「カテゴリーチェンジ」の対応急務

日 刊 薬 業
2015年(平成27年)1月13日 火曜日
第14110号
発行所:株式会社じほうwww.jiho.co.jp
本社/〒101-8421東京都千代田区猿楽町1-5-15
支局/〒541-0044大阪市中央区伏見町2-1-1
© じほう2015
THE
NIKKAN
YAKUGYO
「カテゴリーチェンジ」の対応急務
卸連・鈴木会長
製薬企業も共同歩調で
日本医薬品卸売業連合会(卸連)の鈴木賢会長は新年を迎えるに当たって日刊薬業の
取材に応じ、昨年1年間で医療用医薬品市場の比重が長期収載品から、新薬創出・適応外
薬解消等促進加算品や後発医薬品に移行する「カテゴリーチェンジ」が進んだことを受
け、今年は卸として新たなビジネスモデルを構築して対応する必要があると提言した。
「変化が起きていることに対して、対応を考えなければいけない。この1年で方向性を決
めることになる」と強調した。
2014年度は診療報酬改定で導入された後発品の促進策で、長期品から後発品への切り
替えが大きく進んだ。このため利益の柱だった長期品が減少し、長期品が主力だった製
薬企業と卸の4~9月期業績は想定を下回る結果となった。鈴木会長は「後発品の推進は
一つの流れで止めることはできない。それを見越した営業、経営をしていかなければな
らない」と主張した。
一方、カテゴリーチェンジは卸だけでなく、長期品を主力とする製薬企業にも大きな
課題だと指摘した。売り上げを上げるために、加算品を中心に仕切り価を引き下げるな
ど企業の戦略が変わる可能性があるとし、医療機関への納入価が製薬企業からの仕切り
価よりも安くなる「1次売差マイナス」の問題も変化が起きると予測した。鈴木会長は「こ
れまでとは(市場の状況が)違ってきていることをメーカーも分かっていると思う。(14
年度上半期の卸の業績悪化も)加算品などを安く売った結果ではない」と説明。「カテ
ゴリーチェンジへの対応はメーカーも一緒に考えることだ」と強調した。
●未妥結減算「1年で結論は早い」
14年度診療報酬改定で導入された未妥結減算は「初めてやったことに1年間で結論を
出すのは早い」と見直しに慎重な見方を示した。卸には負担となった一方、9月末の妥
結率が92.6%に達したことや、遡及値引きがないと確認できたことはプラス要素と評
価した。
薬価の毎年改定は「今の保険制度で診療報酬と薬価を別にするのはあってはいけないこ
と」と述べ、あらためて反対の姿勢を示した。消費税増税の先送りの影響で16年、17年、
18年と3年連続改定の可能性もあるが「(3年連続改定と)毎年改定の議論は別問題。(毎
年改定のような)マーケットのメカニズムが狂うことはしてはいけない」と主張した。
鈴木会長は今年の活動の重点にコンプライアンスの問題も挙げた。昨年は大手卸の社
員による医薬品の横流しの問題が取り沙汰された。現在、卸連内の薬制委員会で議論し
ており「そこから出てきた意見を基にいろいろ考えていこうかなと思っている」と述べた。
【2面】 SGLT-2阻害剤、重大な副作用に「脱水」
主要ニュース 【4面】 久光・3~11月期、営業益15%減
【7面】「薬剤費は爆発的には伸びない」
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総合
SGLT-2阻害剤、重大な副作用に「脱水」
厚労省、添付文書の改訂を要請
厚生労働省医薬食品局安全対策課は9日付で課長通知(薬食安発0109第2号)を日本製
薬団体連合会に送り、SGLT-2阻害剤の添付文書を改訂し、重大な副作用に「脱水」を、
慎重投与の項目に「脱水を起こしやすい患者」を追記するよう求めた。SGLT-2阻害剤の
市販直後調査では、因果関係は不明だが死亡例が確認されており、医薬品医療機器総合
機構が昨年12月時点で脱水を「評価中リスク」として公表していた。
改訂の対象は▽イプラグリフロジン L-プロリン(アステラス製薬「スーグラ」)▽エ
ンパグリフロジン(日本ベーリンガーインゲルハイム「ジャディアンス」▽カナグリフ
ロジン水和物(田辺三菱製薬/第一三共「カナグル」)▽ダパグリフロジンプロピレング
リコール水和物(アストラゼネカ/小野薬品工業「フォシーガ」)▽ルセオグリフロジン
水和物(ノバルティス ファーマ/大正富山医薬品「ルセフィ」)▽トホグリフロジン水
和物(サノフィ/興和「アプルウェイ/デベルザ」)―の6成分。
慎重投与に追記する「脱水を起こしやすい患者」は、血糖コントロールが極めて不良
の患者や高齢者、利尿剤併用患者などをさしている。
トホグリフロジンは重篤な副作用に、脱水だけでなく「腎盂腎炎」も追記する。
●トラゼンタやソブリアードも改訂指示
通知ではそのほか、重大な副作用として、DPP-4阻害剤リナグリプチン(日本ベーリン
ガーインゲルハイム「トラゼンタ」)に「肝機能障害」を、抗てんかん薬レベチラセタ
ム(ユーシービージャパン/大塚製薬「イーケプラ」)に「横紋筋融解症」を追記する。
C型慢性肝炎治療薬シメプレビルナトリウム(ヤンセンファーマ「ソブリアード」)は、
重大な副作用に「白血球減少、好中球減少」を追記する。
乾燥弱毒性おたふくかぜワクチンや、アモキシシリン水和物などでも改訂を指示して
いる。
行 政 ・政 治
補正予算案を閣議決定、IFNフリー助成に35億円など
政府は9日夜に臨時閣議を開き、2014年度の補正予算案を閣議決定した。厚生労働省分
は1810億円。ブリストル・マイヤーズの経口抗ウイルス剤「ダクルインザ錠60mg」と「ス
ンベプラカプセル100mg」の併用によるインターフェロン(IFN)フリー治療を行う患者
への医療費助成には35億円を計上した。
また、国立高度専門医療研究センター(NC)6施設を中心に患者レジストリを構築する
事業には15億円、革新的な医薬品の研究を加速化させる創薬支援スクリーニングセンタ
ーの設備整備に4.5億円を計上した。
このほか医薬関連では▽電子カルテデータ標準化等のためのIT基盤の構築に13億円▽
日々の診療行為などを一元的に蓄積・分析する臨床効果データベースの整備に2.2億円▽
再生医療の研究成果を集約する拠点「再生医療実用化研究実施拠点」の整備に2.9億円▽
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新型インフルエンザの発生に備えたプレパンデミックワクチンの購入等に60億円―など
を盛り込んだ。
ビームゲンとヘプタバックス、選択可能の方向
厚労省部会、B肝ワクチン定期化を確認
厚生労働省の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会は9日、
B型肝炎ワクチンについて定期接種化する方針を確認した。定期化された場合は、国内で
流通している化学及血清療法研究所の「ビームゲン」、MSDの「ヘプタバックス-Ⅱ」を
選択可能とする方向で、早ければ2016年4月にも定期接種が開始される見通し。
B型肝炎ワクチンの定期接種をめぐっては、小児期の家族間などでの水平感染リスクや、
遺伝子型Cのウイルス株のワクチンについて、他の遺伝子型ウイルスに対する予防効果が
明らかになっていなかったことから、過去の部会で技術的検討を重ねるべきとの方針が
示されていた。
同日は須磨崎亮・筑波大付属病院副院長らを中心とする研究班が、小児に関するB型肝
炎ウイルス感染の大規模疫学調査結果などを報告。「母子感染予防のみでは防げない、
HBV集団感染や家族内感染などの水平感染が、小児の日常生活の中で起こっている可能性
がある」と水平感染のリスクを指摘した。また「遺伝子型C由来のワクチン(ビームゲン)
によって得られた一定濃度の抗体は、遺伝子型AのHBVに対しても、感染防御効果を有す
ると考えられた」と報告し、A・Cいずれの型を接種しても、予防効果があるとした。
これを受けて事務局の健康局結核感染症課は「全出生者を対象にB型肝炎ワクチンの予
防接種をすることで、社会的疾病負荷のさらなる軽減につながるものと考えられる」と
し、部会としても同ワクチンの定期接種化について「強く実践を望む」と結論付けた。
また結核感染症課は、仮に定期化された場合に▽予防接種対象年齢を出生後から生後
12カ月までとする▽標準的には、生後2カ月からの接種を実施する▽ただし感染のリスク
が高い場合には出生直後の予防も考慮する―などの対応を取ることを提言した。さらに
使用するワクチン製剤については、遺伝子型A型であるヘプタバックス-ⅡとC型のビー
ムゲンがあることを念頭に、「どちらのウイルス由来の製剤も選択可能とする」と提案
した。これらの事務局案はいずれも部会で了承された。
結核感染症課は「国策として定期接種を行うためには、財源の捻出方法の検討や国民
の理解を得る必要がある」としている。親会議となる15日の予防接種・ワクチン分科会
で、部会の方針について了承を得たい考えだ。
第2期接種の不足分、「18歳」に積極勧奨
日本脳炎ワクチン
厚生労働省の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会は9日、
日本脳炎ワクチンの積極的勧奨が差し控えられていた時期に、接種する機会を逃した人
への2015年度の対応を決めた。15年度に18歳となる人については、第2期(9歳以上13歳
未満)の予防接種が十分に行われていないことから、15年度中に第2期接種の不足分につ
いて積極的な勧奨を行う。
05年度から09年度の間に3歳または4歳になった人については、第1期(生後6カ月以上7
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歳6カ月未満)の初回接種と追加接種が十分に行われていないことから、11年度から積極
的な勧奨を行ってきたが、14年度末で積極的な勧奨を終了する。健康局結核感染症課は
「対象者がいなくなったため終了する」と説明している。
企業
久光・3~11月期、販管費増で営業益15%減
久光製薬が9日発表した2014年3~11月期連結業績は、薬価改定や後発医薬品使用促進
策などの影響を受け、売上高は前年同期比0.2%減の1149億4000万円となった。営業利益
は、米子会社ノーベン社の販売管理費が増加したことにより、15.4%減の156億3700万円
と落ち込み、経常利益も11.3%減の226億3700万円となった。純利益は、過活動膀胱治療
薬「ネオキシテープ」の販売権許諾料がなくなった反動で、24.6%減の144億7600万円と
なり、各段階で減益だった。
国内医療用医薬品事業の売上高は685億4700万円(前年同期比7.7%減)。海外を含む
主要製品の売上高は、主力の経皮吸収型消炎鎮痛剤「モーラステープ群」が525億9900
万円(9.8%減)、同「モーラスパップ群」が47億8600万円(13.0%減)。一方、「フェ
ントステープ」は33億3800万円(16.4%増)、経皮吸収型持続性疼痛治療剤「ノルスパ
ンテープ」15億3000万円(12.9%増)、経皮吸収型過活動膀胱治療剤ネオキシテープ6
億7300万円(4.7%増)となり、新商品群は成長した。
一般用医薬品では、12年11月にスイッチOTCとして発売した「アレグラFX」が9億8800
万円(25.3%減)と落ち込んだ。
ノーベン社の売上高は163億3600万円、営業損益は58億5100万円、経常利益は10億6100
万円、純利益は6億7500万円だった。
エドキサバンが米国で承認
第一三共、AFとVTEの適応で
第一三共は9日、抗凝固剤エドキサバン(一般名、米国製品名「SAVAYSA」)について、
米FDA(食品医薬品局)から承認を取得したと発表した。
適応症は「非弁膜症性心房細動(AF)患者における脳卒中および全身性塞栓症のリス
ク低減」と「静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症および肺塞栓症、VTE)の治療」。米子会
社の第一三共Inc.が2月から単独で営業活動を行う予定。
抗がん剤タイケルブのコ・プロ終了
GSKと日本化薬
グラクソ・スミスクライン(GSK)と日本化薬は9日、GSKの抗がん剤「タイケルブ」(一
般名=ラパチニブトシル酸塩水和物)について、日本でのコ・プロモーションを終了す
ると発表した。市場への浸透という当初の目的を達成したのが理由という。契約期間の
満了に伴いコ・プロ終了に両社で同意した。
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東京都の長寿医療センターと共同研究
英GSK、バイオエレクトロニクス技術で
英グラクソ・スミスクライン(GSK)は9日、国内でのバイオエレクトロニクス研究に
ついて、東京都健康長寿医療センターと共同研究契約を締結したと発表した。契約期間
や契約金など詳細は非開示。
東京都健康長寿医療センターの堀田晴美テーマリーダーとのプロジェクトでは、神経
が特定のホルモン分泌をどの程度制御しているかを調べ、バイオエレクトロニクス技術
によってホルモンレベルの異常を改善できるか、概念実証試験を行う。
バイオエレクトロニクス技術を用いることで、移植した医療機器が体の神経電気信号
を読み取り、異常を修正するような新しい治療を行えるようになるという。炎症性腸疾
患や関節炎、喘息、高血圧、糖尿病など、多種多様な疾患への応用が期待されている。
GSKはこれまで、全世界で25の学術機関とバイオエレクトロニクス研究に関する提携関係
を締結してきた。
ノボセブンのプレフィルドシリンジ新発売
ノボ
ノボ ノルディスク ファーマは9日、遺伝子組み換え活性型血液凝固第Ⅶ因子製剤「ノ
ボセブンHI静注用シリンジ」の販売を開始すると発表した。あらかじめ専用溶解用液が
入っているプレフィルドシリンジで、従来品より簡便に使用できるという。また、同剤
8mgのバイアル規格が新たに加わった。
生命科学インスティテュート社長に木曽氏
三菱ケミカルHD
三菱ケミカルホールディングスは9日、グループ会社でヘルスケア関連事業を担う生命
科学インスティテュートの新社長に常務執行役員経営企画部長の木曽誠一氏が就任する
人事異動を発表した。2月1日付。現社長の加賀邦明氏はグループ会社で社会動向の調査・
研究などを手掛ける地球快適化インスティテュートの社長に就く。
木曽氏は神戸市出身。1982年に田辺製薬(現田辺三菱製薬)に入社。同社の製品戦略
部長や田辺三菱製薬の事業開発部長などを務めた。
アルツディスポ製剤設備が稼働
生化学工業
生化学工業は9日、関節機能改善剤「アルツディスポ」の製剤化を行う茨城県の高萩工
場(高萩市)に新設した第5製剤棟について、稼働を開始したと発表した。既存設備老朽
化の対応、アルツディスポの中長期的な安定供給、生産の効率化などが目的。高萩工場
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第5製剤棟の建築面積は約3900平方メートルで、延べ床面積は約1万6300平方メートル。
設備投資額は約96億円。
医療用7.6%減、稼働日が2日少なく
クレコン・11月速報
クレコンリサーチ&コンサルティングが発表
した2014年11月の販売動態速報によると、医療
用医薬品の販売実績は、前年同月比で7.6%減少
した。前年累計比では3.6%減となった。稼働日
は2日少なかった。12月の後発医薬品発売を前に
した先発品の買い控えや、インフルエンザワク
チンや抗インフルエンザ薬などの需要のピーク
がずれた影響もあったとみられる。
●販売動態速報 (2014年11月実績)(単位 %)
前
年
同
月
比
東日本
-7.4
(-3.4)
西日本
-7.4
(-3.8)
全国
-7.4
(-3.6)
医療用
医薬品
-7.6
(-3.4)
-7.6
(-3.9)
-7.6
(-3.6)
一般用
医薬品
-4.1
(-3.6)
-3.7
(-2.6)
-3.9
(-3.1)
合
計
注)( )内は前年累計比
◇参天製薬(2月1日付)【機構改革】〔サージカル事業部〕サージカル事業の戦略立案
機能を担う副事業部長職を設置する〔人材組織開発・CSR本部〕副本部長職を廃止する【人
事異動】〔研究開発本部〕ヘッド・オブ・グローバルクリニカルディベロップメント兼臨
床開発センター長兼アジア研究開発代表・松本良和(臨床開発センター長兼アジア研究
開発代表)〔サージカル事業部〕副事業部長・井阪広(人材組織開発・CSR本部副本部長)
◇〔新刊〕じほう「病院感染対策ガイドライン 改訂第2版」
じほうは、「病院感染対策ガイドライン 改訂第2版」(国公立大学附属病院感染対策
協議会/編)を発売する。本書は、国公立大学附属病院感染対策協議会が、わが国の感染
対策を取り巻く環境の変化や諸外国のガイドライン見直しを背景に、改訂作業を積み重
ねたガイドラインを解説した書籍の最新版。今版では、国公立大学附属病院感染対策協
議会による“医科改訂第4版”および“歯科改訂第2版”を収載。病院の信頼度の指標と
なる医療機能評価において、感染対策に多職種で取り組むICTの関わりが一つの大きな項
目となっており、ICTに関わる全スタッフにおすすめの書籍。B5判、約272ページ、定価
(本体3600円+税)。
■ 申 し 込 み は、じほ う販売管理グループ ( FAX:0120-657-769、またはホームペ ー ジ
http://www.jiho.co.jp/)へ。
【編集部への情報をお待ちしています】
記事へのご意見、ご感想、情報など編集部([email protected])までお寄せください。
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INTERVIEW
「薬剤費は爆発的には伸びない」
EFPIA Japan カーステン・ブルン会長
欧州製薬団体連合会(EFPIA Japan)のカーステン・ブルン会長(バイエル薬品社長)
は昨年12月19日、日刊薬業のインタビューに応じ、医薬品業界の動向や、日本における
EFPIAの活動方針などを語った。
―世界規模の製薬業界再編をどう見るか。
ブルン会長 2014年はM&Aが活発に行われた。この多くはイノベーションを追求する
動きだ。企業によって戦略が異なる点が興味深い。専門性を追求する企業と、事業をよ
り幅広く広げる企業がある。バイエルは米メルクのOTC事業を買収する一方で、マテリア
ルサイエンス事業を分離・独立させた。より純粋なライフサイエンス事業会社に変貌す
るための一歩を踏み出したわけだ。
小さな企業同士が合従連衡を繰り返し、大きくなる例もある。アラガンがそうだった。
1粒1粒は小さいが、合わされば、かなりの事業規模になる。面白いのは、日本企業の例
がないことだ。日本企業の戦略がどうなっているのか、大きな疑問を抱いている。
税負担を最適化するための企業買収もある。米国企業が中心で、ファイザーとアスト
ラゼネカ、アッヴィとシャイアーなどだ。まだ完全に承認されたものはないが、これも
一つの動きだ。日本は法人税率が世界最高水準であり、内資企業には大きな問題だろう。
●MR数は2014年をピークに減少する
―国内製薬企業は人員削減を進めている。外資はどうか。
ブルン会長 各社の製品ライフサイクルによって変わる。新薬発売段階の企業なら人
員を採用せざるを得ないし、逆に後発医薬品が参入してくる企業では、当然のことながら
人員の調節が必要になる。EFPIA Japanの会員会社を見ると、双方のグループがある。
国内MR数は約6万5000人だが、14年がピークになるのではないか。今後はMR数が減り、
それが日本のビジネスモデルを徐々に転換させると思う。
ただ全世界的なトレンドとして、明らかに人員削減に向かっている。営業人員を減ら
すのが大きな部分だ。従来のように営業力で事業を行うのではなく、マーケットアクセ
ス、つまり自社製品をきちんと保険償還してもらうための働き掛けが重要になっている。
またオープンイノベーションによって外部の研究機関への依存度が高まり、研究開発部
門がさらに合理化される。
人員削減の背景には2つの理由がある。1つは各国で医薬品の価格に対する圧力が高ま
っていること。もう1つは研究開発費の高騰だ。これまで通りの生産性を得るために必要
な研究開発費が高くなった。
―MR数が減少に転じると、日本市場にどのような変化が起きるか。
ブルン会長 多くの企業が、よりフレキシブルな雇用体系に改めようとしている。正
社員で雇用するよりも、契約MRを採用するようになる。
また医師との人間関係に基づく営業から、よりサイエンスに基づく営業にシフトして
いくだろう。従来はいわゆる「シェア・オブ・ボイス」が重要だったが、今後は医師と
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の「対話の質」が重要になる。その上で、マルチ・チャネル・マーケティングの重要性
が高まる。最近は病院の訪問規制で医師に会いづらくなり、30秒程度しか話せないこと
もよくある。そうした中で、オンラインやWeb会議など、さまざまな手段でフォローアッ
プし、医師と多くの接点を持つことが大切になる。そうした営業活動をいかにうまく統
合するか、各社が努力しているところだ。
だが、MRを中心とした情報提供が根本的に変わるわけではない。医師への意識調査に
よると、MRのインパクトは依然として強い。医師はMRからの情報を最重視している。そ
うした国は世界でも珍しく、それが一夜のうちに劇的に変わるとは思わない。少なくと
も3~5年というタイムスパンでは変わらないとみる。
●日本の医薬品市場は横ばいと予測
―世界の中で日本の市場シェアは縮小している。世界は日本をどう見ているか。
ブルン会長 政策の重要性が大きな意味を持つ。日本政府が、薬価の毎年改定や、HTA
の導入といった日本市場の魅力を削ぐような政策を取るかどうかだ。IMSが昨年公表した
世界の医薬品市場予測では、日本市場は他の先進国に比べて成長率が高く、魅力的な市
場だった。ところが今回IMSとEFPIA Japanで試算したデータでは、今後10年間、日本市
場は横ばいか、マイナス成長になるとの予測結果が出た。一方、欧米市場は複合成長率
でプラスに転じた。市場は常に変わっている。
「中国が日本を超える」と言われるが、医家向けの新薬市場では日本は世界2位だ。中
国市場よりもはるかに大きい。中国は後発品や漢方薬のシェアが大きいからだ。実は、
われわれのような医家向けの新薬市場で競争している研究開発型企業にとっては日本市
場の重要性が高い。
かといって、われわれが自動的に日本に投資するかというと、そうではない。どれだ
け投資できるかは、ひとえに日本の政策に依存するところが大きい。例えばバイエルは、
直近2年間で日本事業が大成功したことにより、会社としての投資を取り付けた。これが
日本でオープンイノベーションセンターを開設することにつながった。
●英訳されない「埋もれた宝」
―外資が日本の大学と急接近している。もともと、日本では基礎研究が盛んだったが、
急に共同研究が増えた印象だ。
ブルン会長 背景として、自社の研究所だけで開発パイプラインを賄える企業はほと
んどないことが挙げられる。製薬企業は外部研究への依存度を高めている。
日本のアカデミアは、臨床研究や応用研究よりも、基礎研究を貴ぶ傾向にある。また
伝統的に、アカデミアに進むか、産業界に進むかで進路が完全に分かれており、交流が
少なかった。それがコミュニケーションの欠如につながっていた。
特許数を見ても日本は世界2~3位だ。日本の研究水準は高い。しかし商業化の観点で
は抜きんでた成果を挙げていない。特に医療分野では、ここ10年を見る限り、日本発の
ブロックバスターはなかなか出ていないのではないか。
他方、例えば京都大発の論文でさえも、大部分は日本語で書かれている。グローバル
企業はこれを全く読めず、ごく一部だけが世界的な科学誌などで評価を受けている状況
だ。これは日本の大学が大きな潜在力を秘めている状況とも言える。日本の潜在的なイ
ノベーションを活用したいと考えるのはバイエルだけではないだろう。
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―「手つかずの宝の山」に気づいたということか。
ブルン会長 そうだ。そして日本政府も「宝の山」を認識し、コラボレーションを促
進する政策を掲げるようになった。アカデミアも、かつては共同研究をオープンに受け
入れなかったが、現在はどうすればコラボできるかを模索するようになった。今ならば、
京都大や東京大に行って話をできる。こうした変化が出てきたのは、最近の2~3年間だ。
土壌自体が肥沃(ひよく)になった。10年前だったら、アプローチはもっと難しかった
だろう。
●現行薬価制度は機能している
―消費増税の延期で、社会保障費および医療費抑制の圧力が強まるとみる。
ブルン会長 急速な高齢化によって医療費が爆発的に増えることを皆、懸念するが、
IMS試算によると、消費増税の影響を除けば、今後10年間で薬剤費の伸びはわずか0.13%
にとどまる。薬剤費によって日本の医療費が爆発的に伸びることはないというのがキー
メッセージだ。現行の薬剤費政策はうまく機能している。「壊れていないものに手を入
れないでほしい」というのがわれわれの主張だ。また、どこで医療費を節約すべきと言
うつもりもない。
日本の患者の医療アクセスを遅らせないことが最も重要だ。毎年改定や、HTAで患者に
どのような影響が出るのかを十分に考えていただきたい。
―HTAは欧州でどのような影響をもたらしたのか。
ブルン会長 HTAは患者の医療アクセスを損なう可能性を秘めている。もう1つは、政
府当局と産業界の業務負担が増える。HTAのために莫大(ばくだい)なデータを出し、審
査をする。非常に時間もかかる。最終的には製薬企業の売上高も減る。もし日本で同じ
ことが行われれば、日本市場の魅力度が下がるだろう。
野心的な目標と思うかもしれないが、EFPIA Japanの優先課題は、新薬創出促進加算の
継続と、薬価毎年改定の回避、HTAによる医薬品アクセス制限への懸念に尽きる。政府が
薬剤費に手を付けたい気持ちも分かるが、われわれは単に薬価を切り下げるなというこ
とだけを言うつもりはない。現行の薬価制度の下では、薬剤費は爆発的に伸びず、医療
費の伸びを押し上げることもない。医療費問題は、世界的に見ても感情的に議論される
が、われわれはあくまでもエビデンスに基づき、事実ベースで話をしていく。
―最後に、2015年はどんな年にしたいか。
ブルン会長 16年が薬価改定年なので、15年はオープンな対話が重要になる。われわ
れは欧州で、HTAや、官民パートナーシップにおけるIMIの経験がある。これからの医療
政策の決定過程で、われわれの声を反映できるような対話を求めていきたい。信頼でき
るパートナーとして、欧州での経験を話す機会を得たい。
(聞き手・佐下橋 良宜)
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第14110号
◇第2回ヤング・サイエンティスト・シンポジウム(1月24日)
米国研究製薬工業協会(PhRMA)と千葉大が共催で1月24日(土)午後2時から、東京都
千代田区のフクラシア東京ステーションで、「第2回ヤング・サイエンティスト・シンポ
ジウム『飛躍するトランスレーショナルリサーチ』」を開催する。内容は「PMDAが実施
する薬事戦略相談の事業概要とその活用について」(PMDA審査マネジメント部薬事戦略
相談課長の小池恒氏)―など。ワークショップ、パネルディスカッション、懇親会も予
定している。問い合わせは同シンポジウム運営事務局(TEL:03-3291-0118、FAX:03-3291
-0223、Eメール:[email protected])へ。
◇第6回JBFシンポジウム(2月25、26日)
バイオアナリシスフォーラムは2月25日(水)、26日(木)に東京都江戸川区のタワー
ホール船堀で第6回JBFシンポジウム“規制バイオアナリシスの挑戦”を開催する。内容
は、JBF活動報告、Global BMV guideline/recommendation、ランチョンセミナー、パネ
ルディスカッションなど。海外演者の発表は英語、日本人演者の発表は日本語で行い、
英語から日本語、日本語から英語への通訳を準備している。参加費は一般が事前登録1
万5000円(当日2万円)など。事前参加申し込みはURL(https://amarys-jtb.jp/6jbf)、
問い合わせは同フォーラム事務局([email protected])へ。
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