました。こ の活動を通して、今まで見えてい なかった部分が表にでてきた感じ がしました。 参 加 型 で 運 営 し て い く に は、 ワーカーズ・コレクティブという 努力が実って 6 「オプティマム」vol.5 組合員の力で進めてきているので、まだまだ、わからな いこともあります。今のデイサービスの現状を地域包括セ ンターやケアマネージャーからお話を伺いました。それら を参考にこれから「生活リハビリクラブ橋本」の目指すデ イサービスを構築していきます。 また、この施設は、高齢者だけが集うのではなく、多世 代が集い、地域に開かれた参加型福祉の拠点にしていくも のです。そこで、子育てひろばの企画も立てています。い ろいろな人が集まり、賑やかな施設にしていけば、これか ら向かっていく超高齢社会は、決して暗いイメージのもの ではありません。日本全体の大きな課題に対してささやか な一歩かも知れません。しかし、自分達がこういう地域に していきたいと思い描いたことを実現させていく活動を重 ねてきたたことは、大勢の組合員の 力の賜物です。1 月 25 日に開所式を 迎え、いよいよ、活動が始まりました。 (しばたまさこ) みんなの力で ※ 1 生活リハビリクラブ:生活クラブ生協神奈川が運営するデイサー ビスセンター ※ 2 コモンズ:神奈川の生活クラブ生協組合員の自主運営・自主管 理で運営する組織単位。概して行政区単位で組織されている。 ※ 3 デポー:生活クラブ生協の共同購入を店舗型で行う拠点の呼称 でもある、自主運営・自主管理で組合員が運営する組織単位をいう。 My Issue 論点 視点・ 子ども・子育て支援新制度 スタートに向けて 子どもの領域研究所 所長 尾木まり 2015 年 4 月より、子ども ・ 子育て支援新制度 ( 以下、 保護者が親として育つプロセスを支える存在が身近にいる 新制度 ) が施行される。新制度はすべての子どもと子育て ことが不可欠である。 家庭を対象に、幼児期の教育 ・ 保育、地域の子ども・子育 かつては当たり前のようにあった地域社会のつながりや て支援を総合的に推進しようとするものである。 支え合いは同じ形での再生は難しいが、 「子育て支援」とし 新しい制度についての具体的な検討は「次世代育成支援 て再生し、定着させることはある意味成功したと言える。 のための新たな制度体系の設計に向けて」 (2009 年)に始 そういう意味からも、子育て支援は誰でもがアクセスしや まり、この間政権交代も含め紆余曲折ありながら、漸く船 すく、利用しやすいものである必要があるが、まだ量的に 出にこぎ着けたところである。行政からは「走りながら考 も質的にも十分ではない。とりわけ一時預かり事業のよう える」という言葉がよく聞かれ、保育現場からは不安の声 な、地域に密着し、保護者のニーズに沿うように作られて も聞かれる。ビジネスチャンスと息巻く事業者に対しては きた事業をいかに活用しやすいものとできるかがこれから ため息もでる。しばらくは混乱も続くだろうが、5年間の の課題である。とことん困ったときにだけ利用するもので 経過措置と5年後の見直しで問題点が改善されることに期 はなく、誰でもが当たり前に利用できる、利用することで 待しつつ、動向を見守りたいと考えている。 保護者も子どもにも良い効果がある、そんなふうに利用す 新制度が導入される背景の一つに、結婚、出産、子育て る人や社会の意識を変えることができれば、おそらく待機 についての希望と現実の乖離がある。結婚や子どもを産み 児童の問題も解消するのではないかと考えられる。 育てることへの希望はありながらも、出産 ・ 子育てか就業 一方、新制度では、これまでの保育所、認定こども園、 継続を二者択一せざるを得ない現状を解決するためには、 幼稚園の施設型保育に加え、地域のさまざまな資源を活用 旧来の保育制度に頼るだけではこの状況を打開することが して地域型保育事業が創設され、給付の対象となる。そこ 困難であることが明らかとなり、働き方の見直し等も含め で何よりも大切なのは、子どもたちがどこで保育を受ける て、抜本的な制度改革や意識改革が必要となった。また、 ことになっても、保育所と同じ質の保育が提供されること これまで、保護者の働く状況により、保育所と幼稚園とい である。保育の担い手は保育士に限らず、さまざまな人材 うふうに、子どもが過ごす場が分けられてきたことを解消 が活用されることが見込まれるが、その人材養成と質の確 し、質の高い幼児期の教育と保育をすべての子どもに保障 保は大きな課題であり、このことに心して取り組むことが しようとする意図もある。 新制度の成否を決定づけると言っても過言ではないだろう。 待機児童問題は喫緊の課題であると言われるが、なぜこ (おぎ まり) れだけ保護者が保育の利用に殺到するかを考えると、母親 だけで子どもを育てることが厳しい状況が浮かび上がる。 母親が家庭にいさえすれば子育ては問題なし!ではなく、 保育のプロと共に子どもを育てている働く保護者の方が育 児ストレスが低いという調査結果からも明らかなように、 生活クラブ子育て支援拠点 保育室「ぽかぽか」 ■ 筆者プロフィール ■ 2014 年度 ・厚生労働省「子育て支援員(仮称)研修制度に関する検討会」構成員 ・厚生労働省社会保障審議会児童部会「子どもの預かりサービスの在 り方に関する専門委員会」委員 ・厚生労働省「放課後児童クラブの質の向上のための研修企画検討会」 委員 ・神奈川県子ども・子育て会議委員 〔研究〕 一時預かり事業のあり方に関する調査研究(厚生労働科学研究政策科 学総合研究事業 2008-2009)家庭的保育、居宅訪問型保育等多様な保 育を必要とする利用者の意識とニーズに関する調査研究(こども未来 財団 2013)放課後児童クラブの運営内容に関する調査(こども未来 財団 2012)ほか多数 「オプティマム」vol.5 7 参加型福祉研究センターからのお知らせ 「2025 年問題」を解決する主人公はいったい誰なのか? それは当事者としての私たち生活者・市民にほかならない ・・・ 参加型福祉まちづくりフォーラム 2014 市民がつくるオルタナティブな地域包括ケアシステムの形成に向けて いま、市民の覚悟が問われています ・・・ 高齢者の単身世帯、夫婦のみ世帯が増大し、団塊の世代がすべて後期高齢者にさしかかる 2025 年は、途方もない生活支援サー ビスの量が必要になることが予測されます。それは国が制度の持続可能性を名目に政策転換を図る「自助」や「互助」では立ち 行かないほどの量であることは明らかです。「病院・施設から地域へ」 「住み慣れた家で在宅生活を維持し、最期まで生活し続け られるようにする」という理念、理想を掲げる国発の「地域包括ケアシステム」は果たして実現可能なのでしょうか。参加型福 祉 30 有余年の実践を力に、超少子高齢・人口減少社会における参加型福祉のまちづくり運動を通じて市民福祉社会を実現する ことができるか、私たちは今、その覚悟を問われています。 私たちはどうしたら市民が問題解決の主人公となる「成熟社会」へのソフトランディングできるのか?このフォーラムで 10 年先の日本社会の将来像について共通認識を持ち、参加型福祉の次の一歩を活発にすすめていきたいと思います。 ●日時:2015 年 3 月 28 日 ( 土 )12:45 ~ 16:30 ●場所:横浜情報文化センター6F ホール ( 横浜市中区日本大通 11 番地 ) ●主催:( 特非 ) 参加型システム研究所 参加型福祉研究センター プログラム 12:45 ~ オープニングアトラクション 劇団「オーバンズ」によるショートパフォーマンス 13:00 ~ 開会・基調報告 五十嵐仁美 ( 生活クラブ神奈川理事長 ) オルタナティブな地域包括ケアシス テム研究会報告~基本ビジョンの共有~ 基調講演 講師 香取照幸氏 ( 厚労省年金局長 ) 「社会保障制度改革の背景と 地域包括ケアシステムのあり方を考える」 14:30 ~ トークセッション 「市民がつくるオルタナティブな地域包括ケア システムのあり方を考える」 ■スピーカー 中島 修氏 ( 文京学院大学准教授 ) 川名佐貴子氏 ( シルバー新報編集長 ) 桜井 薫氏 ( さがみ生活クラブ生協理事長 ) 小 川 泰 子 氏 ( 社会福祉法人いきいき福祉会専務理事 ) ■コメンテーター 香取照幸氏 ■コーディネーター 荻原妙子 香取照幸氏 中島 修氏 川名佐貴子氏 氏 小川泰子 横浜情報文化センター みなとみらい線 「日本大通り駅」3 番出口 0 分 ( 参加型福祉研究センター共同代表 ) 16:20 ~ 参加型福祉研究センターからのアピール 問合せ・申込み/参加型システム研究所・参加型福祉研究センター 〒 231-0006 横浜市中区南仲通 4-39 石橋ビル 4 F Tel045-222-8720 Fax045-222-8721 e-mail:[email protected] 「オプティマム」vol.5 < 1,600 部> 2015 年 2 月 25 日発行 発行者:参加型福祉研究センター 〒 231-0006 横浜市中区南仲通 4-39 石橋ビル 4 F 参加型システム研究所内 Tel045-222-8720 Fax045-222-8721 e-mail:[email protected] http://www.sanka-fukushi.org 8 「オプティマム」vol.5 <編集後記> 遅ればせながら 14 年を振り返ってみた。ロシアのウクライ ナへの侵攻、韓国のフェリー沈没、サッカーワールドカップ開催への市民の 抗議、シンガポール機の行方不明・撃墜、スコットランドの独立投票、ナイ ジェリアでの女生徒誘拐事件、日本では特定秘密保護法の施行、原発再稼 動への動き、社会保障改革の方向性、生活保護費の引き下げ・・など人権や 個人の尊厳をないがしろにする事件や動きが気になる。しかし大飯原発再稼 働差し止め判決、学生・市民の香港民主化行動、沖縄県知事選・衆院選など、 市民は、不公正に立ち向かい、希望社会を求め、つくる視点を忘れず動いて いる。パンドラの箱に残された希望が私たちの道具であることがうれしい。O.
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