露出柱脚のブレースせん断力を負担する水平変位拘束材

露出柱脚のブレースせん断力を負担する水平変位拘束材に関する基礎的研究
A611005 石津祐二(高松研究室)
1.はじめに
し,柱脚に生じるせん断力を負担できるか検証す
屋内運動場等の中低層建築物における耐震改修
には,簡便に耐力の増加や剛性の向上を図れるブ
る.
2.実験方法・目的と試験体
レースの新設,増設が多く行われている.それに伴
表 1 に試験体諸量を,
表 2 に接着剤素材特性を,
いブレース軸力によって周辺の構造部材に作用す
それぞれ,示す.本実験の目的は,1) 接着剤を用
る応力が増大するため,建物全体の補強が必要に
いた水平変位拘束材において期待するせん断耐力
なる.
を微小な水平変位で発揮するか確かめる,2) 接着
本研究室では,図 1 に示すように水平変位拘束
剤とあと施工アンカーのせん断耐力累加は可能か
材と呼ぶ水平変位を抑える部材を柱脚ベースプレ
調べる,の 2 点を検討する.また,水平変位拘束材
ート側部に溶接を行わず接触させた状態で設置す
の許容水平変位量を,露出柱脚のベースプレート
ることで,ブレース軸力によって既存アンカーボ
とアンカーボルト間に生じるクリアランスの半分
ルトに生じるせん断力を水平変位拘束材に負担さ
である 2.5mm とする.
載荷は許容水平変位 2.5mm,
せる補強工法を提案している.せん断力を完全に
または油圧ジャッキの最大引張り荷重に達するま
負担することで,既存アンカーボルトに生じる応
で載荷を行う.また,既往の研究で行った柱脚載荷
力は鉛直方向の一方向応力となり,柱脚耐力の増
実験に用いたアンカーボルト(ABR400,M16)を 4
大が期待できる.また,施工面においては溶接を行
本配置した際の降伏軸力の総計である 205kN を,
わないため既存の補強工法と比べ簡便になる.
水平変位拘束材の目標せん断耐力とする.載荷は
既往の研究により,鋼製基礎における実験では
図 2 に示す載荷装置を用いており,油圧ジャッキ
高力ボルトを用いた摩擦接合とすることで,水平
による単調引張載荷により試験体にせん断力を作
変位拘束材にせん断力を負担させ,期待する実験
用させる.
結果が得られることがわかっている.そこで本実
試験体は接着剤を用いたもの(B type),接着剤と
験では,実構造物に用いられるコンクリート基礎
に対して水平変位拘束材を接着剤によって接着
図 1 提案する補強工法
図 2 載荷装置
表 1 試験体諸量
表 2 接着剤素材特性
図3
図4
B type
Ba type
あと施工アンカーボルト(1 本)を併用したもの(Ba
る.また,B type と Ba type は水平変位 2.50mm 以
type)の 2 体について載荷実験を行う.なお,比較の
内において目標水平変位拘束材負担せん断力であ
ためにあと施工アンカーボルトのみを設置したも
る 205kN を超過している.
の(N type)の載荷実験も実施している.基礎コンク
図 4 より,BN type と Ba type を水平変位 0.74mm
リートと水平変位拘束材(PL-25)の接着面積は B
時で比較すると,7kN 程度の差が生じている.これ
type,Ba type ともに 300x300(mm2)とし,接着剤に
は N type における水平変位 0.74mm 時荷重の 3 割
はパテ状のエポキシ樹脂系接着剤を用いている.
程度であり,水平変位が微小であるためあと施工
また,有効に接着剤が作用するようにコンクリー
アンカーボルトの特性上,あと施工アンカーボル
ト基礎の接着面は,レイタンスの除去を行い,水平
トが負担するせん断力は小さいものとなった.ま
変位拘束材は基礎コンクリートの中央部に接着し
た,Ba type は初期不整の影響により初期剛性は低
ている.
いものの,載荷が進むと B type を上回る剛性を示
3.実験結果と考察
しており,BN type の剛性とも概ね一致している.
図 3 に B type,Ba type,N type の水平荷重 P-変位
このことから,あと施工アンカーボルトと接着剤
δ 関係を,図 4 に B type,Ba type,B type と Ba type
の耐力累加は可能であるといえる.
を累加したもの(BN type)の水平荷重 P-変位 δ 関係
4.まとめ
を,それぞれ,示す.なお,グラフは縦軸を水平荷
重 P(最大 250kN),横軸を水平変位 δ(最大 2.50mm)
としている.
実験によって得られた知見を以下に示す.
1) 接着剤を用いた水平変位拘束材はあと施工ア
ンカーを用いた水平変位拘束材と比較し,高
載荷は B type,Ba type 共に,油圧ジャッキの最
い水平剛性を有していることが確認できた.
大引張荷重の限界値によって終了し,試験体には
2) あと施工アンカーとの強度累加は,水平剛性
コンクリート基礎部分を含め,ひび割れ等の破壊
に大きな差異が存在するため,わずかな強度
は確認されなかった.
累加しか見られなかったが,若干の水平剛性
図 3 より,B type 試験体における載荷終了時水平
の上昇は確認できたため,せん断耐力の累加
変位である 1.03mm において,N type と負担せん断
は可能であるといえる.ただし,あと施工ア
力を比較すると,B type は 227kN,N type は 30kN
ンカーの施工精度には大きなバラつきが存在
と,7.6 倍程度の差が生じている.同様に Ba type 試
するため,更なる検討が必要である.
験体における載荷終了時水平変位である 0.74mm
参考文献
において,N type と荷重を比較すると,Ba type は
1) 高松隆夫,山西央朗,景山朋定:ブレース付
223kN,N type は 26kN と,8.7 倍程度の差が生じて
き露出柱脚の補強工法に関する実験的研究,
いる.このことから,B type と Ba type は N type と
広島工業大学紀要,第 46 巻,pp.115-120,
比較して大きな水平剛性を有していることがわか
2012.2.