『日本語でインターアクション』実践持ち寄り会に向けての1年の歩み

『日本語でインターアクション』実践持ち寄り会に向けての1年の歩み
武田 誠
早稲田大学日本語教育研究センター
この小稿では、2015 年 4 月 18 日に行われた「『日本語でインターアクション』著者との対話継続企
画
実践持ち寄り会」までの 1 年の歩みを報告します。
私たちの1年の歩み
2014 年 4 月
『日本語でインターアクション』著者との対話
6月
実践研究フォーラム実践広場への出展決定
8月
実践研究フォーラム実践広場で「インターアクション教育実践を考える会」
メンバー募集。長崎さん、鎌田さん加入。
10 月 インターアクション教育実践を考える会 初回会合
11 月
アクラス実践持ち寄り会に向けての定例会 第1回
藤沢さん加入。
2015 年 1 月
Google+を使った実践報告者と武田以外の著者との直接交流開始
アクラス実践持ち寄り会に向けての定例会 第2回
2月
アクラスでの嶋田先生、白石さんとの打ち合わせ
3月
アクラス実践持ち寄り会に向けての定例会 第3回
4月
アクラス実践持ち寄り会
始まりは白石さんの一言から
「研修会は始まりだから。1年後にこの教材を使った実践報告会をしよう。
」2014 年 4 月 12 日、
『日
本語でインターアクション』著者との対話の懇親会での白石佳和さん(友国際文化学院)の一言がすべ
ての始まりでした。嶋田先生がその場で1年後の 4 月の土曜日を研修日に指定され、1 年後の実践持ち
寄り会開催が決まりました。
その後、上掲書の担当編集者であった凡人社編集部の大橋由希さんの仲介もあり、白石さんと個人的
にお会いしてお話をする機会がありました。その時、私は「1 年後に向けてがんばりましょう」などと
無責任なことを言っていたように思います。しかし、私はどのようなスタンスでどの程度、翌年の実践
持ち寄り会に関わっていくべきか、よくわからない状態でした。その後、嶋田先生、白石さん、大橋さ
んの3名で 1 年後の実践持ち寄り会のことについて話し合いがなされました。その段階で既に当日のプ
ログラム案まで決まっており、それを後で知った時には驚きました。プログラム案では、日本語学校、
大学など種類の異なる教育機関から各1組の発表がなされることになっており、各教育機関で上掲書を
使った授業実践を行い、報告をしてくださる発表者(=実践報告者)を探す必要が生じました。
「インターアクション教育実践を考える会」の立ち上げへ
かくして、持ち寄り会の発表者探しという課題があり、一方で自分の関わり方も見えないままの状態
が続きました。
執筆時から私の中には『日本語でインターアクション』を効果的に使ってもらうためには、「インタ
ーアクションのための日本語教育」が目指すものや、日本人とのインターアクションを行う活動をデザ
インするノウハウも著者が直接伝えていく必要があるのではないかと考えていました。また、せっかく
市販教材として出版されたのだから、同書の開発がされた神田外語大学留学生別科の外にもインターア
クションのための日本語教育を実践するコミュニティーがあればいいというおぼろげな考えもありま
した。
そのような中、運よく日本語教育学会主催実践研究フォーラムの「みんなの実践広場」という実践仲
間を集めることを目指した新しい企画で出展者を募集していました。ここでインターアクションのため
の日本語教育を考える実践仲間を募り、その中からアクラスの実践持ち寄り会で発表してくれる方を出
せばいいのではないか、また、実践持ち寄り会までの間、一緒に授業実践のデザインを考え、持ち寄り
会の準備が行えればいいと思い、白石さんに共同で出展しないかと相談を持ち掛けました。
白石さんの賛同を得ることができて出展が決まり、当日までの準備を進めました。
実践教育フォーラムの当日は、白石さんのお知り合いを中心に様々な方々が私たちのブースに来てく
ださり、コメントをいただいたり、質問を受けたりしました。ブース来訪者の中には、後に持ち寄り会
で実践報告をしてくださることになる、鎌田亜紀子さん(友国際文化学院)
、長崎清美さん(東京外語
専門学校)もいらっしゃいました。
定例会による実践発表者サポート
「みんなの実践広場」で名刺交換やお話をさせていただいた方の中から、白石さんの同僚である鎌田
さん、また、長崎さんにお声かけをし、
「インターアクション教育実践を考える会」が発足しました。
そして、この会の活動の一環として、実践持ち寄り会の実践報告者をサポートする活動を行うことにな
りました。
「インターアクション教育実践を考える会」初回の集まりは 10 月に友国際文化学院で行いました。
白石さん、鎌田さん、長崎さんと私の4名が参加し、私から会の趣旨、「インターアクション」とは何
か、インターアクションのための日本語教育は何を目指すかなどをお話しました。「インターアクショ
ン」のコンセプト説明では抽象的な話をしたために、他の方々をやや不安にさせてしまったようです。
やや前途多難な雰囲気の中スタートした「インターアクション教育実践を考える会」ですが、11 月以
降は実践持ち寄り会の実践報告者をサポートするための定例会(月例会)を開始しました。私以外のメ
ンバーが実践持ち寄り会の報告者候補だったため、お互いに実践を行う際のアイデアを出し合う形で定
例会を行いました。
11 月の月例会では、報告するための実践が済んでいなかったため、ボランティア教室で『日本語でイ
ンターアクション』を使用した経験のある藤沢明美さん(松戸市日本語ボランティア会)に参加してい
ただき、授業実践の様子をいろいろとお聞きしました。これ以降、藤沢さんが毎回、定例会に参加して
くださることになり、最終的に実践報告をしてくださいました。
次の定例会は年が明けて、1 月に実施となりました。1 月の定例会では、翌 2 月に予定されていた長
崎さんの実践のサポートを中心に行いました。日本人ビジターを入れた授業のタイムマネージメント、
学生のグルーピング、ローテーション、ビジターへの指示など、かなり具体的な内容にまで話が及びま
した。また、藤沢さんがボランティア教室で『日本語でインターアクション』を使ってもらうために、
ボランティアさんたちに使えそうな部分を選んでもらうという取り組みを行っていることの報告があ
りました。そのほか、友国際文化学院で『日本語でインターアクション』の一部を使ってくださった非
常勤の先生の感想の紹介もありました。
また、この時期から私以外の著者陣に対し、実践報告者が直接質問を投げかけられるよう、Google+
のコミュニティで実践報告者と著者を結ぶことも始めました。
2 月の定例会では、長崎さん、鎌田さんの実践報告が中心でした。長崎さんの所属機関では、ビジタ
ーを授業に呼ぶという試み自体が初めてで先進的な取り組みだったこと、結果的に実践が成功し、学校
の注目を集めたというお話が印象的でした。
鎌田さんの授業実践は非常に示唆に富むもので、私も非常に勉強になりました。(詳細は別紙の資料
参照。
)
3 月の定例会では、藤沢さんのボランティア教室での授業実践報告がなされた後、アクラスの実践持
ち寄り会に向けての具体的な準備について話し合いました。
その他の打ち合わせ
2 月、3 月、4 月には白石さんと私で打ち合わせを数回行いました。そのうちの 1 回は嶋田先生に入
っていただきました。持ち寄り会当日の大まかな流れは決まっていたものの、持ち寄り会のテーマや、
グループワークの内容検討など、詰めていかなければならないことも多く、綿密な打ち合わせが必要で
した。
冒頭でも述べたように、実践持ち寄り会のサポートにどのようなスタンスでどの程度関わっていくべ
きか明確な意識もないまま活動を始めてしまいました。そのため、私が著者の一人でもあるという立場
から図らずも生じてしまう利害にも配慮が必要でした。また、定例会等で顔を合わせていても、会の趣
旨等について白石さんと私との微妙な認識のずれもあり、嶋田先生のお力を借りて調整が必要でした。
ただし、結果的にそうしたプロセスを経て、すばらしい持ち寄り会ができたのは、個人的には大きな
収穫でした。
予想以上の反応が得られた実践持ち寄り会
様々なことがあった 1 年でしたが、関係の皆様のご協力のおかげで、2015 年 4 月 18 日に無事、実践
持ち寄り会を行うことができました。当日は、著者陣からサウクエン・ファン先生、吉田千春先生、徳
永あかね先生にも参加していただき、プログラム運営にも協力していただきました。
当日の内容の中で最も不安だったのが、学習者の気づきを促す振り返り活動をテーマにしたグループ
ワークでした。その部分は私が進行を務めたのですが、
『日本語でインターアクション』を使ったこと
がなかったり、ビジターを呼んで行う授業を行った経験のなかったりする一般の参加者のみなさんに、
気づきの重要性を理解してもらえるのかという不安がありました。さらに、ビジターセッションなど真
正性の高いインターアクション活動での学習者の気づき、しかも、質の高い気づきを誘発するためには
どうしたらいいかを考えてもらうことは本当にできるのかという点についても不安がありました。しか
し、事前の打ち合わせ等で、実践報告者の皆さんや白石さんとも相談し、振り返りを行うタイミングと
方法という 2 つの観点に絞って考えてもらったことも奏功してか、各グループからすばらしいアイデア
が出され、非常に興味深かったです。
これからのこと
この 1 年の活動を通して、様々なことを知り、考える機会をいただいたように思います。『日本語で
インターアクション』を使った授業実践をサポートするという建前でしたが、この 1 年で私自身の考え
方が大きく変わったように思います。つまり、以前はインターアクションのための日本語教育は「かく
あらねばならぬ」という狭い考えにとらわれていたように思います。しかし、様々な日本語教育現場の
事情を知り、様々な現実の制約の中でできることから始める大切さに気付きました。また、インターア
クションのための日本語教育の目指すものを理解していれば、具体的な教育実践の方法は無限にあり得
るのだと考えるようになりました。
実践持ち寄り会の最後にも申し上げたことですが、日本語ネイティブの教師は、ある意味では学習者
からいちばん遠い存在です。学習者が接触場面で日本語を使ったインターアクションを行う際、どんな
問題が生じ得るのか、学習者は何をどう感じるのか実際には学習者自身にしかわからないことが多いか
らです。そうした接触場面の諸問題や学習者の意識について、学習者から謙虚に学んでいこうとする姿
勢は、特に日本語ネイティブの教師に求められるのではないでしょうか。また、そうしていくことが、
日本語教師としての成長にもつながるのではないかと思います。
こうしたスタンスで、これからは「インターアクション教育実践を考える会」で、インターアクショ
ン教育実践に関わることを皆さんと考え、共に学んでいきたいと考えております。
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